説明

流路部材、液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び流路部材の製造方法

【課題】微細なバリ等の塵埃を発生させず、少ない工数で製造可能な流路部材1を提供する。
【解決手段】流入口7を有する流入部2と、流路19を構成する流路部3と、流路19を横切るフィルター9を構成するフィルター部4と、流路19に連通する流出口10を有する流出部5と、流路19を閉塞する閉塞部6が積層して接合して流路部材1を構成した。これにより、金型成形の際に形成されるパーティングラインから微細なバリが分離し脱落してノズルを詰まらせるという課題を解決することができる。また、接合工程や洗浄工程を減少させて量産性に優れた流路部材の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置のアクチュエータ部に液体を供給する流路部材、この流路部材を用いた液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び流路部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出して文字、図形を描画する、或いは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜を形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、チャンネルに充填したインクや液体材料をチャンネルに連通するノズルから吐出させる。インクの吐出の際には、液体噴射ヘッドや噴射した液体を記録する被記録媒体を移動させて、文字や図形を記録する、或いは所定形状の機能性薄膜を形成する。
【0003】
特許文献1にはこの種の液体噴射装置に使用される液体噴射ヘッドが記載されている。液体噴射ヘッドは、インク等の液体を吐出する液体噴射ヘッドチップと、この液体噴射ヘッドチップに液体を供給する流路部材と、液体噴射ヘッドチップを駆動するための駆動部を備えている。流路部材は、液体を貯留するタンクから液体噴射ヘッドチップに液体を供給するための中間部材であり、液体噴射ヘッドに形成される液滴吐出用の複数のノズルに液体を均等に供給するとともに、流路に設置されたフィルターにより塵埃や気泡がノズル側に流れるのを阻止する。
【0004】
図9はこの種の流路部材100の一例を表す斜視図であり、図10は流路部材100の製造工程の一例を表す工程図である。流路部材100は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等の合成樹脂から成る。図9(a)に示すように、流路部材100は、内部に流路が構成される本体117と、本体117の上面に設置された供給接続部106と、長手方向の端部上面に設置されたメンテナンス用接続部107と、本体117の前端面に形成された排出口105を備えている。
【0005】
図9(b)を用いてより詳しく説明する。流路部材100は、第一の部材101と、第二の部材102と、第一フィルター103と、第二フィルター104により構成されている。第一の部材101は、第一の部材の上面に設置され、インク等の液体が供給される供給接続部106と、上面端部に設置されたメンテナンス用接続部107と、前方側面に設置される3つの係止爪112と、後方側面に設置される図示しない3つの係止穴を備えている。第一の部材101は、更に、第一フィルター103を装着するための図示しない第一フィルター受部と、第二フィルター104を装着するための図示しない第二フィルター受部が流路側の内表面に形成されている。
【0006】
第二の部材102は、その上面が第一の部材101の内表面と離間して流路110を構成する。第二の部材102は、前方側面に設置された排出口105と、その排出口105の上部に設置され、第一の部材101の係止爪112と係合する3つの係止穴113と、長手方向の上面端部に設置され、中央に気泡排出孔を備える2つの突起111を備えている。第二の部材102は、更に、その後方側面に図示しない3つの係止穴を備え、第一の部材101に形成された図示しない3つの係止穴と係合する。第一の部材101と第二の部材102は、接着されて流路110を構成する。第一フィルター103は流路110に設置され、第二フィルター104は気泡排出孔に連通する連絡路に設置される。なお、メンテナンス用接続部107は、パッキン109を介してキャップ108により閉塞されている。
【0007】
図10を用いて流路部材100の製造方法を説明する。まず、第一の部材成形工程S101において、合成樹脂の金型成形により第一の部材101を形成する。次に第一の部材洗浄工程S102において、水や有機溶媒中で超音波洗浄を行い、乾燥し、金型成形の際に付着したごみや油脂成分を除去する。特に、複数の金型の境界は微細なバリの発生源であり、ノズルを詰まらせて吐出不良を起こす原因となるので十分洗浄する必要がある。第二の部材成形工程S103において第二の部材102を形成し、次の第二の部材洗浄工程S104において水や有機溶媒中で超音波洗浄を行い、乾燥する。次に、第二フィルター設置工程S105において、流路と気泡排出孔を連絡する連絡路に第二フィルター104を設置する。第二フィルター104は、第一の部材101に接着により設置する。
【0008】
次に、第一フィルター設置工程S106において、第一の部材101の内面に第一フィルター103を設置する。第一フィルター103は、第一の部材104に熱溶着により設置する。第一フィルター103の開口孔径は約8μmであり、第二フィルター104の開口孔径は約25μmである。液体の流路抵抗を下げるために第一フィルター103は大きな面積を有している。そのため第一フィルター103と第一の部材101の接合面積は広い。
【0009】
次に、シール工程S107において、第一フィルター103と第一の部材101の接合個所に接着剤を塗布し、接合不良個所を閉塞する。接合不良個所から塵埃や気泡が下流側に漏れると、ノズルが詰まって吐出不良の原因となるからである。次に、洗浄工程S108において、第一フィルター103に混入した塵埃や気泡、流路の側面から発生した微細なバリを除去する。次に、接合工程S109において第一の部材101と第二の部材102を接着剤により接合し、次に、部品取り付け工程S110において流路部材100にパッキン109を介してキャップ108を取り付け、リークテストS111を行い、洗浄工程S112において最終洗浄を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−131941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、第一の部材101と第二の部材102は合成樹脂の金型成形により形成するので、金型と金型の境界部に形成されるパーティングラインには微細なバリが発生する。この微細なバリが分離し脱落するとフィルター下流側に流れてノズルを詰まらせ、吐出不良が発生する原因となっていた。また、図10を用いて説明したとおり、第一フィルター設置工程S106の前に第二の部材洗浄工程S104が必要であり、第一フィルター設置工程S106の後に接合不良個所を閉塞するためのシール工程S107、その後の洗浄工程S108が必要である。そのため、製造工程が長く、コスト高の原因となっていた。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、金型成形法のような微細なバリが発生せず、量産性の優れた流路部材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の流路部材は、流入口を有する流入部と、流路を構成する流路部と、前記流路を横切るフィルターを構成するフィルター部と、前記流路に連通する流出口を有する流出部と、前記流路を閉塞する閉塞部と、が積層して接合されることとした。
【0013】
また、前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は同じ金属材料から成り、互いに拡散接合されていることとした。
【0014】
また、前記フィルター部は、前記フィルターが複数積層して接合されていることとした。
【0015】
また、前記フィルター部は、線材から織り込んで形成されていることとした。
【0016】
また、前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は長尺形状を有し、前記流路部は、その中央部に板厚方向に貫通し前記流路を構成する流路貫通孔を有し、その長手方向の端部に前記流路貫通孔に連通し板厚方向に貫通する第一の気泡排出溝を有し、前記フィルター部は、その長手方向の端部に前記第一の気泡排出溝に連通し板厚方向に貫通する第一の気泡排出孔を有し、前記流出部は、その長手方向の端部に、前記第一の気泡排出孔に連通し、前記流出口が形成される側の側面に開口し板厚方向に貫通する第二の気泡排出溝を有することとした。
【0017】
また、前記流路部と前記流出部の間に第二の流路部を備え、前記第二の流路部は、前記流路貫通孔に連通する第二の流路貫通孔を有し、前記第一の気泡排出溝に連通する第二のフィルターを有することとした。
【0018】
また、前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は長尺形状を有し、前記流入部は、その長手方向の端部にメンテナンス用の第一のメンテナンス貫通孔を有し、前記流路部は、その長手方向の端部に前記第一のメンテナンス貫通孔に連通する第二のメンテナンス貫通孔を有し、前記フィルター部は、その長手方向の端部に前記第二のメンテナンス貫通孔に連通する第三のメンテナンス貫通孔を有し、前記流出部は、平面視でコの字形を有し、その長手方向の端部に前記第三のメンテナンス貫通孔に連通し、前記コの字形の内側面に開口し、板厚方向に貫通するメンテナンス溝を有することとした。
【0019】
また、前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は長尺形状を有し、前記閉塞部は第一の閉塞部と第二の閉塞部を含み、前記第一の閉塞部は、その長手方向の端部の前記流出口の側の側面に開口し、板厚方向に貫通する接着剤導入用の2つの第一の接着剤通路溝と、前記長手方向の端部の前記流出口と反対側の側面に開口し、板厚方向に貫通する接着剤導入用の2つの第二の接着剤通路溝とを有し、前記第二の閉塞部は、その長手方向の端部に、一端を前記第一の接着剤通路溝に連通し、他端を前記第二の接着剤通路溝に連通する2つの連絡貫通孔を有することとした。
【0020】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記いずれかに記載の流路部材と、前記流出口を液体供給口に連通するアクチュエータ部と、を備えることとした。
【0021】
本発明の液体噴射装置は、上記液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えることとした。
【0022】
本発明の流路部材の製造方法は、流入口を有する流入部と、流路を構成する流路部と、フィルターを構成するフィルター部と、流出口を有する流出部と、流路を閉塞する閉塞部とを形成する部材形成工程と、前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部及び前記閉塞部を積層し、加熱して拡散接合する接合工程と、を備えることとした。
【0023】
また、前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部及び前記閉塞部をエッチング法により形成することとした。
【発明の効果】
【0024】
本発明の流路部材は、流入口を有する流入部と、流路を構成する流路部と、流路を横切るフィルターを構成するフィルター部と、流路に連通する流出口を有する流出部と、流路を閉塞する閉塞部が積層して接合される。これにより、金型成形の際に形成されるパーティングラインから微細なバリが分離し脱落してノズルを詰まらせるという課題を解決することができる。また、接合工程や洗浄工程を減少させて量産性に優れた流路部材の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施形態に係る流路部材の説明図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る流路部材の分解斜視図である。
【図3】本発明の第二実施形態に係る流路部材の分解斜視図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る流路部材の斜視図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係る流路部材の製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の第三実施形態に係る流路部材の製造方法を説明するための図である。
【図7】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの説明図である。
【図8】本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【図9】従来公知の流路部材の斜視図である。
【図10】従来公知の流路部材の製造工程を表す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第一実施形態)
図1は本発明の第一実施形態に係る流路部材の説明図であり、(a)は流路部材1の分解斜視図であり、(b)は斜視図である。流路部材1は、上から順に、流入部2、流路部3、フィルター部4、流出部5、及び閉塞部6が積層して接合された構造を備えている。流入部2は中央部に流入口7を有している。流路部3は、中央部に上記流入口7に連通し、流路を構成する流路貫通孔8を有している。フィルター部4は流路を横切るフィルター9を有している。流出部5は流路に連通する手前側の側面が開口して流出口10を構成するコの字形の形状を有している。閉塞部6は流路の下部を閉塞する。
【0027】
このように、予めパターンが形成された薄板を積層して接合することにより、型成形では避けられないパーティングラインを無くし、パーティングラインから微細なバリが分離し脱落することがない。また、型成形では難しい中空孔等の複雑な連絡孔を容易に構成することができる。
【0028】
各部として、金属材料を使用することができる。フィルター部4は複数枚から構成することができる。他の部も複数枚から構成することができる。各部として、例えば厚さが0.1mm〜0.5mmのステンレス鋼、ニッケル合金などの金属薄板を使用することができる。後に詳細に説明するが、各部をフォトリソグラフィ及びエッチング工程により必要な形状の薄板に形成することができる。そして、流入部2、流路部3、フィルター部4、流出部5、及び閉塞部6の各部を積層し、拡散接合により一体的に接合して流路部材1を形成することができる。また、フィルター部4として、金属薄板のフォトリソグラフィ及びエッチング法に代えて、他部と同系金属の線材を平織、綾織、平畳織、綾畳織等により織り込んで作成することができる。この線材によるフィルター部も拡散接合により他部と一体的に形成することができる。
【0029】
なお、上記実施形態では、中央に流入口7を有する流入部2を上端に設置したが本発明はこれに限定されない。例えば上端に閉塞部6を設置し、次に前方側面又は後方側面に流入口を有する流入部2を設置して側面方向から液体を流入するように構成しても良い。同様に、流出部5の下部に閉塞部6を設置することに代えて、流路貫通孔8と同形状の流出口を有する流出部5を下端に設置して、積層方向に液体を流出するように構成しても良い。以下、本発明の構成についてより具体的に説明する。
【0030】
(第二実施形態)
図2及び図3は、本発明の第二実施形態に係る流路部材1の分解斜視図である。図4は、薄板を積層して接合した流路部材1の斜視図である。図2及び図3に示すように、流入部2を2枚の流入部2a、2bにより構成し、流路部3を5枚の流路部3a〜3eにより構成し、フィルター部4を1枚で構成し、流出部5を2枚の流出部5a、5bにより構成し、閉塞部6を5枚の閉塞部6a〜6eにより構成した。流入部2a、2b・・・閉塞部6eの薄板はすべて同じ厚さのステンレス薄板を使用している。
【0031】
最上部の流入部2aは、中央に板厚方向に貫通する流入口7aを有し、手前側の一方の端部に板厚方向に貫通する第一のメンテナンス貫通孔15aを有する。その下部の流入部2bは、中央に流入口7aに連通する流入口7bを有し、手前側の一方の端部には第一のメンテナンス貫通孔15aに連通するメンテナンス貫通孔15bを有する。流入部2bの下部の流路部3aは、中央に長方形の流路貫通孔8aを有し、その手前側の一方の端部にメンテナンス貫通孔15bに連通するメンテナンス貫通孔15cを有する。
【0032】
流路部3aの下部の流路部3bは、中央に流路貫通孔8aに連通し流路貫通孔8aと同形状の流路貫通孔8bを有し、手前側の一方の端部と奥側の他方の端部に流路貫通孔8bに連通し板厚方向に貫通する第一の気泡排出溝12aを有している。流路部3bは、更に、一方の端部に、メンテナンス貫通孔15cに連通するメンテナンス貫通孔15d(第二のメンテナンス貫通孔)を有する。流路部3bの下部の流路部3cは、中央に流路貫通孔8bに連通し流路貫通孔8bと同形状の流路貫通孔8cを有し、一方の端部と他方の端部に第一の気泡排出溝12aに連通する気泡排出孔13aを有し、一方の端部に第二のメンテナンス貫通孔15dに連通するメンテナンス貫通孔15eを有する。
【0033】
流路部3cの下部の流路部3d(第二の流路部)は、中央部に流路貫通孔8cに連通する同形状の流路貫通孔8d(第二の流路貫通孔)を有し、一方の端部と他方の端部の上記気泡排出孔13aに対応する位置に第二のフィルター14を有し、一方の端部にメンテナンス貫通孔15eに連通するメンテナンス貫通孔15fを有する。流路部3dの下部のフィルター部4は、中央に、流路貫通孔8dに対応する位置に流路貫通孔8dと同形状のフィルター9を有し、一方の端部と他方の端部に上記第二のフィルター14に対応する位置に気泡排出孔13b(第一の気泡排出孔)を有し、更に、一方の端部にメンテナンス貫通孔15fに連通するメンテナンス貫通孔15g(第三のメンテナンス貫通孔)を有する。
【0034】
フィルター部4の下部の流路部3eは、中央部にフィルター9に対応する位置にフィルター9と同形状の流路貫通孔8eを有し、一方の端部と他方の端部に第一の気泡排出孔13bに連通する気泡排出孔13cを有し、更に、一方の端部に上記第三のメンテナンス貫通孔15gに連通するメンテナンス貫通孔15hを有する。
【0035】
流路部3eの下部のコの字形を有する流出部5aは、流出口が形成される手前側に開口し、一方の端部と他方の端部に気泡排出孔13cに連通する気泡排出孔13dを有する。流出部5aは、更にコの字形の内側面に開口し、板厚方向に貫通し、メンテナンス貫通孔15hに連通するメンテナンス溝18aを有する。流出部5aの下部の流出部5bは、流出部5aと同じコの字形の形状を有し、流出口が形成される手前側に開口する。流出部5bは、一方の端部と他方の端部に、板厚方向に貫通し、流出口が形成される手前側に開口し、気泡排出孔13dに連通する第二の気泡排出溝12bを有する。流出部5bは、更に、一方の端部のコの字形の内側面に開口し、板厚方向に貫通し、メンテナンス溝18aに連通するメンテナンス溝18bを有する。
【0036】
流出部5bの下部に位置する閉塞部6aは、上部に形成される流路を閉塞する。閉塞部6aの下部の閉塞部6bは、一方の端部と他方の端部であり、流出口10が形成される側とは反対側の側面に開口し、板厚方向に貫通する2つの第三の接着剤通路溝16cを有する。閉塞部6bの下部の閉塞部6c(第一の閉塞部)は、一方の端部と他方の端部であり、流出口10が形成される側の側面に開口し、板厚方向に貫通する2つの第一の接着剤通路溝16aを有する。閉塞部6cは、更に、一方の端部と他方の端部であり流出口10が形成される側とは反対側の側面に開口し、板厚方向に貫通し、上記第三の接着剤通路溝16cに連通する2つの第二の接着剤通路溝16bを有する。閉塞部6cの下部に位置する閉塞部6d(第二の閉塞部)は、一方の端部と他方の端部であり一端を上記第一の接着剤通路溝16aに連通し、他端を上記第二の接着剤通路溝16bに連通し、厚み方向に貫通する2つの連絡貫通孔17を有する。閉塞部6dの下部に位置する閉塞部6eは、上記4つの連絡貫通孔17を閉塞する。
【0037】
このように、15枚のステンレス薄板を使用して、流入口7と流出口10の間に流路を構成し、その流路を横切るようにフィルター9を設置することができる。更に、一方の端部にフィルター9の下流側の流路に連通するメンテナンス貫通孔15を形成し、一方の端部と他方の端部にフィルター9の上流側の流路に連通し流出口10が形成される側の側面に開口する気泡排出孔13を形成することができる。更に、一方の端部に流出口10が形成される側面から反対側の側面に貫通する接着剤通路16を形成することができる。なお、各部を構成するステンレス薄板は必要に応じて枚数を増減させることができる。
【0038】
フィルター9は、気泡や塵埃が混入した液体がノズルに流れてノズル開口を詰まらせ、吐出不良を起こすことを防止するために設置されている。気泡排出孔13は、フィルター9の上流側に混入した気泡を除去するために設けている。気泡排出孔13の途中に設置した第二のフィルター14は、フィルター9の上流側に堆積した気泡を通過させるとともに、流路内の液体圧力を大気圧よりも陰圧に保持し、ノズル開口に適正なメニスカスを形成するために設けている。また、メンテナンス貫通孔15は液体の交換や流路内のクリーニングの際に使用するために設けている。
【0039】
図4は、合計25枚のステンレス薄板を拡散接合した流路部材1の斜視図である。図4(a)は流路部材1の正面側の斜視図であり、(b)は裏面側の斜視図である。流路部材1は、5枚の薄板により流入部2を、8枚の薄板により流路部3を、2枚の薄板によりフィルター部4を、4枚の薄板により流出部5を、6枚の薄板により閉塞部6をそれぞれ構成し、合計25枚のステンレス薄板を拡散接合して一体的に形成した。流路部材1は、上部の中央に流入口7と手前側端部にメンテナンス貫通孔15が開口し、前側面の下部に流出口10が開口し、前側面の両端下部に気泡排出孔13と2つの接着剤通路16が開口している。後側面の両端下部に2つの接着剤通路16が開口している。なお、本実施形態においては、メンテナンス貫通孔15の上部に、図9(b)に示すようなキャップ108に相当する蓋形状を設けることも可能である。
【0040】
このように、本発明の流路部材1は、微細なバリの発生源となるパーティングラインを無くした。また、フィルター9や第二のフィルター14を薄板により形成して他の薄板と一括して接合する。そのため、洗浄工程や接着工程を削減することができる。また、型成形法では多数の金型を組み合わせることが必要となる複雑な中空形状を容易に形成することができる。
【0041】
(第三実施形態)
図5及び図6は本発明の第三実施形態に係る流路部材1の製造方法を説明するための図である。本発明の流路部材1の製造方法は、各部を形成する部材形成工程と形成された部材を積層して拡散接合する接合工程とから成る。以下、流路部材1を多数個同時に製造する例を説明する。
【0042】
まず、例えばステンレス鋼やニッケル合金などの金属薄板を使用することができる。金属薄板は使用する液体に対して耐性を有する材料を選定する。金属薄板の厚さの制限はないが、フォトリソグラフィ及びエッチング工程での取り扱いを考慮すると、流路部材1の形状や内部構造に応じて0.1mm〜0.5mmの金属薄板を使用するのが好ましい。ここでは薄板としてステンレス鋼を使用した。
【0043】
図5(a)は、薄板20の表面と裏面に感光性樹脂21を形成し、フォトリソグラフィにより感光性樹脂21のパターンを形成した状態を表す断面図である。図5(b)は、エッチング工程により薄板20を上面側と裏面側からエッチング処理を行い、感光性樹脂21が形成されていない領域の薄板20を除去した状態を表す断面図である。図5(c)は、表面及び裏面の感光性樹脂21を除去した薄板20の断面を表す。薄板20は流入部2であり、エッチング除去して流入口7を形成した。図5(d)は流入部2の模式的な斜視図である。このように、多数の流入部2を同時に形成することができる。他の各部も同様に形成することができる。また、フォトリソグラフィ及びエッチング工程により各部材のパターンを形成したので、表面に微細なバリが発生するような境界部は形成されない。
【0044】
図5(e)は、積層した各部を拡散接合により接合する状態を説明するための図である。上記の部材形成工程を通して流入部2、流路部3、フィルター部4、流出部5及び閉塞部6を形成する。次に、これら各部を積層し、加圧用の定盤22、23に挟んで加圧しながら真空に引く。そして、積層した各部を融点以下の温度に加熱し、同時に塑性変形が生じない程度に加圧して原子の拡散を利用した拡散接合を行う。図6(f)は、接合工程の後の流路部材1の斜視図であり、(g)は個々に分離した流路部材1の斜視図である。
【0045】
このように、各部を多数個同時に形成し、各部の接合の際も各部を積層して一括して接合することができるので、従来と比較して短い工程で多数の流路部材1を同時に製造することができる。そのために、製造コストを削減することができる。また、複数型を用いて成形したときに形成されるパーティングラインに発生する微細なバリが分離し脱落することを無くすことができる。また、接合面のシール性が高く、曲げ等に対する機械的強度が高い。なお、各薄板を全部積層して一括接合した例を説明したが、例えば、各部単位で拡散接合し、次に各部を積層して拡散接合して、拡散接合を複数回に分けて行ってもよい。
【0046】
(第四実施形態)
図7は、本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド25を説明するための図である。図7(a)はアクチュエータ部26に流路部材1を接合した状態を表す断面模式図であり、(b)は液体噴射ヘッド25の側面図である。
【0047】
図7(a)に示すように、流路部材1はアクチュエータ部26に接合されている。流路部材1は、流入部2と流路部3とフィルター部4と流出部5と閉塞部6が積層して接合された構造を備えている。流路部材1は、上面に形成した流入口7から液体を流入し、内部に形成した流路19を通して流出口10から液体を流出する。流路部材1は、内部に流路19を横切るようにフィルター9を備えている。
【0048】
アクチュエータ部26は、内部に加圧室29を有する加圧部28と、加圧部28の端部に装着した支持部30と、加圧室29の端部と支持部30の下端部に設けたノズルプレート31を備えている。ノズルプレート31は加圧室29に連通するノズル32を備えている。流路部材1とアクチュエータ部26は流出口10と供給口27を連通して接合されている。アクチュエータ部26は供給口27から液体を導入して加圧室29に充填し、加圧部28により加圧室29内の液体を加圧して、ノズル32から液滴を吐出する。
【0049】
図7(b)に示すように、液体噴射ヘッド25は、基板36と、圧力緩衝器35と、アクチュエータ部26を備えている。圧力緩衝器35とアクチュエータ部26は基板36に固定されている。圧力緩衝器35は、第一接続部33から液体導入し、第二接続部34から流路部材1に液体を供給する。圧力緩衝器35は、流路部材1を介してアクチュエータ部26に供給する液体の圧力変動を緩和させる。流路部材1は、第二接続部34を介して流入した液体をアクチュエータ部26に排出する。
【0050】
液体噴射ヘッド25を上記のように構成したことにより、流路部材を金型成形により形成したときに発生する微細なバリを無くすことができるので、ノズル開口の詰まりによる吐出不良を低減させることができる。流路部材1は少ない工程で製造することができるので、製造コストを低減させることができる。
【0051】
(第五実施形態)
図8は、本発明の第五実施形態に係る液体噴射装置50の模式的な斜視図である。本液体噴射装置50は、上記第四実施形態で説明した液体噴射ヘッド25を使用している。液体噴射装置50は、液体噴射ヘッド25、25’を往復移動させる移動機構63と、液体噴射ヘッド25、25’に液体を供給する液体供給管53、53’と、液体供給管53、53’に液体を供給する液体タンク51、51’を備えている。各液体噴射ヘッド25、25’は、液体を吐出させるアクチュエータ部26と、このアクチュエータ部26に液体を供給する流路部材1と、流路部材1に液体を供給する圧力緩衝器35を備えている。
【0052】
具体的に説明する。液体噴射装置50は、紙等の被記録媒体54を主走査方向に搬送する一対の搬送手段61、62と、被記録媒体54に液体を吐出する液体噴射ヘッド25、25’と、液体タンク51、51’に貯留した液体を液体供給管53、53’に押圧して供給するポンプ52、52’と、液体噴射ヘッド25、25’を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構63等を備えている。
【0053】
一対の搬送手段61、62は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体54を主走査方向に搬送する。移動機構63は、副走査方向に延びた一対のガイドレール56、57と、一対のガイドレール56、57に沿って摺動可能なキャリッジユニット58と、キャリッジユニット58を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト59と、この無端ベルト59を図示しないプーリを介して周回させるモータ60を備えている。
【0054】
キャリッジユニット58は、複数の液体噴射ヘッド25、25’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク51、51’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ52、52’、液体供給管53、53’を介して液体噴射ヘッド25、25’に供給する。
【0055】
液体噴射装置50の制御部は、各液体噴射ヘッド25、25’に駆動信号を与えて各色の液滴を吐出させる。この制御部は、液体噴射ヘッド25、25’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット58を駆動するモータ60の回転及び被記録媒体54の搬送速度を制御して、被記録媒体54上に任意のパターンを記録する。
【0056】
本実施形態では流路部材1として、流入部、流路部、フィルター部、流出部、閉塞部を積層して接合したので、流路部材を金型成形により形成したときに発生する微細なバリを無くすことができ、ノズル開口の詰まりによる吐出不良を低減させることができる。また、流路部材1は少ない工程で製造することができるので、製造コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 流路部材
2 流入部
3 流路部
4 フィルター部
5 流出部
6 閉塞部
7 流入口
8 流路貫通孔
9 フィルター
10 流出口
25 液体噴射ヘッド
50 液体噴射ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口を有する流入部と、
流路を構成する流路部と、
前記流路を横切るフィルターを構成するフィルター部と、
前記流路に連通する流出口を有する流出部と、
前記流路を閉塞する閉塞部と、が積層して接合される流路部材。
【請求項2】
前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は同じ金属材料から成り、互いに拡散接合されている請求項1に記載の流路部材。
【請求項3】
前記フィルター部は、前記フィルターが複数積層して接合されている請求項1又は2に記載の流路部材。
【請求項4】
前記フィルター部は、線材から織り込んで形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の流路部材。
【請求項5】
前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は長尺形状を有し、
前記流路部は、その中央部に板厚方向に貫通し前記流路を構成する流路貫通孔を有し、その長手方向の端部に前記流路貫通孔に連通し板厚方向に貫通する第一の気泡排出溝を有し、
前記フィルター部は、その長手方向の端部に前記第一の気泡排出溝に連通し板厚方向に貫通する第一の気泡排出孔を有し、
前記流出部は、その長手方向の端部に、前記第一の気泡排出孔に連通し、前記流出口が形成される側の側面に開口し板厚方向に貫通する第二の気泡排出溝を有する請求項1に記載の流路部材。
【請求項6】
前記流路部と前記流出部の間に第二の流路部を備え、
前記第二の流路部は、前記流路貫通孔に連通する第二の流路貫通孔を有し、前記第一の気泡排出溝に連通する第二のフィルターを有する請求項5に記載の流路部材。
【請求項7】
前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は長尺形状を有し、
前記流入部は、その長手方向の端部にメンテナンス用の第一のメンテナンス貫通孔を有し、
前記流路部は、その長手方向の端部に前記第一のメンテナンス貫通孔に連通する第二のメンテナンス貫通孔を有し、
前記フィルター部は、その長手方向の端部に前記第二のメンテナンス貫通孔に連通する第三のメンテナンス貫通孔を有し、
前記流出部は、平面視でコの字形を有し、その長手方向の端部に前記第三のメンテナンス貫通孔に連通し、前記コの字形の内側面に開口し、板厚方向に貫通するメンテナンス溝を有する請求項1に記載の流路部材。
【請求項8】
前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部、及び、前記閉塞部は長尺形状を有し、
前記閉塞部は第一の閉塞部と第二の閉塞部を含み、
前記第一の閉塞部は、その長手方向の端部の前記流出口の側の側面に開口し、板厚方向に貫通する接着剤導入用の2つの第一の接着剤通路溝と、前記長手方向の端部の前記流出口と反対側の側面に開口し、板厚方向に貫通する接着剤導入用の2つの第二の接着剤通路溝とを有し、
前記第二の閉塞部は、その長手方向の端部に、一端を前記第一の接着剤通路溝に連通し、他端を前記第二の接着剤通路溝に連通する2つの連絡貫通孔を有する請求項1に記載の流路部材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の流路部材と、
前記流出口を液体供給口に連通するアクチュエータ部と、を備える液体噴射ヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。
【請求項11】
流入口を有する流入部と、流路を構成する流路部と、フィルターを構成するフィルター部と、流出口を有する流出部と、流路を閉塞する閉塞部とを形成する部材形成工程と、
前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部及び前記閉塞部を積層し、加熱して拡散接合する接合工程と、を備える流路部材の製造方法。
【請求項12】
前記流入部、前記流路部、前記フィルター部、前記流出部及び前記閉塞部をエッチング法により形成した請求項11に記載の流路部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−152985(P2012−152985A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13324(P2011−13324)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】