説明

海水交換型防波堤

【課題】波の進入角度が変わっても、海水の取り込み効率が向上するようにした海水交換型防波堤を提供する。
【解決手段】外洋側Aと港内側Bとを仕切る防波堤本体1の外洋側Aの前面開口1aに面して海水取り込み室2が形成され、この海水取り込み室2に、上部を港内側Bに傾斜させた起伏ゲート状浮体3が設けられ、この起伏ゲート状浮体3よりも後方の海水取り込み室2と港内側Bとは海水導入通路8で連通されているとともに、防波堤本体1の前面開口1aは、起伏ゲート状浮体3の起立傾斜角度θにほぼ沿った前傾斜面1bに形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水交換型防波堤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防波堤本体の外洋側に設置した潜提の上に、板状の浮体構造物を傾動可能に配置して、外洋側の波力で浮体構造物が傾動することで、浮体構造物を乗り越えた海水を防波堤本体と潜提との間に流入させ、この海水を港内側に導入するようにした海水交換型防波堤がある(特許文献1参照)。
【0003】
前記潜提は、前提部と、その両側の側提部とを有していて、浮体構造物は前提部の上に配置され、この浮体構造物の両側は、垂直に立ち上がった側壁状の側提部で囲まれるようになっている。
【特許文献1】特開2002−327418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、潜提の前提部の浮体構造物の両側を垂直に立ち上がった側壁状の側提部で囲んでしまうと、波の進入角度が浮体構造物に対して直角方向であれば問題は無いが、風力等で斜め方向に変わると、側壁状の側提部が波消しとなり、波力で浮体構造物が傾動し難く、海水が浮体構造物を乗り越え難くなって、海水の取り込み効率が悪くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記問題を解消するためになされたもので、波の進入角度が変わっても、海水の取り込み効率が向上するようにした海水交換型防波堤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、外洋側と港内側とを仕切る防波堤本体の外洋側の前面開口に面して海水取り込み室が形成され、この海水取り込み室に、上部を港内側に傾斜させた起伏ゲート状浮体が設けられ、この起伏ゲート状浮体よりも後方の海水取り込み室と港内側とは海水導入通路で連通されているとともに、前記防波堤本体の前面開口は、起伏ゲート状浮体の起立傾斜角度にほぼ沿った前傾斜面に形成されていることを特徴とする海水交換型防波堤を提供するものである。
【0007】
請求項2のように、前記海水取り込み室の前面開口を塞ぐバースクリーンが前記前傾斜面に沿って設けられていることが好ましい。
【0008】
請求項3のように、前記起伏ゲート状浮体よりも後方の海水取り込み室の側面で、起伏ゲート状浮体の起立上端付近に、海水取り込み室に封じ込められた浮遊ゴミを外洋側に排出するためのゲート付き開口が形成されていることが好ましい。
【0009】
請求項4のように、前記防波堤本体は、略矩形ブロック状のケーソンでなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防波堤本体の前面開口を起伏ゲート状浮体の起立傾斜角度にほぼ沿った前傾斜面に形成したから、波の進入角度が浮体構造物に対して斜め方向であっても、前傾斜面の前方両側には側壁が無く、波消しにならないので、波力で起伏ゲート状浮体が傾動し易く、海水が起伏ゲート状浮体を乗り越え易くなって、海水の取り込み効率が向上するようになる。
【0011】
請求項2によれば、海水取り込み室の前面開口を塞ぐバースクリーンを前傾斜面に沿って設けたから、傾斜させた起伏ゲート状浮体の前方にバースクリーンを合理的に配置できるようになる。
【0012】
請求項3によれば、海水取り込み室に浮遊ゴミが封じ込められた場合、この浮遊ゴミが抵抗となって海水の取り込み効率が悪くなり、腐敗・悪臭の原因ともなるが、開口のゲートを一定時間だけ開けておけば、起伏ゲート状浮体を乗り越えた海水とともに浮遊ゴミが開口から外洋側に自動的に排出されるようになる。
【0013】
請求項4によれば、起伏ゲート状浮体等を予め組み込んだケーソンを設置する工事だけで、海水交換型防波堤が完成するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、外洋側Aと港内側Bとを仕切る防波堤本体1であり、(a)は平面図、(b)は、正面図である。図2は図1(a)のI−I線断面図である。
【0016】
防波堤本体1は、基本的には、略矩形ブロック状で、外洋側Aの前面開口1aに面して海水取り込み室2が形成された中空コンクリート製のケーソンである。このケーソンは、例えば一辺が5m程度の大きさである。
【0017】
防波堤本体1の海水取り込み室2には、上部を港内側Bに傾斜させた起伏ゲート状浮体3が設けられている。この起伏ゲート状浮体3は、下部が海水取り込み室2の底部にヒンジ軸4で前後回動可能に取付けられて、その浮力によって、前方に起立するようになる。
【0018】
起伏ゲート状浮体3の上部と海水取り込み室2の底部との間には可撓性のゴム膜6が取付けられるとともに、起伏ゲート状浮体3の中間部と海水取り込み室2の底部とは、起伏ゲート状浮体3の流出防止用ワイヤーロープ7で連結されている。
【0019】
このワイヤーロープ7によって、浮力で前方に起立する起伏ゲート状浮体3の起立位置が規制されるようになる。また、起伏ゲート状浮体3は、外洋側Aからの波力によって後方に倒伏するようになる。起伏ゲート状浮体3の最大起立位置は、最大水位H.W.Lよりも僅か上方に上端部が臨むように設定されている。
【0020】
この起伏ゲート状浮体3よりも後方の海水取り込み室2の下部と港内側Bとは海水導入通路8で連通されている。
【0021】
防波堤本体1の前面開口1aは、従来は、図2の二点鎖線aおよび図4を参照すれば、防波堤本体1´の前垂直面1cに形成されているが、本実施形態では、起伏ゲート状浮体3の起立傾斜角度θにほぼ沿った前傾斜面1bに形成されている。
【0022】
そして、海水取り込み室2の前面開口1aを塞ぐ除塵用のバースクリーン9が前傾斜面1bに沿って設けられている。
【0023】
起伏ゲート状浮体3よりも後方の海水取り込み室2の側面には、起伏ゲート状浮体3の起立上端付近に、海水取り込み室2に封じ込められた浮遊ゴミを外洋側に排出するためのスライドゲート11付き開口12が形成されている。このスライドゲート11は、防波堤本体1の上面に据付けられた手動開閉機13にエンドレスチェーン14で連結されて、手動操作によって、スライドゲート11を上下動させることで、開口12を開閉できるようになっている。なお、防波堤本体1の上面には、点検用開口18を塞ぐグレーチング19が設けられている。
【0024】
ケーソンである防波堤本体1は、図3(a)のように、複数個(本例では2個であるが、3個以上でも可。)を横並び状態で設置することができる。また、海底に構築された固定の防波堤15の間に設置することもできる。なお、ケーソンである防波堤本体1の側壁部にスライドゲート11を設ける場合は、防波堤本体1の横並びは2個までとし、固定の防波堤15の外洋側に設置することが好ましい。
【0025】
前記のような海水交換型防波堤であれば、図2のように、外洋側Aからの波力bによって起伏ゲート状浮体3が後方に倒伏すると(矢印c参照)、この起伏ゲート状浮体3を海水が乗り越えて(矢印d参照)、起伏ゲート状浮体3の後方の海水取り込み室2に流入するようになる。この海水が海水導入通路8を介して港内側Bに導入されることで(矢印e参照)、その分の港内側Bの海水が防波堤の船舶用航路等から外洋側Aに押し出されることで、外洋側Aと港内側Bとの間で海水交換が行われるようになる。
【0026】
ここで、図4に示した従来の防波堤本体1´では、前面開口1aが前垂直面1cに形成されていることから、図4(b)のように、波の進入角度が起伏ゲート状浮体3に対して直角方向(矢印f参照)であれば問題は無いが、風力等で斜め方向(矢印g参照)に変わると、側壁1dが波消しとなり、波力で起伏ゲート状浮体3が傾動し難く、海水が起伏ゲート状浮体3を乗り越え難くなって、海水の取り込み効率が悪くなる。
【0027】
これに対して、図3に示した本実施形態の防波堤本体1では、防波堤本体1の前面開口1aを起伏ゲート状浮体3の起立傾斜角度θにほぼ沿った前傾斜面1bに形成した(換言すれば、ケーソンの側壁を起伏ゲート状浮体3に沿わせて切り取った)から、波の進入角度が起伏ゲート状浮体3に対して斜め方向(矢印g参照)であっても、前傾斜面1bの前方両側には側壁1d(二点鎖線a参照)が無く、波消しにならないので、波力で起伏ゲート状浮体3が傾動し易く、海水が起伏ゲート状浮体3を乗り越え易くなって、海水の取り込み効率が向上するようになる。
【0028】
また、海水取り込み室2の前面開口1aを塞ぐバースクリーン9を前傾斜面1bに沿って設けたから、傾斜させた起伏ゲート状浮体3の前方にバースクリーン9を合理的に配置できるようになる。
【0029】
さらに、海水取り込み室2に浮遊ゴミが封じ込められた場合、この浮遊ゴミが抵抗となって海水の取り込み効率が悪くなり、腐敗・悪臭の原因ともなるが、開口12のゲート11を一定時間だけ開けておけば、起伏ゲート状浮体3を乗り越えた海水とともに浮遊ゴミが開口12から外洋側Aに自動的に排出されるようになる。
【0030】
また、防波堤本体1は、略矩形ブロック状のケーソンでなるから、起伏ゲート状浮体3等を予め組み込んだケーソンを設置する工事だけで、海水交換型防波堤が完成するようになる。
【0031】
前記実施形態の防波堤本体1は、ケーソンであったが、海底に構築される固定の防波堤15に海水取り込み室2を形成し、前面開口1aを前傾斜面1bに形成する等すれば、ケーソンでなくても実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態の海水交換型防波堤であり、(a)は平面図、(b)は、正面図である。
【図2】図1(a)のI−I線断面図である。
【図3】本発明の実施形態の海水交換型防波堤であり、(a)は設置状態の斜視図、(b)は波の進入角度を示す平面図である。
【図4】従来の海水交換型防波堤であり、(a)は設置状態の斜視図、(b)は波の進入角度を示す平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 防波堤本体
1a 前面開口
1b 前傾斜面
2 海水取り込み室
3 起伏ゲート状浮体
8 海水導入通路
9 バースクリーン
11 ゲート
12 開口
A 外洋側
B 港内側
θ 起立傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外洋側と港内側とを仕切る防波堤本体の外洋側の前面開口に面して海水取り込み室が形成され、この海水取り込み室に、上部を港内側に傾斜させた起伏ゲート状浮体が設けられ、この起伏ゲート状浮体よりも後方の海水取り込み室と港内側とは海水導入通路で連通されているとともに、前記防波堤本体の前面開口は、起伏ゲート状浮体の起立傾斜角度にほぼ沿った前傾斜面に形成されていることを特徴とする海水交換型防波堤。
【請求項2】
前記海水取り込み室の前面開口を塞ぐバースクリーンが前記前傾斜面に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の海水交換型防波堤。
【請求項3】
前記起伏ゲート状浮体よりも後方の海水取り込み室の側面で、起伏ゲート状浮体の起立上端付近に、海水取り込み室に封じ込められた浮遊ゴミを外洋側に排出するためのゲート付き開口が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の海水交換型防波堤。
【請求項4】
前記防波堤本体は、略矩形ブロック状のケーソンでなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の海水交換型防波堤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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