説明

活性炭素繊維及び排ガス浄化装置

【課題】脱硫又は脱硝に寄与する酸化反応向上に寄与する活性炭素繊維及びそれを用いた排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る活性炭素繊維は、金属がドープされてなるものであり、前記ドープされる金属としては、例えばクロム、イリジウム、マンガン、パラジウム、プラチナ、鉄、コバルト、銀のいずれかを挙げることができ、所定の金属をグラファイト11内にドープすることで電子とホール(電子欠陥)12の相対的な濃度を変えることが可能となり、脱硫又は脱硝反応が促進されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばボイラ等の排煙中の窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害物質の除去用として好適な活性炭素繊維及びそれを用いた排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性炭法による排煙処理として、例えば粒状活性炭及びペレット状活性炭に処理ガスを透過接触させ、窒素酸化物、硫黄酸化物等の有害成分を吸着除去する方法が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、このような方法では、活性炭層を処理ガスが透過流通する際に、過大な圧力損失を生じ、それを補う大量の通風機動力を必要とし、その結果として設備の大型化・複雑化も避けられない、という問題があった。
【0003】
そのため、圧力損失を低減する目的で活性炭素繊維を用いハニカム状の成型体を作り、これを用いて排煙中の窒素酸化物、硫黄酸化物等を処理する方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
従来、排ガス中の硫黄酸化物の除去方法として、活性炭素繊維を用いたガス浄化装置が提案されている。このガス浄化装置の一例を図5に示す。図5に示すように、ガス浄化装置100は、硫黄酸化物を含有する排ガス101又は生成ガスが流通する浄化塔102内に設けられ、活性炭素繊維層で形成される浄化槽103と、上記浄化塔102内に設けられ、上記浄化槽103に硫酸生成用の水104を供給する散水ノズル105とからなるものである。前記活性炭素繊維からなる浄化槽103で排ガス101を浄化し、浄化ガス106としている(特許文献3)。図5中、符号107は排ガス101を押し込む押込みファン、108は水104を供給する水供給装置、109は排ガス101を冷却する増湿冷却水、110は増湿冷却装置、111、112はポンプ、113は弁を各々図示する。
【0005】
また、従来のガス浄化装置100に用いられる前記浄化槽103としては、例えば図6に示すように、前記浄化槽103を構成する活性炭素繊維層120が、平板部活性炭素繊維シート121と波板状活性炭素繊維シート122とを接合してその断面が三角形状の通路123に構成されている。
【0006】
前記浄化槽103を活性炭素繊維シートとすることにより、その繊維層において、前記排ガス101中の微粒子であるSO3ミスト、煤塵は、前記活性炭素繊維シートに捕集されて、前記散水ノズル105から散水された前記水104と反応して硫酸などとなり、前記浄化槽103から離脱され、希硫酸(H2SO4)114として浄化塔102本体の下方側へ洗い流すようにしている。
【0007】
また、前記排ガス101中のSO2は、以下の反応により脱硫反応が生じていると考えられている。
即ち、(1)前記浄化槽103の繊維層への前記排ガス101中のSO2の吸着がなされる。(2)次いで、吸着したSO2と前記排ガス101中の酸素(O2)(別途供給することも可である)との反応によるSO3への酸化がなされる。(3)その後、酸化したSO3が前記水104と反応し、希硫酸(H2SO4)の生成がなされる。(4)生成された希硫酸(H2SO4)が前記浄化槽103から離脱される。
【0008】
この時の反応式は以下の通りである。
SO2+1/2O2+H2O→H2SO4
【0009】
そのため、前記排ガス101中のSO2を吸着して酸化し、水104と反応させて希硫酸(H2SO4)114として離脱除去される。
【0010】
この結果、前記排ガス101中の煤塵、SO3ミストを捕集し硫酸などとして脱硫すると共に、SO2を吸着酸化して脱硫し硫黄酸化物(SOX)を除去するようにしている。
【0011】
【特許文献1】特開昭55−8880号公報
【特許文献2】特開昭64−11626号公報
【特許文献3】特開2005−028216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前記排ガス処理装置により、石炭や重油等の燃料を燃焼させるボイラからの排ガスを処理する場合を考えると、これらの排ガス量は膨大であるため、排ガス処理装置の脱硫効率の向上が必要になる。そこで、脱硫効率を上げるためには、装置を大型化するばかりでなく、触媒として用いられている活性炭素繊維自体の脱硫効率を向上させることが必要となる。
【0013】
本発明は、前記問題に鑑み、脱硫又は脱硝に寄与する酸化反応向上に寄与する活性炭素繊維及びそれを用いた排ガス浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、金属をドープしてなることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、前記ドープする金属が、クロム、イリジウム、マンガン、パラジウム、プラチナ、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅のいずれか一つであることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0016】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記ドープする金属が、4価より大きい価数、また、4価より小さい価数の両方を取りうるものであることを特徴とする活性炭素繊維にある。
【0017】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの活性炭素繊維からなる触媒層を排ガスが流通する浄化塔内に配設してなることを特徴とする排ガス浄化装置にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属をドープすることで、電子とホール(電子欠陥)の相対的な濃度を変えることが可能となり、脱硫又は脱硝に寄与する酸化反応が促進されるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0020】
本発明による実施例に係る活性炭素繊維の表面改質方法について、図面を参照して説明する。
図1は、グラファイトに金属をドープした模式図である。図2は、伝導帯と価電子帯の金属ドープによるエネルギー変化模式図である。
本発明に係る活性炭素繊維は、金属がドープされてなるものである。
ここで、前記ドープされる金属としては、例えばクロム、イリジウム、マンガン、パラジウム、プラチナ、鉄、コバルト、ニッケル、銀のいずれか一つ又はこれらの組合せを挙げることができる。
【0021】
ここで、活性炭素繊維の構成成分であるグラフェンシートの積層からなる炭素結晶(以下グラファイト)は半金属であり、半導体のように所定の金属をグラファイト11内にドープすることで電子とホール(正孔、電子の欠乏)12の相対的な濃度を変えることが可能となり、脱硫又は脱硝反応が促進されることとなる。
【0022】
ここでグラフェンシートの間に添加した金属が挿入(所謂グラファイトインターカレーション)されることにより、グラファイトの結晶構造変化に伴った電子のバンド構造の変化によっても、同様な効果が得られる可能性がある。
【0023】
すなわち、図1に概念的に示すように、グラファイト構造に鉄がドープされた場合、電子の欠乏であるホール12が形成され、このグラファイト構造のホール12が二酸化硫黄(SO2)の酸化に寄与することになる。
【0024】
前記グラファイト11の電子とホール12の濃度は1018(個/cm3)であり、構成原子数の10ppmのオーダーである。
よって、物性の変化は電子状態の変化によるが、化学反応も電子の授受を伴うため、触媒活性などにも影響を及ぼすと考えられる。
特に、排ガス中の硫黄酸化物の脱硫等における酸化反応は電子を奪われる変化であるため、電子の欠乏したホール濃度を増加させることが望ましいと考えられ、金属をドープすることが有益となりうる。
【0025】
前記ホールを導入するのは、炭素の4価より少ない価数を取る、2価の金属(鉄、イリジウム等)、3価の金属(クロム等)を添加することで可能である。
また、ドープ量としては、炭素に10〜100ppmの濃度の金属を不純物として加えることでホールを導入し、酸化活性を向上することが可能となる。
但し、過剰の濃度の不純物を添加しても効果は無く、絶縁体に転移するなど電子状態が大きく変わることで逆効果になると考えられる。
【0026】
この金属を不純物としてドープする炭素の電子構造についてドープの前後の様子を図2に示す模式図において説明する。
図2は、ドープ前における伝導帯の伝導電子(斜線部分)と、荷電子帯のホール(白抜き部分)との割合を示す。図2の左側図の状態から、金属を不純物としてドープすることで、図2の右側図の状態に変化する。すなわち、図2に示すように、金属をドーピングすることにより、電子が不純物準位に移動するために、荷電子帯のホール12の量が増加し、伝導帯の伝導電子が減少することとなる。
このホール12の量が増大する結果、酸化反応が進行しやすくなる。
【0027】
また、クロム、イリジウム、マンガン等の炭素4価より、大きな価数(5価、6価)と小さな価数(2価、3価)を取りうる元素では、価数により炭素中でドナーとしてもアクセプタとしても作用しうる。
したがって、過剰濃度を添加したときには、自律的に価数を調整し、炭素との余分な電子の授受が抑制されると推定できる。
そのため、鉄などの炭素より小さい価数しか取りえない元素よりは比較的広い濃度範囲で有効に作用するものと推定される。この場合、添加する元素の好適な濃度範囲が広くなるため、濃度制御が容易である。
【0028】
図3は荷電子帯のスペクトルの一例であり、X線光電子分光法(XPS:X‐ray Photoelectron Spectroscopy)による金属ドープにより、スペクトルの端がシフトしたものを示す。
【0029】
活性炭素繊維に金属をドープする方法としては、湿式法と乾式法とがあり、いずれを用いてもよい。
湿式法は、金属イオン溶液に活性炭素繊維を所定時間浸漬し、その後、加熱処理(800〜1200℃)する。
乾式法は、金属を電子銃又はイオン銃で活性炭素繊維に打ち込む方法、CVD蒸着方法等を挙げることができる。その後、加熱処理(800〜1200℃)を行うこともある。
【実施例2】
【0030】
本発明による活性炭素繊維からなる活性炭素繊維シートを従来と同様に成形して浄化槽とし、該浄化槽を用いた排ガスを処理する排煙脱硫システムの一実施例について、図4を参照して説明する。
図4に示すように、本実施例にかかる排煙脱硫システム50は、蒸気タービンを駆動する蒸気を発生させるボイラ51と、該ボイラ51からの排ガス52中の煤塵を除去する集塵機53と、除塵された排ガスをガス浄化装置54内に供給する押込みファン55と、ガス浄化装置54に供給する前に排ガス52を冷却すると共に増湿を行う増湿冷却装置56と、前記浄化槽55を二段内部に配設し、浄化装置本体56の塔下部側壁の導入口57aから排ガス52を供給すると共に、本体56の上方から水57を供給して、排ガス52中のSOXを希硫酸(H2SO4)へ脱硫反応させると共にSO3ミストを捕集するガス浄化装置54と、頂部の排出口57bから脱硫された浄化ガス58を外部へ排出する煙突59と、ガス浄化装置54からポンプ60を介して希硫酸(H2SO4)61を貯蔵すると共に石灰スラリー62を供給して石膏を析出させる石膏反応槽63と、石膏を沈降させる沈降槽(シックナー)64と、石膏スラリー65から水分を排水(濾液)66として除去して石膏67を得る脱水器68とを備えてなるものである。
尚、前記ガス浄化装置54から排出される浄化された浄化ガス58を排出するラインには必要に応じてミストエリミネータ69を介装し、ガス中の水分を分離するようにしてもよい。
【0031】
ここで、上記ボイラ51では、例えば、火力発電設備の図示しない蒸気タービンを駆動するための蒸気を発生させるために、石炭や重油等の燃料fが炉で燃焼されるようになっている。前記ボイラ51の前記排ガス52には硫黄酸化物(SOX)が含有され、前記排ガス52は図示しない脱硝装置で脱硝されてガスヒータで冷却された後に前記集塵機53で除塵されている。
そして、第一のガス浄化装置10Aにおいて所定量の水57を供給しつつ排ガス52中の脱硫を効率良く行うことができる。
【0032】
この排ガス浄化システム40Aでは、第一のガス浄化装置10Aで得られた希硫酸61に石灰スラリー62を供給して石膏スラリー65を得た後、脱水して石膏67として利用するものであるが、脱硫して得られた希硫酸(H2SO4)61をそのまま硫酸(H2SO4)として使用するようにしてもよい。その場合には、希硫酸(H2SO4)61を濃縮する濃縮槽を設けるようにしてもよい。
【0033】
また、本実施例では、前記浄化槽55をガス浄化装置54内部に二段配設しているが、本発明はこれに限定されることなく、前記浄化槽を一段又は三段以上の複数配設するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上のように、本発明に係る金属をドープした活性炭素繊維は、電子とホール(電子欠陥)の相対的な濃度を変えることが可能となり、脱硫又は脱硝反応が促進されるので、排ガス中の有害物質である硫黄酸化物や窒素酸化物の除去に用いて適している。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】グラファイトに金属をドープした模式図である。
【図2】伝導帯と価電子帯の金属ドープによるエネルギー変化模式図である。
【図3】金属ドープによるX線光電子分光(XPS)スペクトル変化図である。
【図4】排煙脱硫システムの概略図である。
【図5】従来のガス浄化装置の概略図である。
【図6】従来のガス浄化装置に用いられる浄化槽の概略図である。
【符号の説明】
【0036】
11 グラファイト
12 ホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属をドープしてなることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項2】
請求項1において、
前記ドープする金属が、クロム、イリジウム、マンガン、パラジウム、プラチナ、鉄、コバルト、ニッケル、銀、銅のいずれか一つであることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記ドープする金属が、4価より大きい価数、また、4価より小さい価数の両方を取りうるものであることを特徴とする活性炭素繊維。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つの活性炭素繊維からなる触媒層を排ガスが流通する浄化塔内に配設してなることを特徴とする排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−208486(P2008−208486A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46299(P2007−46299)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】