説明

流体軸受装置

【課題】静電気の蓄積の防止と良好な耐久性とを両立させることのできる流体軸受装置を提供する。
【解決手段】ハードディスクドライブ用のスピンドルモータ1に用いられる流体軸受装置10において、潤滑流体17として、基油としてのエステル油と、潤滑剤組成物全体に対して0.01〜3重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物と、を含有する潤滑剤組成物を備える。これらの潤滑剤組成物により、流体軸受装置の静電気の蓄積の防止と良好な耐久性とを両立させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録媒体を回転させて記録及び再生を行うハードディスクドライブ等の記録再生装置に対しては、回転の高速化、回転精度の向上、小型化、低消費電力化等が求められている。そのため、ハードディスクドライブに用いられるスピンドルモータにおいて、軸受部の動圧流体軸受への置き換えが進められている。
【0003】
しかし、このようなハードディスクドライブでは、スピンドルモータの回転により静電気が蓄積され、この静電気により、ヘッドの損傷やエラーレートの増大等の不具合が生じることがある。
【0004】
そこで、従来、軸受の潤滑剤に導電性を付与する添加剤を配合することによって、静電気の蓄積を防止することが提案されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001‐115180号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
添加剤が配合された従来の潤滑剤には、添加剤を配合する前と比べて耐久性が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するために、
(1)軸受孔を有するスリーブと、上記スリーブの軸受孔内に上記スリーブに対して相対的に回転するよう配置された軸と、上記スリーブと上記軸との間の隙間に充填され、基油としてのエステル油と、潤滑剤組成物全体に対して0.01〜3重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物と、を含有する潤滑剤組成物と、を備える流体軸受装置;
【0007】
(2)上記潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物全体に対して0.01〜1重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物を含有する上記(1)に記載の流体軸受装置;
【0008】
(3)上記潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物全体に対して0.05〜0.3重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物を含有する上記(1)に記載の流体軸受装置;及び
【0009】
(4)上記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物は、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエートである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の流体軸受装置
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の流体軸受装置は、潤滑剤組成物が上記の構成であることにより、静電気の蓄積の防止と良好な耐久性とを両立させることが可能であるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[1]第1実施形態
(1−1)スピンドルモータ
本発明の流体軸受装置の一例として、ハードディスクドライブ用スピンドルモータにおける流体軸受装置について、以下、図面を参照して説明する。図1は本実施形態に係るスピンドルモータ1の断面図である。
【0012】
[スピンドルモータ1の構成]
本実施形態のスピンドルモータ1は、図1に示すように、円盤状の磁気記録ディスク151を回転駆動するための装置であって、主として、流体軸受装置10と、ベース18と、ステータコア19と、ロータマグネット20と、を備えている。
【0013】
流体軸受装置10は、ロータハブ15を含む回転側部材を、軸12を中心として、スリーブ11等の固定側部材に対して互いに非接触の状態でスムーズに回転させる。ロータハブ15には磁気記録ディスク151が搭載されているので、磁気記録ディスク151は軸12を中心として回転する。流体軸受装置10の構成については後述する。
【0014】
ベース18は、流体軸受装置10及びステータコア19の基台部分を形成している。そして、ベース18は、非磁性のアルミ系金属材料(例えば、ADC12)または磁性を有する鉄系金属材料(例えば、SPCC、SPCD)で形成されている。ベース18には、スリーブ11及びステータコア19が取り付けられている。
【0015】
ステータコア19は、ベース18に固定されており、その外周部がロータマグネット20の内周部に所定の隙間を保持して対向する位置に配置されている。ステータコア19は、外周に向かって複数の突極が形成されており、それらの突極にコイルがそれぞれ巻回されている。
【0016】
ロータマグネット20は、円環状の形状を有し、ロータハブ15の鍔部からの垂下円筒部の内周側の面に固定されており、コイルが巻回されたステータコア19とともに磁気回路を構成する。
【0017】
[流体軸受装置10の構成]
本実施形態に係る流体軸受装置10は、図2に示すように、スリーブ11と、軸12と、フランジ13と、スラスト板14と、ロータハブ15と、スリーブキャップ16と、潤滑流体17と、を備えている。
【0018】
スリーブ11は、軸受孔11aを有すると共に、軸受孔11aの開放端側と閉塞端側とを連通させる連通路11bを有している。スリーブ11の詳細については後述する。
図2に示すように、軸12は、スリーブ11の軸受孔11a内に、軸受孔11aの内周面と軸12の外周面との間に第1の隙間G1を形成するように、回転可能な状態で挿入されている。軸12の外周面、または、スリーブ11の軸受孔11a内周面の少なくとも一方には、動圧発生溝11c,11dが形成されている。軸12の下端部には、フランジ13が略直角に精度良く固定されている。
【0019】
フランジ13は、軸12の下端部に、軸12とフランジ13との成す角が略直角になるように、かつフランジ13の上端面がスリーブ11に対向するように配置される。また、フランジ13は、スリーブ11とフランジ13との間に隙間を形成するように配置され、この隙間は、上述の第1の隙間G1から連続している。
【0020】
さらに、フランジ13は、その下端面がスラスト板14に対向するように、かつ、フランジ13とスラスト板14との間に隙間を形成するように配置され、この隙間は、上述のスリーブ11とフランジ13との間の隙間から連続している。また、フランジ13とスラスト板14との間の隙間は、連通路11bまで連続している。
【0021】
スリーブ11のフランジ13との対向面及びフランジ13のスリーブ11との対向面の少なくとも一方には、動圧発生溝11eが形成されている。また、フランジ13のスラスト板14との対向面及びスラスト板14のフランジ13との対向面の少なくとも一方には、動圧発生溝14aが形成されている。動圧発生溝11e及び14aは、いずれか一方のみ設けられていてもよい。
【0022】
ロータハブ15には、ステータコア19に対向する位置に後述するロータマグネット20が固定されるとともに、必要に応じて磁気ディスクまたは光ディスク等の磁気記録ディスク151が取り付けられる。ロータハブ15は、スリーブ11に向かって突出するボス部15aを備えている。
【0023】
スリーブキャップ16は、中央孔16aを有しており、スリーブ11の上端面に対して固定されている。スリーブキャップ16は、スリーブ11の上面との間に第2の隙間G2を形成するように配置される。第2の隙間G2は、第1の隙間G1から連通路11bまで連続している。上述のボス部15a及び軸12は、その外周面が中央孔16aの内周面と対向し、かつ、これらの外周面と中央孔16aの内周面との間に第3の隙間G3を形成するように配置される。第3の隙間G3は、第1の隙間G1及び第2の隙間G2と通じている。第3の隙間G3は大気に開放されているが、潤滑流体17は自身の表面張力によって流体軸受装置10内に保持される。
【0024】
潤滑流体17は、図2に示す第1〜第3の隙間G1〜G3を含む軸受隙間内に充填されている。そして、軸12を含む回転側部材の回転が開始されると、潤滑流体17は、動圧発生溝11c,11d,11e等に流入して動圧を発生させるとともに、ラジアル側の動圧発生溝11c,11dが非対称に形成されていることで循環力が生じて、図中矢印方向に沿って流体軸受装置10内を循環する。
【0025】
なお、軸12の材質としては、ステンレス鋼が最適である。ステンレス鋼は、他の金属と比べ、高硬度で、摩耗発生量も抑制できるため、有効である。より好ましくは、マルテンサイト系ステンレス鋼である。
【0026】
スリーブ11には、銅合金、鉄合金、ステンレス鋼、セラミックス、樹脂等の材料を使用することが好ましい。さらに、より耐摩耗性及び加工性が高く、かつ、低コストである、銅合金、鉄合金、ステンレス鋼がより好ましい。スリーブ材料の一部表面または全表面に、メッキ法、物理蒸着法、化学蒸着法、拡散被膜法、イオン注入法等によって表面改質を行ってもよい。また、コスト面からスリーブ材料に鉄、銅等を含む金属の焼結体を用いることができる。
【0027】
[潤滑流体17]
潤滑流体17としては、基油及び添加剤を含む潤滑剤組成物が用いられる。
<基油>
「基油」とは、潤滑剤組成物の主成分であり、潤滑剤組成物に潤滑性を付与する物質を意味する。したがって、一般的に、潤滑剤組成物全体における基油の含有量は、50重量%以上に設定される。特に、潤滑剤組成物全体における基油の含有量は、80重量%以上、90重量%以上、又は94重量%以上に設定可能である。基油の含有量は、潤滑剤組成物から後述の添加物を除いた量であるともいえる。
【0028】
基油としては、エステル油が用いられる。エステル油としては、例えば、トリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル;へキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、又はオクタデカン酸などの脂肪族モノカルボン酸と、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、又はヘキサデカノールなどの一価のアルコールとのエステル等のモノエステル;セバシン酸ジオクチル(DOS)、アゼライン酸ジオクチル(DOZ)、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル等のジエステル(二塩基酸エステル);ならびにネオペンチルグリコール、ポリグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジメチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のアルコールと炭素数5〜12の脂肪酸とのエステル等のポリオールエステルが挙げられる。
【0029】
<添加剤>
(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物)
添加剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物が挙げられる。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物は、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキサイドを付加したものである。具体的には、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(6)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノイソステアレート、ポリオキシエチレン(160)ソルビタントリイソステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノヤシ脂肪酸エステルなどが挙げられる。なお、()内の数値は、オキシエチレン基の平均付加モル数を示すが、平均付加モル数は特に限定されない。
【0030】
また、基油との相溶性や低温での保存安定性の点で、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物は、融点が40℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは0℃以下がよい。
【0031】
また、潤滑剤の増粘を抑制する点で、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物は、JIS Z8803に従って測定した粘度が、40℃で300mPa・s以下、好ましくは200mPa・s以下がよい。
【0032】
これらの観点から、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート類、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート類、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート類が好ましい。さらには、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート類、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート類が好ましい。
【0033】
また、導電性付与の効果の点で、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物は、ジエステル系化合物、さらにはトリエステル系化合物やテトラエステル系化合物がよい。
【0034】
これらポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物を含有することによって、潤滑剤組成物は導電性を有するので、軸12の回転によって発生した静電気の蓄積を防ぐことができる。
【0035】
また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物の含有量は、潤滑剤組成物全体に対して0.01〜3重量%であり、好ましくは0.01〜1重量%、より好ましくは0.01〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.3重量%である。
【0036】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物の含有量がこの範囲であることによって、潤滑剤組成物が導電性を有することから静電気の蓄積が防止されると共に、比較的良好な酸化安定性を示すことから良好な耐久性が実現される。また、含有量が少量で効果を発揮できるため、潤滑剤組成物の粘度の増大も抑制できる。また、乳化・分散作用によって、高温多湿環境下で放置した場合でも、水分の影響による軸受装置の油膜切れを抑制できる。そして、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物の含有量が前記範囲内であれば、−20℃、さらには−40℃以下の低温でも、その化合物に起因する懸濁や析出が起こりにくいため、低温環境が軸受装置の動圧発生に与える影響は小さくなり、安定した回転特性が得られる。
【0037】
(その他の添加剤)
潤滑剤組成物は、さらなる添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、金属腐食防止剤、油性剤、極圧剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、泡消剤、加水分解抑制剤、導電性付与剤、および清浄分散剤等が挙げられる。
【0038】
本発明の潤滑剤組成物において、上記添加剤の添加量は特に限定されるものではないが、例えば、潤滑剤組成物全体に対して、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは3重量%以下とすることができる。
【0039】
<潤滑剤組成物全体の特性>
潤滑剤組成物は、好ましくは下記の物理化学的性質を有する。
JIS K2514に従って測定した、酸化安定度(RBOT値)が、400分以上、好ましくは500分以上、さらに好ましくは600分以上である。
【0040】
JIS C2101に従って測定した、25℃、5Vにおける体積抵抗率が5×1011Ω・cm以下、好ましくは1×1011Ω・cm以下、さらに好ましくは1×1010Ω・cm以下である。
【0041】
JIS K2283に従って算出した粘度指数が100以上、好ましくは120以上、さらに好ましくは140以上である。
JIS C2101に従って測定した蒸発量が5重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
【0042】
JIS K2269に従って測定した流動点が−20℃以下、好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下である。また、低温固化温度は、−20℃以下、好ましくは−30℃以下、より好ましくは−40℃以下である。ただし、この場合の低温固化温度は、流動点とは異なる温度である。低温固化温度とは、サンプル瓶に潤滑剤を採取後、温度槽に2日間静置した場合に一部または全部が固形化する温度であり、流動点よりも数℃〜十数℃高い温度である。
【0043】
JIS K2283に従って測定した動粘度、及びJIS K2249に従って測定した密度から求められる粘度は、−20℃において、70〜200mPa・s、より好ましくは70〜150mPa・s、かつ、20℃において5〜35mPa・s、より好ましくは10〜25mPa・sであり、かつ、80℃において、2〜5mPa・s、より好ましくは3〜4mPa・sである。
【0044】
<潤滑剤組成物の製造>
本発明の潤滑剤組成物は、基油及び添加剤を慣用の方法により混合することで、製造することができる。
【0045】
また、潤滑剤組成物は、流体軸受装置に充填される前に、スリーブと軸構造体との間に形成される最小隙間以下の孔径のフィルターで加圧濾過もしくは減圧濾過を行うことが望ましい。これによって、異物除去され、異物に起因する回転不具合を抑制できる。なお、具体的なフィルターの孔径は、0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。
【0046】
(1−2)スピンドルモータ1の動作
図1に示すように、ステータコア19が通電されることで、ロータマグネット20とステータコア19との間に回転磁界が発生して、ロータマグネット20が、軸12、フランジ13、及びロータハブ15と共に回転を開始する。軸12が回転を始めると、動圧発生溝11c〜11e及び14aに潤滑流体17が集まることで、軸12は潤滑流体17中に浮上した状態で、スリーブ11に対して非接触回転する。潤滑流体17は、連通路11bと隙間G1及びG2との間を循環する。
【0047】
以上の説明から明らかなように、スリーブ11は固定側部材であり、軸12及びフランジ13は回転側部材である。
【0048】
(1−3)磁気記録再生装置
上述のスピンドルモータ1は、磁気記録再生装置に適用可能である。図3は、本実施形態に係る磁気記録再生装置150の構成を示す断面図である。
【0049】
図3に示すように、磁気記録再生装置150は、スピンドルモータ1と、記録ディスク151と、記録ヘッド152と、を備える。
磁気記録ディスク151は、ロータハブ15のディスク載置部上に載置され、例えば、図示しない軸方向にバネ性を有する円盤状のクランパ等を図示しないタッピングネジにセットし、軸12の中央部に設けられたネジタップ部にタッピングネジをねじ込むことにより、軸方向下側に押え付けられて、クランパとロータハブ15のディスク載置部との間に狭持される。
【0050】
記録ヘッド152は、磁気記録ディスク151上の情報を読み出したり、情報を書き込んだりするようになっている。なお、記録ヘッド152は、読み出し及び書込みの少なくとも一方が可能となっていればよい。
【0051】
この他に、磁気記録再生装置150は、記録ヘッド152を支えるアーム、アームを移動させることによって、記録ヘッド152を磁気記録ディスク151の所定の位置に配置するアーム駆動部等を備える。
【0052】
[2]他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
(A)
上記実施形態では、軸12に対してフランジ13が取り付けられた、いわゆるフランジタイプの流体軸受装置10を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図2において、軸12に対してフランジ13がなく、軸12の下端面が軸受面であるいわゆるフランジレスタイプの流体軸受装置に本発明を適用してもよい。
【0054】
(B)
上記実施形態では、軸12やロータハブ15を含む回転側部材が、スリーブ11を含む固定側部材に対して回転する軸回転型の流体軸受装置10を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、軸を含む固定側部材に対して、スリーブやロータハブ等を含む回転側部材が回転する軸固定型の流体軸受装置に対して、本発明の一実施形態に係る潤滑流体を充填してもよい。
【0055】
(C)
上記実施形態では、スリーブ11に形成された連通路11bを含む循環経路に沿って潤滑流体17を循環させる流体軸受装置10の構成を例として挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、スリーブに連通路を持たない非循環型の流体軸受装置に対して、本発明の一実施形態に係る潤滑流体を充填してもよい。
【0056】
(D)
また、流体軸受装置およびスピンドルモータは、記録ヘッド152によって記録ディスクに情報を記録する/再生する磁気記録再生装置に適用可能であるが、この他にも、光ディスク等の記録再生装置に対して搭載してもよい。
さらには、情報処理装置として、CPUに搭載される冷却ファンを回転させるスピンドルモータに含まれる流体軸受装置に本発明を適用してもよい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。なお、以下に述べる各添加剤の配合量すなわち重量%は、基油及び添加剤を含めた潤滑剤組成物全体(総重量)に対する割合である。
なお、実施例及び比較例のいずれの場合においても、酸化防止剤としてジオクチルジフェニルアミン0.5重量%を配合した。
【0058】
(実施例1〜5)
基油として3‐メチル‐1,5‐ペンタンジオールとペラルゴン酸とのエステル(表1中に(i)で示す)を用い、この基油に、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート(融点−20℃、40℃における粘度150mPa・s、花王社製)を混合することで、潤滑剤組成物を調製した。実施例1〜5におけるポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエートの添加量(重量%)は、表1に示す通りである。
【0059】
(実施例6〜9)
セバシン酸ジオクチル(DOS)(表1中に(ii)で示す)を基油として用い、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエートを混合することで、潤滑剤組成物を調製した。実施例6〜9におけるポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエートの添加量は表1に示す通りである。
【0060】
(比較例1)
実施例1〜5で基油とした3‐メチル‐1,5‐ペンタンジオールとペラルゴン酸とのエステルを、潤滑剤組成物として用いた。
【0061】
(比較例2)
基油に、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエートに代えて、Caフェネートを0.1重量%添加した以外は、実施例1と同様にして潤滑剤組成物を調製した。
【0062】
(比較例3)
実施例6〜9で基油としたセバシン酸ジオクチル(DOS)を、潤滑剤組成物として用いた。
【0063】
(体積抵抗率の測定)
各潤滑剤組成物について、JIS C2101に従って、25℃、5Vにおける体積抵抗率を測定した。
【0064】
(RBOT試験)
各潤滑剤組成物について、JIS K2514に従って、RBOT(Rotating Bomb Oxidation stability Test、回転ボンベ式酸化安定度試験)を行った。具体的には、潤滑剤組成物50g、水5ml、銅触媒(直径1.6mm、長さ3000mm)、酸素を回転ボンベ内に規定圧まで密封し、温度150℃下で強制的に劣化させ、試験開始後の最高圧力から、175kPa(1.8kg/cm2)の急激な圧力低下が観察されるまでの時間を分単位で測定した。この時間が長いほど、酸化安定度が高いことを示す。
【0065】
(モータ特性)
各潤滑剤組成物を、上述の第1実施形態で説明したスピンドルモータ1の潤滑流体17として用いて、モータ特性を測定した。
モータ特性としては、常温にて5400rpmで回転中におけるロータハブとベース間の5V時の抵抗値を測定した。
【0066】
(結果)
各潤滑剤組成物における添加剤含有量及び試験結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

Caフェネートを添加した場合(比較例2)は、比較例1と比べて、体積抵抗率は低く良好であるものの、酸化安定性が大幅に低下した。すなわち、比較例2の潤滑剤組成物では、酸化安定性が低いために劣化しやすく、比較例1と比べて耐久性の点で劣る。
【0068】
これに対して、実施例1〜9の潤滑剤組成物は、体積抵抗率が約2×1010(Ω・cm)以下を示した。また、実施例2〜9の潤滑剤組成物の結果から、添加剤の量が1.0重量%以下においてRBOT値が約600分以上となり、添加剤を添加しなかった場合(比較例1、比較例3)と同程度の酸化安定性を示した。なお、実施例1は、実施例2よりも添加剤の含有量が少ないことから、RBOT値はより大きいと推測される。すなわち、実施例1〜9の潤滑剤組成物は、酸化安定性を著しく低下させることなく、導電性を実現することができた。
【0069】
さらに、実施例1〜3の潤滑剤組成物は、比較例2と比べてモータの電流値を低減することができた。これは、実施例1〜3の潤滑剤組成物は、基油が同じである比較例2と比べて、粘度が低減されたためと考えられる。
【0070】
このように、実施例1〜9の潤滑剤組成物を潤滑流体として用いることで、静電気の蓄積を効果的に防止し、かつ良好な耐久性を有する流体軸受装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の流体軸受装置は、回転による静電気が蓄積されにくいので、ハードディスクドライブ用スピンドルモータに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施形態に係るスピンドルモータの断面図。
【図2】上記スピンドルモータに搭載された流体軸受装置の構成を示す部分拡大断面図。
【図3】上記流体軸受装置を搭載した磁気記録再生装置の構成を示す断面図。
【符号の説明】
【0073】
1 スピンドルモータ
10 流体軸受装置
11 スリーブ
11a 軸受孔
11b 連通路
11c,11d,11e 動圧発生溝
12 軸
13 フランジ
14 スラスト板
14a 動圧発生溝
15 ロータハブ
15a ボス部
16 スリーブキャップ
16a 中央孔
17 潤滑流体
18 ベース
19 ステータコア
20 ロータマグネット
150 磁気記録再生装置
151 磁気記録ディスク
152 記録ヘッド
G1〜G3 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受孔を有するスリーブと、
上記スリーブの軸受孔内に上記スリーブに対して相対的に回転するよう配置された軸と、上記スリーブと上記軸との間の隙間に充填され、基油としてのエステル油と、潤滑剤組成物全体に対して0.01〜3重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物と、を含有する潤滑剤組成物と、
を備える流体軸受装置。
【請求項2】
上記潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物全体に対して0.01〜1重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物を含有する請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項3】
上記潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物全体に対して0.05〜0.3重量%のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物を含有する請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項4】
上記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系化合物は、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエートである請求項1〜3のいずれか1項に記載の流体軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−180970(P2010−180970A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25841(P2009−25841)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】