説明

浮体

【課題】ダウンウォッシュによる煙害を抑制する煙突を備えた浮体を提供する。
【解決手段】浮体1は、煙突4を一端側に備える。煙突は、排出される流体の流路を形成する内筒と、前記内筒の周囲を覆う外筒とを備える。前記外筒の前記一端側と反対側に、大気を導入する導入口が形成される。導入口から吹き込んだ風が下流側の外筒によって上向きの流れとなることによってエアカーテンが形成され、ダウンウォッシュを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体に関する。本発明は特に、浮体上に設置される煙突の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なタイプの洋上プラントが実用化又は研究されている。例えばFLNG(Floating LNG)又はFPSO(Floating Production
Storage & Offloading unit)と呼ばれるプラントでは、洋上に浮体を浮かべて、海底ガス田から回収した天然ガスを液化してLNG(液化天然ガス、Liquified Natural Gas)を生産し蓄積する。蓄積されたLNGは、LNG船によって港湾に運ばれる。
【0003】
図1は、FLNG設備の一例を示す。浮体101は、その船首102の近くに煙突104を備える。その船尾103の近くに、FLNG設備の作業者が居住する居住区106が設けられる。煙突104と居住区106の間に、LNGを貯蔵するガスホルダー105などの設備が配置される。
【0004】
FLNGに関する先行技術文献として、特許文献1を挙げる。更に、後述する煙突のダウンウォッシュに関する先行技術文献として、特許文献2を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−285615号公報
【特許文献2】特開2000−54689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
煙突104の風下側において、以下のようなダウンウォッシュという現象が発生することが知られている。ある程度以上の風速の風が吹くと、煙突の風下側に渦が発生して負圧となり、排煙107がその負圧の領域に引き込まれる。一般的に煙突104の排煙107は上向きに流れることが望ましいが、ダウンウォッシュが発生すると排煙107の上昇が妨げられる。
【0007】
図1の例では、ダウンウォッシュによって排煙107が居住区106に到達する可能性がある。煙突104の高さを上げることによって、居住区106に排煙107が到達することを避けることができる。しかし一方で、煙突104の製造コストを抑制するために、及び浮体101の重心を下げて安定性を向上するために、煙突104が高くなることは望ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、[発明を実施するための形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0009】
本発明の一側面において、浮体(1)は煙突(4)を一端側に備える。煙突(4)は、排出される流体の流路を形成する内筒(11)と、内筒(11)の周囲を覆う外筒(10)とを備える。外筒(10)の一端側と反対側に、大気を導入する導入口が形成される。
【0010】
本発明の他の側面において、浮体(1)は導入口を覆う網(12)を具備する。
【0011】
本発明の更に他の側面において、外筒(10)の所定の高さにおける断面形状は、一端側に凹部(16)を有する。
【0012】
本発明の更に他の側面において、浮体(1)は、一端側に取り付けられた係留装置(8)によって係留される。
【0013】
本発明の更に他の側面において、浮体(1)は更に、煙突(4)に対して反対側に形成された居住設備(6)を具備する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ダウンウォッシュによる煙害を抑制する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、FLNG設備の一例を示す。
【図2】図2は、FLNGの浮体を示す。
【図3】図3は、煙突の側面図である。
【図4】図4は、煙突の断面図である。
【図5】図5は、煙突の側面図である。
【図6】図6は、煙突の断面図である。
【図7】図7は、煙突の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図2は、本発明の一実施形態によるFLNGの浮体を示す。浮体1の一端側(船首2の側)に、煙突4と、クレーンやフレア等の設備が設置される。浮体1の他端側(船尾3の側)に、作業者が居住する居住区6が設置される。煙突4と居住区6の間にLNGを貯蔵するガスホルダー5が設置される。浮体1の船首2側に、係留装置8が取り付けられる。係留装置8により、浮体1は水上の所定位置に係留される。浮体1の向きは、浮体1の係留場所の概略的な風況に従って、係留装置8が取り付けられた船首2が風上側に、船尾3が風下側になる。そのため煙突4からの排煙7は、船尾3側に向かって流れる傾向を有する。
【0017】
図3、図4は、それぞれ煙突4の側面図と、その水平なA−A断面における上面図を示す。図の右側が浮体1の船首2側、左側が船尾3側である。煙突4は、下部から上部へ排煙が流れる流路を内部に形成する内筒11と、その内筒11の周囲を隙間を介して覆う外筒10とを有する二重煙突である。内筒11と外筒10との隙間の空間は下部で閉じている。外筒10は例えば、水平断面が多角形(図3、図4の例では四角形)となるように金属製の平板形状の部材によって形成することができる。
【0018】
煙突4の所定の高さよりも上部に、大気を導入する導入口が形成される。図3の例では、その導入口に金属製の網12が張られる。導入口は、風の上流側、すなわち煙突4の船首2側に開口するように形成される。導入口が形成された箇所の船尾3側には、外筒10の壁面が存在する。即ち、本実施形態においては、多角形柱状に形成された外筒10の船首2側の一部分を切り欠き、その切り欠き部に網12を張ることによって導入口が形成される。
【0019】
このように網12を張ることにより、大気を導入する導入口を設けつつ、二重煙突の景観上の利点を得ることができる。即ち、網12によって大気の導入口において内筒11の外壁が完全にむき出しになって外部から見えることが避けられるため、煙突4の外見上好ましい。更に、網12によって、内筒11と外筒10の間に雨などが吹き込むことを有る程度防ぐことができ、メンテナンス上好ましい。このような利点が得られるならば、導入口は網以外の部材で覆ってもよい。これらの問題が無ければ、網12を省略してもよい。
【0020】
更に具体的に図3、図4の例について説明する。この例では、煙突4の外筒10は、高さ方向に長い4枚の板状の部分が、互いに長辺が接するように形成された四角柱形状とすることができる。その水平断面は四角形であり、対角の一方が船尾3側に向くように、すなわち対角線が船首2と船尾3を結ぶ浮体の長手方向に向くように配置される。所定の高さより上のA−A断面においては、外筒10の上流側が切り欠かれて風の導入口が形成されている。そのため、その高さにおいて外筒10は、四角形のうち船尾3側の2辺を形成する2枚の板上の外板10−1、10−2のみからなる。2枚の外板10−1と10−2の接する頂点である頂部14は、最も船尾3側に配置される。その結果、外板10−1と10−2とによって、船尾3方向に窪んだ凹部16が形成される。四角形のうち船首2側の2辺は、外板に代えて、網12によって形成される。
【0021】
このような構成の煙突4を備えた浮体1は、既述のように、船首2側から船尾3側に風が吹く風況の場合が多い。煙突4に向かって吹く風のうち、所定の高さよりも上の風13は、網12を通って外筒10よりも内部の領域に入る。網12から船尾3側に導入された風13は、風軸上に位置する凹部16によって受けられる。風は更に、所定高さよりも上の外筒10を形成する外板10−1、10−2に沿って上方に導かれ、外筒10の頭頂部から上向きに流出する。この上向きの流れがエアカーテンとして作用する。内筒4から排出される排煙7は、内筒11と外筒10の隙間に形成されるエアカーテンによって上向きに導かれる。その結果、ダウンウォッシュの影響を抑制することができる。
【0022】
図5は、図3と図4に示した煙突4の変形例を示す側面図である。本変形例においては、煙突4aの第1高さから第2高までの間の部分が図4のような風の導入口を有する断面形状となる。第2高さよりも上の部分は、煙突4aの導入口よりも下部の外筒10と同様の断面形状を有する塔頂部15が形成される。導入口には金属製の網12aが張られる。このような煙突10aによっても、導入口から導入される風が塔頂部15を通って煙突4aの上部に吹き出すことによってエアカーテンが形成される。条件によっては、より低い位置から風が導入されて上向きに導かれることにより、より上向き成分の割合が大きいエアカーテンを形成することができる。
【0023】
図6は、煙突4の他の変形例を示す断面図である。図4では外筒10の半分を切り欠くことによって風の導入口が形成されたが、切り欠きの大きさは半分に限られない。図6の例では、船首2側(風の上流側)の外筒10の外板10−3、10−4が部分的に残されている。導入口には網12aが張られる。ダウンウォッシュを抑制するエアカーテンを形成するために十分であれば、図6のように小さな導入口でもよい。逆に、図4よりも外板10−1、10−2が小さくても、凹部16が形成されれば効果は得られる。外筒10の水平断面形状が円形などの場合でも同様に、風軸上の下流側に凹部16が形成され、その上流側に導入口が形成されれば、エアカーテンを形成することができる。
【0024】
図7は、煙突4の更に他の変形例を示す断面図である。図4の例では、四角形の水平断面形状を有する煙突の角部によって凹部16が形成された。それに対して、本変形例では、四角形の水平断面形状を有する煙突が、浮体1に対して正対する角度に設置される。図7では、外板10−5、10−6が船首2と船尾3とを結ぶ浮体1の長さ方向に平行に、外板10−7と網12bとが浮体1の幅方向に平行に向けて配置される。船首2の側に網12bが配置され、他の外板10−5、10−6、10−7がコの字状に船尾3側に配置されることにより、図4の凹部16と同様に風を受ける凹部16bが形成される。このような構成によっても、船首2側から網12bに吹き込んだ風が凹部16bから上方に抜け、上向きの空気流によるエアカーテンを形成することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 浮体
2 船首
3 船尾
4 煙突
5 ガスホルダー
6 居住区
7 排煙
8 係留装置
10 外筒
10−1〜10−7 外板
11 内筒
12、12a、12b 網
13、13a 風
14 頂部
15 塔頂部
16、16b 凹部
101 浮体
102 船首
103 船尾
104 煙突
105 ガスホルダー
106 居住区
107 排煙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙突を一端側に具備し、
前記煙突は、
排出される流体の流路を形成する内筒と、
前記内筒の周囲を覆う外筒とを具備し、
前記外筒の前記一端側と反対側に、大気を導入する導入口が形成された
浮体。
【請求項2】
請求項1に記載された浮体であって、
更に、前記導入口を覆う網を具備する
浮体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された浮体であって、
前記外筒の所定の高さにおける断面形状は、前記一端側に凹部を有する
浮体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載された浮体であって、
前記浮体は、前記一端側に取り付けられた係留装置によって係留される
浮体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載された浮体であって、
更に、前記煙突に対して前記反対側に形成された居住設備を具備する
浮体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−101714(P2012−101714A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252981(P2010−252981)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)