説明

流量計

【課題】熱式流れセンサを備えた流量計において、ガス組成が変動する環境下で簡易に被測定ガスの流量補正を行う。
【解決手段】所定の流路2a内を流通する同一の被測定ガスの流量を検出するための複数の異なる熱式流れセンサ10A・10Bを備える流量計1であって、少なくとも1つの熱式流れセンサ10A(10B)のセンサ出力に基づいて被測定ガスの補正前流量を算出する流量演算部21と、2つの熱式流れセンサ10A・10Bのセンサ出力に基づいて算出した被測定ガスの補正前流量と各熱式流れセンサ固有の固定係数とに基づいて所定の基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比と相関関係を有する補正係数を算出する補正係数演算部22と、流量演算部21で算出した補正前流量と補正係数演算部22で算出した補正係数とに基づいて被測定ガスの補正後流量を算出する出力補正部23と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の流路を流通する被測定ガスの流量を検出する熱式流れセンサを備えた流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の流路を流通するガスの流量を測定する流量計を用いた技術が種々提案され、実用化されている。例えば、流量レンジ(測定可能流量域)が異なるマスフローメータを複数設け、被測定ガスの流量に応じて最適なマスフローメータを選択して所定の検査を行う半導体製造装置に関する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、現在においては、ヒータ(発熱抵抗体)と、このヒータを挟んで被測定ガスの上流側及び下流側に各々配置された2つの温度センサ(測温抵抗素子)と、を有する熱式流れセンサを備える流量計が提案されている。かかる流量計においては、被測定ガスの運搬効果により変化する2つの温度センサの温度差(抵抗値の差)に対応する信号を検出し、この信号に基づいて被測定ガスの流量を算出している。
【0004】
このような熱式流れセンサを備える流量計においては、被測定ガスの種類(組成)が変更されると、フローセンサのセンサ出力特性が変化することが知られている。その理由は、ガスの種類によって熱伝導率等が異なるからである。そこで、近年においては、ガスの種類に応じてセンサ出力特性の変化を補正する補正係数(コンバージョン・ファクタ)を予め設定しておき、被測定ガスが変更された場合にこの補正係数を手動で変更して測定値(流量)を補正する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−214591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記したような補正係数(コンバージョン・ファクタ)の設定変更のためには、被測定ガスの種類(組成)を特定する必要がある。ガス組成が時々刻々と変動するような環境下においては、ガスクロマトグラフィ等を用いてガス組成を分析し、このガス組成に基づいてコンバージョン・ファクタをその都度算出して被測定ガスの測定値を補正することも考えられる。
【0007】
しかし、ガスクロマトグラフィのような高価で大掛かりな装置を流量計の近くに多数装備することは現実的ではない。このため、ガス組成が時々刻々と変動するような環境下において、コンバージョン・ファクタを自動設定して被測定ガスの測定値(流量)をより簡易に補正するための技術が待望されていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、熱式流れセンサを備えた流量計において、ガス組成が変動する環境下で簡易に被測定ガスの流量補正を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、本発明に係る第一の流量計は、所定の流路内を流通する同一の被測定ガスの流量を検出するための複数の異なる熱式流れセンサを備えるとともに、少なくとも1つの熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて被測定ガスの補正前流量を算出する流量算出手段と、少なくとも2つの熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて算出した被測定ガスの補正前流量と少なくとも2つの熱式流れセンサ固有の固定係数とに基づいて所定の基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比と相関関係を有する補正係数を算出する補正係数算出手段と、流量算出手段で算出した補正前流量と前記補正係数算出手段で算出した補正係数とに基づいて被測定ガスの補正後流量を算出する流量補正手段と、を備えるものである。
【0010】
かかる構成を採用すると、少なくとも2つの異なる熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて算出した被測定ガスの補正前流量と、これら各熱式流れセンサ固有の固定係数と、に基づいて、所定の基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比と相関関係を有する補正係数を算出することができる。そして、この算出した補正係数を用いて、被測定ガスの補正後流量を算出することができる。従って、ガス組成が変動する環境下においても、簡易に被測定ガスの流量補正を行うことが可能となる。
【0011】
前記流量計において、第一の発熱素子及び第一の発熱素子の近傍に配置された第一の抵抗素子を有し被測定ガスの運搬効果によって第一の抵抗素子の抵抗値が変化するように構成された第一の熱式流れセンサと、第二の発熱素子及び第二の発熱素子の近傍に配置された第二の抵抗素子を有し被測定ガスの運搬効果によって第二の抵抗素子の抵抗値が変化するように構成された第二の熱式流れセンサと、を採用することができる。
【0012】
また、前記流量計において、第一の抵抗素子の抵抗値に基づいて被測定ガスの第一の補正前流量QAを算出するとともに、第二の抵抗素子の抵抗値に基づいて被測定ガスの第二の補正前流量QBを算出する流量算出手段を採用することができる。かかる場合において、第一の補正前流量QAと第二の補正前流量QBと第一の熱式流れセンサ固有の固定係数KAと第二の熱式流れセンサ固有の固定係数KBと特定比算出式
(α/α0)=1+(QB―QA)/(KAA―KBB
とに基づいて所定の基準ガスの温度拡散率α0に対する被測定ガスの温度拡散率αの比である特定比(α/α0)を算出する補正係数算出手段を採用することができる。ここで、固定係数KBは固定係数KAと異なる値とする。
【0013】
また、前記流量計において、特定比(α/α0)と第一の熱式流れセンサ固有の固定係数KAと関係式
CFA=1−KA(1−α/α0
とに基づいて第一の補正係数CFAを算出する補正係数算出手段を採用することができる。かかる場合において、第一の補正前流量QAに第一の補正係数CFAを乗じることにより被測定ガスの補正後流量Qを算出する流量補正手段を採用することができる。
【0014】
また、前記流量計において、特定比(α/α0)と第二の熱式流れセンサ固有の固定係数KBと関係式
CFB=1−KB(1−α/α0
とに基づいて第二の補正係数CFBを算出する補正係数算出手段を採用することができる。かかる場合において、第二の補正前流量QBに第二の補正係数CFBを乗じることにより被測定ガスの補正後流量Qを算出する流量補正手段を採用することができる。
【0015】
また、前記流量計において、第一の発熱素子と第一の抵抗素子の間の距離と、第二の発熱素子と第二の抵抗素子の間の距離と、を異ならせることができる。かかる場合において、第一の発熱素子と第一の抵抗素子の間の距離と相関関係を有する固定係数KAと、第二の発熱素子と第二の抵抗素子の間の距離と相関関係を有する固定係数KBと、を採用することができる。
【0016】
また、前記流量計において、第三の発熱素子及び第三の発熱素子の近傍に配置された第三の抵抗素子を有し被測定ガスの運搬効果によって第三の抵抗素子の抵抗値が変化するように構成された第三の熱式流れセンサをさらに採用してもよい。かかる場合において、第一の熱式流れセンサの測定可能流量域と第二の熱式流れセンサの測定可能流量域との重複流量域よりも、第三の熱式流れセンサの測定可能流領域と第一の熱式流れセンサの測定可能流量域との重複流量域(又は第三の熱式流れセンサの測定可能流領域と第二の熱式流れセンサの測定可能流量域との重複流量域)を広くすることが好ましい。
【0017】
かかる構成を採用すると、熱式流れセンサの測定可能流量域の重複範囲を広げることができるので、広い流領域において補正係数の算出が可能となるという利点がある。
【0018】
また、本発明に係る第二の流量計は、主流路と;主流路をバイパスするバイパス流路と;主流路内を流通する被測定ガスの流量を検出するための主流路用熱式流れセンサと;バイパス流路内を流通する被測定ガスの流量を検出するための少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサと;主流路用熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて主流路内を流通する被測定ガスの補正前流量を算出するとともに、少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサのセンサ出力に基づいてバイパス流路内を流通する被測定ガスの補正前流量を算出する流量算出手段と;少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて算出した被測定ガスの補正前流量と、少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサ固有の固定係数と、に基づいて、所定の基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比と相関関係を有する補正係数を算出する補正係数算出手段と;流量算出手段で算出した主流路内を流通する被測定ガスの補正前流量と、補正係数算出手段で算出した補正係数と、に基づいて被測定ガスの補正後流量を算出する流量補正手段と;を備えるものである。
【0019】
かかる構成を採用すると、少なくとも2つの異なる熱式流れセンサを用いて検出したバイパス流路内を流通する被測定ガスの補正前流量と、これら各熱式流れセンサ固有の固定係数と、に基づいて、所定の基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比と相関関係を有する補正係数を算出することができる。そして、この算出した補正係数を用いて、主流路内を流通する被測定ガスの補正前流量を補正して補正後流量を算出することができる。従って、ガス組成が変動する環境下においても、簡易に被測定ガスの流量補正を行うことが可能となる。また、バイパス流路に補正係数算出用の熱式流れセンサを設置することにより、広い流領域において流量補正を行うことができる。バイパス流路内を流通する被測定ガスの流量は、主流路内を流通する被測定ガスの流量よりも小さくなるため、主流路内を流通するガスの流量が大流量であっても、バイパス流路内を流通するガスの流量が特定流領域(補正係数の算出が可能な流量域)内にある限り、補正係数を算出することができる。従って、広い流量域(特に大流量域)において流量補正を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱式流れセンサを備えた流量計において、ガス組成が変動する環境下で簡易に被測定ガスの流量補正を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態に係る流量計の構成を示す構成図である。
【図2】図1に示す流量計の熱式流れセンサの構成を説明するための斜視図である。
【図3】図2に示すIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図1に示す流量計の熱式流れセンサのセンサ出力と流量との関係を示すグラフである。
【図5】被測定ガスが基準ガスである場合における被測定ガスの実流量と流量指示値との関係を示すグラフである。
【図6】被測定ガスが基準ガスとは異なるガスである場合における被測定ガスの実流量と流量指示値との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第一実施形態に係る流量計の流量自動補正機能を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第二実施形態に係る流量計の構成を示す構成図である。
【図9】本発明の第二実施形態に係る流量計の流量自動補正機能を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態に係る流量計について図面を参照して説明する。なお、以下に記載される各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施形態にのみ限定するものではない。従って、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0023】
<第一実施形態>
最初に、図1〜図7を用いて、本発明の第一実施形態に係る流量計1について説明する。本実施形態に係る流量計1は、図1に示すように、ガスが流通する図示していない配管の一部に取り付けられる流路保持体2と、流路保持体2に一体的に接続される計測ユニット3と、を備えており、流路保持体2の内部には、被測定ガスが矢印の方向に流通する流路2aが形成されている。計測ユニット3は、流路2a内を流通する被測定ガスの流量を算出するものである。なお、図1は、流路保持体2の断面図と、計測ユニット3の機能的構成を説明するためのブロック図と、を複合的に示した構成図である。
【0024】
流路保持体2には、上流側の端部に流入口4が、下流側の端部に流出口5が、各々設けられており、流路2aは、流入口4及び流出口5の各々に取り付けられる図示していない配管と連通している。また、流路2aの途中には、流路2aの内径を狭める絞り6が設けられており、絞り6における流路2aの断面積は、流路2a内を流通する被測定ガスの速度(流速)が所定範囲内となるように適宜設定される。
【0025】
流路2aの内壁には、流路2a内を流通する被測定ガスの流量を検出する2つの熱式流れセンサ(第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10B)が設置されている。以下、これら2つの熱式流れセンサの構成について説明する。なお、以下の説明では、2つの熱式流れセンサに共通する構成及び流れ測定原理について説明する。そして、第一の熱式流れセンサ10Aの各構成の符号は、以下に登場する各構成の符号に「A」を付したものに相当し、第二の熱式流れセンサ10Bの各構成の符号は、以下の説明に登場する各構成の符号に「B」を付したものに相当することとする。
【0026】
熱式流れセンサ10は、図2及び図3に示すように、キャビティ12が設けられた基板11と、基板11上にキャビティ12を覆うように配置された絶縁膜13と、絶縁膜13に設けられたヒータ14と、ヒータ14より上流側に設けられた上流側測温抵抗素子15と、ヒータ14より下流側に設けられた下流側測温抵抗素子16と、上流側測温抵抗素子15より上流側に設けられた周囲温度センサ17と、を有している。
【0027】
絶縁膜13のキャビティ12を覆う部分は、断熱性のダイアフラムを構成している。周囲温度センサ17は、流路2aを流通するガスの温度を測定する。ヒータ14は、キャビティ12を覆う絶縁膜13の略中心に配置されており、流路2aを流通する被測定ガスを、周囲温度センサ17が計測した温度よりも一定温度高くなるように加熱する。上流側測温抵抗素子15はヒータ14より上流側の温度を検出するために用いられ、下流側測温抵抗素子16はヒータ14より下流側の温度を検出するために用いられる。
【0028】
ここで、流路2a内における被測定ガスの流量が零の場合、ヒータ14で加えられた熱は、上流方向と下流方向へ対称的に拡散する。従って、上流側測温抵抗素子15の温度と下流側測温抵抗素子16の温度は等しくなり、上流側測温抵抗素子15の電気抵抗と下流側測温抵抗素子16の電気抵抗は等しくなる。これに対し、流路2a内における被測定ガスが上流側から下流側へと流通している場合、ヒータ14で加えられた熱は下流方向に運ばれる(運搬効果)。従って、上流側測温抵抗素子15の温度よりも下流側測温抵抗素子16の温度が高くなり、上流側測温抵抗素子15の電気抵抗と下流側測温抵抗素子16の電気抵抗との間に差が生じる。この電気抵抗の差は、流路2a内を流通する被測定ガスの速度や流量と相関関係があることが知られている。このため、上流側測温抵抗素子15の電気抵抗と下流側測温抵抗素子16の電気抵抗との差に基づいて、流路2a内を流通する被測定ガスの速度や流量を測定(算出)することができる。
【0029】
なお、基板11の材料としては、シリコン(Si)等が使用可能である。絶縁膜13の材料としては、酸化ケイ素(SiO2)等が使用可能である。キャビティ12は、異方性エッチング等により形成される。また、ヒータ14、上流側測温抵抗素子15、下流側測温抵抗素子16及び周囲温度センサ17の各々の材料としては、白金(Pt)等が使用可能であり、これらは、リソグラフィ法等により形成可能である。
【0030】
第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10Bは、このような共通の構成を有している。第一の熱式流れセンサ10Aのヒータ14Aは本発明における第一の発熱素子に相当し、第一の熱式流れセンサ10Aの測温抵抗素子15A・16Aは本発明における第一の抵抗素子に相当する。また、第二の熱式流れセンサ10Bのヒータ14Bは本発明における第二の発熱素子に相当し、第二の熱式流れセンサ10Bの測温抵抗素子15B・16Bは本発明における第一の抵抗素子に相当する。
【0031】
本実施形態においては、第一の熱式流れセンサ10Aのヒータ14Aと測温抵抗素子15A(16A)との間の距離が、第二の熱式流れセンサ10Bのヒータ14Bと測温抵抗素子15B(16B)との間の距離よりも長くなるように設定されている。このような構成の相違に起因して、図4に示すように、第一の熱式流れセンサ10Aの流量レンジ(センサ出力の所定下限値から所定上限値までの範囲内で測定可能な流量域)RAは、第二の熱式流れセンサ10Bの流量レンジRBよりも広くなっている。
【0032】
また、本実施形態においては、第一の熱式流れセンサ10A固有の固定係数KAと、第二の熱式流れセンサ10B固有の固定係数KBと、が設定されている。固定係数KAは、ヒータ14Aと測温抵抗素子15A(16A)の間の距離と相関関係を有し、固定係数KBは、ヒータ14Bと測温抵抗素子15B(16B)の間の距離と相関関係を有するものである。
【0033】
計測ユニット3は、図1に示すように、2つの熱式流れセンサ(第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10B)に電気的に接続された中央演算装置20と、中央演算装置20に電気的に接続された記憶装置30及び表示装置40と、を有している。
【0034】
記憶装置30は、例えばDRAM等の揮発性メモリから構成することができる。記憶装置30には、各種制御プログラムに加えて、2つの熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて被測定ガスの補正前流量を算出するための情報(演算式、マップ等)や、補正前流量を補正するための情報(固定係数KA、固定係数KB、後述する基準ガスの温度拡散率α0等)が記憶されている。表示装置40は、例えば液晶ディスプレイ等の画像表示部と、入力キー等を有して各種設定や情報入力が可能な操作部と、から構成することができる。
【0035】
中央演算装置20は、例えばCPU等から構成されており、記憶装置30に記憶された各種情報や各種制御プログラムを読み込み、各種演算処理を実行して流量計1の各種電子機器を統合制御する。本実施形態における中央演算装置20は、2つの熱式流れセンサ(第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10B)を用いて検出した被測定ガスの流量(補正前流量)と、これら熱式流れセンサ固有の固定係数(KA、KB)と、に基づいて、被測定ガスの補正後流量を算出する。
【0036】
具体的には、中央演算装置20は、第一の熱式流れセンサ10Aの上流側測温抵抗素子15Aの電気抵抗と下流側測温抵抗素子16Aの電気抵抗との差に対応するセンサ出力に基づいて流路2a内を流通する被測定ガスの流量(第一の補正前流量QA)を算出するとともに、第二の熱式流れセンサ10Bの上流側測温抵抗素子15Bの電気抵抗と下流側測温抵抗素子16Bの電気抵抗との差に対応するセンサ出力に基づいて流路2a内を流通する被測定ガスの流量(第二の補正前流量QB)を算出する流量演算部21を有している。流量演算部21は、本発明における流量算出手段に相当するものである。
【0037】
本実施形態では、被測定ガスが所定の基準ガスである場合において、被測定ガスの実流量と、流量指示値(2つの熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて流量演算部21で算出される補正前流量QA・QB)と、が一致する(すなわち被測定ガスの実流量及び流量指示値が図5に示される関係となる)ように設定している。このように設定した場合においても、基準ガスと異なるガスを被測定ガスとして採用した場合には、図6に示すように被測定ガスの実流量と流量指示値とが一致しなくなることが知られている。これは、ガスの種類によって熱伝導率等が異なることから熱式流れセンサのセンサ出力特性が変化するためである。
【0038】
そして、本実施形態においては、ヒータと測温抵抗素子との間の距離が異なる2つの熱式流れセンサ(第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10B)を採用している。このため、基準ガスと異なるガスを被測定ガスとして採用すると、同一実流量Qの被測定ガスを流通させた場合においても、第一の熱式流れセンサ10Aを用いた流量指示値(第一の熱式流れセンサ10Aのセンサ出力に基づいて算出される第一の補正前流量QA)と、第二の熱式流れセンサ10Bを用いた流量指示値(第二の熱式流れセンサ10Bのセンサ出力に基づいて算出される第二の補正前流量QB)と、に差異が生じる(図6参照)。本実施形態における中央演算装置20は、このように基準ガスと異なるガスを測定する場合に2つの熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて算出される流量指示値(第一の補正前流量QA及び第二の補正前流量QB)に差異が生じることを利用して、流量演算部21で算出した被測定ガスの流量を補正する。
【0039】
具体的には、中央演算装置20は、流量演算部21で算出した第一の補正前流量QA及び第二の補正前流量QBと、記憶装置30に記憶された固定係数KA及び固定係数KBと、記憶装置30に記憶された特定比算出式と、に基づいて、基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比(特定比)を算出し、この特定比を用いて、流量補正用の補正係数(コンバージョンファクタ)を算出する補正係数演算部22を有している。また、中央演算装置20は、補正係数演算部22で算出した補正係数を用いて、流量演算部21で算出した第一の補正前流量QA(又は第二の補正前流量QB)を補正して補正後流量を算出する出力補正部23を有している。
【0040】
ここで、補正係数演算部22における補正係数算出方法及び出力補正部23における流量補正方法について、さらに具体的に説明する。
【0041】
第一の熱式流れセンサ10Aを用いた流量指示値(第一の補正前流量QA)を補正するための第一の補正係数CFAは、所定の基準ガスの温度拡散率α0と被測定ガスの温度拡散率αとの比である特定比(α/α0)を用いた以下の関係式で表されることが実験で確認されている。
CFA=1−KA(1−α/α0
従って、実流量に相当する補正後流量Qは、特定比(α/α0)を用いた以下の算出式(第一の補正後流量算出式)で表される。
Q=CFA×QA={1−KA(1−α/α0)}×QA
【0042】
なお、熱式流れセンサ10A特有の固定係数KAは、以下の方法で算出することができる。まず、基準ガス(例えばメタン)を配管に流通させ、基準流量計と、熱式流れセンサ10Aを用いた流量計と、で別々に流量を測定する。基準流量計においては、例えば体積流量計で測定した体積流量を温度及び圧力で補正することにより質量流量Qを求める。そして、熱式流れセンサ10Aを用いた流量計においては、「Q=QA」となるように流量計を調整する。次いで、基準ガス以外の被測定ガス(例えば二酸化炭素)の流量を配管に流通させ、基準流量計でQを、熱式流れセンサ10Aを用いた流量計でQAを、各々測定する。一方、KAは、前述した第一の補正後流量算出式を変形した以下の式で表される。
A=(QA−Q)/{QA(1−α/α0)}
この式に、既知の値(基準流量計で測定したQ、熱式流れセンサ10Aを用いた流量計で測定したQA、基準ガス(メタン)の温度拡散率α0、被測定ガス(二酸化炭素)の温度拡散率α)を代入することにより、KAを算出することができる。
【0043】
同様に、第二の熱式流れセンサ10Bを用いた流量指示値(第一の補正前流量QB)を補正するための第二の補正係数CFBもまた、特定比(α/α0)を用いた以下の関係式で表される。
CFB=1−KB(1−α/α0
従って、実流量に相当する補正後流量Qは、特定比(α/α0)を用いた以下の算出式(第二の補正後流量算出式)で表される。
Q=CFB×QB={1−KB(1−α/α0)}×QB
【0044】
前述した第一及び第二の補正後流量算出式の左辺は何れもQで等しいことから、これら2つの算出式に基づいて以下の特定比算出式が導かれることとなる。
(α/α0)=1+(QB―QA)/(KAA―KBB
【0045】
中央演算装置20の補正係数演算部22は、このような特定比算出式と既知の値(QA、QB、KA、KB)とに基づいて特定比(α/α0)を算出し、この特定比(α/α0)と前述した関係式とに基づいて補正係数(第一の補正係数CFA及び第二の補正係数CFB)を算出する。すなわち、補正係数演算部22は、本発明における補正係数算出手段として機能する。
【0046】
中央演算装置20の出力補正部23は、補正係数演算部22で算出された第一の補正係数CFAと前述した第一の補正後流量算出式とに基づいて、又は、補正係数演算部22で算出された第二の補正係数CFBと前述した第二の補正後流量算出式とに基づいて、補正後流量Qを算出する。すなわち、出力補正部23は、本発明における流量補正手段として機能する。
【0047】
次に、図7のフローチャート等を用いて、本実施形態に係る流量計1の流量自動補正機能について説明する。
【0048】
まず、流量計1の計測ユニット3に設けられた中央演算装置20の流量演算部21は、第一の熱式流れセンサ10Aの上流側測温抵抗素子15Aの電気抵抗と下流側測温抵抗素子16Aの電気抵抗との差に対応するセンサ出力に基づいて、流路2a内を流通する被測定ガスの流量(第一の補正前流量QA)を算出する(第一の補正前流量算出工程:S1)。また、流量演算部21は、第二の熱式流れセンサ10Bの上流側測温抵抗素子15Bの電気抵抗と下流側測温抵抗素子16Bの電気抵抗との差に対応するセンサ出力に基づいて、流路2a内を流通する被測定ガスの流量(第二の補正前流量QB)を算出する(第二の補正前流量算出工程:S2)。
【0049】
次いで、中央演算装置20は、第一の補正前流量算出工程S1及び第二の補正前流量算出工程S2で算出した補正前流量(QA、QB)が、補正係数の算出が可能な流領域(特定流領域)内にあるか否かを判定する(流量判定工程:S3)。本実施形態においては、第一の熱式流れセンサ10Aの流量レンジRAと、第二の熱式流れセンサ10Bの流量レンジRBと、が重複する流量域RAB(図4参照)を特定流領域に設定している。
【0050】
中央演算装置20は、流量判定工程S3において第一の補正前流量算出工程S1及び第二の補正前流量算出工程S2で算出した補正前流量(QA、QB)が特定流領域(RAB)内にないと判定した場合に、第一の補正前流量算出工程S1及び第二の補正前流量算出工程S2に戻って流量演算部21で再び補正前流量(QA、QB)の算出を行う。一方、中央演算装置20は、流量判定工程S3において第一の補正前流量算出工程S1及び第二の補正前流量算出工程S2で算出した補正前流量(QA、QB)が特定流領域(RAB)内にあると判定した場合に、補正係数演算部22で補正係数(第一の補正係数CFA及び第二の補正係数CFB)を算出する(補正係数算出工程:S4)。
【0051】
この後、中央演算装置20の出力補正部23は、補正係数算出工程S4で算出した第一の補正係数CFAを第一の補正前流量QAに乗じることにより補正後流量Qを算出する(出力補正工程:S5)。なお、出力補正工程S5においては、補正係数算出工程S4で算出した第二の補正係数CFBを第二の補正前流量QBに乗じることにより補正後流量Qを算出してもよい。
【0052】
以上説明した実施形態における流量計1においては、2つの異なる熱式流れセンサ10A・10Bを用いて検出した被測定ガスの補正前流量(QA、QB)と、これら各熱式流れセンサ固有の固定係数(KA、KB)と、に基づいて、所定の基準ガスの温度拡散率α0に対する被測定ガスの温度拡散率αの比(特定比(α/α0))と相関関係を有する補正係数(CFA、CFB)を算出することができる。そして、この算出した補正係数(CFA、CFB)を用いて、被測定ガスの補正後流量(Q)を算出することができる。従って、ガス組成が変動する環境下においても、簡易に被測定ガスの流量補正を行うことが可能となる。
【0053】
なお、以上の実施形態においては、2つの異なる熱式流れセンサ10A・10Bを用いて補正係数を算出して流量補正を行った例を示したが、3つ以上の異なる熱式流れセンサを用いて流量補正を行うこともできる。
【0054】
例えば、図1に示すように、第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10Bと基本的な構成(ヒータや測温抵抗素子)を共通にし被測定ガスの運搬効果によって測温抵抗素子の抵抗値が変化する第三の熱式流れセンサ10Cを流路2aの内壁に設置することができる。そして、第三の熱式流れセンサ10C及び第一の熱式流れセンサ10A(又は第三の熱式流れセンサ10C及び第二の熱式流れセンサ10B)を用いて補正係数を算出して流量補正を行ってもよい。
【0055】
この際、第三の熱式流れセンサ10Cの構成(例えばヒータと測温抵抗素子との間の距離)を適宜調整することにより、図4に示すように、第三の熱式流れセンサ10Cの流量レンジRCを、第一の熱式流れセンサ10Aの流量レンジRA及び第二の熱式流れセンサ10Bの流量レンジRBと異ならせることができる。このようにすると、第一の熱式流れセンサ10Aの流量レンジRAと第三の熱式流れセンサ10Cの流量レンジRCとが重複する流量域RACと、第二の熱式流れセンサ10Bの流量レンジRBと第三の熱式流れセンサ10Cの流量レンジRCとが重複する流量域RBCと、が新たに生じることとなり、熱式流れセンサの流量レンジの重複範囲を広げることができる。従って、広い流領域において補正係数の算出が可能となるという利点がある。
【0056】
<第二実施形態>
続いて、図8及び図9を用いて、本発明の第二実施形態に係る流量計1Aについて説明する。本実施形態に係る流量計1Aは、第一実施形態に係る流量計1と共通の構成を多く有している。このため、本実施形態においては、第一実施形態と異なる構成を中心に説明することとし、第一実施形態と共通の構成については第一実施形態と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0057】
本実施形態に係る流量計1Aは、図8に示すように、被測定ガスが矢印の方向に流通する主流路2aが内部に形成されるとともにバイパス流路形成用の貫通孔7を有する第一部材2Aと、バイパス流路形成用の凹部8を有する第二部材2Bと、から構成される流路保持体を備えるとともに、この流路保持体に一体的に接続される計測ユニット3Aを備えている。
【0058】
本実施形態においては、第一部材2Aの貫通孔7と第二部材2Bの凹部8とによりバイパス流路9が形成される。バイパス流路9を形成する内壁には、図8に示すように、主流路2aから分岐してバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量を検出する2つの熱式流れセンサが設置されている。これら2つの熱式流れセンサは、第一実施形態で説明した第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10Bと同一である。また、本実施形態においては、主流路2aのバイパス流路9上流側に、広い流量レンジ(図4参照)を有する第一の熱式流れセンサ10Aを設置している。
【0059】
計測ユニット3Aは、各熱式流れセンサ(第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10B)に電気的に接続された中央演算装置20Aと、中央演算装置20Aに電気的に接続された記憶装置30及び表示装置40と、を有している。記憶装置30及び表示装置40は、第一実施形態で説明したものと同一である。
【0060】
本実施形態における中央演算装置20Aは、2つの熱式流れセンサ(第一の熱式流れセンサ10A及び第二の熱式流れセンサ10B)を用いて検出したバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA´、QB´)と、これら熱式流れセンサ固有の固定係数(KA、KB)と、に基づいて、補正係数(CFA)を算出する。一方、中央演算装置20Aは、第一の熱式流れセンサ10Aを用いて、主流路2a内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA)を検出しておく。そして、中央演算装置20Aは、算出した補正係数(CFA)に基づいて、主流路2a内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA)を補正して補正後流量(Q)を算出する。
【0061】
具体的には、中央演算装置20Aは、第一の熱式流れセンサ10Aの上流側測温抵抗素子15Aの電気抵抗と下流側測温抵抗素子16Aの電気抵抗との差に対応するセンサ出力に基づいて、バイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(第一の補正前流量QA´)を算出するとともに、第二の熱式流れセンサ10Bの上流側測温抵抗素子15Bの電気抵抗と下流側測温抵抗素子16Bの電気抵抗との差に対応するセンサ出力に基づいて、バイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(第二の補正前流量QB´)を算出する流量演算部を有している。また、本実施形態における流量演算部は、第一の熱式流れセンサ10Aの上流側測温抵抗素子15Aの電気抵抗と下流側測温抵抗素子16Aの電気抵抗との差に対応するセンサ出力に基づいて、主流路2a内を流通する被測定ガスの流量(第一の補正前流量QA)を算出する。すなわち、本実施形態における流量演算部は、第一実施形態で説明した流量演算部21と同様に、同一流路(バイパス流路9)内を流通する被測定ガスの2つの補正前流量(QA´、QB´)を算出しているが、これに加えて、主流路2a内を流通する被測定ガスの補正前流量(QA)を算出している。
【0062】
また、本実施形態における中央演算装置20Aは、流量演算部で算出した第一の補正前流量QA´及び第二の補正前流量QB´と、記憶装置30に記憶された固定係数KA及び固定係数KBと、記憶装置30に記憶された特定比算出式と、に基づいて、基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比(特定比)を算出し、この特定比を用いて、流量補正用の補正係数(コンバージョンファクタ)を算出する補正係数演算部を有している。本実施形態における補正係数演算部は、第一実施形態で説明した補正係数演算部22と同様に、特定比算出式と既知の値(QA´、QB´、KA、KB)とに基づいて特定比(α/α0)を算出し、この特定比(α/α0)と所定の関係式とに基づいて補正係数(第一の補正係数CFA)を算出する。
【0063】
また、本実施形態における中央演算装置20Aは、補正係数演算部で算出した補正係数(第一の補正係数CFA)を、流量演算部で算出した主流路2a内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA)に乗じることにより、補正後流量(Q)を算出する出力補正部を有している。本実施形態における出力補正部は、第一実施形態における出力補正部と同様に補正係数(CFA)を用いて補正後流量(Q)を算出するものであるが、バイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA´)を補正するのではなく、主流路2a内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA)を補正することにより補正後流量(Q)を算出している。
【0064】
次に、図9のフローチャート等を用いて、本実施形態に係る流量計1Aの流量自動補正機能について説明する。
【0065】
まず、流量計1Aの計測ユニット3Aに設けられた中央演算装置20Aの流量演算部は、第一の熱式流れセンサ10Aのセンサ出力に基づいてバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(第一の補正前流量QA´)を算出するとともに、第二の熱式流れセンサ10Bのセンサ出力に基づいてバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(第二の補正前流量QB´)を算出する(バイパス流量算出工程:S11)。
【0066】
次いで、中央演算装置20Aは、バイパス流量算出工程S11で算出したバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA´、QB´)が、補正係数の算出が可能な流領域(特定流領域)内にあるか否かを判定する(流量判定工程:S12)。本実施形態においては、第一実施形態と同様に、第一の熱式流れセンサ10Aの流量レンジRAと第二の熱式流れセンサ10Bの流量レンジRBとが重複する流量域RAB(図4参照)を特定流領域に設定している。
【0067】
中央演算装置20Aは、流量判定工程S12においてバイパス流量算出工程S11で算出したバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA´、QB´)が特定流領域(RAB)内にないと判定した場合に、バイパス流量算出工程S11に戻って流量演算部で再び補正前流量(QA´、QB´)の算出を行う。一方、中央演算装置20Aは、流量判定工程S12においてバイパス流量算出工程S11で算出したバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA´、QB´)が特定流領域(RAB)内にあると判定した場合に、第一の熱式流れセンサ10Aのセンサ出力に基づいて主流路2a内を流通する被測定ガスの流量(第一の補正前流量QA)を算出する(主流量算出工程:S13)。
【0068】
次いで、中央演算装置20Aの補正係数演算部は、バイパス流量算出工程S11で算出したバイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量(補正前流量QA´、QB´)と、記憶装置30に記憶された固定係数(KA、KB)と、記憶装置30に記憶された特定比算出式と、に基づいて、基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比である特定比(α/α0)を算出し、この特定比(α/α0)を用いて、流量補正用の補正係数(第一の補正係数CFA)を算出する(補正係数算出工程:S14)。
【0069】
次いで、中央演算装置20Aの出力補正部は、補正係数算出工程S14で算出した第一の補正係数CFAを、主流量算出工程S13で算出した主流路2a内を流通する被測定ガスの流量(第一の補正前流量QA)に乗じることにより、補正後流量Qを算出する(出力補正工程:S15)。
【0070】
以上説明した実施形態における流量計1Aにおいては、2つの異なる熱式流れセンサを用いて検出したバイパス流路9内を流通する被測定ガスの補正前流量(QA´、QB´)と、これら各熱式流れセンサ固有の固定係数(KA、KB)と、に基づいて、所定の基準ガスの温度拡散率α0に対する被測定ガスの温度拡散率αの比(特定比(α/α0))と相関関係を有する補正係数(第一の補正係数CFA)を算出することができる。そして、この算出した補正係数(CFA)を用いて、主流路2a内を流通する被測定ガスの補正前流量(QA)を補正して補正後流量(Q)を算出することができる。従って、ガス組成が変動する環境下においても、簡易に被測定ガスの流量補正を行うことが可能となる。
【0071】
また、以上説明した実施形態における流量計1Aにおいては、バイパス流路9に補正係数算出用の2つの熱式流れセンサを設置することにより、広い流領域において流量補正を行うことができる。バイパス流路9内を流通する被測定ガスの流量は、主流路2a内を流通する被測定ガスの流量よりも小さくなるため、主流路2a内を流通するガスの流量が大流量(特定流領域外)であっても、バイパス流路9内を流通するガスの流量が特定流領域内にある限り、補正係数を算出することができる。従って、広い流量域(特に大流量域)において流量補正を行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
1・1A…流量計
2a…流路・主流路
9…バイパス流路
10A・10B・10C…熱式流れセンサ
14…ヒータ(発熱素子)
15…上流側測温抵抗素子(抵抗素子)
16…下流側測温抵抗素子(抵抗素子)
20・20A…中央演算装置
21…流量演算部(流量算出手段)
22…補正係数演算部(補正係数算出手段)
23…出力補正部(流量補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の流路内を流通する同一の被測定ガスの流量を検出するための複数の異なる熱式流れセンサを備えるとともに、
少なくとも1つの前記熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて被測定ガスの補正前流量を算出する流量算出手段と、
少なくとも2つの前記熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて算出した被測定ガスの補正前流量と前記少なくとも2つの熱式流れセンサ固有の固定係数とに基づいて、所定の基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比と相関関係を有する補正係数を算出する補正係数算出手段と、
前記流量算出手段で算出した補正前流量と前記補正係数算出手段で算出した補正係数とに基づいて被測定ガスの補正後流量を算出する流量補正手段と、を備える、
流量計。
【請求項2】
第一の発熱素子及び前記第一の発熱素子の近傍に配置された第一の抵抗素子を有し被測定ガスの運搬効果によって前記第一の抵抗素子の抵抗値が変化するように構成された第一の熱式流れセンサと、
第二の発熱素子及び前記第二の発熱素子の近傍に配置された第二の抵抗素子を有し被測定ガスの運搬効果によって前記第二の抵抗素子の抵抗値が変化するように構成された第二の熱式流れセンサと、を備える、
請求項1に記載の流量計。
【請求項3】
前記流量算出手段は、
前記第一の抵抗素子の抵抗値に基づいて被測定ガスの第一の補正前流量QAを算出するとともに、前記第二の抵抗素子の抵抗値に基づいて被測定ガスの第二の補正前流量QBを算出するものであり、
前記補正係数算出手段は、
前記第一の補正前流量QAと前記第二の補正前流量QBと前記第一の熱式流れセンサ固有の固定係数KAと前記第二の熱式流れセンサ固有の固定係数KBと特定比算出式
(α/α0)=1+(QB―QA)/(KAA―KBB
とに基づいて所定の基準ガスの温度拡散率α0に対する被測定ガスの温度拡散率αの比である特定比(α/α0)を算出するものである、
請求項2に記載の流量計。
【請求項4】
前記補正係数算出手段は、
前記特定比(α/α0)と前記第一の熱式流れセンサ固有の固定係数KAと関係式
CFA=1−KA(1−α/α0
とに基づいて第一の補正係数CFAを算出するものであり、
前記流量補正手段は、
前記第一の補正前流量QAに前記第一の補正係数CFAを乗じることにより被測定ガスの補正後流量Qを算出するものである、
請求項3に記載の流量計。
【請求項5】
前記補正係数算出手段は、
前記特定比(α/α0)と前記第二の熱式流れセンサ固有の固定係数KBと関係式
CFB=1−KB(1−α/α0
とに基づいて第二の補正係数CFBを算出するものであり、
前記流量補正手段は、
前記第二の補正前流量QBに前記第二の補正係数CFBを乗じることにより被測定ガスの補正後流量Qを算出するものである、
請求項3に記載の流量計。
【請求項6】
前記第一の発熱素子と前記第一の抵抗素子の間の距離と、前記第二の発熱素子と前記第二の抵抗素子の間の距離と、が異なるように構成され、
前記固定係数KAは、前記第一の発熱素子と前記第一の抵抗素子の間の距離と相関関係を有し、
前記固定係数KBは、前記第二の発熱素子と前記第二の抵抗素子の間の距離と相関関係を有する、
請求項3から5の何れか一項に記載の流量計。
【請求項7】
第三の発熱素子及び前記第三の発熱素子の近傍に配置された第三の抵抗素子を有し被測定ガスの運搬効果によって前記第三の抵抗素子の抵抗値が変化するように構成された第三の熱式流れセンサをさらに備える、
請求項1から6の何れか一項に記載の流量計。
【請求項8】
前記第一の熱式流れセンサの測定可能流量域と前記第二の熱式流れセンサの測定可能流量域との重複流量域よりも、前記第三の熱式流れセンサの測定可能流領域と前記第一の熱式流れセンサの測定可能流量域との重複流量域が広くなるように設定される、
請求項7に記載の流量計。
【請求項9】
前記第一の熱式流れセンサの測定可能流量域と前記第二の熱式流れセンサの測定可能流量域との重複流量域よりも、前記第三の熱式流れセンサの測定可能流領域と前記第二の熱式流れセンサの測定可能流量域との重複流量域が広くなるように設定される、
請求項7に記載の流量計。
【請求項10】
主流路と、前記主流路をバイパスするバイパス流路と、前記主流路内を流通する被測定ガスの流量を検出するための主流路用熱式流れセンサと、前記バイパス流路内を流通する被測定ガスの流量を検出するための少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサと、を備えるとともに、
前記主流路用熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて前記主流路内を流通する被測定ガスの補正前流量を算出するとともに、前記少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて前記バイパス流路内を流通する被測定ガスの補正前流量を算出する流量算出手段と、
前記少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサのセンサ出力に基づいて算出した被測定ガスの補正前流量と、前記少なくとも2つの異なるバイパス流路用熱式流れセンサ固有の固定係数と、に基づいて、所定の基準ガスの温度拡散率に対する被測定ガスの温度拡散率の比と相関関係を有する補正係数を算出する補正係数算出手段と、
前記流量算出手段で算出した前記主流路内を流通する被測定ガスの補正前流量と、前記補正係数算出手段で算出した補正係数と、に基づいて被測定ガスの補正後流量を算出する流量補正手段と、を備える、
流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−209152(P2011−209152A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78098(P2010−78098)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】