説明

流体噴射装置

【課題】微妙な色合いや濃淡を表現することが可能な、流体噴射装置を提供する。
【解決手段】透光性の記録媒体を保持する媒体保持部33aと、紫外線硬化性を有する成分を含む流体を媒体保持部33aに保持された記録媒体に向けて噴射する噴射ヘッドと、媒体保持部33aに保持された記録媒体に向けて紫外線を照射する照射装置と、を備える流体噴射装置である。媒体保持部33aの記録媒体を保持する側の保持面33bには、照射装置から照射され、記録媒体を透過してきた紫外線の反射率に差異を生じさせ、所定の変調パターンを有する反射光としてこれを記録媒体に反射する光変調部60が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、普通紙を代表とする様々な記録媒体に対して印刷可能な記録装置として、インクジェット記録装置(流体噴射装置)が知られている。インクジェット記録装置は、記録ヘッド(噴射ヘッド)の記録媒体に対向する面に設けられた吐出口(ノズル)から、色材であるカラーインクや、アンダーコート、オーバーコートを行うためのクリアインクを直接記録媒体に対して吐出し、記録媒体上に着弾させて浸透もしくは定着させることにより、記録媒体上に画像等を形成する装置である。
【0003】
このようなインクジェット記録装置を用い、インク吸収性を有さない樹脂や金属等の材料からなる記録媒体に対して、画像等の記録を行う場合がある。その場合、このような記録媒体に対してインクを定着させるため、例えば紫外線照射によって硬化する光硬化型インクが用いられる。この光硬化型インクを用いるインクジェット記録装置では、インクを硬化させるための紫外線照射装置を備えており、記録媒体に画像を記録する際、インクを記録媒体に着弾させた直後に、インクの硬化が可能な条件で紫外線照射装置から紫外線を照射し、インクを硬化定着させるようにしている。
【0004】
このような光硬化型インクで記録媒体に記録を行う記録装置では、照射した紫外線のエネルギーをより効率的に利用し、印刷速度の向上等を図るべく、記録媒体を支持するプラテン等に反射層を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−238454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、記録装置(流体噴射装置)ではその用途が益々多様化しており、要求される性能も多岐に亘るようになってきている。このような背景のもとに近年では、前記特許文献1のものを含む従来のインクジェット記録装置ではできなかったような、微妙な色合いや濃淡の表現が求められるようになってきている。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、微妙な色合いや濃淡を表現することが可能な、流体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の流体噴射装置は、透光性の記録媒体を保持する媒体保持部と、紫外線硬化性を有する成分を含む流体を前記媒体保持部に保持された前記記録媒体に向けて噴射する噴射ヘッドと、前記媒体保持部に保持された前記記録媒体に向けて紫外線を照射する照射装置と、を備える流体噴射装置であって、
前記媒体保持部の前記記録媒体を保持する側の保持面には、前記照射装置から照射され、前記記録媒体を透過してきた紫外線の反射率に差異を生じさせ、所定の変調パターンを有する反射光としてこれを前記記録媒体に反射する光変調部が設けられていることを特徴としている。
【0009】
この流体噴射装置によれば、媒体保持部の記録媒体を保持する側の保持面に、紫外線を、所定の変調パターンを有する反射光として反射する光変調部が設けられているので、記録媒体上に流体を吐出し、この記録媒体に向けて紫外線を照射すると、前記光変調部からの反射光によって媒体保持部に保持された記録媒体上の流体の硬化に一部影響が与えられるようになる。すなわち、光変調部による所定の変調パターンが硬化後の流体に反映され、記録媒体上に得られる画像に微妙な色合いや濃淡が表現されるようになる。
【0010】
また、前記流体噴射装置において、前記光変調部は、前記媒体保持部における前記保持面全体を構成するものとなっており、かつ、前記媒体保持部に対して着脱可能になっており、前記光変調部として、異なる変調パターンからなる複数種のものを備えていてもよい。
このようにすれば、光変調部を取り替えて変調パターンを変えることにより、記録媒体上に得られる画像の微妙な色合いや濃淡の表現を変化させることができる。
【0011】
また、前記流体噴射装置において、前記光変調部は、前記媒体保持部における前記保持面の一部を構成するものとなっており、かつ、前記媒体保持部に対して着脱可能になっており、前記光変調部として、異なる変調パターンからなる複数種のものを備えていてもよい。
このようにしても、光変調部を取り替えて変調パターンを変えることにより、記録媒体上に得られる画像の微妙な色合いや濃淡の表現を変化させることができる。
【0012】
また、前記流体噴射装置において、前記光変調部は、前記媒体保持部における前記保持面の一部または全部を構成するものとなっており、かつ、前記媒体保持部に対して固定されたものとなっていてもよい。
このように光変調部が媒体保持部に対して固定されているので、例えば光変調部による変調パターンを、前記媒体保持部を備える流体噴射装置を表す固有のパターンとすれば、記録媒体上に得られる画像に反映された変調パターンを視認することで、この記録媒体に対して画像形成を行った流体噴射装置を特定することが可能になる。
【0013】
また、前記流体噴射装置において、前記光変調部は、前記記録媒体を前記保持面に吸着保持するための、吸着用凹部からなっていてもよい。
このようにすれば、記録媒体を保持面に吸着保持するための吸着用凹部を、所定のパターンに形成することで、光変調部として利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は本発明に係る流体噴射装置の平面図、(b)は同じく側面図である。
【図2】光変調部を説明するための図である。
【図3】(a)(b)は光変調部を設けたことで得られる画像の説明図である。
【図4】(a)〜(c)は液滴吐出ヘッドの概略構成を説明するための図である。
【図5】ヘッドユニットの概略構成を示す底面図である。
【図6】(a)(b)は紫外線硬化型インクの硬化状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明における流体噴射装置の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
図1(a)、(b)は、本発明における流体噴射装置の一実施形態の概略構成を示す模式図であって、(a)は流体噴射装置の平面図、(b)は流体噴射装置の側面図である。なお、図1(a)、(b)では、本発明の流体噴射装置を、連続した長尺な記録媒体に対して印刷を行う、印刷装置に適用した場合について示している。図1(a)、(b)において符号1は流体噴射装置であり、この流体噴射装置1は、流体として紫外線硬化型インク(機能液)を液滴吐出する液滴吐出ヘッド(噴射ヘッド)20と、この液滴吐出ヘッド(噴射ヘッド)20から吐出された紫外線硬化型インクに紫外線を照射する照射装置80と、液滴吐出ヘッド(噴射ヘッド)20を有するヘッド機構部2と、供給排出機構部3と、インク供給部(図示せず)と、メンテナンス部5と、を備えて構成されている。
【0017】
液滴吐出ヘッド20は、インクジェット方式の液滴吐出ヘッドであって、紫外線硬化性を有する成分を含むインク(流体)、すなわち紫外線硬化型インクを液滴として、連続した長尺な帯状の記録媒体10の被記録箇所となる表面に向けて吐出するものである。ここで、記録媒体10としては、本実施形態では紫外線硬化型インクによる記録が可能な透光性の媒体が用いられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン(PE)、ポリカーボネイト(PC)などの透光性のフレキシブルフィルムが用いられる。
【0018】
供給排出機構部3は、記録媒体10を液滴吐出ヘッド20による記録位置に供給し、また、この記録位置から排出するものである。インク供給部は、貯留タンク(図示せず)に貯留したインクを液滴吐出ヘッド20に供給するためのものである。メンテナンス部5は、液滴吐出ヘッド20の保守を行うものである。また、流体噴射装置1には、これら各機構部等を総括的に制御する制御部(図示せず)が設けられている。
【0019】
供給排出機構部3は、供給リール31と、巻取リール32と、吸着ユニット33と、アイドラローラー37と、アイドラローラー38と、Y軸走査機構42と、を備えて構成されている。
Y軸走査機構42は、Y軸ガイドレール42aとY軸スライダー42bとを、それぞれ二組ずつ備えて構成されている。吸着ユニット33は、本発明における媒体保持部となる吸着テーブル33aと、テーブル台43と、テーブル昇降機構44と、供給ローラー34と、従動ローラー34aと、媒体送りローラー36と、従動ローラー36aと、を備えて構成されている。各リール、及び各ローラーは、それぞれ回転軸まわりに回転可能になっており、それぞれの回転軸は互いに略平行になっている。
記録媒体10が送られる方向は、互いに略平行な各リール、及び各ローラーの回転軸に略直交する方向となっている。なお、各リール、及び各ローラーの回転軸の軸方向に平行な方向をX軸方向と表記し、記録媒体10の送り方向をY軸方向と表記している。
【0020】
Y軸走査機構42のY軸ガイドレール42aは、吸着テーブル33aを挟んでX軸方向の両側にそれぞれ1つずつ配設されており、Y軸方向に延在している。Y軸スライダー42bは、テーブル台43の底面に設けられ、その状態でY軸ガイドレール42a上に配設されたもので、Y軸駆動モーター(図示せず)によってY軸ガイドレール42a上をその延在方向に摺動するように構成されたものである。
【0021】
吸着ユニット33の吸着テーブル(媒体保持部)33aは、テーブル台43上に固定されたテーブル昇降機構44に固定されたものである。この吸着テーブル(媒体保持部)33aは、その上面上に記録媒体10を保持する媒体保持部となっており、したがってその上面は、記録媒体10を保持する側の面、すなわち保持面となっている。このような構成のもとに、保持面上に記録媒体10が保持された状態で、前記液滴吐出ヘッド20から紫外線硬化型インクが吐出され、このインクの液滴が記録媒体10上に着弾するようになっている。
【0022】
この吸着テーブル33aには、図示しない負圧源に接続する吸着用孔又は吸着用溝からなる吸着用凹部(図示せず)が設けられ、該吸着用凹部は前記保持面上に開口している。これにより、記録媒体10はその所定部位が保持面上に位置決めされた状態で、前記負圧源に接続する吸着用凹部によって吸引・吸着されることにより、保持面上に保持固定されるようになっている。また、吸着テーブル33aの保持面には、後に詳述するように光変調部が設けられている。
【0023】
前記テーブル昇降機構44は、吸着テーブル33aをZ軸方向に昇降させるもので、吸着テーブル33aの保持面(吸着面)をZ軸方向における所定の位置となる吸着位置、及びこの吸着位置よりテーブル台43に近い退避位置との間で昇降させ、かつ、各位置にて保持固定するようになっている。吸着位置にあるときの吸着テーブル33aの保持面の位置は、後述する供給ローラー34の外周、及び媒体送りローラー36の外周のそれぞれの上端の位置に、略一致している。
【0024】
吸着テーブル33aのY軸方向における両側には、供給ローラー34及び従動ローラー34aと、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aとが配設されている。これら供給ローラー34及び従動ローラー34aと、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aとは、支持部材(図示せず)を介してテーブル台43に固定され、その状態で吸着テーブル33aを挟んでその両側に配設されている。供給ローラー34及び従動ローラー34aは、吸着テーブル33aの上流側、すなわち供給リール31側に配設されており、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aは、吸着テーブル33aの下流側、すなわち巻取リール32側に配設されている。
【0025】
テーブル台43は、Y軸走査機構42によってY軸方向に移動可能になっており、かつ、Y軸方向における任意の位置に保持可能になっている。また、このテーブル台43上に配置された吸着テーブル33a、供給ローラー34及び従動ローラー34a、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aも、Y軸走査機構42によってY軸方向に移動可能になっており、かつ、Y軸方向における任意の位置に保持可能になっている。
【0026】
供給排出機構部3が備える供給リール31と、アイドラローラー37と、吸着ユニット33と、アイドラローラー38と、巻取リール32とは、記録媒体10の供給方向であるY軸方向においてこの順に配置されており、供給リール31側が記録媒体10の供給方向における上流側、巻取リール32側が下流側になっている。
【0027】
また、吸着ユニット33において、供給ローラー34及び従動ローラー34aと、吸着テーブル33aと、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aとは、Y軸方向においてこの順に配置されている。したがって、供給排出機構部3において、供給リール31と、アイドラローラー37と、供給ローラー34及び従動ローラー34aと、吸着テーブル33aと、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aと、アイドラローラー38と、巻取リール32とは、Y軸方向においてこの順に配置されている。
【0028】
供給リール31には、帯状の記録媒体10が巻かれており、供給モーター(図示せず)によって供給リール31が回転させられることにより、記録媒体10が繰り出されるようになっている。従動ローラー34aは、その外周が供給ローラー34の外周に接して配置されており、付勢装置(図示せず)によって供給ローラー34に押し付けられている。供給ローラー34は、供給モーター(図示せず)によって回転させられるようになっており、この供給ローラー34に直接又は間接的に接する従動ローラー34aは、供給ローラー34の回転に従動して回転するようになっている。このような構成のもとに、これら供給ローラー34と従動ローラー34aとの間に挟持される記録媒体10は、供給ローラー34の回転によって送られるようになっている。
【0029】
アイドラローラー37は、その回転軸がZ軸方向に揺動可能になっており、かつ、揺動方向の一方(本実施形態では下方)に付勢されている。また、このアイドラローラー37は、記録媒体10における、供給リール31と、供給ローラー34及び従動ローラー34aとの間の部分に、前記付勢力によって当接させられている。このような構成のもとに記録媒体10は、アイドラローラー37によって付勢されることにより、供給リール31とアイドラローラー37との間、及びアイドラローラー37と供給ローラー34及び従動ローラー34aとの間の部分が、弛み無く張られた状態になっている。
【0030】
したがって、記録媒体10は、供給ローラー34と従動ローラー34aとの間に供給されて挟持される際の状態が、略平坦に維持され易くなっている。なお、供給ローラー34における記録媒体10の供給速度と、供給リール31における記録媒体10の繰り出し速度との差によって、供給リール31と供給ローラー34及び従動ローラー34aとの間の部分の弛み量が変動する。しかし、弛み量の変動に追従してアイドラローラー37の位置が変わることにより、弛み無く張られた状態に維持されるようになっている。また、吸着ユニット33の移動による、供給リール31と供給ローラー34及び従動ローラー34aとの間における記録媒体10の弛み量の変動についても、同様にして、弛み無く張られた状態に維持されるようになっている。
【0031】
従動ローラー36aは、その外周が供給ローラー36の外周に接して配置されており、付勢装置(図示せず)によって媒体送りローラー36に押し付けられている。媒体送りローラー36は、媒体送りモーター(図示せず)によって回転させられるようになっており、この媒体送りローラー36に直接又は間接的に接する従動ローラー36aは、媒体送りローラー36の回転に従動して回転するようになっている。このような構成のもとに、これら媒体送りローラー36と従動ローラー36aとの間に挟持される記録媒体10は、媒体送りローラー36の回転によって送られるようになっている。
【0032】
ここで、媒体送りローラー36による送り量は、供給ローラー34による送り量より多く設定されている。また、媒体送りモーターから媒体送りローラー36への動力伝達機構には、トルク制御機構(図示せず)が組み込まれている。このような構成のもとに、媒体送りローラー36において供給ローラー34より速く送られる記録媒体10は、供給ローラー34と媒体送りローラー36との間の部分が、前記トルク制御機構で制御されたトルクに応じた張力で張られるようになっている。
【0033】
この張られた部分には、吸着テーブル33aの保持面(吸着面)が対向している。すなわち、記録媒体10における、吸着テーブル33aの保持面上に位置する部分は、前記トルク制御機構で制御されたトルクに応じた張力で張られている。ここで、前述した吸着位置に位置する吸着テーブル33aの保持面の位置は、媒体送りローラー36の外周上端と供給ローラー34の外周上端とがなす面の位置に略一致している。したがって、吸着位置に位置する吸着テーブル33aの保持面(吸着面)は、供給ローラー34と媒体送りローラー36との間に張られた記録媒体10に接してこれを保持するようになっている。
【0034】
吸着テーブル33aは、その保持面上に記録媒体10を保持するようになっている。保持面は平坦な面であり、したがって記録媒体10における被保持面、すなわち被記録面と反対の側の面は、保持面によって平坦な状態に保持されるようなっている。また、この保持面には、図示しないものの、吸着用孔又は吸着用溝からなる吸着用凹部が設けられており、該吸着用凹部によって記録媒体10はその被保持面が吸着され、吸着テーブル33aの保持面上に吸着・保持されるようになっている。すなわち、吸着用凹部には、吸引ポンプ等の図示しない負圧源が配管等を介して接続されており、これによって吸着用凹部はその開口部上に位置する記録媒体10を吸着するようになっている。
【0035】
また、図2に示すようにこの吸着テーブル33aの保持面33bには、光変調部60が設けられている。光変調部60は、後述する照射装置から照射され、前記記録媒体10を透過してきた紫外線の反射率に差異を生じさせ、所定の変調パターンを有する反射光としてこれを記録媒体10に反射するものである。このように紫外線の反射率に差異を生じさせるものとしては、保持面33bの他の部分(光変調部60以外の部分)に比べて反射率が高くなるかあるいは反射率が低くなるように形成され、もしくは乱反射することなどで実質的な反射率に差異が生じるように形成されたものが挙げられる。
【0036】
具体的には、保持面33bの他の部分(光変調部60以外の部分)に対して反射率が異なるように、光変調部60となる部位の材質を変えたり、塗料を塗ったりすることで、光変調部60を形成する。また、光変調部60となる部位の保持面33bの表面を研磨しあるいは逆に粗面にすることで、他の部分(光変調部60以外の部分)に対して反射率を異ならせ、光変調部60を形成することもできる。さらに、保持面33bに対して十分な深さで凹んでなる凹部によって光変調部60を形成することもできる。この凹部により光変調部60を形成する例としては、前述した吸着用孔又は吸着用溝からなる吸着用凹部を用いることができる。具体的には、吸着用凹部の開口形状(開口パターン)を所定のパターンとすることで、吸着用凹部としての機能を損なうことなくそのままにして、光変調部60としても用いることができる。
【0037】
光変調部60が形成する変調パターンとしては、例えば図2に示したような木目調パターンが挙げられる。このような木目調の変調パターンを形成する光変調部60を吸着テーブル33aの保持面33bに形成しておくと、後述するように液滴吐出ヘッド20から紫外線硬化型インク(流体)を液滴として吐出し、例えば記録媒体10に対して図3(a)に示すような画像を記録した際、光変調部60からの反射光によって記録媒体10上の紫外線硬化型インクの硬化に一部影響が与えられる。その結果、光変調部60による木目調パターン(変調パターン)が硬化後の紫外線硬化型インクに反映され、図3(b)に示すように記録媒体10上に得られる画像に微妙な色合いや濃淡からなる木目調60aが表現されるようになる。
【0038】
ここで、図2では本発明に係る光変調部60が形成する変調パターンとして、木目調パターンを示したが、この変調パターンとしては木目調パターン以外にも種々のパターンを形成することができる。例えば、全体的なパターンとしてはエンボス調パターンやその他種々の繰り返しパターンを形成することができる。また、数字や文字、各種の模様を、保持面33bの全域に適宜な間隔をあけて繰り返したパターンを形成することもでき、さらに、数字や文字、各種の模様を、保持面33bの一部にのみ配するパターンを形成することもできる。
【0039】
数字や文字等のパターンを形成する場合、例えば記録媒体10に対して記録(印刷)を行った年月日や、使用した流体噴射装置1の装置番号などを変調パターンとし、記録媒体10に記録(印刷)を行った際に、目的とする画像とともに前記の年月日や装置番号を記録することができる。その際、図3(b)に示したように、図3(a)に示した目的とする画像を損なうことなく、この画像の一部として、あるいはこの画像の背景の一部に、年月日等を記録することができる。
【0040】
ここで、このような光変調部60は、吸着テーブル33aの保持面33bの一部または全部を構成するものとなっている。また、吸着テーブル33aに対して、固定されていてもよく、着脱可能となっていて交換可能に構成されていてもよい。
図2に示した木目調パターンや、その他のエンボス調パターンなどを形成する場合、このような変調パターンを形成するための光変調部60としては、吸着テーブル33aの保持面33bの全部を構成するものとするのが好ましい。
【0041】
また、その場合に、この保持面33bを形成する部位、例えば吸着テーブル33bの上面(保持面33b)を構成する保持板は、吸着テーブル33bに対して着脱可能になっており、別に用意した保持板と交換可能になっているのが好ましい。例えば、木目調パターンを形成する光変調部60を有する保持板と、エンボス調パターンを形成する光変調部を有する保持板とを用意しておくことで、記録媒体10に記録する画像に応じて、この画像に付与するパターンを変えることができる。
【0042】
また、保持面33bを形成する部位は、吸着テーブル33bに対して固定されるようにしてもよい。その場合には、例えば光変調部による変調パターンを、流体噴射装置1を表す装置番号等の固有のパターンにしてもよい。このようにすれば、記録媒体10上に得られる画像に反映された変調パターンを視認することで、この記録媒体10に対して画像形成を行った流体噴射装置1を特定することができるようになる。なお、このように保持面33bを形成する部位を、吸着テーブル33bに対して固定されるように構成する場合、光変調部60については保持面33b全体を構成するものでなく、保持面33bの一部を構成するものであってもよい。特に、光変調部による変調パターンを、流体噴射装置1を表す装置番号等の固有のパターンとする場合には、保持面33bの一部のみを光変調部とすることで、前記の効果を得ることが可能になる。
【0043】
また、前記の木目調パターンやエンボス調パターンを形成する光変調部60の場合でも、保持面33bを形成する部位が、吸着テーブル33bに対して固定されていてもよい。その場合には、例えば木目調パターンの場合、該木目を示す一つ一つの線を前記の吸着用溝の開口で形成することで、吸着用溝(吸着用凹部)を光変調部として兼用することができる。同様に、エンボス調パターンの場合には、多数の吸着用孔の開口でこのパターンを形成することで、吸着用孔(吸着用凹部)を光変調部として兼用することができる。このように、吸着用凹部の開口を所定のパターンに形成して光変調部として利用することで、吸着テーブル33aの構成の簡略化を図ることができる。
【0044】
また、光変調部については、吸着テーブル33aの保持面33bの一部を構成するものとしてもよい。その場合に、例えば図2に示す保持面33bの右上隅部や右下隅部などを吸着テーブル33aから着脱可能にした板状(又はブロック状)のものとし、予め用意にした別の板状の光変調部と交換可能にしておくのが好ましい。具体的には、光変調部として年月日を示す変調パターンを形成するものとしておき、記録媒体10に対して記録を行う際、この記録を行う日の年月日を示す板状の光変調部を保持面33aの一部として用い、記録を行うようにする。このようにすれば、記録媒体10上に得られる画像に反映された変調パターンを視認することで、この記録媒体10に対して画像形成を行った年月日を特定することができるようになる。
【0045】
図1(a)、(b)に示すように巻取リール32は、巻取モーター(図示せず)によって回転させられるようになっており、これにより、媒体送りローラー36から送り出された記録媒体10は、巻取リール32に巻き取られるようになっている。
アイドラローラー38は、その回転軸がZ軸方向に揺動可能になっており、かつ、揺動方向の一方に付勢されている。また、このアイドラローラー38は、記録媒体10における、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aと、巻取リール31との間の部分に、前記付勢力によって当接させられている。このような構成のもとに記録媒体10は、アイドラローラー38によって付勢されることにより、媒体送りローラー36及び従動ローラー36aと巻取リール31との間、及びアイドラローラー38と巻取リール32との間の部分が、弛み無く張られた状態になっている。
【0046】
したがって、記録媒体10は、巻取リール32に巻き取られる際の状態が、略平坦に維持され易くなっている。なお、媒体送りローラー36における記録媒体10の送り速度と、巻取リール32における記録媒体10の巻き取り速度との差によって、媒体送りローラー36と巻取リール32との間の部分の弛み量が変動する。しかし、弛み量の変動に追従してアイドラローラー38の位置が変わることにより、弛み無く張られた状態に維持されるようになっている。また、吸着ユニット33の移動による、媒体送りローラー36と巻取リール32との間における記録媒体10の弛み量の変動についても、同様にして、弛み無く張られた状態に維持されるようになっている。
【0047】
このような状態のもとで、記録媒体10は供給リール31から巻取リール32まで送られ、途中の吸着テーブル(媒体保持部)33aの保持面33b上に保持された部位に、記録(印刷)がなされるようになっている。
【0048】
ヘッド機構部2は、ヘッドキャリッジ22と、X軸走査機構11とを備えている。
X軸走査機構11は、X軸ガイド11aとX軸スライダー11bと支持台11dとをそれぞれ二組備え、さらにガイドレール支持柱11cを4本備えて構成されている。支持柱台11dは、吸着テーブル33aのX軸方向に、該吸着テーブル33aを挟んでその両側にそれぞれ一つずつ配設されており、前述した一対のY軸ガイドレール42a、42aを間に挟む位置に配設されている。一方のY軸ガイドレール42aと支持柱台11dとの間には、メンテナンス部5が配設されている。
【0049】
二つの支持柱台11d、11dのそれぞれの上には、そのY軸方向おける両端部に、ガイドレール支持柱11cがそれぞれ1本ずつ、計2本立設されている。二つのX軸ガイドレール11aのうちの一方は、支持柱台11dの供給リール31の側の端部にそれぞれ立設されたガイドレール支持柱11c間に架け渡されて、吸着テーブル33aの上方にてX軸方向に延在した状態で配設されている。また、一対のX軸ガイドレール11aのうちの他方は、支持柱台11dの巻取リール32の側の端部にそれぞれ立設されたガイドレール支持柱11c間に架け渡されて、吸着テーブル33aの上方にてX軸方向に延在した状態で配設されている。
【0050】
X軸スライダー11bは、X軸ガイドレール11a上に配設されたもので、X軸駆動モーター(図示せず)によってX軸ガイドレール11a上をその延在方向に摺動するように構成されたものである。2本のX軸ガイドレール11aのそれぞれに支持されたX軸スライダー11bには、ヘッドキャリッジ22のブリッジプレート27の両端部がそれぞれ固定されている。両端部がそれぞれX軸スライダー11bに固定されたブリッジプレート27は、X軸スライダー11bに支持された状態で、2本のX軸ガイドレール11aの間に懸架されている。このような構成のもとに、ブリッジプレート27は、X軸駆動モーターによってX軸ガイドレール11a上をその延在方向に摺動するようになっており、また、X軸方向における任意の位置に保持されるようになっている。
【0051】
ヘッドキャリッジ22は、ブリッジプレート27と、サブキャリッジ28と、ヘッドユニット21とを備えて構成されている。サブキャリッジ28は、ブリッジプレート27の下面略中央部に設けられたもので、このサブキャリッジ28の下面側には、ヘッドユニット21が固定されている。ヘッドユニット21の下面側には液滴吐出ヘッド20が備えられており、この液滴吐出ヘッド20の底部側には、図4(a)に示すように吐出ノズル24を形成したノズル基板25が配設されている。このような構成のもとに液滴吐出ヘッド20は、前記の吸着テーブル33aの保持面33b上に位置させられるようになっており、その際、ノズル基板25を保持面33bに対向させるようになっている。
【0052】
ここで、吸着ユニット33はY軸走査機構42によってY軸方向に移動可能になっており、したがって吸着テーブル33aの保持面33bはY軸方向に移動可能になっている。すなわち、記録媒体10における吸着テーブル33aの保持面33bに吸着保持された部位を、Y軸方向に走査させることが可能になっている。
一方、サブキャリッジ28に固定されたヘッドユニット21の液滴吐出ヘッド20は、X軸走査機構11によってサブキャリッジ28が設けられたブリッジプレート27がX軸方向に移動させられることにより、X軸方向に走査させられるようになっている。
【0053】
このような構成のもとに、X軸走査機構11によってヘッドユニット21の液滴吐出ヘッド20をX軸方向に走査させ、Y軸走査機構42によって記録媒体10における吸着テーブル33aの保持面33bに吸着保持された部位をY軸方向に走査させることができる。すなわち、記録媒体10における吸着テーブル33aの保持面33bに吸着保持された部位のほぼ全面に対して、液滴吐出ヘッド20の吐出ノズル24を対向させることができるようになっている。
【0054】
よって、吸着テーブル33aの保持面33b上に吸着保持された記録媒体10の被記録部分を、Y軸方向の吐出位置まで移動させて停止させ、ヘッドユニット21のX軸方向の移動に同調させて、液滴吐出ヘッド20から紫外線硬化型インク(流体)を液滴として吐出させることで、記録媒体10上の所望位置に紫外線硬化型インクの液滴(ドット)を配することができる。したがって、ヘッドユニット21をX軸方向に移動させる主走査と、吸着テーブル33aの保持面33bに吸着保持された記録媒体10をY軸方向に移動させる副走査(改行)とを制御することにより、吸着テーブル33aの保持面33bに保持された記録媒体10上の任意の位置にヘッドユニット21の液滴吐出ヘッド20を対向させ、その状態で紫外線硬化型インク(流体)を液滴として吐出させることができる。これにより、記録媒体10に所望の画像を形成(記録)することが可能になる。
【0055】
次に、液滴吐出ヘッドについて、図4(a)〜(c)を参照して説明する。図4(a)〜(c)は液滴吐出ヘッドの概略構成を示す図であり、(a)は液滴吐出ヘッド20の概略構成を示す外観斜視図、(b)は液滴吐出ヘッド20の内部構造を説明するための要部斜視図、(c)は液滴吐出ヘッド20の吐出ノズル部分を示す要部側断面図である。なお、図4に示したX軸、Y軸、Z軸は、液滴吐出ヘッド20が流体噴射装置1に組み込まれた状態を示す図1(a)、(b)における、X軸、Y軸、Z軸に一致している。
【0056】
図4(a)に示すように液滴吐出ヘッド20は、ノズル基板25を備えて形成されており、ノズル基板25には、多数の吐出ノズル24が直線状に配列されてなるノズル列24Aが2列形成されている。そして、吐出ノズル24から紫外線硬化型インク(流体)を液滴として吐出し、対向する記録媒体10の面上に着弾させることで、記録媒体10上の所望位置に紫外線硬化型インクを配することができるようになっている。
ノズル列24Aは、Y軸方向に沿って形成されたもので、吐出ノズル24を等間隔に配置したものである。なお、2列のノズル24A間では、吐出ノズル24の位置が半ピッチずれた千鳥状になっている。
【0057】
図4(b)、(c)に示すように液滴吐出ヘッド20は、ノズル基板25上に圧力室プレート51を積層し、さらに圧力室プレート51上に振動板52を積層したものである。圧力室プレート51には、液滴吐出ヘッド20に供給される紫外線硬化型インクが常に充填される液たまり55が形成されており、液たまり55は、振動板52とノズル基板25と、壁部(図示せず)とに囲まれた空間からなっている。紫外線硬化型インクは、振動板52の液供給孔53を経由して液たまり55に供給されるようになっている。また、圧力室プレート51には、複数のヘッド隔壁57によって区画された圧力室58が形成されている。
【0058】
圧力室58は吐出ノズル24のそれぞれに対応して設けられており、圧力室58の数と吐出ノズル24の数とは同じになっている。圧力室58には、2つのヘッド隔壁57の間に位置する供給口56を介して、液たまり55から機能液が供給されるようになっている。ヘッド隔壁57の圧力室58と吐出ノズル24と供給口56との組は、液たまり55に沿って1列に並んでおり、1列に並んだ吐出ノズル24がノズル列24Aを形成している。図4(b)では図示を省略しているが、吐出ノズル24Aを含むノズル列24Aに対して、その側方にもう1列のノズル列24Aが形成されている。
【0059】
図4(c)に示すように振動板52上には、それぞれの圧力室58に対応して、圧電素子59が配置されている。圧電素子59は、下部電極と上部電極との間に圧電層を挟持してなるもので、電極間に駆動電圧が印加されることで、対応する吐出ノズル24から紫外線硬化型インクを吐出させるようになっている。
【0060】
次に、ヘッド機構部2が備えるヘッドユニット21の概略構成について、図5を参照して説明する。図5は、ヘッドユニットの概略構成を示す底面図である。なお、図5に示したX軸及びY軸は、図1に示したX軸及びY軸に一致している。
図5に示すようにヘッドユニット21は、サブキャリッジ28の下面に取り付けられたユニットプレート23と、ユニットプレート23の下面側に搭載された9個の液滴吐出ヘッド20とを有し、さらにこれら9個の液滴吐出ヘッド20のX軸方向における両側に、紫外線を照射する照射装置80をそれぞれ配設したものである。
【0061】
液滴吐出ヘッド20は、ノズル基板25を下方に向けた状態で、保持部材(図示せず)によってユニットプレート23に固定されている。また、9個の液滴吐出ヘッド20は、Y軸方向に分かれて、それぞれ3個ずつの液滴吐出ヘッド20からなるヘッド組20Aを、3つ形成している。なお、各液滴吐出ヘッド20のノズル列24Aは、ヘッドユニット21が流体噴射装置1に取り付けられた状態で、Y軸方向に沿って配列させられている。
【0062】
一つのヘッド組20Aを構成する3個の液滴吐出ヘッド20は、Y軸方向において、互いに隣り合う液滴吐出ヘッド20の、一方の液滴吐出ヘッド20の端の吐出ノズル24に対して、もう一方の液滴吐出ヘッド20の端の吐出ノズル24が、半ノズルピッチずれて配置されている。このような構成のもとにヘッド組20Aが有する3個の液滴吐出ヘッド20は、全ての吐出ノズル24のX軸方向の位置を同じにすると、全ての吐出ノズル24がY軸方向に半ノズルピッチの等間隔で並ぶようになる。すなわち、X軸方向の同じ位置において、それぞれの液滴吐出ヘッド20が有するそれぞれのノズル列24Aを構成する吐出ノズル24から吐出される液滴は、設計上では、Y軸方向に等間隔に並んで一直線に着弾するようになる。したがって、一つのヘッド組20Aが備える3個の液滴吐出ヘッド20が有する6列のノズル列24Aは、1本のノズル列として扱うことができる。当該ノズル列は、例えば180個の6倍である1080個の吐出ノズル24を有し、Y軸方向におけるノズルピッチは70μmであり、Y軸方向の両端の吐出ノズル24の中心間距離(ノズル列長さ)は約75.5mmである。なお、液滴吐出ヘッド20は、Y軸方向において互いに重なるため、X軸方向に階段状に並んでヘッド組20Aを構成している。
【0063】
また、ヘッドユニット21が有する3つのヘッド組20Aは、全ての吐出ノズル24のX軸方向の位置を同じにすると、全ての吐出ノズル24がY軸方向に半ノズルピッチの等間隔で並ぶようになっている。すなわち、X軸方向の同じ位置において、それぞれの液滴吐出ヘッド20が有するそれぞれのノズル列24Aを構成する吐出ノズル24から吐出される液滴は、設計上では、Y軸方向に等間隔に並んで一直線に着弾するようになっている。したがって、ヘッドユニット21が備える三つのヘッド組20Aにおける9個の液滴吐出ヘッド20が有する18列のノズル列24Aは、1本のノズル列として扱うことができる。当該ノズル列を「ユニットノズル列240A」と表記すると、このユニットノズル列240Aは、例えば180個の18倍である3240個の吐出ノズル24を有し、Y軸方向におけるノズルピッチは70μmであり、Y軸方向の両端の吐出ノズル24の中心間距離(ノズル列長さ)は約226.7mmである。すなわち、一つのヘッドユニット21の吐出ノズル24から一滴ずつ吐出させて、X軸方向が同じ位置になるように着弾させると、3240個のドットが70μmのピッチ間隔で連なる直線が形成されるようになる。
【0064】
照射装置80は、紫外線光源(図示せず)を備えて構成されたもので、紫外線光源を下方に向けた状態でサブキャリッジ28又はユニットプレート23に固定されている。照射装置80は、前記したように液滴吐出ヘッド20のX軸方向における両側にそれぞれ配設されたものであり、これによって液滴吐出ヘッド20から記録媒体10に向けて紫外線硬化型インクが吐出された直後に、記録媒体10に着弾した紫外線硬化型インクに対して紫外線を照射できるようになっている。すなわち、液滴吐出ヘッド20はX軸方向に走査されつつ、紫外線硬化型インクを吐出する。したがって、ユニットプレート23がX軸方向に走査された際、走査方向に対して後側に位置する照射装置80から記録媒体10に向けて紫外線を照射することにより、記録媒体10上に着弾している紫外線硬化型インクに対して紫外線を照射することができるようになっている。
【0065】
ここで、紫外線光源としては、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ等を用いることができる。また、紫外帯域で発光するLEDを用いることもできる。
【0066】
このような紫外線光源から照射される紫外線によって硬化する紫外線硬化型インクとしては、ビヒクル、光重合開始剤および顔料の混合物に、消泡剤、重合禁止剤等の補助剤を添加して調合されたものが挙げられる。ビヒクルは、光重合硬化性を有するオリゴマー、モノマー等を、反応性希釈剤により粘度調整して調合される。したがって、インクを硬化させ目的で溶媒を揮発させることはない。
【0067】
ビヒクルとしては、単官能あるいは多官能の重合性化合物が使用できる。より具体的には、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等のオリゴマー(プレポリマー)を例示でき、インクとしての粘度を調整する反応性希釈剤もこれらの材料を用いることができる。
【0068】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系、チオキサントン系が広く用いられる。より具体的には、4−benzoyl−N,N,N−trimethyl benzene methaneannmonium chloride、2−hydroxy 3−(4−benzoyl−phenoxy)−N,N,N− trimethyl 1−propane annmonium chloride、4−benzoyl−N,N−dimethyl N−[2− (1−oxo−2−propenyloxy) ethyl] benzene methammonium bromide等、第4級アンモニウム塩型の水溶性有機物等を用いることができる。この種の光重合開始剤は、その組成に応じて、紫外線吸収特性、反応開始効率、黄変性等が異なるので、インクとしての色等に応じて使い分けられる。
【0069】
重合禁止剤としては、ラジカル捕捉能力を有してラジカル重合を阻害する化合物であれば何れも使用できる。ただし、インクジェット式記録装置における吐出適性等を配慮すると、ハイドロキノン類、カテコール類、ヒンダードアミン類、フェノール類、フェノチアジン類、縮合芳香族環のキノン類から選択された少なくとも1種類以上の化合物が好ましい。
【0070】
ハイドロキノン類としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、1−o−2,3,5−トリメチルハイドロキノン、2−tert−ブチルハイドロキノン等を例示できる。カテコール類としては、カテコール、4−メチルカテコール、4−tert−ブチルカテコール等を例示できる。ヒンダードアミン類としては、テトラメチルピペリジニル基を有する化合物等を例示できる。
【0071】
また、フェノール類としては、フェノール、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸アルキルエステル等を例示できる。フェノチアジン類としては、フェノチアジン等を例示できる。前記縮合芳香族環のキノン類としては、ナフトキノン等を例示できる。
【0072】
さらに、重合禁止剤は、カーボンブラックまたは表面に重合防止官能基を導入した無機・有機微粒子であってもよい。重合防止官能基としては、例えば、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、テトラメチルピペリジニル基、縮合芳香族環等を例示できる。
【0073】
なお、このような紫外線硬化型インクとしては、顔料や染料等の色成分を含む、色材としてのカラーインクが挙げられるが、アンダーコート、オーバーコートを行うためのクリアインクを挙げることもできる。すなわち、本発明では、紫外線硬化型インク、つまり紫外線硬化性を有する成分を含む流体として、前記のカラーインクとクリアインクの両方を含んでいる。
【0074】
このような構成からなる流体噴射装置1によって記録媒体10に画像を印刷(記録)する場合、予め吸着テーブル33aの保持面33bの光変調部60を目的に応じたものにセットしておく。例えば、図3(a)に示した画像に対して木目調を付与し、図3(b)に示したように木目調60aを取り込んだ画像を形成したい場合には、図2に示したような光変調部60を有する保持面33bをセットする。そして、X軸走査機構11によってヘッドユニット21の液滴吐出ヘッド20をX軸方向に走査させ、かつ、Y軸走査機構42によって記録媒体10における吸着テーブル33aの保持面33bに吸着保持された部位をY軸方向に走査させつつ、液滴吐出ヘッド20から紫外線硬化型インクを記録媒体10に向けて吐出し、着弾させる。
【0075】
このようにして紫外線硬化型インクを記録媒体10に着弾させた後、照射装置80の紫外線光源から記録媒体10に向けて紫外線を照射する。すると、紫外線光源からの紫外線の一部は記録媒体10上に着弾している紫外線硬化型インクを直接照射し、これの硬化を進ませる。また、紫外線光源からの紫外線の残部は透光性の記録媒体10を透過し、吸着テーブル33aの保持面33bで反射される。
【0076】
その際、保持面33bには光変調部60が設けられているので、この保持面60で反射した反射光には光変調部60によって所定の変調パターンが付与される。したがって、この変調パターンが付与された反射光が再度記録媒体10上の紫外線硬化型インクに照射されることにより、紫外線硬化型インクの硬化はさらに進むものの、その硬化には前記の変調パターンが影響されるようになる。
【0077】
すなわち、光変調部60による木目調の変調パターンが硬化後の紫外線硬化型インクに反映され、記録媒体10上に得られる画像に、図3(b)に示したように微妙な色合いや濃淡による木目調60aが表現されるようになる。
ここで、微妙な色合いや濃淡は、主にカラーインクによって表現されるものの、アンダーコート、オーバーコートを行うためのクリアインクによっても、光沢の違いなどによって微妙な濃淡が表現されるようになる。
【0078】
図6(a)、(b)は、反射光における反射率の差異により、紫外線硬化型インクの硬化に影響が与えられ、これによって微妙な色合いや濃淡が表現されるメカニズムを説明するための図である。
図6(a)、(b)は、記録媒体10上に着弾した一つのドット(液滴)Dが、紫外線の反射光を受けて硬化した状態を示しており、(a)は反射率が高い部位を反射した高い強度の紫外線を受けて硬化した状態を示し、(b)は反射率が低い部位を反射した低い強度の紫外線を受けて硬化した状態を示している。
【0079】
高い強度の紫外線を受けて硬化した(a)では、ドット(液滴)Dがその流動性によって広がる前に粘度が高まり、硬化するので、記録媒体10の面方向にあまり広がらずに比較的高い山状になる。一方、低い強度の紫外線を受けて硬化した(b)では、ドット(液滴)Dがその流動性によって比較的大きく広がった後に粘度が高まり、硬化するので、記録媒体10の面方向に十分に広がった、低い山状になる。
【0080】
したがって、光変調部60による変調パターンが硬化後の紫外線硬化型インクに反映されると、変調パターンが反映されたインクは(a)あるいは(b)の状態で硬化し、変調パターンが反映されないインクは逆の状態で硬化する。よって、単なる色材についての色の違いや、液滴量の多少による打ち分けとは異なる印刷(記録)を行うことができる。その結果、(a)と(b)とがなすインクの硬化の仕方の違いにより、微妙な色合いや濃淡が表現されるようになる。
【0081】
よって、本実施形態の流体噴射装置1にあっては、吸着テーブル33a(媒体保持部)の記録媒体10を保持する側の保持面33bに光変調部60を設けているので、光変調部60による所定の変調パターンを硬化後の紫外線硬化型インク(流体)に反映させ、記録媒体10上に得られる画像に微妙な色合いや濃淡を表現することができる。
【0082】
また、光変調部を備える保持面33bの一部あるいは全部を、例えば吸着テーブル33aに対して着脱可能に構成しておけば、光変調部を取り替えて変調パターンを変えることにより、記録媒体上に得られる画像の微妙な色合いや濃淡の表現を変化させることができる。
また、光変調部を備える保持面33bの一部あるいは全部を、吸着テーブル33aに対して固定した場合、例えば光変調部による変調パターンを、吸着テーブル33aを備える流体噴射装置を表す固有のパターンとすれば、記録媒体10上に得られる画像に反映された変調パターンを視認することで、この記録媒体10に対して画像形成を行った流体噴射装置を特定することができるようになる。
【0083】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、本発明の流体噴射装置を、連続した長尺な記録媒体に対して印刷を行う印刷装置に適用したが、本発明はこれに限定されることなく、例えば対象とする記録媒体としては長尺なものでなく矩形状の透光性基板とすることもできる。また、このような透光性基板としては、前述した透光性の樹脂以外に、ガラス基板を対象とすることもできる。
また、前記実施形態では、照射装置80は、サブキャリッジ28又はユニットプレート23に固定され、X軸走査機構11によってヘッドユニット21をX軸方向に走査させるシリアル型の印刷装置に適用したが、本発明はこれに限定されることなく、ヘッドキャリッジの長さが記録媒体10の印刷領域の幅方向の長さ以上であるヘッドキャリッジ、いわゆるラインヘッドを採用してもよい。また、記録媒体10の印刷領域の幅方向の長さ以上の長さを有する照射装置、いわゆる、ライン状の照射装置を採用してもよい。
また、前記実施形態では、本発明を主に工業的な用途の流体噴射装置に適用した場合について説明したが、民生用途のプリンターに本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0084】
1…流体噴射装置、10…記録媒体、20…液滴吐出ヘッド(噴射ヘッド)、33a…吸着テーブル(媒体保持部)、33b…保持面、60…光変調部、60a…木目調、80…照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性の記録媒体を保持する媒体保持部と、紫外線硬化性を有する成分を含む流体を前記媒体保持部に保持された前記記録媒体に向けて噴射する噴射ヘッドと、前記媒体保持部に保持された前記記録媒体に向けて紫外線を照射する照射装置と、を備える流体噴射装置であって、
前記媒体保持部の前記記録媒体を保持する側の保持面には、前記照射装置から照射され、前記記録媒体を透過してきた紫外線の反射率に差異を生じさせ、所定の変調パターンを有する反射光としてこれを前記記録媒体に反射する光変調部が設けられていることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
前記光変調部は、前記媒体保持部における前記保持面全体を構成するものとなっており、かつ、前記媒体保持部に対して着脱可能になっており、
前記光変調部として、異なる変調パターンからなる複数種のものを備えていることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項3】
前記光変調部は、前記媒体保持部における前記保持面の一部を構成するものとなっており、かつ、前記媒体保持部に対して着脱可能になっており、
前記光変調部として、異なる変調パターンからなる複数種のものを備えていることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項4】
前記光変調部は、前記媒体保持部における前記保持面の一部または全部を構成するものとなっており、かつ、前記媒体保持部に対して固定されたものとなっていることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。
【請求項5】
前記光変調部は、前記記録媒体を前記保持面に吸着保持するための、吸着用凹部からなっていることを特徴とする請求項1記載の流体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−55832(P2012−55832A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201796(P2010−201796)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】