説明

活性成分封入高分子ミセル及び活性成分の溶出抑制方法

【課題】親水性の薬剤等の活性成分であっても、上記高分子ミセルの内部に効率良く、安定に封入することができる手法を提供し、ひいてはこの手法により得られる活性成分封入高分子ミセルを提供すること。
【解決手段】活性成分封入高分子ミセルは、親水性領域と疎水性領域を有するブロックコポリマーから形成され、該親水性領域が外側、該疎水性領域が内側に配置された高分子ミセルであって前記疎水性領域を有する高分子ミセルの内部に、イオン性基を有する活性成分と、該イオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物から成る溶出抑制剤とが封入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬等の活性成分を封入高分子ミセル及び該活性成分が高分子ミセルから溶出することを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤を、リポソームや高分子ミセル等の内部に封入して生体内の目的の臓器や組織に送達するドラッグデリバリーシステムが知られている。本願発明者らは、これまでに、親水性領域と疎水性領域を有するブロックコポリマーから形成され、該親水性領域が外側、該疎水性領域が内側に配置された高分子ミセルであって前記疎水性領域を有する高分子ミセルの内部に、薬剤や造影剤を封入して、生体内の所望の臓器や組織に送達する手法を開発してきた(特許文献1並びに非特許文献1及び2)。薬剤や造影剤を封入した高分子ミセルは、血中での安定性が比較的高く、粒径が小さいために癌組織に特異的に送達される等の優れた利点を有する。
【0003】
【特許文献1】特開2008-222804号公報
【非特許文献1】M. Yokoyama, T. Okano, Y. Sakurai, S. Fukushima, K. Okamoto, and K. Kataoka, Selective delivery of adriamycin to a solid tumor using a polymeric micelle carrier system, J. Drug Targeting, 7(3), 171186 (1999)
【非特許文献2】Kumi Kawano, Masato Watanabe, Tatsuhiro Yamamoto, Masayuki Yokoyama, Praneet Opanasopit, Teruo Okano, and Yoshie Maitani, Enhanced antitumor effect of camptothecin loaded in long-circulating polymeric micelles,J. Controlled Release, 112, 329 332 (2006)
【非特許文献3】Kagechika, H., Novel synthetic retinoids and separation of the pleiotropic retinoidal activities. Curr Medicinal Chem. 2002; 9: 591608.
【非特許文献4】Altucci, L., et al., RAR and RXR modulation in cancer and metabolic disease. Nat Rev Drug Discov. 2007; 6(10): 793810.
【非特許文献5】Ezawa, S., et al., A synthetic retinoid, TAC-101 (4-[3,5-bis (trimethylsilyl) benzamido] benzoic acid), plus cisplatin: potential new therapy for ovarian clear cell adenocarcinoma. Gynecol Oncol. 2008;108(3): 627631.
【非特許文献6】Yokoyama, M., et al., Bioconjugate Chem. 1992; 3: 295301.
【非特許文献7】Opanasopit, P., et al., Pharm. Res. 2004; 21: 20012008.
【非特許文献8】Lavasanifar, A., et al., J. Control. Release 2001; 77: 155160.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した公知の高分子ミセルの内部に薬剤を封入する場合、高分子ミセルの内側は疎水性になっているので、封入される薬剤の疎水性が十分に高い場合には、封入の効率が高く(十分な量の薬剤が封入可能)、高分子ミセル内に薬剤が安定に保持される。しかしながら、封入される薬剤の疎水性が十分に高くない場合には、高分子ミセルの内部に所望の量の薬剤を封入することが容易ではなく、封入できたとしても、血液のような水系媒体中では、内部の薬剤が高分子ミセルから溶出し易く、血中安定性が満足できないという問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、親水性の薬剤等の活性成分であっても、上記高分子ミセルの内部に効率良く、安定に封入することができる手法を提供し、ひいてはこの手法により得られる活性成分封入高分子ミセルを提供することである。さらに、本発明の目的は、該手法を利用した、上記高分子ミセルに封入される活性成分の溶出抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、活性成分がイオン性基を有する場合には、該イオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物から成る溶出抑制剤を該活性成分と共に封入することにより、活性成分が親水性の場合であっても効率良く、安定に高分子ミセル内に封入可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、親水性領域と疎水性領域を有するブロックコポリマーから形成され、該親水性領域が外側、該疎水性領域が内側に配置された高分子ミセルであって前記疎水性領域を有する高分子ミセルの内部に、イオン性基を有する活性成分と、該イオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物から成る溶出抑制剤とが封入された、活性成分封入高分子ミセルを提供する。また、本発明は、親水性領域と疎水性領域を有するブロックコポリマーから形成され、該親水性領域が外側、該疎水性領域が内側に配置された高分子ミセルであって前記疎水性領域を有する高分子ミセルの内部に、イオン性基を有する活性成分を封入する際に、該活性成分を、該イオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物から成る溶出抑制剤と共に封入することを含む、高分子ミセルに封入される活性成分の溶出抑制方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高分子ミセル内に封入する活性成分がイオン性基を有する場合には、たとえ該活性成分が親水性であっても、高分子ミセル内に効率良く、安定に封入できる。有用な薬剤は、比較的親水性のものが少なくない。本発明によれば、このような有用な種々の親水性薬剤を生体内の所望の臓器や組織に送達することが可能になり、従って、本発明により、これまでにない有用な薬剤送達系が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の高分子ミセルは、親水性領域と疎水性領域を有するブロックコポリマーから形成され、前記親水性領域が外側、前記疎水性領域が内側に配置された高分子ミセルである。このような高分子ミセル自体及びその製造方法は、本願共同発明者らが研究し、公知になっている(例えば、特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2)。なお、上記高分子ミセルにおいて、「親水性領域」及び「疎水性領域」とは、両者の親水性が、水中で親水性領域を外側、疎水性領域を内側にしたミセルが形成される程度に異なった各領域を意味するものである。
【0010】
親水性領域を構成する構造の好ましい例としては、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルアルコール)及びポリ(ビニルピロリドン)等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。親水性領域の末端(疎水性領域と反対側、すなわち、ブロックコポリマーの親水性領域側の末端)は、水素、低級(炭素数1〜6、以下同じ))アルキル基、低級ヒドロキシアルキル基、低級アルキルアミノ基等が好ましいがこれらに限定されるものではない。親水性領域の分子量は、2000〜2万程度が好ましく、4000〜14000程度がさらに好ましい。
【0011】
疎水性領域を構成する構造の好ましい例としては、ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(アクリル酸)及びポリ(メタクリル酸)等の遊離のカルボキシル基の一部又は全部に疎水性基を共有結合したものを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。これらのカルボキシル基含有単位は、1種類でもよいし、複数種類のものが組み合わされていてもよい。疎水性領域に用いることができるアスパラギン酸やグルタミン酸は、1単位中に2個のカルボキシル基を有しており、どちらのカルボキシル基を主鎖のペプチド結合に供したものでもよく、異なるカルボキシル基を主鎖のペプチド結合に供したもののコポリマーとなっていてもよい(下記実施例参照)。また、上記疎水性基としては、例えば、ベンジル基、フェニル基、ナフチル基等のような芳香環を含む基を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。疎水性領域中のカルボキシル基のうち、疎水性基が結合されているものの割合は、好ましくは20mol%〜100mol%程度である。疎水性領域の末端(親水性領域と反対側、すなわち、ブロックコポリマーの疎水性領域側の末端)は、水素、低級アルキル基、水酸基、低級アルキルオキシ、フェニル低級アルキル、フェニル低級アルキルオキシ、低級アルキルフェニル、低級アルキルフェニルオキシ、低級アルコキシカルボニル、フェニル低級アルコキシカルボニル、低級アルキルアミノカルボニル及びフェニル低級アルキルアミノカルボニル基等が好ましいがこれらに限定されるものではない。また、疎水性領域中に含まれる遊離の及び前記疎水性基が結合したカルボキシル基の数(重合単位が上記したアスパラギン酸、グルタミン酸、(メタ)アクリル酸のように、重合した状態で1個の遊離のカルボキシル基を有する場合には、その単位の重合度)は、通常、10〜200個、好ましくは10〜60個程度である。
【0012】
親水性領域と疎水性領域は、直接結合されていてもよいが、リンカーを介して結合していてもよい。このようなリンカーとして、-O-、-NH-、-OCO-、-OCONH-、-NHCO-、-NHCONH-、-COO-、-CONH-、-(CH2)n-(nは1〜6の整数)、-R1-(CH2)n-(nは1〜6の整数、R1は-O-、-NH-、-OCO-、-OCONH-、-NHCO-、-NHCONH-、-COO-、-CONH-)、-(CH2)n-R2-(nは1〜6の整数、R2は-O-、-NH-、-OCO-、-OCONH-、-NHCO-、-NHCONH-、-COO-、-CONH-)、-R1-(CH2)n-R2-(nは1〜6の整数、R1及びR2は互いに独立に-O-、-NH-、-OCO-、-OCONH-、-NHCO-、-NHCONH-、-COO-、-CONH-)を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0013】
本発明の活性成分封入高分子ミセルは、ミセルの内部に薬剤等の活性成分を含む。ミセル内に封入される活性成分は、イオン性基を有するものである。ここで、「イオン性基」とは、水中で少なくとも一部が電離し得る基を意味し、好ましい例として、カルボキシル基、水酸基、リン酸基、硫酸基から成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオン性基並びに第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基から成る群より選ばれる少なくとも1種の陽イオン性基を挙げることができる。
【0014】
活性成分としては、上記イオン性基を有し、生体内における送達が望まれる化合物であれば限定されず、通常、医薬や造影剤等の診断剤である。活性成分の好ましい例として、レチノイド類、アドリアマイシン、ダウノマイシンなどのアントラサイクリン系、ACNU,シトシンアラビノシド、マイトマイシンC,ブレオマイシン、ビンブラスチン・ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド系等の抗がん剤;メソトレキセート等の代謝拮抗剤(メソトレキセートは抗がん剤でもある);タモキシフェン等のホルモン剤;、インドメタシン等の抗炎症剤;アザセトロン等の制吐剤;アシクロビル・アマンタジン等の抗ウイルス剤;アストロマイシン・セフニジル等の抗生物質;アセトアミノフェン・サリチル酸ナトリウム等の解熱鎮痛剤;ノルエピネフリン等の血圧上昇剤等の医薬を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。レチノイド類は、天然のものでも合成されたものでもよい。
【0015】
イオン性基を有する合成レチノイド類としては、種々のものが公知であり、例えば、非特許文献3〜5に記載されている。本発明において好ましく用いることができるイオン性基を有する合成レチノイド類の具体例として以下のものを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0016】
Am80 (非特許文献3)
4-[(5, 6, 7, 8-テトラヒドロ-5, 5, 8, 8-テトラメチル-2-ナフチル)カルバモイル] 安息香酸
【0017】
【化1】

【0018】
LE540(非特許文献3)
4-(13H-10,11,12,13-テトラヒドロ-10,10,13,13,15-ペンタメチルジナフト[2,3-b][1,2-e]-1,4-ジアゼピン-7-イル)安息香酸
【0019】
【化2】

【0020】
AGN195183 (非特許文献4)
4-(4-クロロ-3-ヒドロキシ-5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-カルボキシアミド)-2,6-ジフルオロ安息香酸
【0021】
【化3】

【0022】
LGD1550 (非特許文献4)
(2E,4E,6E)-7-(3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-メチルオクタ-2,4,6-トリエン酸
【0023】
【化4】

【0024】
R667 (非特許文献4)
(E)-4-(2-(3-((1H-ピラゾール-1-イル)メチル)-5,5,8,8-テトラメチル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)ビニル)安息香酸
【0025】
【化5】

【0026】
Bexarotene(非特許文献4)
4-(1-(3,5,5,8,8-ペンタメチル-5,6,7,8-テトラヒドロナフタレン-2-イル)ビニル)安息香酸
【0027】
【化6】

【0028】
UAB-30 (非特許文献4)
(2E,4E,6Z,8E)-8-(3,4-ジヒドロナフタレン-1(2H)-イリデン)-3,7-ジメチルオクタ-2,4,6-トリエン酸
【0029】
【化7】

【0030】
AGN194310(非特許文献4)
4-((4-(4-エチルフェニル)-2,2-ジメチル-2H-チオクロメン-6-イル)エチニル)安息香酸
【0031】
【化8】

【0032】
Adapalene(非特許文献4)
6-(3-(1-アダマンチル)-4-メトキシルフェニル)ナフタレン-2-カルボン酸
【0033】
【化9】

【0034】
TAC-101
4-[3,5-ビス(トリメチルシリル) ベンズアミド]安息香酸
【0035】
【化10】

【0036】
上記活性成分は、単独の成分でもよいし、複数種類の成分を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
本発明の活性成分封入高分子ミセルは、さらに、ミセル内部に溶出抑制剤を含む。溶出抑制剤は、ミセル内部に封入される上記活性成分が有するイオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物である。活性成分が陰イオン性基を有する場合には、溶出抑制剤は陽イオン性基を有し、活性成分が陽イオン性基を有する場合には、溶出抑制剤は陰イオン性基を有する。活性成分が陰イオン性基と陽イオン性基の両方を有する場合には、溶出抑制剤は、陰イオン性基と陽イオン性基の少なくともいずれか一方を有すればよいが、活性成分封入高分子ミセルの使用条件下においてより強く電離するイオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有することが好ましい。陰イオン性基及び陽イオン性基の好ましい具体例は、上記した活性成分が有するイオン性基の好ましい例と同様である。特に、活性成分のイオン性基がカルボキシル基又はアミノ基(第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、以下、特に断りがない限り同様)であり、溶出抑制剤のイオン性基がアミノ基又はカルボキシル基である場合が好ましい。溶出抑制剤は、1種類の化合物でもあってもよいし、複数種類の化合物を組み合わせて用いることもできる。
【0038】
溶出抑制剤の疎水性が、封入される活性成分よりも高い場合には、溶出抑制効果がさらに高まるので好ましい。すなわち、溶出抑制剤は、そのイオン性基が活性成分のイオン性基をイオンコンプレックスを形成することでミセルの疎水性内核に親和性が高くなることによって、溶出が抑制されると考えられるが、溶出抑制剤が活性成分よりも疎水性が高ければ、疎水性である高分子ミセル内部との親和性が高くなり、活性成分の高分子ミセルからの溶出がより一層抑制されると考えられる。実際、下記実施例において具体的に示されるとおり、同一の活性成分を同一のブロックコポリマーから成る高分子ミセルに封入し、アルキル基の鎖長を変えることにより疎水性を変化させた複数種類のジメルアルキルアミンを溶出抑制剤として用いた例では、ジメチルアルキルアミンのアルキル基の長さが長くなるほど、すなわち、溶出抑制剤の疎水性が大きくなるほど、活性成分の溶出がより抑制された。換言すれば、溶出抑制剤の疎水性を調節することにより、活性成分の溶出速度を調節することが可能である。
【0039】
活性成分と溶出抑制剤の疎水性の大小は、水又は緩衝液に対する溶解度(正確には使用環境(血液等)における溶解度であるが、血液等の体液は水系なので、例外的な場合を除き、水又は緩衝液に対する溶解度でほぼ近似可能)を比較することにより知ることができる。すなわち、好ましくは、溶出抑制剤としては、封入する活性成分よりも水又は緩衝液に対する溶解度が大きな化合物を用いることが好ましい。なお、溶解度は、使用温度(ヒトに投与する場合にはヒトの体温である37℃)における溶解度を比較するのが適切であるが、常温(25℃)における溶解度の比較でほぼ近似可能である。
【0040】
疎水性の溶出抑制剤の好ましい例としては、上記したイオン性基に炭素数6以上のアルキル基が少なくとも1個結合しているものを挙げることができる。例えば、炭素数6以上のアルキル基を有するアルキルアミン(第1級アミン〜第4級アミンのいずれでもよい)を挙げることができる。後述の実施例ではN,N-ジメチルアルキルアミンを用いている。このようなアルキル基含有化合物は、アルキル基の鎖長を長くすることにより疎水性を増大させることが可能であるので、封入する活性成分よりも疎水性の大きな化合物を容易に合成することができる。また、アルキル基の長さを適宜設定することにより、活性成分の溶出速度を調節することが可能である。
【0041】
溶出抑制剤としては医薬又は医薬添加剤を用いることもできる。すなわち、活性成分のみならず、溶出抑制剤も医薬又は医薬添加剤とすることができる。イオン性基を有する医薬や医薬添加物は種々のものが公知であり、これらの中から、活性成分のイオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有し、好ましくは活性成分よりも疎水性である医薬又は医薬添加剤を選択して溶出抑制剤として用いることができる。
【0042】
溶出抑制剤として用いることができる、イオン性基を有する医薬又は医薬添加剤の例として以下のものを挙げることができる。
【0043】
塩酸メプリルカイン
無痛化剤、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射
【0044】
【化11】

【0045】
塩酸グルコサミン
緩衝剤、経口投与
【0046】
【化12】

【0047】
ラウリルジアミノエチルグリシンナトリウム液
崩壊補助剤、経口投与
【0048】
【化13】

【0049】
塩化ベンゼトニウム
安定化剤、分散剤、防腐剤、保存剤、
静脈内注射、筋肉内注射、眼科用剤
【0050】
【化14】

【0051】
ニコチン酸アミド
安定化剤、等張化剤、溶解補助剤、経口投与、
静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射
【0052】
【化15】

【0053】
L-ヒスチジン
安定化剤、静脈内注射
【0054】
【化16】

【0055】
リドカイン
薬理活性あり;麻酔薬、無痛化剤、溶剤、溶解剤、溶解補助剤、経口投与、静脈内注射、筋肉内注射
【0056】
【化17】

【0057】
マレイン酸クロルフェニラミン
薬理活性あり;抗ヒスタミン剤
【0058】
【化18】

【0059】
塩酸プロカインアミド
薬理活性あり;ナトリウムチャネル遮断剤
【0060】
【化19】

【0061】
活性成分と溶出抑制剤の混合比率は、活性成分のイオン性基と溶出抑制剤のイオン性基が過不足なく、イオン対を形成する量にした場合に溶出抑制効果が最も高くなる。従って、添加する溶出抑制剤の量によっても活性成分の溶出速度を調節することができる。溶出抑制剤の添加量は、そのイオン性基の数が、通常、封入される活性成分のイオン性基の数の1/10倍〜10倍程度、好ましくは1/2倍〜2倍程度となる量である。ただし、これは、高分子ミセルを構成するブロックコポリマーがイオン性基を有していない場合であり、後述の実施例で記載する高分子ミセルのように、疎水性領域を構成するアスパラギン酸のようなカルボン酸のカルボキシル基がミセルの内側に存在する場合等には、活性成分とイオン対を形成する量に加え、ブロックコポリマーのイオン性基とイオン対を形成するのに必要な量だけ溶出抑制剤を添加した場合に溶出抑制効果が最も高くなる。すなわち、ブロックコポリマー自体がイオン性基を有する場合には、溶出抑制剤の添加量は、そのイオン性基の数が、通常、封入される活性成分のイオン性基の数とブロックコポリマーのイオン性基の数の合計数の1/10倍〜10倍程度、好ましくは1/2倍〜2倍程度となる量である。
【0062】
活性成分封入高分子ミセルの粒径(直径)は、通常、3nm〜1000nm程度、好ましくは10nm〜300nm程度である。高分子ミセルの粒径は、ブロックコポリマーの分子量を調整することにより調整することができる。高分子ミセルを調製後、市販の高圧乳化装置等を用いてフィルターを通すことにより、整粒することもできる。
【0063】
本発明の活性成分封入高分子ミセルは、活性成分、溶出抑制剤及びブロックコポリマーを水系媒体中で撹拌することにより調製することができる。すなわち、溶出抑制剤を添加することを除き、例えば非特許文献2や非特許文献3等に記載されている公知の方法により調製することができる。すなわち、活性成分、溶出抑制剤及びブロックコポリマーを含む水系媒体中で高分子ミセルを形成させることにより、高分子ミセルを得ることができる。なお、ここで「水系媒体」とは水を主成分とする均一な液体の媒体であり、通常、水や緩衝液等である。高分子ミセルは、単にこの水溶液を撹拌することにより形成することもでき、水を徐々に蒸発させてブロックコポリマー濃度を高めて高分子ミセルを形成させる溶媒蒸発法等により形成することができる。あるいは、テトラヒドロフランのような水と自由に混じり合う有機溶媒中に活性成分、溶出抑制剤及びブロックコポリマーを溶解した溶液を調製し、この溶媒を徐々に蒸発させてブロックコポリマー濃度を高めて高分子ミセルを形成させながら乾燥し、次いで水を加えて超音波を照射する方法によっても調製することができる(下記実施例参照)。高分子ミセルを形成させる際の溶液中のブロックコポリマー濃度は、通常、0.05重量%〜30重量%程度、好ましくは0. 5重量%〜10重量%程度である。高分子ミセルの形成は、室温下で行なうことができる。また、溶液中の活性成分の濃度は、通常、ブロックコポリマーの1重量%〜30重量%程度、好ましくは5重量%〜20重量%程度である。溶出抑制剤の添加量は、活性成分との混合比率が上記した範囲になる量である。
【0064】
使用時には、活性成分封入高分子ミセルを水性媒体中に懸濁した懸濁液を、該活性成分の投与経路で投与する。投与経路は、活性成分を投与する際に採用される経路であり、通常、経口投与又は組織若しくは臓器への直接注射、静脈内投与、筋肉内投与、経皮投与、経腸投与等の非経口投与である。投与量は、通常、高分子ミセルに封入されている活性成分について定められている所定の投与量でよいが、必要により又は所望により適宜増減してもよい。
【0065】
上記の通り、イオン性基を有する活性成分と共に溶出抑制剤を高分子ミセル内に封入するすることにより、該活性成分のミセルからの溶出を抑制することができるので、本発明は、上記高分子ミセルの内部に、イオン性基を有する活性成分を封入する際に、該活性成分を、該イオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物から成る溶出抑制剤と共に封入することを含む、高分子ミセルに封入される活性成分の溶出抑制方法をも提供するものである。
【0066】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
ブロックコポリマーの製造例1
下記式1で示すブロックコポリマーを非特許文献6記載の方法により製造した。
【0068】
【化20】

式1
【0069】
すなわち、片末端メトキシ基および片末端アミノ基のポリエチレングリコール(PEG)(分子量5,200、7.0g)とβ−ベンジル L−アスパルテート N−カルボン酸無水物(9.1g)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(15mL)とジクロロメタン(150mL)の混合溶媒中、窒素雰囲気下、35℃で17時間撹拌した後、反応混合物をジエチルエーテル(1.5L)中に滴下混合して沈殿物を生じさせた。沈殿物を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄し、次いで減圧乾燥してPEG鎖とポリ(β−ベンジル L−アスパルテート)(PBLA)鎖からなるブロックコポリマー(PEG−PBLA、13.4g)を得た。PEG鎖のメチレンプロトンとPBLA鎖ベンジル基のメチレンプロトンのH−NMR測定により、PBLA鎖の分子量は約4,900(すなわち式1でn=117、m=24)と決定された。
【0070】
また、同様の方法によりPEG鎖およびPBLA鎖の分子量がそれぞれ約5,200および約5,700(すなわち式1でn=117、m=28)のPEG−PBLAを得た。
【0071】
ブロックコポリマーの製造例2
基本的に上記と同様にして、下記式2で示されるブロックコポリマーを製造した。
【0072】
【化21】

式2
ここで、RはHまたはベンジル基(Bzl)。また、a:b比は約1:3、RがHの単位とベンジル基の単位はランダムに配列している。
【0073】
すなわち、上記PEG−PBLA(式1でn=117、m=28、10.0g)を水酸化ナトリウム水溶液(0.5M、150mL)中、室温で20分間激しく撹拌した後、塩酸(6M、42.5mL)を加えて酸性化した。反応混合物をスペクトラポアー(SpectraPor)6透析膜(分画分子量1,000)を使用して蒸留水に対して一夜透析し、次いで透析バッグ中の溶液を凍結乾燥してベンジルエステルが加水分解されたブロックコポリマー[上記式2でR=H、以下、PEG−P(Asp)](7.25g)を得た。ベンジルエステルの加水分解はH−NMR測定により確認した。この操作ではポリアスパラギン酸(P(Asp))鎖の一部も加水分解され、得られたブロックコポリマーのP(Asp)鎖の分子量は約2,800(すなわち式2でn=117、m=24)であった。
【0074】
また、文献(Saudek, V., et al., Biopolymers 1981; 20: 16151623.)に記載されているとおり、この操作に伴うP(Asp)鎖のβ−アミド化がH−NMR測定により確認された。
【0075】
ブロックコポリマーの製造例3
PEG−P(Asp)のベンジルエステル化を非特許文献7記載の方法に従い行った。すなわち、前記PEG−P(Asp)(式2でR=H、n=117、m=24、0.50g)をDMF(5.0mL)に溶解し、臭化ベンジル次いでエステル化反応活性化剤として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)を加えて窒素雰囲気下、50℃で16時間撹拌した。反応混合物をジエチルエーテル(50mL)中に滴下混合し、沈殿物を生じさせた。沈殿物を濾取し、ジエチルエーテルで洗浄して減圧乾燥した後、DMFに溶解してDBUと等モル量の塩酸(6M)を加えた。この溶液をスペクトラポアー(SpectraPor)6透析膜(分画分子量1,000)を使用して蒸留水に対して一夜透析し、次いで透析バッグ中の溶液を凍結乾燥して、P(Asp)鎖が部分的にベンジルエステル化されたブロックコポリマー[上記式2でR=HまたはBzl、以下、PEG−P(Asp(Bzl)x)。ここでxはP(Asp)鎖に対するベンジル基の修飾率(%)を示す]を得た。PEG鎖のメチレンプロトンとベンジル基のメチレンプロトンのH−NMR測定からベンジル修飾率を決定した。反応に使用した臭化ベンジルおよびDBUの量、ならびに得られたPEG−P(Asp(Bzl)x)のベンジル修飾率を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
高分子ミセルの製造
高分子ミセルの製造は非特許文献8記載の方法に従って行った。すなわち、ブロックコポリマー(20mg)をガラス容器中でテトラヒドロフラン(THF)(2.5mL)に溶解した後、窒素気流下、40℃で加熱撹拌してTHFを留去してブロックコポリマーの薄膜を得た。次いでガラス容器に蒸留水(4.0mL)を加えてプローブ型超音波照射装置にて超音波照射を行い、高分子ミセル溶液を得た。この溶液を遠心分離処理し(3,900rpm、10分間)、次いで孔径0.22μmの膜で濾過して異物を除去した。
【0078】
ここで高分子ミセルの製造に使用したブロックコポリマーを下記表2に示す。これらのブロックコポリマーの構造は式1又は式2においてn=117、m=24であり、ベンジル修飾率が33%から100%の範囲にある。
【0079】
【表2】

【0080】
高分子ミセルへの合成レチノイドの封入
上記高分子ミセル製造において、ブロックコポリマーのTHF溶液中に合成レチノイドを加え、以降は同じ操作を行うことにより合成レチノイド封入高分子ミセルを調製した。 ここで高分子ミセルに封入した合成レチノイドは、上記Am80又は上記LE540であった。
【0081】
すなわち、合成レチノイドの添加量はブロックコポリマーの10%(重量比)とし、高分子ミセル中への封入量は逆相HPLCにて決定した。逆相HPLC測定はTSK−gel ODS−80Ts逆相クロマトグラフィーカラム(150mm長,4.6mm径)を使用して行った。移動相はAm80について5%酢酸−メタノール(容積比1:2)、LE540について5%酢酸−メタノール(容積比1:9)を使用した。検出はAm80について290nm、LE540について356nmのUV吸収測定にて行った。
【0082】
上記表2に示す4種のブロックコポリマーで構成される高分子ミセル中へのAm80およびLE540の封入量は添加量の75%以上であった。なお、Am80およびLE540は水に対して難容性であり、高分子ミセル中に封入されなかった場合は上記製造工程の遠心分離および濾過操作により系中から除去される。
【0083】
高分子ミセルへの溶出抑制剤の同時封入
上記高分子ミセルへのAm80の封入工程において、ブロックコポリマーおよびAm80のTHF溶液中に溶出抑制剤を加え、以降は同じ操作を行うことにより高分子ミセル中にAm80と溶出抑制剤を同時封入した。溶出抑制剤の組成については以下に記載の放出性試験の実施例に詳細を述べる。
【0084】
放出性試験の方法
合成レチノイドの高分子ミセル中からの放出性は透析法により評価した。すなわち、上記記載の方法で製造した合成レチノイド封入高分子ミセルの水溶液(1.0mL)をスペクトラポアー(SpectraPor)6透析膜(分画分子量1,000)中に注ぎ、100倍量(容積比)のダルベッコりん酸緩衝液(D−PBS、pH7.4)に対して透析した。所定時間経過後に外部透析液(0.1mL)を分取して凍結乾燥し、合成レチノイドをメタノール(0.1mL)にて抽出して逆相HPLCによる定量を行った。試験は各条件につき3回繰り返して再現性を確認した。以下に記載の放出性試験の実施例では合成レチノイドの放出率を3回の試験の平均値で示し、誤差を標準偏差で示した。
【0085】
放出性試験1;溶出抑制剤による効果
放出性試験の実施例について以下に述べる。ここでは溶出抑制剤の疎水性がAm80の放出挙動に与える影響について評価した。高分子ミセルは表2中に示すブロックコポリマー1にて製造し、Am80および溶出抑制剤を封入した。
【0086】
溶出抑制剤は下記式3で示すN,N−ジメチルアルキルアミン類(すなわちR=n−ヘキシルであるN,N−ジメチルヘキシルアミン(DMHA)、R=n−ドデシルであるN,N−ジメチルドデシルアミン(DMDA)、およびR=n−オクタデシルであるN,N−ジメチルオクタデシルアミン(DMOA))である。溶出抑制剤の添加量はAm80に対して等モル量とした。
【0087】
【化22】

式3
(ここでRはC13(n−ヘキシル)、C1225(n−ドデシル)、またはC1837(n−オクタデシル)である)
【0088】
放出性試験の結果を図1に示す。比較例として、溶出抑制剤を封入していない場合の高分子ミセルからのAm80の放出率も図1に示す。なお、図1中、添加した溶出抑制剤は○;DMHA、◇;DMDA、および△;DMOA。また、■;添加物なしの系の結果を示す。
【0089】
図1から、溶出抑制剤の添加はAm80の徐放化に寄与することが明らかであり、この徐放化に与える効果はDMOAが最も大きく、次いでDMDAであり、DMHAは効果が小さい。すなわち添加物のアルキル鎖が長い、言い換えると疎水性が大きいほどAm80の放出速度を小さくできる。この結果はAm80の放出速度が同時封入する溶出抑制剤の種類で制御できることを示す。
【0090】
放出性試験2;ブロックコポリマーの構造による影響
溶出抑制剤の添加によるAm80の徐放化に与えるブロックコポリマーの構造の影響について評価した。高分子ミセルは表2中に示す4種のブロックコポリマーにて製造し、Am80およびDMDAを封入した。DMDAの添加量はAm80およびブロックコポリマーの非ベンジル修飾アスパラギン酸残基と等モル量とした。それぞれのブロックコポリマーより構成される高分子ミセルからのAm80の放出率を図2に示す。比較例として、溶出抑制剤を封入していない場合の高分子ミセルからのAm80の放出率も図2に示す。なお、図2中、Am80およびDMDAを封入した高分子ミセルを構成するブロックコポリマーは、○;1、◇;2、△;3、および□;4である。また、DMDAを添加しなかった系について●;1、◆;2、▲;3、および■;4で示した。
【0091】
図2に示されるように、Am80の放出速度はブロックコポリマーの構造に依らずDMDAの同時封入により低下した。具体的には、封入されたAm80の60%が放出されるために要した時間は8時間以内から24時間以上に延長した。この結果は、本方法による高分子ミセルからの封入化合物の放出挙動の制御がブロックコポリマーの特定の構造に依存しないことを示す。
【0092】
放出性試験3
溶出抑制剤の添加によるAm80の徐放化に与える溶出抑制剤の添加量の影響について評価した。高分子ミセルは表2中に示すブロックコポリマー1にて製造し、Am80およびDMDAを封入した。DMDAの添加量はAm80に対し1から7.4倍(モル当量)の範囲とした。放出性試験の結果を図3に示す。なお、図3中、DMDAの添加量はAm80に対して○;1、◇;2.7、△;5.4、および□;7.4(モル当量)であった。
【0093】
Am80の放出速度制御におけるDMDA添加量の効果はブロックコポリマー1よりなる高分子ミセルの系では小さい。この結果はDMDAの添加によるAm80の徐放化において、Am80とのイオン対形成に必要な量より過剰に添加した場合は効果は顕著に増加しないことを示す。
【0094】
同様に、表2中に示すブロックコポリマー3にて製造した高分子ミセルに、Am80およびDMDAを封入した。DMDAの添加量はAm80に対し1から10.7倍(モル当量)の範囲とした。放出性試験の結果を図4に示す。なお、図4中、DMDAの添加量はAm80に対して○;1、◇;5.4、および△;10.7(モル当量)であった。
【0095】
Am80の放出速度制御におけるDMDA添加量の効果はブロックコポリマー3よりなる高分子ミセルの系では大きい。すなわち、Am80の徐放化にはAm80に対して5.4モル当量以上のDMDAが必要であった。これはDMDAがブロックコポリマー3の非ベンジル修飾アスパラギン酸残基のカルボキシル基ともイオン対を形成できるためである。すべてのAm80がDMDAとイオン対を形成するためには非ベンジル修飾アスパラギン酸残基と等モル量のDMDAを添加する必要がある。Am80およびブロックコポリマー3の非ベンジル修飾アスパラギン酸残基と等モル量のDMDAは、Am80に対して5.4モル当量に相当し、これ以上のDMDA添加によりAm80の徐放化が達成された。この結果は、ブロックコポリマーが溶出抑制剤とイオン対を形成可能な場合は相当分の添加物を追加することで放出制御が効果的となることを示す。
【0096】
放出性試験5;LE540の放出挙動
別の合成レチノイドとしてLE540の放出挙動について評価した。高分子ミセルは表2中に示す4種のブロックコポリマーにて製造し、LE540を封入した。それぞれの高分子ミセルからのLE540の放出率を図5に示す。なお、図5中、LE540を封入した高分子ミセルを構成するブロックコポリマーは○;1、◇;2、△;3、および□;4である。
【0097】
LE540は図5結果から明らかであるように、高分子ミセルからの放出速度が極めて小さい。しかし異なる条件において放出が加速される場合、あるいはより長期間の徐放化が求められる場合は、溶出抑制剤による放出挙動の制御の対象化合物として除外されるものではない。
【0098】
なお、上記各実施例で用いた活性成分や溶出抑制剤の溶解度を次のようにして測定した。
1.各試料をTHFに溶解して濃度1.0 mg/mLの溶液を調製。
2.ガラス容器内にてTHFを窒素気流にて留去し、試料を乾燥。
3.水またはダルベッコりん酸緩衝液(D-PBS、pH 7.4)1.0 mLを加え、磁気撹拌装置にて試料を溶解。撹拌条件は22.5℃で1.5時間。この条件では試料は飽和し、完全には溶解しない。
4.遠心分離(10000 G、20分間、室温)次いで濾過処理(孔径0.22μm)にて得られた水相に含有される試料濃度を逆相HPLCにて決定。
なお、D-PBS中での溶解度は、後述する放出試験をD-PBS中で行ったことから、併せて測定した。結果を下記表3に示す。
【0099】
【表3】

【0100】
また、上記のように作製した各ミセルの粒径を濃度1.0 mg/mLのミセル溶液を大塚電子製DLS-7000動的光散乱測定装置にて測定した。結果を下記表4に示す。
【0101】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施例で作製した、本発明の活性成分封入高分子ミセル及び溶出抑制剤を添加していない比較例の活性成分封入高分子ミセルからの活性成分(Am80)の放出性試験の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製した、ベンジル修飾率の異なるブロックコポリマーを用いて作製した本発明の活性成分封入高分子ミセル及び溶出抑制剤を添加していない比較例の活性成分封入高分子ミセルからの活性成分(Am80)の放出性試験の結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例で作製した、異なる量の溶出抑制剤を封入した、ブロックコポリマーの側鎖に遊離のカルボキシル基が存在しないブロックコポリマーを用いて作製した本発明の活性成分封入高分子ミセル及び溶出抑制剤を添加していない比較例の活性成分封入高分子ミセルからの活性成分(Am80)の放出性試験の結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例で作製した、異なる量の溶出抑制剤を封入した、ブロックコポリマーの側鎖に遊離のカルボキシル基が存在するブロックコポリマーを用いて作製した本発明の活性成分封入高分子ミセル及び溶出抑制剤を添加していない比較例の活性成分封入高分子ミセルからの活性成分(Am80)の放出性試験の結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例で作製した、本発明の活性成分封入高分子ミセル及び溶出抑制剤を添加していない比較例の活性成分封入高分子ミセルからの活性成分(LE540)の放出性試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性領域と疎水性領域を有するブロックコポリマーから形成され、該親水性領域が外側、該疎水性領域が内側に配置された高分子ミセルであって前記疎水性領域を有する高分子ミセルの内部に、イオン性基を有する活性成分と、該イオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物から成る溶出抑制剤とが封入された、活性成分封入高分子ミセル。
【請求項2】
前記溶出抑制剤が、前記活性成分よりも疎水性である請求項1記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項3】
前記活性成分及び前記溶出抑制剤が有する前記イオン性基が、カルボキシル基、水酸基、リン酸基、硫酸基から成る群より選ばれる少なくとも1種の陰イオン性基並びに第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基から成る群より選ばれる少なくとも1種の陽イオン性基である請求項1又は2記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項4】
前記活性成分のイオン性基がカルボキシル基又はアミノ基であり、前記溶出抑制剤のイオン性基がアミノ基又はカルボキシル基である請求項3記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項5】
前記溶出抑制剤が、炭素数6以上のアルキル基を有するアルキルアミンである請求項4記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項6】
前記活性成分が医薬である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項7】
前記活性成分がレチノイドである請求項6記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項8】
前記活性成分が4-[(5, 6, 7, 8-テトラヒドロ-5, 5, 8, 8-テトラメチル-2-ナフチル)カルバモイル] 安息香酸である請求項7記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項9】
前記溶出抑制剤が医薬又は医薬添加物である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の活性成分封入高分子ミセル。
【請求項10】
親水性領域と疎水性領域を有するブロックコポリマーから形成され、該親水性領域が外側、該疎水性領域が内側に配置された高分子ミセルであって前記疎水性領域を有する高分子ミセルの内部に、イオン性基を有する活性成分を封入する際に、該活性成分を、該イオン性基と反対の極性を有するイオン性基を有する化合物から成る溶出抑制剤と共に封入することを含む、高分子ミセルに封入される活性成分の溶出抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−116382(P2010−116382A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292740(P2008−292740)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】