説明

流体解析方法

【課題】任意の位置での流体の滞留時間を容易に判断することができる流体解析方法を提供する。
【解決手段】多数の微小要素で表現されるモデルを用いてコンピュータにより流体の流動状態を評価する流体解析方法であって、前記流体の流動状態を求める第1の流体解析工程と、前記第1の流体解析工程で解析された前記流体中の流れと逆向きに移動するよう設定した仮想粒子を任意の初期位置に配置し、前記流体中の前記仮想粒子の位置情報を求める第2の流体解析工程と、前記仮想粒子が前記流体の流入部に到達した時刻を前記仮想粒子の初期位置での滞留時間として、流体の流動状態を評価する流動状態評価工程とを備えたことを特徴とする流体解析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口金や押出機などの装置内を溶融した樹脂が流れる場合、樹脂がある場所で滞留して装置内に長時間滞在すると劣化してしまう可能性がある。
【0003】
そこで、樹脂の滞留時間を評価する方法として、流体解析を使った評価手法が知られている。この手法は、装置内の流体を装置の構造に合わせて多数の微小要素で分割し、流体の物性値や装置の運転条件を設定した後、コンピュータにより各微小要素における速度および圧力などの流動状態を求める。その後、仮想粒子を装置入口に所定の個数だけ配置し、流体解析により求めた速度データをもとに、仮想粒子の流跡線データを求める。これにより、流跡線上の滞留時間を求める事が出来る。(非特許文献1参照)
しかしながら、本発明者らの知見によれば、非特許文献1には配置した粒子の流跡線上の滞留時間しか求める事が出来ない。そのため、ある位置での滞留時間を求めたい場合、たまたまその位置が流跡線上にあれば滞留時間を求める事が可能だが、流跡線上になければ、その位置での滞留時間を求めることが出来ないという課題があった。装置入口に配置する仮想粒子の個数を増やせばより多くの位置での滞留時間を求める事は可能だが、それでも任意の位置での滞留時間を求める事は困難である。任意の位置での滞留時間を求めることが出来ず、流跡線上だけで滞留時間を評価した場合、実は流跡線上ではない位置で滞留時間が一番長かったとしても、それを知ることは出来ないため、誤った滞留時間の評価を行ってしまう可能性がある。
【0004】
そこで、上記課題を解決するために、装置内の全流体中から常に仮想スカラーが湧き出し、装置入口からは常にスカラー0の流体が流れ込んでくるという設定にする事により、スカラー濃度で装置内の滞留時間を評価するという方法がある。スカラー濃度は任意の位置で求める事が可能であるため、任意の位置での滞留時間を評価する事が出来る(非特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、この方法は流体の物性が密度一定でないといけないという制限や、流動状態を求める計算と同時に計算しないといけないといった制限がある。そのため、流動状態の解析結果が得られた後で、滞留時間を知りたいとなった場合は、流動状態を求める計算からやり直す必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】CD-adapco JAPAN、"USER GUIDE"、バージョン3.22
【非特許文献2】CD-adapco JAPAN、"STAR-CD FAQ"、[online]、平成13年8月9日、[平成23年2月16日検索]、インターネット〈URL:http://www.cdaj.co.jp/user/020000starcd/000136.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、任意の位置での流体の滞留時間を容易に判断することができる流体解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)多数の微小要素で表現されるモデルを用いてコンピュータにより流体の流動状態を評価する流体解析方法であって、前記流体の流動状態を求める第1の流体解析工程と、前記第1の流体解析工程で解析された前記流体中の流れと逆向きに移動するよう設定した仮想粒子を任意の初期位置に配置し、前記流体中の前記仮想粒子の位置情報を求める第2の流体解析工程と、前記仮想粒子が前記流体の流入部に到達した時刻を前記仮想粒子の初期位置での滞留時間として、流体の流動状態を評価する流動状態評価工程とを備えたことを特徴とする流体解析方法が提供される。
(2)前記仮想粒子の初期位置を微小要素の中心とし、前記流体の流動状態を評価することを特徴と前記(1)に記載の流体解析方法が提供される。
(3)前記(1)または(2)に記載の流体解析手法を備えたことを特徴とする変形解析装置が提供される。
(4)前記(1)または(2)に記載の流体解析手法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
(5)前記(4)に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【0009】
なお、本発明において、「滞留時間」とは、流体が流入部から入ってきてからの経過時間のことをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、任意の位置を初期位置とした仮想粒子を流れと逆向きに移動させ、入口に到達する時刻を算出することで、任意の位置における滞留時間を算出する事が出来る。また、流動状態を求めた流体解析結果を用いて滞留時間の評価を行うため、すでに解析結果がある場合は再計算をする必要が無く、再計算の手間を省くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態におけるモデルを示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における滞留時間評価方法を示す概略図である。
【図3】モデルを解析用の微小要素で分割した図である。
【図4】本発明の一実施形態における仮想粒子の初期投入位置を示す図である。
【図5】流動状態を求めた流体解析の結果で、流速ベクトルを示した図である。
【図6】滞留時間をコンター表示した図である。
【図7】従来の粒子追跡解析による滞留時間評価方法を示す図である。
【図8】仮想粒子の進む方向を示す図であり、(a)は流れと同じ方向に進む図であり、(b)は流れに逆向きに進む図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1の形状をモデルとし、本実施形態を適用して滞留時間を評価するための手順を説明する。流入口1より流体が進入し、流出口2より流出するようになっている。また、途中に流れを阻害する板2を設置してある。
【0014】
図2は本発明の一実施形態における滞留時間評価方法の概略手順を示すフローチャートである。
【0015】
図2に示す手順s1のモデル作成部では、図1に示すような形状に合わせて、図3のように四面体や六面体などの多面体の解析用の微小要素で分割する。分割手法は通常の流体解析と同じで良いが、滞留を懸念している位置などがある場合は、その周辺を細かく分割すると良い。そして、流体の粘度や密度などの流体物性を設定し、流入口1に流入条件、流出口2に流出条件を設定し、流速や流量などを定義する。続いてどのパラメータ(速度や圧力、温度など)の結果を出力するか、といった計算条件の設定を行う。
【0016】
図2に示す手順s2の流体解析部では、流体解析ソフトを使用して、装置内の解析用微小要素3ごとに速度および圧力などの流体の流動状態を計算する(第1の流体解析工程)。ここまでは通常の流体解析と同じで、計算結果も通常の流体解析と同様の結果が得られる。
【0017】
図2に示す手順s3の粒子追跡解析部では、図4のように初期時刻における仮想粒子4の投入個数や投入位置などを設定し、先に求めた流動状態の解析結果を用いて、仮想粒子4がこの解析結果から得た流れに逆向きに移動するという設定を行い、仮想粒子4が流入口1に到達する時刻を算出する(第2の流体解析工程)。ここで、装置内の流れを流速ベクトルで表示した図5で、仮想粒子4の移動を示すと、仮想粒子4が通常通り移動する場合は図8(a)のように進み、仮想粒子4が流れに逆向きに移動する場合は図8(b)のように進む。また、仮想粒子4を移動させる計算方法は、通常通り移動させる場合では、投入位置での流速ベクトルに任意の微小時間をかけて微小時間での移動距離と方向を求める。そして、その分だけ仮想粒子4を移動させ、その後に、移動後の位置での流速ベクトルと微小時間より、次の移動距離と方向を求める。これを繰り返すことにより、仮想粒子4の流跡線を求める事が出来る。仮想粒子4を流れに逆向きに移動させる場合もほぼ同様の方法で、移動方向のみをちょうど逆にするだけである。また、移動後の位置がちょうど微小要素の中心でない場合は、周囲の微小要素の流速ベクトルの平均で移動距離と方向を求める。これにより、仮想粒子4が流入口1から投入位置に到達するまでの時間が分かり、これが仮想粒子4を投入した位置での滞留時間に相当する。
【0018】
図2に示す手順s4の滞留時間評価部では、求めた滞留時間をコンター表示等で評価することにより、仮想粒子4の投入位置における滞留時間を評価することが出来る。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
図1に本発明を適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。計算は2次元で奥行き方向は考慮しないとする。流入口の幅は40mm、流出口の幅は10mmであり、流入口から流出口までの距離は100mmである。流体は密度997.6kg/m3、粘度0.000889kg/msの水とした。境界条件は、流入口において流速1m/sの速度一定流入境界条件を、流出口において流入した流量分が流出する流出境界条件を設定した。市販の汎用流体解析ソフト(株式会社シー・ディー・アダプコの製品「STAR−CDv4.08」)により解析を行うことで算出した。
【0020】
図5は流動状態を求めた流体解析の結果で、流速ベクトルを表示したものである。これに図4の様に各微小要素の中心に仮想粒子を初期配置し、仮想粒子は流速ベクトルに逆向きに移動するという設定を行い、入口に到達した時刻を算出することで各微小要素中心の滞留時間を求めた。本実施例ではすべての微小要素の中心に仮想粒子を初期配置することで全体の滞留時間を評価しているが、計算時間を短縮するため、滞留時間を評価した位置周辺だけに仮想粒子を初期配置し、その場所のみで評価を行っても良い。
【0021】
図6は求めた滞留時間をコンター表示したものである。色の濃さで滞留時間を表しており、板のすぐ後ろに滞留部があることが分かる。このように、任意の位置での流体の滞留時間を容易に判断することができる。よって、例えば滞留による樹脂劣化を評価したい場合、滞留時間の長い位置を容易に見つける事が出来る。また、劣化対策として装置を修正した場合でも、同様の計算を行う事により修正の効果を容易に評価出来る。
[比較例1]
従来の粒子追跡解析による滞留時間評価方法を図7に示す。図7は、流入口に仮想粒子を投入し、仮想粒子の流跡線データを求めたものである。この方法では、流跡線上の滞留時間しか求めることが出来ないため、例えば流跡線の通っていない板のすぐ後ろ側などの滞留時間を求めることが出来ない。実施例では板のすぐ後ろで一番滞留時間が長いことが分かったが、比較例ではこれが分からないため、滞留時間の評価が困難である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、口金や押出機に限らず、流体解析が可能なものであれば応用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1:流入口
2:流出口
3:解析用微小要素
4:仮想粒子
5:流れを阻害する板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の微小要素で表現されるモデルを用いてコンピュータにより流体の流動状態を評価する流体解析方法であって、前記流体の流動状態を求める第1の流体解析工程と、前記第1の流体解析工程で解析された前記流体中の流れと逆向きに移動するよう設定した仮想粒子を任意の初期位置に配置し、前記流体中の前記仮想粒子の位置情報を求める第2の流体解析工程と、前記仮想粒子が前記流体の流入部に到達した時刻を前記仮想粒子の初期位置での滞留時間として、流体の流動状態を評価する流動状態評価工程とを備えたことを特徴とする流体解析方法。
【請求項2】
前記仮想粒子の初期位置を微小要素の中心とし、前記流体の流動状態を評価することを特徴とする請求項1に記載の流体解析方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流体解析手法を備えたことを特徴とする変形解析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の流体解析手法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−176570(P2012−176570A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41401(P2011−41401)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】