説明

流体装置

【課題】筐体の一部を構成する部材の微小な反りを低減し、流体制御の信頼性を向上させた流体装置を提供する。
【解決手段】弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6(第2の部材)とコーティング膜における2つの長辺の部位のそれぞれが、長辺の部位の長手方向に沿って長辺の部位の短手方向の両側から複数の切り欠きが長辺の部位の中心線に重なるように形成されている。そのため、発熱によってコーティング膜及び第2の部材がA方向に膨張する時、コーティング膜及び第2の部材における各切り欠きの両側の部位が各切り欠きの領域へ伸びる方向に力が加わる。さらに、冷却によってコーティング膜及び第2の部材がB方向に収縮する時、コーティング膜及び第2の部材における各切り欠きの両側の部位が各切り欠きの領域から縮む方向に力が加わる。よって、冷却後、第1の部材と第2の部材との接合部分全体に残留する応力が低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体の通過する内部流路を設けた筐体を備え、当該流体の流れを制御する流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンのような小型の電子機器において、流体制御を必要とする燃料電池や液冷装置などを設けることがある。これらの燃料電池や液冷装置などにおいて、流体制御を担う流体装置が流路の一部に設けられる。例えば特許文献1には、以下に示す構造の圧電弁9が開示されている。
【0003】
図1は、特許文献1の圧電弁9の構造を説明する分解斜視図である。図2、図3は、弁開閉時の圧電弁9における長尺方向に平行な断面を示す図である。圧電弁9は、図1に分解斜視するように、弁室天板102、弁室上壁板103、弁座104、弁体板105、弁室下壁板106、および弁室底板107を備え、それらを順に積層した構造を有している。
【0004】
弁体板105は、表裏面に電極(図示せず)が形成されている圧電素子105Bと、樹脂フィルム材105Aとからなり、圧電素子105Bのうち流体にさらされる領域は樹脂フィルム材105Aによって被覆されている。また、圧電素子105の一方端面には圧電素子105Bの表裏面に形成された電極に電気信号を加える配線140が設けられている。また、弁体板105は天面視して概略長方形であり、長尺方向に並行する2本のスリット30aが形成されている。2本のスリット30aは、弁室の一部である側方弁室を形成する。
弁室上壁板103は、天面視して概略長方形の枠体である。弁室上壁板103は、弁室下壁板106と天面視形状が一致する。
【0005】
弁室天板102は、天面視して概略長方形である。また、弁室天板102の中央位置には流体流出用の流出口116が形成されている。そして、流出口116の弁室側の周縁にOリング状の弁座104が接着固定されている。また、弁室天板102の中央位置から弁室天板の端面側に寄った位置には流体流入用の流入口117が形成されている。
弁室底板107は、天面視して概略長方形であり、弁室の底面を構成する。
【0006】
次に、圧電弁9への駆動電圧の印加状態の変化による動作について説明する。
駆動電圧の非印加時には、図2に示すように、弁体板105は略平坦であり、中央部分が弁座104から離間しているため流出口116を開放する。一方、駆動電圧の印加時には、図3に示すように、弁体板105は弁室の天面側に屈曲し、弁座104に中央部分が接触し、流出口116を閉鎖する。
【0007】
したがって、駆動電圧の印加時には弁が閉じた状態となり、流出口116と流入口117との間における流体の流れを遮断することになる。一方、駆動電圧の非印加時には弁が開いた状態となり、流入口117から流出口116へ流体が流れることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/081767号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の圧電弁9において、弁室天板102、弁室上壁板103、弁体板105、弁室下壁板106、および弁室底板107の積層は、それぞれの板を接合することにより行われる。ここで、その接合方法には、与えられた熱によって又は発熱することによって溶融し、冷却したときにある部材(以下、第1の部材とする。)と別の部材(以下、第2の部材とする。)を溶着させる溶着法が考えられる。詳述すると、この溶着法は、第1の部材と接合する第2の部材の面に、例えば赤外線吸収剤等の膜を形成しておき、第1の部材と第2の部材を接合した状態で当該膜を赤外線レーザ光の照射等すると、赤外線吸収剤がレーザを吸収して発熱し、例えば常温に戻すことによって冷却され溶着する方法である。
【0010】
しかしながら、この溶着法を用いてそれぞれの板を接合した場合、次のような問題が発生する。例えば、図1の弁室天板102を第1の部材とし、弁室上壁板103を第2の部材として、弁室上壁板103のうち弁室天板102との接合面側に膜を形成して赤外線レーザ溶着により接合する場合、弁室上壁板103と膜が図1に示すAの方向へ膨張し、冷却によって弁室上壁板103と膜が図1に示すBの方向へ収縮するため、冷却後、弁室天板102と弁室上壁板103との接合部分に応力が残留してしまう。そのため、この応力により弁室天板102と弁室天板103に微小な反りが生じてしまう。
【0011】
よって、上記特許文献1の圧電弁9において、弁室天板102、弁室上壁板103、弁体板105、弁室下壁板106、および弁室底板107を上記溶着法で溶着した場合、それぞれの板に微小な反りが生じる可能性があった。従って、上記特許文献1の圧電弁9を含む流体装置を上記溶着法で製造した場合、流体制御の十分な信頼性が得られないという問題があった。
【0012】
そこで本発明は、筐体の一部を構成する部材の微小な反りを低減し、流体制御の信頼性を向上させた流体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の流体装置は、前記課題を解決するために以下の構成を備えている。
【0014】
(1)流体の通過する内部流路を設けた筐体の一部を構成する第1の部材と、
前記筐体の一部を構成し、前記第1の部材と接合する第2の部材と、を備え、
与えられた熱によって又は発熱することによって溶融し、冷却したときに前記第1の部材と前記第2の部材を溶着させる膜が、前記第2の部材の前記第1の部材と接合する面に形成され、
前記膜及び/又は前記第2の部材は、
前記膜及び/又は前記第2の部材の第1の方向に沿って、前記膜又は前記第2の部材の前記第1の方向に対して垂直な第2の方向の両側から複数の切り欠きが形成されており、
前記切り欠きは前記膜の第2の方向の中心線に重なるように延びている形状である。
【0015】
この構成において、第1の部材と第2の部材は、例えば、レーザ溶着法、超音波溶着法、電磁誘導加熱溶着法、振動溶着法、熱板溶着法などにより膜又は第2の部材を加熱する又は発熱させることで、接合する。
そして、この構成では、膜又は第2の部材の加熱又は発熱によって膜又は第2の部材が膨張する時、膜又は第2の部材における各切り欠きの両側の部位が各切り欠きの領域へ伸びる方向に力が働く。さらに、膜又は第2の部材の冷却によって膜又は第2の部材が収縮する時、膜又は第2の部材における各切り欠きの両側の部位が各切り欠きの領域から縮む方向に力が働く。即ち、膜又は第2の部材の加熱又は発熱によって膨張及び収縮をする際に、各切り欠きの両側面に加わる力が各切り欠きを間に挟んで相反する方向に加わるため、切り欠きの形成領域における膜又は第2の部材の膨張又は収縮は相殺される。したがって、膜又は第2の部材の切り欠き形成領域における膨張及び収縮は実質的に抑制されることから、切り欠きを設けるほど膜又は第2の部材全体としての反りは低減される。
また、膜又は第2の部材の第1の方向両端を結ぶ一直線の部分が膜又は第2の部材に存在すると、その一直線の部分が伸縮することにより多くの応力が残留してしまう。そこで、さらに、一直線の部分ができないよう、膜の第2方向の中心線に重なるように各切り欠きを形成している。
よって、この流体装置の構造では、冷却後、第1の部材と第2の部材との接合部分全体に残留する応力が圧電弁9より低減する。従って、この流体装置の構造によれば、第1の部材と第2の部材の反りを低減し、流体制御の信頼性を向上させることができる。
【0016】
(2)前記第2の部材は、長辺の部位と短辺の部位を有する枠形状であり、
前記第1の方向は、前記長辺の部位の長手方向であり、
前記第2の方向は、前記長辺の部位の短手方向であり、
前記膜が前記長辺の部位上の面に前記長辺の部位の長手方向に沿って形成されることが好ましい。
【0017】
第1の部材と第2の部材に生じる反りは、膜の長手方向の長さが長い程、大きくなる。そのため、上記(1)の構成において、膜を用いる場合には、膜を長辺の部位上の面に長辺の部位の長手方向に沿って形成するこの構成において好適である。
【0018】
(3)前記筐体は、直方体の外形状であり、
前記第2の部材は、長方外形またはコの字形の枠形状である場合、本発明が好適に適用される。
【0019】
(4)前記第1の部材および前記第2の部材の少なくとも一方は、レーザ光を透過する材料からなり、
前記膜は、前記レーザ光を吸収して溶融する材料からなることが好ましい。
【0020】
レーザ光を膜に照射して膜を加熱するレーザ溶着法では、膜の温度を急激に上昇させるため、冷却後の残留応力が大きくなって反り量が大きくなる。そのため、上記(1)の構成は、この構成のようなレーザ溶着法において好適である。
【0021】
(5)弁室の天面を構成し、少なくともひとつの流路口が形成される弁室天面部と、
前記弁室の天面から立設する壁面を構成する弁室壁部と、
前記弁室壁部に支持される弁体両端部、および、前記弁体両端部間の弁体央部を有し、駆動電圧を印加した際に変位する弁体と、
前記流路口と前記弁体央部との間に位置する弁座と、を備え、
前記弁室壁部は、前記弁室の天面側から前記弁体両端部に接合される弁室上壁部と、前記弁室の天面と逆側から前記弁体両端部に接合される弁室下壁部と、を有し、
前記第2の部材は、前記弁体の一部を構成する部材、前記弁室上壁部および前記弁室下壁部の内の少なくとも1つであることが好ましい。
【0022】
(6)前記弁体は、圧電体を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、第1の部材と第2の部材の反りを低減し、流体制御の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】特許文献1の圧電弁9の構造を説明する分解斜視図である。
【図2】電圧非印加時の図1の圧電弁9の断面図である。
【図3】電圧印加時の図1の圧電弁9の断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る圧電弁1の構造を説明する分解斜視図である。
【図5】図4の圧電弁1に備えられる弁室上壁板3、弁体板5の側板5C、及び弁室下壁板6の上面図である。
【図6】図4の圧電弁1の動作を説明する断面図である。
【図7】図4(B)の弁体板5の製造方法を説明する図である。
【図8】図4の圧電弁1に備えられる弁体板5の側板5Cの上面に形成されたコーティング膜60の上面図である。
【図9】図4(A)の圧電弁1の製造方法を説明する図である。
【図10】比較例であり圧電弁1の変形例である圧電弁8の側板5C′の上面図である。
【図11】圧電弁8の側板5C′及び上面板5Aの接合体の反り量と圧電弁1の側板5C及び上面板5Aの接合体の反り量とを測定した実験結果を説明する図である。
【図12】図8(B)に示す線幅Xと線幅Yとピッチ間隔Pと切り欠き数と反り量との関係を示す図である。
【図13】図13(A)は、線幅Xと反り量との関係を示すグラフであり、図13(B)は、図13(A)に示すグラフの「線幅X=0〜1.0」の区間を拡大したグラフである。
【図14】切り欠きの個数と反り量との関係を示すグラフである。
【図15】線幅Yと線幅Xとピッチ間隔Pと反り量との関係を示す図である。
【図16】線幅Xとピッチ間隔Pを固定し、線幅Yのみ変更した場合における線幅Yと反り量との関係を示すグラフである。
【図17】本発明の第2の実施形態に係る圧電弁に備えられる弁体板5の側板5C′の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
《第1の実施形態》
以下、本発明の第1の実施形態に係る圧電弁1について説明する。
なお、ここでは、弁体として圧電体の駆動により屈曲変形するものを用いるが、圧電体を用いずに電磁弁構造としてもよく、単なる逆止弁構造としてもよい。また、ここでは、流体装置として弁構造のものを用いるが、ポンプ構造のものやブロア構造のものを用いてもよい。また、流体が、気体や、液体、気液混合流、固液混合流、固気混合流などのいずれであっても適用できる。
【0026】
図4は、第1の実施形態に係る圧電弁構造1の分解斜視図である。
直方体の圧電弁構造1は、図4(A)に分解斜視するように、弁室天板2、弁室上壁板3、弁座4、弁体板5、弁室下壁板6、および弁室底板7を備え、それらを天面側から底面側にかけて順に積層し接合した構成である。
【0027】
弁体板5は天面視して概略長方外形であり、長尺方向に並行する2本の溝が形成されている。溝の内側は本発明の弁室の一部を構成する側方弁室13である。溝と溝との間に挟まれた部位は本発明の弁体の一部を構成する梁状部11である。梁状部11を囲む枠状の部位は枠状部12であり、枠状部12における梁状部11からの延長上の部位も本発明の弁体の一部を構成する。弁体における弁室上壁板3または弁室下壁板6に接触しない部位が本発明の弁体央部であり、接触する部位が本発明の弁体両端部である。
【0028】
弁室上壁板3は天面視して概略長方外形、長方内形の枠体であり、弁体板5における枠状部12と天面視形状が一致し、本発明の弁室上壁部を構成する。枠体の内側は本発明の弁室の一部を構成する上方弁室14である。
【0029】
弁室下壁板6は天面視して概略長方外形、長方内形の枠体であり、本発明の弁室下壁部を構成する。枠体の内側は本発明の弁室の一部を構成する下方弁室15である。この弁室下壁板6は詳細を後述するが本実施形態の特徴的な構成であり、枠状部12および弁室上壁板3と天面視した外形状が一致するが、内形状が相違し、下方弁室15の長尺方向の両端が、上方弁室14における長尺方向の両端よりも内側に位置する。
【0030】
弁座4は、円環状であり、上方弁室14に収められる大径部と、流路口16に嵌合される小径部を備えている。
【0031】
弁室天板2は天面視して概略長方形であり、本発明の弁室天面部を構成する。弁室天板2の四隅それぞれには外部固定用のねじ穴を形成している。また、中央に流体流入用(または流体流出用)の流路口16を形成している。また、前述の側方弁室13に対面し、弁室の隅部分となる位置に流体流出用(または流体流入用)の流路口17を形成している。
弁室底板7は、天面視して概略長方形であり、弁室の底面を構成する。
【0032】
また弁体板5は、図4(B)に分解斜視するように、上面板5A、圧電体5B、側板5C、下面板5D、およびコネクタ部5Eを備え、上面板5A、側板5C、下面板5Dを天面側から底面側にかけて順に積層した構成である。圧電体5Bは天面視して長方形であり、側板5Cは天面視して切り欠きが設けられたコの字状であり、側板5Cの切り欠き内に圧電体5Bが収められる。また、圧電体5Bの一端は切り欠き内から突出し、そこにコネクタ部5Eが設けられる。圧電体5Bの両面それぞれには電極が設けられ、コネクタ部5Eにそれぞれ電気的に接続される。また、圧電体5Bの表面にはコーティング材によりコーティングすることにより撥水性が付与されている。コネクタ部5Eを介して圧電体5Bに駆動電圧を印加することにより、この弁体板5は底面側に凸に屈曲する。
【0033】
また弁室底板7は、図4(C)に分解斜視するように、上面板7A、中間板7B、およびコネクタ固定板7Cを備え、それらを天面側から底面側にかけて順に積層した構成である。コネクタ固定板7Cにはコネクタ部5Eを固定するねじ穴を設けている。
【0034】
図5(A)は、図4の圧電弁1に備えられる弁室上壁板3の上面図であり、図5(B)は、弁体板5の側板5Cの上面図であり、図5(C)は、弁室下壁板6の上面図である。ここで、各板の長辺の部位の長手方向が本発明の「第1の方向」に相当し、各板の長辺の部位の短手方向が本発明の「第2の方向」に相当する。
【0035】
弁室上壁板3は、向かい合う2つの長辺の部位のそれぞれが、長辺の部位の長手方向に沿って長辺の部位の短手方向の両側から交互に複数の切り欠きが長辺の部位の短手方向の中心線Cに重なるように形成されている。その結果、前記弁室上壁部はミアンダ状になっている。弁室下壁板6も、向かい合う2つの長辺の部位のそれぞれが、弁室上壁板3と同じミアンダ状に形成されている。また、弁体板5の側板5Cも、向かい合う2つの長辺の部位における2本の溝の外側部位が弁室上壁板3と同じミアンダ状に形成されている。
【0036】
ここで、「切り欠きが長辺の部位の短手方向の中心線に重なるように形成されている」とは、切り欠きの端縁が弁室上壁板3の長辺の部位の短手方向の中心線と完全に一致している必要はなく、中心線を超えていてもよい。但し、全ての切り欠きが、弁室上壁板3の長辺の部位の短手方向の中心線に重なるように形成されている必要はないが、切り欠きの合計数の1/2以上の切り欠きが上記条件を満たしていることが好ましい。
【0037】
次に、圧電弁1への駆動電圧の印加状態の変化による動作について説明する。図6は、圧電弁1における長尺方向に平行な断面の模式図である。なお、ここでは流路口16を流入用、流路口17を流出用として説明する。
弁体板5の圧電素子5Bに対する駆動電圧の非印加時には、図6(A)に示すように、梁状部11は略平坦であり、弁座4に中央部分が接触し、流路口16を閉鎖する。一方、弁体板5の圧電素子5Bに対する駆動電圧の印加時には、図6(B)に示すように、梁状部11は弁室の天面と逆側に屈曲し、中央部分が弁座4から離間して流路口16を開放する。
【0038】
したがって、駆動電圧の印加時には、順流、逆流を問わずに、流路口16と流路口17との間で流体が流れることになる。一方、駆動電圧の非印加時には、流路口17から流路口16への逆流、および、流路口16から流路口17への所定の流体圧未満の順流を遮断することになる。
【0039】
なお、流路口16から流路口17への順流が所定の流体圧以上であれば流体圧によって梁状部11は撓み、その際、順流が流れることになる。順流の流体圧の閾値は主に梁状部11の剛性によって定まる。
【0040】
次に、圧電弁1の製造方法について説明する。まず、圧電弁1を構成する弁体板5の製造方法について説明する。図7は、図4(B)の弁体板5の製造方法を説明する図である。図8(A)(C)(D)は、図4の圧電弁1に備えられる弁体板5の側板5Cの長辺の部位の上面に形成されるコーティング膜60の上面図であり、図8(B)は、図8(A)の一部を拡大した拡大上面図である。
【0041】
弁体板5の製造フローでは、上面板5Aと、圧電体5Bが収められた側板5Cと、下面板5Dとを予め用意する。ここで、上面板5A、側板5C及び下面板5Dは、赤外線レーザ光を透過する樹脂で形成する。当該樹脂は、例えばPET(Polyethylene Terephthalate)、PPS(Polyphenylene sulfide)、COC(Cyclic OlefinCopolymer)であり、赤外線の透過率が20%以上のものを選択すればよい。ここで、上面板5A及び下面板5Dは本発明の「第1の部材」に相当する。また、側板5Cは本発明の「第2の部材」に相当する。本発明の「第2の部材」に相当する側板5Cの上下面には、赤外線レーザ光を吸収して発熱することで溶融し、冷却したときに第1の部材と第2の部材を溶着させるコーティング膜60を赤外線吸収剤で予め形成しておく。ここで、このコーティング膜60は、図5(B)に示す側板5Cの長辺の部位の上下面に形成されることになる(図8(A)参照)。そのため、コーティング膜60は、コーティング膜60の長手方向に沿ってコーティング膜60の短手方向の両側から交互に複数の切り欠きがコーティング膜60の短手方向の中心線に重なるようミアンダ状に形成される。
【0042】
まず、配置ステージ52上に側板5C、上面板5Aの順に重ねた状態で、押さえガラス51で上面板5Aを押さえこむ。そして、押さえガラス51を介して赤外線レーザ光53(例えば、スポット径2mm)を側板5Cに照射する。これにより、局所加熱、局所加圧した状態で側板5Cのコーティング膜60を発熱させて側板5Cと上面板5Aとを溶着して接合体を構成する(S1)。
【0043】
次に、押さえガラス51を外して、上面板5A、側板5Cの順番が逆になるように接合体を裏返し、上面板5Aの上に側板5C、下面板5Dの順に重ねた状態とする(S2)。
【0044】
次に、押さえガラス51で今度は下面板5Dを押さえ込む。そして、押さえガラス51を介して赤外線レーザ光53を側板5Cのコーティング膜60の長手方向に沿って照射する。これにより、局所加熱、局所加圧した状態で側板5Cのコーティング膜60を発熱させて下面板5Dと側板5Cとを溶着して接合体を構成する(S3)。
【0045】
図9は、図4(A)の圧電弁1の製造方法を説明する図である。
圧電弁1の製造フローでは、積層構造の弁室天板2、弁室上壁板3、弁体板5、弁室下壁板6及び弁室底板7を予め用意する。ここで、弁室天板2、弁室上壁板3、弁室下壁板6及び弁室底板7は、赤外線レーザ光を透過する樹脂で形成する。当該樹脂は、例えばPET(Polyethylene Terephthalate)、PPS(Polyphenylene sulfide)、COC(Cyclic OlefinCopolymer)であり、赤外線の透過率が20%以上のものを選択すればよい。なお、弁室天板2、弁体板5及び弁室底板7は本発明の「第1の部材」に相当する。また、弁室上壁板3及び弁室下壁板6は本発明の「第2の部材」に相当する。
【0046】
また、弁室上壁板3の上下面には、赤外線レーザ光を吸収して発熱することで溶融し、冷却したときに第1の部材と第2の部材を溶着させるコーティング膜60を赤外線吸収剤で予め形成しておく。同様に、弁室下壁板6の上下面にも、同コーティング膜60を赤外線吸収剤で予め形成しておく。ここで、このコーティング膜60は、図5(A)に示す弁室上壁板3の長辺の部位の上下面と、図5(C)に示す弁室下壁板6の長辺の部位の上下面とに形成されることになる。そのため、コーティング膜60は、コーティング膜60の長手方向に沿ってコーティング膜60の短手方向の両側から交互に複数の切り欠きがコーティング膜60の短手方向の中心線に重なるようミアンダ状に形成される。
【0047】
まず、配置ステージ52上に弁体板5、弁室上壁板3、弁室天板2の順に重ねた状態で、押さえガラス51で弁室天板2を押さえこむ。そして、押さえガラス51を介して赤外線レーザ光53を弁室上壁板3のコーティング膜60の長手方向に沿って照射する。これにより、局所加熱、局所加圧した状態でコーティング膜60を発熱させて弁体板5と弁室上壁板3と弁室天板2とを溶着して接合体を構成する(S11)。
【0048】
次に、押さえガラス51を外して、弁体板5、弁室上壁板3、弁室天板2の順番が逆になるように接合体を裏返し、弁体板5の上に弁室下壁板6、弁室底板7の順に重ねた状態とする(S12)。
【0049】
次に、押さえガラス51で今度は弁室底板7を押さえ込む。そして、押さえガラス51を介して赤外線レーザ光53を弁室下壁板6のコーティング膜60の長手方向に沿って照射する。これにより、局所加熱、局所加圧した状態でコーティング膜60を発熱させて弁体板5と弁室下壁板6と弁室底板7とを溶着して接合体を構成する(S13)。
【0050】
ここで、上述の弁体板5の製造方法(図7参照)、及び上述の圧電弁1の製造方法(図9参照)では、それぞれの板を接合する際に、レーザ光を吸収して発熱することで溶融し、冷却したときに第1の部材と第2の部材を溶着させるコーティング膜60を用いた溶着法を用いている。
【0051】
しかしながら、この実施形態では、コーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6における、向かい合う2つの長辺の部位のそれぞれが、長辺の部位の長手方向に沿って長辺の部位の短手方向の両側から複数の切り欠きが長辺の部位の短手方向の中心線Cに重なるように形成されている。
【0052】
そのため、コーティング膜60がレーザ光を吸収して発熱することによってコーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6がA方向に膨張する時、コーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6における各切り欠きの両側の部位が各切り欠きの領域へ伸びる方向に力が加わる(例えば図8(C)参照)。さらに、冷却によってコーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6がB方向に収縮する時、コーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6における各切り欠きの両側の部位が各切り欠きの領域から縮む方向に力が加わる(例えば図8(D)参照)。即ち、コーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6が膨張及び収縮をする際に、各切り欠きの両側面に加わる力が各切り欠きを間に挟んで相反する方向に加わるため、切り欠きの形成領域におけるコーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6の膨張又は収縮は相殺される。したがって、コーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6の切り欠き形成領域にける膨張及び収縮は実質的に抑制されることから、切り欠きを設けるほどコーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6の全体としての反りは低減される。
【0053】
また、コーティング膜60、弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6の長手方向両端を結ぶ一直線の部分が存在すると、その一直線の部分が伸縮することにより多くの応力が残留してしまう。そこで、さらに、一直線の部分ができないよう、中心線Cに重なるように各切り欠きを形成している。
【0054】
よって、この実施形態の圧電弁1の構造では、冷却後、第1の部材と第2の部材との接合部分全体に残留する応力が従来例の圧電弁9より低減する。従って、この実施形態の圧電弁1の構造によれば、第1の部材と第2の部材の反りを低減し、流体制御の信頼性を向上させることができる。
【0055】
続いて、反りの低減量について説明する。まず、比較例であり圧電弁1の変形例である圧電弁8について説明する。
【0056】
図10は、比較例であり圧電弁1の変形例である圧電弁8の側板5C′の上面図である。圧電弁8は、上述の切り欠きを設けていない側板5C′を備える点で圧電弁1と相違し、その他の構成については圧電弁1と同じである。そのため、圧電弁8では、コーティング膜61が、側板5C′の表面全面に長手方向に沿って直線状に形成される(図11の概略図参照)。
【0057】
次に、圧電弁8の側板5C′及び上面板5Aの接合体の反り量と圧電弁1の側板5C及び上面板5Aの接合体の反り量とを比較する。なお、ここでは、圧電弁1の弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6の形状が略同じであるため、これらを代表して側板5C及び上面板5Aの接合体について以下説明する。
【0058】
図11は、圧電弁8の側板5C′及び上面板5Aの接合体の反り量と圧電弁1の側板5C及び上面板5Aの接合体の反り量とを測定した実験結果を説明する図である。上述の図7のS1において赤外線レーザ光53を側板5C′のコーティング膜61と側板5Cのコーティング膜60とに照射した条件で、常温冷却した後、圧電弁8の側板5C′及び上面板5Aの接合体の反り量と圧電弁1の側板5C及び上面板5Aの接合体の反り量とを測定した実験結果について以下説明する。
なお、この時の、側板5C及び5C´の長手方向の長さは25mm、短手方向の長さは1mmである。また、側板5Cの切り欠きの幅は0.5mmであり、切り欠きのピッチは2mmであり、切り欠きは交互に24個形成した。また、赤外線レーザ光の照射出力は30Wであった。
【0059】
切り欠き無し型の圧電弁8に備えられる接合体では、反り量がFEM(Finite Element Method)の計算値で515[μm]、実測値で463[μm]であるのに対し、切り欠き有り型の圧電弁1に備えられる接合体では、反り量がFEMの計算値で412[μm]、実測値で338[μm]であった。即ち、本実施形態の圧電弁1の構造によれば、切り欠き無し型の圧電弁8と比べ反り量が大幅に低減していることが実験により明らかとなった。
【0060】
続いて、圧電弁1の側板5C及び上面板5Aの接合体の反り量とコーティング膜60の線幅X又は線幅Y(図8(B)参照)との関係について説明する。ここで、線幅Xとは切り欠きと切り欠きの間の長手方向の長さであり、線幅Yとはコーティング膜60の短手方向の幅LYから切り欠き幅を除いた長さである。なお、ここでは、圧電弁1の弁室上壁板3、側板5C、及び弁室下壁板6の形状が略同じであるため、これらを代表して側板5C及び上面板5Aの接合体について以下説明する。
【0061】
図12は、図8(B)に示す線幅Xと線幅Yとピッチ間隔Pと切り欠き数と反り量との関係を示す図である。特に、線幅Yを固定し、線幅X、ピッチ間隔P及び切り欠き数を変更した場合の反り量の関係を示す図である。図13(A)は、図12で示した線幅Xと反り量との関係を示すグラフであり、図13(B)は、図13(A)に示すグラフの「線幅X=0〜1.0」の区間を拡大したグラフである。図14は、図12で示した切り欠きの個数と反り量との関係を示すグラフである。ここで、図12の図は、線幅Xを変化させた時のピッチ間隔Pと切り欠き数と反り量とをFEMで算出した結果を表わしており、図13(A)(B)のグラフは、線幅Xを変化させた時の反り量をFEMで算出した結果を表わしている。この測定結果により、線幅Yが細く、切り欠き個数が多いほど、反り量が減少することが明らかとなった。また、図13(B)より、「線幅X=0〜0.2」の区間で反り量が特に減少することが明らかとなった。
【0062】
図15は、線幅Xとピッチ間隔Pを固定し、線幅Yのみ変更した場合における線幅Yと線幅Xとピッチ間隔Pと反り量との関係を示す図である。図16は、図15で示した線幅Yと反り量との関係を示すグラフである。ここで、図15の図は、線幅Yを変化させた時のピッチ間隔Pと切り欠き数と反り量とをFEMで算出した結果を表わしており、図16のグラフは、線幅Yを変化させた時の反り量をFEMで算出した結果を表わしている。この測定結果により、線幅Yが細くなるに従って反り量が減少することが明らかとなった。
【0063】
《第2の実施形態》
図17は、第2の実施形態に係る圧電弁に備えられる弁体板5の側板5C′の上面図である。この実施形態に係る圧電弁が、上記第1の実施形態に係る圧電弁1と相違する点は、第2の部材には切り欠きを設けず、コーティング膜のみに切り欠きを設けた点である。この実施形態では、例えば図17に示すように、切り欠きを設けていない側板5C′の上下面に、切り欠きを設けたコーティング膜62を赤外線吸収剤で形成している。詳述すると、コーティング膜62は、天面視して、コーティング膜62の長手方向に沿ってコーティング膜62の短手方向の両側から交互に複数の切り欠きがコーティング膜62の短手方向の中心線に重なるように形成されている。
【0064】
そのため、この実施形態の圧電弁の構造では、コーティング膜62がレーザ光を吸収して発熱することによってコーティング膜62及び側板5C′が膨張及び収縮をする際に、各切り欠きの両側面に加わる力が各切り欠きを間に挟んで相反する方向に加わるため、切り欠きの形成領域におけるコーティング膜62及び側板5C′の膨張又は収縮は相殺される。
【0065】
従って、この実施形態の圧電弁の構造によれば、上記第1の実施形態に係る圧電弁1と同様の効果が得られる。
なお、この実施形態に係る圧電弁の反りの低減量に関しては、上記第1の実施形態に係る圧電弁1と同様の低減量が確認された。
【0066】
《その他の実施形態》
以上の実施形態では、第2の部材における長辺の部位の上下面に長辺の部位の長手方向に沿って膜を形成しているが、実施の際は、第2の部材における短辺の部位の上下面に短辺の部位の長手方向に沿って膜を形成しても構わない。
【0067】
また、上述の弁体板5の製造方法(図7参照)、及び上述の圧電弁1の製造方法(図9参照)においてそれぞれの板を接合する際に、レーザ光をコーティング膜に照射してコーティング膜を発熱させるレーザ溶着法を採用しているが、実施の際は、その他の溶着法でコーティング膜に熱を与えても構わない。例えば、超音波溶着法、電磁誘導加熱溶着法、振動溶着法、熱板溶着法などの溶着法を採用し、コーティング膜に熱を与えても構わない。
【0068】
なお、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1、8、9…圧電弁
2…弁室天板
3…弁室上壁板
4…弁座
5…弁体板
5A…上面板
5B…圧電体
5C…側板
25C…側板
35C…側板
45C…側板
5D…下面板
5E…コネクタ部
6…弁室下壁板
7…弁室底板
7A…上面板
7B…中間板
7C…コネクタ固定板
11…梁状部
12…枠状部
13…側方弁室
14…上方弁室
15…下方弁室
16…流路口
17…流路口
51…ガラス
52…配置ステージ
53…赤外線レーザ光
60、61、62…コーティング膜
102…弁室天板
103…弁室上壁板
104…弁座
105…弁体板
106…弁室下壁板
107…弁室底板
116…流出口
117…流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の通過する内部流路を設けた筐体の一部を構成する第1の部材と、
前記筐体の一部を構成し、前記第1の部材と接合する第2の部材と、を備え、
与えられた熱によって又は発熱することによって溶融し、冷却したときに前記第1の部材と前記第2の部材を溶着させる膜が、前記第2の部材の前記第1の部材と接合する面に形成され、
前記膜及び/又は前記第2の部材は、
前記膜及び/又は前記第2の部材の第1の方向に沿って、前記膜又は前記第2の部材の前記第1の方向に対して垂直な第2の方向の両側から複数の切り欠きが形成されており、
前記切り欠きは前記膜の第2の方向の中心線に重なるように延びている形状である流体装置。
【請求項2】
前記第2の部材は、長辺の部位と短辺の部位を有する枠形状であり、
前記第1の方向は、前記長辺の部位の長手方向であり、
前記第2の方向は、前記長辺の部位の短手方向であり、
前記膜が前記長辺の部位上の面に前記長辺の部位の長手方向に沿って形成された、請求項1に記載の流体装置。
【請求項3】
前記筐体は、直方体の外形状であり、
前記第2の部材は、長方外形またはコの字形の枠形状である、請求項2に記載の流体装置。
【請求項4】
前記第1の部材および前記第2の部材の少なくとも一方は、レーザ光を透過する材料からなり、
前記膜は、前記レーザ光を吸収して溶融する材料からなる、請求項1から3のいずれかに記載の流体装置。
【請求項5】
弁室の天面を構成し、少なくともひとつの流路口が形成される弁室天面部と、
前記弁室の天面から立設する壁面を構成する弁室壁部と、
前記弁室壁部に支持される弁体両端部、および、前記弁体両端部間の弁体央部を有し、駆動電圧を印加した際に変位する弁体と、
前記流路口と前記弁体央部との間に位置する弁座と、を備え、
前記弁室壁部は、前記弁室の天面側から前記弁体両端部に接合される弁室上壁部と、前記弁室の天面と逆側から前記弁体両端部に接合される弁室下壁部と、を有し、
前記第2の部材は、前記弁体の一部を構成する部材、前記弁室上壁部および前記弁室下壁部の内の少なくとも1つである、請求項1から4のいずれかに記載の流体装置。
【請求項6】
前記弁体は、圧電体を有する、請求項5に記載の流体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−208658(P2011−208658A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74162(P2010−74162)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】