説明

流体動圧軸受装置及びその製造方法

【課題】軸固定型の流体動圧軸受装置におけるハウジングの外周面の振れ精度を低コストに高める。
【解決手段】本発明に係る流体動圧軸受装置は、ハウジング7と、ハウジング7の内周に嵌合固定される軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8の内周に挿入される固定軸と、軸受スリーブ8の内周面8aと固定軸の外周面との間に生じる流体の潤滑膜で軸受スリーブ8を回転自在に支持するラジアル軸受部とを具備する。ハウジング7の外周には、テーパ面7b2と、回転部材を取り付けるための円筒状の取り付け面7b1とが設けられ、テーパ面7b2と取り付け面7b1との同軸度が管理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受装置及びその製造方法に関し、特に、軸が固定され、軸と対向する軸受スリーブ及び軸受スリーブの外周に配設されるハウジングが一体的に回転するタイプの流体動圧軸受装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、転がり軸受等の他の軸受装置に比べて高速回転、高回転精度、低騒音等の優れた特徴を有しており、情報機器をはじめ種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として使用される。実際に、この種の軸受装置は、HDDや、CD、DVD、ブルーレイディスク用のディスク駆動装置等に組み込まれるスピンドルモータ用の軸受装置として好適に使用されている。
【0003】
また、流体動圧軸受装置は、ディスクハブ等の回転部材に軸部材が取り付けられるいわゆる軸回転型と、モータベース等の静止部材に軸部材が取り付けられるいわゆる軸固定型とに大別され、要求特性等に応じて適宜使い分けられている。例えば、組込み先となるディスク駆動装置がコスト面を重視する機種の場合、軸固定型に比べて回転側の構造が単純化でき、部品点数が少なくて済む軸回転型の流体動圧軸受装置が好適に使用される傾向にある。その一方で、同じディスク駆動装置用途であっても、高容量化のために、複数枚(例えば3枚以上)のディスクが搭載され、又は高回転精度が要求される機種の場合、軸固定型の流体動圧軸受装置が使用される傾向にある。軸固定型であれば、軸回転型に比べて回転体(ディスクハブやロータマグネット等、軸受装置の回転側部材と一体的に回転する部材を含む。)の重心がラジアル軸受部の中心に近くなるので、ディスク枚数の増加等に伴い回転体重量が増大した場合であっても高回転精度を確保し易い、との理由による。
【0004】
ところで、この種の軸受装置においては、使用時の焼付きを回避するため、回転支持される軸受スリーブを焼結含油軸受で構成することがあるが、この場合には、油漏れを防止するために、ハウジングと軸受スリーブとが別体に形成される。ここで、軸固定型の流体動圧軸受装置の場合、軸受スリーブ及びハウジングを含む回転側部材は、軸受スリーブの内周面を介して回転自在に支持されると共に、ハウジングの外周に、ディスクハブ等の回転部材の取り付け面が設けられる。従って、ディスクの読み取り/書き込み精度を高めるためには、ディスクハブの取り付け面の振れ精度を確保する必要があり、振れ精度確保のためには、軸受スリーブとハウジングとの組み付け精度、より正確には、軸受スリーブの内周面に対するハウジングの外周面(取り付け面)の同軸度を高めることが重要となる。
【0005】
ここで、流体動圧軸受装置における軸受スリーブとハウジングとの組み付け手段に、すき間接着が用いられることがある。このすき間接着作業は、例えば図11に示すように、軸受スリーブ108とハウジング107の軸方向位置を専用の治具121,122でそれぞれ拘束した状態で、軸受スリーブ108の外周面108dとハウジング107の内周面107aとのすき間110に接着剤を供給することで行われる。
【0006】
また、下記特許文献1には、ハウジングに固定されるディスクハブの振れ精度を高めるための手段として、軸受スリーブの外周にハウジングをすき間接着で固定した後、軸受スリーブの内周面を基準として、ディスクハブの取り付け面となるハウジングの外周面に切削仕上げ加工を施す方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−74951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このうち、軸受スリーブとハウジングを軸方向に拘束した状態で接着する方法では、図11に示すように、軸受スリーブ108の外周面108dとハウジング107の内周面107aとの間のすき間110を、すき間接着に適した大きさに維持する必要がある。そのため、軸受スリーブ108とハウジング107をそれぞれ治具121,122で軸方向に拘束しただけの状態では、接着前の位置決め時に上記すき間110の分だけ軸受スリーブ108又はハウジング107が動いてしまう可能性があり、同軸管理が難しい。
【0009】
上記特許文献1に記載のように、軸受スリーブにハウジングを固定した後、ハウジングの外周面に切削加工を施すのであれば、組み付け精度の影響を受けることなく取り付け面を高精度に仕上げることができるようにも思われる。しかしながら、この方法では、組み付け後、仕上げ加工を施すための装置に軸受スリーブを取り付ける必要が生じるため、組み付け時と切削時の2度にわたって治具に対する取り付け精度を管理しなければならず、その分精度が確保しづらいといった問題がある。何より、上記特許文献1に記載の方法によれば、切削で取り付け面を仕上げるために、切削粉が不可避的に発生し、洗浄の必要が生じる。特に、組み付け後においては、組み付け部位(ハウジング内周面と軸受スリーブ外周面とのすき間など)に切削粉が入り込むおそれがあり、洗浄に一層手間が掛かるため、生産性やコストの面で好ましいとはいえない。
【0010】
ここで、例えば図12に示すように、軸受スリーブ108及びハウジング107を軸方向で拘束すると共に、同軸度管理の対象となる軸受スリーブ108の内周面108a及びハウジング107の外周面107bをそれぞれ保持した状態で接着する方法が考えられる。すなわち、予め各保持面221a,222a間の同軸度を管理した状態の治具221,222を用意し、各保持面221a,222aで軸受スリーブ108の内周面108aとハウジング107の外周面107bをそれぞれ保持した状態ですき間接着を行う方法が考えられる。
【0011】
上述の方法であれば、組み付け時に同軸度を確保できるようにも思えるが、実際には、軸受スリーブ108やハウジング107は何れも量産品であり、その径方向寸法について加工公差(寸法公差ともいう)が存在する。そのため、本来であれば、保持した状態での位置決め性能や着脱性を考慮して、保持面221a,222aの径寸法を設定するべきところ、実際には、上記加工公差の振れ幅を考慮して、保持面221a,222aの径寸法を設定せざるを得ない。例えばハウジング107側の保持面222aであれば、上記加工公差には含まれるものの基準となる外径寸法から大径側に外れる製品(ハウジング107)に合わせて、保持面222aの内径寸法を大きめに設定せざるを得ない。これでは、各保持面221a,222aの径寸法を精度良く仕上げておいたとしても、被保持面となる軸受スリーブ108の内周面108aやハウジング107の外周面107bと、各保持面221a,222aとの径方向すき間(嵌め合いすき間)110が安定しない。そのため、たとえ各保持面221a,222a間の同軸度を予め管理しておいたとしても、製品ごとに各保持面221a,222aで保持される位置、姿勢が異なり、治具221,222の側で予め管理しておいた同軸度を、内周面108aと外周面107bとの間の同軸度に反映させることは難しい。
【0012】
以上の事情に鑑み、本明細書では、軸固定型の流体動圧軸受装置におけるハウジングの外周面の振れ精度を低コストに高めることを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題の解決は、本発明に係る流体動圧軸受装置により達成される。すなわち、この軸受装置は、ハウジングと、ハウジングの内周に嵌合固定される軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入される固定軸と、軸受スリーブの内周面と固定軸の外周面との間に生じる流体の潤滑膜で軸受スリーブを回転自在に支持するラジアル軸受部とを具備した流体動圧軸受装置において、ハウジングの外周に、テーパ面と、回転部材を取り付けるための円筒状の取り付け面とを設け、テーパ面と取り付け面との同軸度を管理した点をもって特徴付けられる。なお、ここでいう同軸度は、基準軸線(ここではテーパ面と取り付け面の一方の軸線を指す。テーパ面の場合、テーパ面の各横断面における断面輪郭線の中心を結ぶ線を指す。)と同一直線上にあるべき軸線(ここではシール面と取り付け面の他方の軸線を指す。)の基準軸線からの狂いの大きさをいい、その大きさは、上記他方の軸線(例えば取り付け面の軸線)を全て含み基準軸線(例えばテーパ面の軸線)と同軸である幾何学的に正しい円筒のうち、最も小さい円筒の直径で表される。
【0014】
このように、本発明は、流体動圧軸受装置を構成するハウジングの外周に、回転部材の取り付け面に加えてテーパ面を設け、かつこのテーパ面と取り付け面との同軸度を管理したことを特徴とする。上記構成によれば、軸受スリーブとの組み付け時、ハウジングの外周に設けたテーパ面を基準としてハウジングの位置及び姿勢を決定することができる。また、テーパ面を基準にハウジングの位置決めを行うことで、ハウジングの径寸法のばらつき(加工公差)の影響を受けることなく、テーパ面に当接させる治具に対するハウジングの径方向位置及び姿勢を一定に保つことができる。そのため、同軸度管理の対象となる取り付け面とテーパ面との同軸度をハウジング製作の段階で管理しておくことで、取り付け面の位置決めを精度良く行うことができる。従って、ハウジングの内周に配置された軸受スリーブの内周面と、ハウジングの取り付け面との同軸度を精度よく管理することができ、完成品における取り付け面の振れ精度を高めることが可能となる。また、ハウジングと軸受スリーブとの組み付け作業時にハウジングの位置決めを行うことができるので、工程の追加や複雑化を避けて、低コストに位置決め固定を実施することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係るハウジングは、テーパ面を基準とする取り付け面の同軸度を0μm以上3μm以下に管理したものであってもよい。この範囲内に取り付け面の同軸度を管理したものを使用することで、軸受スリーブ内周面とハウジング取り付け面との同軸度を必要な精度にまで高めることができる。
【0016】
また、この場合、具体的には、軸受スリーブの内周面を基準とするハウジングの取り付け面の同軸度を0μm以上5μm以下に管理するのがよい。この範囲内に取り付け面の同軸度を管理することで、要求されるレベルの振れ精度を確保することが可能となる。
【0017】
また、ハウジングの内周面に嵌合固定される軸受スリーブは、例えば焼結金属製であって、かつ動圧溝サイジングにより内周面に動圧溝を形成したものであってもよい。動圧溝サイジングは、動圧溝の形状に対応した溝型を有する成形型を軸受スリーブの内周に挿入した後、軸受スリーブを、その軸方向を拘束した状態で半径方向に圧迫して、その内周面を成形型に押し付けて塑性変形させる方法であり、成形後、自らのスプリングバックにより内周面が拡径することで、成形型から軸受スリーブを離脱することができる。そのため、溝成形を施した内周面については非常に優れた寸法精度を出すことができる。よって、この種の軸受スリーブの内周面を例えば所定の治具で保持すると共に、この治具の保持面と、ハウジングのテーパ面を保持する治具の保持面とで同軸度を管理しておくことにより、この同軸度を、回転部材の取り付け面と軸受スリーブの内周面との同軸度に反映させることができる。よって、取り付け面と軸受スリーブ内周面との間で高い同軸度を確保した状態でハウジングと軸受スリーブとの組み付けを行うことができ、好適である。
【0018】
また、本発明に係る流体動圧軸受装置は、ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面とをすき間嵌めで固定したものであってもよい。上述のように、軸受スリーブの外周面とハウジングの内周面とがすき間嵌めで固定される場合、テーパ面に治具を接触させることでハウジングの姿勢ないし位置を決定する際、ハウジングの移動ないし傾動が上記すき間により許容される。よって、ハウジングの位置決めを周辺部材(治具や軸受スリーブなど)との干渉を避けて円滑に行うことができる。
【0019】
また、上述のように、ハウジングと軸受スリーブとをすき間嵌めで固定する場合、ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面との間のすき間に供給した接着剤でハウジングに軸受スリーブを固定するのがよい。上述のようにしてハウジングに軸受スリーブを固定する場合、上記嵌合すき間は接着すき間となるため、接着に適した大きさの半径方向すき間を両部材間に設けることにより、ハウジングの同軸出しのための移動ないし傾動を許容する空間を確保することができ、好適である。
【0020】
また、本発明に係るハウジングは、その軸方向一端もしくは両端にテーパ面を設けたものであってもよい。少なくとも、ハウジングの軸方向一端にテーパ面を設けることにより、上述したハウジングの位置決めを簡便に行うことができる。また、軸方向両端にテーパ面を設けるようにすれば、ハウジングを対応する治具で上下から挟持しつつ上記位置決めを行うことができるので、位置決め時の安定性が増す。
【0021】
また、ハウジングは、軸方向両端を開口した形状をなすものであってもよい。ハウジングを軸方向両端で開口した形状とすることで、ハウジングの内周に挿入される軸受スリーブについても、対応する治具で上下から挟持しつつその位置決めを行うことができる。よって、製品ごとに寸法が異なっていても軸方向中央位置を常に一定に保つことができ、軸受スリーブに対するハウジングの軸方向位置合わせも正確に実施することができる。
【0022】
また、本発明に係るハウジングは、取り付け面とテーパ面との間の角部を鈍化させたものであってもよい。取り付け面には、既述の通り、ディスクハブ等の回転部材が圧入等の手段で取り付けられるが、この際、取り付け面とテーパ面の大径側とが軸方向に隣接した配置とすることで、このテーパ面が回転部材を取り付け面に導入する際の案内面として機能する。よって、このテーパ面と取り付け面との間に形成される角部を、例えば曲面化や面取りなどで鈍化させることで、テーパ面と取り付け面を滑らかにつなぐことができ、テーパ面により案内された回転部材を取り付け面へとスムーズに導入することができる。
【0023】
また、この際、テーパ面の中心軸に対する傾斜角度は、テーパ面を基準としてハウジングの位置決めを確実かつ高精度におこなうことができ、かつ、テーパ面が回転部材導入時の案内面として機能し得るよう、5°以上15°以下に設定されるのがよい。
【0024】
また、前記課題の解決は、本発明に係る流体動圧軸受装置の製造方法により達成される。すなわち、この製造方法は、回転部材の取り付け面を外周に設けたハウジングと、ハウジングの内周に嵌合固定される軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入される固定軸と、軸受スリーブの内周面と固定軸の外周面との間に生じる流体の潤滑膜で軸受スリーブを回転自在に支持するラジアル軸受部とを具備した流体動圧軸受装置の製造方法において、ハウジングの内周に軸受スリーブを配置すると共に、ハウジングの外周を治具で保持し、ハウジングと治具との間で調心を行った状態でハウジングに軸受スリーブを固定する点をもって特徴付けられる。
【0025】
このように、軸受スリーブとハウジングとの固定時、ハウジングの外周を治具で保持すると共に、ハウジングと治具との間で調心を行うことで、治具に対するハウジングの位置及び姿勢が一定に保たれる。よって、ハウジングに設けた取り付け面の上記治具に対する位置決めを精度よく行うことができる。また、専用の治具との間で調心を図るようにしたので、ハウジングの径寸法のばらつきの影響を受けることなくハウジングの位置決めを行うことができる。そのため、調心により、同軸度管理の対象となる取り付け面と、調心用治具とが同軸となるようにしておくことで、ハウジングの内周に配置された軸受スリーブの内周面と、ハウジングの取り付け面との同軸度を容易かつ高精度に管理することができ、完成品における取り付け面の振れ精度を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係る流体動圧軸受装置及びその製造方法によれば、ハウジングの外周面の振れ精度を低コストに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るディスク駆動装置の断面図である。
【図2】図1に示すディスク駆動装置に組み込まれた流体動圧軸受装置の断面図である。
【図3】軸受スリーブの断面図である。
【図4】軸受スリーブの平面図である。
【図5】ハウジングに軸受スリーブを嵌合固定するための装置の全体構成を示す断面図である。
【図6】ハウジングに軸受スリーブを嵌合固定するための工程を説明するための断面図である。
【図7】ハウジングの位置決め態様の一例を説明するための要部拡大図である。
【図8】ハウジングの位置決め態様の他の例を説明するための概念図である。
【図9】ハウジングの位置決め態様の他の例を説明するための概念図である。
【図10】ハウジングの位置決め態様の他の例を説明するための概念図である。
【図11】従来のハウジングと軸受スリーブとの組み付け態様を説明するための概念図である。
【図12】他の形態に係るハウジングと軸受スリーブとの組み付け態様を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る流体動圧軸受装置及びその製造方法の一実施形態を図面に基づき説明する。この実施形態では、複数枚のディスクを搭載可能なディスクハブをハウジングの外周に設けた取り付け面に取り付ける場合を例にとって以下説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る流体動圧軸受装置1を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの断面図を示す。このスピンドルモータは、例えばHDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、静止部材(この図示例では、ベース6a)に設けられたステータコイル4と、回転部材(この図示例では、ディスクハブ3)に設けられたロータマグネット5とを備える。流体動圧軸受装置1は、固定軸2を具備すると共に、この固定軸2に対して回転するハウジング7及び軸受スリーブ8を具備した、いわゆる軸固定型である。本実施形態では、固定軸2の下端部がベース6aに固定されると共に、上端部がカバー6bにそれぞれ固定されている。また、ハウジング7の外周に設けた取り付け面7b1(図2を参照)には、回転部材としてのディスクハブ3が取り付けられ、このディスクハブ3には所定枚数(図1では2枚)のディスクDが保持される。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電するとロータマグネット5が回転し、これに伴ってディスクハブ3、ディスクD、ハウジング7、及び軸受スリーブ8が一体に回転する。
【0030】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、固定軸2と、内周に固定軸2を挿入した軸受スリーブ8と、内周に軸受スリーブ8を嵌合固定したハウジング7と、固定軸2に取り付けられ、潤滑流体の外部への漏れ出しを防止するシール部材9とを備える。本実施形態では、ハウジング7が軸方向両端を開口した円筒状に形成され、ハウジング7の両端開口部にそれぞれシール部材9が1個ずつ配設される。なお、以下では、説明の便宜上、軸方向において、ステータコイル4が固定された静止部材(ベース6a)の側を下側、その反対側を上側として説明する。
【0031】
固定軸2は、例えばステンレス鋼などの金属材料で略円柱状に形成される。固定軸2の外周面2aには、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面(図2中、破線で示す領域)と径方向に対向した円筒状のラジアル支持面2a1と、固定軸2の軸方向略中央部に形成され、ラジアル支持面2a1よりも小径に形成された逃げ部2a2とが形成されている。本実施形態のようにHDDのディスク駆動装置のスピンドルモータに適用される場合、固定軸2の直径(特にラジアル支持面2a1の直径)は例えば1mm以上4mm以下の範囲内で設計される。固定軸2の上下両端部は固定側の部材(ベース6a及びカバー6b)に固定される。本実施形態では、固定軸2の下端部に、ハウジング7の下側開口部から下方に突出し、ラジアル支持面2a1よりも小径な圧入部2a3が設けられ、この圧入部2a3がベース6aの固定穴6a1に圧入固定される。固定軸2の上端部には軸方向に延びるねじ穴2bが形成され、このねじ穴2bに、カバー6bに設けられた固定穴6b1を介してボルト等(図示省略)を固定することにより、固定軸2の上端部がカバー6bに固定される。
【0032】
軸受スリーブ8は、金属材料、樹脂材料などで略円筒状に形成される。本実施形態では、この軸受スリーブ8は、焼結金属、特に銅と鉄(何れも合金化したものを含む)の一方あるいは双方を主成分とする金属粉末を圧縮成形し、所定の温度(焼結温度)で焼結することで得られる焼結金属で形成される。後述するラジアル動圧発生部、ラジアル軸受面を精度良く得るために、焼結後、寸法サイジング、動圧溝サイジング等のサイジング処理を1又は複数回実施することも可能である。軸受スリーブ8の内周面8aには、ラジアル軸受隙間に流体(例えば潤滑油)の動圧作用を発生させるためのラジアル動圧発生部が形成され、このラジアル動圧発生部の最小径領域が、通常、ラジアル軸受面となる。本実施形態では、図3に示すように、ラジアル動圧発生部としてのヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2が軸方向に離隔して2箇所に形成される。具体的には、軸受スリーブ8の内周面8aの軸方向に離隔した2箇所の領域に、内径に僅かに突出したヘリングボーン形状の丘部8a10,8a20(図4中、クロスハッチングで示す領域)が形成される。各丘部8a10,8a20は、環状の帯部8a11,8a21と、帯部8a11,8a21から斜め方向に延伸した傾斜部8a12,8a22とからなり、傾斜部8a12,8a22により動圧溝8a1,8a2が区画形成される。この場合、図3に示すように、傾斜部8a12,8a22と動圧溝8a1,8a2がそれぞれ円周方向に交互に配列した状態となる。丘部8a10,8a20の頂面は、内周面8aの最小径面であり、平滑な円筒状のラジアル軸受面となっている。動圧溝8a1,8a2の溝深さ(すなわち丘部8a10,8a20の径方向高さ)は、例えば2μm以上5μm以下の範囲で設計される。また、本実施形態では、上側の動圧溝8a1は、軸受内部における潤滑油の循環を意図的に作り出す目的で、軸方向非対称に形成される。具体的には、動圧溝8a1のうち、丘部8a10の帯部8a11より上側に位置する領域の軸方向寸法X1が、下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなるように形成されている。一方、下側の動圧溝8a2は、帯部8a21を境にして軸方向対称となるように形成されている。
【0033】
軸受スリーブ8の上側端面8b及び下側端面8cには、それぞれスラスト軸受隙間に流体の動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成され、スラスト動圧発生部の形成領域がスラスト軸受面(図2中、破線で示す領域)となる。本実施形態では、軸受スリーブ8の上側端面8bに、スラスト動圧発生部としてスパイラル形状の動圧溝8b1が形成され(図4を参照)、下側端面8cには同じくスパイラル形状の動圧溝が形成される(スパイラルの向きは図4と反対向き)。これら動圧溝8b1は、図4に示すように、スパイラル形状の丘部8b10の間に形成され、後述するシール部材9の回転に伴って潤滑油を内径側に押し込む、いわゆるポンプインタイプの動圧溝形状をなしている。なお、この場合、丘部8b10の端面が上側端面8bのスラスト軸受面となる。下側端面8cについても同様に、図示しない丘部の端面がスラスト軸受面となる。
【0034】
軸受スリーブ8の外周面8dには、図3に示すように、軸方向に延びる軸方向溝8d1が形成される。本実施形態では、3本の軸方向溝8d1が円周方向等間隔位置に形成される(図4を参照)。流体動圧軸受装置1を図2の如くアセンブリした状態では、軸受スリーブ8の軸方向溝8d1とハウジング7の内周面7aとで潤滑油を軸受内部で循環させるための循環経路の一部が構成される。
【0035】
ハウジング7は、軸方向一端又は両端を開口した筒状に形成される。材質は金属、樹脂などが使用可能であり、特に限定されない。例えば金属材料で形成される場合、切削加工、鍛造等の手段で筒状に形成される。また、樹脂材料の場合、射出成形等の手段で筒状に形成される。本実施形態では、真ちゅう等の銅系材料に旋削加工を施すことで、軸方向両端を開口した円筒状に形成される(図2を参照)。ハウジング7の内周面7aには、軸受スリーブ8の外周面8dが嵌合され、例えばすき間接着、圧入(接着剤介在下での圧入を含む)、溶着(超音波溶着やレーザ溶着を含む)などの手段で固定される。本実施形態では、図2に示すように、ハウジング7の内周面7aと軸受スリーブ8の外周面8dとの間に所定の半径方向すき間10が形成され、この半径方向すき間10に接着剤Ahを供給することでハウジング7に軸受スリーブ8が固定されている。
【0036】
ハウジング7の外周面7bには、回転部材(本実施形態ではディスクハブ3)を取り付けるための円筒状の取り付け面7b1と、テーパ面7b2とが設けられおり、テーパ面7b2と取り付け面7b1との同軸度が管理される。例えば、同一基準の下で取り付け面7b1とテーパ面7b2とに旋削又は研削加工を施すことで、テーパ面7b2を基準とする取り付け面7b1の同軸度が0μm以上3μm以下の範囲に管理される。上記切削加工により、取り付け面7b1の表面粗さが例えばRa0.8μm以下に仕上げられる。また、取り付け面7b1の形成領域におけるハウジング7の径方向の肉厚の加工公差が40μm以下となるよう仕上げられる。
【0037】
本実施形態では、ハウジング7の外周面7bのうち、軸方向略中央領域に円筒状の取り付け面7b1が形成されると共に、取り付け面7b1と軸方向に隣接する位置にテーパ面7b2の大径部が配置される。なお、テーパ面7b2は、図2に示すように、取り付け面7b1の軸方向両端に設けてもよく、取り付け面7b1の軸方向一端にのみ(例えば下側のみ)設けてもよい。
【0038】
シール部材9は環状をなすものであり、固定軸2の外周面2aに圧入、接着、溶着、溶接、加締めなど任意の手段で固定される。本実施形態では、軸受スリーブ8の軸方向両側にシール部材9が1個ずつ配置される。シール部材9の外周面9aは軸受スリーブ8の側に向かうにつれて漸次拡径するテーパ面状をなし、図2の如くアセンブリした状態では、各外周面9aとハウジング7の円筒状の内周面7aとの間に、軸受スリーブ8側に向けて径方向の対向幅寸法を漸次縮小した楔形状のシール空間Sが形成される。例えば潤滑油を流体動圧軸受装置1の内部に充填した状態では、シール空間Sでシールされた軸受内部空間(図2中、散点模様で示す領域)が軸受スリーブ8の内部気孔を含めて潤滑油で満たされ、潤滑油の油面は常にシール空間Sの内部に維持される。また、各シール部材9の軸方向端面9bはそれぞれ、軸受スリーブ8の端面8b,8cのスラスト軸受面と軸方向に対向し、軸受スリーブ8の回転時、この対向すき間(スラスト軸受すき間)に流体の動圧作用を発生させ得るようになっている。
【0039】
上記構成の流体動圧軸受装置1において、ディスクハブ3を取り付けたハウジング7と軸受スリーブ8とが一体に回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと固定軸2の外周面2aとの間に形成されるラジアル軸受隙間に、動圧溝8a1,8a2の動圧作用が発生し、ラジアル軸受隙間に存在する油膜の圧力が高められる。この作用により、軸受スリーブ8を含む回転側の部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向に離隔した2箇所に形成される(図2を参照)。
【0040】
これと同時に、軸受スリーブ8の両端面8b,8cと各シール部材9の軸方向端面9bとの間に、それぞれスラスト軸受隙間が形成される。そして、固定軸2の回転に伴って発生する動圧溝8b1の動圧作用によって両スラスト軸受隙間の油膜の圧力が高められ、この動圧作用により軸受スリーブ8を含む回転側の部材を両スラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部T1,T2が形成される(図2を参照)。
【0041】
以下、ハウジング7と軸受スリーブ8との組み付け態様の一例を図5〜図7に基づき説明する。この組み付け作業は、ハウジング7の外周に設けたテーパ面7b2を用いてハウジング7を位置決めし、然る後、ハウジング7の内周に軸受スリーブ8をすき間接着で嵌合固定することにより行われる。
【0042】
図5は、上記組み付け作業に用いる組み付け装置20の要部断面図を示している。この組み付け装置20は、ハウジング7の外周を保持するための第1の治具21と、第1の治具21の内周に配置され、軸受スリーブ8を軸方向及び径方向で保持する第2の治具22と、第1の治具21と共にハウジング7の外周を保持する第3の治具23、及び第2の治具22と共に軸受スリーブ8を軸方向に保持する第4の治具24とを有する。詳細には、第1の治具21は筒状部分を有するもので、その上端内周に、ハウジング7の下側のテーパ面7b2と当接することでハウジング7を下方から保持する第1の保持面21aが設けられる。また、第2の治具22は、大径部22aと小径部22bとを有する段付き軸状に形成されており、大径部22aと小径部22bとの段部には、軸受スリーブ8の下側端面8cを保持する軸方向端面22cが設けられる。また、小径部22bの外周には、軸受スリーブ8の内周面8aを保持する第2の保持面22b1が設けられる。第3の治具23はその内周に、ハウジング7の上側のテーパ面7b2と当接して、第1の治具21と共にハウジング7の外周を保持する第3の保持面23aを有する。そして、第4の治具24は、第2の治具22の小径部22bを内周に挿入可能な筒状部分を有し、筒状部分の下端に、軸受スリーブ8の上側端面8bを第2の治具22と共に保持する第4の保持面24aが設けられる。
【0043】
本実施形態では、第1の治具21の内周に第2の治具22の大径部22aが圧入固定されている。これにより、第1の治具21に設けた第1の保持面21aと、第2の治具22に設けた第2の保持面22b1との同軸度が常に所定の精度に管理される。また、第3の治具23と第4の治具24はそれぞれ昇降可能に構成されており、第3の治具23を下降させることで、第1の治具21の外周に第3の治具23が嵌合されると共に、第1の治具21に設けた第1の保持面21aと、第3の治具23に設けた第3の保持面23aとでハウジング7を上下方向から保持できるようになっている。かつ、このようにハウジング7を保持した状態で、第1の保持面21aと第3の保持面23aとの同軸度が所定の精度に維持されるようになっている。
【0044】
上記構成の組み付け装置20を用いた組み付け作業は以下の手順で行われる。まず、図6に示すように、第3の治具23及び第4の治具24を上昇させ、第1の治具21に設けた第1の保持面21a上にハウジング7を載置すると共に、第2の治具22の小径部22bに軸受スリーブ8を嵌合させて、軸方向端面22c上に軸受スリーブ8を載置する。この際、ハウジング7の内周面7aと軸受スリーブ8の外周面8dとの間には、すき間接着に適した大きさの半径方向すき間10が設けられており、かつ、ハウジング7の外周面7bも治具等により拘束されていない。そのため、図7に示すように、軸受スリーブ8の外周にハウジング7をすき間嵌めした状態では、ハウジング7の位置及び姿勢が安定しない可能性があるところ(同図中、二点鎖線で示す状態)、ハウジング7の外周にはテーパ面7b2が設けられており、かつこのテーパ面7b2と第1の保持面21aとが当接するようになっている。そのため、テーパ面7b2が円周方向の全面で第1の保持面21aと接触するようにハウジング7の位置及び姿勢が矯正され、言い換えると、テーパ面7b2、第1の保持面21aを介して、ハウジング7と第1の治具21との調心が図られる(同図中、実線で示す状態)。ここで、ハウジング7の外周に設けた円筒状の取り付け面7b1とテーパ面7b2との同軸度は所定の精度に管理されているので、テーパ面7b2、第1の保持面21aを介してハウジング7と第1の治具21との調心を図ることで、第1の治具21を基準とする取り付け面7b1の同軸度についても精度良く管理することができる。また、第1の治具21は第2の治具22に対して固定され、かつ固定された状態で、第1の保持面21aと第2の保持面22b1との同軸度は所定の精度に管理されていることから、この第2の保持面22b1で軸受スリーブ8の内周面8aを保持することで、軸受スリーブ8の内周面8aとハウジング7の取り付け面7b1との同軸度を高精度に設定することが可能となる。
【0045】
特に、本実施形態では、軸受スリーブ8を焼結金属製とし、かつ動圧溝サイジングにより内周面8aに動圧溝8a1,8a2を形成している。この形成方法は、動圧溝8a1,8a2の形状に対応した溝型を有する成形型を軸受スリーブ8の内周に挿入した後、軸受スリーブ8を、その軸方向を拘束した状態で半径方向に圧迫して、その内周面8aを成形型に押し付けて塑性変形させる方法であり、成形後、自らのスプリングバックにより内周面8aが拡径することで、成形型から軸受スリーブ8を離脱することができる。そのため、溝成形を施した内周面8aについては非常に優れた寸法精度を出すことができる。よって、この種の軸受スリーブ8を第2の治具22の小径部22bに嵌合し、その外周に設けた第2の保持面22b1で軸受スリーブ8の内周面8aを保持するようにすれば、第1の保持面21aと第2の保持面22b1との間で管理された同軸度をハウジング7の取り付け面7b1と軸受スリーブ8の内周面8aとの同軸度に反映させることができる。よって、両面7b1,8a間で高い同軸度を確保した状態でハウジング7と軸受スリーブ8との組み付け(すき間接着)を行うことができる。
【0046】
従って、図8に示すように、ハウジング7の内周面7aと外周面7b(取り付け面7b1)とで中心軸の傾きが異なる場合や、図9に示すように、両面7a,7b間で中心軸の位置が異なる場合であっても、ハウジング7を高精度に位置決めすることができる。また、ハウジング7は量産品であるから、必然的に加工公差が存在し、例えば図10に示すように、加工公差の範囲内であっても、外周面7bの外径寸法が基準寸法(同図中、二点鎖線で示す場合の寸法)から大径側に外れる場合も想定されるところ、本発明のように、ハウジング7の外周にテーパ面7b2を設け、かつ取り付け面7b1とテーパ面7b2との同軸度を予め管理しておくことで、加工公差の影響を受けることなく、安定した位置決めを行うことができる。
【0047】
また、本実施形態のように、ハウジング7外周の軸方向両端にテーパ面7b2を設けておけば、図6に示す状態から、第3の治具23を下降させてハウジング7の外周上側に設けたテーパ面7b2に第3の保持面23aを当接させることで、ハウジング7を軸方向の上下両端でテーパ支持することができる(図5を参照)。これにより、製品ごとに軸方向寸法が異なっていても、軸方向中央位置を常に一定に保つことができ、軸受スリーブ8に対するハウジング7の軸方向位置合わせも正確に実施できる。
【0048】
このように組み付けを行うことで、軸受スリーブ8の内周面8aを基準とするハウジング7の取り付け面7b1の同軸度を高精度に管理することができる。よって、固定軸2まわりに軸受スリーブ8を回転させる形態を採る場合、ラジアル軸受部R1,R2により軸受スリーブ8の内周面8aが非常に優れた振れ精度で回転し、これによりハウジング7の取り付け面7b1を非常に優れた振れ精度で回転させることができる。具体的には、取り付け面の振れ精度を5μm以下に抑えた状態で回転させることができる。
【0049】
以上のようにしてハウジング7と軸受スリーブ8との組み付け作業が完了した後、流体動圧軸受装置1全体のアセンブリを行う。そして、アセンブリが完了した流体動圧軸受装置1のハウジング7外周にディスクハブ3を取り付ける。これは、例えば図2に示すように、ハウジング7の外周に設けた円筒状の取り付け面7b1に、ディスクハブ3の内周面3aを圧入(接着剤の介在を伴う圧入を含む)することで行われる。この際、取り付け面7b1に軸方向で隣接するテーパ面7b2が、圧入時、ディスクハブ3の案内面として機能する。そのため、テーパ面7b2の小径側からディスクハブ3を圧入することで、取り付けを円滑に行うことができる。また、この際、図10に示すように、円筒状の取り付け面7b1とテーパ面7b2との角部7b3を、例えばR面化や面取り等で鈍化させておくことで、テーパ面7b2から取り付け面7b1へのディスクハブ3の導入をより円滑に行い得る。なお、この際、テーパ面7b2の中心軸に対する傾斜角度θ(テーパ角)は、例えば第1の保持面21a及び第3の保持面23aと当接することによるハウジング7の調心作用が確保でき、かつ、テーパ面7b2がディスクハブ3圧入時の案内面として機能し得るよう、5°以上15°以下に設定される。
【0050】
このようにして、ハウジング7の取り付け面7b1にディスクハブ3の内周面3aを取り付けることで、ディスクハブ3の内周面3aの中心軸と取り付け面7b1の中心軸とを高精度に一致させ、ディスクハブ3を非常に優れた振れ精度で回転させることが可能となる。
【0051】
以上、本発明に係る流体動圧軸受装置及びその製造方法の一実施形態を説明したが、これらは、上記例示の形態に限定されることなく、本発明の範囲内において任意の形態を採ることが可能である。
【0052】
例えば、組み付け装置20に関し、ハウジング7や軸受スリーブ8を保持するための治具は図5の構成には限定されない。ハウジング7のテーパ面7b2を保持するための保持面(第1の保持面21a)を有する限りにおいて、任意の構成を採ることが可能である。例えば、軸受スリーブ8の内周面8aを保持する第2の保持面22b1と、ハウジング7のテーパ面7b2を保持する第1の保持面21aとは別個の治具に設けられる必要はなく、双方の保持面21a,22b1間の同軸度が高精度に管理されている限りにおいて、一つの治具に設けられていてもよい。また、ハウジング7の軸方向一端のみにテーパ面7b2が設けられる場合、第3の治具23に設けられる保持面は、ハウジングの軸方向他端面を保持するものであってもよい。
【0053】
また、ハウジング7と治具(第1の治具21、第3の治具23)との調心は、テーパ面7b2以外の形状をなす面で行ってもよい。例えば図示が省略するが、ハウジング7の外周に取り付け面7b1と部分球面とを設け、部分球面をその大径側で取り付け面7b1と滑らかにつながるように形成すると共に、対応する第1の保持面21aを同程度の径の部分球面形状とすることで、ハウジング7と第1の治具21との調心を図るようにしてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、流体動圧軸受装置1全体のアセンブリが完了した後にディスクハブ3の取り付けを行う場合を説明したが、もちろん、ハウジング7と軸受スリーブ8との組み付け直後にディスクハブ3を取り付けるようにしてもよい。
【0055】
例えば、上記実施形態では、筒状のハウジング7の軸方向両側から固定軸2が突出する構成としているが、これに限らず、ハウジング7の軸方向一方の開口部を閉塞する蓋部(図示省略)を設けても良い。この蓋部は、ハウジングと別体に設けても良いし、ハウジングと一体形成してもよい。この場合、固定軸2の一方の端部のみが固定側(ベース6a)に固定された構造となる。
【0056】
また、軸受スリーブ8に形成された動圧発生部も上記例示の形態には限られない。例えばラジアル動圧発生部に関し、帯部8a11,8a21を省略して動圧溝8a1,8a1(8a2,8a2)同士を連続させた、いわゆるV字状の動圧溝を配列した形態や、ステップ溝など他の形状の動圧溝を配列することもできる。あるいは、内周面8aを複数の円弧を組み合わせた多円弧形状とすることにより、動圧発生部を構成することもできる。あるいは、軸受スリーブ8には動圧発生部を形成せず、軸受隙間を介して対向する部材(固定軸2及びシール部材9)の側に動圧発生部を形成することもできる。さらには、軸受スリーブ8の内周面8a及び固定軸2の外周面2aの双方を円筒状とした、いわゆる真円軸受を構成することも可能である。
【0057】
また、上記の実施形態では、本発明に係る流体動圧軸受装置をHDDのディスク駆動装置のスピンドルモータに組み込んだ例を示しているが、これに限らず、他のディスク駆動
装置のスピンドルモータや、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいはプロジェクタのカラーホイールモータ等に適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 流体動圧軸受装置
2 固定軸
3 ディスクハブ
3a 内周面
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6a ベース
6b カバー
7 ハウジング
7a 内周面
7b 外周面
7b1 取り付け面
7b2 テーパ面
8 軸受スリーブ
8a 内周面
8a1,8a2 動圧溝
8a10,8a20 丘部
8a11,8a21 帯部
8b 上側端面
8b1 動圧溝
8b10 丘部
8c 下側端面
8d 外周面
8d1 軸方向溝
9 シール部材
10 半径方向すき間
20 組み付け装置
21 第1の治具
21a 第1の保持面
22 第2の治具
22b 小径部
22b1 第2の保持面
23 第3の治具
23a 第3の保持面
24 第4の治具
24a 第4の保持面
107 ハウジング
108 軸受スリーブ
110 すき間
121,122,221,222 治具
Ah 接着剤
D ディスク
S シール空間
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、ハウジングの内周に嵌合固定される軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入される固定軸と、軸受スリーブの内周面と固定軸の外周面との間に生じる流体の潤滑膜で軸受スリーブを回転自在に支持するラジアル軸受部とを具備した流体動圧軸受装置において、
ハウジングの外周に、テーパ面と、回転部材を取り付けるための円筒状の取り付け面とを設け、テーパ面と取り付け面との同軸度を管理したことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
テーパ面を基準とする取り付け面の同軸度を0μm以上3μm以下に管理した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
軸受スリーブの内周面を基準とするハウジングの取り付け面の同軸度を0μm以上5μm以下に管理した請求項1又は2記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
テーパ面の中心軸に対する傾斜角度を5°以上15°以下に設定した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面とをすき間嵌めで固定した請求項1〜4の何れか記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面との間のすき間に供給した接着剤でハウジングに軸受スリーブを固定した請求項5記載の流体動圧軸受装置。
【請求項7】
取り付け面とテーパ面との間の角部を鈍化させた請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項8】
ハウジングの軸方向一端もしくは両端にテーパ面を設けた請求項1記載の流体動圧軸家装置。
【請求項9】
ハウジングの軸方向両端を開口した形状とした請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項10】
軸受スリーブを焼結金属製とし、かつ動圧溝サイジングにより内周面に動圧溝を形成した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項11】
回転部材の取り付け面を外周に設けたハウジングと、ハウジングの内周に嵌合固定される軸受スリーブと、軸受スリーブの内周に挿入される固定軸と、軸受スリーブの内周面と固定軸の外周面との間に生じる流体の潤滑膜で軸受スリーブを回転自在に支持するラジアル軸受部とを具備した流体動圧軸受装置の製造方法において、
ハウジングの内周に軸受スリーブを配置すると共に、ハウジングの外周を治具で保持し、ハウジングと治具との間で調心を行った状態で軸受スリーブをハウジングに固定することを特徴とする流体動圧軸受装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−53692(P2013−53692A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192764(P2011−192764)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】