説明

流動体移送装置、それを備える船、及び移送装置用流動体

【課題】 所望の一方のタンクに貯留されている比重及び粘性の大きい流動体を、他方のタンクへ迅速で正確な流量精度で移送できるようにすること。
【解決手段】 微粉体を含む流動体12を貯留する第1及び第2タンク13、14と、第1及び第2タンク13、14を互いに連通する連通管15と、所望の一方のタンクに貯留されている流動体12を他方のタンクに移送することができる移送部16とを備え、各タンク13、14は、変形自在な隔壁18によって仕切られた第1室19と第2室20とを有し、各第1室19には、非圧縮性流体17が貯留され、各第2室20には、非圧縮性流体17よりも比重及び粘度が大きい流動体12が貯留され、これら2つの第2室20が連通管15で互いに連通し、移送部16は、所望の第1室19に非圧縮性流体17を供給したときに、他方の第1室19から非圧縮性流体17を排出することができる構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高比重の微粉体を含む高比重の流動体を移送するためのものであって、特に、潜水艇等を含む船、車両、構造物等の重心位置の移動を行うことができる流動体移送装置、それを備える船、及び移送装置用流動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の流動体移送装置の一例として、図2に示すものがある(例えば、特許文献1参照。)。この流動体移送装置1は、同図に示すように、微粉体を含む流動体2を貯留する2つの第1及び第2タンク3、4と、これらの第1タンク3と第2タンク4とを互いに連通し、かつ、一部が柔軟性を有する柔軟管部5aを有する配管5と、正逆両方向に回動移動可能であって、回動しながら柔軟管部5aを押圧して、柔軟管部5a内の流動体2を順逆両方向に移動させるローラ部6、6とを備えている。
【0003】
そして、図2に示すように、ローラ部6は、回転アーム7の両方の各端部に設けられている。また、柔軟管部5aは、ハウジング8に形成された凹部8aの断面U字形状の内面に沿って配置されている。
【0004】
この流動体移送装置1によると、回転アーム7を所望の方向に回動させることによって、ローラ部6が回動しながら柔軟管部5aを押圧して、柔軟管部5a内の流動体2を所望の順逆両方向に移動させることができる。これによって、2つの第1及び第2タンク3、4のうちの所望のタンクに貯留されている流動体2を、他方のタンクへ移送することができる。
【0005】
つまり、図2に示す従来の流動体移送装置1によると、ローラ部6が回動しながら柔軟管部5aを押圧して、柔軟管部5a内の流動体2を所望の方向に移動させていくと共に、柔軟管部5aに対するローラ部6による押圧力が解除されたときに、押圧されて扁平な形状の柔軟管部5aが、その弾性力によって元の例えば円形断面に復元することができる。そして、この復元するときに、後続の流動体2がこの円形に復元した柔軟管部5a内に移動してくるメカニズムとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−2189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、図2に示す従来の流動体移送装置1では、ローラ部6の柔軟管部5aに対する押圧力が解除されたときに、押圧されて扁平形状となっている柔軟管部5aが、その弾性力によって元の断面円形に復元するのに或る程度の時間が掛かるので、この流動体2が押し出された柔軟管部5a内に後続の流動体2が移動してくるまでの移動時間は、柔軟管部5aの復元速度に依存していると言える。
【0008】
従って、一方のタンク3又は4内の流動体2を他方のタンク4又は3に移送する移送流量を大きくするためにローラ部6の回動移動速度を大きくしても、必要な移送流量を得ることができないことがある。
【0009】
そして、柔軟管部5aの復元力には、バラツキがあるので、流動体2の移送流量にバラツキが生じ、そのために、高精度の流量精度を得ることができない。
【0010】
また、柔軟管部5aの復元力の低下によって移送流量が低下するので、耐久性に優れた流動体移送装置の開発が望まれている。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、2つのタンクのうちの所望のタンクに貯留されている比重及び粘性の大きい流動体を、他方のタンクへ迅速で正確な流量精度で移送することができ、しかも耐久性に優れた流動体移送装置、それを備える船、及び移送装置用流動体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る流動体移送装置は、微粉体を含む流動体を貯留する2つのタンクと、これら2つのタンクを互いに連通する連通管と、2つの前記タンクのうちの一方の前記タンクに貯留されている前記流動体を他方の前記タンクに移送することができると共に、他方の前記タンクに貯留されている前記流動体を一方の前記タンクに移送することができる移送部とを備える流動体移送装置において、2つのそれぞれの前記タンクは、変形自在な隔壁によって仕切られた第1室と第2室とを有し、それぞれの前記第1室には、非圧縮性流体が貯留され、かつ、それぞれの前記第2室には、前記非圧縮性流体よりも比重及び粘度が大きい前記流動体が貯留され、これら2つの前記第2室が前記連通管で互いに連通し、前記移送部は、2つの前記第1室のうちの所望の一方の前記第1室に前記非圧縮性流体を供給したときに、他方の前記第1室から前記非圧縮性流体を排出することができる構成であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明に係る流動体移送装置によると、移送部によって、一方のタンクの第1室に非圧縮性流体を供給していくと、この第1室内の非圧縮性流体の体積が増加するにつれて、隔壁が第1室側から第2室側に変形して、この一方のタンクの第2室の体積が減少していく。これによって、この第2室に貯留されている流動体を、連結管に通して他方のタンクの第2室に移送することができる。このとき、この他方のタンクの第2室内の流動体の体積が増加するにつれて、このタンクの隔壁が第2室側から第1室側に変形して、この他方のタンクの第1室の体積が減少していく。これによって、第1室に貯留されている非圧縮性流体が、この第1室から排出される。
【0014】
このようにして、非圧縮性流体よりも比重が大きい流動体を、所望の一方のタンクの第2室から他方のタンクの第2室に移送することによって、これら2つのタンクの重心位置を一方のタンク側から他方のタンク側に移動させることができる。
【0015】
そして、非圧縮性流体は、流動体よりも比重及び粘度が小さいものであるので、移送部は、非圧縮性流体を各々のタンクの第1室に対して効率よく供給及び排出することができる。よって、2つのタンクのうちの所望のタンクの第2室に貯留されている比重及び粘度の大きい流動体を他方のタンクの第2室に効率よく移送することができる。
【0016】
また、第1室と第2室とは、変形自在な隔壁によって仕切られているので、タンク内の流動体と非圧縮性流体とが互いに混ざり合うことがなく、2つのタンクの重心位置を所望のタンク側に正確に移動させることができる。
【0017】
更に、流動体は、非圧縮性流体よりも粘度が大きいものとしているので、流動体に含まれている比重の大きい微粉体が、この流動体中において沈降することを抑制することができ、この流動体における比重のバラツキを小さくすることができる。よって、移動させる流動体の重量精度の向上、及びこの2つのタンクの重心位置の移動精度の向上を図ることができる。
【0018】
この発明に係る流動体移送装置において、前記連通管には、当該連通管内の流動体を撹拌することができる撹拌装置が設けられているものとすることができる。
【0019】
このようにすると、連通管内を通って移送される流動体を撹拌することができるので、2つの各タンク内に貯留されている流動体の略全体を満遍なく撹拌することが可能である。これによって、流動体に含まれる比重の大きい微粉体を迅速に、しかも適切に分散させて沈降を防止することができる。そして、微粉体を適切に分散させることによって、流動体における比重及び粘度のバラツキを小さくすることができる。粘度のバラツキを小さくすることによって、流動体の移送を安定してスムースに行うことができる。
【0020】
この発明に係る流動体移送装置において、前記撹拌装置は、一軸偏心ねじポンプとすることができる。
【0021】
このようにすると、連通管内を通る流動体を撹拌することができると共に、一軸偏心ねじポンプの吐出圧力に基づいて移送力を発生することができる。これによって、移送部が、各々のタンクの第1室に対して非圧縮性流体を供給したり排出するために必要とするエネルギの低減を図ることができる。
【0022】
この発明に係る流動体移送装置において、前記撹拌装置又は前記連通管には、圧力調整装置が設けられ、前記圧力調整装置は、前記撹拌装置又は前記連通管の内側と外側とを連通するシリンダ部と、このシリンダ部内に配置されたピストン部と、前記ピストン部を前記撹拌装置又は前記連通管内の圧力を高める側に付勢する付勢手段とを有するものとすることができる。
【0023】
このようにすると、撹拌装置又は連通管の外面に例えば外圧P1が掛かっているときに、ピストン部には、外圧P1と付勢手段の付勢力に基づく圧力P2との合計圧力P3(=P1+P2)が掛かる。そして、ピストン部に掛かる圧力P3は、撹拌装置又は連通管内の流動体に伝わり、その結果、撹拌装置又は連通管内の流動体の圧力がP3となる。この流動体の圧力P3と外圧P1との差圧はP2(=P1+P2−P1)であり、この差圧P2(設定圧力)は、付勢手段の付勢力に基づくものであり、外圧P1を含んでいないので、外圧P1が変化しても一定のこの差圧P2によって、外側の例えば海水等の液体や気体が、撹拌装置又は連通管内に浸入することを防止でき、ひいてはタンク内に浸入することを防止できる。よって、流動体を確実に移送することができ、2つのタンクの重心位置を迅速で正確に移動させることができる。
【0024】
同様に、例えば周囲の温度変化によって撹拌装置、連通管、及びタンクが収縮したり膨張する場合でも、この圧力調整装置によって撹拌装置又は連通管内の圧力P3を外圧P1よりも所定の設定圧力P2だけ高くなるように調整できる。これによって、上記と同様の効果を奏することができる。
【0025】
この発明に係る流動体移送装置において、前記流動体は、半固体状体又はペースト状体と金属製微粉体とが調合されたものであって、比重が5〜9であり、前記半固体状体又はペースト状体と前記金属製微粉体との重量比が15:85〜5:95であるものとすることができる。
【0026】
このように、粘度が大きい半固体状体又はペースト状体に金属製微粉体を調合して流動体を作ることによって、金属製微粉体がこの半固体状体又はペースト状体中において沈降することを十分に抑制することができ、この流動体における比重や粘度のバラツキを小さくすることができる。
【0027】
そして、金属製微粉体を採用することによって、比重が5〜9の流動体を作ることができる。このように、流動体の比重を5以上とすることによって、例えばこの流動体移送装置を全長の小さい潜水艇に適用した場合は、この艇の前後傾斜や左右傾斜の姿勢制御を可能にすることができる。
【0028】
また、半固体状体又はペースト状体と金属製微粉体との重量比を15:85〜5:95とすると、半固体状体又はペースト状体中における金属製微粉体の沈降を抑制することができ、その結果、前記のように、艇の姿勢制御を可能にすると共に、流動体を、2つのタンク間を移動させることができる流動性を確保することができる。
【0029】
この発明に係る流動体移送装置において、前記金属製微粉体は、粒径が10〜150μmのタングステン金属であり、前記半固体状体又はペースト状体は、リチウムグリースであるものとすることができる。
【0030】
このように、粒径が10〜150μmの金属製微粉体を採用すると、比重の大きい流動体を作ることができる。
【0031】
つまり、粒径が10μm未満であると、微粉体どうしが凝集し易くなり、この凝集した微粉体どうしの間に隙間が形成されるので、流動体の比重を大きくすることができない。粒径が150μmを超えると、微粉体どうしの隙間が大きくなり、流動体の比重を大きくすることができない。
【0032】
そして、金属製微粉体としてタングステン金属を使用し、半固体状体又はペースト状体としてリチウムグリースを使用することによって、高比重であって、常温及び大気圧環境下で安定しており、人体及び自然界への影響が殆ど無く、低廉な流動体を提供することができる。
【0033】
本発明に係る流動体移送装置を備える船は、本発明に係る流動体移送装置を備えることを特徴とするものである。
【0034】
本発明に係る流動体移送装置を備える船によると、この船が備える流動体移送装置は、本発明に係る流動体移送装置において説明したように作用する。
【0035】
本発明に係る移送装置用流動体は、微粉体を含む流動体を貯留する2つのタンクと、これら2つのタンクを互いに連通する連通管と、2つの前記タンクのうちの一方の前記タンクに貯留されている前記流動体を他方の前記タンクに移送することができると共に、他方の前記タンクに貯留されている前記流動体を一方の前記タンクに移送することができる移送部とを備える流動体移送装置に使用される流動体において、半固体状体又はペースト状体と金属製微粉体とが調合されたものであって、比重が5〜9であり、前記半固体状体又はペースト状体と前記金属製微粉体との重量比が15:85〜5:95であることを特徴とするものである。
【0036】
本発明に係る移送装置用流動体によると、流動体移送装置に使用することによって、本発明に係る流動体移送装置において説明したように作用する。
【0037】
この発明に係る移送装置用流動体において、前記金属製微粉体は、粒径が10〜150μmのタングステン金属製であり、前記半固体状体又はペースト状体は、リチウムグリースであるものとすることができる。
【0038】
このようにすると、本発明に係る流動体移送装置において説明したように作用する。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る流動体移送装置によると、上記のように構成されているので、非圧縮性流体よりも比重及び粘度の大きい流動体を、2つのタンクのうちの所望の一方のタンクの第2室から、他方のタンクの第2室に迅速に、しかも正確な流量精度で移送することが可能である。
【0040】
よって、例えばこの流動体移送装置を潜水艇等を含む船に使用すると、これら潜水艇等の重心位置を迅速に、しかも正確に移動させて姿勢制御することができる。そして、このように姿勢制御する場合の一例として、潜水艇では、潜航及び浮上するときに行われる前後傾斜があり、この前後傾斜を迅速で正確な傾斜角度となるように行なうことによって、推進用駆動部による少ない推進動力を使用して、潜航及び浮上を迅速に行えるようにすることができる。
【0041】
また、姿勢制御する場合の他の一例として、潜水艇等を含む船の船内の可搬重量物(荷物等)又は乗組員等による左右傾斜がある。この船の左右傾斜を迅速で正確な傾斜角度となるように行なうことによって、船の左右バランスを迅速で安全に行えるようにすることができる。
【0042】
更に、2つの各タンクに設けられている変形可能な隔壁は、流動体を移送するときに非圧縮性流体の圧力が掛かって変形するようになっており、隔壁の一部に硬質部材が押し付けられて変形するような構成となってはいないので、変形される隔壁の寿命を長引かせることができる。その結果、耐久性に優れた流動体移送装置を提供することができる。
【0043】
そして、タンクの第1室に対して粘度の比較的小さい非圧縮性流体を供給したり排出を行なうことによって、隔壁を隔てて第2室に貯留されている粘度の比較的大きい流動体を移送する構成としたので、例えば粘度の比較的大きい流動体を、ポンプを使用して直接に移送する場合と比較して、移送のためのエネルギの低減を図ることができる。
【0044】
また、上記のように潜水艇等の重心位置を移動させるためには、流動体として比重の大きい水銀を使用することが効果的であるが、本発明に係る比重の大きい微粉体を含む比重の大きい流動体を使用することによって、水銀を使用することなく、重心位置を迅速で確実に移動させることができる。
【0045】
そして、本発明に係る移送装置用流動体を、上記のように流動体移送装置に使用すると、上記と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の一実施形態に係る流動体移送装置を備える潜水艇の流動体移送装置を示す断面図である。
【図2】従来の流動体移送装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明に係る流動体移送装置、及び移送装置用流動体の一実施形態を、図1を参照して説明する。この流動体移送装置11は、高比重の微粉体を含む高比重の流動体12を移送するためのものであって、特に、潜水艇等を含む船、車両、構造物等の重心位置の移動を行うことができるものである。この実施形態では、流動体移送装置11を例えば船の潜水艇に適用した例を挙げて説明する。
【0048】
図1は、流動体移送装置11を備える潜水艇のその流動体移送装置11を示す断面図である。この流動体移送装置11は、高比重の微粉体を含む高比重の流動体12を貯留する第1タンク13及び第2タンク14と、これら2つの第1及び第2タンク13、14を互いに連通する連通管15と、第1タンク13に貯留されている流動体12を第2タンク14に移送することができると共に、第2タンク14に貯留されている流動体12を第1タンク13に移送することができる移送部16とを備えている。
【0049】
このように、高比重の流動体12を移送することによって、この流動体移送装置11、ひいては潜水艇の重心位置を所望の距離だけ移動させることができるようになっている。そして、これによって、潜水艇の姿勢制御を行なえるようになっている。
【0050】
なお、図1において、太線で示すラインは、高比重流動体ラインである。この高比重流動体ラインは、比重の大きい流動体12が収容されている管である。そして、細線で示すラインは、非圧縮性流体ラインである。この非圧縮性流体ラインは、比重の小さい非圧縮性流体17が収容されている管である。
【0051】
図1に示す2つの各第1及び第2タンク13、14は、それぞれ同等のものであるので、同図の左側に示す第1タンク13を説明し、右側に示す第2タンク14の説明を省略する。
【0052】
第1タンク13は、図1に示すように、胴部の膨れた樽状のものであり、例えば合成ゴム製の変形自在な隔壁18によって密封状態で、上下に仕切られて形成された第1室19と第2室20とを有している。
【0053】
そして、上側の第1室19には、非圧縮性流体17が貯留されており、下側の第2室20には、高比重の流動体12が貯留されている。非圧縮性流体17は、例えば油又は水等の液体である。そして、流動体12は、後述するように、非圧縮性流体17よりも比重及び粘度が大きいものであり、高比重の微粉体を含む高比重の流動体12である。
【0054】
隔壁18は、例えば変形自在な柔軟性を有する合成ゴムによって形成されている。そして、この隔壁18は、図1に示すように、第1及び第2室19、20のそれぞれに略同量の非圧縮性流体17及び流動体12が貯留されているときは、実線で示すように、略扁平な形状となって略水平に配置された状態となる。そして、第1タンク13(又は第2タンク14)の第2室20に貯留されている流動体12が、第2タンク14(又は第1タンク13)の第2室20に移送された状態では、これら第1及び第2タンク13、14に設けられているそれぞれの隔壁18は、二点鎖線で示すように、カップ状及び逆カップ状(又は略逆カップ状及び略カップ状)の形状となる。つまり、この隔壁18は、変形する前の元の形状がカップ状となるように形成されたものである。
【0055】
従って、図1に示す隔壁18は、略扁平な形状となって略水平に配置された状態において、図には示さないが、第1及び第2タンク13、14のそれぞれの内周面に沿う円環状部分は、屈曲している。
【0056】
また、図1に示すように、第1及び第2タンク13、14のそれぞれの第2室20は、連通管15で互いに連結されて連通されている。なお、連通管15の両方の各端部は、それぞれの第2室20を形成する底壁13a、14aと結合している。そして、第1及び第2タンク13、14のそれぞれの第2室20に貯留されている流動体12は、この連通管15を通って、第2及び第1タンク14、13のそれぞれの第2室20に移送される。そして、この連通管15の略中央部分には、撹拌装置21が設けられている。
【0057】
撹拌装置21は、連通管15内の流動体12を撹拌することができるものであり、比重の大きい流動体12に含まれている微粉体を、この流動体12中に分散させて沈降を防止することができるものである。この撹拌装置21は、例えば一軸偏心ねじポンプである。
【0058】
この一軸偏心ねじポンプは、高粘度の流動体12(例えば微粉体を含む半固体状体又はペースト状体)を移送することができるものであり、図1に示すように、吸込み口及び吐出口として機能する第1開口部22と、吐出口及び吸込み口として機能する第2開口部23とを備えている。この第1及び第2開口部22、23は、連通管15の途中の各端部と接続している。
【0059】
なお、この一軸偏心ねじポンプは、図には示さないが、ロータとステータとを備えており、例えばロータが電気モータによって回転駆動されて、正逆いずれの方向にも回転するようになっている。ステータは固定側部に固定されており、このステータに形成されている内孔にロータが回動自在に装着されている。
【0060】
このロータが正転(又は逆転)することによって、流動体12を第1開口部22(又は第2開口部23)から吸い込んで、第2開口部23(又は第1開口部22)から吐出することができる。そして、ロータが回転することによって、流動体12を撹拌することができ、流動体12に含まれている微粉体を、この流動体12中に分散させることができる。このように、この撹拌装置21は、流動体12を撹拌しながら移送することができるものである。
【0061】
この撹拌装置21によると、図1に示す連通管15内を通って移送される流動体12を撹拌することができるので、第1及び第2の各タンク13、14内に貯留されている比重の大きい流動体12の略全体を満遍なく撹拌することが可能である。これによって、流動体12に含まれる微粉体を迅速に、しかも適切に分散させて沈降を防止することができる。そして、微粉体を適切に分散させることによって、流動体12における比重及び粘度のバラツキを小さくすることができる。粘度のバラツキを小さくすることによって、流動体12の移送を安定してスムースに行うことができる。
【0062】
次に、図1に示す圧力調整装置24について説明する。この圧力調整装置24は、撹拌装置21、連通管15、第1タンク13、及び第2タンク14等を潜水艇の外側に設けた場合に、これら撹拌装置21、連通管15、第1タンク13、及び第2タンク14等のそれぞれの内圧が、外側の海水の水圧(深度圧による外圧)よりも一定の圧力(差圧)だけ高くなるように調整するためのものである。
【0063】
この圧力調整装置24は、図1に示すように、シリンダ部27を備えている。このシリンダ部27は、第1圧力調整管25及び第2圧力調整管26を介して撹拌装置21の内側と外側(例えば海水側)とを連通させている。
【0064】
この撹拌装置21の内側とは、この撹拌装置21が備える一軸偏心ねじポンプのロータの外面とステータの内面とによって形成されている空間である。この空間は、流動体12を収容することができるものであり、ロータが回転することによって第1開口部22(又は第2開口部23)側から第2開口部23(又は第1開口部22)側に移動して、流動体12を移送するようになっている。そして、このように流動体12が移送されることによって撹拌される。
【0065】
そして、シリンダ部27内には、前後方向に摺動自在にピストン部28が装着され、このピストン部28に対して、ピストン部28を撹拌装置21内の圧力を高める側に付勢する付勢手段29(例えば圧縮コイルばね)が設けられている。
【0066】
また、図1に示すように、第1圧力調整管25には、フィルタ30及び元弁31が設けられ、第2圧力調整管26には、圧力変換器32が設けられている。
【0067】
この圧力変換器32は、図1に示す外ケース32a内に柔軟性を有する合成ゴム製の隔壁(図示せず)が設けられている。この隔壁は、第1圧力調整管25内に収容されている油、水等の非圧縮性流体17と、第2圧力調整管26内に収容されている流動体12とを密封状態で仕切ると共に、非圧縮性流体17側及び流動体12側の圧力を受けて、その受けた圧力を、この隔壁を介して流動体12側及び非圧縮性流体17側に伝達することができるようになっている。
【0068】
次に、この圧力調整装置24の作用を説明する。この圧力調整装置24によると、撹拌装置21の外装部21aの外面に例えば外圧P1が掛かっているときに、ピストン部28には、外圧P1と付勢手段29(圧縮コイルばね)の付勢力に基づく圧力P2との合計圧力P3(=P1+P2)が掛かる。そして、ピストン部28に掛かる圧力P3は、撹拌装置21内の空間に収容されている流動体12に伝わり、その結果、撹拌装置21内の空間の流動体12の圧力がP3となる。この流動体12の圧力P3と外圧P1との差圧はP2(=P1+P2−P1)であり、この差圧P2(設定圧力)は、付勢手段29の付勢力に基づくものであって、外圧P1を含んでいないので、外圧P1が変化しても一定のこの差圧P2によって、外側の例えば海水等の液体や気体が、撹拌装置21内の空間に浸入することを防止できる。
【0069】
そして、この空間に収容されている流動体12は、連通管15を通って第1又は第2タンク13、14の各第2室20内に移送される。また、この空間に収容されている流動体12に掛かる合計圧力P3(=P1+P2)は、ロータとステータとの隙間を通って第1及び第2タンク13、14の両方に伝達される。これによって、撹拌装置21と同様に、外側の海水等の液体や気体が、連通管15、第1タンク13、第2タンク14、及び貯留タンク33内に浸入することを防止できる。よって、この流動体移送装置11を使用して、流動体12を確実に移送することができ、2つの第1及び第2タンク13、14の重心位置を迅速で正確に移動させることができる。
【0070】
同様に、例えば周囲の温度変化によって撹拌装置21、連通管15、並びに、第1及び第2タンク13、14が収縮したり膨張する場合でも、この圧力調整装置24によって撹拌装置21、連通管15、並びに、第1及び第2タンク13、14内の圧力P3を外圧P1よりも所定の設定圧力P2だけ高くなるように調整できる。これによって、上記と同様の効果を奏することができる。
【0071】
次に、図1を参照して移送部16を説明する。この移送部16は、第1及び第2タンク13、14の2つの第1室19のうちの所望の第1室19に非圧縮性流体17を供給したときに、他方の第1室19から非圧縮性流体17を排出することができるものであり、供給ポンプ34、方向切換弁35、及び貯留タンク33を備えている。そして、これら供給ポンプ34、方向切換弁35、及び貯留タンク33は、例えば潜水艇の外側に設けられている。
【0072】
図1に示す供給ポンプ34は、例えば容積ポンプであり、電動機で所定方向に回転駆動される。この供給ポンプ34は、その吐出口が供給管36を介して方向切換弁35のPポートと接続し、その吸込み口が供給管37を介して貯留タンク33と接続している。この貯留タンク33には、非圧縮性流体17が密封した状態で貯留されている。
【0073】
方向切換弁35は、そのTポートが排出管38を介して貯留タンク33と接続している。そして、方向切換弁35のAポートは、給排管39を介して中空の案内部41と接続している。この案内部41は、第1タンク13の上壁13aに固定して設けられ、この案内部41の内部空間41aは、外側と密封された状態で、第1タンク13の第1室19と連通している。
【0074】
また、方向切換弁35のBポートは、給排管40を介して中空の案内部41と接続している。この案内部41は、第2タンク14の上壁14bに固定して設けられ、この案内部41の内部空間41aは、外側と密封された状態で、第2タンク14の第1室19と連通している。そして、それぞれの給排管39、40には、フィルタ42が設けられている。
【0075】
更に、図1に示すように、第1及び第2タンク13、14に設けられているそれぞれの案内部41の内部空間41aには、ロッド43が配置されている。各ロッド43は、案内部41の内部空間41aに沿って上下方向に移動自在に設けられ、各ロッド43の下端部には、例えば円板状の隔壁保持部44が略水平に固定して設けられている。この隔壁保持部44は、隔壁18に結合して設けられている。また、各ロッド43には、直動軸受が設けられている。
【0076】
図1に示す第1及び第2タンク13、14の内部に二点鎖線で示すものは、隔壁保持部44及びロッド43が、上昇位置及び下降位置に移動している状態を示している。そして、隔壁保持部44が昇降移動すると、隔壁18が上側に移動する状態(逆カップ状となる状態)、及び隔壁18が下側に移動する状態(カップ状となる状態)となる。
【0077】
この隔壁保持部44は、第1及び第2の各タンク13、14の第1室19内の非圧縮性流体17、及び第2室20内の流動体12が増減したときに、隔壁18の中央部分を略水平状態で昇降移動させるようにするものである。要は、隔壁18の中央部分が屈曲変形することによって、この隔壁18が第1及び第2の各室19、20の各給排孔46を閉じないようにするためのものである。
【0078】
この方向切換弁35によると、図1に示すように、スプールが左側位置の状態では、PポートとAポートとが接続した状態、及びTポートとBポートとが接続した状態となり、供給ポンプ34の吐出口から吐出された非圧縮性流体17を、供給管36、給排管39、及び案内部41の内部空間41aに通して第1タンク13の第1室19に供給することができる。
【0079】
そして、第2タンク14の第1室19に収容されている非圧縮性流体17が、案内部41の内部空間41aを通って給排管40、及び排出管38を通って貯留タンク33に排出されるようにすることができる。
【0080】
そして、方向切換弁35のスプールが図示しない右側位置に切り換わると、PポートとBポートとが接続した状態、及びTポートとAポートとが接続した状態となり、供給ポンプ34の吐出口から吐出された非圧縮性流体17を、供給管36、給排管40、及び案内部41の内部空間41aに通して第2タンク14の第1室19に供給することができる。
【0081】
そして、第1タンク13の第1室19に収容されている非圧縮性流体17が、案内部41の内部空間41aを通って給排管39、及び排出管38を通って貯留タンク33に排出されるようにすることができる。
【0082】
次に、流動体12の説明をする。流動体12は、半固体状体又はペースト状体(例えばグリース)と金属製微粉体とが調合されたものであって、比重が5〜9、好ましくは、6.5〜9であり、半固体状体又はペースト状体と金属製微粉体との重量比が15:85〜5:95、好ましくは、略10:90である。
【0083】
このように、粘度が大きい半固体状体又はペースト状体(例えばグリース)に金属製微粉体を調合して流動体12を作ることによって、金属製微粉体がこの半固体状体又はペースト状体中において沈降することを十分に抑制することができ、この流動体12における比重や粘度のバラツキを小さくすることができる。
【0084】
そして、金属製微粉体を採用することによって、比重が5〜9の流動体12を作ることができる。このように、流動体12の比重を5以上とすることによって、例えばこの流動体移送装置11を全長の小さい潜水艇に適用した場合は、この艇の前後傾斜や左右傾斜の姿勢制御を可能にすることができる。
【0085】
また、半固体状体又はペースト状体(グリース等)と金属製微粉体との重量比を15:85〜5:95、好ましくは、略10:90とすると、半固体状体又はペースト状体中における金属製微粉体の沈降を抑制することができ、その結果、前記のように、艇の姿勢制御を可能にすると共に、流動体12を、2つの第1及び第2タンク13、14間を移動させることができる流動性を確保することができる。
【0086】
そして、金属製微粉体は、粒径が10〜150μm、好ましくは、10〜53μmのタングステン金属製であり、半固体状体又はペースト状体として、例えばリチウムグリースを採用している。このタングステン金属の比重は、例えば約19.3である。
【0087】
このように、粒径が10〜150μm、好ましくは、10〜53μmの金属製微粉体を採用すると、比重の大きい流動体12を作ることができる。
【0088】
つまり、粒径が10μm未満であると、微粉体どうしが凝集し易くなり、この凝集した微粉体どうしの間に隙間が形成されるので、流動体12の比重を大きくすることができない。粒径が150μmを超えると、微粉体どうしの隙間が大きくなり、流動体12の比重を大きくすることができない。
【0089】
そして、金属製微粉体としてタングステン金属を使用し、半固体状体又はペースト状体としてリチウムグリースを使用することによって、高比重であって、常温及び大気圧環境下で安定しており、人体及び自然界への影響が殆ど無く、低廉な流動体12を提供することができる。
【0090】
次に、上記のように構成された流動体移送装置11の作用を説明する。この図1に示す流動体移送装置11を作動させて、例えば潜水艇の姿勢制御をするときにおいて、同図の左側に示す第1タンク13の第2室20に収容されている流動体12を、同図の右側に示す第2タンク14の第2室20に移送する場合について説明する。
【0091】
まず、圧力調整装置24の元弁31を閉じる。これによって、流動体12が第2圧力調整管26に対して流出入しないようにすることができ、流動体12の移送効率及び移送流量精度の向上を図ることができる。次に、方向切換弁35のスプールを、図1に示すように、左側位置に移動させ、供給ポンプ34を駆動すると共に、撹拌装置21を正転方向に駆動する。撹拌装置21を正転方向に駆動すると、連通管15内の流動体12を第1タンク13側から第2タンク14側に移送するための補助を行うことができる。
【0092】
この状態で、供給ポンプ34の吐出口から吐出された非圧縮性流体17を、第1タンク13の第1室19に供給していくことができ、この第1室19内の非圧縮性流体17の体積が増加するにつれて、隔壁18が第1室19側から第2室20側に変形して、この第1タンク13の第2室20の体積が減少していく。これによって、第2室20に貯留されている流動体12を、連通管15に通して第2タンク14の第2室20に移送することができる。このとき、第2タンク14の第2室20内の流動体12の体積が増加するにつれて、この第2タンク14の隔壁18が第2室20側から第1室19側に変形して、第2タンク14の第1室19の体積が減少していく。これによって、第2タンク14の第1室19に貯留されている非圧縮性流体17が、この第1室19から排出されて、貯留タンク33に戻される。
【0093】
このようにして、非圧縮性流体17よりも比重が大きい所望重量の流動体12を、所望の第1タンク13の第2室20から第2タンク14の第2室20に移送することによって、これら2つの第1及び第2タンク13、14の重心位置を、第1タンク13側から第2タンク14側に所望の距離だけ移動させることができる。この移動後の重心位置は、第1タンク13と第2タンク14のそれぞれに収容されている流動体12と非圧縮性流体17の合計重量によって決定される。
【0094】
しかる後に、所望のタイミングで、供給ポンプ34を停止させて、元弁31を開放する。これによって、圧力調整装置24の機能が発揮され、外側の海水等の液体や気体が、撹拌装置21、連通管15、第1タンク13、第2タンク14、及び貯留タンク33内に浸入することを防止できる。
【0095】
次に、同図の右側に示す第2タンク14の第2室20に収容されている流動体12を、同図の左側に示す第1タンク13の第2室20に移送する場合について説明する。
【0096】
まず、上記と同様に、圧力調整装置24の元弁31を閉じた状態にして、方向切換弁35のスプールを、図には示さないが、右側位置に移動させ、供給ポンプ34を駆動すると共に、撹拌装置21を逆転方向に駆動する。撹拌装置21を逆転方向に駆動すると、連通管15内の流動体12を第2タンク14側から第1タンク13側に移送するための補助を行うことができる。
【0097】
これ以降は、非圧縮性流体17及び流動体12を上記と逆方向に移送することによって、所望重量の流動体12を、所望の第2タンク14の第2室20から第1タンク13の第2室20に移送することができ、これら2つの第1及び第2タンク13、14の重心位置を第2タンク14側から第1タンク13側に所望の距離だけ移動させることができる。
【0098】
また、この流動体移送装置11は、非圧縮性流体17として、流動体12よりも比重及び粘度が小さいものを採用しているので、移送部16は、非圧縮性流体17を第1及び第2タンク13、14の第1室19に対して効率よく供給及び排出することができる。よって、第1及び第2タンク13、14のうちの所望のタンクの第2室20に貯留されている比重及び粘度の大きい流動体12を他方のタンクの第2室20に効率よく移送することができる。
【0099】
そして、第1室19と第2室20とは、変形自在な合成ゴム製の隔壁18によって仕切られているので、第1及び第2の各タンク13、14内の流動体12と非圧縮性流体17とが互いに混ざり合うことがなく、2つの第1及び第2タンク13、14の重心位置を所望のタンク側に正確に移動させることができる。
【0100】
更に、流動体12は、非圧縮性流体17よりも粘度が大きいものとしているので、流動体12に含まれている比重の大きい微粉体が、この流動体12中において沈降することを抑制することができ、この流動体12における比重のバラツキを小さくすることができる。よって、この2つのタンク13、14の重心位置の移動精度、及び移動させる流動体12の重量精度の向上を図ることができる。
【0101】
従って、例えばこの流動体移送装置11を潜水艇等を含む船に使用すると、これら潜水艇等の重心位置を迅速に、しかも正確に移動させて姿勢制御することができる。そして、このように姿勢制御する場合の一例として、潜水艇では、潜航及び浮上するときに行われる前後傾斜があり、この前後傾斜を迅速で正確な傾斜角度となるように行なうことによって、推進用駆動部による少ない推進動力を使用して、潜航及び浮上を迅速に行えるようにすることができる。
【0102】
なお、このように推進用駆動部による少ない推進動力を使用して、潜航及び浮上を迅速に行えるのは、推進ベクトルと艇の進行方向を一致又は近づけることができるからである。これによって、推進エネルギの有効利用を図ることができる。
【0103】
また、姿勢制御する場合の他の一例として、潜水艇等を含む船の船内の可搬重量物(荷物等)又は乗組員等による左右傾斜がある。この船の左右傾斜を迅速に正確な傾斜角度となるように行なうことによって、船の左右バランスを迅速で安全に行えるようにすることができる。
【0104】
そして、姿勢制御の他の目的として、潜水艇等の船の搭載物品等による船自身の姿勢(モーメントバランス)を修正することもできる。
【0105】
更に、第1及び第2の各タンク13、14に設けられている変形可能な隔壁18は、流動体12を移送するときに非圧縮性流体17の圧力が掛かって変形するようになっており、隔壁18の一部に硬質部材が押し付けられて変形するような構成となってはいないので、変形される隔壁18の寿命を長引かせることができる。その結果、耐久性に優れた流動体移送装置11を提供することができる。
【0106】
そして、第1及び第2の各タンク13、14の第1室19に対して粘度の比較的小さい非圧縮性流体17を供給したり排出を行なうことによって、隔壁18を隔てて第2室20に貯留されている粘度の比較的大きい流動体12を移送する構成としたので、例えば粘度の比較的大きい流動体12を、ポンプを使用して直接に移送する場合と比較して、移送のためのエネルギの低減を図ることができる。
【0107】
また、上記のように潜水艇等の重心位置を移動させるためには、流動体12として比重の大きい水銀を使用することが効果的であるが、この実施形態の比重の大きい微粉体を含む比重の大きい流動体12を使用することによって、水銀を使用することなく、重心位置を迅速で確実に移動させることができる。
【0108】
なお、図1に示す撹拌装置21は、連通管15内を通って移送される流動体12を撹拌しながら移送することができるので、流動体12を移送するために、供給ポンプ34が非圧縮性流体17を第1室19に供給する吐出圧力を低減させることができ、流動体12をスムースに移送することが可能になる。
【0109】
ただし、上記実施形態では、図1に示すように、圧力調整装置24は、第1及び第2圧力調整管25、26を介して撹拌装置21に接続したが、これに代えて、第1及び第2圧力調整管25、26を介して連通管15に接続してもよい。
【0110】
また、図1に示す圧力調整装置24の元弁31と圧力変換器32との間に設けられている第1圧力調整管25に分岐用継手を設け、この分岐用継手を別の第1圧力調整管を介して貯留タンク33や第1及び第2タンク13、14のそれぞれの第1室19に接続してもよい。このようにすると、貯留タンク33や第1及び第2タンク13、14のそれぞれの内圧を外圧よりも所定の設定圧力P2だけ高くなるように精度よく調整することができる。
【0111】
更に、上記実施形態では、図1に示すように、第1及び第2タンク13、14を略水平方向に互いに間隔を隔てて設け、これらの重心を直線方向に移動する構成としたが、この構成に加えて、この第1及び第2タンク13、14を設けた直線方向と直交する略水平方向に重心位置を移動できるように、図1に示す構成と同等の流動体移送装置11を設けた構成としてもよい。このように構成することによって、潜水艇等を含む船の重心位置を二次元空間内の方向に移動させることができる。これによって、例えば潜水艇では、三次元運動の姿勢制御を行うことができる。
【0112】
そして、上記実施形態では、この流動体移送装置11を潜水艇に適用したが、潜水艇以外の船にも適用することができる。また、この流動体移送装置11は、船以外にも、車両や陸上の構造物等に対しても適用することができ、それらの重心位置を移動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
以上のように、本発明に係る流動体移送装置、それを備える船、及び移送装置用流動体は、2つのタンクのうちの所望のタンクに貯留されている比重及び粘性の大きい流動体を、他方のタンクへ迅速で正確な流量精度で移送することができ、しかも耐久性に優れた効果を有し、このような流動体移送装置、それを備える船、及び移送装置用流動体に適用するのに適している。
【符号の説明】
【0114】
11 流動体移送装置
12 流動体
13 第1タンク
13a 底壁
13b 上壁
14 第2タンク
14a 底壁
14b 上壁
15 連通管
16 移送部
17 非圧縮性流体
18 隔壁
19 第1室
20 第2室
21 撹拌装置
21a 外装部
22 第1開口部
23 第2開口部
24 圧力調整装置
25 第1圧力調整管
26 第2圧力調整管
27 シリンダ部
28 ピストン部
29 付勢手段(圧縮コイルばね)
30、42 フィルタ
31 元弁
32 圧力変換器
32a 外ケース
33 貯留タンク
34 供給ポンプ
35 方向切換弁
36、37 供給管
38 排出管
39、40 給排管
41 案内部
41a 内部空間
43 ロッド
44 隔壁保持部
45 直動軸受
46 給排孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉体を含む流動体を貯留する2つのタンクと、
これら2つのタンクを互いに連通する連通管と、
2つの前記タンクのうちの一方の前記タンクに貯留されている前記流動体を他方の前記タンクに移送することができると共に、他方の前記タンクに貯留されている前記流動体を一方の前記タンクに移送することができる移送部とを備える流動体移送装置において、
2つのそれぞれの前記タンクは、変形自在な隔壁によって仕切られた第1室と第2室とを有し、それぞれの前記第1室には、非圧縮性流体が貯留され、かつ、それぞれの前記第2室には、前記非圧縮性流体よりも比重及び粘度が大きい前記流動体が貯留され、これら2つの前記第2室が前記連通管で互いに連通し、
前記移送部は、2つの前記第1室のうちの所望の一方の前記第1室に前記非圧縮性流体を供給したときに、他方の前記第1室から前記非圧縮性流体を排出することができる構成であることを特徴とする流動体移送装置。
【請求項2】
前記連通管には、当該連通管内の流動体を撹拌することができる撹拌装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載の流動体移送装置。
【請求項3】
前記撹拌装置は、一軸偏心ねじポンプであることを特徴とする請求項2記載の流動体移送装置。
【請求項4】
前記撹拌装置又は前記連通管には、圧力調整装置が設けられ、
前記圧力調整装置は、前記撹拌装置又は前記連通管の内側と外側とを連通するシリンダ部と、このシリンダ部内に配置されたピストン部と、前記ピストン部を前記撹拌装置又は前記連通管内の圧力を高める側に付勢する付勢手段とを有することを特徴とする請求項2又は3記載の流動体移送装置。
【請求項5】
前記流動体は、半固体状体又はペースト状体と金属製微粉体とが調合されたものであって、比重が5〜9であり、前記半固体状体又はペースト状体と前記金属製微粉体との重量比が15:85〜5:95であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の流動体移送装置。
【請求項6】
前記金属製微粉体は、粒径が10〜150μmのタングステン金属であり、
前記半固体状体又はペースト状体は、リチウムグリースであることを特徴とする請求項5記載の流動体移送装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の流動体移送装置を備えることを特徴とする流動体移送装置を備える船。
【請求項8】
微粉体を含む流動体を貯留する2つのタンクと、
これら2つのタンクを互いに連通する連通管と、
2つの前記タンクのうちの一方の前記タンクに貯留されている前記流動体を他方の前記タンクに移送することができると共に、他方の前記タンクに貯留されている前記流動体を一方の前記タンクに移送することができる移送部とを備える流動体移送装置に使用される流動体において、
半固体状体又はペースト状体と金属製微粉体とが調合されたものであって、比重が5〜9であり、前記半固体状体又はペースト状体と前記金属製微粉体との重量比が15:85〜5:95であることを特徴とする移送装置用流動体。
【請求項9】
前記金属製微粉体は、粒径が10〜150μmのタングステン金属製であり、
前記半固体状体又はペースト状体は、リチウムグリースであることを特徴とする請求項8記載の移送装置用流動体。

【図1】
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【図2】
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