説明

活性炭及びその製造方法、並びにそれを用いた液体の精製方法、及び燃料電池システム

【課題】液体中の微量成分の除去に好適なメソ孔を保持しつつ、比表面積が高く、かつ、かさ密度の高い活性炭であって、炭化水素油等の液体中の微量成分を効率的に吸着除去することが可能な活性炭及びその製造方法を提供する。
【解決手段】比表面積Saが800〜4,000m/gで、且つ、全細孔容積Vaが0.5〜1.2cm/gであって、灰分の含有量が3〜10質量%であることを特徴とする活性炭である。また、籾殻を40質量%以上含む原料を炭化処理及び賦活処理する工程を含む活性炭の製造方法であって、更に、アルカリ処理により前記活性炭の灰分を除去する工程を含むことを特徴とする上記活性炭の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭、活性炭の製造方法、液体の精製方法及び燃料電池システムに関し、特には、特定の活性炭を吸着剤として用いた液体の精製方法、例えば、硫黄化合物を炭化水素油から吸着除去する精製方法、更には、該精製方法を使用する燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化ガスであるCOガスや、NO等の自動車排出ガスの排出量を削減する観点から、燃料内に含まれる硫黄分の一層の低減が、社会から強く望まれている。我が国では既に、軽油は2007年から、ガソリンは2008年から硫黄分が10質量ppm以下に規制されている。一方、昨今の燃料電池の技術革新には目を見張るものがある。水素源を石油系燃料に求めた場合、燃料油中に含まれる硫黄分をppbレベルまで低減しなければ、燃料電池の改質器及び電極部の触媒が硫黄分により被毒され、燃料電池システムの機能が低下し、所望する寿命が得られない。このような背景から、超低硫黄分の石油系燃料油を得る脱硫技術が盛んに研究されている。
【0003】
従来の水素化脱硫方法で除去が難しい難脱硫化合物の大部分は、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類である。灯油の場合、特にベンゾチオフェン類の割合が大きく、全硫黄化合物に対するベンゾチオフェン類の割合は、硫黄分として70%以上であることが多い。しかしながら、含有量の少ないジベンゾチオフェン類の方が除去は困難であり、特にアルキル基を多く有するアルキルジベンゾチオフェン類の除去が非常に困難である。一方で、簡単な操作で、容易に効率的に脱硫できる方法が求められており、例えば、還元処理や水素を必要とせず、また、加圧を必要としないで、かつ室温から150℃程度までの比較的低い温度下で、ジベンゾチオフェン類を効率的に除去できる脱硫剤が熱望されている。脱硫剤は、製油所等で大量に使用するには、除去性能だけでなく、安価で経済性も優れていなければならない。
【0004】
特定の細孔構造を有する活性炭、特に繊維状活性炭は、軽油や灯油に含まれるジベンゾチオフェン類に対して高い除去性能を有することが報告されている(特許文献1参照)。しかしながら、繊維状活性炭は綿状であるために充填密度を高くできないため、単位容積当たりの吸着性能が高くないこと、製造工程が複雑で製造コストが極めて高く経済的ではないことという課題が存在する。
【0005】
本発明者らは、植物系バイオマスを減圧下にて300〜900℃で炭化処理することにより、又は減圧下及び/又は不活性雰囲気下にて200〜900℃で炭化処理した後にさらに賦活処理することにより得られた、比表面積200m/g以上、平均細孔幅2.0nm以上である炭化処理物又は賦活処理物が、炭化水素油中の微量成分の除去に好適に使用できること、特には、籾殻を原料として上記にようにして得られる活性炭が燃料油中の難脱硫化合物であるジベンゾチオフェン類の吸着能力に優れていることを見出している(特許文献2参照)。さらに、植物系バイオマス又は植物系バイオマスの予備炭化処理物、特には籾殻の炭化物に、他の炭素源、特には糖類からなるバインダーを加え、混練、成型後、得られた成型物を炭化処理して成型炭化処理物を得る成型炭化処理工程、及び得られた成型炭化処理物にバインダーを含浸させた後、これを賦活処理して成型賦活処理物を得る賦活処理工程を含む製造方法により、比表面積が高く、硬く、かつ、かさ密度の高い活性炭が得られることを見出している(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、籾殻は灰分、特にはシリカ分を多く含むことから、単位質量当たりの炭素分が少なく、さらに比表面積を大きくするために賦活処理時間を長くすると、炭素分が減少することにより灰分の割合が高くなり、単位質量当たりの比表面積の向上には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/097771号
【特許文献2】特開2007−284337号公報
【特許文献3】特開2009−072712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、液体中の微量成分の除去に好適なメソ孔を保持しつつ、比表面積が高く、かつ、かさ密度の高い活性炭であって、炭化水素油等の液体中の微量成分を効率的に吸着除去することが可能な活性炭を提供することを課題とする。また、本発明は、該活性炭を製造する方法、該活性炭を用いる液体の精製方法、例えば該活性炭を用いて炭化水素油中の微量成分を除去する精製方法、及び該精製方法を使用する燃料電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、液体中の微量成分を吸着除去する吸着剤の主要材料である活性炭の原料となる籾殻等の前処理方法、籾殻等に追加する炭素源及び適切なバインダーの選択及びその添加量、炭化・賦活処理温度などの製造条件を鋭意検討した結果、植物系バイオマス、好ましくはイネから得られる籾殻の炭化物又は該籾殻の炭化物にさらに追加の炭素源、特には糖類を追加して炭化処理した炭化物を、アルカリ、特には水酸化ナトリウム水溶液で処理して灰分の一部を除去することにより、液体中の微量成分の除去等に好適なメソ孔を保持しつつ、比表面積が高く、かつ、かさ密度の高い活性炭が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 比表面積Saが800〜4,000m/gで、且つ、全細孔容積Vaが0.5〜1.2cm/gであって、灰分の含有量が3〜10質量%であることを特徴とする活性炭。
(2) 下記式(I)により求めた平均細孔幅dが、1.0〜2.0nmであることを特徴とする上記(1)に記載の活性炭。
d = 2000×Va/Sa ・・・(I)
(3) 細孔幅2.0nm以上50nm未満のメソ孔容積Vmが、0.1〜0.5cm/gであることを特徴とする上記(2)に記載の活性炭。
(4) 全細孔容積Vaに対するメソ孔容積Vmの比Vm/Vaが、0.2〜0.5であることを特徴とする上記(3)に記載の活性炭。
(5) 細孔幅0.7nm以上2.0nm未満のスーパーマイクロ孔容積Vsに対する、細孔幅0.7nm未満のウルトラマイクロ孔容積Vuの比Vu/Vsが、1.0〜2.5であることを特徴とする上記(1)に記載の活性炭。
(6) 籾殻を40質量%以上含む原料を炭化処理及び賦活処理する工程を含む活性炭の製造方法であって、更に、アルカリ処理により前記活性炭の灰分を除去する工程を含むことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
(7) 籾殻を40質量%以上含む原料を炭化処理して炭化処理物を得、該炭化処理物をアルカリ処理することにより灰分を除去した後に、該炭化処理物を賦活処理することを特徴とする上記(6)に記載の活性炭の製造方法。
(8) アルカリ処理の後に、前記炭化処理物を成型することを特徴とする上記(7)に記載の活性炭の製造方法。
(9) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の活性炭からなる吸着剤又は該活性炭を含む吸着剤と液体とを接触させることにより、該液体に含有される微量成分を吸着除去することを特徴とする液体の精製方法。
(10) 前記液体が灯油又は軽油であることを特徴とする上記(9)に記載の液体の精製方法。
(11) 前記微量成分が芳香族化合物であることを特徴とする上記(9)又は(10)に記載の液体の精製方法。
(12) 前記芳香族化合物が、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類よりなる群から選ばれる少なくとも1つの硫黄化合物であることを特徴とする上記(11)に記載の液体の精製方法。
(13) 前記吸着剤と前記液体とを接触させる工程の後処理として、固体酸系吸着剤を用いて硫黄化合物を吸着除去することを特徴とする上記(12)に記載の液体の精製方法。
(14) 0〜80℃の温度で前記吸着剤と前記液体とを接触させることを特徴とする上記(9)〜(13)のいずれかに記載の液体の精製方法。
(15) 上記(9)〜(14)のいずれかに記載の液体の精製方法を使用することを特徴とする燃料電池システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明の活性炭によれば、単位重量(質量)当たりの吸着性能は元より、単位体積(容量)当たりの吸着性能が高いため、液体中の微量成分、特には炭化水素油中の硫黄化合物を効率的に吸着除去することができる。また、かかる活性炭を吸着剤として用いた液体の精製方法、及び該精製方法を使用する燃料電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)の製造フローチャートを示す。
【図2】モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−1における各硫黄化合物の吸着等温線を示す。
【図3】モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−2における硫黄化合物の吸着等温線を示す。
【図4】活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.5h](比較例6)及び活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例7)の製造フローチャートを示す。
【図5】活性炭[N5AC85 Na1N EX 0.5h](実施例3)及び活性炭[N5AC85 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例8)の製造フローチャートを示す。
【図6】活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例4)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.25+0.5h](実施例5)の製造フローチャートを示す。
【図7】モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−3における各硫黄化合物の吸着等温線を示す。
【図8】モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−4における各硫黄化合物の吸着等温線を示す。
【図9】モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−5における各硫黄化合物の吸着等温線を示す。
【図10】市販灯油を用いた浸漬式脱硫試験におけるジベンゾチオフェン類の吸着等温線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔植物系バイオマス〕
本発明の活性炭の製造方法は、植物系バイオマスを主な原料として用いる。ここで、植物系バイオマスは、炭化処理工程、賦活処理工程等の工程を経て、成型賦活処理物となる。また、植物系バイオマスとしては、木材、ヤシ殻、イナワラ、籾殻、パルプ廃液などが挙げられるが、籾殻が好ましく、イネから得られる籾殻が特に好ましい。植物系バイオマス、例えば籾殻から得られた成型賦活処理物はいわゆる活性炭の1種であり、これからなる吸着剤は液体に含有される微量成分、特には、炭化水素油中に含まれる硫黄化合物及び/又は多環芳香族化合物の吸着除去に優れた性能を発揮する。
【0014】
植物系バイオマス、特に籾殻の場合には、含有するシリカなどの灰分(無機成分)が、メソ孔やマクロ孔を発達させているものと推察される。特にメソ孔は、吸着質である微量成分の拡散のルートとして、適当な容量が必要である。植物系バイオマスが含有する灰分の量は、籾殻の場合が20質量%程度で、杉の場合が1質量%程度である。
【0015】
さらに、籾殻は毎年安定量産出され、安定的に供給可能であるという利点を有し、また、殆どが焼却処分されていることから資源の有効活用にも資する。なお、本発明の活性炭の製造方法に用いる原料は、籾殻を40質量%以上含む限り特に限定されず、籾殻を該籾殻以外の植物系バイオマスと組み合わせて用いてもよい。
【0016】
〔追加炭素源〕
本発明の活性炭の製造方法は、上記の籾殻等の植物系バイオマスからなる原料のほかに、追加の炭素源を用いることが好ましい。上記植物系バイオマスをそのまま活性炭とすると、炭化工程及び賦活処理工程で炭素分が減少し、高い比表面積に必要なマイクロ孔を形成する炭素分までも減少することがあるため、比表面積を十分に向上させることができない場合がある。上記植物系バイオマスにより得られる骨格に、更に炭素源を追加することにより、より多くのマイクロ孔を形成することができる。なお、追加炭素源の使用量(複数回に分割して追加した場合には合計の使用量)は、水分を除いた残量を基準(乾燥基準)として、上記植物系バイオマス100質量部に対し1〜200質量部、好ましくは10〜180質量部、更に好ましくは30〜160質量部の範囲が好ましい。
【0017】
追加炭素源としては、炭素含有量や粘性から、糖類が好ましい。糖類としては、甜菜絞り汁、甘しゃ(さとうきび)絞り汁、甜菜糖、甘しゃ糖、糖蜜、廃糖蜜、含蜜糖、分蜜糖、黒糖、砂糖、ショ糖、デンプン、オリゴ糖などが挙げられる。これらは、主にセルロース、糖類、でんぷんなどの炭水化物系の成分で構成され、活性炭の原料である植物系バイオマスと主成分が同じ炭水化物であるせいか、馴染み(親和性、構造類似性)がよく、両者の混合性が良好であり、得られる活性炭の強度は高くなり、また、比表面積も向上する。これらの中でも、比較的容易に入手できる甜菜絞り汁、甘しゃ絞り汁、甜菜糖、甘しゃ糖、黒糖、デンプンが好ましく、甜菜絞り汁、甜菜糖が特に好ましい。
【0018】
上記の糖類は、乾燥状態では粘着性を持たないので、バインダーとして使用するには、例えば絞り汁などのように液状となっている場合はそのまま用いることもできるが、煮詰めて濃縮し粘性を高めて用いることが好ましい。また、上記の糖類は、水分含有量を減じた固形状ないし粉末状で取り扱われることが多い。糖類がこのような固体状態、乾燥状態の場合は、水に溶かして用いるか、絞り汁などと同様に必要によっては、煮詰めて濃縮して用いても良い。
【0019】
バインダーには、成型加工しにくい植物系バイオマス又は炭化処理物と混ぜ合わせ、バインダーの粘着力を利用して固めて成型炭化処理物などを得るために用いる成型用バインダーと、炭化処理物や成型炭化処理物の比表面積や強度を改善するために、炭化処理をする前に又は賦活処理をする前に植物系バイオマス又は炭化処理物に含浸させて用いる含浸用バインダーがある。
【0020】
成型用バインダーは、例えば、粉末状又は固形状の糖類にほぼ同じ質量の水を加えて撹拌して均一な糖の水溶液を調製することによって得られる。このとき、熱すると溶解性が高くなり、糖類を速く溶解することができる。さらに、沸騰させると、強力な撹拌効果も加わり、効率よく均一な糖の水溶液を得ることができる。穏やかな沸騰を続けて水分を蒸発すると、成型用バインダーとして好適に用いることができる、粘性のあるシロップ状態の液体(糖水溶液)を得ることができる。成型用バインダーは、吸着剤として用いるのに好適な形状に、炭素材料などの成分同士を強力に結合するために、また、その成型加工をしやすくするために用いる。水分の割合が多過ぎると成型できなくなったりして加工の効率が損なわれる。水分が少な過ぎる場合には混合ないし混練中に水を追加して調整することができるので、適度に粘性のある、例えばゆるい蜂蜜程度の粘度を有するシロップ状の糖水溶液を用いることが好ましい。粘度は水分量によって調整することができる。粘度を高くする場合、一旦多めの量の水を添加して十分均一な組成の糖水溶液を調製した後、加熱して水分を蒸発させて、所望の粘度のシロップ状の糖水溶液に調製することが好ましい。
【0021】
成型用バインダーの使用量は、植物系バイオマス又は炭化処理物が所望の形状に成型することができる量を配合すればよく、特に限定されないが、成型加工する乾燥させた植物系バイオマス又は炭化処理物100質量部に対して、1〜200質量部程度、好ましくは5〜100質量部程度、更に好ましくは10〜50質量部程度使用することが好ましい。なお、上記のバインダーの使用量は、水分を除いた残量を基準(乾燥基準)とする。
【0022】
含浸用バインダーとしては、粉末状の糖類を1〜20倍の質量の水に約60℃で均一に溶解した、成型用バインダーよりもはるかに低粘度な糖水溶液を用いることができる。
また、これらのバインダーを炭化処理物、賦活処理物、乾燥させた植物系バイオマス、予備炭化処理物等に対して使用してもよく、ここで、炭化処理物又は賦活処理物あるいは乾燥させた植物系バイオマス又は予備炭化処理物に対するバインダーの使用量は、特に限定されるものではないが、上記処理物100質量部に対して、1〜200質量部程度(乾燥基準)、好ましくは5〜160質量部、更に好ましくは20〜140質量部(乾燥基準)であることが好ましい。バインダーの使用量が5質量部よりも少ないと、得られる活性炭の強度が低くなる。また、200質量部よりも多いと、籾殻などの活性炭の特長である細孔構造が十分に得られなくなる。
【0023】
〔予備炭化処理工程(予備炭化処理物を得る工程)〕
本発明の活性炭の製造方法は、まず、不活性雰囲気下において、加熱により植物系バイオマスを予備炭化処理し、予備炭化処理物を得ることが好ましい。ここで、炭化処理温度は、200〜600℃といった比較的低い温度であることが好ましい。なお、本発明において、予備炭化とは、この比較的低い温度で行う炭化を意味する。この予備炭化処理を行うことによって、水分や上記の温度で揮発する揮発成分が取り除かれ、以後の炭化処理工程や賦活処理工程において、これらの揮発成分による処理物の割れなどの不具合や、炭化炉並びに賦活炉の不要な汚れを防止することができ、また、取扱い性も格段に向上するので、以下の工程や貯蔵・運搬が容易になる。
【0024】
不活性雰囲気としては、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や真空雰囲気などが挙げられるが、経済性等の観点から、窒素雰囲気下にて予備炭化処理を行うことが好ましい。なお、予備炭化処理の炭化時間は0.01〜2時間程度行うことが好ましい。また、予備炭化処理を行うにあたって植物系バイオマスは、取り扱いやすい大きさに整えておくことが好ましい。例えば、籾殻はそのままで構わないが、木材、ヤシ殻、イナワラなどは5cm程度のいわゆる木材チップや爪楊枝程度の形に整えておくことが好ましい。
予備炭化処理は、不活性雰囲気下にて炭化処理を行えるものであれば特に限定されないが、例えば、雰囲気炉、ロータリーキルンなどの炉を用いて行うことができる。
【0025】
〔炭化処理工程(炭化処理物を得る工程)〕
次に、本発明の活性炭の製造方法は、植物系バイオマス又は予備炭化処理物を炭化処理することにより、炭化処理物を得る工程を含む。また、該炭化処理工程は、植物系バイオマス又は予備炭化処理物を成型した後、その成型物に対して行われるのが好ましい。
【0026】
ここで、植物系バイオマスをそのまま炭化処理工程に用いる場合は、予め乾燥して使用することが好ましい。例えば、50〜150℃、好ましくは80〜130℃の温度で1〜24時間程度乾燥する。
【0027】
上記乾燥させた植物系バイオマス(以下、乾燥植物系バイオマスともいう)又は予備炭化処理物を1〜500μm程度、好ましくは2〜100μm、更に好ましくは5〜50μmに粉砕し、必要に応じてこれに上記成型用バインダー、好ましくは糖類からなる成型用バインダーを加えて、十分に混合する。成型用バインダーの配合量は、特に限定されるものではないが、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物100質量部に対して成型用バインダーを1〜200質量部(乾燥基準)、好ましくは5〜100質量部(乾燥基準)、更に好ましくは10〜50質量部(乾燥基準)を均一に混合させることが好ましい。成型用バインダーは、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物の粉砕物と攪拌機、混合機、混練機、捏和機など市販の各種の混合用機械を用いて十分均一に混合することができる。得られる混合物は、例えば、適宜の成型機を用いて成型物に成型される。混合物の状態が、パサパサであったり、ゆるゆるのペースト状の場合、加圧成型できないことがある。パサパサの場合は、水を加えることで、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物の粉砕物と成型用バインダー中の糖類との混合比率を変えることなく、混合物を調製することができる。ゆるいペースト状の場合、混合物中の乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物の粉砕物の含有量を増やすと、上記の混合比率が変化する。したがって、成型用バインダーはこのようなことが生じない程度に糖類の含有量が高いシロップ状の糖水溶液を調製しておくことが好ましい。
【0028】
成型物の形状は、特に限定されるものでないが、球状、粒状、柱状(断面は円、角又は四つ葉などの異形など)、筒状、ペレット状、ハニカム状などが挙げられる。最終的に得られる活性炭を吸着剤として用いるとき、吸着質(微量成分)の濃度勾配を大きくするため、流通式の場合には吸着剤を充填した容器前後の差圧が大きくならない範囲で小さい形状、特には球状が好ましい。球状の場合の大きさは、直径は0.5〜5mmが好ましく、1〜3mmが特に好ましい。円柱状の場合、直径は0.1〜4mmが好ましく、特に好ましくは0.2〜2mmであり、長さは直径の0.5〜5倍が好ましく、1〜4倍が特に好ましい。このような形状の成型物の成型方法は、特に限定されるものではなく、市販の各種の押出し成型機、プレス成型機、打錠機、錠剤機などを用いて行うことができる。さらに、ニーダーと押出機を組み合わせてペレット状や柱状の成型物を得ることもできる。
【0029】
このようにして得られた、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物と成型用バインダーとの混合物からなる成型物を、炭化処理に先立って、例えば、100〜150℃、好ましくは105〜130℃で1〜2時間程度乾燥してもよい。
【0030】
次いで、上記乾燥植物系バイオマス、予備炭化処理物の粉砕物又は成型物を、不活性雰囲気下にて好ましくは200〜900℃で、0.01〜2時間炭化処理を行い、(成型)炭化処理物を得る。不活性雰囲気は、予備炭化処理の場合と同様に、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気や真空雰囲気などが挙げられるが、経済性等の観点から、炭化処理を窒素気流下にて行うことが好ましい。適宜の量の窒素ガスを流すことによって、成型物等から発生する水分や揮発成分を除去するとともに、炭化炉内の雰囲気を均一にすることができる。炭化処理温度は、400〜900℃がより好ましく、500〜900℃が更に好ましく、700〜900℃が特に好ましい。後述の含浸後の炭化処理(含浸炭化処理)の温度と同じか又はより高い温度で行うことが好ましく、後述の賦活処理の温度と同じ温度で行うことが特に好ましい。また、炭化時間は、0.03〜1時間がより好ましく、0.05〜0.2時間が更に好ましい。なお、上記乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物の粉砕物を炭化処理した場合には、得られる炭化処理物を成型してもよい。ここで、成型方法及び成型物の形状については、上述の通りである。
【0031】
なお、炭化処理を行う前に、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物に、糖類からなる含浸用バインダーを含浸して炭化処理(含浸炭化処理)をしておくことが、細孔構造の局所的なムラを少なく、且つ、比表面積を大きくできることから好ましい。このときの成型炭化処理は、その原料として、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物でなく、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物に含浸用バインダーを含浸して炭化処理(含浸炭化処理)して得た含浸炭化処理物を使用する以外は、上記の乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物を用いる場合と全く同じ方法で行うことができる。
【0032】
含浸法としては、公知の方法、例えばスプレー法、浸漬法、蒸発乾固法などを使用できる。操作の容易さの観点から、スプレー法、浸漬法が好ましい。例えば、スプレー法の場合、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物に含浸用バインダーを満遍なく吹き付けてできるだけ均一に含浸させる。バインダーの含浸量は、乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物100質量部に対して、5〜200質量部程度(乾燥基準)使用することが好ましい。一度のスプレーで所望量含浸できない場合には、一旦乾燥して再度含浸用バインダーを吹き付けることによって、さらに必要によりこの操作を繰り返すことによって、所望量のバインダーを含浸させることができる。浸漬して含浸させる場合も、浸漬と乾燥の操作を繰り返すことによって、所望量含浸させることができる。バインダーの含浸量は、乾燥しても、例えば糖類の乾燥基準の質量は変化しないので、含浸後の質量とバインダーの糖類濃度から含浸するたびに求めたそれぞれの含浸量を積算して把握することができる。
【0033】
バインダーの含浸後、100〜150℃、好ましくは105〜130℃で1〜2時間程度乾燥し、不活性雰囲気下にて炭化処理(含浸炭化処理)を行い、含浸炭化処理物を得る。この乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物への含浸、乾燥後の炭化処理(含浸炭化処理)は、200〜900℃で、0.01〜2時間行うことが好ましい。炭化処理温度は、400〜900℃がより好ましく、500〜900℃が更に好ましく、700〜900℃特に好ましい。また、炭化時間は、0.03〜1時間がより好ましく、0.05〜0.2時間が更に好ましい。
【0034】
〔アルカリ処理工程〕
本発明の活性炭の製造方法は、更に、アルカリ処理によって活性炭の灰分を除去する工程を含む。詳細には、予備炭化処理物、炭化処理物、或いは、炭化処理工程の途中の中間品などの炭化処理を施した処理物を更にアルカリで処理することにより、シリカ分等の灰分(無機成分)を除去することができる。また、アルカリ処理の前に炭化処理物を成型すると流通式等で実施できるため、アルカリ処理工程が簡便となる。一方、アルカリ処理の後に成型すると、かさ密度をより高くすることができ、吸着剤の性能はより高くなる。なお、成型方法及び成型物の形状については、上述の通りである。また、賦活処理後の成型賦活処理物に対してアルカリ処理を施してもよく、賦活処理後のアルカリ処理によっても、シリカ分等の灰分は除去できる上に、マイクロ孔も形成される。
【0035】
アルカリとしては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液、アンモニア水溶液などが挙げられる。例えば、予備炭化物、成型炭化処理物、或いは、成型炭化処理工程の途中の中間品の1質量部を、アルカリ水溶液10〜500質量部、好ましくは50〜200質量部に浸漬させるなどして接触させる。水酸化ナトリウム水溶液の場合、濃度は0.1〜3mol/L、好ましくは0.5〜1mol/Lである。アルカリ処理の温度は10〜90℃が好ましく、30〜80℃が更に好ましい。また、アルカリ処理の時間、例えば浸漬時間は、10〜500時間が好ましく、50〜200時間が更に好ましい。例えば、灰分を抽出した後に、アルカリ処理した炭化処理物を蒸留水で洗浄し、乾燥する。アルカリ水溶液に抽出した灰分は、シリカ分を多く含有するので、回収して、肥料や太陽電池の原料とすることができる。
【0036】
〔賦活処理工程(賦活処理物を得る工程)〕
次に、本発明の活性炭の製造方法は、上記のようにして得られた炭化処理物を賦活処理することにより、吸着剤に用い得る活性炭としての賦活処理物を得る工程を含む。ここで、炭化処理物に含浸用バインダー(好ましくは、糖類からなるバインダー)を含浸させ、乾燥した後、賦活処理を行うことが好ましい。
【0037】
含浸法としては、公知の方法、例えばスプレー法、浸漬法、蒸発乾固法など、上記の乾燥植物系バイオマス又は予備炭化処理物を含浸した方法を使用することができる。これらの中でも、操作の容易さの観点から、スプレー法、浸漬法が好ましい。1回の含浸操作で所望量の含浸用バインダーを含浸させることができない場合、一旦乾燥させた後、再度含浸操作を行い、バインダーの含浸量を増量することができる。これを繰り返すことよって所望の量の成型用バインダーを含浸させることができる。
【0038】
バインダーを含浸した炭化処理物を、100〜150℃、好ましくは105〜130℃で1〜2時間程度乾燥させ、これに賦活処理を行う。賦活処理としては、ガス賦活、水蒸気賦活、薬剤賦活などが挙げられる。薬剤賦活の場合、賦活処理後に、賦活処理に用いた薬剤(KOH、NaOH、ZnCl、HSOなど)を賦活処理物から取り除く後処理を要するので面倒であり、手間がかかる。一方、ガス賦活又は水蒸気賦活は、ガス雰囲気下又は水蒸気雰囲気にて熱処理を行えばよく、薬剤を取り除く余計な煩雑な操作を必要としない。したがって、水蒸気賦活又はガス賦活が好ましい。
【0039】
水蒸気賦活及びガス賦活に用いるガスとしては、水蒸気、炭酸ガス、空気、燃焼ガスなどが挙げられるが、二酸化炭素を用いるガス賦活を行うことが、賦活処理条件の制御が容易であり、ガスの取扱い並びに賦活処理後の後処理が容易であるので好ましい。具体的には、バインダーを含浸させ、乾燥した炭化処理物を、二酸化炭素雰囲気下に、好ましくは800〜900℃の賦活処理温度で、0.1〜4時間、より好ましくは0.5〜3時間、さらに好ましくは0.7〜2.3時間熱処理する。なお、二酸化炭素雰囲気とは、炭化処理物を収納する炉内の賦活ガスが二酸化炭素であることをいい、100%の二酸化炭素を用いても良いが、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスや、燃焼ガス、水蒸気などに二酸化炭素を混合したガスを用いることが好ましい。
【0040】
上記のように含浸用バインダーを含浸させた後、賦活処理して得られた賦活処理物に、再度、含浸用バインダーを含浸させて賦活処理(2段階賦活処理)することもできる。2段階賦活処理によると、得られた2段階賦活処理物は比表面積並びに全細孔容積が比較的大きく、さらに、かさ密度も比較的大きなものが得られるので好ましい。2段階賦活処理における含浸、乾燥、熱処理は上記賦活処理の場合と全く同じ条件下で行うことができる。
【0041】
〔活性炭の物性〕
本発明の活性炭は、上述の製造方法により得られる賦活処理物及び/又は2段階賦活処理物であって、該賦活処理物及び/又は2段階賦活処理物の比表面積、平均細孔幅、細孔容積などの細孔特性は、脱硫などの吸着性能に大きく影響する。比表面積が大きいことは、吸着質(微量成分)の吸着サイトが多いことを意味するので好ましいが、いくら比表面積が大きくても平均細孔幅が狭ければ、分子量の大きな吸着質は吸着サイトまで辿り着けず、実使用においては性能が高くならない。平均細孔幅は細孔容量に比例し、比表面積に反比例する。平均細孔幅が大きすぎると、細孔容量が大きすぎて十分な密度が得られなくなり、単位体積当たりの吸着容量が低くなる。また、平均細孔幅が大きすぎると、比表面積が小さすぎて十分な吸着サイトが得られなくなり、やはり吸着容量が低くなる。従って、これらのバランスが重要である。
【0042】
本発明の活性炭の比表面積Saは、800〜4,000m/gであることを要し、900〜2,000m/gであることが好ましく、1,000〜1,500m/gが特に好ましい。細孔容積(全細孔容積)Vaは、0.5〜1.2cm/gであることを要し、0.6〜1.0cm/gであることが好ましい。
【0043】
籾殻を原料とした活性炭は、シリカ等の無機成分がメソ孔の骨格の役目を果たし、メソ孔容積は大きいが、一般にミクロ孔容積が小さいことから比表面積があまり大きくならない。甜菜等の追加炭素源を供給することにより比表面積は徐々に大きくなるが、このような細孔特性を実現するためには何回も炭素源追加及び炭化の工程を繰り返し行う必要があり、現実的ではなかった。
本発明者は、籾殻を予備炭化した段階でメソ孔が形成され、大部分のシリカ分の役目は終了しているのにも拘らず、そのまま活性炭に含まれているとミクロ孔の形成が阻害されることを見出し、本発明に至った。即ち、メソ孔が形成された段階で、シリカ等の無機成分を除去し、活性炭に含まれる炭素の割合を高めた後に賦活処理を行うことで、液体中の微量成分の除去に好適なメソ孔を保持しつつ、比表面積が高く、かつ、かさ密度の高い活性炭を製造できること、並びに、当該活性炭は炭化水素油等の液体中の微量成分を効率的に吸着除去できることを見出した。
【0044】
シリカ等の無機成分の除去方法としては、アルカリや酸で溶解する方法が考えられる。炭素分への影響が少ないことからアルカリによる処理が好ましい。
【0045】
また、シリカ等の無機成分は、完全に除去してしまうとメソ孔が維持できない。その結果、液体中の微量成分の除去に好適なマイクロ孔容積に対する高いメソ孔容積比率を実現できない。従って、活性炭中の灰分(無機成分)の含有量は、3〜10質量%であることを要し、4〜9質量%であることが好ましく、4〜7質量%であることが特に好ましい。
【0046】
本発明の活性炭は、下記式(I)により求められる平均細孔幅d[nm]が、吸着質が拡散しやすい程度、即ち1.0〜2.0nmが好ましく、さらには1.2〜1.8nm、特には1.3〜1.7nmが好ましい。
d = 2000×Va/Sa ・・・(I)
上記式(I)中、Va[cm/g]は全細孔容積であり、Sa[m/g]は比表面積である。
【0047】
細孔幅2.0nm以上50nm未満のメソ孔は、吸着質の拡散ルートとして重要であるが、必要以上に多すぎると吸着サイトであるマイクロ孔容積が不足してしまう。従って、本発明の活性炭は、細孔幅2.0nm以上50nm未満のメソ孔容積Vmが、0.1〜0.5cm/gであるのが好ましく、0.1〜0.3cm/gであるのが更に好ましい。また、同様の観点から、全細孔容積Vaに対するメソ孔容積Vmの比Vm/Vaは、0.2〜0.5が好ましく、0.3〜0.4が更に好ましい。
【0048】
マイクロ孔は、細孔幅0.7nm以上2.0nm未満のスーパーマイクロ孔と、細孔幅0.7nm未満のウルトラマイクロ孔とに分類できるが、吸着質の吸着サイトをなっているのはウルトラマイクロ孔であり、スーパーマイクロ孔は主に吸着質の拡散に寄与している。従って、ウルトラマイクロ孔容積の大きい方が吸着性能は高いが、ウルトラマイクロ孔まで吸着質が拡散できる程度のスーパーマイクロ孔も必要である。従って、本発明の活性炭は、細孔幅0.7nm以上2.0nm未満のスーパーマイクロ孔容積Vsに対する、細孔幅0.7nm未満のウルトラマイクロ孔容積Vuの比Vu/Vsが、1.0〜2.5であるのが好ましく、1.1〜2.3であるのが更に好ましく、1.2〜1.9であるのが特に好ましい。
【0049】
細孔特性は、ガス吸着分析器(例えば、Autosorb−3B、カンタクロム社製、米国フロリダ州)を用いて分析できる。例えば、まず−196℃において、窒素ガスの相対圧力を関数とした窒素ガスの吸着量(これを窒素吸着等温線という)を得る。この窒素吸着等温線から、全細孔容積、BET比表面積、平均細孔幅を算出する。相対圧力が0.995での窒素吸着容積で全細孔容積を決定できる。BET比表面積は0.05−0.10の相対圧力での窒素吸着容積で求められる。平均細孔幅[nm]は細孔がスリット状と仮定して2000×全細孔容積[cm/g]/BET比表面積[m/g]で求めることができる。多孔体の吸着能力は、比表面積や細孔容積によってすべて説明できるものではないが、一般的には高い比表面積、又は大きい全細孔容積が望ましい。細孔は幅が2.0nm未満のマイクロ孔、2.0以上で且つ50nm未満のメソ孔、50nm以上のマクロ孔に分類され、マイクロ孔は、さらに0.7nm未満のウルトラマイクロ孔と0.7nm以上で且つ2.0nm未満のスーパーマイクロ孔に分類される。
【0050】
細孔幅を関数とした細孔容積の細孔分布は、Density Functional Theory (DFT)法を用いて解析できる。DFT法は得られた窒素吸着等温線より数値解析を経て細孔分布を得る方法であり、例えば、DFTソフトウェア(カンタクロム社、Version 1.62)を用いて解析できる。ウルトラマイクロ孔容積が大きいと、比表面積が大きくなることから、吸着サイトが多くなり好ましい。また、メソ孔容積が大きいと、細孔幅が大きくなり、硫黄化合物が吸着サイトまで移動することが容易となる。従って、ウルトラマイクロ孔容積及びメソ孔容積が大きい活性炭が好ましい。籾殻活性炭は、シリカを含むことからメソ孔容積は元来多いので、メソ孔容積を低下させずにウルトラマイクロ孔容積を増大させる製造方法が有効である。上述の活性炭の製造方法によれば、メソ孔容積の低下を最小限に抑制し、尚且つ、ウルトラマイクロ孔容積を増大させる効果が顕著である。
【0051】
〔液体の精製方法〕
本発明の液体の精製方法は、上記活性炭からなる吸着剤又は該活性炭を含む吸着剤と液体とを接触させることにより、該液体に含有される微量成分を吸着除去することを特徴とし、更に上記吸着剤と液体とを接触させる工程の後処理として、後述する固体酸系吸着剤を用いて硫黄化合物を吸着除去することが好ましい。
【0052】
〔吸着剤〕
本発明の液体の精製方法に用いる吸着剤は、上記活性炭のみからなるか又は該活性炭を含むものであり、このため、活性炭をそのまま吸着剤として用いてもよいし、あるいは後述するように、活性炭をゼオライトなどと混練、成型して用いることも、また活性金属を活性炭に担持し性能を向上させて用いることもできる。また、本発明の液体の精製方法に用いる吸着剤は、活性炭がそのまま使用されることがあるので、活性炭の比表面積、平均細孔幅、細孔容積などの細孔特性は、活性炭に関する上記の範囲と同じ細孔特性を適用することができる。
【0053】
灯油や軽油などの炭化水素油に含まれる硫黄化合物及び/又は多環芳香族化合物を吸着除去するとき、粉末状、粒子状、又は球状、ディスク状、円柱状等の成型品など、上述の成型炭化処理工程のおける成型物の形状と同様にいずれの形ででも使用することが可能である。炭化水素油の処理量、設備の状況にあわせて好適な形状の吸着剤を選択、使用すればよい。
【0054】
粉末状や粒子状で用いる場合には、活性炭を公知の適当な粉砕機で粉砕後、公知の適当な分級機で分級し、平均粒径0.5μm〜0.1mm程度の粉末状、平均粒径0.1〜5mm程度の粒子状の活性炭に篩い分けて、それぞれの活性炭を使用条件に応じて、適宜使用することができる。
【0055】
吸着剤に炭化水素油を連続的に供給、通油して使用する場合、さらに劣化した吸着剤を再生して繰り返し使用する場合には、活性炭を成型品として使用することが好ましい。本発明の活性炭は、成型炭化処理物を賦活処理するので、そのままでも好適に使用できる。したがって、成型炭化処理物を得る成型炭化処理工程の成型過程で、処理対象の炭化水素油やその処理条件等の用途条件に適した形状に予め成型しておき、賦活処理後さらには金属担持後もその形状を保持することが好ましい。なお、賦活処理後、活性炭を粉砕しゼオライトなどの無機物や担持金属を混合した後、適宜の形状に成型してもよい。
【0056】
成型品の形状としては、硫黄化合物など、除去する微量成分の濃度勾配を大きくするため、流通式の場合には吸着剤を充填した容器前後の差圧が大きくならない範囲で小さい形状、特には球状が好ましい。球状の場合、大きさは、直径が0.1〜5mm、特には0.3〜3mmが好ましい。円柱状の場合には、直径が0.1〜4mm、特には0.12〜2mmが好ましく、長さは直径の0.5〜5倍、特には1〜4倍が好ましい。成型品は、吸着剤として使用中に割れを生じないように、0.5kg/ペレット以上、特には1.0kg/ペレット以上の破壊強度を有することが好ましい。なお、破壊強度は、例えば、木屋式錠剤破壊強度測定器(富山産業株式会社製、TH−203MP)等の圧縮強度測定器により測定される。
【0057】
本発明の液体の精製方法において、吸着剤に用いる活性炭は、活性炭が吸着しにくい硫黄化合物などの吸着性能を向上させるために、及び/又はメソ孔及びマクロ孔の存在量を増やして硫黄化合物などの拡散速度を向上させるために、炭化処理、成型、賦活処理の途中又は後で、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどの無機物を混合しても良い。
【0058】
また、本発明の液体の精製方法において、吸着剤に用いる活性炭は、銀、水銀、銅、カドミウム、鉛、モリブデン、亜鉛、コバルト、マンガン、ニッケル、白金、パラジウム、鉄などの金属及び/又はそれらの金属酸化物との複合化、すなわちこれらの金属を担持することにより、吸着性能を向上させることもできる。安全性や経済性などから、好ましいのは銅、銀、マンガン、亜鉛、ニッケルの酸化物である。中でも銅は、安価な上に、常温付近から300℃程度の広い温度範囲で、また還元処理を行わない酸化銅の状態のまま、且つ、水素非存在下でも硫黄化合物の吸着に優れた性能を示すので特に好ましい。
【0059】
金属の好ましい担持量は、特に限定されるものではなく、金属の種類によっても異なるが、仕上がりの吸着剤に対する金属基準で、貴金属の場合0.1〜20質量%、特には0.5〜5質量%であることが好ましい。金属の担持量が0.1質量%よりも少ないと担持効果が少なく、20質量%よりも多いと経済的でない。銅及びその他の金属の場合には、該金属を0.1〜60質量%、特には3〜20質量%の量で担持することが好ましい。金属の担持量が0.1質量%よりも少ないと担持効果が少なく、60質量%より多いと担体である活性炭との結合が弱い金属が多くなることから、金属成分が脱離する可能性がある。金属担持量が多いと活性炭が吸着しにくいチオフェン類やベンゾチオフェン類などの硫黄化合物の吸着性能をより向上させることができる。
【0060】
これらの金属の担持方法は、特に限定されるものではなく、所望量の金属が担持され、所望の性能を発揮するどのような方法で行ってもよい。例えば、成型賦活処理物(活性炭)に金属の水酸化物や硝酸化物の水溶液をスプレー法、浸漬法で含浸し、あるいは、活性炭を粉砕し、金属の水酸化物や硝酸化物の水溶液を練り込んで成型し、乾燥後、炭素成分を失わないようにさらに熱して水分、あるいは硝酸分を除去して、吸着剤を得ることができる。
【0061】
〔液体〕
本発明の液体の精製方法に用いる吸着剤が適用対象とする液体としては、炭化水素油や各種排水を挙げることができる。液体における吸着(所謂、液相吸着)では、吸着質の分子量が一般的に大きいことや液体の粘性が高いことから、吸着質の拡散が遅く、また、細孔壁の影響を受けやすい。本発明の液体の精製方法に用いる吸着剤は、液相吸着に適した細孔特性を有することから、特に液相吸着において優れた効果を得ることができる。
【0062】
炭化水素油としては、硫黄化合物としてジベンゾチオフェン類を含む、或いは多環芳香族化合物を含む炭素数5〜20の炭化水素油を挙げることができる。具体的には、灯油、軽油などが挙げられ、特には高度に(深度に)脱硫する必要のある燃料電池用の灯油が挙げられる。
【0063】
これらの炭化水素油は、チオフェン類、メルカプタン類(チオール類)、スルフィド類、ジスルフィド類、二硫化炭素など、どんな種類の硫黄化合物を含有していても構わないが、上記吸着剤は、特に脱硫することが極めて困難なジベンゾチオフェン類などの硫黄化合物を含有した炭化水素油に対して顕著な効果を発揮する。例えば、全硫黄化合物に対するジベンゾチオフェン類の割合は、灯油では30%前後、軽油ではほぼ100%であり、灯油や軽油などの炭化水素油は上記吸着剤の適用対象として好ましい炭化水素油である。もちろん、本発明の液体の精製方法に用いる吸着剤の適用対象は灯油や軽油に限定されるものではない。
【0064】
これらの硫黄化合物の定性及び定量分析には、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph:GC)−炎光光度検出器(Flame Photometric Detector:FPD)、GC−原子発光検出器(Atomic Emission Detector:AED)、GC−硫黄化学発光検出器(Sulfur Chemiluminescence Detector:SCD)、GC−誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)などを用いることができるが、質量ppbレベルの分析にはGC−ICP−MSが最も好ましい(特開2006−145219号公報参照)。
【0065】
〔微量成分〕
本発明の液体の精製方法に用いる吸着剤が吸着対象とする微量成分としては、芳香族化合物を挙げることができる。活性炭に部分的に存在するグラファイト面のπ電子と、芳香族化合物のベンゼン環のπ電子との相互作用による吸着(所謂、π電子吸着)により、上記吸着剤は、芳香族化合物の吸着に優れた効果を発揮する。
【0066】
芳香族化合物としては、ベンゾチオフェン類やジベンゾチオフェン類等の硫黄化合物やベンゼン環を2個以上含む多環芳香族化合物、排水に含まれるフミン類等を挙げることができる。
【0067】
また、多環芳香族化合物は、ベンゼン環を2個以上有する化合物であり、炭素と水素以外のヘテロ原子を含有していても構わないが、2個のベンゼン環を形成する炭素がすべて同一平面上に位置する方が、上記吸着剤とのπ電子相互作用が強く、本発明の効果を顕著に得ることができる。
【0068】
フミン類は、フミン質とも呼ばれ、フミン酸等を含む。植物等が微生物により分解された最終分解生成物であり、芳香族骨格を含む分子量数千以上の化合物である。
【0069】
炭化水素油から硫黄分や多環芳香族化合物などの不純物を上記吸着剤で除去する場合、それら不純物の含有量が多すぎると大量の吸着剤を必要とすることになり、不経済である。このような場合、水素化精製法など他の精製法の方が効率的であることから、本発明で取り扱い対象とする炭化水素油中の硫黄分は20質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下が更に好ましく、1質量ppm以下が一層好ましく、多環芳香族化合物の含有量は5質量%以下が好ましく、2質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が一層好ましい。
【0070】
〔微量成分の吸着除去方法〕
吸着剤は、使用する前に前処理として吸着剤に吸着した微量の水分を除去しておくことが好ましい。水分除去は、空気などの酸化雰囲気下ならば100〜200℃程度で乾燥すればよい。しかし、200℃を超えると空気中の酸素と吸着剤の炭素成分が反応して吸着剤の質量が減少するので好ましくない。一方、窒素などの非酸化雰囲気下では吸着剤を100〜800℃程度で乾燥することができる。特に非酸化雰囲気下で吸着剤を400〜800℃で熱処理を行うと、有機物や酸素含有官能基などが除去され、吸着性能が向上するので一層好ましい。
【0071】
本発明の液体の精製方法において、吸着剤と炭化水素油とを接触させる方法は、回分式(バッチ式)でも連続式でも良いが、成型品の吸着剤を充填した容器に炭化水素油を流通する連続式が効率的であり好ましい。
【0072】
連続式の場合、接触させる条件としては、圧力は、常圧〜1.0MPaGが好ましく、常圧〜0.1MPaGがより好ましく、特には0.001〜0.03MPaGが好ましい。流量は、液空間速度(LHSV)で0.001〜100hr−1が好ましく、0.01〜10hr−1がより好ましい。見掛けの線速度(液体の流量を吸着剤層の断面積で割った値)は、0.001〜100cm/分、更には0.005〜10cm/分、特には0.01〜1cm/分が好ましい。見掛けの線速度が大きいと、吸着速度(液相から固相への移動速度)に比べて液相自体が吸着剤の充填層を通過する移動速度が速くなり、液相が吸着層出口に到達するまでに吸着質が除去しきれず、除去されない吸着質を含有したまま液体は出口から流出されてしまうといった問題が生じやすくなる。逆に見掛けの線速度が小さいと、吸着剤層の断面積が相対的に大きくなることから、液体の分散状態が不良となり、吸着剤層の流れ方向と直角な断面を通過する液体の流速(流量)にムラが生じ、吸着剤層の断面において吸着した吸着質に分布(ムラ)が生じるため、吸着剤への負荷が不均一になり、やはり十分効率的に脱硫することができない。
【0073】
吸着処理を行う温度(即ち、吸着剤と液体とを接触させる温度)は、−30〜100℃が好ましく、特には0〜80℃が好ましい。−30℃よりも低温では、吸着される物質(吸着質)の液体中の拡散速度が著しく小さく、吸着されるまでに長時間を要する。また、液体の粘性が高くなるために、カラムに充填した流通式の場合にはカラムでの圧力損失が大きくなり、カラム入口圧力を高くする必要がある。一般的に、0℃以上が特に好ましい。一方、温度が100℃よりも高いと、物理吸着であるために、平衡時の吸着量が著しく減少する。温度は高いほど、吸着速度は向上するが、平衡時の物理吸着量が少なくなるので、80℃以下が特に好ましい。
【0074】
〔燃料電池システム〕
本発明の燃料電池システムは、上述した液体の精製方法を使用することを特徴とするため、液体から微量成分を吸着除去する吸着手段を備える。微量成分としては、例えば、硫黄化合物を挙げられる。ここで、吸着手段としては、上述した吸着剤を単独で用いることができるが、他の吸着剤と組み合わせて使用してもよい。なお、本発明の燃料電池システムは、該吸着手段の他に、通常、微量成分を除去された炭化水素油を改質して水素を含む改質ガスを生成させる改質手段と、燃料電池とを備える。ここで、改質手段には、通常、公知の改質触媒が使用される。また、本発明の燃料電池システムにおいて、吸着剤、改質触媒と炭化水素とを接触させる方法は、回分式(バッチ式)でも流通式でも良いが、調製された吸着剤等を容器(反応器)に充填して炭化水素油を流通する流通式がより好ましい。
【0075】
本発明の燃料電池システムにおいて、精製方法に用いる吸着剤(以下、本発明の吸着剤ともいう)は、ジベンゾチオフェン類の除去性能に特に優れているので、ベンゾチオフェン類、メルカプタン類、或いは、スルフィド類など、他の種類の硫黄化合物の除去性能に優れた他の吸着剤、例えば、ベンゾチオフェン類の除去については本発明者が先に提案した固体酸触媒及び/又は遷移金属酸化物が担持された活性炭などの脱硫剤(国際公開第WO2005−073348号パンフレット参照)、メルカプタン類の除去については本発明が先に提案した酸化銅担持アルミナ(特開2000−42407号公報参照)、スルフィド類の除去についてはゼオライトなどとの組み合わせが好ましい(特開2001−205004号公報参照)。
【0076】
特に、灯油にはベンゾチオフェン類とジベンゾチオフェン類が主に含まれるので、灯油の脱硫には、本発明の吸着剤と固体酸系吸着剤とを組み合わせて使用することが好ましい。固体酸系吸着剤としては、固体超強酸を含有する吸着剤が特に好ましい。固体超強酸とは、ハメット(Hammett)の酸度関数Hが−11.93である100%硫酸よりも酸強度が高い固体酸をいい、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、鉄等の水酸化物又は酸化物、或いはグラファイト、イオン交換樹脂等からなる担体に、硫酸根、五フッ化アンチモン、五フッ化タンタル、三フッ化ホウ素等を付着或いは担持したもの、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化第二スズ(SnO)、チタニア(TiO)または酸化第二鉄(Fe)等に酸化タングステン(WO)を担持したもの、さらにはフッ素化スルホン酸樹脂等を例示することができる(国際公開第WO2005−073348号パンフレット参照)。中でも、本発明者らが提案した硫酸根アルミナがより好ましい(国際公開第WO2009−031613号パンフレット参照)。硫酸根アルミナに、銅、銀、ガリウム等を担持した吸着剤も好ましく用いられる。
【0077】
上述した液体の精製方法において、吸着剤と液体とを接触させる工程の後処理として、固体酸系吸着剤を用いて残留する硫黄化合物を吸着除去することも好ましく用いられる。本発明の吸着剤は、活性炭系吸着剤であり、活性炭系吸着剤における硫黄化合物の吸着等温線はフロイントリッヒ型であるので、硫黄化合物の濃度が高いほど硫黄化合物の吸着活性が高く、硫黄化合物濃度が高い段階で使用することが効果的である。従って、まず、本発明の吸着剤によりジベンゾチオフェン類を吸着除去し、残存したベンゾチオフェン類等を固体酸系吸着剤により吸着除去することが好ましい。
【0078】
炭化水素油としては、代表的には灯油や軽油が挙げられ、灯油にナフサなどの軽質な炭化水素油が配合されたかたちのもの、灯油に軽油などの重質な炭化水素油が配合されたかたちのもの、市販の灯油よりも沸点範囲の狭いもの、市販の灯油から芳香族分などの特定成分を除去したもの、軽油に灯油などの軽質な炭化水素油が配合されたかたちのもの、市販の軽油よりも沸点範囲の狭いもの、市販の軽油から芳香族分などの特定成分を除去したものであってもよい。
【0079】
また、燃料電池などの水素源として炭化水素油を用いる場合、炭化水素に含まれる硫黄は、水素製造過程で改質触媒の触媒毒であるから厳しく除去する必要がある。本発明の燃料電池システムは、硫黄化合物を極めて微量濃度まで低減することができるので、灯油又は軽油をオンボード改質燃料として燃料電池自動車に使用する場合、特に好ましく用いることができる。したがって、本発明の燃料電池システムは、水素製造用の改質触媒を被毒することなく水素を製造して燃料電池に供給することができる。また、本発明の燃料電池システムは、定置式であっても良いし、可動式(例えば、燃料電池自動車など)であってもよい。
【0080】
本発明の燃料電池システムは、チオフェン類、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類の除去に顕著な効果を有することから、その他の硫黄化合物の含有量が少ない炭化水素油、なかでも灯油や軽油に対してより好ましく使用できる。
【0081】
灯油は、炭素数12〜16程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.79〜0.85g/cm、沸点範囲150〜320℃程度の油である。パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素を0〜30容量%程度含み、多環芳香族も0〜5容量%程度含む。一般的には、灯火用及び暖房用・ちゅう(厨)房用燃料として日本工業規格JIS K2203に規定される1号灯油が対象となる。品質として、引火点40℃以上、95%留出温度270℃以下、硫黄分0.008質量%以下、煙点23mm以上(寒候用のものは21mm以上)、銅板腐食(50℃、3時間)1以下、色(セーボルト)+25以上の規定がある。通常、硫黄分を数質量ppmから80質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから10質量ppm程度含む。
【0082】
軽油は、炭素数16〜20程度の炭化水素を主体とし、密度(15℃)0.82〜0.88g/cm、沸点範囲140〜390℃程度の油である。パラフィン系炭化水素を多く含むが、芳香族系炭化水素も10〜30容量%程度含み、多環芳香族も1〜10容量%程度含む。硫黄分を数質量ppmから100質量ppm以下、窒素分を数質量ppmから数10質量ppm程度含む。
【0083】
ベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が1個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ベンゾチオフェンは、チオナフテン、チオクマロンとも呼ばれ、分子式CSで表わせる、分子量134の硫黄化合物である。その他の代表的なベンゾチオフェン類としては、メチルベンゾチオフェン、ジメチルベンゾチオフェン、トリメチルベンゾチオフェン、テトラメチルベンゾチオフェン、ペンタメチルベンゾチオフェン、ヘキサメチルベンゾチオフェン、メチルエチルベンゾチオフェン、ジメチルエチルベンゾチオフェン、トリメチルエチルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルベンゾチオフェン、メチルジエチルベンゾチオフェン、ジメチルジエチルベンゾチオフェン、トリメチルジエチルベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルベンゾチオフェン、メチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルベンゾチオフェンなどのアルキルベンゾチオフェン、チアクロメン(ベンゾチア−γ−ピラン、分子式CS、分子量148)、ジチアナフタリン(分子式C、分子量166)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【0084】
ジベンゾチオフェン類は、1個以上の硫黄原子を異原子として含む複素環式化合物のうち、複素環が五原子環又は六原子環で且つ芳香性をもち(複素環に二重結合を2個以上有し)、さらに複素環が2個のベンゼン環と縮合している硫黄化合物及びその誘導体である。ジベンゾチオフェンは、ジフェニレンスルフィド、ビフェニレンスルフィド、硫化ジフェニレンとも呼ばれ、分子式C12Sで表わせる、分子量184の硫黄化合物である。4−メチルジベンゾチオフェンや4,6−ジメチルジベンゾチオフェンは、水素化精製における難脱硫化合物として良く知られている。その他の代表的なジベンゾチオフェン類としては、トリメチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジベンゾチオフェン、オクタメチルジベンゾチオフェン、メチルエチルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルエチルジベンゾチオフェン、メチルジエチルジベンゾチオフェン、ジメチルジエチルジベンゾチオフェン、トリメチルジエチルジベンゾチオフェン、テトラメチルジエチルジベンゾチオフェン、ペンタメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルジエチルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルジエチルジベンゾチオフェン、メチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘプタメチルプロピルジベンゾチオフェン、メチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ジメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、トリメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、テトラメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ペンタメチルエチルプロピルジベンゾチオフェン、ヘキサメチルエチルプロピルジベンゾチオフェンなどのアルキルジベンゾチオフェン、チアントレン(ジフェニレンジスルフィド、分子式C12、分子量216)、チオキサンテン(ジベンゾチオピラン、ジフェニルメタンスルフィド、分子式C1310S、分子量198)及びこれらの誘導体が挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
<<賦活処理後アルカリ処理活性炭についてのモデル油浸漬式脱硫試験>>
[活性炭の調製−1]
(比較例1)
籾殻は、2005年秋田県西木村(現、仙北市)産あきたこまちの籾殻を使用した。
蒸留水に乾燥てんさい糖を加え、それをホットスタラで攪拌しつつ、とろみがでるまで保持し、てんさい糖シロップを得た。これを浸透・浸漬用てんさい糖シロップと定義する。
【0087】
以下の炭化処理および賦活処理は、内径100mm、外径110mmのアルミナ管内に籾殻試料を配置し、雰囲気ガスとして窒素または二酸化炭素ガスを流動させ、電気炉を用いて籾殻試料に熱処理を施すことによって行われた。炭化処理を行う場合は、目標温度まで炉温度を上げ、その温度で保持した。その後、自然冷却し、徐々に温度を下げた。窒素ガス流量を1L/minに制御した。賦活処理を行う場合、二酸化炭素ガスを用いた。800℃以上で炭素が二酸化炭素と反応し、一酸化炭素として炭素が放出される反応を利用するものである。賦活処理も炭化処理と同様に電気炉で行った。窒素ガス雰囲気中で目標温度まで炉温度を上昇させた。目標温度に到達後、窒素ガスを二酸化炭素ガスに切り替えた。二酸化炭素ガスの流量を、窒素ガスの流量と同様に1L/minに制御した。その後、炉温度を保持し、自然冷却により炉温度を徐々に下げた。
【0088】
250℃で予備炭化した籾殻に浸透・浸漬用てんさい糖シロップを加えた。そして、両方を良くまぶし、一晩放置した。一晩放置したものをさらに窒素中600℃で1時間炭化処理した。
【0089】
この600℃での炭化処理物を、5〜50μmに粉砕した。この粉砕した炭化処理物100質量部と、てんさい糖と水を混合して熱した高濃度シロップ(成型用てんさい糖シロップと定義)40質量部(乾燥基準)を、乳鉢と乳棒を用いて良くなじむように混ぜ合わせた。その混合物を、φ1.00mm、長さ10mmの小穴が底部にテーパ状につながるφ10mmの穴に充填し、その小穴に混合物を加圧により通過させた。φ1.00mm、長さ10mmの小穴に存在する混合物に印加する圧力は、19GPa程度に調整し、押出成型した。押し出された成型物を適度な長さに切断し、105℃で1時間乾燥した。
【0090】
乾燥させた押出成型物を窒素中850℃で5分間のみ炭化した。炭化したものを浸透・浸漬用てんさい糖シロップに12時間浸漬させた。その後、成型物をシロップから取り出し、105℃で2時間乾燥させた。乾燥させたものを850℃において二酸化炭素ガスで1時間賦活処理した。それをさらに浸透・浸漬用てんさい糖シロップに12時間浸漬させた。その後、成型物をシロップから取り出し、105℃で2時間乾燥させた。乾燥させたものを850℃において二酸化炭素ガスで、さらに2時間賦活処理した。得られた活性炭を活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)とする。図1は、比較例1の活性炭の製造フローチャートを示す。
【0091】
(比較例2)
活性炭[N5AC EX 1+2h]1質量部を、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、25℃で、25時間浸漬させた後、蒸留水で十分に洗浄し、乾燥させて活性炭を得た。得られた活性炭を活性炭[N5AC EX 1+2h Na0.1N25C25hR100](比較例2)とする。
【0092】
(比較例3)
活性炭[N5AC EX 1+2h]1質量部を、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、25℃で、100時間浸漬した後、蒸留水で十分に洗浄し、乾燥させて活性炭を得た。得られた活性炭を活性炭[N5AC EX 1+2h Na0.1N25C100hR100](比較例3)とする。
【0093】
(比較例4)
活性炭[N5AC EX 1+2h]1質量部を、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、25℃で、100時間浸漬させた後、蒸留水で十分に洗浄し、乾燥させて活性炭を得た。得られた活性炭を活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N25C100hR100](比較例4)とする。
【0094】
(実施例1)
活性炭[N5AC EX 1+2h]1質量部を、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、80℃で、100時間浸漬させた後、蒸留水で十分に洗浄し、乾燥させて活性炭を得た。得られた活性炭を活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例1)とする。
【0095】
上記5種類の活性炭の細孔特性、灰分および充てん密度を表1に示す。尚、充てん密度は10mLのメスシリンダに試料を入れた後、100回タッピングして測定した。灰分はおよそ50mgの活性炭試料を空気中で950℃まで加熱し、その質量残存率から求めた。また、甜菜糖シロップのみを850℃で1時間賦活処理を施した活性炭(参考例)も表1に記載する。
【0096】
【表1】

【0097】
[モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−1]
灯油のモデル油として、n−デカン(C1022)85質量%、tert−ブチルベンゼン(C−C−(CH))15質量%の比率で混合した溶剤を調製した。この溶剤にベンゾチオフェン(BT)、ジベンゾチオフェン(DBT)、4,6−ジメチルジベンゾチオフェン(DMDBT)をそれぞれ10質量ppm−Sになるように添加し、モデル油Aとした。
【0098】
あらかじめ130℃で3時間以上乾燥させた活性炭を、表2に示す液固比で、30cmのグラス容器内のモデル油Aに浸漬し、25℃で168時間(1週間)浸漬させた。1日1回軽く手でグラス容器を攪拌した。168時間経過後、モデル油Aの上澄み液を採取し、ガスクロマトグラフ−質量分析装置(GC−MS)で、モデル油A中のBT、DBT、DMDBTを定量した。BT、DBT、DMDBTを含むモデル油Aを用いた浸漬式脱硫試験における各硫黄化合物の吸着等温線を図2に示す。
【0099】
賦活処理後にアルカリ処理を行った籾殻活性炭は、その灰分が低下するに従い、細孔が発達し、活性炭の吸着対象硫黄化合物であるDBTおよびDMDBTの吸着能力が向上した。BTの吸着能力は極めて低く、本発明の吸着剤はDBTおよびDMDBTをほぼ選択的に吸着していることが分かる。尚、BTについても、アルカリ処理を行うことにより、吸着性能は僅かに向上した。
【0100】
単位質量当たり、同じ平衡濃度で比較すると、活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)に比べて、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例1)のDBTおよびDMDBTの吸着量は約2倍になった。例えば、DMDBTの吸着等温線において、平衡硫黄濃度1.0質量ppmで比較すると、活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)の吸着量は0.9mg−S/g−Ads.であるのに対し、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例1)の吸着量は1.8mg−S/g−Ads.であった。活性炭のDMDBT吸着量は、ウルトラマイクロ孔容積とほぼ比例関係にあった。
【0101】
アルカリ処理を行うと、充てん密度は低下したが、活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)の充てん密度0.51g/cmに対して、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例1)の充てん密度は0.31g/cmであるから、4割程度の低下であり、単位体積(容量)当たりでもアルカリ処理を行った活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例1)の方が吸着脱硫性能は高かった。
【0102】
【表2】

【0103】
[モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−2]
(比較例5及び実施例2)
軽油のモデル油として、n−デカン(C1022)85質量%、tert−ブチルベンゼン(C−C−(CH))15質量%の比率で混合した溶剤に、DMDBTのみを10質量ppm−Sになるように添加し、モデル油Bとした。また、上記比較例1及び実施例1の活性炭をそれぞれ活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例5)及び活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例2)とし、これらの活性炭について、上記モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−1と同様に実験を実施した。DMDBTの吸着等温線を図3に示す。
【0104】
単位質量当たり、同じ平衡濃度で比較すると、活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例5)に比べて、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例2)のDMDBTの吸着量は約2倍になった。
【0105】
<<アルカリ処理後成型賦活処理活性炭についてのモデル油浸漬式脱硫試験>>
[活性炭の調製−2]
(比較例6〜7)
賦活処理後アルカリ処理活性炭と同様に、籾殻は、2005年秋田県西木村(現、仙北市)産あきたこまちの籾殻を使用した。押出成型前の籾殻炭化処理物に対して、水酸化ナトリウム水溶液を用いてシリカ分を溶出除去した。
【0106】
生籾殻を600℃で予備炭化したものを、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に、液固比20で、80℃において10時間浸漬させてアルカリ処理を行った。室温まで冷却した後、ろ紙を使用して炭化物を回収した。その炭化物を蒸留水で十分に洗浄し、105℃で12時間乾燥させた。その後、炭化物100質量部にてんさい糖40質量部(乾燥基準)を加え、φ1.00mmで押出成型し、105℃で1時間乾燥した。乾燥させた押出成型物を窒素中850℃で5分間のみ炭化した。炭化したものを浸透・浸漬用てんさい糖シロップに12時間浸漬させた。その後、成型物をシロップから取り出し、105℃で2時間乾燥させた。乾燥させたものを850℃で賦活処理して活性炭を製造した。賦活処理は、1段階で0.5時間のみと、2段階で0.25時間及び0.5時間の条件で実施された。1段階の賦活処理で得た活性炭を活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.5h](比較例6)とし、2段階の賦活処理で得た活性炭を活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例7)とする。
【0107】
図4に活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.5h](比較例6)及び活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例7)の製造フローチャートを示す。ここで、図1に示される活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)の製造工程と異なる点は、生籾殻を600℃で予備炭化したものを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、シリカ分を除去する点である。
【0108】
(実施例3及び比較例8)
次に、生籾殻を600℃で予備炭化したものに代えて、生籾殻を850℃で予備炭化したものを使用した以外は、上記活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.5h](比較例6)及び活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例7)と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭を活性炭[N5AC85 Na1N EX 0.5h](実施例3)及び活性炭[N5AC85 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例8)とする。図5に活性炭[N5AC85 Na1N EX 0.5h](実施例3)及び活性炭[N5AC85 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例8)の製造フローチャートを示す。
【0109】
(実施例4〜5)
次に、生籾殻を600℃で予備炭化したものに代えて、生籾殻を250℃で予備炭化したもの100質量部に、てんさい糖100質量部(乾燥基準)を添加して、600℃で炭化したものを使用した以外は、上記活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.5h](比較例6)及び活性炭[N5AC60 Na1N EX 0.25+0.5h](比較例7)と同様の方法で活性炭を製造した。得られた活性炭を活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例4)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.25+0.5h](実施例5)とする。図6に活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例4)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.25+0.5h](実施例5)の製造フローチャートを示す。
【0110】
なお、上記6種類の活性炭の細孔特性、灰分および充てん密度を表3に示す。
【0111】
【表3】

【0112】
[モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−3]
賦活処理後アルカリ処理活性炭と同様に、モデル油Aを用いた浸漬式脱硫試験を実施した。BT、DBT、DMDBTを含むモデル油Aを用いた浸漬式脱硫試験における各硫黄化合物の吸着等温線を図7に示す。
【0113】
アルカリ処理後に成型及び賦活処理を行った籾殻活性炭は、賦活処理後アルカリ処理活性炭と同様に、灰分が低下して、細孔が発達し、単位質量当たり、DBTおよびDMDBTの吸着能力が向上した。BTの吸着能力は極めて低く、本発明の吸着剤はDBTおよびDMDBTをほぼ選択的に吸着していることが分かる。尚、BTについても、アルカリ処理を行うことにより、吸着性能はやや向上した。
【0114】
単位質量当たり、同じ平衡濃度で比較すると、アルカリ処理を行わない活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)に比べて、活性炭[N5AC85 Na1N EX 0.5h](実施例3)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例4)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.25+0.5h](実施例5)のDBTおよびDMDBTの吸着量は約2倍になった。
【0115】
アルカリ処理後に成型及び賦活処理を行うと、賦活処理後にアルカリ処理を行う場合よりも充てん密度の低下が少なく、単位体積(容量)当たりではより高い吸着脱硫性能となった。例えば、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例1)の充てん密度は0.31g/cmであったが、活性炭[N5AC Na1N EX 0.25+0.5h](実施例5)の充てん密度は0.47g/cmであった。両者の単位質量当たりのDMDBT吸着性能は同等であるが、単位体積(容量)当たりでは、活性炭[N5AC Na1N EX 0.25+0.5h](実施例5)の方が約1.5倍大きかった。
【0116】
[活性炭の調製−3]
(実施例6)
アルカリ処理後成型賦活処理活性炭の調製方法を検討するため、上記活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例4)と同一条件で、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例6)を調製した。
【0117】
(比較例9)
活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例6)の製造工程において(図6参照)、乾燥させた押出成型物を、窒素中850℃で5分間炭化させた後、その炭化処理物1質量部を、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、80℃で、10時間浸漬させた。そして、その浸漬処理物を蒸留水で十分に洗浄した後、窒素中850℃で15分間炭化させた後、さらに、その処理物1質量部を1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、80℃で10時間、再度浸漬した。そして、浸漬処理物を蒸留水で十分に洗浄し、乾燥させて活性炭を得た。得られた活性炭を活性炭[N5AC Na1N EX Na1N N15min Na1N](比較例9)とする。
【0118】
(比較例10)
活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例6)の製造工程において(図6参照)、乾燥させた押出成型物を、窒素中850℃で5分間炭化処理した後、この炭化処理物1質量部を、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、80℃で、10時間浸漬させた。そして、その浸漬処理物を蒸留水で十分に洗浄した後、二酸化炭素中850℃で5分間賦活処理した後、処理物1質量部を1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の100質量部に、80℃で10時間、再度浸漬した。そして、浸漬処理物を蒸留水で十分に洗浄し、乾燥させて活性炭を得た。得られた活性炭を活性炭[N5AC Na1N EX Na1N C5min Na1N](比較例10)とする。
【0119】
(実施例7)
活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例6)を、更に、二酸化炭素中850℃で5分間追加賦活処理した。得られた活性炭を活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+5min](実施例7)とする。
【0120】
(実施例8)
活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例6)を、更に、二酸化炭素中850℃で15分間追加賦活処理した。得られた活性炭を活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例8)とする。
【0121】
(実施例9)
活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例6)を、更に、二酸化炭素中850℃で45分間追加賦活処理した。得られた活性炭を活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例9)とする。
【0122】
活性炭[N5AC Na1N EX Na1N N15min Na1N](比較例9)、活性炭[N5AC Na1N EX Na1N C5min Na1N](比較例10)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+5min](実施例7)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例8)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例9)の細孔特性、灰分および充てん密度を表4に示す。
【0123】
【表4】

【0124】
[モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−4]
モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−1のモデル油Aに加えて、n−デカン(C1022)85質量%、tert−ブチルベンゼン(C−C−(CH))15質量%の比率で混合した溶剤にベンゾチオフェン(BT)、ジベンゾチオフェン(DBT)、4,6−ジメチルジベンゾチオフェン(DMDBT)をそれぞれ100質量ppm−Sになるように添加して調製したモデル油Cを用いた。モデル油Aについては液固比を20、50、100及び200とし、モデル油Cについては液固比を50及び100として、浸漬式脱硫試験を行った。BT、DBT、DMDBTを含むモデル油A及びモデル油Cを用いた浸漬式脱硫試験における各硫黄化合物の吸着等温線を図8に示す。
【0125】
活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例6)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+5min](実施例7)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例8)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例9)は、活性炭[N5AC Na1N EX Na1N N15min Na1N](比較例9)及び活性炭[N5AC Na1N EX Na1N C5min Na1N](比較例10)に比べて吸着性能が高かった。活性炭[N5AC Na1N EX Na1N N15min Na1N](比較例9)及び活性炭[N5AC Na1N EX Na1N C5min Na1N](比較例10)は、灰分が低いため、灰分が少ないほど脱硫性能が高い訳ではないことが分かる。特に、活性炭[N5AC Na1N EX Na1N C5min Na1N](比較例10)は、活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)と比べて、比表面積は同等で灰分を少なくしているものの、単位質量当たりの性能は向上しなかった。これらのことから、適度な灰分を残し、適した細孔構造を維持することが、吸着性能には重要であることが分かる。
【0126】
[活性炭の調製−4]
(実施例10)
アルカリ処理後成型賦活処理活性炭の調製方法を検討するため、上記活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例4)の調製条件において、250℃で予備炭化した籾殻にてんさい糖を添加した後の炭化温度を600℃から850℃に変えた以外は、上記活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h](実施例4)と同様の方法で活性炭を製造し、活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h](実施例10)を調製した。
【0127】
(比較例11)
活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h](実施例10)の製造工程において、乾燥させた押出成型物を、窒素中850℃で5分間炭化処理した後、この炭化処理物1質量部を、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液100質量部に、80℃で、10時間浸漬させた。そして、その浸漬処理物を蒸留水で十分に洗浄した後、二酸化炭素中850℃で2分間賦活処理した後、賦活処理物1質量部を1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の100質量部に、80℃で10時間、再度浸漬した。そして、浸漬処理物を蒸留水で十分に洗浄し、乾燥させて活性炭を得た。得られた活性炭を活性炭[N5AC N1h Na1N EX Na1N C2min Na1N](比較例11)とする。
【0128】
(実施例11)
活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h](実施例10)を、更に、二酸化炭素中850℃で15分間追加賦活処理した。得られた活性炭を活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h+15min](実施例11)とする。
【0129】
(実施例12)
活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h](実施例10)を、更に、二酸化炭素中850℃で45分間追加賦活処理した。得られた活性炭を活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h+45min](実施例12)とする。
【0130】
活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h](実施例10)、活性炭[N5AC N1h Na1N EX Na1N C2min Na1N](比較例11)、活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h+15min](実施例11)及び活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h+45min](実施例12)の細孔特性、灰分および充てん密度を表5に示す。
【0131】
【表5】

【0132】
[モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−5]
モデル油を用いた浸漬式脱硫試験−4と同様に、BT、DBT、DMDBTを含むモデル油A及びモデル油Cを用いた浸漬式脱硫試験における各硫黄化合物の吸着等温線を図9に示す。
【0133】
活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h](実施例10)、活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h+15min](実施例11)及び活性炭[N5AC N1h Na1N EX 0.5h+45min](実施例12)は、活性炭[N5AC N1h Na1N EX Na1N C2min Na1N](比較例11)に比べて吸着性能が高かった。活性炭[N5AC N1h Na1N EX Na1N C2min Na1N](比較例11)は、灰分が低いため、灰分が少ないほど脱硫性能が高い訳ではないことが分かる。活性炭[N5AC N1h Na1N EX Na1N C2min Na1N](比較例11)は、活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)と比べて、比表面積は同等で灰分を少なくしているものの、単位質量当たりの性能は向上しなかった。これらのことから、適度な灰分を残し、適した細孔構造を維持することが、吸着性能には重要であることが分かる。
【0134】
<<賦活処理後アルカリ処理活性炭についての市販灯油浸漬式脱硫試験>>
[活性炭]
アルカリ処理後成型賦活処理活性炭についてのモデル油浸漬式脱硫試験で用いた活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例1)、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例1)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例8)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例9)と同一の活性炭をそれぞれ活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例12)、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例13)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例14)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例15)として使用した。
【0135】
[市販灯油を用いた浸漬式脱硫試験]
活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例12)、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例13)、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例14)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例15)を用い、灯油への浸漬式脱硫試験を実施した。
【0136】
灯油(ジャパンエナジー社製)は、沸点範囲158.0〜271.5℃、5%留出点170.5℃、10%留出点175.5℃、20%留出点183.0℃、30%留出点190.0℃、40%留出点197.5℃、50%留出点206.0℃、60%留出点215.0℃、70%留出点224.0℃、80%留出点234.0℃、90%留出点248.0℃、95%留出点259.5℃、97%留出点269.0℃、密度(15℃)0.7940g/ml、芳香族分16.9容量%、飽和分83.1容量%、硫黄分6.7質量ppm、硫黄分の内、ジベンゾチオフェン類(4−メチルジベンゾチオフェン及び4−メチルジベンゾチオフェンよりも重質の硫黄化合物、分子量198以上の重質硫黄化合物)に由来する硫黄分0.9質量ppm、窒素分1質量ppm以下のものを使用した。
【0137】
それぞれの活性炭に対する灯油の質量比率(液固比)を30、120及び240として、灯油中に活性炭を浸漬させ、10℃にて10日間以上静置して十分に吸着平衡状態とさせた後、灯油を取り出した。GC-ICP-MSで分析することにより、ジベンゾチオフェン類に由来する硫黄分の濃度を求めた。
【0138】
市販灯油を用いた浸漬式脱硫試験におけるジベンゾチオフェン類の吸着等温線を図10に示す。
【0139】
賦活処理後にアルカリ処理を行った籾殻活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例13)は、モデル油の結果と同様に、市販灯油においても、単位質量当たりのジベンゾチオフェン類の吸着脱硫性能が、活性炭[N5AC EX 1+2h](比較例12)の約2倍となった。充てん密度は4割程度低下しているものの、単位体積(容量)当たりでもアルカリ処理を行った活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N25C100hR100](実施例13)の方が吸着脱硫性能は高かった。さらに、活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例14)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例15)は、活性炭[N5AC EX 1+2h Na1N80C100hR100](実施例13)よりも脱硫性能が高い上に、充てん密度も高かった。
【0140】
活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+15min](実施例14)及び活性炭[N5AC Na1N EX 0.5h+45min](実施例15)の質量比率(液固比)が30の場合について、多環芳香族分を原料灯油と比較した。芳香族分は、英国石油協会(The Institute of Petroleum)規格IP標準法391/95(屈折率検出器を用いた高速液体クロマトグラフによる中間留出物の芳香族炭化水素の分析)に準拠して測定した。結果を表6に示す。多環芳香族分が吸着除去されていることが分かる。
【0141】
【表6】

【0142】
〔試験方法〕
なお、上記で特に説明をしていない、活性炭、モデル油、灯油の物性等の測定は、次の試験方法に準じて行った。
・蒸留性状:JIS K2254に準拠して測定した。
・密度(15℃):JIS K2249に準拠して測定した。
・炭化水素の成分組成(芳香族分、飽和分、オレフィン分):JPI-5S-49-97に準拠して測定した。
・硫黄分(全硫黄分):燃焼酸化−紫外蛍光法で分析した。
・硫黄化合物タイプ分析(ベンゾチオフェンより軽質な留分中の硫黄分、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類、):GC−ICP−MSで分析した。
・窒素分:JIS K2609に記載の微量電量滴定法に準拠して測定した。
・アルミナ含有量:試料をアルカリ融解したものを酸性溶液中に溶解し、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分析装置)で分析した。
・比表面積:窒素吸着法により測定し、BET(Brunouer-Emmett-Teller)法により算出した。
・細孔容積:窒素吸着法により測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積Saが800〜4,000m/gで、且つ、全細孔容積Vaが0.5〜1.2cm/gであって、灰分の含有量が3〜10質量%であることを特徴とする活性炭。
【請求項2】
下記式(I)により求めた平均細孔幅dが、1.0〜2.0nmであることを特徴とする請求項1に記載の活性炭。
d = 2000×Va/Sa ・・・(I)
【請求項3】
細孔幅2.0nm以上50nm未満のメソ孔容積Vmが、0.1〜0.5cm/gであることを特徴とする請求項1に記載の活性炭。
【請求項4】
全細孔容積Vaに対するメソ孔容積Vmの比Vm/Vaが、0.2〜0.5であることを特徴とする請求項3に記載の活性炭。
【請求項5】
細孔幅0.7nm以上2.0nm未満のスーパーマイクロ孔容積Vsに対する、細孔幅0.7nm未満のウルトラマイクロ孔容積Vuの比Vu/Vsが、1.0〜2.5であることを特徴とする請求項1に記載の活性炭。
【請求項6】
籾殻を40質量%以上含む原料を炭化処理及び賦活処理する工程を含む活性炭の製造方法であって、
更に、アルカリ処理により前記活性炭の灰分を除去する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の活性炭の製造方法。
【請求項7】
籾殻を40質量%以上含む原料を炭化処理して炭化処理物を得、該炭化処理物をアルカリ処理することにより灰分を除去した後に、該炭化処理物を賦活処理することを特徴とする請求項6に記載の活性炭の製造方法。
【請求項8】
アルカリ処理の後に、前記炭化処理物を成型することを特徴とする請求項7に記載の活性炭の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の活性炭からなる吸着剤又は該活性炭を含む吸着剤と液体とを接触させることにより、該液体に含有される微量成分を吸着除去することを特徴とする液体の精製方法。
【請求項10】
前記液体が灯油又は軽油であることを特徴とする請求項9に記載の液体の精製方法。
【請求項11】
前記微量成分が芳香族化合物であることを特徴とする請求項9又は10に記載の液体の精製方法。
【請求項12】
前記芳香族化合物が、ベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類よりなる群から選ばれる少なくとも1つの硫黄化合物であることを特徴とする請求項11に記載の液体の精製方法。
【請求項13】
前記吸着剤と前記液体とを接触させる工程の後処理として、固体酸系吸着剤を用いて硫黄化合物を吸着除去することを特徴とする請求項12に記載の液体の精製方法。
【請求項14】
0〜80℃の温度で前記吸着剤と前記液体とを接触させることを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の液体の精製方法。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれかに記載の液体の精製方法を使用することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−93774(P2011−93774A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252137(P2009−252137)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】