説明

浮遊性動物細胞の膜タンパク質を検出する方法、及びそれを用いたスクリーニング方法

【課題】浮遊性動物細胞では導入した遺伝子の組み込まれる場所を指定することができないため、遺伝子の組み込まれた場所によって発現量が著しく異なる。そのため、膜タンパク質遺伝子を導入した細胞において高発現している細胞株を取得するために、その検出系を提供する。
【解決手段】所定のアンカー分子により、浮遊性動物細胞の固定化、膜タンパク質への検出用物質の接触、検出用物質の洗浄、膜タンパク質の検出による、浮遊性動物細胞表層の膜タンパク質の検出方法。および、浮遊性動物細胞への膜タンパク質遺伝子の導入、細胞培養、培養細胞の検出、細胞での膜タンパク質の発現量の比較選択による、導入膜タンパク質遺伝子発現浮遊性動物細胞のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮遊動物細胞をプレートに固定化し生細胞の状態で膜タンパク質を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜は脂質二重層からできており、脂質二重層は両側に親水性の領域を内部に疎水性の領域を持っている。そのため親水性の物質は細胞膜の疎水性の部分を通過して細胞内に入ることができないため、細胞は細胞膜上に存在するタンパク質を利用しイオン、親水性物質を取り込んだり外部からのシグナルを細胞内部に伝えたりしている。
【0003】
このように細胞膜タンパク質は細胞にとって外部情報、物質を取り込む非常に重要なタンパクであるであり、その違いによって細胞群が分けられるため、細胞膜上に存在しているタンパク質を検出することは細胞を同定するためにも重要である。
【0004】
細胞膜表層上に存在するタンパク質を解析する方法としては、多く用いられている方法として、蛍光抗体染色法により蛍光染色した細胞をフローサイトメーター(Flow Cytometer)で解析する方法がある。この方法は、蛍光抗体染色した細胞をフローセル内に流すことで細胞を含んだ液滴とし、そこにレーザ光を照射することで、前方散乱光(Forward Scatter)から相対的大きさ、側方散乱光(Side Scatter)から形状、内部構造を細胞一個単位で測定することができ、蛍光抗体染色による蛍光強度や蛍光の種類を細胞一個単位で測定することができる。この方法は高感度で多量のサンプルを短時間に解析できる点で非常に優れている。
【0005】
また、多種類のサンプルを一度に測定する方法としてCell ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)が用いられている。付着細胞でのCell ELISAでは、目的タンパクを検出するため酵素標識された抗体を加え、その後余分な抗体を取り除くために洗浄を行えるが、浮遊細胞の場合、洗浄で行う吸引操作で上清と共に細胞を吸引してしまうため、遠心操作により細胞をペレット上にしてから、上清をアスピレーターなどで吸引し、新たなBufferに懸濁する方法が用いられている(非特許文献1)。
【0006】
その他には、ポリ−L−リジンを用いて浮遊細胞をプレートに固定しCell ELISAを行う方法(非特許文献2)も報告されている。また、細胞固定化の技術として、ウシ血清アルブミンでコートしたプレートやシャーレにN−hydroxysuccinimide基、Oleyl基の両方持つ分子を加え、ウシ血清アルブミンのリシン残基とN−hydroxysuccinimide基を結合させ、その後、浮遊動物細胞を加えることで細胞膜とOleyl基が非共有結合で結合し、生細胞のまま固定化する技術(非特許文献3)が報告されている。
【0007】
【非特許文献1】Zheng Liu、外2名、 「Cell‐ELISA using beta‐galactosidase conjugated antibodies」、 Jouranl Immunological Methods(Netherlands)、North‐Holland Publish Company、 第234巻、1−2号、153〜167頁、 2000年2月3日発行
【非特許文献2】Henri H.VERSTEEG、外7名、 「A new phosphospecific cell‐based ELISA for p42/p44 mitogen‐activated protein kinase (MAPK),p38 MAPK、protein kinase B and cAMP‐response‐element‐binding protein」、 The Biochemical journal(England)、 Portland Press on behalf of the Biochemical Society、 第350巻、 第3号、 717〜722頁、 2000年9月15日発行
【非特許文献3】加藤、外5名、 「Immobilized culture of nonadherent Cells on an oleyl poly (ethylene glycol)ether‐modified surface」、 BioTechniques、(England)、 Informa Healthcare USA,Inc、 第35巻、 第5号、 1014〜1021頁、 2003年11月発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に膜タンパク質の遺伝子をコードしたベクターを作製して動物細胞に遺伝子導入すると、導入遺伝子は動物細胞のゲノムに組み込まれるが、動物細胞では導入した遺伝子の組み込まれる場所を指定することができないため、遺伝子の組み込まれた場所によって導入した遺伝子から作られるタンパク質の発現量が著しく異なる。そのため、膜タンパク質遺伝子を同様に導入した動物細胞でも、細胞1つ1つで膜タンパク質の発現量が異なる。よって膜タンパク質遺伝子を導入した細胞において、膜タンパク質が高発現している細胞株を取得するためには、細胞での検出方法が必要である。
【0009】
動物細胞の膜タンパク質発現を解析する方法としては、蛍光抗体染色法により蛍光染色した細胞をフローサイトメーター(Flow Cytometer)で解析する方法がある。この方法は、高感度で多量のサンプルを短時間に解析できるが、多種類のサンプルを測定する場合には問題がある。
【0010】
そこで、多種類のサンプルを一度に測定する方法としてCell ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)があるが、浮遊細胞で行う場合、遠心とアスピレーターによる洗浄方法を用いる必要があるが、アスピレーターによる上清吸引時に起こる細胞吸引を避けようとすると、洗浄が不十分となり、高発現細胞とそうでないものとの区別がつきにくい。
【0011】
また、ポリ−L−リジンを用いて浮遊細胞をプレートに固定し、Cell ELISAを行う方法も報告されているが、8%のホルムアルデヒド(Formaldehyde)で細胞を処理しているため、膜タンパクの構造が変化している恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題に関し鋭意検討した結果、所定のアンカー分子により、浮遊性動物細胞をプレートに固定化し、固定化された細胞表層に発現している膜タンパク質に検出用物質を接触させ、検出用物質の過剰分を洗浄し、検出用物質からから得られた信号の強度を測定して膜タンパク質を検出することで、浮遊性動物細胞を生細胞のままプレートに固定化し、浮遊性動物細胞表層の膜タンパク質を検出できること、また、浮遊性動物細胞に膜タンパク質遺伝子を導入し、遺伝子導入された該細胞を培養し、培養した該細胞を請求項1の方法で検出し、その検出強度によって細胞での膜タンパク質の発現量を比較し選択して、導入した膜タンパク質遺伝子を発現した浮遊性動物細胞をスクリーニングできることを見出し、本発明を完成するに至った。以下本発明を詳細に説明する。
【0013】
すなわち本発明は、浮遊性動物細胞を生細胞のままプレートに固定化する、該浮遊性動物細胞表層の膜タンパク質を検出する方法であって、該方法は、
1)N−hydroxysuccinimide基およびOleyl基を有するアンカー分子により、浮遊性動物細胞をプレートに固定化する工程;
2)固定化された細胞表層に発現している膜タンパク質に検出用物質を接触させる工程;
3)前記検出用物質の過剰分を洗浄する工程;および、
4)検出用物質からから得られた信号の強度を測定することにより膜タンパク質を検出する工程、を含む方法である。
【0014】
また本発明は、導入した膜タンパク質遺伝子を発現した浮遊性動物細胞のスクリーニング方法であって、該方法は、
1)浮遊性動物細胞に膜タンパク質遺伝子を導入する工程;
2)遺伝子導入された該細胞を培養する工程;
3)培養した該細胞を請求項1の方法で検出する工程;および、
4)請求項1の方法で得られた検出強度によって該細胞での膜タンパク質の発現量を比較し選択する工程、を含む方法である。
【0015】
また本発明は、上記の発明において、浮遊性動物細胞がマウスミエローマ細胞株SP2/0である方法である。
【0016】
本発明において固定化する浮遊性動物細胞とは、細胞膜を持っているものであれば固定化されるので特に限定されないが、例えば、ES細胞、免疫細胞、赤血球、骨髄細胞、骨髄前駆細胞、ミエローマ細胞、ハイブリドーマなどが挙げられる。
【0017】
動物細胞に遺伝子を導入する方法としてはリン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、超音波遺伝子導入法、リポフェクション法、ウイルスベクターを使用する方法などが挙げられるが、導入効率が高ければどの方法を用いてもよい。
【0018】
本発明における細胞の固定化とは、プレートに吸着させたタンパク質と細胞をアンカー分子BAM(Biocompatible Anchor for Membrane)(Sunbright OE−080CS:日本油脂社製)によって結合させることであり、そのアンカー分子はNHS基およびOleyl基の両基を持っているが、NHS基は水中で保存すると反応性が低下することから、Oleyl基と細胞膜の反応よりも前にプレートのタンパク質とNHS基を反応させておく。また、Oleyl基と細胞膜との反応は37℃で2時間反応させているが30分以上であればよい。さらに、アンカー分子であるBAMは100μMを100μl/Wellで加えているが、この濃度以上であればよい。加える細胞数は96Wellプレートであれば0.6〜5×10Cells/Well程度が望ましく、さらに好ましくは2.5×10Cells/Well程度が望ましい。
【0019】
本発明において細胞を固定化するプレートに、ウシ血清アルブミン(BSA)(Bovine Serum Albumin)を吸着させて使用しているが、アンカー分子(BAM)(Biocompatible Anchor for Membrane)(Sunbright OE−080CS:日本油脂社製)のN−hydroxysuccinimide(NHS)基が反応するアミノ基が豊富にあり検出用物質と非特異吸着をしないタンパク質であれば何でもよい。ここにおける検出用物質とは、アミノ酸、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、アプタマー、タンパク質などのさまざまな高分子、低分子物質のような物質である。好ましい検出用物質としては、抗原、抗体、レセプター、サイトカインなどの増殖因子が挙げられる。
【0020】
本発明において固定化した後の細胞膜タンパク質の検出方法は特には限定されないが、吸光、発光、蛍光、FRET(Fluorescence resonance energy transfer)、時間分解蛍光、放射線などがあげられる。また、これらの検出方法を行うために、上述した検出用物質をホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase)、アルカリホスファターゼのような酵素、FITC(Fluoresceinisothiocyanate)、PE(phycoerythrin)、APC(allophycocyanin)、などの蛍光物質、放射性物質、金コロイドなどで標識したものを使用することができる。
【0021】
本発明において細胞の膜タンパク質に標識化合物を反応させた後にPBSを加え、アスピレーターで上清を吸引洗浄する工程は過剰に加えた標識化合物を取り除く為、細胞が剥がれないよう洗浄できればよく、付着性細胞の洗浄に対応したウォッシャー(TECAN社:PW384)で行ってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明による浮遊動物細胞の膜タンパク質の検出方法は、細胞をプレートに固定化することにより、洗浄効果を高めることで、バックグランドを低くし高感度で多種類のサンプルを測定することができる。これにより外来遺伝子を導入した動物細胞で、該外来遺伝子の発現量が高い細胞と、発現量が低いあるいは発現していない細胞を区別することが容易となり、高発現細胞を取得することが容易になる。
【0023】
また、本発明は目的タンパク質を発現させた生細胞を使用することができるため、膜タンパク質を抗原とした抗体の親和性、特異性の評価を行う場合、本来の立体構造を保持したままの膜タンパク質を抗原とすることができため、立体構造を認識する抗体のスクリーニングに使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1) ヒトFcγRI遺伝子導入ミエローマ細胞でのヒトFcγRI検出
<1−1.ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞の作製>
ヒトFcγRIのcDNA(OREGENE社製)(配列番号1)とPrimer(配列番号2)を用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)法(98℃/20秒、62℃/20秒、72℃/1.5分を25サイクル)により増幅した。増幅したヒトFcγRI遺伝子を、ゲル(0.8% SeaKemGTGアガロース)の切出し精製(QIAquick Gel Extraction Kit:QIAGEN社製)で精製後、制限酵素(BamHI、KpnI:タカラバイオ社製)で消化しPCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製した。ベクターにはpCMV−Script(Stratagene社製)を使用した。pCMV−Scriptを制限酵素(BamHI、KpnI:タカラバイオ社製)で消化し、PCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製した。その後、ベクターをAlkaline Phosphatase(E.Coli C75:タカラバイオ社製)で37℃、30分、脱リン酸化処理をした後、フェノール、クロロホルムで2回洗浄し、エタノール沈殿した。このように調整したヒトFcγRI遺伝子とpCMV−ScriptをMighty Mix(タカラバイオ社製)を用いてLigationし、pCMVS−hFcRを作製した。その後、Ligation産物を大腸菌のCompetemt Cell(JM109:タカラバイオ社製)へヒートショックにて形質転換を行い、形質転換後の大腸菌からQIAprep Spin MiniprepKit(QUIAGEN社製)を用いてプラスミド抽出を行い、プラスミド(pCMVS−hFcR)を調製した。
【0025】
E−RDF(極東製薬社製)に10%FBS(Fetal Bovine Serum)(JRH Biosciences社製)を加えた培地で培養したミエローマ細胞(SP2/0)と、プラスミド(pCMVS−hFcR)をPBSに懸濁し0.4cmのキュベット(Bio−RAD社製)に入れ、ECM830(ECM社製)にてElectroporation(7505/cm,1ms,1回)することによりプラスミド(pCMVS−hFcR、pCMV−Script)をミエローマ細胞(SP2/0)にTransfectionした。その後、G418 Sulfate(Calbiochem社製)を400μg/ml加えたE−RDF(極東製薬社製)に10%FBS(Fetal Bovine Serum)(JRH Biosciences社製)を加えた培地で2週間程度選択を行い、ヒトFcγRIを発現したミエローマ細胞(hFcR)を作製した(図2参照)。また、同様に陰性コントロールとして遺伝子をクローニングしていないカラベクター(pCMV−Script)をTransfectionしたミエローマ細胞(Mock)(非発現)を作製した。
【0026】
<1−2.hFcRでの細胞膜ヒトFcγRIの検出>
1%になるようBSA(Bovine Serum Albumin:SIGMA社製)を溶かしたPBSを、96穴イムノプレート(マキシソープ:Nunc社製)に350μl/wellで加え、4℃で一晩放置したものを、PBSで3回洗浄し、100μMとなるようアンカー分子であるBAM(Sunbright OE−080CS:日本油脂社製)を溶かしたPBSを100μl/wellで96穴イムノプレートの半分のWellに加え、残りの半分にはPBSを100μl/well加え、37℃で2時間放置した。その後、96穴イムノプレートをPBSで3回洗浄した。次に、培地であるE−RDF(10%FBS)10mlでシャーレ(SUMILON社製)にて、培養した上述1−1.で作製のhFcR(ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞)、Mock(非発現ミエローマ細胞)を15mlの遠心チューブ(FALCON社製)に10ml回収後、200g、5分で遠心を行い、上清を捨て、10mlのPBSに懸濁する洗浄を2回行い、洗浄後のアンカー分子を結合させた96穴イムノプレートに1×10Cells/Well、1×10Cells/Well、1×10Cells/Wellとなるよう加え、37℃で1時間放置した。その後、200g、5分で遠心し、上清をアスピレーターで吸引した後、PBSをゆっくりと300μl/well加え、アスピレーターで吸引する洗浄を2回行った。次にAnti−CD64(mouse抗体)(R&D社製)をPBS(3%FBS)に2.5μg/mlとなるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間静地した。その後、上述したアスピレーターを用いた洗浄を3回行い、Anti−MouseIgG(H+L)−HRP(Goat抗体)(Bethyl社製)をPBS(3%FBS)に50μg/mlとなるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間静地した。次に、上述したアスピレーターを用いた洗浄を4回行い、基質としてTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μl/Wellで加え37℃で10分置き、1Mのリン酸溶液を50μl/Wellで加えた後、吸光度(O.D.=450nm)をプレートリーダー(Infinite M200:TECAN社製)で測定した。その結果を図4に示した。縦軸は吸光度、横軸は細胞数である。アンカー分子であるBAMが無いものは、陰性コントロールであるMock(非発現ミエローマ細胞)とhFcR(ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞)では優位な差は見られなかった。しかし、アンカー分子であるBAMがある場合陰性コントロールであるMock(非発現ミエローマ細胞)とhFcR(ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞)を比較すると、ヒトFcγRIを発現している細胞では吸光度で優位な差が見られた。このことから、アンカー分子であるBAMにより細胞が96穴イムノプレートに固定化され、細胞膜上のヒトFcγRIを検出することができた。
【0027】
(実施例2) ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞からの高発現株スクリーニング
本発明の全体の流れを、図1に示した。ヒトFcγRIの遺伝子を導入されたミエローマ細胞(SP2/0)を1cell/wellで96穴プレート(FALCON社製)に撒き培養することで、細胞群を分け、これらのミエローマ細胞表層に発現しているヒトFcγRIの発現量を実施例1の検出方法で検出し、比較することで、ヒトFcγRI高発現ミエローマ(SP2/0)をスクリーニングした。
【0028】
1%になるようBSA(Bovine Serum Albumin:SIGMA社製)を溶かしたPBSを、96穴イムノプレート(マキシソープ:Nunc社製)に350μl/wellで加え、4℃で一晩放置したものを、PBSで3回洗浄し、100μMとなるようアンカー分子であるBAM(Sunbright OE−080CS:日本油脂社製)を溶かしたPBSを100μl/wellで96穴イムノプレートに加え、37℃で2時間放置した。その後、PBSで3回洗浄した96穴イムノプレートに、実施例1で作製したhFcR(ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞)、Mock(非発現ミエローマ細胞)を培地E−RDF(10%FBS)にて24wellプレート(FALCON社製)で培養したものを1.5mlのエッペン(Eppendorf社製)に1ml取り、1mlのPBSで3回洗浄した後、各サンプルを1×10Cells/Wellとなるよう加えた。次に37℃で1時間放置した後、200g、5分で遠心し、上清をアスピレーターで吸引し、PBSをゆっくりと300μl/well加え、アスピレーターで吸引する洗浄を2回行った。次にAnti−CD64(Goat抗体)(Santa Cruz Biotechnology社製)をPBS(3%FBS)に0.5μg/mlとなるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間静置後、上述したアスピレーターを用いた洗浄を3回行った。また、Anti−GoatIgG(H+L)−HRP(Rabbit抗体)(Zymed社製)をPBS(3%FBS)に1/5000となるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間静置した。その後、上述したアスピレーターを用いた洗浄を4回行い、基質としてTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μl/Wellで加え37℃で10分置き、1Mのリン酸溶液を50μl/Wellで加えた後、吸光度(O.D.=450nm)をプレートリーダー(Infinite M200:TECAN社製)で測定した。その結果を図5に示した。縦軸は吸光度、横軸は細胞数を合わせたサンプルであり、陰性コントロールであるMock(非発現ミエローマ細胞)と比べ、hFcR(ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞)では吸光度で優位な差が見られ細胞膜上のヒトFcγRIを検出することができた。また、細胞数を合わせ、各細胞間の吸光度差を測定することによりヒトFcγRIの発現量の違いがわかり高発現している細胞を選択することができた。
【0029】
(実施例3) マウスFcγRI発現ミエローマ細胞での検出
<3−1.マウスFcγRI発現ミエローマ細胞の作製>
マウスFcγRIの遺伝子配列は(配列表2−1)に示したものを使用した。この遺伝子はマウスSpleenのcDNAライブラリー(タカラバイオ社製)からPrimer(配列表2−2)を用いてPCR(Polymerase Chain Reaction)法(98℃/30秒、65℃/30秒、72℃/1.5分を25サイクル)により増幅した。増幅したマウスFcγRI遺伝子を、ゲル(0.8% SeaKemGTGアガロース)の切出し精製(QIAquick Gel Extraction Kit:QIAGEN社製)で精製後、制限酵素(BamHI、KpnI:タカラバイオ社製)で消化しPCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製した。ベクターにはpCMV−Script(Stratagene社製)を使用した。pCMV−Scriptを制限酵素(BamHI、KpnI:タカラバイオ社製)で消化し、PCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製した。その後、ベクターをAlkaline Phosphatase(E.Coli C75:タカラバイオ社製)で37℃、30分、脱リン酸化処理をした後、フェノール、クロロホルムで2回洗浄し、エタノール沈殿した。このように調整したマウスFcγRI遺伝子とpCMV−ScriptをMighty Mix(タカラバイオ社製)を用いてLigationし、pCMVS−mFcRを作製した。その後、Ligation産物を大腸菌のCompetemt Cell(JM109:タカラバイオ社製)へヒートショックにて形質転換を行い、形質転換後の大腸菌からQIAprep Spin MiniprepKit(QUIAGEN社製)を用いてプラスミド抽出を行い、プラスミド(pCMVS−mFcR)の調整を行った。
【0030】
E−RDF(極東製薬社製)に10%FBS(Fetal Bovine Serum)(JRH Biosciences社製)を加えた培地で培養したミエローマ細胞(SP2/0)と、プラスミド(pCMVS−mFcR)をPBSに懸濁し0.4cmのキュベット(Bio−RAD社製)に入れ、ECM830(ECM社製)にてElectroporation(750V/cm、1ms、1回)することによりプラスミド(pCMVS−mFcR、pCMVS)をミエローマ細胞(SP2/0)にTransfectionした。その後、G418 Sulfate(Calbiochem社製)を400μg/ml加えたE−RDF(極東製薬社製)に10%FBS(Fetal Bovine Serum)(JRH Biosciences社製)を加えた培地で2週間程度選択を行い、マウスFcγRIを発現したミエローマ細胞(mFcR)を作製した(図3参照)。
【0031】
<3−2.マウスFcγRI発現ミエローマでの検出>
1%になるようBSA(Bovine Serum Albumin:SIGMA社製)を溶かしたPBSを、96穴イムノプレート(マキシソープ:Nunc社製)に350μl/wellで加え、4℃で一晩放置したものを、PBSで3回洗浄し、100μMとなるようアンカー分子であるBAM(Sunbright OE−080CS:日本油脂社製)を溶かしたPBSを100μl/wellで96穴イムノプレートに加え、37℃で2時間放置した。その後、PBSで3回洗浄した96穴イムノプレートに、3−1.で作製したmFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)、実施例1で作製したMock(非発現ミエローマ細胞)を培地E−RDF(10%FBS)にて24wellプレート(FALCON社製)で培養したものを1.5mlのエッペン(Eppendorf社製)に1ml取り、1mlのPBSで3回洗浄したのち、各サンプルを1×10Cells/Wellから順に1/2希釈となるよう加え、最後は0Cells/Wellとなるように加えた。次に37℃で1時間放置した後、200g、5分で遠心し、上清をアスピレーターで吸引し、PBSをゆっくりと300μl/well加え、アスピレーターで吸引する洗浄を2回行った。その後、Anti−MouseCD64(Rat抗体)(R&D Systems社製)をPBS(3%FBS)に0.2μg/mlとなるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間置き、上述したアスピレーターを用いた洗浄を3回行った。次に、Anti−RatIgG−HRP(Goat抗体)(CHEMICON社製)をPBS(3%FBS)に1/5000となるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間置き、上述したアスピレーターを用いた洗浄を4回行った。基質としてTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μl/Wellで加え37℃で10分置き、1Mのリン酸溶液を50μl/Wellで加えた後、吸光度(O.D.=450nm)をプレートリーダー(Infinite M200:TECAN社製)で測定した。その結果を図6に示した。縦軸は吸光度、横軸はmFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)とMock(非発現ミエローマの細胞)の1/2希釈列である。ここから、Mock(非発現ミエローマの細胞)においては細胞数に比例せず吸光度は一定であったが、mFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)は細胞数に依存して吸光度が上昇していることがわかる。よって、mFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)の細胞膜上のマウスFcγRIを検出することができた。また、mFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)においては2.5×10Cells/Wellのときに最も高い値を示した。
【0032】
(実施例4) 遠心による従来法と固定による検出の比較
3%Perfectblock(Molecular Biotechnology社製)inPBSを96穴イムノプレート(マキシソープ:Nunc社製)に350μl/wellで加え、37℃で2時間放置後、PBSで3回洗浄したプレートに、培地であるE−RDF(極東製薬社製)10%FBS(Fetal Bovine Serum)(JRH Biosciences社製)を加えた培地10mlでシャーレ(SUMILON社製)にて、培養した上述3−1.で作製のmFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)、実施例1で作製のMock(非発現ミエローマ細胞)を15mlの遠心チューブ(FALCON社製)に10ml回収後、200g、5分で遠心を行い、上清を捨て、10mlのPBSに懸濁する洗浄を2回行った。mFcR、Mockをそれぞれ、1×10、1×10、1×10、0、Cells/Wellになるよう加えた。200g、5分で遠心後、上清をアスピレーターで吸引し、PBSをゆっくりと300μl/well加える洗浄を3回行い、Anti−MouseCD64(Rat抗体)(R&D Systems社製)をPBS(3%FBS)に0.2μg/mlとなるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間置き、上述した200g、5分で遠心を行いアスピレーターで吸引する洗浄を3回行った。また、Anti−RatIgG−HRP(Goat抗体)(CHEMICON社製)をPBS(3%FBS)に1/5000となるように希釈し100μl/Wellとなるよう加え、4℃で1時間置き、上述した200g、5分で遠心を行いアスピレーターで吸引する洗浄を3回行った。基質としてTMB Microwell Peroxidase Substrate(KPL社製)を100μl/Wellで加え37℃で3分置き、1Mのリン酸溶液を50μl/Wellで加えた後、吸光度をプレートリーダー(Infinite M200:TECAN社製)で測定した。その結果を図7に示した。図7の縦軸は、それぞれの値をコントロールである0Cell/Wellの吸光度で除した値である。横軸はmFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)とMock(非発現ミエローマの細胞)の細胞数の希釈列である。遠心での検出の結果は、最も高い値と0Cell/Wellの値(序してあるため1となる)を比較すると約1.8倍であった。
【0033】
また、実施例2で示した方法で、図7と同じサンプルを測定した結果を図8に示した。図8の縦軸は、それぞれの値をコントロールである0Cell/Wellの吸光度で除した値である。横軸はmFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)とMock(非発現ミエローマの細胞)の細胞数の希釈列である。ここから、細胞をプレートに固定化して測定した結果は、最も高い値と0Cell/Wellの値(序してあるため1となる)を比較すると約4.5倍となった。図7と図8を比較すると遠心を用いた測定に比べ細胞をプレートに固定化して測定した結果の方が、陰性コントロールである0Cell/Wellの値を低く抑えることが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のスクリーニング方法を示す図である。
【図2】hFcR(ヒトFcγRI発現ミエローマ細胞)作製の図である。
【図3】mFcR(マウスFcγRI発現ミエローマ細胞)作製の図である。
【図4】アンカー分子(BAM)あり、なしでの検出結果の図であり、X軸(横軸)はウエル(Well)中の細胞数を、Y軸(縦軸)は450nmにおけるO.D.(吸光度)を示す。
【図5】高発現ヒトFcγRIミエローマをスクリーニングしている図であり、X軸(横軸)はウエル(Well)番号を、Y軸(縦軸)は450nmにおけるO.D.(吸光度)を示す。
【図6】マウスFcγRI発現ミエローマ細胞での検出結果の図であり、X軸(横軸)はウエル(Well)中の細胞数及び希釈率を、Y軸(縦軸)は450nmにおけるO.D.(吸光度)を示す。
【図7】マウスFcγRI発現ミエローマ細胞での固定化せず遠心洗浄を用いた検出結果の図であり、X軸(横軸)はウエル(Well)中の細胞数を、Y軸(縦軸)は450nmにおけるO.D.(吸光度)を示す。
【図8】マウスFcγRI発現ミエローマ細胞での固定化し検出した結果の図であり、X軸(横軸)はウエル(Well)中の細胞数を、Y軸(縦軸)は450nmにおけるO.D.(吸光度)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊性動物細胞を生細胞のままプレートに固定化する、該浮遊性動物細胞表層の膜タンパク質を検出する方法であって、該方法は、
1)N−hydroxysuccinimide基およびOleyl基を有するアンカー分子により、浮遊性動物細胞をプレートに固定化する工程;
2)固定化された細胞表層に発現している膜タンパク質に検出用物質を接触させる工程;
3)前記検出用物質の過剰分を洗浄する工程;および、
4)検出用物質から得られた信号の強度を測定することにより膜タンパク質を検出する工程、を含む方法。
【請求項2】
導入した膜タンパク質遺伝子を発現した浮遊性動物細胞のスクリーニング方法であって、該方法は、
1)浮遊性動物細胞に膜タンパク質遺伝子を導入する工程;
2)遺伝子導入された該細胞を培養する工程;
3)培養した該細胞を請求項1の方法で検出する工程;および、
4)請求項1の方法で得られた検出強度によって該細胞での膜タンパク質の発現量を比較し選択する工程、を含む方法。
【請求項3】
浮遊性動物細胞がマウスミエローマ細胞株SP2/0であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−284770(P2009−284770A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137843(P2008−137843)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】