説明

活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒および炭化水素の製造方法

【課題】レニウムのような高価な金属種を用いることなく、反応活性に優れた活性化FT合成触媒、その製造方法、並びに前記触媒を用いた炭化水素の製造方法を提供する。
【解決手段】シリカと、担体の質量を基準として0.5〜14質量%の酸化ジルコニウムと、を含む担体に、触媒の質量を基準として四酸化三コバルト換算にて10〜40質量%のコバルト金属及びコバルト酸化物が担持されてなる。下記式(1)で表されるコバルト原子の還元度が75〜93%であり、100℃における触媒の単位質量当りの水素ガス吸着量が0.40〜1.0ml/gである、活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒である。
コバルト原子の還元度(%)=100×〔金属コバルト原子の質量〕
/〔全コバルト原子の質量〕 …(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィッシャー・トロプシュ合成反応に使用する活性化された触媒および前記触媒を用いた炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンや軽油のような液体燃料に対し、硫黄分や芳香族炭化水素分の規制が急速に厳しくなってきている。そのため、硫黄分や芳香族炭化水素の含有量が低い、所謂環境にやさしい、クリーンな液体燃料の製造が不可欠となっている。このようなクリーン燃料の製造方法の一つとして、一酸化炭素を水素で還元する、所謂フィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」ということもある。)を利用する方法(以下、「FT合成法」ということもある。)が挙げられる。
【0003】
FT合成反応に用いる触媒(以下、「FT合成触媒」ということもある。)としては、シリカやアルミナなどの多孔性無機酸化物に、鉄、コバルト、ルテニウムなどの活性金属、中でもコバルトが担持された触媒が一般的である。
【0004】
上記のFT合成触媒は一般的に以下のようにして調製される。すなわち、まず、担体であるシリカやアルミナなどの多孔性無機酸化物に、硝酸コバルト等のコバルト化合物を、その水溶液を用いた含浸法等により担持する。そして、これを乾燥した後焼成することにより、コバルト酸化物が多孔性無機酸化物担体に担持されたFT合成触媒が得られる。このようにして得られた触媒がFT合成反応に対して十分な活性を発現するためには、該触媒を水素ガス等の還元雰囲気下に還元し、活性金属であるコバルト原子を酸化物の状態から金属の状態へと変換することが必要である。なお、本願においては、このように還元処理により活性化されたFT合成触媒を、「活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒」(以下、「活性化FT合成触媒」ということもある。)と呼ぶ。
【0005】
FT合成法により燃料油等に使用される炭化水素を商業的に生産するためには、高活性なFT合成触媒の開発が必要であり、多孔性無機酸化物にコバルトを担持した触媒において、種々の改良が試みられている。
【0006】
活性化FT合成触媒の活性を高めるためには、FT合成触媒を還元処理に供する際に、活性金属であるコバルト原子が、酸化物の状態から、全コバルト原子に対する金属状態にあるコバルト原子の比率(還元度)が十分に高くなるように還元が進行すること、及び、還元により生成する金属コバルトの粒子が高い分散状態にあること、すなわち、コバルト金属粒子の凝集が抑制され微細な粒子で存在すること、が必要と考えられた。
【0007】
例えば、シリカやアルミナなどの多孔性無機酸化物にジルコニウムあるいはチタニウムの酸化物を担持した担体を用いることにより、触媒活性が向上することが報告されている(例えば特許文献1)。この活性の向上は、担体に担持されたジルコニウムあるいはチタニウムの酸化物の作用により、コバルト金属粒子の分散が向上することに起因すると考えられている。
【0008】
また、シリカやアルミナなどの多孔性無機酸化物にジルコニウムあるいはチタニウムの酸化物を薄膜状に担持した担体を用いることにより、触媒活性が更に高く、また、FT合成反応における連鎖成長確率にも優れるFT合成触媒が得られることが報告されている(例えば特許文献2)。
【0009】
しかし、シリカやアルミナなどの多孔性無機酸化物にジルコニウムあるいはチタニウムの酸化物を担持する方法においては、コバルト金属粒子の分散の向上は達成されても、コバルト原子の還元度を向上させることは困難であった。コバルト原子の還元度を向上させるためには、一般的に触媒の還元処理における温度を高めることが必要である。しかし、その場合には、還元度の向上に伴い、コバルト金属粒子の凝集が進行し、その分散が低下する傾向にあった。そのため、更なる活性の向上が困難であった。
【0010】
一方、活性金属としてコバルトと共にレニウムを担持したFT合成触媒において、コバルト原子の高い還元度と金属粒子の高い分散を両立できることが報告されている(例えば特許文献3)。しかし、レニウムは高価な金属であり、FT合成法における触媒コストが上昇するとの問題がある。
【0011】
そこで、担体にコバルトを担持する際に糖類を共存させてコバルト金属粒子の分散を高めることにより、レニウムの担持量を大幅に低減しても、コバルト原子の高い還元度と金属粒子の高い分散が両立できることが報告されている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭59−102440号公報
【特許文献2】WO2005/099897号パンフレット
【特許文献3】アメリカ合衆国特許4,568,663号公報
【特許文献4】特表2002−501431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記糖類を分散剤として使用した技術においても、コバルト原子の高い還元度と金属粒子の高い分散を両立させ、得られる活性化FT合成触媒に高い活性を付与しようとすると、その担持量は低減できるとしても、依然としてレニウムの担持が必要であることには変わりがなかった。したがって、触媒コストが上昇する問題については解消されないことから、触媒コストの更なる低減が求められている。
【0014】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、レニウムのような高価な金属種を用いることなく、反応活性に優れた活性化FT合成触媒および前記触媒を用いた炭化水素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の組成及び構造を有する活性化FT合成触媒がFT合成反応に対する高い活性を示すこと、及び特定の製造方法によりこのような活性化FT合成触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒は、シリカと、担体の質量を基準として0.5〜14質量%の酸化ジルコニウムと、を含む担体に、触媒の質量を基準として四酸化三コバルト換算にて10〜40質量%のコバルト金属及びコバルト酸化物が担持されてなり、下記式(1)で表されるコバルト原子の還元度が75〜93%であり、100℃における触媒の単位質量当りの水素ガス吸着量が0.40〜1.0ml/gであることを特徴とする。
コバルト原子の還元度(%)=100×〔金属コバルト原子の質量〕
/〔全コバルト原子の質量〕 …(1)
【0017】
なお、ここでコバルト原子の還元度の測定は、詳細には後述するTPR(Temperature Programed Reduction)測定法を用いた方法によるものとする。また、コバルトの担持量及び水素ガス吸着量の基準となる「触媒」とは、コバルト原子が全て酸化物の状態にあるFT合成触媒、すなわち後述する製造方法において、還元処理がなされて活性化される前のFT合成触媒をいう。
【0018】
本発明の活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒は、触媒の単位質量当りの水素ガス吸着量が高く、コバルト金属粒子が高度に分散しているので、上記式(1)で表されるコバルト原子の還元度がそれ程高くなくとも、優れたFT合成反応に対する活性を有する。
【0019】
本発明のフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒においては、100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量が3.4〜5.0ml/gであることが好ましい。
【0020】
本発明のフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒が上記の構成を有することにより、一層優れたFT合成反応に対する活性を有する。
【0021】
また、本発明のフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒においては、前記コバルト原子の還元度と前記100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量とを乗じて得られる値が、290〜350であることが好ましい。
【0022】
本発明のフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒が上記の構成を有することにより、一層優れたFT合成反応に対する活性を有する。
【0023】
更に、本発明の炭化水素の製造方法は、前記本発明の活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒の存在下に、一酸化炭素ガスと水素ガスとを含む原料をフィッシャー・トロプシュ合成反応に供することを特徴とする。
【0024】
本発明の炭化水素の製造方法によれば、高い活性を有するFT合成触媒を使用するので、効率的に炭化水素を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、レニウムのような高価な金属種を用いることなく、反応活性に優れた活性化FT合成触媒が提供され、また、当該触媒を用いることにより、燃料油等に使用する炭化水素を効率的に生産することが可能な炭化水素の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る炭化水素の製造方法に用いられる、気泡塔型流動床反応装置を主体とするFT合成ユニットの一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について、好ましい実施形態に沿って具体的に説明する。なお、本願においては、特に断らない限り、活性化FT合成触媒(活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒)のFT合成反応に対する活性とは、反応初期における一酸化炭素の転化率を意味するものとする。
【0028】
まず、本発明に係る活性化FT合成触媒を製造する方法について説明する。
【0029】
最初に担体を調製する。本実施形態の活性化FT合成触媒の製造方法に用いるシリカを含む粒子としては特に限定されないが、シリカ粒子、あるいはシリカに少量のアルミナ、ボリア、チタニア、マグネシア等の無機酸化物、及び/又はアルカリ金属、アルカリ土類金属、ハフニウム等の金属成分を含有する粒子等が挙げられ、シリカ粒子が好ましい。また、上記シリカを含む粒子の性状としては特に制限はされないが、窒素吸着法で測定される比表面積が100〜500m/gであることが好ましく、200〜400m/gであることがより好ましい。また、上記シリカを含む粒子の窒素吸着法で測定される平均細孔径としては8〜20nmが好ましく、10〜18nmがより好ましく、11〜16nmが特に好ましい。また、上記シリカを含む粒子の形状についても特に制限はされないが、実用性を考慮すると、一般に石油精製や石油化学の装置で使用されている球状、円柱状及び断面が三つ葉型、四つ葉型などの異形断面を有する円柱状の形状などが好ましい。また、その粒子径についても特に制限はないが、実用性から10μm〜10mmであることが好ましい。なお、FT合成法を実施する際に好ましく用いられるスラリー床型反応装置において使用する触媒としては、触媒の流動性等の観点から、触媒の形状は球状が好ましく、その平均粒子径は10〜300μmであることが好ましく、30〜150μmであることがより好ましい。
【0030】
本発明に係る活性化FT合成触媒の製造方法においては、まず、前記シリカを含む粒子を、水又は酸を含む水溶液中に浸漬して、前記粒子の細孔中に存在する気泡を除去するための前処理を行う。この際に使用する水としてはイオン交換水又は蒸留水が好ましい。また、酸を含む水溶液とは、硝酸、塩酸、硫酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸の水溶液を意味する。酸を含む水溶液のpHは5〜7が好ましく、6〜7がより好ましい。pHが5未満の場合には、当該前処理後に行うジルコニウム化合物の担持において、必要な量のジルコニウム化合物を担持するために使用するジルコニウム化合物溶液の濃度を高くする必要があるため経済的に好ましくない。
【0031】
前記水又は酸を含む水溶液中においてシリカを含む粒子の細孔中に存在する気泡を除去するためには、シリカを含む粒子が浸漬された水又は酸を含む水溶液(以下、「前処理液」ということもある。)を静置してもよいが、効率的に気泡を除去するためには、前処理液を攪拌する方法、前処理液を振動させる方法、前処理液を減圧下に脱気する方法、及び前処理液に超音波を照射する方法等を講じることが好ましい。これらの中でも、超音波を照射する方法が、短時間で確実に気泡が除去できることから好ましい。超音波の照射は1分〜数時間であってよい。
【0032】
続いて、前処理されたシリカを含む粒子にジルコニウム化合物の担持を行う。担持は、上記前処理液の上澄みを除去し、シリカを含む粒子が入った容器に、ジルコニウム化合物溶液を加え、所謂平衡吸着法により、シリカを含む粒子にジルコニウム化合物を吸着させることによって行うことが好ましい。
【0033】
担持に用いるジルコニウム化合物としては、酸塩化ジルコニウム(ZrOCl)、水酸化オキソ塩化ジルコニウム(ZrO(OH)Cl)、硫酸ジルコニール(ZrOSO)、硝酸ジルコニール(ZrO(NO2)、酢酸ジルコニール(ZrO(C)、炭酸ジルコニールアンモニウム((NH)ZrO(CO))などが好ましく用いられ、より好ましくは、酢酸ジルコニール、炭酸ジルコニールアンモニウムであり、炭酸ジルコニールアンモニウムが特に好ましい。ジルコニウム化合物溶液に用いる溶媒としては水、有機溶媒のいずれであってもよいが、水が好ましく用いられる。
【0034】
担持の際に用いるジルコニウム化合物溶液の量(前処理に用いた水又は酸を含む水溶液の残分を含む)は、シリカを含む粒子の全量が没する量であることが好ましく、シリカを含む粒子が占める見掛けの容積の2倍以上であることが更に好ましい。また、ジルコニウム化合物溶液中に溶解するジルコニウム化合物の量は、シリカを含む粒子に担持するジルコニウム量に見合う量よりも過剰であることが好ましい。また、ジルコニウム化合物溶液の濃度としては、シリカを含む粒子に対するジルコニウム化合物の平衡吸着量とジルコニウム化合物溶液の濃度の関係を予め把握しておき、平衡吸着量が目標とするジルコニウムの担持量と等しくなるような濃度を選択することが好ましい。一般的には、ジルコニウム化合物の濃度として0.03〜3mol/L程度である。
【0035】
担持を行う際の温度は限定されず、室温等が好ましい。担持を行う際の時間は限定されず、温度によっても異なるが、ジルコニウム化合物のシリカを含む粒子への吸着が平衡に達する時間を越えることが好ましい。吸着による担持を室温で行う場合は、1日程度であることが好ましい。担持は静置あるいは撹拌下のいずれで行ってもよい。
【0036】
シリカを含む粒子に担持するジルコニウム量としては、調製する担体の質量(シリカを含む粒子の質量とこれに担持される酸化ジルコニウムの質量との合計質量)を基準とし、酸化ジルコニウムとして0.5〜14質量%、好ましくは0.5〜8質量%、更に好ましくは0.5〜6質量%となる量である。前記担持量が0.5質量%未満の場合には、シリカを含む粒子に酸化ジルコニウムを担持して担体とする効果、すなわち、活性化FT合成触媒の活性向上効果が不十分となる傾向にある。一方、担持量が14質量%を超える場合には、活性化FT合成触媒において、コバルト金属粒子の分散が十分とならず、また、コバルト原子の還元度が十分に向上せず、活性が低下する傾向にある。
【0037】
ジルコニウム化合物を担持後、担持処理に用いたジルコニウム化合物を含有する溶液と、ジルコニウム化合物が担持されたシリカを含む粒子とを、ろ過等の固液分離手段により分離する。分離後の、ジルコニウム化合物が担持されたシリカを含む粒子について、イオン交換水又は蒸留水等により、洗浄後の排水がpH7程度になるまで洗浄することが好ましい。その後、好ましくはジルコニウム化合物が担持されたシリカを含む粒子を乾燥する。乾燥方法は特に制限されるものではなく、例えば、空気中での加熱乾燥や減圧下での脱気乾燥を挙げることができる。通常、温度100〜140℃、好ましくは110〜130℃で、2〜24時間、好ましくは5〜12時間の乾燥を行う。
【0038】
次に、ジルコニウム化合物が担持されたシリカを含む粒子の焼成を行い、ジルコニウム化合物を酸化ジルコニウムへと変換し、担体を得る。焼成方法は特に制限されるものではないが、分子状酸素を含む雰囲気下、好ましくは空気雰囲気下に行う。焼成温度は200〜600℃であり、焼成時間は例えば1〜10時間である。焼成温度が200℃よりも低い場合には、シリカを含む粒子に担持されたジルコニウム化合物が、十分に酸化分解して酸化ジルコニウムに変換されない傾向にある。一方、焼成温度が600℃を超える場合には、得られる担体から構成される活性化FT合成触媒において、コバルト金属粒子の良好な分散が得られず、FT合成反応に対する活性が十分に向上しない傾向にある。
【0039】
以上のようにして調製された、シリカを含む粒子に酸化ジルコニウムが担持されてなる担体においては、酸化ジルコニウムは凝集することなく、シリカを含む粒子の細孔表面に均一に、且つ薄膜状に担持されるものと推定される。このような形態でシリカを含む粒子に酸化ジルコニウムが担持されたと推定される担体を用いて、これに活性金属であるコバルトを担持してFT合成触媒を調製し、更にFT合成触媒を還元して活性化FT合成触媒を調製することにより、コバルト金属粒子が高度に分散した、高いFT合成反応活性を有する活性化FT合成触媒を得ることができる。
【0040】
次に、上記担体に、活性金属であるコバルトを担持して触媒前駆体を調製する。コバルトの担持にはコバルト化合物を使用する。コバルトを担持するために使用するコバルト化合物としては特に限定されることはなく、コバルトの無機又は有機酸の塩又は錯体等を使用することができる。具体的なコバルト化合物の例としては、硝酸コバルト、塩化コバルト、ギ酸コバルト、酢酸コバルト、プロピオン酸コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどを挙げることができる。中でも硝酸コバルトが好ましい。
【0041】
コバルト化合物の担持量、すなわちコバルトの担持量は、調製されるFT合成触媒の質量を基準として、四酸化三コバルト換算にて10〜40質量%である。上記担持量が10質量%未満の場合には、触媒の活性が不十分となる傾向にある。一方、40質量%を超える場合には、得られる活性化FT合成触媒においてコバルト金属粒子の凝集が起こりやすくなるので、FT合成反応に対する活性が低下する傾向にある。コバルト化合物の担持方法としては特に制限はなく、上記のようなコバルト化合物の溶液、好ましくは水溶液を含浸溶液として、Incipient Wetness法に代表される含浸法を用いることができる。
【0042】
なお、活性金属としてはコバルトの他に、鉄、ルテニウム等のFT合成反応に活性を有する他の金属、あるいはレニウム、ハフニウム等の、活性の向上、触媒の経時的な活性の低下の抑制、あるいは生成する炭化水素の連鎖成長確率の向上等に効果があることが知られている他の金属成分を併せて担持してもよい。ただし、レニウムのような高価な金属については、これを担持すると、得られる触媒のコストが上昇し、本発明の目的を達成することができなくなるため、用いないことが好ましく、用いても極微量とするのが好ましい。
【0043】
担体にコバルト化合物を担持した後、温度100〜150℃、好ましくは110〜130℃において、2〜24時間、好ましくは5〜10時間程度乾燥を行い、触媒前駆体を得る。
【0044】
次に、前記触媒前駆体を、分子状酸素を含む雰囲気下、好ましくは空気雰囲気下に、250〜600℃において、1〜10時間程度焼成し、コバルト化合物をコバルト酸化物(酸化コバルト)へと変換する。以上のようにして、FT合成触媒が得られる。
【0045】
以上のようにして得られる、コバルト原子が酸化物の状態にあるFT合成触媒は、そのままではFT合成反応に対する活性が低い。そこで、このFT合成触媒を還元し、コバルト酸化物の少なくとも一部をコバルト金属(金属コバルト)に変換することで活性化を行い、活性化FT合成触媒としてからFT合成反応に供する。すなわち、本実施形態においては、上記FT合成触媒を還元することにより、上記担体にコバルト金属とコバルト酸化物とが担持されてなる活性化FT合成触媒、つまり本発明の一実施形態となる活性化FT合成触媒を調製する。
【0046】
FT合成触媒の還元は、水素ガスを含む雰囲気下に行うことが好ましい。水素ガスを含む雰囲気としては、水素ガス雰囲気や、水素ガスを窒素ガス等の不活性ガスで希釈したガス雰囲気等が用いられ、水素ガス雰囲気が好ましい。
【0047】
還元を行う温度は300〜380℃であり、好ましくは330〜370℃である。上記温度が300℃よりも低い場合は、効率的に必要なコバルト原子の還元度を得ることが困難な傾向にある。一方、380℃を超える場合には、還元により生成するコバルト金属粒子の凝集が進行し、活性が低下する傾向にある。
【0048】
還元を行う時間は温度との兼ね合いで決定されるものであり、また使用する装置の形態にも依存するため、一概には限定されないが、1〜20時間が一般的であり、1〜10時間が好ましい。なおここで、「還元を行なう時間」とは、触媒が所定の温度に達してからの時間を意味する。
【0049】
上記のようにして得られた活性化FT合成触媒は、空気に触れるとコバルト金属の酸化により活性が低下する懸念がある。そこで、特に触媒の製造設備と、当該触媒を使用してFT合成法を実施する設備の立地が離れており、且つ、触媒製造設備において還元による活性化までを実施する場合等、活性化FT合成触媒が空気に触れる場合には、活性化FT合成触媒が空気に触れても活性の低下が生じないように、安定化処理を施した上で移送等を行うことが好ましい。この安定化処理の具体的な方法としては、活性化FT合成触媒の外表面をワックス等により被覆することで空気との接触を絶つ方法、活性化FT合成触媒の外表面を軽度に酸化して酸化物層を形成し、空気との接触によりそれ以上の酸化が進行しないようにする方法等が挙げられる。本発明における活性化FT合成触媒とは、これらの安定化処理された活性化FT合成触媒も包含するものとする。
以上のようにして、本実施形態の活性化FT合成触媒が得られる。
【0050】
本実施形態の活性化FT合成触媒の、100℃における触媒単位質量当りの水素ガス吸着量は、好ましくは0.40〜1.0ml/g、より好ましくは0.50〜0.85ml/gである。前記水素ガス吸着量は、活性化FT合成触媒中に含まれるコバルト金属粒子の分散を判定する指標であり、この値が大きいほど、コバルト金属粒子表面への水素ガス吸着量が多く、コバルト金属粒子の分散が良好であることを意味する。
【0051】
なお、本実施形態の活性化FT合成触媒の、100℃における水素ガス吸着量の測定は、金属分散度測定装置(日本ベル社製BEL−METAL−3)を用いて、以下のようにして行われる。まず、測定対象の触媒(コバルト化合物担持後に焼成して得られる、還元処理前のFT合成触媒)を秤量して金属分散度測定装置に仕込み、活性化FT合成触媒を得るための還元条件と同一の条件下にて水素ガス中で還元処理を行う。その後、金属分散度測定装置内で得られた活性化FT合成触媒の試料を室温まで冷却し、更に測定温度である100℃まで昇温した後水素ガスを吸着させ、吸着した水素ガスの量を算出する。そして、吸着水素ガス量を、仕込んだFT合成触媒の質量で除し、単位触媒質量当りの水素ガス吸着量を算出する。
【0052】
本実施形態の活性化FT合成触媒に含まれるコバルト原子の還元度、すなわち上記式(1)の「100×〔金属コバルト原子の質量〕/〔全コバルト原子の質量〕」で表されるコバルト原子の還元度は、75〜93%であることが好ましく、80〜93%であることがより好ましい。前記還元度が75%未満である場合には、活性化FT合成触媒の活性が低い傾向にある。一方、還元度が93%を超えるように還元を行なうためには、高温あるいは長時間の処理が必要となるが、そのような条件にて還元を行なった場合には、活性化FT合成触媒に含まれるコバルト金属粒子が凝集し、活性が低下する傾向にある。
【0053】
なお、活性化FT合成触媒に含まれるコバルト原子の還元度は、TPR測定装置を用いて、以下のようにして測定する。まず、基準となる試料として未還元(コバルト原子が酸化物の状態にある。)のFT合成触媒(還元度0%)について、TPR測定装置でTPR測定を行い、生成するMASS18(HO)量を計測する。測定対象の触媒が安定化処理された活性化FT合成触媒である場合は、該触媒の試料をTPR測定装置により、未還元の触媒と同様の条件にてTPR測定を行ない、MASS18量を計測する。そして該MASS18量と前述の未還元触媒についてのMASS18量の比から、コバルト原子の還元度を算出する。一方、測定対象が安定化処理を施していない触媒である場合は、基となる未還元のFT合成触媒をTPR測定装置内で、まず相当する還元条件にて還元処理を行い、その後装置を冷却してTPR測定を行なう。そして、上記と同様に、MASS18量を計測し、この値と基準の値との比からコバルト原子の還元度を算出する。
【0054】
本実施形態の活性化FT合成反応触媒においては、100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量が3.4〜5.0ml/gであることが好ましく、該触媒がこのような構成をもつことにより、一層高いFT合成活性を示す。
なおここで、100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量は、前述の100℃における触媒の単位質量当りの水素ガス吸着量を、触媒単位質量当りに含まれるコバルト金属(還元されたコバルト金属)の質量で除すことで算出される。触媒単位質量当りに含まれるコバルト金属の質量は、触媒単位質量当りに担持されたCoの質量にコバルト原子の還元度を乗じて算出される。
【0055】
本実施形態のフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒においては、前記コバルト原子の還元度と前記100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量とを乗じて得られる値が、290〜350であることが好ましく、該触媒がこのような構成をもつことにより、一層高いFT合成活性を示す。
【0056】
前述のように、従来は、活性化FT合成触媒が高いFT合成反応に対する活性を発現するためには、コバルト原子の還元度が高く、且つ、コバルト金属粒子の分散が良好であることが必要と考えられていた。一方、本実施形態により得られる活性化FT合成触媒は、水素ガス吸着量を指標とするコバルト金属粒子の分散は極めて良好であるが、コバルト原子の還元度は従来技術に比較して高いものではない。本実施形態においては、シリカを含む粒子にジルコニウム化合物を特定の条件下に担持し、これを焼成することにより、シリカを含む粒子に酸化ジルコニウムが高度に均一に、且つ、薄膜状に担持された担体を得て、この担体にコバルト化合物を担持し、焼成してFT合成触媒を得て、特定の温度条件にて還元を行って活性化FT合成触媒を得ている。このような方法によって得られる活性化FT合成触媒は、従来技術によって得られる活性化FT合成触媒に比較して、含まれるコバルト原子の還元度がそれ程高いものではなくとも、コバルト金属粒子の分散が極めて良好であることから、優れたFT合成反応に対する活性を発現するものと本発明者らは推測する。
【0057】
本実施形態の活性化FT合成触媒の存在下に、一酸化炭素ガスと水素ガスとを含む原料をFT合成反応に供することにより炭化水素を製造する方法は特に限定されず、前記触媒を固定床型反応装置に充填してFT合成反応を行う方法、前記触媒を炭化水素油中に懸濁させた触媒スラリーを用いた、スラリー床型の反応装置を用いた方法などが好ましく採用される。
【0058】
以下、スラリー床型の反応装置を使用した例に沿って、本実施形態の活性化FT合成触媒を用いた炭化水素の製造方法について説明する。
【0059】
反応装置としては、例えば図1に示すような気泡塔型流動床反応装置1を主体とするFT合成ユニット10が使用できる。気泡塔型流動床反応装置1は、FT合成反応により合成ガスから炭化水素化合物を合成する反応器であり、反応塔2と、冷却管3とを主に備えて構成されている。反応塔2は、略円筒型の金属製の容器であって、その内部には、反応温度において液状である炭化水素油(通常は同反応装置でFT合成反応により製造される炭化水素油)に、上記本実施形態により得られた活性化FT合成触媒を懸濁させたスラリーが収容されている。そして、この反応塔2内に、その下部より一酸化炭素ガス及び水素ガスの混合ガス(一般的には天然ガス等の炭化水素のリフォーミングにより得られる合成ガス)が導入される。すると、上記混合ガスが気泡となって反応塔内を上昇する間に上記炭化水素油中に溶解し、活性化FT合成触媒と接触することにより、炭化水素が生成する。
【0060】
すなわち、混合ガスに含まれる一酸化炭素ガスと水素ガスとは、液状の炭化水素中に溶解し、触媒粒子と接触することにより互いに反応して、炭化水素化合物が生成する(FT合成反応)。また、混合ガスが気泡となって反応塔2内を上昇することにより、反応塔2の内部において触媒スラリーの上昇流(エアリフト)が生じる。これにより、反応塔2内部に、触媒スラリーの循環流が生じる。なお、反応塔2内を塔頂まで上昇した未反応の混合ガスは、反応塔2の塔頂から排出され、気液分離器6に供給される。
【0061】
気液分離器4においては、反応塔2内に配設された冷却管3内を流通して加熱された水が、水蒸気(中圧スチーム)と液体の水とに分離される。
分離器5は、反応塔2の中央部に接続され、触媒スラリーから、触媒粒子と液体の炭化水素生成物を分離する。
【0062】
気液分離器6は反応塔2の塔頂に接続され、反応塔2から排出された未反応合成ガス及びFT合成反応により生成した反応塔2内の条件において気体状の軽質炭化水素を冷却し、液体の炭化水素成分と未反応合成ガス及びC以下の気体状炭化水素を含む気体成分とを気液分離する。
精留塔7においては、反応塔2から分離器5及び気液分離器6を介して供給された液体の炭化水素化合物が、沸点に応じて各留分に分留される。
このような気泡塔型流動床反応装置1を主体とするFT合成ユニット10により、本実施形態の高い活性を有する活性化FT合成触媒を用いて、炭化水素を効率良く製造することができる。
【0063】
なお、使用する触媒が、安定化処理が施された活性化FT合成触媒の形で供給される場合には、そのまま使用してよい。ワックス等による被覆による安定化処理を施された活性化FT合成触媒の場合も、ワックス等が上記炭化水素油に溶解することにより、活性化FT合成触媒はその活性を発現する。一方、使用する触媒が、還元処理を受けておらず、コバルト原子が酸化物の状態にあるFT合成触媒の形態で供給される場合には、FT合成反応装置内、あるいはこれに付属する装置内において、上記本発明の活性化FT合成触媒の製造方法にしたがって還元処理を施し、本発明の活性化FT合成触媒を製造する。そして、得られた活性化FT合成触媒を反応に供する。
【0064】
反応温度は、目標とする一酸化炭素転化率により定めることができるが、150〜300℃であることが好ましく、170〜250℃であることがより好ましい。
【0065】
反応圧力は0.5〜5.0MPaであることが好ましく、2.0〜4.0MPaであることがさらに好ましい。反応圧力が0.5MPa未満である場合は、一酸化炭素転化率が十分に高くなりにくい傾向があり、5.0MPaを超えると、局所的に発熱が発生しやすくなる傾向にあるので好ましくない。
【0066】
原料ガス中の水素ガス/一酸化炭素比率(モル比)は0.5〜4.0であることが好ましく、1.0〜2.5であることがさらに好ましい。このモル比が0.5未満では反応温度が高くなり触媒が失活する傾向にあり、4.0を超えると望ましくない副生成物であるメタンの生成量が増加する傾向にある。
【0067】
原料ガスのガス空間速度は500〜5000h−1であることが好ましく、1000〜2500h−1であることがさらに好ましい。このガス空間速度が500h−1未満では同一触媒量に対する生産性が低く、5000h−1より大きい場合は、一酸化炭素の転化率が十分に向上しにくいため好ましくない。
【0068】
本実施形態の方法により製造される活性化FT合成触媒を用いることにより、該触媒は反応初期より高い活性を発現する。したがって、該触媒を用いた本発明の炭化水素の製造方法によれば、反応初期より高い収率にて炭化水素を得ることができる。
【0069】
なお、本発明は上記好ましい実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜変更を加えることができる。例えば、FT合成法による炭化水素の製造方法は、スラリー床型反応装置以外にも、例えば固定床型反応装置を用いて行ってもよい。固定床型反応装置を用いる場合には、使用する触媒はバインダーを配合し、成型されたものであることが好ましい。その場合、触媒の調製において、シリカを含む粒子とバインダーとからなる組成物を成型し、得られた成型体にジルコニウム化合物を担持して担体を得て、更に該担体にコバルトを担持してFT合成触媒を調製し、その後還元処理による活性化を行うようにすればよい。バインダーとしてはアルミナ、マグナシア、ボリア、チタニア等の一般的に使用されるものであってよく、その配合量も一般的な範囲であってよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
(触媒の調製)
球状のシリカ粒子(平均細孔径10nm、平均粒子径70μm)30gを250mlのガラス瓶に秤量し、そこへpH6.6の硝酸水溶液100mlを加え、超音波を40℃で10分間照射した。その後、約50mlの上澄み液をパスツールピペットで吸出し、濃度0.3mol/Lの炭酸ジルコニールアンモニウム水溶液150mlを加えて24時間室温で静置した。その後、ろ紙でろ過してジルコニウムが担持されたシリカ粒子を採取(分離)した後、これをろ液のpHが7になるまでイオン交換水により洗浄し、真空乾燥を行い、次いで空気雰囲気下で焼成することで担体を得た。この担体の質量を基準とする酸化ジルコニウムの含有量は、5.3質量%であった。
【0072】
得られた担体に対し、調製されるFT合成触媒の全質量を基準として、四酸化三コバルト換算にて30.1質量%に相当する量の硝酸コバルト水溶液を、Incipient Wetness法により含浸させた。含浸後、120℃で12時間乾燥し、その後空気雰囲気下で焼成し、FT合成触媒を得た。得られたFT合成触媒に担持されたコバルト原子は、全量が四酸化三コバルト(コバルト酸化物)となり、このように四酸化三コバルト(コバルト酸化物)を担持した状態のFT合成触媒の質量が、上記したように硝酸コバルト(コバルト化合物)を担持する際の基準の質量とされる。
【0073】
上記FT合成触媒を水素気流下、350℃にて7時間還元を行い、活性化FT合成触媒を得た。なお、活性化FT合成触媒中のコバルト原子の還元度は、上記未還元のFT合成触媒の少量をサンプリングし、TPR測定装置内において上記条件と同一の還元処理条件にて前処理(水素還元)を行った後、前述の方法により測定を行った。また、100℃における触媒単位質量当りの水素ガス吸着量は、日本ベル社製金属分散度測定装置BEL−METAL−3を用いて、前述の方法により測定した。更に、100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量、及び「コバルト原子の還元度と前記100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量とを乗じて得られる値」を前述の算出方法により算出した。結果を表1に示す。
【0074】
(FT合成反応)
上記還元処理して得た活性化FT合成触媒5gを、酸化されないように不活性雰囲気下、ドライボックス中で取り出し、セタン30mlと共に内容積100mlのステンレス鋼製オートクレーブ型反応器に移し、フィッシャー・トロプシュ合成反応を行った。水素ガス/一酸化炭素ガスが2/1(モル比)の混合ガスを原料とし、W(触媒質量)/F(合成ガス流量)=3g・h/mol、温度230℃、圧力2.3MPa、攪拌速度1000rpmにおいて反応を開始した。反応器出口のガス組成をガスクロマトグラフィーで経時的に分析し、この分析データから一酸化炭素の転化率(CO転化率)を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
[実施例2]
FT合成触媒から活性化FT合成触媒を得るための還元処理の温度を330℃に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
シリカ粒子に炭酸ジルコニールアンモニウムを担持する際の、炭酸ジルコニールアンモニウム水溶液の濃度を変更して、担体基準の酸化ジルコニウムの担持量を7.9質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0077】
[実施例4]
担体の調製において、炭酸ジルコニールアンモニウムに代えて硝酸ジルコニールを用いてジルコニウムの担持を行った以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0078】
[実施例5]
担体へのコバルトの担持において、硝酸コバルト水溶液の濃度を変更して、担持する酸化コバルト(四酸化三コバルト)の含有量を19.4質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
FT合成触媒から活性化FT合成触媒を得るための還元処理の温度を400℃に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[比較例2]
FT合成触媒から活性化FT合成触媒を得るための還元処理の温度を290℃に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0081】
[比較例3]
担体として酸化ジルコニウムを担持しないシリカ粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[比較例4]
シリカ粒子に炭酸ジルコニールアンモニウムを担持する際の、炭酸ジルコニールアンモニウム水溶液の濃度を変更して、担体基準の酸化ジルコニウムの担持量を15.6質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0083】
[比較例5]
担体調製においてジルコニウムの担持を、炭酸ジルコニールアンモニウム水溶液を用いた平衡吸着法に代えて、硝酸ジルコニール水溶液を用いた通常のIncipient Wetness法で行った以外は、実施例1と同様にして活性化FT合成触媒を製造した。そして、これを用いて実施例1と同様にFT合成反応を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の活性化FT合成触媒は、コバルト金属粒子が良好に分散しており、したがって高いCO転化率(一酸化炭素転化率)でFT合成反応を行うことができ、これにより優れたFT合成反応活性を有することが確認された。
一方、比較例1〜5で製造された触媒は、Co還元度(コバルト原子の還元度)あるいは水素吸着量について、本発明の活性化FT合成触媒としての条件を満たしておらず、これらの触媒を用いたFT合成反応においては、一酸化炭素転化率が実施例1〜5で製造された活性化FT合成触媒に比べて格段に低い値となっていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、担体の質量を基準として0.5〜14質量%の酸化ジルコニウムと、を含む担体に、触媒の質量を基準として四酸化三コバルト換算にて10〜40質量%のコバルト金属及びコバルト酸化物が担持されてなり、
下記式(1)で表されるコバルト原子の還元度が75〜93%であり、
100℃における触媒の単位質量当りの水素ガス吸着量が0.40〜1.0ml/gであることを特徴とする活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒。
コバルト原子の還元度(%)=100×〔金属コバルト原子の質量〕
/〔全コバルト原子の質量〕 …(1)
【請求項2】
100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量が3.4〜5.0ml/gであることを特徴とする請求項1記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒。
【請求項3】
前記コバルト原子の還元度と前記100℃におけるコバルト金属の単位質量当りの水素ガス吸着量とを乗じて得られる値が、290〜350であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒。
【請求項4】
請求項1記載の活性化されたフィッシャー・トロプシュ合成反応用触媒の存在下に、一酸化炭素ガスと水素ガスとを含む原料をフィッシャー・トロプシュ合成反応に供することを特徴とする炭化水素の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−213678(P2012−213678A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79049(P2011−79049)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】