説明

流電陽極

【課題】優れた耐食性により水中使用を可能とした磁気吸着方式の流電陽極を提供する。
【解決手段】本発明の流電陽極は、金属構造物の犠牲陽極となる陽極本体と、陽極本体に接続された磁気吸着装置と、を備えており、磁気吸着装置が、永久磁石と、永久磁石の構成成分の犠牲陽極となる防食材料を含むとともに永久磁石と電気的に接続された防食部材と、を有しており、防食部材が、防食材料の粉末と、粉末と混合された有機物とを有し、防食材料が、亜鉛又は亜鉛合金であり、磁気吸着装置が、永久磁石とともに磁気回路を構成するヨークを備えており、ヨークと永久磁石との間に防食部材が設けられ、磁気吸着装置のヨークが、永久磁石と吸着するバックヨーク部と、バックヨーク部と一体に形成されて永久磁石の外周側に配置される外周ヨーク部とを有しており、外周ヨーク部と永久磁石との間に防食部材が設けられている構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属構造物の電気防食に用いられる流電陽極に関する。
【背景技術】
【0002】
岸壁の鋼矢板等の水中鋼構造物には、水や海水による腐食の抑制ないし防止を目的としたアルミニウム合金陽極が取り付けられている。このような金属陽極を用いる流電陽極方式では、水中鋼構造物に陽極を取り付ける方法として、水中アーク溶接が一般的に用いられているが、水中アーク溶接による取り付けには、水中での急熱、急冷によって溶接部の強度低下(脆化)が生じるという問題がある。
【0003】
そこで、水中アーク溶接を用いない流電陽極の取り付け工法として、板状のバックヨーク材の一方の面に流電陽極を取り付け、これをバックヨーク材の他方の面に吸着させた磁気シートを介して鋼構造物に吸着させる工法が提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−355085号公報
【特許文献2】特開2002−146570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記各特許文献に記載の磁気シートないしボンドマグネットシートは、ゴムやプラスチックに磁性粉末を混合したものであり、強力な吸着力を得られるものではない。そのため、20kg〜100kg程度もある流電陽極を長期間にわたり安定に吸着させておくには吸着面を大きくする必要があり、鋼構造物の表面形状によっては取り付けができなくなる。また、鋼構造物の表面に凹凸や反りがあると、磁気シートと鋼構造物との間に隙間が生じて吸着力が低下し、流電陽極が脱離するおそれがある。
【0006】
ところで、強力な吸着力を有する磁石としては、Sm−Co系永久磁石やNd−Fe−B系永久磁石等が知られている。特に、Nd−Fe−B系永久磁石は、Sm−Co系永久磁石よりも優れた磁気特性を備え、かつ原材料費が安価であることから、磁気吸着装置には好適である。
【0007】
しかしながら、Nd−Fe−B系永久磁石は、主成分として鉄を含有するため大気中の湿気でも容易に酸化し、磁気特性が低下するという欠点がある。この耐食性を改善するために樹脂塗装やNiめっきのような表面処理を施すことが知られているが、樹脂塗装では十分な耐食性が得られず、比較的耐食性に優れるNiめっきでも塩分を含む湿気により錆びてしまう。そのため、高湿雰囲気よりもさらに過酷な腐食環境である水中や海中ではNd−Fe−B系永久磁石は使用不能であるというのが常識とされており、水中や海中での使用に供される磁気吸着装置にNd−Fe−B系永久磁石を用いる試みは現在まで成されていない。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、優れた耐食性により水中使用を可能とした磁気吸着方式の流電陽極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の流電陽極は、上記課題を解決するために、金属構造物の電気防食に用いる流電陽極であって、前記金属構造物の犠牲陽極となる陽極本体と、前記陽極本体に接続された磁気吸着装置と、を備えており、前記磁気吸着装置が、永久磁石と、前記永久磁石の構成成分の犠牲陽極となる防食材料を含むとともに前記永久磁石と電気的に接続された防食部材と、を有しており、前記防食部材が、前記防食材料の粉末と、前記粉末と混合された有機物とを有し、前記防食材料が、亜鉛又は亜鉛合金であり、前記磁気吸着装置が、前記永久磁石とともに磁気回路を構成するヨークを備えており、前記ヨークと前記永久磁石との間に前記防食部材が設けられ、前記磁気吸着装置の前記ヨークが、前記永久磁石と吸着するバックヨーク部と、前記バックヨーク部と一体に形成されて前記永久磁石の外周側に配置される外周ヨーク部とを有しており、前記外周ヨーク部と前記永久磁石との間に前記防食部材が設けられていることを特徴とする。
流電陽極は、金属構造物の電気防食に用いる流電陽極であって、前記金属構造物の犠牲陽極となる陽極本体と前記陽極本体に接続された磁気吸着装置とを備えており、前記磁気吸着装置が、永久磁石と、前記永久磁石の構成成分の犠牲陽極となる防食材料を含むとともに前記永久磁石と電気的に接続された防食部材と、を有することを特徴とする。
この構成によれば、永久磁石と接して設けられた防食部材を備えたことで、水中ないし海水中に沈めた状態で使用しても十分に腐食を防止できる程度の防食電流を、防食部材から永久磁石に供給することができる。したがって本発明の流電陽極に備えられた磁気吸着装置は、水中ないし海水中で使用することができ、かつ長期間にわたって吸着力を持続することができるものとなる。
なお、前記永久磁石と前記防食部材とは、直接接触して配置されていてもよく、他の導電部材を介して電気的に接続されていてもよい。
【0010】
前記防食部材が、前記防食材料をシート状に延伸してなる防食シートを有することが好ましい。
シート状であることで、取り扱いが容易になるとともに、永久磁石の表面を覆うようにして配設することも容易になる。
【0011】
前記防食部材が、前記防食材料の粉末と、前記粉末と混合された有機物とを有するものであってもよい。
防食部材としては、防食材料の粉末を有機物に混合したものであってもよい。この場合にも、防食材料の粉末により永久磁石に対して持続的に防食電流を供給することができる。また、容易にペースト状にすることができるので、取り扱いが容易になるとともに、永久磁石の表面に接触させた状態での保持も容易になる。
【0012】
前記永久磁石と前記防食シートとが、導電性接着剤を介して接着されていることが好ましい。
このような構成とすることで、防食シートと永久磁石との導電接続を安定に保持することができ、長期間にわたり良好な耐食性を保持することができる。
【0013】
前記導電性接着剤が亜鉛又は亜鉛合金の粉末を含むことが好ましい。
このような構成とすることで、防食電流の供給がより効率的に成されるようになり、永久磁石の腐食を安定的に防止することができる。
【0014】
前記磁気吸着装置が、前記永久磁石とともに磁気回路を構成するヨークを備えており、前記ヨークと前記永久磁石との間に前記防食部材が設けられていることが好ましい。
すなわち、防食部材を、永久磁石とヨークとのスペーサとして機能させるようにすることができる。このような構成とすることで、吸着力を大きく向上させることができるとともに、防食部材等の設置スペースを節約でき、磁気吸着装置の小型化を図ることもできる。
【0015】
前記磁気吸着装置の前記ヨークが、前記永久磁石と吸着するバックヨーク部と、前記バックヨーク部と一体に形成されて前記永久磁石の外周側に配置される外周ヨーク部とを有しており、前記外周ヨーク部と前記永久磁石との間に前記防食部材が設けられている構成とすることもできる。この構成によれば、簡便な構成で強力な吸着力を有する磁気吸着装置を実現できる。
【0016】
前記バックヨーク部の前記永久磁石と反対側の面に、当該面から突出するねじ軸部が設けられていることが好ましい。このような構成とすることで、前記ねじ軸部を介して流電陽極に容易に取り付けることができる。
【0017】
前記バックヨーク部に、前記バックヨーク部を貫通して前記外周ヨーク部の内側の空間に達するねじ孔部が設けられている構成とすることもできる。このような構成とすれば、前記ねじ孔部にボルトを螺合してその先端を磁気吸着装置の吸着面に対して進退させることができ、このボルトによって磁気吸着装置が金属構造物に急激に引き寄せられるのを防止できる。したがって本構成によれば、磁気吸着装置を大型化することなく安全に設置作業ができる流電陽極を実現することができる。
【0018】
前記ねじ孔部が、前記ねじ軸部と前記バックヨーク部とを、前記ねじ軸の軸方向に貫通していることが好ましい。
この構成によれば、ねじ軸部が上述したねじ孔部の機能を兼ねることとなるので、磁気吸着装置を大型化することなく、磁気吸着装置を金属構造物に吸着させる際の安全性を高め、位置調整等も容易に行えるようになる。
【0019】
前記ねじ孔部に、先端が尖鋭形状のボルトが螺合されていることが好ましい。
この構成によれば、流電陽極を金属構造物に設置した後で、ボルトを締めて押し込むことで、ボルトの先端を金属構造物に食い込ませ、ボルトを介して磁気吸着装置と金属構造物との導通を確実に確保できる。これにより、陽極本体から金属構造物への防食電流の供給を安定に確保することができる。
【0020】
前記永久磁石が略リング状であり、前記ヨークが、前記永久磁石の内周側に配置された内周ヨーク部と、前記永久磁石の外周側に配置された外周ヨーク部とを有しており、前記内周ヨーク部と前記永久磁石との間、及び前記外周ヨーク部と前記永久磁石との間に、前記防食部材が設けられていることが好ましい。
この構成によれば、内周ヨーク部と永久磁石との間、及び外周ヨーク部と永久磁石との間に、それぞれ吸着部が形成されるので、永久磁石を大型化することなく磁気吸着装置の吸着力を高めることができる。すなわち、同程度の吸着力であればより小型の磁気吸着装置とすることができる。これにより、流電陽極の小型化を実現することができる。
【0021】
前記ねじ孔部が、前記内周ヨーク部の内部を貫通していることが好ましい。この構成によれば、永久磁石と干渉せず、かつ磁気吸着装置を大型化することなく、前記ねじ孔部にボルトを配置することができ、流電陽極を大型化することなく設置時の利便性を高めることができる。
【0022】
前記陽極本体に前記磁気吸着装置を取り付けるための取り付け部を有しており、前記取り付け部が、非磁性材料からなるととともに、前記磁気吸着装置の永久磁石と前記陽極本体との間に配設されていることが好ましい。このような構成とすることで、磁気吸着装置から漏れ出る磁束を取り付け部により遮断して閉じこめることができるため、磁気吸着装置の吸着力を高め、磁気吸着装置及び流電陽極の小型化を図ることができる。
【0023】
前記陽極本体の前記金属構造物側となる面に、弾性材料からなる緩衝材が設けられていることが好ましい。この構成によれば、磁気吸着装置を金属構造物に吸着させるときの衝撃や摩擦が陽極本体に及ぶのを防止して保護することができる。また、設置作業の安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の流電陽極によれば、従来水中や海中で使用できなかった永久磁石を新規な防食方法により使用可能とし、小型で強い吸着力を有する磁気吸着装置を用いて金属構造物に取り付けることとしたので、簡便に金属構造物に設置することができる。また、磁気吸着装置の採用により水中アーク溶接が不要になるので、水中アーク溶接に起因する不具合を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係る流電陽極の使用形態を示す斜視図。
【図2】第1実施形態に係る流電陽極を示す平面図及び断面図。
【図3】第1実施形態に係る磁気吸着装置の分解斜視図。
【図4】図3のZ方向矢視図。
【図5】第2実施形態に係る流電陽極を示す平面図及び側面図。
【図6】図5のB−B’線に沿う位置の断面図。
【図7】第3実施形態に係る流電陽極の平面図及び側面図。
【図8】第4実施形態に係る流電陽極の断面図及び底面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1の実施形態)
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る流電陽極の使用形態を示す図である。図2(a)は、図1に示す流電陽極の平面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A’線に沿う位置の断面図である。
【0027】
図1及び図2に示すように、本実施形態の流電陽極100は、側面視台形状の陽極本体101と、陽極本体101の長手方向端部の側面から進出する取り付け部103と、取り付け部103のボルト穴に取り付けられた磁気吸着装置180とを備えている。
【0028】
陽極本体101は、亜鉛、マグネシウム、又はこれらやアルミニウムの合金からなるものとされ、典型的には、アルミニウム合金が用いられる。本実施形態ではアルミニウム合金陽極を用いるものとして説明する。
取り付け部103は、鋼材を用いて作製される。取り付け部103は、図2(b)に示すように、陽極本体101の内部を長手方向に貫通する芯金であり、その両端部に磁気吸着装置180を取り付けるためのボルト穴が設けられている。
【0029】
ここで、磁気吸着装置180について、図2(b)から図4を参照して詳細に説明する。
図3は、流電陽極に備えられた磁気吸着装置の分解斜視図である。図4は、図3のZ方向矢視図である。
なお、図4では各部材を認識しやすくするために部材ごとに模様を付して図示している。
【0030】
図3に示すように、本実施形態に係る磁気吸着装置180は、吸着装置本体180aと、吸着装置本体180aを設備機器等に固定するナット180bとを備えている。また、ボルト188は、吸着装置本体180aに螺合して使用され、磁気吸着装置180の吸着面から進退させて鋼矢板1000に対する吸着力を調整するために用いられる吸着力調整部材である。
【0031】
吸着装置本体180aは、図2から図4に示すように、平面視リング状のNd−Fe−B系永久磁石(以下ネオジム磁石と称する。)111と、ネオジム磁石111を収容するキャップ状のヨーク181とを備えており、ヨーク181のネオジム磁石111と反対側の面にはねじ軸部186が形成されている。また、ヨーク181とネオジム磁石111との隙間には防食部材142a、142bが設けられている。本実施形態において、ネオジム磁石111と、ネオジム磁石111に接触する防食部材142a、142bとが、耐食性磁石176を構成している。
【0032】
耐食性磁石176を構成する永久磁石としては、Nd−Fe−B系永久磁石に限らず、RE−Fe−M−B(REはNd、Y、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群より選ばれる少なくとも一種の希土類元素、MはCo、Ti、Nb、Al、V、Mn、Sn、Ca、Mg、Pb、Sb、Zn、Si、Zr、Cr、Ni、Cu、Ga、Mo、W、Taからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素)で表記される鉄系の希土類永久磁石のほか、Sm−Co磁石、フェライト磁石等も用いることができる。これらの永久磁石は、表面に樹脂膜やめっき膜が形成されていてもよい。
【0033】
防食部材142a、142bは、図4に示すように、いずれも平面視でリング状に形成されており、ネオジム磁石111の外周面と内周面とをそれぞれ覆っている。本実施形態の場合、防食部材142a、142bは、可撓性防食部材であり、本例では亜鉛粉末又は亜鉛合金粉末を樹脂材料等に混合してペースト状とした可撓性亜鉛陽極である。
【0034】
可撓性防食部材は、少なくとも塗布時に粘性を有するペースト状(パテ状)であればよい。つまり、塗布後の加熱処理や乾燥処理により固化するものであってもよい。さらには、塗布時には導電性を有しておらず、加熱処理や乾燥処理により導電性を発現するものであってもよい。
また可撓性防食部材に含まれる金属粉末は、陽極電位、陽極効率、電解生成物の発生量、取り扱いの難易を考慮すると、亜鉛が最も適している。
【0035】
防食部材142a、142bは、50μm以上の厚さに形成することが好ましく、500μm以上の厚さとすることがより好ましい。さらに1mm以上の厚さとすれば、極めて長期間にわたり防食作用を得られる防食部材となる。従来用いられているめっき膜の厚さ(5〜20μm程度)では水中や海水中で十分な防食作用を得られず、ネオジム磁石111が腐食するおそれがあるが、上述した範囲の厚さとすることで、十分な量の防食部材を備えた耐食性磁石を構成することができ、長期間にわたり水中や海水中で使用しても腐食せず、吸着力を持続させることができる。
【0036】
ヨーク181は、ネオジム磁石111の背面側の磁石面に吸着する円盤状のバックヨーク部183と、ネオジム磁石111の外周面と対向する円筒状の外周ヨーク部184と、ネオジム磁石111の内周面と対向する内周ヨーク部185とを一体に形成した構成である。したがって、ヨーク181は、バックヨーク部183と外周ヨーク部184と内周ヨーク部185とにより形成された平面視リング状の溝部内に耐食性磁石176を収容している。
【0037】
ヨーク181の上記溝部は、図2(b)に示すように、ネオジム磁石111の高さよりも大きい深さに形成されており、ヨーク181に耐食性磁石176を収容した状態で、外周ヨーク部184及び内周ヨーク部185の開口側の端部がネオジム磁石111の磁石面よりも吸着対象物側に突出するようになっている。このように磁石よりもヨークを突出させておくことで、磁気吸着装置180を吸着対象物に吸着させたときの摩擦や衝撃からネオジム磁石111を保護することができ、ネオジム磁石111が摩耗したり、割れたりするのを防止することができる。
【0038】
ねじ軸部186は、ヨーク181と一体に円筒状に形成されており、バックヨーク部183の法線方向にねじ軸の延在方向が一致している。ねじ軸部186の外周面には、ナット180bを螺合するための雄ねじ部186aが形成されている。
また、ねじ軸部186には、ねじ軸部186を軸方向に貫通するねじ孔部181aが形成されている。さらに、ねじ孔部181aは、図2(b)に示すように、ヨーク181のバックヨーク部183と内周ヨーク部185とを貫通している。すなわち、ねじ孔部181aは吸着装置本体180aを高さ方向に貫通して形成されている。
【0039】
ねじ孔部181aの内側面には、ボルト188の雄ねじ部189と螺合する雌ねじ部が形成されている。ねじ孔部181aは吸着装置本体180aを貫通しているので、ねじ孔部181aに十分な長さのボルト188を螺合すると、ボルト188の先端部を内周ヨーク部185の先端から突出させることができる。また、ボルト188を軸回りに回転させることで、ヨーク181の吸着面からのボルト188の突出長さを自在に調整することができる。
【0040】
ねじ軸部186の雄ねじ部186aに螺合されるナット180bは緩み止めナットであり、本実施形態の場合、図3に示すように、ナット180bのねじ穴と同軸のフリクションリング187が設けられている。フリクションリング187は、ねじ穴の中心部側に突出する爪部を有しており、ナット180bをねじ軸部186に螺合することで前記爪部が雄ねじ部186aのねじ山に接して変形し、この変形により生じる反力によって雄ねじ部186aを押圧するようになっている。そして、フリクションリング187と雄ねじ部186aとの摩擦力によってナット180bの自由回動が制限され、ナット180bが緩むのを防止するようになっている。
なお、ナット180bの緩み止め構造は特に限定されず、フリクションリングを用いたもののほか、スプリングワッシャを用いた構造や、ダブルナット構造、樹脂リングを用いた構造など、種々のものを用いることができる。
【0041】
バックヨーク部183には、バックヨーク部183を貫通してネオジム磁石111に達する貫通孔183aが複数形成されている。図3では貫通孔183aを2つのみ図示しているが、実際にはバックヨーク部183の中心に対して軸回り方向に120°間隔で3つの貫通孔183aが形成されている。これらの貫通孔183aは、ヨーク181にネオジム磁石111を収容する際に使用するものであり、貫通孔183aにシャフトを挿通してヨーク181の内側にシャフトの先端を突出させておくことで、ヨーク181の開口側に配置したネオジム磁石111がバックヨーク部183に吸着するのを規制する。これにより、ネオジム磁石111を配置する際にヨーク181の内部に引き込まれてバックヨーク部183に衝突し、その衝撃によって割れたり、欠けたりするのを防止することができる。
【0042】
上記の貫通孔183aは、内周面に雌ねじ部が形成されてボルトを螺合可能とされていることが好ましい。この構成を採用し、ヨーク181の外側からボルトを螺合してボルトの先端をバックヨーク部183に対して進退させるようにすれば、ネオジム磁石111とバックヨーク部183とを穏やかに吸着させることができ、ネオジム磁石111の収容を安全かつ確実に行えるようになる。
【0043】
磁気吸着装置180は、図2(b)に示すように、取り付け部103のボルト穴に、吸着装置本体180aのねじ軸部186を挿通し、取り付け部103のヨーク181と反対側からナット180bをねじ軸部186に締結することで取り付けられている。
【0044】
以上の構成を備えた流電陽極100は、図1に示すように、磁気吸着装置180のヨーク181の開口側の吸着面を、鋼矢板1000に向けた状態で接近させることで、鋼矢板1000に吸着固定することができる。磁気吸着装置180の構成部材はいずれも導電性を有しているため、鋼矢板1000と接触するヨーク181から取り付け部103を介して陽極本体101と鋼矢板1000とが電気的に接続されている。これにより、海水中に流電陽極100を設置することで、陽極本体101から鋼矢板1000に持続的に防食電流が供給され、鋼矢板1000の腐食を防止することができる。
【0045】
そして、本発明では、流電陽極100を磁気吸着装置180により設置する取り付け構造を採用したことで、従来の水中アーク溶接を用いた流電陽極の取り付け構造における問題点をすべて解決できるものとなっている。
すなわち、水中アーク溶接のように鋼矢板1000を加工する必要がないので、溶接による鋼矢板1000の強度低下が生じることがない。また、水中アーク溶接では取り付け作業に資格が必要であったが、本発明では資格不要で作業することができる。さらに、水中アーク溶接では取り付け品質が潜水士の技量に左右され、また海中での溶接に時間がかかるという問題があったが、本発明では磁気吸着させるだけであるため、潜水士の技量に関係なく確実に設置することができ、また短時間に作業を実施することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る磁気吸着装置180では、ネオジム磁石111の磁力を有効に利用し、極めて強力な吸着力を得ることができるようになっている。具体的には、ネオジム磁石として、表面積36cm、外形70mm、内径32mm、厚さ15mmのリング状のものを用い、ヨーク181を鋼材を削り出して作製した場合において、水平方向(吸着面の法線方向;引っ張り荷重)で約170kg(4.7kg/cm)、垂直方向(吸着面方向;剪断荷重)で約80kg(2.2kg/cm)の吸着力が得られる。
【0047】
上記のように強力な吸着力が得られるのは、本実施形態に係る磁気吸着装置180が、リング状のネオジム磁石111の内周及び外周にそれぞれ内周ヨーク部185、外周ヨーク部184を設けているためである。このようなダブルヨーク構造を採用することで、ネオジム磁石111と内周ヨーク部185との間、及びネオジム磁石111と外周ヨーク部184との間のそれぞれに吸着部が形成されるためである。具体的には、上述した具体的構成において、内周ヨーク部185を設けない構成(シングルヨーク構造)の磁気吸着装置に比して、約1.7倍の吸着力が得られる。本実施形態では、このようにダブルヨーク構造を採用することで、寸法を大きくすることなく吸着力を大きく向上させており、重量の大きい流電陽極であっても小型の磁気吸着装置で設置できるようになっている。
【0048】
このように本実施形態に係る磁気吸着装置180は強力な吸着力を得られることから、個々の磁気吸着装置180に小型のものを用いても十分な吸着力を得ることができる。例えば本実施形態の構成において、流電陽極100の総重量が20〜30kg程度であれば、外形90mm程度の吸着面の磁気吸着装置180を2個用いるだけで、鋼矢板1000に強固に固定することができる。したがって、鋼矢板1000において磁気吸着装置180を吸着させるための平坦面は、上記磁気吸着装置2個分の領域が確保されていればよいため、鋼矢板1000に凹凸や反りがあっても容易に取り付けることが可能である。
【0049】
また本実施形態に係る磁気吸着装置180では、防食部材142a、142bによって、ネオジム磁石111と外周ヨーク部184、及びネオジム磁石111と内周ヨーク部185とが離間されている。すなわち、防食部材142a、142bがネオジム磁石111とヨーク181との間のスペーサとしても機能する。これにより、ネオジム磁石111の外周面と外周ヨーク部184との間、及びネオジム磁石111の内周面と内周ヨーク部185との間で短絡磁束が生じるのを防止し、磁気吸着装置180の吸着力を高めている。
【0050】
さらに、本実施形態において、防食部材142a、142bを均一な厚さに形成することで、ネオジム磁石111と外周ヨーク部184との間隔、及びネオジム磁石111と内周ヨーク部185との間隔を均一に保持することができるので、磁気吸着装置180の吸着面となる外周ヨーク部184の開口端、及び内周ヨーク部185の開口端において周方向で均一な吸着力が得られるようになる。
【0051】
ところで、従来から知られているように、磁気吸着装置180に備えられるネオジム磁石111は耐食性が低いものである。そのため、単にネオジム磁石を用いて磁気吸着装置を構成したのでは、ネオジム磁石が腐食して吸着力が失われ、流電陽極が鋼矢板から脱落してしまう。この点、本実施形態に係る磁気吸着装置180では、ネオジム磁石111と接触させて防食部材142a、142bを設けることで、ネオジム磁石111の腐食を防止し、長期間にわたり良好な吸着力を持続できるようにしている。
【0052】
より詳細には、ネオジム磁石111と接触する防食部材142a、142bを設けておくことで、海中に流電陽極100を設置したときに、防食部材142a、142bからネオジム磁石111に防食電流が供給されるようにしている。これによって磁石内部に水分が浸透した場合であっても、磁石内部でのガルバニック電池の形成を回避することができ、海中に配置したときにネオジム磁石111よりも先に防食部材142a、142bに含まれる亜鉛又は亜鉛合金の粉末を腐食させ、ネオジム磁石111を保護するようになっている。
【0053】
ネオジム磁石は大気中に置いた場合でも容易に腐食するため、従来から、ネオジム磁石の表面に防食を目的とするコーティングが施されている。このような表面コーティングとしては、以下の(1)〜(4)のようなものが知られている。
(1)アルミニウムコーティング(厚さ5〜20μm)
(2)ニッケルめっきコーティング(厚さ10〜20μm)
(3)チタンコーティング(厚さ5〜7μm)
(4)有機塗料の塗布(厚さ10〜50μm)
【0054】
上述した表面コーティングを施すことで、ネオジム磁石の大気中での腐食はある程度防止することができる。しかしながら、上記のような表面コーティングのみでは、多湿雰囲気や電解質溶液中などの過酷な腐食環境では腐食を十分に防止することはできない。
まず、金属コーティングを施されたネオジム磁石を海水中に置くと、金属コーティングとこれに接触する(電気的に接続する)他の金属材料との間でガルバニック電池が形成されるため、先に金属コーティングで腐食が進行する。上記(1)〜(3)に示すように、金属コーティングでは皮膜の厚さが5〜20μm程度であるため、金属コーティングは短時間で損耗してネオジム磁石が露出してしまう。そして、ネオジム磁石が露出すると、ネオジム磁石と金属コーティングとの間に腐食電池が形成されて腐食が進行し、金属コーティングに生じた小さな穴から激しく腐食することになる。
【0055】
また、めっきやイオンプレーティングにより形成される皮膜には必ずピンホールが存在するため、このピンホールからも腐食が進行する。そして、腐食した部位から電解質溶液が浸入し、さらに腐食が進行する結果、減磁が生じて磁石としての機能を喪失することになる。
さらに、有機塗料を塗布した(4)では厚さが50μm程度あるが、有機塗料自体の防食性が不十分であるため、厚く塗布したとしても、海水中では容易に腐食を生じてしまう。
【0056】
これに対して本実施形態の耐食性磁石176では、防食部材142a、142bにより海水中での腐食の進行を抑えるようになっており、ネオジム磁石の防食コーティングとは全く異なる作用をもってネオジム磁石の腐食を防止するものである。すなわち、ネオジム磁石の表面を薄い皮膜で覆って腐食を防止するのではなく、犠牲陽極となる防食部材から積極的に十分な防食電流を供給することでネオジム磁石の腐食を防止しているのである。
そのため本発明では表面コーティングされていないネオジム磁石を用いることもでき、本発明における防食作用は、従来からあるコーティングとは全く異なるものである。ただし、このことが本発明に係る耐食性磁石において表面コーティングが施された永久磁石を用いることを妨げるものではない。
【0057】
また、本実施形態の流電陽極100では、鋼矢板1000への取り付けに際して、磁気吸着装置180に取り付けられたボルト188を利用して安全に取り付け作業を行えるようになっている。
具体的には、流電陽極100を鋼矢板1000に取り付ける前に、ボルト188を磁気吸着装置180のねじ軸部186の先端側からねじ孔部181aに螺合し、ボルト188の先端部を内周ヨーク部185の先端から突出させた状態としておく。
このようにボルト188を突出させた状態で磁気吸着装置180を鋼矢板1000に接近させると、ボルト188の先端によって、磁気吸着装置180のヨーク181と鋼矢板1000との接触が妨げられるため、磁気吸着装置180は鋼矢板1000に弱い力で引き寄せられるか、あるいは全く引き寄せられないこととなる。
その後、ボルト188を軸回りに回転させてヨーク181から後退させることで、磁気吸着装置180と鋼矢板1000とを徐々に接近させ、吸着させることができる。
このようにして、流電陽極100が鋼矢板1000に急激に引き寄せられるのを回避することができる。
【0058】
また、ボルト188は、流電陽極100を鋼矢板1000から取り外すときにも有効に機能する。すなわち、図2(b)に示す吸着状態において、ボルト188を軸回りに回転させてボルト188の先端部を鋼矢板1000側に進出させると、磁気吸着装置180を鋼矢板1000から引き離すことができる。磁気吸着装置180に用いられているネオジム磁石111は、極めて強力な吸着力を有するため、人手では直接引き離すのは困難であるが、本例ではボルト188を操作するだけで容易に引き離すことができ、またボルト188は吸着面から突出させた状態に保持されるため、引き離した磁気吸着装置180が再び鋼矢板1000に吸着してしまうことが無く、安全に作業を行うことができる。
【0059】
さらにボルト188は、設置後に流電陽極100の位置調整を行う場合にも有効に機能する。すなわち、ボルト188を操作することで、磁気吸着装置180を鋼矢板1000から少しだけ引き離すと、磁気吸着装置180は鋼矢板1000に弱い力で吸着した状態となる。このような状態とすることで、流電陽極100を容易に移動させることができるようになるので、流電陽極100を所望の位置に移動させた後、ボルト188を操作して磁気吸着装置180を鋼矢板1000に再び吸着させることで、安全に位置調整作業を実施することができる。
【0060】
このように、磁気吸着装置180によれば、流電陽極100の取り付け、取り外し、あるいは位置調整を、容易かつ安全に実施することができる。
【0061】
また、本実施形態において、ボルト188としては、その先端部を円錐状に尖らせた形状のものを用いることが好ましい。このように尖鋭な先端形状を有するボルト188を用いることで、流電陽極100を鋼矢板1000に取り付けた後、ボルト188の先端を鋼矢板1000に食い込ませた状態に保持することができる。これにより、鋼矢板1000と磁気吸着装置180との導通をより確実なものとすることができ、したがって陽極本体101と鋼矢板1000との導通状態をさらに安定に保持することができる。
【0062】
また、ボルト188は、他の部材を磁気吸着装置180に締結するための固定具として用いることもできる。例えば、流電陽極100を鋼矢板1000に設置した後、流電陽極100において発生する電流を計測するための計測機器の端子を固定する固定具として、ボルト188を利用してもよい。このようにあらかじめ計測機器の接続部が設けられた構成としておけば、陽極本体101の損耗状態等の点検を容易かつ迅速に実施することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、ネオジム磁石111の腐食を防止するための防食部材142a、142bとして、防食材料の粉末を含む可撓性防食部材を用いたが、このような可撓性防食部材に代えて、亜鉛や亜鉛合金等の防食材料をシート状に延伸した防食シートを用いることもできる。この場合にも、ネオジム磁石111に接触する防食シートから供給される防食電流によりネオジム磁石111の腐食を防止することができ、長期間にわたり良好な吸着力を得ることができる。
【0064】
上記防食シートを用いる場合には、ネオジム磁石111と防食シートとを導電性接着剤を介して接着することが好ましい。このような構成とすることで、ネオジム磁石111と防食シートとの電気的導通を確実に確保することができる。導電性接着剤としては、例えば金属粒子を樹脂接着剤に混合したものを用いることができ、前記金属粒子として、亜鉛粉末又は亜鉛合金粉末を用いることが好ましい。亜鉛を含む金属粒子を用いることで、防食シートからの防食電流を効率よく確実にネオジム磁石111に供給されるようになる。
【0065】
また、上記防食シートを防食部材142a、142bが設けられた位置以外の部位に接着することもできる。例えば、ネオジム磁石111のバックヨーク部183と反対側の面(ヨーク開口側の面)に接着してもよい。あるいは、バックヨーク部183のネオジム磁石111と反対側の面(ナット180b側の面)に接着してもよい。さらには、外周ヨーク部184の外周面に接着することもできる。
【0066】
(第2の実施形態)
次に、図5(a)は、本発明の第2の実施形態に係る流電陽極の平面図である。図5(b)は、図5(a)に対応する側面図である。図6は、図5(a)のB−B’線に沿う位置の断面図である。
【0067】
図5及び図6に示すように、本実施形態の流電陽極200は、略直方体状の陽極本体201と、陽極本体201を収容する箱形の陽極トレイ202と、陽極トレイ202の長辺方向の両端に位置する側面部にそれぞれ延設された板状の取り付け部203と、取り付け部203に取り付けられた磁気吸着装置280と、を備えている。
なお、磁気吸着装置280は、第1実施形態に係る磁気吸着装置180と基本構成において共通しており、両者はナットの緩み止め構造が異なるのみであるから、以下の説明では第1実施形態に係る流電陽極と共通の構成要素には同一の符号を付して説明を省略することとする。
【0068】
陽極本体201は、先の実施形態の陽極本体101と同様、アルミニウム合金等からなる。
陽極トレイ202及び取り付け部203は、例えば、鋼材を用いて作製される。陽極本体201は、陽極トレイ202に収容され、陽極トレイ202の側面に設けたボルト等の固定具202aにより陽極トレイ202に固定されている。陽極本体201と陽極トレイ202とは、両者が接触し、また上記固定具を介して電気的に接続されている。陽極トレイ202の下面(陽極本体201と反対側の面)には、弾性材料からなるクッション部材(緩衝材)204が設けられている。
【0069】
磁気吸着装置280は、吸着装置本体180aと、ナット281とを備えている。ボルト188は、吸着装置本体180aを貫通するねじ孔部181aに螺合されるようになっている。磁気吸着装置280は、取り付け部203に形成されたボルト穴にねじ軸部186を挿通し、スプリングワッシャ282を介してねじ軸部186に螺合されたナット281により、取り付け部203に締結されている。
【0070】
上記構成を備えた流電陽極200では、陽極本体201を陽極トレイ202に収容している。このような構成とすることで、陽極本体201として、単なるアルミニウム合金塊を用いることができるようになるので、第1実施形態に係る流電陽極100の芯金を用いた陽極本体101に比して安価な陽極本体となり、流電陽極200を安価に提供できるようになる。
【0071】
また、ボルト等の固定具202aにより陽極本体201を陽極トレイ202に固定しているので、陽極本体201が損耗した場合には、陽極本体201のみを交換して再度使用することができるので、長期的なコストも削減できる構成となっている。
【0072】
さらに、本実施形態では、陽極トレイ202の底面(陽極本体201と反対側の面)にクッション部材204が設けられているので、磁気吸着装置280を鋼矢板1000に接近させて流電陽極200を設置する際の衝撃や摩擦から陽極トレイ202及び陽極本体201を保護することができ、また設置作業を安全に実施することができる。
【0073】
また本実施形態において、取り付け部203に非磁性材料を用いるならば、ヨーク181から漏れ出る磁束を取り付け部203によってバックヨーク部183内に閉じこめることができるため、ネオジム磁石111の磁力の利用効率を高め、磁気吸着装置280の吸着力を向上させることができる。
【0074】
(第3の実施形態)
次に、図7(a)は、本発明の第3の実施形態に係る流電陽極の平面図である。図7(b)は、図7(a)のX方向矢視図である。
【0075】
図7に示す本実施形態の流電陽極300は、アルミニウム合金等からなる陽極本体301と、陽極本体301を収容する陽極トレイ302と、陽極トレイ302の四方の側面部から外側に延設された10本の板状の取り付け部303と、各取り付け部303に設けられたボルト穴に締結された10個の磁気吸着装置280と、を備えている。
【0076】
本実施形態は、第2実施形態の流電陽極200と同様の基本構成を備えたものであるが、大型(例えば第2実施形態に係る陽極本体201の5倍程度)の陽極本体301を備える場合の構成である。
本実施形態の流電陽極300では、陽極本体301の大型化に伴う重量増に対応するために、陽極トレイ302の側方に配設する磁気吸着装置280の個数を増やしている。
【0077】
このように、本発明に係る流電陽極では、陽極本体の重量に応じて小型の磁気吸着装置の設置数を変更することで、安全確実に鋼矢板に設置できる構成とすることができる。したがって、設置される鋼矢板の大きさ等に応じて自在に流電陽極の大きさを変更することができる。また、磁気吸着装置280自体が小型であるため、設置数の増減が極めて容易であり、さらに設置数を増やしたとしても流電陽極を設置するために確保すべき鋼矢板表面の領域は、陽極本体の大きさの変化に比べればそれほど増えないため、設置作業が制限されることはない。
【0078】
(第4の実施形態)
次に、図8(a)は、本発明の第4の実施形態に係る流電陽極の断面図である。図8(b)は、図8(a)のZ方向矢視図である。図8(a)に示す断面図は、図8(b)のC−C’線に沿う位置に対応している。
【0079】
図8に示す流電陽極400は、断面視略台形状の陽極本体401と、陽極本体401の平面視中央部に設けられた略リング状の取り付け部403と、取り付け部403の平面視略中央部に形成されたボルト穴に固定された磁気吸着装置180と、陽極本体401の磁気吸着装置180が取り付けられた側の面に設けられたクッション部材(緩衝材)404と、を備えて構成されている。
【0080】
陽極本体401は、先の実施形態に係る陽極本体と同様、アルミニウムや亜鉛、マグネシウム、又はこれらの合金からなる。取り付け部403は、陽極本体401内に埋め込まれた鋼製のリング状の部材である。取り付け部403の一面(磁気吸着装置180の磁石が配置される側の面)は、陽極本体401の表面に露出しており、反対側の面は、陽極本体401の平面視中央部に形成された貫通孔内に露出している。
磁気吸着装置180は、取り付け部403に形成されたボルト穴にねじ軸部186を挿通し、かかるねじ軸部186にナット180bを螺合することで取り付け部403に締結されている。
陽極本体401から突出する磁気吸着装置180を取り囲むように弾性材料からなるクッション部材404が設けられている。クッション部材404は、磁気吸着装置180が設けられた領域以外の陽極本体401の一面側を覆っている。
【0081】
先の第3実施形態は、大型の陽極本体を備える場合の構成であったが、本実施形態は比較的小型の陽極本体を備える場合の構成である。磁気吸着装置180は、小型であっても強力な吸着力を有するため、陽極本体401が、例えば船舶等に用いられる数kg〜十数kg程度の小型のものである場合には、1個のみを用いても確実な吸着固定が可能である。
【0082】
また、本実施形態の流電陽極400を、発電所の海水取水設備であるトラベリングスクリーン(防塵機)のバスケット底面に配設される流電陽極として用いるような場合には、磁気吸着装置180に対してほぼ鉛直方向の荷重がかかるため、20〜30kg程度の比較的大型の陽極本体であっても1個の磁気吸着装置180で支持することができる。これは、磁気吸着装置180を吸着力が強くなる向き(荷重が吸着面の法線方向にかかる向き)で使用することができるためである。
【0083】
なお、以上に説明した本発明の実施形態及び実施例は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の耐食性磁石は、永久磁石とこれに接触する防食部材とを備えた構成を有する範囲において、種々の材質の永久磁石や防食部材、種々の形状を採用することができる。また本発明の磁気吸着装置は、本発明に係る耐食性磁石を備える範囲において、種々の形状やヨーク構造、設備機器への取り付け構造を採用することができる。
【符号の説明】
【0084】
100,200,300,400 流電陽極、111 ネオジム磁石、142a,142b 防食部材、176 耐食性磁石、180,280 磁気吸着装置、181 ヨーク、183 バックヨーク部、184 外周ヨーク部、185 内周ヨーク部、188 ボルト(吸着力調整部材)、180a 吸着装置本体、180b,281 ナット、186 ねじ軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造物の電気防食に用いる流電陽極であって、
前記金属構造物の犠牲陽極となる陽極本体と、前記陽極本体に接続された磁気吸着装置と、を備えており、
前記磁気吸着装置が、永久磁石と、前記永久磁石の構成成分の犠牲陽極となる防食材料を含むとともに前記永久磁石と電気的に接続された防食部材と、を有しており、
前記防食部材が、前記防食材料の粉末と、前記粉末と混合された有機物とを有し、
前記防食材料が、亜鉛又は亜鉛合金であり、
前記磁気吸着装置が、前記永久磁石とともに磁気回路を構成するヨークを備えており、
前記ヨークと前記永久磁石との間に前記防食部材が設けられ、
前記磁気吸着装置の前記ヨークが、前記永久磁石と吸着するバックヨーク部と、前記バックヨーク部と一体に形成されて前記永久磁石の外周側に配置される外周ヨーク部とを有しており、前記外周ヨーク部と前記永久磁石との間に前記防食部材が設けられていることを特徴とする流電陽極。
【請求項2】
前記バックヨーク部の前記永久磁石と反対側の面に、当該面から突出し、前記陽極本体の取り付け部を固定するためのねじ軸部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の流電陽極。
【請求項3】
前記バックヨーク部に、前記バックヨーク部を貫通して前記外周ヨーク部の内側の空間に達するねじ孔部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の流電陽極。
【請求項4】
前記ねじ孔部が、前記ねじ軸部と前記バックヨーク部とを、前記ねじ軸部の軸方向に貫通していることを特徴とする請求項3に記載の流電陽極。
【請求項5】
前記ねじ孔部に、先端が尖鋭形状のボルトが螺合されていることを特徴とする請求項4に記載の流電陽極。
【請求項6】
前記永久磁石が略リング状であり、
前記ヨークが、前記永久磁石の内周側に配置された内周ヨーク部と、前記永久磁石の外周側に配置された外周ヨーク部とを有しており、
前記内周ヨーク部と前記永久磁石との間、及び前記外周ヨーク部と前記永久磁石との間に、前記防食部材が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の流電陽極。
【請求項7】
前記永久磁石が略リング状であり、
前記ヨークが、前記永久磁石の内周側に配置された内周ヨーク部と、前記永久磁石の外周側に配置された外周ヨーク部とを有しており、
前記内周ヨーク部と前記永久磁石との間、及び前記外周ヨーク部と前記永久磁石との間に、前記防食部材が設けられ、
前記ねじ孔部が、前記内周ヨーク部の内部を貫通していることを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の流電陽極。
【請求項8】
前記陽極本体に前記磁気吸着装置を取り付けるための取り付け部を有しており、
前記取り付け部が、前記磁気吸着装置の永久磁石と前記陽極本体との間に配設されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の流電陽極。
【請求項9】
前記陽極本体の前記金属構造物側となる面に、弾性材料からなる緩衝材が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の流電陽極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−251248(P2012−251248A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−201782(P2012−201782)
【出願日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【分割の表示】特願2007−120225(P2007−120225)の分割
【原出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(500337473)株式会社ソフテム (7)
【Fターム(参考)】