説明

活性炭の製造方法及びその装置

【課題】処理能力を格段に増加させた活性炭の製造装置を提供し、短時間かつ連続的にする高比表面積活性炭を製造すること。
【解決手段】炭素質原料を炭化処理した炭化物にアルカリ金属水酸化物を混合してなるスラリーを、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中に連続供給しつつ、10秒〜30秒間、800℃〜900℃に加熱可能にする反応部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質原料をアルカリ金属水酸化物で賦活することにより、高比表面積を有する活性炭を製造するための工業的な製造方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
BET比表面積が1,500m2/g以上、さらには2,000m2/gを越えるような高比表面積を有する活性炭は、炭化水素類の分別、工業用ガスの精製、有毒ガスの吸着除去、公害発生源対策、食品工業や化学工業における液相精製、水処理、液相の回収・分別、触媒または触媒担体、電気二重層キャパシタなど種々の用途に有用である。
【0003】
中でも、近年、電気二重層キャパシタがバックアップ電源、補助電源等として注目を浴びている。電池と比較して出力密度に優れる電気二重層キャパシタの容量密度を高めることができれば、ハイブリッド自動車(HEV)のエンジン始動、エンジンアシスト等の用途としても有望である。電気二重層キャパシタの電極には一般に活性炭が用いられ、容量密度の向上を図るには高比表面積の活性炭を用いるのが有利である。そのため、高比表面積の活性炭を製造する方法が種々、検討されてきた。
【0004】
炭素質原料を賦活して活性炭を製造する方法には水蒸気、炭酸ガスなどの酸化性ガスにより炭素を燃焼させるガス賦活法と、塩化亜鉛、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等の薬剤賦活法があるが、中でも水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いた薬剤賦活法は高比表面積の活性炭を製造する有用な方法である。
【0005】
このようなアルカリ金属水酸化物を用いた薬剤賦活による製造法として特許文献1にはプッシャー式トンネル炉を用いて安全かつ工業的に賦活を行う製造装置が開示されている。特許文献1では試料のハンドリングを改善することや、アルカリ金属の危険性を抑制する技術として、炭素質原料とアルカリ金属水酸化物および水を混合したスラリーを作製し、反応器に供給する方法が採られ、賦活反応後に水洗することによって金属ナトリウムの発火を抑制している。
【0006】
しかし、特許文献1で開示しているプッシャー式トンネル炉による賦活では炉内滞留時間が9.5時間と長い上に、炭素質原料とアルカリ金属水酸化物を一定容積の容器に導入し、容器ごと加熱ゾーンに導入する固定床式反応であり、連続的な供給であっても、その処理能力は噴流床や流動床のような炉の形式と比較して小さい。
【0007】
一方、非特許文献1には、炭素質材料を、アルカリ金属水酸化物を用いて高比表面積の活性炭を製造する方法が種々検討されているが、炭素質材料に対するアルカリ金属水酸化物や、水蒸気の適用量、適用時間、適用温度等について、高比表面積の活性炭を連続的に製造するのに適した条件を見出すという観点からは検討されておらず、水蒸気の存在下、不活性ガス雰囲気中で高比表面積の活性炭を連続的に製造するにはいたっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−306109号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Carbon 41(2003) M.A. Lillo−Rodenas et al, 267−275 (Table2,3 E,F,G)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑み、従来の反応様式と比較して処理能力が格段に増加した活性炭の製造方法を提供し、短時間かつ連続的に高比表面積活性炭を製造することにあり、例えば、噴流床や流動床といった連続供給式の反応器を用いて活性炭を製造する場合に、反応時間を短縮し、かつ、高比表面積活性炭を製造する方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記実情に鑑み、鋭意研究を進めた結果、アルカリ賦活時の雰囲気として通常用いる窒素等の不活性ガスに加えて、水蒸気を導入することによって、賦活に要する反応時間を半分以下に短縮することができることを見出した。
【0012】
従来のアルカリ賦活では炭素質原料が水蒸気によって賦活されることを避けるために、反応雰囲気は窒素やアルゴンといった不活性の雰囲気で行っていた。実際に一定容積の容器に炭素質原料とアルカリ金属水酸化物を導入し、アルカリ賦活反応をさせる所謂固定床反応器にて水蒸気雰囲気で反応させると反応が進行するに従って、水蒸気による賦活が進み、アルカリによって形成された細孔が水蒸気によって破壊され、得られる活性炭の比表面積は小さくなってしまうと考えられている。
【0013】
本発明者らは水蒸気雰囲気におけるアルカリ賦活反応の進行について研究を進めた結果、不活性雰囲気における反応条件と比較して、水蒸気雰囲気における反応では賦活反応が迅速に進むため、反応時間を短くすることによって、水蒸気による細孔の破壊が起こらず、高い比表面積を有する活性炭を得ることができることを見出した。
【0014】
また、供給する炭素質原料とアルカリ金属水酸化物に水を加えてスラリー化することにより、空気中の水分を吸収し粉体としての供給が困難であったアルカリ金属水酸化物の連続供給も可能にした。さらに水蒸気雰囲気における反応では、必要とされるアルカリ試薬の使用量が不活性雰囲気下よりも低減でき、生成物は活性炭とアルカリ炭酸塩のみであるため、取り扱いが困難なアルカリ金属が発生せず、その後の洗浄工程における作業性も改善されることがわかった。
本発明は、この新知見に基づきなされたものであって、下記特徴構成を備える。
【0015】
〔構成〕
本発明の活性炭の製造方法の特徴構成は、
炭素質原料を炭化処理して炭化物にする炭化処理工程を行い、
次に該炭化物にアルカリ金属水酸化物及び水を混合してスラリーにする混合工程を行い、
次に当該スラリーを反応容器に連続供給しつつ、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中、10秒〜30秒間、800℃〜900℃に加熱する反応工程を行い、
得られた反応物(活性炭)を水洗する水洗工程を行い、
次に水洗した反応物(活性炭)を乾燥する乾燥工程を行うことにある。
【0016】
〔作用効果〕
つまり、通常の炭素質原料は、不活性ガス雰囲気で400℃〜1000℃、好ましくは500℃〜700℃に加熱されると、炭素質原料に含まれる酸素や水素が除去され、炭化物となる。
したがって、上述の炭化処理工程を行うことにより、炭素質原料に含まれる酸素や水素を除去し、炭素含有率の高い炭化物を得る。これにより、その後のアルカリ金属水酸化物との反応効率を向上させ、前記炭化物より高比表面積の活性炭を製造するのに寄与する。
【0017】
混合工程では炭化物とアルカリ金属水酸化物および水を混合してスラリーを調製する。これにより、アルカリ金属水酸化物を炭化物の周囲に均一に分散させることができるため、前記炭化物と前記アルカリ金属水酸化物との反応を、均一かつ高効率に行える。また、アルカリ金属水酸化物は潮解性が高いため、粉状で供給しようとすると、フィーダー詰まりを引き起こすことが考えられるのに対し、スラリー状で供給する場合にはこのような問題は無く、スラリーポンプで安定的に供給することが可能となり、工業的に連続生産するのに有効である。
【0018】
反応工程では不活性ガスに加えて水蒸気を反応雰囲気に導入することにより、炭素の賦活によって生成したアルカリ金属を、再度アルカリ水酸化物に転化させ、賦活反応に寄与させることが可能となる。これによって、不活性ガス単独の雰囲気で反応させる場合と比べて、必要となるアルカリ金属水酸化物の量が減少し、少ないアルカリ金属水酸化物量で活性炭を製造できる。(たとえば、水蒸気分圧0.67の場合で、アルカリ金属水酸化物使用量を33%低減することが可能となる。)そのため、アルカリ金属水酸化物使用に係る活性炭の製造コストを低減するとともに、アルカリ金属水酸化物の後処理等に係る製造環境の悪化、環境汚染等を防止することができる。また、製造される活性炭に、副生成物としてのアルカリ金属が混入するおそれが少ないので、そのアルカリ金属と洗浄水の激しい反応等による高熱で活性炭および副生成物としての水素が製造工程で発火するなどのおそれが少なくなり、製造工程の安全管理についても改善することが出来た。
【0019】
さらに、反応工程では不活性ガスに加えて水蒸気を反応雰囲気に導入することにより、不活性ガス単独の雰囲気下で反応した時よりも、賦活の進行度合いが速く、短時間で反応を終了することが可能となる。(たとえば、水蒸気分圧0.67の場合で、反応時間が約1/2となる)そのため、活性炭の製造工程を効率よく行え、活性炭の製造のためのランニングコストを低減することが可能となる。
【0020】
尚、反応雰囲気への水蒸気の添加は、外部より水蒸気を導入する形態でも良いが、簡便には、反応工程で加熱されるスラリーから発生する水蒸気を反応雰囲気内に保持することによって容易に賄うことが出来る。したがって、このような場合、別途水蒸気発生装置等の水蒸気源を設けることなく、簡便な反応装置により、反応工程を行うことが出来るとともに、スラリーに含まれる水の割合を調節するなどの方法により、反応雰囲気の水蒸気分圧の設定が容易にできる。
【0021】
ここで、反応工程における加熱温度は800℃〜900℃とする。800℃より低い場合は賦活反応の進行が遅いため、活性炭は十分に賦活されず、充分な比表面積が得られない。一方、反応器の加熱温度が900℃より高い場合は賦活反応と同時に炭素質の硬化が進み、賦活反応により生成した細孔が塞がれるため、比表面積が低くなるとともに、得られる活性炭が脆くなる。さらに、反応の進行が過多になり、形成した細孔を破壊してしまうため、比表面積が小さくなる。
【0022】
反応工程を行う反応時間は、10秒〜30秒とする。滞留時間が10秒より短い場合は賦活反応が充分に進まないため、活性炭の比表面積は低くなる。一方、滞留時間が30秒より長い場合は、反応装置の規模が非常に大きくなり、実用に供することが出来ない。
【0023】
また、反応器内の雰囲気は、スラリー中から水蒸気が発生するが、不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気との混合ガスを導入して、全体の組成を調整してもよい。
【0024】
水洗工程では得られた反応物を水で洗浄することによって、活性炭に付着しているアルカリ金属化合物を除去することができる。この際、アルカリ金属水酸化物は、反応工程により炭酸塩に変化しているものと考えられ、容易にアルカリ金属塩を水中に除去できる。尚、未反応のアルカリ金属水酸化物の残存するおそれがある場合や、後処理後の水質基準が他覚設定される場合など、水洗とともに、酸による中和を行ったのち水による洗浄を行うことが出来、これら一連の工程を含めて水洗工程と称するものとする。
【0025】
乾燥工程では水洗工程で得られた洗浄物を乾燥することによって水分を除去し、活性炭を得る。これにより、反応工程により賦活された活性炭は、取り扱い容易で、多孔質で高比表面積に基づく多数の反応サイトが有効に機能する形態の製品となる。
【0026】
〔構成〕
また、上述の活性炭の製造方法において、前記混合工程において、炭化物1質量部に対して、アルカリ金属水酸化物を1質量部〜10質量部混合するとともに、水を1質量部〜50質量部混合することが好ましい。
【0027】
〔作用効果〕
アルカリ金属水酸化物は、後の賦活反応で炭化物を賦活させるために必要であり、炭化物1質量部に対し、1質量部〜10質量部、好ましくは3質量部〜4質量部用いる。
アルカリ金属酸化物が1質量部より少ない場合、賦活が十分に行われず、高比表面積の活性炭を得ることができない。逆に、アルカリ金属水酸化物が10質量部より多い場合、アルカリ金属水酸化物が過剰となり、未反応のアルカリ金属水酸化物が生成物に含まれやすくなり、上述の洗浄工程の処理が困難になるので好ましくない。
【0028】
水はスラリーを形成するため、および反応器内で水蒸気を供給するために必要であり、炭化物1質量部に対し、1質量部〜50質量部、好ましくは5質量部〜15質量部を用いる。
水が1質量部より少ない場合、スラリー化が困難であり、混合物の流動性が低いため、ポンプで反応器に供給することが困難であり、水が50質量部より多い場合、反応器内で水を全量蒸発させるために熱ロスが大きくなる。また、全量蒸発させたとしても、反応器内のガス流量が過大になり、試料の反応器内滞留時間を長くとることが困難になる。つまり、水は原料をスラリーとするに足る分量あれば充分であり、水分量が多すぎると反応時間の制御が困難であるため、炭化物1質量部に対し、1質量部〜50質量部、好ましくは5質量部〜15質量部とする。
【0029】
〔構成〕
また、本発明の活性炭の製造装置の特徴構成は
炭素質材料を炭化処理した炭化物にアルカリ金属水酸化物を混合してなるスラリーを、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中に連続供給しつつ、10秒〜30秒間、800℃〜900℃に加熱可能にする反応部を備えた点にある。
【0030】
〔作用効果〕
つまり、上述の活性炭の製造方法を行うに当たり、前記スラリーを前記反応部に供給すると、前記スラリーに含まれる炭化物は、前記アルカリ金属水酸化物により賦活される環境に置かれる。そして、スラリー中の水分が水蒸気として前記反応部内に放出されつつ連続的にその環境で加熱され、前記炭化物は、前記アルカリ金属水酸化物により賦活される。すると、前記スラリー中から生じた水蒸気は、連続的に供給されるスラリーを、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中に保持するために用いられ、同じ環境を維持したまま連続的な反応を維持するのに用いられる。そのため、前記反応部内では、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気を維持しつつ、賦活反応を連続的に行い、生成物(活性炭)を連続的に製造することが出来る。
【0031】
したがって、前記反応部を備えた活性炭製造装置によれば、容易に賦活反応の反応条件を維持しつつ、容易に連続的な活性炭の製造をすることができる。
【0032】
〔構成〕
上述の活性炭の製造装置は、さらに、
炭素質原料を炭化処理して炭化物にする炭化処理部を備え、
該炭化物にアルカリ金属水酸化物及び水を混合してスラリーにする混合部を備え、
前記反応部から連続排出される反応物を水洗する水洗部を備え、
水洗された反応物を乾燥する乾燥部を備えることが好ましい。
【0033】
〔作用効果〕
つまり、反応部に投入されるスラリーが、前記炭化処理部及び混合部で調整されるから、調整されたスラリーが連続的に反応部に供給される状態が容易に実現される。また、前記反応物で賦活された活性炭は、前記反応部から連続的に排出されて、前記水洗部にて水洗されるとともに、前記乾燥部で乾燥される工程を順に経ることになるから、炭素質原料から製品としての活性炭までを連続して製造することが出来る活性炭製造装置となる。
【0034】
したがって、上述の高比表面積の活性炭を製造するための製造方法を連続的に行い、炭素質原料から比表面積の高い高品質な活性炭を効率よく製造することができるようになった。
【0035】
〔構成〕
また上述の構成において、前記反応部が、
スラリーを連続的に落下投入する投入部と、前記投入部の下側に反応物を連続排出する排出部とを備えた縦型反応器を備えるとともに、
前記縦型反応器を800℃〜900℃に加熱する加熱部を備え、
前記投入部には不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気との混合ガスを導入し、前記縦型反応器内部雰囲気を調整するとともに、前記スラリーが投入部から排出部に達するまでの反応時間を調整可能にするガス導入部を備えることが好ましい。
【0036】
〔作用効果〕
つまり、前記反応部は、縦型反応器からなり、スラリーが上部の投入部から落下投入され、下部の排出部から排出されるまでに、前記縦型反応器内で前記加熱部によりスラリーが加熱され賦活反応が進行される。そのため、前記スラリーは、容易に搬送させられながら前記縦型反応器内で連続的に反応し、反応終了後排出される構成となる。したがって、上述の構成によると、簡便な構成でありながら、先述の活性炭の製造方法を効率よく行える。
【0037】
また、前記反応部における反応時間は、前記縦型反応器を前記スラリーが落下する時間となるため、反応時間を長くするには、(1)前記縦型反応器の長さを長くする、(2)縦型反応器内をスラリーが落下する落下抵抗を大きくする、(3)加圧条件下で反応を行い、縦型反応器を通過するガス流量を少なくする、などの方法が現実的に考えられる。つまり、前記ガス導入部から、不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気との混合ガスを導入することにより、反応時間及び水蒸気を含む不活性ガス中の水蒸気量を制御できるので、きわめて簡便な装置構成で、上述の活性炭の製造方法を行えることになる。
【0038】
〔構成〕
また、本発明の活性炭の製造装置の特徴構成は、
炭素質原料を炭化処理した炭化物にアルカリ金属水酸化物を混合してなるスラリーを、連続的に落下投入する投入部と、前記投入部の下側に反応物を連続排出する排出部とを備えた縦型反応器を備え、
前記投入部に不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気との混合ガスを導入するガス導入部を備え、
前記縦型反応器内部を、前記炭化物を賦活可能にする加熱装置を備えた点にある。
【0039】
〔作用効果〕
つまり、前記縦型反応器は、種々反応条件を容易に制御できるから、スラリーが上部の投入部から落下投入され、下部の排出部から排出されるまでに、前記縦型反応器内で前記加熱部によりスラリーが加熱され賦活反応が進行される。そのため、前記スラリーは、容易に搬送させられながら前記縦型反応器内で連続的に反応し、反応終了後排出される構成となる。
【0040】
また、前記ガス導入部より、不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気との混合ガスを導入すると、前記縦型反応器内部は、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気に調整される。さらに、前記加熱装置により、前記縦型反応器内部にて前記炭化物が賦活可能な温度に加熱されるから、先述の活性炭の製造方法を効率よく行える。
【0041】
尚、前記縦型反応器内部雰囲気は、前記スラリーから発生する水蒸気と、前記ガス導入部から導入される不活性ガス(および水蒸気)により、前記活性炭の賦活反応条件を満たす条件に設定調整することにより、連続的に所定の条件で活性炭の製造を行うことができる。
【0042】
尚、炭素質原料としてはヤシ殻、バガス、コーヒー粕等の植物性炭素質原料、石炭、石炭コークス、石油コークス、樹脂等が用いられる。好ましくは後の賦活反応工程において高比表面積の活性炭を得ることが容易なヤシ殻、バガス、コーヒー粕等の植物性炭素質原料、より好ましくは、炭化物および活性炭収率が比較的高いヤシ殻が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の活性炭の製造装置を示す図である。
【図2】本発明の活性炭の製造方法のフロー図である。
【図3】従来の活性炭製造装置の反応部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に、本発明の活性炭の製造方法を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例は、それぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0045】
図1に本発明の活性炭の製造装置を示す。
本発明の活性炭の製造装置は、
炭素質原料を炭化処理して炭化物にする炭化処理部としての炭化炉1を備え、
炭化炉において生成した炭化物にアルカリ金属水酸化物及び水を混合してスラリーにする混合部としての混合タンク2を備え、
前記スラリーを、アルカリ賦活反応する反応部3を備える。
【0046】
さらに、前記反応部3から連続排出される反応物を水洗する水洗部4を備え、
水洗された反応物を乾燥する乾燥部5を備える。
【0047】
前記反応部3は、スラリーを、分散状態でスプレー状に連続的に落下投入する投入部31と、前記投入部31の下側に反応物を連続排出する排出部32とを備えた縦型反応器30を備えるとともに、
前記縦型反応器30を800℃〜900℃に加熱する加熱部33を備え、
前記投入部31には窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスまたはその不活性ガスと水蒸気の混合ガスを導入して、前記縦型反応器30内部雰囲気を調整するとともに、前記スラリーが投入部31から排出部32に達するまでの反応時間を調整可能にするガス導入部34を備える。
【0048】
上記構成により、前記炭化炉1に投入された椰子殻等の炭素質材料は、図2に示すように、炭化され(炭化処理工程#1)、前記混合タンク2において水、アルカリ金属水酸化物と混合されてスラリーとなり(混合工程#2)、スラリーポンプ21により縦型反応器30に搬送される。
【0049】
搬送されたスラリーは、縦型反応器30の上部から導入させ、賦活反応に供される(反応工程#3)。このとき、投入部31へスラリーを導入するには、反応の効率を向上させるために、ノズルを用いて分散させながら導入することが好ましい。反応器は800℃〜900℃、好ましくは850℃〜900℃に加熱しておき、スラリーが縦型反応器30内を落下しながら加熱され、賦活反応が起こるようにする。
【0050】
反応後の生成物は活性炭、未反応のアルカリ水酸化物、生成した炭酸ナトリウムおよび水蒸気が冷却されて生成した水からなる。アルカリ水酸化物および炭酸ナトリウムは水に溶解するため、水を用いて活性炭から、これらアルカリ金属化合物を洗い流す(水洗工程#4)。このとき、アルカリ金属化合物を、酸を用いて中和した後水洗しても良い。また、洗浄液と活性炭の分離についてはろ過、沈殿分離等を用いても良い。
アルカリ金属を除去した活性炭は水洗によって水を含んでいるため、乾燥する(乾燥工程#5)。100℃〜300℃の温度で水分を蒸発させることにより、乾燥させる。温度が高い場合、試料の着火の恐れがあるため、減圧もしくは不活性雰囲気で乾燥しても良い。
【0051】
以下に、上記活性炭の製造装置を用いて、活性炭の製造方法を行う実施例を具体的に示すが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
炭化工程:ヤシ殻を550℃で炭化処理して炭化物を得た。
混合工程:ヤシ殻の炭化物1質量部に対し水酸化ナトリウムを3.3質量部、水を10質量部混合し、スラリーを作製した。
反応工程:スラリーを、大気圧条件下不活性雰囲気(窒素ガス導入)で850℃に加熱した滞留時間20秒の縦型反応器上部からスラリーポンプで連続的に導入し、かつ、スラリー中に含まれる水分が、すべて縦型反応器上部で蒸発するように加熱部を設定した状態で賦活反応を行った。このとき、スラリーポンプの流量、導入する不活性ガス流量、スラリー中の水分量との関係から計算すると、水蒸気分圧は0.7となっていた。
水洗工程:反応器下部から生成物を取り出し、水洗によって水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムを除去し、水分を含む活性炭を得た。
乾燥工程:水分を含む活性炭を真空乾燥機中120℃で一昼夜乾燥することによって活性炭を得た。
得られた活性炭は収率65.3%であり、その比表面積は2657m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0053】
〔実施例2〕
反応工程の加熱温度を900℃とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。
得られた活性炭は収率57.4%であり、その比表面積は2839m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0054】
〔実施例3〕
反応工程の加熱温度を800℃とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率75.4%であり、その比表面積は2202m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0055】
〔実施例4〕
原料をコーヒー粕とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率54.2%であり、その比表面積は2296m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0056】
〔実施例5〕
原料をバガスとする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率49.2%であり、その比表面積は2351m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0057】
〔実施例6〕
縦型反応器の滞留時間を10秒とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率76.9%であり、その比表面積は2118m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0058】
〔実施例7〕
縦型反応器の滞留時間を30秒とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率58.9%であり、その比表面積は2818m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0059】
〔実施例8,9〕
スラリーポンプの流量を調節して反応工程の水素分圧を0.9(実施例8),0.5(実施例9)とした以外は、実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率63.2%(実施例8)、66.8%(実施例9)であり、その比表面積は2553m2/g(実施例8),2721m2/g(実施例9)であった。いずれも高比表面積の活性炭が得られた。
【0060】
〔比較例1〕
反応工程の加熱温度を750℃とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率84.8%であり、その比表面積は1554m2/gであった。
【0061】
〔比較例2〕
反応工程の加熱温度を950℃とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率51.6%であり、その比表面積は1533m2/gであった。
【0062】
〔比較例3〕
縦型反応器の滞留時間を5秒とする以外は実施例1と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭は収率87.2%であり、その比表面積は1354m2/gであった。
【0063】
〔比較例4〜9〕
上記縦型反応器を、従来の活性炭の製造方法に用いられる加熱炉(図3参照)に変更して種々条件下で活性炭を製造した。
【0064】
加熱炉としては、縦型反応器30に代えて、コンベヤ式搬送部61を備え、加熱部62を内装した反応室60を備え、スラリーを投入部31から落下投入しつつ反応を行うのではなく、供給口61から搬送装置64によりコンベヤ搬送しつつ、前記反応室60内を移動させ取り出し口より取り出すまでの間、賦活反応を行う形態のものを用いる。ここで、従来用いられている加熱炉は、反応室内に供給されたスラリーを所定の速度で昇温させ、反応温度に達した状態で所定時間保持することが出来るが、スラリーから発生する水蒸気は、反応温度に達するまでにほとんどすべて系外に排出され、実質的に不活性ガス単独の雰囲気に置換された状態で現実的な反応が行われるように運転される構成となっている。
【0065】
〔比較例4〕
炭化工程:ヤシ殻を550℃で炭化処理して炭化物を得た。
混合工程:ヤシ殻の炭化物1質量部に対し水酸化ナトリウムを5.0質量部、水を10質量部混合し、スラリー状試料を作製した。
反応工程:スラリー状試料を、不活性雰囲気で700℃に加熱した滞留時間9300秒の加熱炉に、コンベヤ搬送により連続的に導入し、賦活反応を行った。
水洗工程:反応器下部から生成物を取り出し、水洗によって水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムを除去し、水分を含む活性炭を得た。
乾燥工程:水分を含む活性炭を真空乾燥機中120℃で一昼夜乾燥することによって活性炭を得た。
得られた活性炭の収率は40%であり、その比表面積は2820m2/gであった。高比表面積の活性炭が得られた。
【0066】
〔比較例5、6〕
比較例4における炭素質原料をコーヒー粕(比較例5)、バガス(比較例6)とし、同様に活性炭を製造した。
得られた活性炭はそれぞれ、収率23.3%、比表面積2296m2/g、(比較例5)、収率16.7%、比表面積2352m2/g(比較例6)であった。
【0067】
〔比較例7〕
比較例4における賦活反応温度を900℃とし、同様に活性炭を製造した。
得られた活性炭は、収率39.2%比表面積1813m2/gであった。
【0068】
〔比較例8〕
比較例4におけるアルカリ金属水酸化物使用量を3.3質量部とし、同様に活性炭を製造した。
得られた活性炭は、収率64.7%比表面積2245m2/gであった。
【0069】
〔比較例8〕
比較例4における賦活反応時間を20秒とし、賦活反応温度を850℃とし、同様に活性炭を製造した。
得られた活性炭は、収率87.2%比表面積1235m2/gであった。
【0070】
これらの結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、実施例1〜3および比較例1,2を比較すると、反応部における反応温度は、800℃〜900℃において、得られる活性炭の比表面積が高く、収率も高いことがわかる。また、温度が上がるにつれ収率が低下しており、賦活反応と同時に炭素質の硬化が進み、比表面積が小さくなっていることがわかる。
【0073】
また、加えて、比較例4を参照すると、図3に示す従来の活性炭の製造装置によれば、加熱炉内で原料が賦活反応温度に達した反応開始時点で水蒸気分圧を測定すると、水蒸気分圧がほぼ0.0であり、炭化物をスラリーとして供給したとしても、この反応条件では、実質的に水蒸気を含まない雰囲気下で反応が進むことになり、高い比表面積の活性炭を得るのに長時間を要するとともに、収率についても低い活性炭の製造方法となっていることがわかる。
【0074】
また、加えて、比較例4、7を参照すると、図3に示す従来の活性炭の製造装置によれば、反応温度は収率には大きく関与していないことがわかる。また、比較例4、8を参照すると、アルカリ金属水酸化物使用量は、少なくすれば比表面積が低下する傾向にあることを示している。
【0075】
実施例1,4,5を比較すると、炭素質原料としては椰子殻を用いることが収率、比表面積の面から好ましいことがわかる。
【0076】
また、加えて、比較例4,5,6を参照すると、何れの炭素質原料を用いた場合にも、充分な収率を得ることが困難であることがわかる。
【0077】
実施例1,6,7及び比較例3を比較すると、反応部における反応時間は、10秒〜30秒程度が好ましく、時間が増えるにしたがって収率が低下し、時間が不足すると比表面積が充分高くならないことがわかる。尚、比較例9を参照すると、従来の活性炭の製造方法に用いる加熱炉において、短時間の賦活反応では比表面積の高い活性炭が得られず、賦活が十分に進行していないことがわかる。
【0078】
実施例1,8,9を比較すると、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気における水蒸気分圧は0.5〜0.9の範囲で反応生成物の比表面積や収率に大きな影響を与えていないことがわかる。ここで、水は原料をスラリーとするに足る分量あれば、充分な水蒸気分圧を確保できることがわかった。尚、水分量が多い場合には、反応器内で発生する水蒸気量を多くすることが出来るので、水蒸気分圧を高く設定することが出来るものの、その分、スラリーポンプの能力を高くし、加熱速度を速めなければならなくなるなど、流量や反応時間の制御が困難となるため、不必要に大量の水蒸気を発生させる必要もないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質原料を炭化処理して炭化物にする炭化処理工程を行い、
次に該炭化物にアルカリ金属水酸化物及び水を混合してスラリーにする混合工程を行い、
次に当該スラリーを反応容器に連続供給しつつ、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中、10秒〜30秒間、800℃〜900℃に加熱する反応工程を行い、
次に得られた生成物を水洗する水洗工程を行い、
次に水洗した生成物を乾燥する乾燥工程を行うことを特徴とする
活性炭の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程において、炭化物1質量部に対して、アルカリ金属水酸化物を1質量部〜10質量部混合するとともに、水を1質量部〜50質量部混合する請求項1に記載の活性炭の製造方法。
【請求項3】
炭素質原料を炭化処理した炭化物にアルカリ金属水酸化物を混合してなるスラリーを、水蒸気を含む不活性ガス雰囲気中に連続供給しつつ、10秒〜30秒間、800℃〜900℃に加熱可能にする反応部を備えた活性炭の製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の活性炭の製造装置であって、
炭素質原料を炭化処理して炭化物にする炭化処理部を備え、
該炭化物にアルカリ金属水酸化物及び水を混合してスラリーにする混合部を備え、
前記反応部から連続排出される反応物を水洗する水洗部を備え、
水洗された反応物を乾燥する乾燥部を備えた
活性炭の製造装置。
【請求項5】
前記反応部が、
スラリーを連続的に落下投入する投入部と、前記投入部の下側に反応物を連続排出する排出部とを備えた縦型反応器を備えるとともに、
前記縦型反応器を800℃〜900℃に加熱する加熱部を備え、
前記投入部には、不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気との混合ガスを導入し、前記縦型反応器内部雰囲気を調整するとともに、前記スラリーが投入部から排出部に達するまでの反応時間を調整可能にするガス導入部を備えた
請求項3または4に記載の活性炭の製造装置。
【請求項6】
炭素質原料を炭化処理した炭化物にアルカリ金属水酸化物を混合してなるスラリーを、連続的に落下投入する投入部と、前記投入部の下側に反応物を連続排出する排出部とを備えた縦型反応器を備え、
前記投入部に不活性ガスもしくは不活性ガスと水蒸気との混合ガスを導入するガス導入部を備え、
前記縦型反応器内部を、前記炭化物を賦活可能にする加熱装置を備えた活性炭の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−79705(P2011−79705A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233598(P2009−233598)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】