説明

活物質層用塗工組成物、電極板、それらの製造方法、及び、非水電解液二次電池

【課題】 密着性および濡れ性がよく、高い電池容量の電極板を低コスト且つ高生産性で、なお且つ安定して製造し得る活物質層用塗工組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 活物質層用塗工組成物は、少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池、或いは、二重層キャパシタ等の電極板の活物質層を形成するための活物質層用塗工組成物、該塗工組成物を用いて活物質層を形成した電極板、それらの製造方法、及び、前記電極板を用いた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機器の小型化および軽量化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として用いられる二次電池に対しても小型化および軽量化が要求されている。このため、従来のアルカリ蓄電池に代わり、高エネルギー密度で高電圧を有する非水電解液二次電池、代表的にはリチウムイオン二次電池が提案されている。
【0003】
非水電解液二次電池の正極用電極板(正極板)は、マンガン酸リチウムやコバルト酸リチウム等の複合酸化物を正極活物質として用い、そのような正極活物質と結着材(バインダー)とを適当な湿潤剤(溶剤)に分散または溶解させてスラリー状の活物質層用塗工組成物を調製し、当該活物質層用塗工組成物を金属箔からなる集電体上に塗工して正極活物質層を形成することにより作製される。
【0004】
一方、非水電解液二次電池の負極用電極板(負極板)は、充電時に正極活物質層から放出されるリチウムイオン等の陽イオンを吸蔵できるカーボン等の炭素質材料を負極活物質として用い、そのような負極活物質と結着材(バインダー)とを適当な湿潤剤(溶剤)に分散または溶解させてスラリー状の活物質層用塗工組成物を調製し、当該活物質層用塗工組成物を金属箔からなる集電体上に塗工して負極活物質層を形成することにより作製される。
【0005】
そして、作製された正極板と負極板それぞれに電流を取り出すための端子を取り付け、両電極板の間に短絡を防止するためのセパレータを挟んで巻き取り、非水電解質溶液を満たした容器に密封することにより二次電池が組み立てられる。
【0006】
しかし、活物質の種類によっては、その物質が有する接触角、電荷等の影響で互いに反撥し合うなどにより、活物質、特に黒鉛、カーボン、コークス系、ピッチ系等の炭素系活物質と、結着材との凝集が起こり易く、集電体に対する活物質層の密着性が悪い傾向がある。
【0007】
このような凝集が起こりやすい活物質層用塗工組成物は流動性が悪く、集電体に対する濡れ性も悪いため、流動性や集電体に対する濡れ性を確保するために固形分比率を下げる等の対策を講じる必要があり、それに伴い集電体上に塗工する際の乾燥効率が下がるため、生産効率の低下を招く。また、高価な溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンを使用するため、固形分を下げることは、コスト面からも望ましくない。
【0008】
また、得られた電極板の活物質層は集電体に対する密着性が悪いため、単位面積当りの塗工量が不十分となり、高い電池容量は得られ難い。さらに、密着性の悪い活物質層は、集電体から脱落等を起こしやすいため、製造段階での製品不良や、使用段階での製品故障の原因となる。
【0009】
活物質層の密着性を高める方法として、結着材を増やすことが考えられるが、活物質層用塗工組成物又は活物質層中の結着材の含有割合を増やすと、相対的に活物質の含有量が減少し、電池容量が低下してしまう。また、活物質層と結着材との凝集は、結着材の増量によっては改善しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の実状に鑑みて成し遂げられたものであり、その第一の目的は、密着性および濡れ性がよく、高い電池容量の電極板を低コスト且つ高生産性で、なお且つ安定して製造し得る活物質層用塗工組成物およびその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の第二の目的は、高い電池容量およびサイクル特性を実現し、電解液とのなじみがよい電極板およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第三の目的は、上記電極板を用いて、高い電池容量で、サイクル特性のよい非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る第1の活物質層用塗工組成物は、少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る第2の活物質層用塗工組成物は、少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製されたことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る第1の電極板は、少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を含有する活物質層を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る第2の電極板は、少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製された活物質層用塗工組成物を集電体上に塗布することにより形成した活物質層を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る非水電解液二次電池は、前記電極板を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明に係る活物質層用塗工組成物の製造方法は、少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を、溶剤中に混合することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る電極板の製造方法は、少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製された活物質層用塗工組成物を集電体上に塗布することにより活物質層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加して活物質層用塗工組成物を調製することによって、活物質層用塗工組成物中の活物質と結着材の凝集を防止し、該塗工組成物を用いて形成された活物質層の集電体に対する密着性や接着性を高める。
【0021】
さらに、活物質層の集電体に対する密着性、接着性が高められることにより、結着材の含有量を減少させることができると共に、界面活性剤の有効量は塗工組成物中にppmオーダーで充分であり、界面活性剤の添加量は僅かである。従って、塗工組成物中に含まれる電池容量の増加に関与しない成分の含有率が相対的に減るので、電極板およびそれを用いた電池の電池容量が向上し、また、サイクル特性および生産性も向上する。
【0022】
また、活物質と結着材の凝集を防止することにより、活物質層用塗工組成物の濡れ性が改善され、電解液と電極板とのなじみがよくなり、サイクル特性も向上する。また、活物質層用塗工組成物の流動性を高めることができ、その結果、活物質層用塗工組成物中の固形分を高めることができ、活物質層用塗工組成物の混合(調製)時間や乾燥時間を短縮でき、生産性が向上する。さらに、固形分が増加するため、高価な溶剤の使用を抑えることができ、材料費の削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
<活物質層用塗工組成物>
本発明に係る活物質層用塗工組成物は、少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を含有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る活物質層用塗工組成物は、少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製されたことを特徴とする。
【0025】
本発明に係る活物質層用塗工組成物は、正極用であっても負極用であってもいずれでも良い。正極活物質層用塗工組成物は、少なくとも正極活物質、結着材及び界面活性剤を含有する。一方、負極活物質層用塗工組成物は、少なくとも負極活物質、結着材及び界面活性剤を含有する。また、通常、活物質層用塗工組成物には、導電材が含まれる。
【0026】
正極活物質としては、例えば、従来から非水電解液二次電池の正極活物質として用いられている材料を用いることができ、例えば、LiMn24(マンガン酸リチウム)、LiCoO2(コバルト酸リチウム)若しくはLiNiO2(ニッケル酸リチウム)等のリチウム酸化物、またはTiS2、MnO2、MoO3もしくはV25等のカルコゲン化合物を例示することができる。特に、LiCoOを正極活物質として用い、炭素質材料を負極活物質として用いることにより、4ボルト程度の高い放電電圧を有するリチウム系2次電池が得られる。
【0027】
正極活物質は、塗工層中に均一に分散させるために、1〜100μmの範囲の粒径を有し、且つ平均粒径が3〜30μmの粉体であることが好ましい。これらの正極活物質は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
一方、負極活物質としては、例えば、従来から非水電解液二次電池の負極活物質として用いられている材料を用いることができ、例えば、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、または、これらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料が好んで用いられる。溶媒が有機系の場合には金属リチウムまたはリチウム合金のようなリチウム含有金属が好適に用いられる。
【0029】
負極活物質の粒子形状は特に限定されないが、例えば、鱗片状、塊状、繊維状、球状のものが使用可能である。負極活物質は、塗工層中に均一に分散させるために、1〜100μmの範囲の粒径を有し、且つ平均粒径が3〜30μmの粉体であることが好ましい。これらの負極活物質は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
塗工組成物中の正極又は負極活物質の配合割合は、溶剤を除く配合成分を基準(固形分基準)とした時に、高い電池容量の実現とサイクル特性とのバランスの点から90〜98.5重量%とすることが好ましく、更に96〜98.5重量%とすることが好ましい。
【0031】
結着材としては、従来から用いられているもの、例えば、非水電解液二次電池用電極板であれば、熱可塑性樹脂、より具体的にはポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、フッ素系樹脂又はポリイミド樹脂等を使用することができる。この際、反応性官能基を導入したアクリレートモノマー又はオリゴマーを結着材中に混入させることも可能である。そのほかにも、ゴム系の樹脂や、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂、アクリレートモノマー、アクリレートオリゴマー或いはそれらの混合物からなる電離放射線硬化性樹脂、上記各種の樹脂の混合物を使用することもできる。
【0032】
活物質層用塗工組成物中の結着材の配合割合は、例えば、通常の非水電解液二次電池用電極板であれば、固形分基準で0.5〜10重量%程度であるが、界面活性剤の添加に伴い、結着材の配合割合を減らすことができるため、本発明においては、結着材の配合割合を0.5〜2.0重量%とすることができる。
【0033】
界面活性剤としては、フッ素系、アミン系、カルボン酸系等の界面活性剤が用いられるが、電解雰囲気中での安定性などの点からフッ素系の界面活性剤が好ましく用いられる。なお、均一分散性については、ノニオン系及びアニオン系フッ素系界面活性剤が特に効果があり、吸着性については、カチオン系、フッ素系界面活性剤が特に効果がある。また、両性界面活性剤についても同様な結果が得られる。なお、これらの界面活性剤の有効pH領域は、強酸〜弱アルカリであり、好ましくはpH5〜6.5の領域で良好な結果が得られる。
【0034】
フッ素系界面活性剤の具体例としては、メガファックTF−935、メガファックTF−950、メガファックTF−956、メガファックF−1405、メガファックF−443、メガファックTF−944、メガファックF−470、メガファックF−471、メガファックF−472、メガファックF−472SF、メガファックF−474、メガファックF−475、メガファックF−476−20、メガファックF−477、メガファックF−478、メガファックF−479、メガファックF−172D、メガファックF−178K、メガファックF−178RM、メガファックESM−1、メガファックR−08、メガファックR−30、メガファックR−60PM−20、メガファックBL−20、メガファックF−493、メガファックMCF−350SF、メガファックMCF−350−5(以上、商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
アミン系界面活性剤の具体例としては、アンチ−テラ(Anti−Terra)−U、アンチ−テラ−204、ディスパービック(Disperbyk)−101、ディスパービック−102、ディスパービック−103、ディスパービック−106、ディスパービック−108、ディスパービック−109、ディスパービック−110/111、ディスパービック−112、ディスパービック−116、ディスパービック−130、ディスパービック−140、ディスパービック−142、ディスパービック−161、ディスパービック−162/163、ディスパービック−164、ディスパービック−166、ディスパービック−167、ディスパービック−168、ディスパービック−174、ディスパービック−180、ディスパービック−182、ディスパービック−2000、ディスパービック−2001、ディスパービック−2050、ディスパービック−2070、ディスパービック−2150、BYK P104/P104S、ディスパービック、ディスパービック−180、ディスパービック−183/185、ディスパービック−184、ディスパービック−187、ディスパービック−190、ディスパービック−191、ディスパービック−192、ディスパービック−193(以上、商品名、ビックケミー(BYK Chemie)社製)等が挙げられる。
【0036】
カルボン酸系界面活性剤の具体例としては、ノブコサント K、ノブコサント R、ノブコサント RFA、ノブコスパース 44−C、SN ディスパーサント 2010、SN ディスパーサント 2040、SN ディスパーサント 2050、SN ディスパーサント 2060、SN ディスパーサント 5020、SN ディスパーサント 5027、SN ディスパーサント 5029、SN ディスパーサント 5033、SN ディスパーサント 5034、SN ディスパーサント 5041、SN ディスパーサント 5044、SN ディスパーサント 5045(以上、商品名、サンノプコ株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
上記界面活性剤の配合割合は、例えば、非水電解液二次電池用電極板であれば、固形分基準で通常、0.001〜5.0重量%、特に0.05〜1.0重量%が好ましい。
【0038】
正極又は負極活物質層用塗工組成物には、導電材を添加しても良い。導電材としては、例えば、非水電解液二次電池用電極板であれば、グラファイト、カーボンブラック又はアセチレンブラック等の炭素質材料が必要に応じて用いられる。塗工組成物中の導電材の配合割合は、例えば、非水電解液二次電池用電極板であれば、通常、固形分基準で、1.5〜2.5重量%とする。
【0039】
活物質層用塗工組成物を調製する溶剤としては、トルエン、メチルエチルケトン、N−メチル−2−ピロリドン或いはこれらの混合物のような有機溶剤を用いることができる。塗工組成物中の溶剤は、通常は固形分が組成物全体に対して40〜85重量%、好ましくは50〜80、さらに好ましくは60〜80重量%となるように配合し、塗工液をスラリー状に調製する。
【0040】
活物質層用塗工組成物は、少なくとも適宜選択した活物質及び結着材、さらに通常は適宜選択した導電材、及び他の配合成分を適切な溶剤に混合し、その混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加し、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミルまたはプラネタリーミキサ等の分散機により混合分散して、スラリー状に調製できる。ここで、「直接」とは、界面活性剤を活物質層用塗工組成物の他の材料に化学的に修飾してから溶剤に溶かす、界面活性剤をあらかじめ溶剤に溶かす、等は行わずに、界面活性剤以外の活物質層用塗工組成物の材料と同様に混合手段に投入することをいう。
【0041】
<電極板>
本発明に係る電極板は、少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を含有する活物質層を備えることを特徴とする。
【0042】
また、本発明に係る電極板は、少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製された活物質層用塗工組成物を集電体上に塗布することにより形成した活物質層を備えることを特徴とする。
【0043】
上記したような方法により調製された正極又は負極活物質層用塗工組成物を、基体である集電体の一面又は両面に塗布、乾燥して正極又は負極活物質層を形成する。正極板の集電体としては、例えば、非水電解液二次電池用電極板であれば、通常、アルミニウム箔が好ましく用いられる。一方、負極板の集電体としては、例えば、非水電解液二次電池用電極板であれば、電解銅箔や圧延銅箔等の銅箔が好ましく用いられる。集電体の厚さは、例えば、非水電解液二次電池用電極板であれば、通常、5〜50μm程度とする。
【0044】
活物質層用塗工組成物の塗布方法は、特に限定されないが、例えばスライドダイコート、コンマダイレクトコート、コンマリバースコート等のように、厚い塗工層を形成できる方法が適している。ただし、活物質層に求められる厚さが比較的薄い場合には、グラビアコートやグラビアリバースコート等により塗布してもよい。活物質層は、複数回塗布、乾燥を繰り返すことにより形成してもよい。
【0045】
乾燥工程における熱源としては、熱風、赤外線、遠赤外線、マイクロ波、高周波、或いはそれらを組み合わせて利用できる。乾燥工程において集電体をサポートする金属ローラーや金属シートを加熱して放出させた熱によって乾燥してもよい。また、乾燥後、電子線または放射線を照射することにより、結着材を架橋反応させて活物質層を得ることもできる。塗布と乾燥は、複数回繰り返してもよい。
【0046】
更に、得られた活物質層をプレス加工することにより、活物質層の密度、集電体に対する密着性、均質性を向上させることができる。
【0047】
プレス加工は、例えば、金属ロール、弾性ロール、加熱ロールまたはシートプレス機等を用いて行う。本発明においてプレス温度は、活物質層の塗工膜を乾燥させる温度よりも低い温度とする限り、室温で行っても良いし又は加温して行っても良いが、通常は室温(室温の目安としては15〜35℃である。)で行う。
【0048】
ロールプレスは、ロングシート状の電極板を連続的にプレス加工できるので好ましい。ロールプレスを行う場合には定位プレス、定圧プレスいずれを行っても良い。プレスのライン速度は通常、5〜50m/min.とする。ロールプレスの圧力を線圧で管理する場合、加圧ロールの直径に応じて調節するが、通常は線圧を0.5kgf/cm〜1tf/cmとする。
【0049】
また、シートプレスを行う場合には通常、4903〜73550N/cm(500〜7500kgf/cm)、好ましくは29420〜49033N/cm(3000〜5000kgf/cm)の範囲に圧力を調節する。プレス圧力が小さすぎると活物質層の均質性が得られにくく、プレス圧力が大きすぎると集電体を含めて電極板自体が破損してしまう場合がある。活物質層は、一回のプレスで所定の厚さにしてもよく、均質性を向上させる目的で数回に分けてプレスしてもよい。
【0050】
活物質層の塗工量は通常、20〜350g/m2とし、その厚さは、乾燥、プレス後に通常10〜200μm、好ましくは50〜190μmの範囲にする。活物質層の密度は、塗工後は1.0g/cc程度であるが、プレス後は1.5g/cc以上(通常は1.5〜1.75g/cc程度)まで増大する。従って、プレス加工を支障なく行って体積エネルギー密度を向上させることにより、電池の高容量化を図ることが出来る。
【0051】
<非水電解液二次電池>
以上のようにして本発明に係る電極板が得られ、この電極板を用いて非水電解液二次電池を作製することができる。
【0052】
本発明に係る電極板を用いて非水電解液二次電池を作製する際には、電池の組立工程に移る前に活物質層中の水分及び/又は溶剤を除去するために、真空オーブン等で加熱処理や減圧処理等のエージングをあらかじめ行うことが好ましい。
【0053】
上記したような方法により作製された電極板(正極板、そして負極板)を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回し、外装容器に挿入する。挿入後、正極板の端子接続部(集電体の露出面)と外装容器の上面に設けた正極端子をリードで接続し、一方、負極板の端子接続部(集電体の露出面)と外装容器の底面に設けた負極端子をリードで接続し、外装容器に非水電解液を充填し、密封することによって、本発明に係る電極板を備えた非水電解液二次電池が完成する。
【0054】
リチウム系二次電池を作製する場合には、溶質であるリチウム塩を有機溶媒に溶かした非水電解液が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、LiBr等の無機リチウム塩、または、LiB(C、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiOSOCF、LiOSO、LiOSO、LiOSO、LiOSO11、LiOSO13、LiOSO15等の有機リチウム塩等が用いられる。
【0055】
リチウム塩を溶解するための有機溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類等を例示できる。より具体的には、環状エステル類としては、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−γ−ブチロラクトン、アセチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等を例示できる。
【0056】
鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。
【0057】
環状エーテル類としては、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アルキル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン等を例示できる。
【0058】
鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル等を例示することができる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
(電極板の作製)
正極用活物質としてコバルト酸リチウムを253.70gと、結着材としてポリフッ化ビニリデンを66.8gと、導電材としてグラファイトを66.8gと、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを84.3gとを追加した後、プラネタリーミキサにて混合した。さらに界面活性剤としてフッ素系界面活性剤であるメガファックF−443を0.121g添加し、プラネタリーミキサと高速ディスパーでさらに混合することにより、活物質層用塗工組成物の調製を行った。該活物質層用塗工組成物を目視により観察した結果を表1に示す。一面あたりの塗工量は290.0〜310.0g/m2とし、厚さ15μmのアルミ箔の片面にハンドコートにより活物質層用塗工組成物を塗工した。その後、乾燥し、ロールプレスにより圧延し、電極板を得た。
【0060】
(剥離強度測定)
剥離強度は、以下の方法で測定した。評価結果を表1に示す。
1)片面又は両面に活物質層が塗工・形成され、圧延された幅広い集電体ロールから、測定に用いるために、該ロールを狭い幅で切り取り、該切り取ったロール上の塗工部において、外周が20×100mmとなるように切り出し、測定試料を準備する。
2)一般的な両面テープ(例えばNICHIBAN製の紙両面テープ)を用いて前記試料をベーク板に貼り付ける。
3)90゜剥離測定用治具にセットし、強度測定用Tensile Strength測定装置によって50mm/minの速度で試料の一面側の活物質層を剥離させる。
4)片面について測定した荷重の平均値(N)を、試料の幅(m)で割ったものを各面の剥離強度(N/m)とした。また、両面に塗工した場合は、表面と裏面のそれぞれについて算出された剥離強度を平均した値を両面の剥離強度(N/m)とする。
【0061】
【表1】

【0062】
(実施例2〜4、比較例1)
表1に示した界面活性剤の配合量により、実施例1と同様に活物質層用塗工組成物の調製を行い、実施例1と同様に塗工し、乾燥し、圧延して電極板を得た。評価結果を表1に示す。
【0063】
(評価)
界面活性剤を全く含有しない比較例1に比べて、界面活性剤を約1000ppm含有する実施例2は、目視による観察において、活物質層用塗工組成物の表面に泡が発生せず、流動性も高く、剥離強度が比較例1よりも高かった。
【0064】
実施例1は、実施例2と同様に界面活性剤を含有するが、界面活性剤の含有量を約500ppmと減少させたところ、活物質層用塗工組成物の表面に多少の泡が発生し、剥離強度は実施例2および比較例1よりも少し劣った。
【0065】
実施例3および4は、実施例2と同様に界面活性剤を含有するが、界面活性剤の含有量を約2000ppm、約5000ppmと増加させたところ、活物質層用塗工組成物の表面に泡が発生し、剥離強度は実施例1、2および比較例1よりも劣った。
【0066】
本発明においては、少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加して活物質層用塗工組成物を調製することによって、活物質層用塗工組成物中の活物質と結着材の凝集を防止し、該塗工組成物を用いて形成された活物質層の集電体に対する密着性や接着性を高める。
【0067】
さらに、活物質層の集電体に対する密着性、接着性が高められることにより、結着材の含有量を減少させることができると共に、界面活性剤の有効量は塗工組成物中にppmオーダーで充分であり、界面活性剤の添加量は僅かである。従って、塗工組成物中に含まれる電池容量の増加に関与しない成分の含有率が相対的に減るので、電極板およびそれを用いた電池の電池容量が向上し、また、サイクル特性および生産性も向上する。
【0068】
また、活物質と結着材の凝集を防止することにより、活物質層用塗工組成物の濡れ性が改善され、電解液と電極板とのなじみがよくなり、サイクル特性も向上する。また、活物質層用塗工組成物の流動性を高めることができ、その結果、活物質層用塗工組成物中の固形分を高めることができ、活物質層用塗工組成物の混合(調製)時間や乾燥時間を短縮でき、生産性が向上する。さらに、固形分が増加するため、高価な溶剤の使用を抑えることができ、材料費の削減が可能となる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を含有することを特徴とする、活物質層用塗工組成物。
【請求項2】
少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製されたことを特徴とする、活物質層用塗工組成物。
【請求項3】
集電体上に、少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を含有する活物質層を備えることを特徴とする電極板。
【請求項4】
少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製された活物質層用塗工組成物を集電体上に塗布することにより形成した活物質層を備えることを特徴とする電極板。
【請求項5】
前記請求項3又は4に記載の電極板を備えることを特徴とする、非水電解液二次電池。
【請求項6】
少なくとも活物質、結着材及び界面活性剤を、溶剤中に混合することを特徴とする、活物質層用塗工組成物の製造方法。
【請求項7】
少なくとも活物質及び結着材の溶剤への混練途中において、界面活性剤を該溶剤中に直接添加することにより調製された活物質層用塗工組成物を集電体上に塗布することにより活物質層を形成することを特徴とする、電極板の製造方法。


【公開番号】特開2006−107749(P2006−107749A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288569(P2004−288569)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】