説明

流体噴射装置、及び流体噴射装置のメンテナンス方法

【課題】ワイピング動作に起因した吐出不良を低減することのできる、流体噴射装置、及び流体噴射装置のメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】流体を噴射するノズル16が複数形成されたノズル形成面17を有し、ノズル16から流体を噴射することで被噴射面上に印字処理を行う記録ヘッド4と、ノズル形成面17をワイプ部材44により払拭することでノズル16からの流体の噴射状態を回復させるワイピング動作を含むメンテナンス処理を行うメンテナンス部と、ワイピング動作時における流体のメニスカス位置を、印字処理時における流体のメニスカス位置に比べてノズル16内に引き込ませるメニスカス引き込み手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置、及び流体噴射装置のメンテナンス方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、流体噴射装置として記録ヘッド(噴射ヘッド)のノズル形成面に設けられた複数のノズルより記録媒体にインク(流体)を噴射するインクジェット式プリンタ(以下、プリンタと称す)が知られている。ところで、このようなインクジェット式のプリンタでは、インクの噴射特性を保持或いは回復させるためのクリーニング処理が行われる。このようなクリーニング処理としては、例えば吸引動作やワイピング動作等がある。ワイピング動作はノズル形成面をワイプ部材により払拭することでノズル形成面に付着しているインクを除去する動作である。
【0003】
また、ノズル形成面に付着するインクを除去する別の手法として、そこで、記録ヘッドを搭載するキャリッジを複数回往復させることで、キャリッジの振動によってノズル形成面に付着している残留インクをノズル位置に移動させ、この残留インクを定常状態で負圧状態とされるノズル内に引き込ませる技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−234195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示される発明においては、例えばノズル形成面の撥インク性が強過ぎるとノズル形成面に付着したインクが玉状となってしまう。このような状態で上記ワイピング動作を行うと、インクが付着していない状態でワイプ部材がノズル形成面を擦る、いわゆる空ワイピング状態となってしまう。このような空ワイピングでは、ワイプ部材が変形することでノズル内のインクのメニスカスに接触してしまい、これによりノズル内に気泡が取り込まれてしまい、この気泡が原因で吐出不良が引き起こされるおそれがある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、ワイピング動作に起因した吐出不良を低減することのできる、流体噴射装置、及び流体噴射装置のメンテナンス方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の流体噴射装置は、流体を噴射するノズルが複数形成されたノズル形成面を有し、該ノズルから前記流体を噴射する噴射ヘッドと、前記ノズル形成面をワイプ部材により払拭することで前記ノズルからの前記流体の噴射状態を回復させるワイピング動作を含むメンテナンス処理を行うメンテナンス部と、前記ワイピング動作時における前記流体のメニスカス位置を、前記流体の噴射時における前記流体のメニスカス位置に比べて前記ノズル内に引き込ませるメニスカス引き込み手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の流体噴射装置によれば、メニスカス引き込み手段によりワイピング動作時における流体のメニスカスがノズル内に引き込まれた状態とされるので、ワイプ部材が流体のメニスカスに干渉するといった不具合を防止することが可能となる。よって、ワイピング動作に起因する印字不良の発生を低減することにより、信頼性の高いメンテナンス処理が可能とされる流体噴射装置を提供できる。
【0008】
また、上記流体噴射装置においては、前記メニスカス引き込み手段は、前記メニスカスの引き込み量を、前記ノズル形成面の払拭時における前記ワイプ部材の前記ノズルへの入り込み量よりも多くするのが好ましい。
この構成によれば、例えばワイピング動作時にワイプ部材がノズル内に入り込んだ場合においても、ワイプ部材と流体のメニスカスとの干渉を確実に防止することができる。
【0009】
また、上記流体噴射装置においては、前記噴射ヘッドは圧電素子を用いることで前記ノズルから前記流体を噴射可能とされ、前記メニスカス引き込み手段が前記圧電素子を含むのが好ましい。
この構成によれば、噴射ヘッドの構成部材である圧電素子によりメニスカス引き込み手段が構成されるため、従来構成から大きく装置構成を変更することなく、本発明に係る流体噴射装置を提供できる。
【0010】
また、上記流体噴射装置においては、前記噴射ヘッドに、流体供給路を介して供給する流体を貯蔵する流体貯蔵部を有する場合、前記メニスカス引き込み手段は、前記ワイピング動作時における前記流体のメニスカス位置を、前記噴射ヘッドと前記流体貯蔵部との水頭値によって調整することができる。
この構成によれば、噴射ヘッドにおけるメニスカス位置と流体貯蔵部の中に貯蔵された流体の流体上面の位置を略同一にすることで、メニスカス位置を調整することが可能となる。
この場合、例えば、噴射ヘッドの高さを固定して流体貯蔵部の高さを調整する機構を設けても良いし、噴射ヘッドの高さを調整して流体貯蔵部の高さを固定しても良い。
【0011】
本発明の流体噴射装置のメンテナンス方法は、流体を噴射するノズルが複数形成されたノズル形成面を有し、該ノズルから前記流体を噴射する噴射ヘッドと、前記ノズル形成面をワイプ部材により払拭することで前記ノズルからの前記流体の噴射状態を回復させるワイピングステップを含むメンテナンス処理を行うメンテナンス部と、を備える流体噴射装置のメンテナンス方法であって、前記メンテナンス処理の前記ワイピングステップにおいては、前記流体噴射時における前記流体のメニスカス位置に比べ、前記流体のメニスカス位置を前記ノズル内に引き込ませた状態で、前記ワイプ部材により前記ノズル形成面を払拭することを特徴とする。
【0012】
本発明の流体噴射装置のメンテナンス方法は、流体のメニスカスがノズル内に引き込まれた状態でワイピングステップが行われるので、ワイプ部材が流体のメニスカスに干渉するといった不具合を防止することができる。よって、ワイピング動作に起因する印字不良の発生が低減され、信頼性の高いメンテナンス処理を行うことができる。
【0013】
また、上記流体噴射装置のメンテナンス方法においては、前記ワイピングステップにおいて、前記メニスカスの引き込み量が、前記ノズル形成面の払拭時における前記ワイプ部材の前記ノズルへの入り込み量よりも多くされるのが好ましい。
この構成によれば、例えばワイピングステップにおいて、ワイプ部材がノズル形成面を払拭する際にノズル内に入り込んだ場合においても、ワイプ部材と流体のメニスカスとの干渉を確実に防止することができる。
【0014】
また、上記流体噴射装置のメンテナンス方法においては、前記噴射ヘッドは圧電素子を用いて前記ノズルから前記流体を噴射可能に構成されており、前記ワイピングステップにおいては、前記圧電素子により前記流体のメニスカスを前記ノズル内に引き込ませるのが好ましい。
この構成によれば、噴射ヘッドの構成部材である圧電素子によりメニスカスの引き込みが行われるため、従来の流体噴射装置の構成を大きく変更することなく本発明を適用することが可能となる。
【0015】
また、上記流体噴射装置のメンテナンス方法においては、前記噴射ヘッドに、流体供給路を介して供給する流体を貯蔵する流体貯蔵部を有する場合、前記メニスカス引き込み手段は、前記ワイピング動作時における前記流体のメニスカス位置を、前記噴射ヘッドと前記流体貯蔵部との水頭差によって調整することができる。
この構成によれば、噴射ヘッドにおけるメニスカス位置と流体貯蔵部の中に貯蔵された流体の流体上面の位置を略同一にすることで、メニスカス位置を調整することが可能となる。
この場合、例えば、噴射ヘッドの高さを固定して流体貯蔵部の高さを調整する機構を設けても良いし、噴射ヘッドの高さを調整して流体貯蔵部の高さを固定しても良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る流体噴射装置の実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0017】
図1は、本実施形態に係る流体噴射装置の一例を示す斜視図、図2は、平面図である。
本実施形態に係る流体噴射装置は、インク等の流体を噴射する装置である。流体噴射装置の一例として、記録ヘッドの噴射口から記録媒体にインクを噴射して、その記録媒体に対する記録を実行するインクジェット式プリンタを用いて説明する。なお、以下の説明では、そのインクジェット式記録装置の一例として、記録媒体である記録紙にインクの滴を吐出(噴射)して、その記録紙に対する記録を実行するインクジェットプリンタについて説明する。
【0018】
図1及び図2に示すように、インクジェットプリンタ1は、インクにより記録紙に対する記録を実行する記録ユニット2と、記録紙を搬送する記録紙搬送機構3とを備えている。
記録ユニット2は、インクを噴射する記録ヘッド4(噴射ヘッド)と、記録ヘッド4を支持しながら移動可能なキャリッジ5と、記録ヘッド4及びキャリッジ5と対向する位置に配置され、インクが噴射される記録紙を支持するプラテン6とを含む。
【0019】
インクジェットプリンタ1は、キャリッジ5を移動するモータ等を含むキャリッジ駆動装置7と、キャリッジ5の移動を案内するキャリッジガイド部材とを備えている。
キャリッジ5は、キャリッジガイド部材に案内されながら、キャリッジ駆動装置7によって、主走査方向に移動する。記録紙は、記録紙搬送機構3により、記録ユニット2に対して、主走査方向と交差する副走査方向に移動する。
【0020】
また、インクジェットプリンタ1は、記録紙を収容する給紙カセット9を備えている。
給紙カセット9は、インクジェットプリンタ1の本体の背面側に、着脱可能に設けられている。給紙カセット9は、積層された複数の記録紙を収容可能に設けられている。
【0021】
記録紙搬送機構3は、給紙カセット9の記録紙を搬出するための給紙ローラと、給紙ローラを駆動するモータ等を含む給紙ローラ駆動装置10と、記録紙の移動を案内する記録紙ガイド部材11と、給紙ローラに対して搬送方向の下流側に配置されている搬送ローラと、搬送ローラを駆動する搬送ローラ駆動装置と、記録ユニット2に対して搬送方向の下流側に配置されている排出ローラとを有している。
【0022】
給紙ローラは、給紙カセット9に積層されている複数の記録紙のうち、最も上側に配置されている記録紙をピックアップし、給紙カセット9より搬出可能に構成されている。給紙カセット9の記録紙は、記録紙ガイド部材11に案内されながら、給紙ローラ駆動装置10によって駆動する給紙ローラによって、搬送ローラに送られる。搬送ローラに送られた記録紙は、搬送ローラ駆動装置によって駆動する搬送ローラにより、搬送方向の下流側に配置された記録ユニット2に搬送される。
【0023】
記録ユニット2のプラテン6は、記録ヘッド4及びキャリッジ5と対向する位置に配置され、記録紙の下面を支持する。記録ヘッド4及びキャリッジ5は、プラテン6の上方に配置されている。記録紙搬送機構3は、記録ユニット2による記録動作と連動して、記録紙を副走査方向に搬送する。記録ユニット2で記録された記録紙は、排出ローラを含む記録紙搬送機構3によって、インクジェットプリンタ1の正面側から排出される。
【0024】
また、インクジェットプリンタ1は、インクカートリッジのインクをキャリッジ5の記録ヘッド4に供給するインク供給チューブ12を備えている。インクカートリッジのインクは、インク供給針を介してインク供給路に供給され、そのインク供給路より、インク供給チューブ12を介して、キャリッジ5の記録ヘッド4に供給される。
また、インクジェットプリンタ1は、記録ヘッド4をメンテナンス可能なメンテナンス装置13を備えている。
【0025】
メンテナンス装置(メンテナンス部)13は、キャッピング装置14及びワイピング装置15を含む。ワイピング装置15は、記録ヘッド4と対向可能なワイプ部材44を備えている。ワイピング装置15は、ワイプ部材44を用いて、残留したインク等、記録ヘッド4のノズル形成面17(後述)に付着している異物を拭き取ったり、払ったりすることができる。
メンテナンス装置13は、キャリッジ5及び記録ヘッド4のホームポジションに配置されている。ホームポジションは、キャリッジ5の移動領域内であって、記録ユニット2による記録動作が実行される記録領域の外側の端部領域に設定されている。
電源が切断されている間、あるいは長時間に亘って記録動作が実行されない場合、キャリッジ5及び記録ヘッド4は、ホームポジションに配置される。また、記録ヘッド4には温度計が接続され、記録ヘッド4の温度を計測可能に構成されている。
【0026】
図3は、記録ヘッド4の断面図である。
図3に示すように、記録ヘッド4は、ヘッド本体18と、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を含む流路形成ユニット22とを備えている。ノズル形成面17は、ノズル基板21の下面によって形成されている。ノズル16は、ノズル基板21に形成されている。流路形成ユニット22は、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を積層し、接着剤等で接合して一体にしたものである。
【0027】
記録ヘッド4は、ヘッド本体18の内部に形成された収容空間23と、収容空間23に配置された駆動ユニット24とを備えている。駆動ユニット24は、複数の圧電素子25と、圧電素子25の上端を支持する固定部材26と、駆動信号を圧電素子25に供給する柔軟なケーブル27とを備えている。圧電素子25は、複数のノズル16のそれぞれに対応するように設けられている。
【0028】
また、記録ヘッド4は、ヘッド本体18の内部に形成され、インクカートリッジからインク供給チューブ12を介して供給されたインクが流れる内部流路28と、振動板19、流路基板20、及びノズル基板21を含む流路形成ユニット22によって形成され、内部流路28と接続された共通インク室29と、流路形成ユニット22によって形成され、共通インク室29と接続されたインク供給口30と、流路形成ユニット22によって形成され、インク供給口30と接続された圧力室31とを備えている。圧力室31は、複数のノズル16に対応するように複数設けられている。複数のノズル16のそれぞれは、複数の圧力室31のそれぞれに接続されている。
【0029】
ヘッド本体18は、合成樹脂で形成されている。振動板19は、例えばステンレス鋼等の金属製の支持板上に弾性フィルムをラミネート加工したものである。振動板19の圧力室31に対応する部分には、圧電素子25の下端と接合される島部32が形成されている。振動板19の少なくとも一部は、圧電素子25の駆動に応じて弾性変形する。振動板19と内部流路28の下端近傍との間にはコンプライアンス部33が形成されている。
流路基板20は、内部流路28の下端とノズル16とを接続する共通インク室29、インク供給口30、及び圧力室31それぞれの空間を形成するための凹部を有する。本実施形態においては、流路基板20は、シリコンを異方性エッチングすることで形成されている。
【0030】
ノズル基板21は、所定方向に所定間隔(ピッチ)で形成された複数のノズル16を有する。本実施形態のノズル基板21は、例えばステンレス鋼等の金属で形成された板状の部材である。尚、上述のようにノズル形成面17は、ノズル基板21の下面によって形成されている。
【0031】
このように構成されたインクジェットプリンタ1は、インクを貯留するインク貯留部(流体貯留部)として、インクカートリッジ48(図4参照)を有し、このインクカートリッジ48からインク供給チューブ12を介して供給されたインクは、図3に示す内部流路28の上端に流入する。内部流路28の下端は、共通インク室29に接続されており、インクカートリッジ48からインク供給チューブ12を介して内部流路28の上端に流入したインクは、内部流路28を流れた後、共通インク室29に供給される。共通インク室29に供給されたインクは、インク供給口30を介して、複数の圧力室31のそれぞれに分配されるように供給される。
【0032】
ケーブル27を介して圧電素子25に駆動信号が入力されると、圧電素子25が伸縮する。これにより、振動板19が圧力室31に接近する方向及び離れる方向に変形(移動)する。これにより、圧力室31の容積が変化し、インクを収容した圧力室31の圧力が変動する。この圧力の変動によって、ノズル16から、インクが噴射(吐出)される。
このように、本実施形態の圧電素子25は、ノズル16よりインクを噴射するために、入力される駆動信号に基づいて、ノズル16に接続された圧力室31の圧力を変動させる。
【0033】
図4は、インクの供給経路を説明するための模式図である。図4に示されるように、インク供給チューブ12は、上記インクカートリッジ48と記録ヘッド4に接続されたサブタンク(自己封止バルブ)51とを接続しており、インクカートリッジ48からインク供給チューブ12に供給されたインクLは、サブタンク51に供給される。
【0034】
サブタンク51は、例えばポリプロピレン等の樹脂製材料によって成型される。このサブタンク51には、インク室52となる凹部が形成され、この凹部の開口面に透明な弾性シートを貼設してインク室52が区画されている。
【0035】
インクカートリッジ48は、ケース部材49と、ケース部材49に収容され、可塑性材料で形成されたインクパック50とを含む。また、ケース部材49には不図示の検出装置が接続されており、インクカートリッジ48の交換時期を検出可能となっている。
【0036】
図5は、インクジェットプリンタ1の電気的な構成を示すブロック図である。本実施形態におけるインクジェットプリンタ1は、インクジェットプリンタ1全体の動作を制御する制御装置58を備えている。この制御装置58には、インクジェットプリンタ1の動作に関する各種情報を入力する入力装置59と、インクジェットプリンタ1の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置60とが接続されている。
【0037】
また、制御装置58には、記録紙搬送機構3、キャリッジ駆動装置7、キャッピング装置14及びワイピング装置15を含むメンテナンス装置13等が接続されている。また、インクジェットプリンタ1は、圧電素子25を含む駆動ユニット24(図3参照)に入力する駆動信号を発生する駆動信号発生器62を備えている。この駆動信号発生器62は、制御装置58に接続されている。
【0038】
駆動信号発生器62には、記録ヘッド4の圧電素子25に入力する吐出パルスの電圧値の変化量を示すデータ、及び吐出パルスの電圧を変化させるタイミングを規定するタイミング信号が入力される。駆動信号発生器62は、入力されたデータ及びタイミング信号に基づいて吐出パルス等の駆動信号を発生する。
【0039】
駆動信号発生器62より吐出パルスが圧電素子25に入力されると、ノズル16よりインク滴が吐出される。吐出パルスが圧電素子25に入力されると、圧電素子25が収縮して圧力室31が膨張する。圧力室31の膨張状態が短時間維持された後、圧電素子25が急激に伸長する。これに伴って、圧力室31の容積が基準容積以下に収縮し、ノズル16に露出したメニスカスが外側に向けて急激に加圧される。これにより、所定量のインクの滴がノズル16から吐出される。その後、インクの滴の吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるように、圧力室31が基準容積に復帰する。
【0040】
図6は、キャッピング装置14に連結された吸引装置35の詳細構成を示す図である。
キャップ部材34の底壁には、キャップ部材34内に溜まったインクを排出する排出部34aが下方に向かって突設されており、その内部には排出通路34bが形成されている。
排出部34aには、可撓性材料等からなる排出チューブ39の一端部が接続されており、排出チューブ39の他端部は、廃インクタンク36内に挿入されている。
なお、廃インクタンク36内には、多孔質部材からなる廃インク吸収材55が収容されており、この廃インク吸収材55により回収されたインクが吸収されるようになっている。なお、この廃インクタンク36は、プラテン6の下方に配設されている。
【0041】
キャップ部材34と廃インクタンク36との間には、チューブポンプ式の吸引装置35が配設されている。吸引装置35は、円筒状のケース37を有しており、このケース37内には平面視で円形状をなすポンプホイル38がケース37の軸心に設けられたホイル軸38aを中心に回動可能に収容されている。そして、このケース37内に、排出チューブ39の中間部39aがケース37の内周壁37aに沿うようにして収容されている。
【0042】
ポンプホイル38には、一対の外側に膨らむ円弧状をなすローラ案内溝40,41がホイル軸38aを挟んで対向するように形成されている。各ローラ案内溝40,41は、一端がポンプホイル38の外周側に位置しており、他端がポンプホイル38の内周側に位置している。すなわち、両ローラ案内溝40,41は、それらの一端から他端に向かうほど、徐々にポンプホイル38の外周部から遠ざかるように延びている。
両ローラ案内溝40,41内には、押圧手段としての一対のローラ42,43が、それぞれ回動軸42a,43aを介して挿通支持されている。なお、両回動軸42a,43aは、それぞれ両ローラ案内溝40,41内を摺動自在になっている。
【0043】
そして、ポンプホイル38を、正方向(矢印方向)に回動させると、両ローラ42,43が両ローラ案内溝40,41の一端側(ポンプホイル38の外周側)に移動し、排出チューブ39の中間部39aを上流側から下流側へ順次押し潰しながら(押圧しながら)回動するようになっている。この回動により、吸引装置35より上流側の排出チューブ39の内部が減圧されるようになっている。
これにより、キャップ部材34内に溜まったインクは、ポンプホイル38の正方向の回動動作により、徐々に廃インクタンク36方向へ排出されるようになっている。また、ノズル形成面17とキャップ部材34との間に形成された空間を負圧にすることによって、ノズル形成面17のノズル16からインクを吸引することができる。
【0044】
また、ポンプホイル38を逆方向(矢印方向とは反対方向)に回動させると、両ローラ42,43が両ローラ案内溝40,41の他端側(ポンプホイル38の内周側)に移動するようになっている。この移動により、両ローラ42,43がそれぞれ排出チューブ39の中間部39aに軽く接した状態となり、排出チューブ39の内部の減圧状態が解消されるようになっている。
なお、ポンプホイル38は、給紙ローラ駆動装置10よって回転駆動されるようになっている。また、キャップ部材34は、不図示の駆動装置により、記録ヘッド4のノズル形成面17に上端面を接触させて閉空間を形成したり、離間させたりすることが可能となっている。
【0045】
インクジェットプリンタ1は、メンテナンス装置13を用いて、記録ヘッド4に対するメンテナンス処理を実行可能である。メンテナンス装置13は、記録ヘッド4の噴射特性を維持するために、記録ヘッド4と協働して、ノズル16よりインクを排出させる動作を含むメンテナンス処理が実行されるようになっている。
【0046】
メンテナンス処理は、ノズル16からインクをキャップ部材34に噴射するフラッシング動作、ワイピング装置15のワイプ部材44を用いたワイプ動作、吸引装置35を用いた吸引動作、及びキャッピング装置14のキャップ部材34の少なくとも一つを含む。
【0047】
フラッシング動作は、記録領域においてノズル16からのインクを記録紙に供給する前に、ホームポジションにおいて、ノズル16よりインクをキャップ部材34に予め噴射(吐出)する動作を含む。これにより、ノズル16付近の粘度が増大したインクが排出され、ノズル16の噴射特性が維持又は回復される。
【0048】
吸引動作は、ホームポジションにおいて、ノズル形成面17とキャップ部材34とを対向させ、ノズル形成面17とキャップ部材34との間に形成された空間を吸引する吸引装置35を用いて負圧にすることによって、ノズル形成面17のノズル16からインクを吸引する動作である。これにより、フラッシング動作では排出しきれなかった粘度が増大したインク、ノズル16内に浸入したゴミ、記録ヘッド4内の気泡等が、ノズル16よりインクとともに排出され、ノズル16の噴射特性が維持又は回復される。
【0049】
また、上記ワイプ動作は、ワイプ部材44によりノズル形成面17を払拭する動作である。これにより、吸引動作後にノズル形成面17に付着したインクがワイプ部材44により払拭されてノズル形成面17を清掃することにより、ノズル16の近傍に付着したインクを除去することで噴射特性を回復或いは良好な状態に保つようになっている。
【0050】
以下、上述の構成を有するインクジェットプリンタ1の動作の一実施形態として、クリーニング時の動作(メンテナンス方法)を制御装置58の動作を中心にして説明する。
【0051】
まず、インクジェットプリンタ1においては、クリーニングが開始される、制御装置58はキャップ部材34の上端面をノズル形成面17に対して接近させ接触させる。次いで、制御装置58はメンテナンス装置13を駆動させ、吸引装置35により、キャップ部材34とノズル形成面17との間に形成された空間の流体を吸引する。これにより、ノズル16の内部の増粘したインクが排出される。
【0052】
次いで、制御装置58はキャップ部材34の上端面をノズル形成面17から離間させる。
次に、制御装置58は、ワイプ部材44を所定位置にセットした状態でキャリッジ駆動装置7を駆動させ、ワイピング装置15のワイプ部材44によって記録ヘッド4のノズル形成面17を払拭するワイピング動作を行う。
【0053】
ところで、ワイプ動作時においては、ノズル形成面17を払拭する際にワイプ部材44が変形することで図7(a)に示されるようにノズル16内に入り込む可能性がある。このようにノズル16内にワイプ部材44が入り込んだ場合、ノズル16内に入り込んだワイプ部材44とインクのメニスカスとが干渉することで、図7(b)に示されるようにメニスカスが破壊される可能性がある。そして、図7(c)に示されるようにノズル16内のインクに気泡が取り込まれてしまう可能性がある。このようなワイプ部材44におけるノズル16内への入り込み量は、ノズル16の径とともに増大する。例えば、ノズル16の径が20μmの場合、ワイプ部材44の入り込み量は2.37μmとなり、ノズル16の径が24μmの場合、ワイプ部材44の入り込み量は2.81μmとなる(本実施形態では、24μmとした)。
【0054】
そこで、本実施形態では、ワイピング動作時におけるインクのメニスカス位置を、印字処理時におけるインクのメニスカス位置に比べてノズル16内に引き込ませるメニスカス引き込み手段を備えている。
【0055】
具体的に本実施形態に係るインクジェットプリンタ1においては、メニスカス引き込み手段を、圧電素子25とこの圧電素子25を制御する制御装置58とから構成している。そして、インクジェットプリンタ1は、圧電素子25にマイナス側の電圧を印加することで圧力室31を膨張させ、インクのメニスカスをノズル16内に引き込ませることが可能とされる。
【0056】
なお、本実施形態においては、制御装置58は上述したワイピング動作時に先立ち、記録ヘッド4の温度を測定するようにしている。そして、記録ヘッド4の測定温度を記憶装置60に記憶する。記録ヘッド4の温度が高くなるとインクの粘性が低下するので、メニスカスを引き込む際に高い電圧を印加する必要が生じる。また、記録ヘッド4の温度が高くなると、ノズル形成面17に当接するワイプ部材44自体も柔らかくなり、その結果、ワイプ部材44におけるインクのノズル16内への入り込み量が増大する。
【0057】
よって、記録ヘッド4の測定温度に応じてメニスカスを引き込む際に圧電素子25に印加する電圧を適宜調整することで、図8に示されるようにワイピング動作時にワイプ部材44が干渉しない位置にインクのメニスカスを保持するようにしている。
【0058】
図9は、圧電素子25に印加する電圧とインクのメニスカス位置との関係を表すグラフ、及び圧電素子25に印加する電圧との関係(図9中、四角プロット参照)、ワイピング動作後の不良ノズル数との関係(図9中、三角プロット参照)を表すグラフを示すものである。
圧電素子25に印加する電圧がよりマイナス側に大きくなると、上述したように圧力室31の膨張量が増加するので、図9に示されるようにインクのメニスカス位置が高くなる。すなわち、圧電素子25に印加する電圧をよりよりマイナス側にすることでノズル16内へのメニスカスの引き込み量を増加させることができる。このようにノズル16内におけるメニスカス位置が高くなると、ワイピング動作時にワイプ部材44とインクのメニスカスとが干渉することが防止される。図9に示されるように、圧電素子25に印加する電圧がよりマイナス側になる(すなわち、ノズル16内へのインクの引き込み量が増加する)に従い、メンテナンス処理後の不良ノズル数が少なくなる。なお、メニスカス位置が高くなるとは、ノズル形成面からメニスカス位置の相対距離が離れることをも含む概念である。
【0059】
本実施形態では、圧電素子25が、ワイピング動作時におけるワイプ部材44のノズル16内への入り込み量よりも多くなるようにメニスカスの引き込みを行っている。図9に示されるように、メニスカス位置がワイプ部材44の入り込み量(2.81μm)を上回る場合(例えば、メニスカス位置が3.0μm以上の場合)、ワイピング動作後の不良ノズル数をより少なくできる。
【0060】
以上述べたように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ1は、ワイピング動作時において、インクのメニスカスがノズル16内に引き込まれた状態とされるので、ワイプ部材44がインクのメニスカスに干渉するといった不具合を防止することが可能となる。よって、ワイピング動作に起因する印字不良の発生を低減することにより、信頼性の高いメンテナンス処理を行うことができる。
【0061】
なお、上述の実施形態においては、インクジェット式記録装置がインクジェットプリンタ1である場合を例にして説明したが、インクジェットプリンタに限られず、複写機及びファクシミリ等の記録装置であってもよい。
【0062】
また、上述の実施形態においては、流体噴射装置が、インク等の流体(液状体)を噴射する流体噴射装置(液状体噴射装置)である場合を例にして説明したが、本発明の流体噴射装置は、インク以外の他の流体を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に適用することができる。流体噴射装置が噴射可能な流体は、流体、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体、流体として流して噴射できる固体、及び粉体(トナー等)を含む。
【0063】
また、上述の実施形態において、流体噴射装置から噴射される流体(液状体)としては、インクのみならず、特定の用途に対応する流体を適用可能である。流体噴射装置に、その特定の用途に対応する流体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する流体を噴射して、その流体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、本発明の流体噴射装置(液状体噴射装置)は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した流体(液状体)を噴射する流体噴射装置に適用可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、メニスカス引き込み手段として圧電素子25を用いたが、本発明はこれに限定されない。例えば、インク供給チューブ12内を負圧状態とし、ノズル16内にインクを引き込み可能とするような吸引機構(吸引ポンプ)や、インクパック50を昇降させることでインクの水頭値を変化させる(低くする)ことでノズル16内にインクを引きこませる昇降機構等を上記制御装置58により制御する構成としてもよい。
なお、水頭値を変化させることの具体的態様としては、噴射ヘッドの高さを固定して流体貯蔵部の高さを調整する機構を設けても良いし、噴射ヘッドの高さを調整して流体貯蔵部の高さを固定しても良い。
【0065】
また、上記実施形態では、流体噴射装置をインクジェット式記録装置に具体化したが、この限りではなく、インク以外の他の液体(液体以外にも、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体を含む)や液体以外の流体(流体として流して噴射できる固体など)を噴射したり吐出したりする流体噴射装置に具体化することもできる。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を例とする固体を噴射する粉体噴射式記録装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の噴射装置に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】流体噴射装置の一例を示す斜視図である。
【図2】流体噴射装置の一例を示す平面図である。
【図3】記録ヘッドの断面図である。
【図4】インクの供給経路を説明するための模式図である。
【図5】インクジェットプリンタの電気的な構成を示すブロック図である。
【図6】キャッピング装置に連結された吸引装置の構成を示す図である。
【図7】従来構成におけるワイピング時のワイプ部材の形状を説明する図である。
【図8】本実施形態におけるワイピング時のワイプ部材の形状を説明する図である。
【図9】ワイピング動作時における圧電素子の印加電圧を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
1…インクジェットプリンタ(流体噴射装置)、4…記録ヘッド(噴射ヘッド)、8…メニスカス調整手段、12…インク供給チューブ(流体流路)、13…メンテナンス装置(メンテナンス部)、16…ノズル、17…ノズル形成面、25…圧電素子(メニスカス引き込み手段)、44…ワイプ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を噴射するノズルが複数形成されたノズル形成面を有し、該ノズルから前記流体を噴射する噴射ヘッドと、
前記ノズル形成面をワイプ部材により払拭することで前記ノズルからの前記流体の噴射状態を回復させるワイピング動作を含むメンテナンス処理を行うメンテナンス部と、
前記ワイピング動作時における前記流体のメニスカス位置を、前記流体の噴射時における前記流体のメニスカス位置に比べて前記ノズル内に引き込ませるメニスカス引き込み手段と、を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記メニスカス引き込み手段は、前記メニスカスの引き込み量を、前記ノズル形成面の払拭時における前記ワイプ部材の前記ノズルへの入り込み量よりも多くすることを特徴とする請求項1に記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記噴射ヘッドは圧電素子を用いることで前記ノズルから前記流体を噴射可能とされ、前記メニスカス引き込み手段が前記圧電素子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記噴射ヘッドには、流体供給路を介して供給する流体を貯蔵する流体貯蔵部を含み、
前記メニスカス引き込み手段は、前記ワイピング動作時における前記流体のメニスカス位置を、前記噴射ヘッドと前記流体貯蔵部との水頭値によって調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の流体噴射装置。
【請求項5】
流体を噴射するノズルが複数形成されたノズル形成面を有し、該ノズルから前記流体を噴射する噴射ヘッドと、前記ノズル形成面をワイプ部材により払拭することで前記ノズルからの前記流体の噴射状態を回復させるワイピングステップを含むメンテナンス処理を行うメンテナンス部と、を備える流体噴射装置のメンテナンス方法であって、
前記メンテナンス処理の前記ワイピングステップにおいては、前記流体噴射時における前記流体のメニスカス位置に比べ、前記流体のメニスカス位置を前記ノズル内に引き込ませた状態で、前記ワイプ部材により前記ノズル形成面を払拭することを特徴とする流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項6】
前記ワイピングステップにおいて、前記メニスカスの引き込み量が、前記ノズル形成面の払拭時における前記ワイプ部材の前記ノズルへの入り込み量よりも多くされることを特徴とする請求項5に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項7】
前記噴射ヘッドは圧電素子を用いて前記ノズルから前記流体を噴射可能に構成されており、前記ワイピングステップにおいては、前記圧電素子により前記流体のメニスカスを前記ノズル内に引き込ませることを特徴とする請求項5又は6に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。
【請求項8】
前記噴射ヘッドには、流体供給路を介して供給する流体を貯蔵する流体貯蔵部を含み、
前記メニスカス引き込み手段は、前記ワイピング動作時における前記流体のメニスカス位置を、前記噴射ヘッドと前記流体貯蔵部との水頭値によって調整することを特徴とする請求項5又は6に記載の流体噴射装置のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−178867(P2009−178867A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17878(P2008−17878)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】