説明

流路切換弁の製造方法及び流路切換弁

【課題】流路切換弁の弁ハウジングと第1種継手管及び第2種継手管をろう付けする際に、ろう付け前の加熱工程短縮方法を提供する。
【解決手段】第1種継手管3a〜3cの端部を、弁ハウジング1の挿通孔11a〜11c及び弁座部材2の挿通孔21a〜21cに挿通して組み付ける。第2種継手管3dの端部を、弁ハウジング1の挿通孔11dに挿通して組み付ける。第1種継手管3a〜3cの対応する位置で、弁ハウジング1の外側からレーザービームB1を照射して溶融固化層A1を形成するように溶接する。第2種継手管3dの対応する位置で、弁ハウジング1の外側からレーザービームB2を照射して溶融固化層A2を形成するように溶接する。熱容量の大きな組み付け用の治具を用いずに、仮組みした本体アッセンブリ10を加熱し、ろう付けする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍・冷蔵・空調・給湯サイクル等において冷媒の流路を切り換える流路切換弁を製造する流路切換弁の製造方法、及びその製造方法で製造した流路切換弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルに用いられる流路切換弁として、例えば特開昭63−219969号公報(特許文献1)、に開示されたものがある。この特許文献1と同様な流路切換弁として、図5に示すものがある。この流路切換弁は、円筒シリンダ状の弁ハウジング1内に弁座部材2が取り付けられ、この弁座部材2に形成された切り換えポート2a,2b,2cにそれぞれ導通する3本の継手管3a,3b,3cが、弁ハウジング1の側面に取り付けられている。また、弁ハウジング1には弁座部材2に対向するように1本の継手管3dが取り付けられている。この弁ハウジング1と継手管3a〜3d及び弁座部材2はそれぞれろう付けにより接合され、本体アッセンブリ10が形成される。なお、弁ハウジング1と弁座部材2は黄銅製(真鍮製)であり、継手管3a〜3dは銅製である。そして、この本体アッセンブリ10を形成したあと、弁ハウジング1内に図示しないスライド弁及びピストンを収納し、弁ハウジング1の両端にキャップ4a,4bが固着される。
【0003】
図4は流路切換弁の本体アッセンブリ10の各部を仮組みしてろう付けするのに用いる治具を示す図であり、図4(A) は平面図、図4(B) は側面図、図4(C) は正面図である。なお、図4(B) はろう付け前の本体アッセンブリ10の各部を仮組みした状態を一点鎖線で図示してある。
【0004】
この治具20は、架台a上に支柱bが立設され、支柱bの中程に弁座受けcが水平に延設されるとともに、支柱bの上部に上椀dが水平に延設されている。上腕dには3つの押さえ棒eが垂直に取り付けられ、この押さえ棒eは上下に移動可能で下方(架台a側)に付勢されている。弁座受けcは弁ハウジング1内に挿入できるような円柱部材で形成されその上面をDカットしたものである。また、架台aの中央には継手管受けfが設けられている。
【0005】
この治具20に対して、図4(B) に示すように本体アッセンブリ10を構成する各部を組み付ける。まず、弁ハウジング1内に弁座部材2を挿入した状態で弁座部材2側を上にし、この弁ハウジング1を弁座受けcに被せ、弁座受けcのDカット面で弁座部材2を受けるようにする。継手管3dの一端を継手管受けfの上端に嵌合するとともに、継手管3dの他端を弁ハウジング1に形成された図示しない挿通孔に嵌め込み、継手管3dを組み付ける。さらに、継手管3a〜3cの一端を弁ハウジング1の上側に形成された図示しない挿通孔を介して弁座部材2まで嵌合するように組み付け、この継手管3a〜3cの他端に押さえ棒e1〜e3を挿入する。これにより、弁ハウジング1、弁座部材2、継手管3a〜3dからなる本体アッセンブリ10が治具20に仮組みされる。
【0006】
次に、ろう付けをするためには各部を加熱する必要があるので、上記のように仮組みした本体アッセンブリ10を治具20ごと例えば炉内に収容し、全体を加熱する。そして、必要な温度まで加熱し、弁ハウジング1と継手管3a〜3dの組み付け部分をろう付けする。なお、弁座部材2は、継手管3a〜3cのろう付けにより、弁ハウジング1の挿通孔を介して弁ハウジング1の内面にろう付けされる。
【0007】
特許文献1には、ソレノイドチューブ管(13)をバルブ本体(12)に対して抵抗溶接またはレーザー溶接により取り付けたものが開示されているが、バルブ本体や弁本体に対して複数の継手管をレーザー溶接しているものは見あたらず、前記のようにろう付けにより接合するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−219969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のような従来のろう付け作業では、本体アッセンブリ10の各部を治具20に仮組みした状態で、全体を加熱しなければならない。すなわち、加熱時には本体アッセンブリ10の各部品以外に治具20をも加熱する必要がある。しかし、弁ハウジング1や継手管3a〜3dは比較的肉薄の部材であるが、治具は質量、体積とも大きくその熱容量が大きい。このため、本体アッセンブリ10を加熱するのに必要な熱量に比べて、治具20を加熱するのに必要な熱量は大きなものとなっている。したがって、加熱や冷却に時間がかかり作業効率も悪いという問題がある。また、加熱不足などによりろう付け工程の不良率へも影響する。さらに、加熱に大きな熱量を必要とし、省エネという点でも改良の余地がある。
【0010】
本発明は、弁ハウジングに複数の継手管をろう付けして流路切換弁を製造する製造方法において、ろう付け前の加熱工程を時間短縮して作業効率を高めて歩留まりを良くするとともに、省エネを図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の流路切換弁の製造方法は、筒状の弁ハウジング内に、弁ポートが形成された弁座部材が配設され、前記弁座部材の前記弁ポートに導通する第1種継手管と、前記弁ハウジングの内部に導通する第2種継手管とを、前記弁ハウジングの側面に形成された挿通孔に挿通するとともに、この挿通孔の接合部分でろう付けして取り付けることにより、前記弁ハウジングに前記第1種及び第2種継手管を取り付けるようにした流路切換弁の製造方法において、前記第1種継手管の端部を、前記弁ハウジングの挿通孔を介して前記弁座部材の前記弁ポートに挿通するように形成された挿通孔に挿通し、前記弁ハウジングの外側から、レーザービームを照射することにより、前記弁ハウジングから前記弁座部材を貫通して前記第1種継手管の端部に達する溶融固化層を形成し、前記第2種継手管の端部を、前記弁ハウジングの挿通孔に挿通し、前記弁ハウジングの外側から、レーザービームを照射することにより、前記弁ハウジングから前記第2種継手管の端部に達する溶融固化層を形成し、前記レーザービームによる溶接により、前記第1種継手管と前記第2種継手管とを前記弁ハウジングに仮組みして本体アッセンブリを構成し、当該仮組みした本体アッセンブリを加熱し、前記挿通孔の接合部分をろう付けするようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2の流路切換弁は、請求項1に記載の流路切換弁の製造方法によって製造された流路切換弁であって、前記弁ハウジング外面の前記第1種継手管と前記第2種継手管の付け根の位置に、前記溶融固化層が露出して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の流路切換弁の製造方法によれば、流路切換弁の本体アッセンブリを構成する弁ハウジングと第1種継手管及び第2種継手管とをレーザービームによる溶接で仮組みし、この仮組みした本体アッセンブリを加熱してろう付けするので、熱容量の大きな治具等を加熱する必要がなく、ろう付け前の加熱工程を時間短縮して作業効率を高めて歩留まりを良くすることができ、さらに、省エネを図ることができる。
【0014】
請求項2の流路切換弁によれば、請求項1の効果により、歩留まりのよい製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の流路切換弁の製造方法における仮組み状態の本体アッセンブリを示す図である。
【図2】本発明の実施形態の製造方法により製造した流路切換弁の側面図である。
【図3】本発明の実施形態の製造方法において本体アッセンブリのろう付けに用いる治具の一例を示す図である。
【図4】従来の製造方法において流路切換弁の本体アッセンブリの各部を仮組みしてろう付けするのに用いる治具を示す図である。
【図5】従来の流路切換弁の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の流路切換弁及びその製造方法の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は実施形態の流路切換弁の製造方法における仮組み状態の本体アッセンブリ10を示す図であり、図1(B) は図1(A) のA−A拡大断面図である。なお、図5と同様な要素には同符号を付記してある。図1に示す本体アッセンブリ10は、図4と同様に治具20に組み付け、その後、弁ハウジング1に対してレーザービームを照射し、弁ハウジング1に第1種継手管3a〜3cと第2種継手管3dを溶接して仮組みしたものである。
【0017】
実施形態のレーザーによる溶接は、Yb(イッテリビウム)ファイバーレーザー溶接により行う。ファイバーレーザーはファイバー自身が発振しレーザーを出力するために、ビーム品質が良好であり、ビーム径の小さなレーザービームを得ることができ、細い溶接をすることが可能である。例えばビーム径を0.2ミリ程度にすることができる。これにより、弁ハウジング1の必要な箇所で溶接幅を厚くすることなく深く鋭く溶接することができる。
【0018】
弁座部材2には、第1種継手管3a,3b,3cに対応して切り換えポート2a,2b,2cにそれぞれ導通する挿通孔21a,21b,21cが形成されている。また、弁ハウジング1には、弁座部材2挿通孔21a,21b,21cにそれぞれ導通する挿通孔11a,11b,11cが形成されるとともに、弁座部材2と対向する側に第2種継手管3dに対応して挿通孔11dが形成されている。そして、組み付けた状態では、第1種継手管3a,3b,3cの端部が、それぞれ挿通孔11a,11b,11cを介して挿通孔21a,21b,21cに挿通されている。また、第2種継手管3dの端部が挿通孔11dに挿通されている。
【0019】
図1(B) に示すように、弁ハウジング1の外側から、第1種継手管3b(3a,3c)と弁ハウジング1の取り付け箇所で第1種継手管3b(3a,3c)に対して斜めにレーザービームB1を照射する。このレーザービームによる溶接時には、レーザー光の照射によって弁ハウジング1の外側から弁座部材2及び継手管3bに向けて溶融ホールが形成される。そして、溶融ホールに融液が流れてレーザービームの停止後に冷却固化し、溶融固化層A1が形成される。この溶融固化層A1は、弁ハウジング1から弁座部材2を貫通して第1種継手管3bの端部に達するように形成されている。なお、図1(B) では第1種継手管3bの部分が図示されているが、第1種継手管3a,3cの部分も同様である。
【0020】
また、弁ハウジング1の外側から、第2種継手管3dと弁ハウジング1の取り付け箇所で第2種継手管3dに対して直角にレーザービームB2を照射する。同様に、レーザー光の照射によって弁ハウジング1の外側から第2種継手管3dに向けて溶融ホールが形成され、その後、レーザーの停止後に冷却固化し、溶融固化層A2が形成される。この溶融固化層A2は弁ハウジング1から第2種継手管3dの端部に達するように形成されている。
【0021】
このようにして、溶融固化層A1により、弁ハウジング1、弁座部材2及び第1種継手管3a〜3cが部分的に溶接される。また、溶融固化層A2により、弁ハウジング1と第2種継手管3dが部分的に溶接される。これにより、弁ハウジング1に対して第1種、第2種継手管3a〜3d及び弁座部材2が仮止めされ、本体アッセンブリ10の仮組みが完了する。
【0022】
その後は、仮組みが完了した本体アッセンブリ10を治具20から外し、その本体アッセンブリ10を図3に示す治具30に取り付け、全体を加熱してろう付けを行う。この治具30は図4に示す治具20から座受けc 、押さえ棒e1、押さえ棒e3を取除いた形態と同じである。すなわち、ろう付けの際には、取除いた部材の熱容量の影響を受けないので、従来のろう付け工法に比べて、加熱に要する熱量が軽減される。また、直ぐに加熱することができ、加熱に要する時間も短くて済む。また、図3の治具30において、架台a、支柱b、上腕d、さらには、継手管受けf、押え棒e2 を、熱容量が小さな形状に置換えることにより、更に加熱に要する熱量が軽減され、有効である。
【0023】
図2は上記の製造方法により製造した実施形態の流路切換弁の側面図であり、図2(A)は第1形態、図2(B) は第2形態を示す。図1(A) の第1形態は、本体アッセンブリ10の組み付け時に、弁ハウジング1の長手方向にレーザービームB1を直線状に移動させて溶接を行ったものであり、第1種継手管3aの付け根の位置から第1種継手管3cの付け根の位置まで直線状の溶融固化層A1が露出して形成されている。また、第2種継手管3dの位置でも弁ハウジング1の長手方向にレーザービームB2を直線状に移動させて溶接を行ったものであり、第2種継手管3dの付け根の位置に直線状の溶融固化層A2が露出して形成されている。
【0024】
図1(B) の第2形態は、本体アッセンブリ10の組み付け時に、弁ハウジング1に対して、レーザービームB1を各第1種継手管3a〜3cに対応する位置でスポット状に照射して溶接し、レーザービームB2を第2種継手管3dに対応する位置でスポット状に照射して溶接したものである。第1種継手管3a〜3cの付け根の位置に点状の溶融固化層A1がそれぞれ露出して形成されている。また、第2種継手管3dの付け根の位置に点状の溶融固化層A2が露出して形成されている。なお、第1形態、第2形態とも、弁ハウジング1の挿通孔11a〜11dと第1種、第2種継手管3a〜3dとの接合部分はろう付けされている。また、弁ハウジング1内に図示しないスライド弁及びピストンを収納し、弁ハウジング1の両端にキャップ4a,4bが固着されている。
【0025】
以上の実施形態の流路切換弁は継手管が4本の四方切換弁の例であるが、弁ハウジングに複数の継手管をろう付けするものであれば、本発明は他の形態の流路切換弁にも適用できる。
【符号の説明】
【0026】
10 本体アッセンブリ
30 治具
1 弁ハウジング
2 弁座部材
3a〜3c 第1種継手管
3d 第2種継手管
11a〜11d 挿通孔
21a〜21c 挿通孔
B1,B2 レーザービーム
A1,A2 溶融固化層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の弁ハウジング内に、弁ポートが形成された弁座部材が配設され、前記弁座部材の前記弁ポートに導通する第1種継手管と、前記弁ハウジングの内部に導通する第2種継手管とを、前記弁ハウジングの側面に形成された挿通孔に挿通するとともに、この挿通孔の接合部分でろう付けして取り付けることにより、前記弁ハウジングに前記第1種及び第2種継手管を取り付けるようにした流路切換弁の製造方法において、
前記第1種継手管の端部を、前記弁ハウジングの挿通孔を介して前記弁座部材の前記弁ポートに挿通するように形成された挿通孔に挿通し、前記弁ハウジングの外側から、レーザービームを照射することにより、前記弁ハウジングから前記弁座部材を貫通して前記第1種継手管の端部に達する溶融固化層を形成し、
前記第2種継手管の端部を、前記弁ハウジングの挿通孔に挿通し、前記弁ハウジングの外側から、レーザービームを照射することにより、前記弁ハウジングから前記第2種継手管の端部に達する溶融固化層を形成し、
前記レーザービームによる溶接により、前記第1種継手管と前記第2種継手管とを前記弁ハウジングに仮組みして本体アッセンブリを構成し、当該仮組みした本体アッセンブリを加熱し、前記挿通孔の接合部分をろう付けするようにしたこと
を特徴とする流路切換弁の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の流路切換弁の製造方法によって製造された流路切換弁であって、
前記弁ハウジング外面の前記第1種継手管と前記第2種継手管の付け根の位置に、前記溶融固化層が露出して形成されていることを特徴とする流路切換弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−97773(P2012−97773A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243715(P2010−243715)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】