説明

海水淡水化システム

【課題】逆浸透膜を用いた海水淡水化システムにおいて、海水中の多糖類成分を安定的に除去して、逆浸透膜の性能を維持する。
【解決手段】海水淡水化システム100Aは、逆浸透膜式海水淡水化装置18において逆浸透膜を用いて海水を淡水化する。逆浸透膜式海水淡水化装置18に供給される海水は、多糖類吸着処理装置16(16A,16B)によって、TEPを含む多糖類が吸着除去されている。多糖類吸着処理装置16に吸着された多糖類は、洗浄水供給装置19から供給される洗浄水によって洗浄される。このときの洗浄条件は、多糖類吸着処理装置16による処理前後の海水の多糖類濃度によって決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜を用いて海水から淡水を得る海水淡水化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜によるろ過処理を用いた逆浸透膜処理装置を含んで構成された海水淡水化処理システムが増加する傾向にある。逆浸透膜は、セルロースやポリアミド等の素材で造られている。逆浸透膜処理装置は、海水にその浸透圧の2倍以上の圧力を加えて逆浸透膜を通過させることによって、塩分の透過を抑制して、淡水を得ることができる。逆浸透膜処理装置の透過性能を低下させる現象の1つに、バイオファウリングがある。
【0003】
バイオファウリングとは、海水中に含まれる微生物が生成する細胞外代謝産物によって生じるファウリング(目づまり)である。バイオファウリングの生成には、植物プランクトン由来の生体高分子物質、例えば、有機物のうち特に粘着性を持つTEP(Transparent Exopolymer Particles)が大きく寄与していることが知られている(例えば、後記非特許文献1参照)。TEPは、多糖類の1つである。
【0004】
また、特許文献1には、海水淡水化システムにおいて、前処理装置の逆洗浄ラインに濁度計を備え、濁度に応じて洗浄水の供給量を調整する淡水化装置(本願の「海水淡水化システム」に対応)及び前処理装置の洗浄方法が記載されている。特許文献2には、淡水化装置の濁質分を除去する前処理装置において、逆洗ライン(洗浄水系統)に加熱部を配置して、前処理装置の洗浄効率を向上させる技術が記載されている。特許文献3には、逆浸透膜による水処理方法において、逆浸透膜の交換寿命を延ばすため、活性炭を用いて有機物を吸着する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−014902号公報
【特許文献2】特開2011−031121号公報
【特許文献3】特開2010−234353号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】竹内、「RO海水淡水化の前処理とファウリング」、日本海水学会誌、2009年、第63巻、pp.367−371
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
海水淡水化システムの効率的な運転のためには、バイオファウリング対策が必須である。海水淡水化システムの逆浸透膜処理装置のバイオファウリング対策として、例えば、限外ろ過膜{UF(Ultrafiltration)膜}を用いた前処理工程によって逆浸透膜の前段側でTEPを低減させて、逆浸透膜の性能低下を防止する方法が知られている。しかしながら、UF膜を用いた前処理工程によっても、多糖類、特にTEPは完全に除去することができず、従って逆浸透膜の性能低下を防止できないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、前記した従来技術の課題を解決し、逆浸透膜処理装置の前段側で多糖類を安定的に除去することによって、バイオファウリングによる逆浸透膜の性能低下を防止して、逆浸透膜の交換寿命を延ばし、システム全体としての運転コスト低減できる海水淡水化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明に係わる海水淡水化システムは、逆浸透膜を用いた海水淡水化システムであって、取水された海水を前処理する前処理装置と、前処理装置により処理された第1の処理水に含まれる多糖類成分を多糖類吸着材を用いて吸着除去する多糖類吸着処理装置と、多糖類吸着処理装置によって多糖類成分が除去された第2の処理水を、逆浸透透膜を用いて淡水化する逆浸透膜処理と、を備え、更に、前処理装置からの第1の処理水中の第1の多糖類濃度、及び多糖類吸着処理装置によって多糖類成分が除去された後の第2の処理水の第2の多糖類濃度を計測する多糖類濃度計測手段と、多糖類濃度計測手段によって測定された第1及び第2の多糖類濃度に基づいて、多糖類吸着材の洗浄条件を決定する洗浄条件決定手段と、洗浄条件決定手段によって決定された洗浄条件に基づいて、多糖類吸着材を洗浄する洗浄手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、多糖類吸着処理装置による多糖類除去処理前後の第1の処理水の第1の多糖類濃度及び第2の処理水の第2の多糖類濃度に基づいて多糖類吸着材に対する洗浄条件を決定するので、多糖類吸着処理装置の多糖類吸着性能の経時変化に応じて、適切な洗浄条件で洗浄を行うことができる。また、多糖類吸着処理装置を適切な洗浄条件で洗浄を行うことにより、多糖類吸着処理装置の多糖類吸着性能を維持することができるので、逆浸透膜の透過性能の低下を防止することができる。
【0011】
また、多糖類吸着処理装置は、1つの逆浸透膜処理装置に対して複数備えられ、1つの多糖類吸着処理装置が洗浄手段によって洗浄されている間は、少なくとも他の1つの多糖類吸着処理装置によって多糖類成分の吸着除去を行い、逆浸透膜処理装置に対して第2の処理水の供給を継続可能とする構成であることが好ましい。
更に、洗浄条件決定手段は、洗浄条件として、多糖類吸着材を洗浄する洗浄水の流速、洗浄水の温度、及び洗浄時間のうちの少なくとも1つを決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、逆浸透膜処理装置の前段側で多糖類を安定的に除去することによって、バイオファウリングによる逆浸透膜の性能低下を防止して、逆浸透膜の交換寿命を延ばし、システム全体としての運転コスト低減できる海水淡水化システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施の形態に係わる海水淡水化システム100Aの概要構成図である。
【図2】吸着処理装置16における処理水量と処理後の第2の処理水中のTEP濃度との関係を示すグラフである。
【図3】実験結果の洗浄パターンとサイクル末のTEP濃度比C/Cの変化を示すグラフである。
【図4】多糖類吸着処理装置16による吸着処理前後の有機物の濃度変化を物質別に示すグラフである。
【図5】第1の実施の形態の変形例に係わる海水淡水化システム100Bの概要構成図である。
【図6】第2の実施の形態に係わる海水淡水化システム600の概要構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照して、本発明に係わる海水淡水化システムの実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
《第1の実施の形態》
(海水淡水化システム100Aの全体概要)
図1は、第1の実施の形態に係わる海水淡水化システム100Aの概要構成図である。
海水淡水化システム100Aは、取水ポンプP1、取水槽12、ろ過ポンプP2、前処理装置14、多糖類吸着処理装置16(図1では16A,16Bで表示)、砂ろ過装置30(図1では30A,30Bで表示)、処理水槽15、供給ポンプP3、高圧ポンプP4、逆浸透膜式海水淡水化装置18、水質分析装置(多糖類濃度計測手段)17、洗浄条件演算装置(洗浄条件決定手段)171A、洗浄水供給装置19、洗浄水加温装置190A、切換制御装置31、切換弁VA〜VA,VB〜VB、その他に洗浄水供給配管191A,191B,192A,192B、サンプリング配管122,160A,160B,162A,162B等を含んで構成されている。
水質分析装置17と切換制御装置31との間、切換制御装置31と洗浄条件演算装置171Aとの間、水質分析装置17と洗浄条件演算装置171Aとの間、洗浄条件演算装置171Aと洗浄水供給装置19との間、洗浄条件演算装置171Aと洗浄水加温装置190Aとの間、切換制御装置31と洗浄水加温装置190Aとの間はそれぞれ通信回線で接続されている。
【0016】
取水槽12は、取水ポンプP1によって海から取水された海水SWを一時貯水する。前処理装置14は、砂ろ過処理相当のろ過装置であって、例えば、1μm〜100μmの大きさの夾雑物及び濁質分を海水から除去するろ過装置である。前処理装置14には、例えば、MF(Microfiltration)膜を用いる。取水槽12から前処理装置14へは、ろ過ポンプP2によって海水が供給され、ろ過ポンプP2の吐出圧力によって強制的にMF膜でろ過される。前処理装置14のMF膜は、例えば、適宜逆洗されるが、ここでは本発明の特徴的部分ではないので逆洗のための配管等は図1中省略し、その説明も省略する。
【0017】
ここで、海水淡水化システム100Aは、前処理装置14において処理された海水(第1の処理水)を逆浸透膜式海水淡水化装置(逆浸透膜処理装置)18へ供給する前に、多糖類吸着処理装置16で処理して、その処理された海水(第2の処理水)を逆浸透膜式海水淡水化装置18へ供給するために多糖類吸着処理装置16とその後段に配された砂ろ過装置30の組を複数(図1に示した本実施の形態では2組)備える。
多糖類吸着処理装置16は、例えば、ステンレス鋼製の上部が蓋で密閉された容器で構成され、その内部は、第1の処理水が流入する空間である下部プレナム16a、図示しない吸着材支持格子材で支えられて、その上に積層された鉱物性の多糖類吸着材16bとして用いられる、例えば、天然ゼオライトの粒子層、その上の処理水が収水される空間である上部プレナム16cから構成されている。
吸着材支持格子は、多糖類吸着処理装置16が落下しないような多糖類吸着処理装置16の粒子よりも目の細かい、例えば、ステンレス鋼製の網又はセラミック製の多孔板等で構成されている。
【0018】
砂ろ過装置30は、多糖類吸着処理装置16から流れ出る多糖類吸着材16bを除去するためのものであり、例えば、ステンレス鋼製の上部が蓋で密閉された容器で構成され、その内部は、多糖類吸着処理装置16で処理されて排出される第2の処理水が流入する空間である上部プレナム30a、図示しないろ過材支持格子材で支えられて、その上に積層された砂ろ過材30b、その下の処理水が収水される空間である下部プレナム30cから構成されている。
【0019】
前処理装置14の出口と多糖類吸着処理装置16Aの下部プレナム16aとを接続する配管には分岐部よりも後流側(多糖類吸着処理装置16A側)に切換弁VAが設けられ、前記配管の分岐部で分岐し多糖類吸着処理装置16Bの下部プレナム16aとを接続する配管には切換弁VBが設けられている。
また、多糖類吸着処理装置16Aの上部プレナム16cと砂ろ過装置30Aの上部プレナム30aとを接続する配管には切換弁VAが設けられ、多糖類吸着処理装置16Bの上部プレナム16cと砂ろ過装置30Bの上部プレナム30aとを接続する配管には切換弁VBが設けられている。
砂ろ過装置30Aの下部プレナム30cから第2の処理水を排出する配管と、砂ろ過装置30Bの下部プレナム30cから第2の処理水を排出する配管と、は合流して処理水槽15の入口部に接続する。そして、砂ろ過装置30A,30Bそれぞれの第2の処理水を排出する配管には、切換弁VA,切換弁VBが介設されている。
【0020】
切換弁VAの上流側の配管には分岐点が設けられて排水管が接続され、切換弁VAを介して海へ洗浄排水26を排出可能に構成されている。同様に切換弁VBの上流側の配管には分岐点が設けられて排水管が接続され、切換弁VBを介して海へ洗浄排水26を排出可能に構成されている。
また、切換弁VAの上流側の配管には分岐点が設けられて排水管が接続され、切換弁VAを介して海へ洗浄排水27を排出可能に構成されている。同様に切換弁VBの上流側の配管には分岐点が設けられて排水管が接続され、切換弁VBを介して海へ洗浄排水27を排出可能に構成されている。
なお、供給ポンプP3へは、処理水槽15の出口部から処理水槽15に一時貯留されている第2の処理水が供給される。
【0021】
切換弁VA〜VA,VB〜VBは、基本的に全閉、全開の状態のいずれかの状態で用いられるオンオフ弁であり、前記した切換制御装置31によって開閉制御される、例えば、電磁弁、電動弁又は空気圧弁等である。
【0022】
(多糖類吸着処理装置16)
次に、図1を参照しながら多糖類吸着処理装置16の構成、特に、多糖類吸着材16bについてより詳細に説明する。
本実施の形態においては、海水中に含まれる有機物の内の多糖類の成分(多糖類成分)の中でも、特にTEP(Transparent Exopolymer Particles)の除去に着目する。TEPは、その分子量に対応する分子サイズがおよそ0.1μm〜5μmの透明粒子状有機物である。多糖類成分には、この他に、その分子量に対応する分子サイズがより小さい約0.1μm程度の低分子多糖等が含まれている。従って、多糖類吸着材16bは、数ナノメートルから数百ナノメートルの広範囲の幅の吸着用細孔を有していることが有効である。
本実施の形態の多糖類吸着処理装置16において用いられる多糖類吸着材16bとしては、前記したように例えば、天然ゼオライトを使用する。
【0023】
多糖類吸着処理装置16は、下部プレナム16aから流入した第1の処理水中の前処理装置14で除去しきれなかった成分(多糖類成分)を、多糖類吸着材16bの層を昇流させて吸着によって除去した後、処理された第2の処理水として上部プレナム16cに収水し、砂ろ過装置30の上部プレナム30aに送水する。多糖類吸着処理装置16において除去したい成分の大きさは、例えば、1μm以下程度であり、多糖類吸着材16bとして用いられる天然ゼオライトは、特に、海水中に溶解している糖成分、具体的には、多糖類の一種である透明細胞外粒子(TEP)等を吸着することに有効である。
本実施の形態で用いた天然ゼオライトはSiO 70%、Al 12%、Fe 1.5%、CaO 3%等の組成比からなり、モルデナイト系結晶構造を有する。その粒径は10〜20mmである。
【0024】
前処理装置14で処理された第1の処理水中には、まだ海水中の多糖類成分が多く含まれている。多糖類吸着材16bによる多糖類吸着量には限界があり、第1の処理水をろ過ポンプP2からの吐出圧の前処理装置14通過後の残圧で多糖類吸着処理装置16に通過させても連続運転によって多糖類飽和吸着量に近づくにつれて吸着性能が低下する。多糖類飽和吸着量まで吸着させた後では、吸着性能を回復することは容易ではなく、吸着時間(運転時間)、及び多糖類吸着材16bの再生(洗浄)時間を含む洗浄条件の最適な条件を設定することが重要である。
そこで、海水淡水化システム100Aは、多糖類吸着材16bへの多糖類吸着量を示す多糖類吸着材16b通過前の第1の処理水の多糖類濃度(第1の多糖類濃度)と、多糖類吸着材16b通過後の第2の処理水の多糖類濃度(第2の多糖類濃度)に基づいて、適切な洗浄条件を設定することによって、多糖類吸着処理装置16において多糖類を効率的に除去する。
【0025】
また、海水淡水化システム100Aは、多糖類吸着処理装置16と砂ろ過装置30と直列に接続した組を複数組(本実施の形態では2つ)備え、それぞれの組の多糖類吸着処理装置16と砂ろ過装置30との組を切り換えて用いることにより、海水淡水化処理を停止させることなく、特定の運転していない多糖類吸着処理装置16と砂ろ過装置30の組の洗浄を行うことができる。
以下、多糖類吸着処理装置16A及び砂ろ過装置30Aを用いた経路を系統A、多糖類吸着処理装置16B及び砂ろ過装置30Bを用いた経路を系統Bという。
【0026】
(砂ろ過装置30)
多糖類吸着処理装置16に含まれる多糖類吸着材16bは、第1の処理水の流れによって鉱物結合力が低下して、極めて微細な粒子として糖分やTEP成分を含みながら第2の処理水の流れに同伴する場合がある。砂ろ過装置30(図1では30A,30Bと表示)は、前記のような多糖類吸着処理装置16から流れ出る多糖類吸着材16bの影響が、逆浸透膜式海水淡水化装置18に及ばないように設置されている。
【0027】
(切換制御装置31)
次に、切換制御装置31の機能について説明する。切換制御装置31は、図示しない制御部を有しており、水質分析装置17、洗浄条件演算装置171A、洗浄水加温装置190Aと通信可能に接続している。そして、予め設定された時間、例えば、12時間にわたって前処理装置14から供給される第1の処理水を一方の系統の多糖類吸着処理装置16、砂ろ過装置30で処理した後、その系統の洗浄を行い、その間他方の系統の多糖類吸着処理装置16、砂ろ過装置30で第1の処理水を処理するように切換弁VA〜VA,VB〜VBの開閉切換を行う。
切換制御装置31の制御部は、切換弁VA〜VA,VB〜VBの開閉状態信号を取得している。また、切換制御装置31の制御部は、切換弁VA〜VA,VB〜VBの開閉制御を行って、系統A及び系統Bに対する前処理装置14からの第1の処理水の供給切り換えを行う。また、切換制御装置31は、A系統とB系統の2系統のうちの現在多糖類吸着処理を行っている多糖類吸着処理装置16、砂ろ過装置30の系統を切換弁VA〜VA,VB〜VBの開閉状態から判定して、水質分析装置17におけるサンプル水を取得するサンプリング配管160A/160Bの切換、サンプリング配管162A/162Bの切換を水質分析装置17にさせる。このために切換制御装置31の制御装置は、水質分析装置17に切換信号を送信する。
【0028】
更に、切換制御装置31の制御部は、洗浄水供給装置19及び洗浄水加温装置190Aにおける洗浄水供給配管191A/191Bの切り換え、192A/192Bの切り換え(洗浄水の供給先の多糖類吸着処理装置16A/16B、砂ろ過装置30A/30Bの切り換え)を行う。このために切換制御装置31の制御装置は、洗浄条件演算装置171Aから洗浄開始、洗浄終了の指令信号を受けて洗浄水加温装置190Aに切換信号を送信する。
【0029】
例えば、切換制御装置31は、切換弁VA〜VA,VB〜VBの開閉制御によって、系統A及び系統Bに対する海水淡水化処理用水の供給切り換えを行う。このとき、切換制御装置31は、系統Aにおいて海水淡水化処理を行う場合は、切換弁VA〜VAを開放するとともに切換弁VB,VA,VAを閉じる。系統Bにおいて海水淡水化処理を行う場合は、切換弁VB〜VB3を開放するとともに、切換弁VA,VB,VBを閉じる。
【0030】
また、切換制御装置31は、多糖類吸着処理装置16A及び砂ろ過装置30Aの洗浄を行う場合、切換弁VA〜VAを閉じるとともに、切換弁VA,VAを開放する。これにより、洗浄水供給配管191Aを通じて洗浄水が多糖類吸着処理装置16Aに、洗浄水供給配管192Aを通じて洗浄水が砂ろ過装置30Aにそれぞれ供給されて洗浄を行うとともに、洗浄後の洗浄排水26,27が排出される。多糖類吸着処理装置16B及び砂ろ過装置30Bの洗浄を行う場合、切換弁VB〜VBを閉じるとともに、切換弁VB,VBを開放する。これにより、洗浄水供給配管191Bを通じて洗浄水が多糖類吸着処理装置16Bに、洗浄水供給配管192Bを通じて洗浄水が砂ろ過装置30Bに、それぞれ供給されて洗浄を行うとともに、洗浄後の洗浄排水26,27が排出される。
【0031】
(水質分析装置17)
次に水分析装置の機能について説明する。水質分析装置17は、第1及び第2の処理水中の多糖類濃度及びTEP濃度を分析する。そのため、制御部と、サンプリング水をサンプリング配管122,160A,160B,162A,162Bから抽出するための、例えば、前記制御部により動作制御される図示しない多糖類濃度分析装置、TEP濃度分析装置、複数の三方弁を含んで構成されている。
より詳細には、水質分析装置17は、前処理装置14で処理された第1の処理水の一部を、水質分析用サンプル水122a(図1では( )内に表示)として、切換弁VA,VBよりも上流側の配管から分岐させたサンプリング配管122を介して水質分析装置17の制御部に動作制御される図示しない三方弁を経由して取得する。
【0032】
同様に水質分析装置17は、多糖類吸着処理装置16A,16Bで処理された第2の処理水の一部を、水質分析用サンプル水162Aa,162Ba(図1では( )内に表示)として、切換弁VA,VBよりも下流側の配管から分岐させたサンプリング配管162A,162Bを介して水質分析装置17の制御部に動作制御される図示しない三方弁を経由して取得する。
また、水質分析装置17は、砂ろ過装置30A,30Bで処理された第2の処理水の一部を、水質分析用サンプル水160Aa,160Ba(図1では( )内に表示)として、切換弁VA,VBよりも上流側の配管から分岐させたサンプリング配管160A,160Bを介して水質分析装置17の制御部に動作制御される図示しない三方弁を経由して取得する。
【0033】
そして、水質分析装置17は、所定頻度で、例えば、1時間に1回の頻度で水質分析用サンプル水122aと、系統A及び系統Bの内の運転中の系統の水質分析用サンプル水160Aa,162Aa(又は160Ba,162Ba)を前記した三方弁を経由して収集し、これらに含まれる多糖類濃度及びTEP濃度を分析する。
【0034】
なお、図1では、水質分析装置17内からのサンプリング配管122、160A,160B,162A,162Bの出口側の配管が省略してあるがそれらは、海に放出するようにしても良い。また、サンプリング配管122,160A,160B,162A,162Bの出口配管は、サンプリング配管として分岐された配管のすぐ下流側に戻されるようにしても良い。
【0035】
いずれにしても、サンプリング配管122,160A,160B,162A,162Bは、通常、系統A,Bのうち洗浄のために停止されている系統の第2の処理水の一部抽出に関係するもの以外は常時通水状態にしてある。そして、水質分析装置17内において、予め設定された所定のプログラム制御によって、例えば、三方弁(図示せず)を介して所定の時間頻度で、ほぼ同時に(厳密に同時である必要は無く、所定量のサンプル水を後記する2つの分析するため各サンプリング配管122,160(サンプリング配管160A,160Bのうちの第1の処理水を処理している系統側),162(サンプリング配管162A,162Bのうちの第1の処理水を処理している系統側)から取得するのに要する時間をずらして)サンプル容器に取得する。前記したサンプリング配管160A/160Bそれぞれのいずれの三方弁をサンプル水取得のために動作させるか、前記したサンプリング配管162A/162Bそれぞれのいずれの三方弁をサンプル水取得のために動作させるか、つまりA系とB系のうちどちらの系統が第1の処理水を処理しているかの判定は、切換制御装置31から水質分析装置17に送信される切換信号に基づいてなされる。
【0036】
ちなみに、水質分析装置17における分析は、バッチ処理である。水質分析装置17によるサンプル水の多糖類濃度の定量分析は、フェノール硫酸法又は高速液体クロマトグラフィー法で行う。フェノール硫酸法による多糖類濃度の定量分析では、グリコーゲンを標準物質とする。また、水質分析装置17によるTEP濃度の定量分析は、アルシアンブルー染色吸光度測定法で行う。水質分析装置17による分析結果172は、洗浄条件演算装置171Aに出力される。
【0037】
(洗浄条件演算装置171A)
次に、洗浄条件演算装置171Aの機能について説明する。洗浄条件演算装置171Aには、水質分析装置17による分析結果172が所定時間毎に入力され、A,B各系統において多糖類吸着材16bが新しいものと交換されてからの後記するTEP濃度比(多糖類濃度比)C/Cの値の履歴データと、洗浄に用いられた後記する洗浄パターンの履歴を記録する機能を有している。
また、洗浄条件演算装置171Aは、多糖類吸着処理装置16及び砂ろ過装置30に対する予め複数の洗浄パターンの洗浄条件が予め登録できるようになっている。
【0038】
そして、洗浄条件演算装置171Aは、切換制御装置31からその系統の洗浄指令を受信した場合、切り換わり直前のTEP濃度比C/Cに基づいて、予め登録された複数の洗浄パターンから適切な洗浄パターンを選択して、洗浄水供給装置19と洗浄水加温装置190Aに洗浄信号170Aを出力する。洗浄条件とは、例えば、多糖類吸着処理装置16の多糖類吸着材16b及び砂ろ過装置30の砂ろ過材に対して洗浄に必要な所要の流速から算出される洗浄水の単位時間当たりの流量、洗浄時間、洗浄水の温度等のパラメータを組み合わせたものである。洗浄条件演算装置171Aには、これらの洗浄条件のパラメータを適宜変更して組み合わせた洗浄パターンを複数予め登録してあり、その中の一つを選択し、選択された洗浄パターンに対応する洗浄信号170Aを洗浄水供給装置19及び洗浄水加温装置190Aに送信する。
【0039】
詳細は後記するが、洗浄条件演算装置171Aには、洗浄力の大きさによって順位付けされた複数の洗浄パターンが前記したように登録されており、洗浄力が小さい洗浄パターンから順に選択するように設定されている。洗浄条件演算装置171Aは、切換制御装置31からの洗浄指令信号を受信した場合に、洗浄対象の多糖類吸着処理装置16による第1の処理水の処理前後における最新のTEP濃度比C/Cが、予め設定されている閾値以下、例えば、0.2以下のときは、前回と同じ洗浄パターンを選択する。そして、洗浄条件演算装置171Aは、洗浄対象の多糖類吸着処理装置16による第1の処理水の処理前後における最新のTEP濃度比C/Cが予め設定されている閾値を超えているときは、前回の洗浄パターンより洗浄力が大きい洗浄パターンを選択する。洗浄力が大きい洗浄パターンの洗浄条件とは、例えば、洗浄水の単位時間当たりの流量がより多いもの、洗浄時間がより長いもの、洗浄水温度がより高いもの、等である。
【0040】
(洗浄水供給装置19)
次に洗浄水供給装置19の機能について説明する。洗浄水供給装置19は、洗浄条件演算装置171Aからの洗浄信号170Aに基づいて、洗浄水を洗浄信号170Aによって設定された洗浄条件のうちの洗浄水の単位時間当たりの流量、洗浄時間で洗浄水加温装置190Aに供給する。そのため、洗浄水供給装置19は図示省略してあるが、制御部と処理水槽15から取水する配管と、取水した洗浄水を圧送する洗浄水供給ポンプと流量調整弁と、流量センサと、を含んでいる。
洗浄水供給装置19の制御部は、流量センサ検出された流量が洗浄信号170Aの指示する所要の流量となるように洗浄水供給ポンプの回転速度と流量調整弁の開度を制御する。
【0041】
(洗浄水加温装置190A)
次に洗浄水加温装置190Aの機能について説明する。洗浄水加温装置190Aは、図示省略してあるが、制御部と、ヒータ出口水温を検出する温度センサと、洗浄水供給装置19から供給された洗浄水を加熱する、例えば、電気ヒータと、洗浄対象の多糖類吸着処理装置16A及び砂ろ過装置30のA系統と、多糖類吸着処理装置16B及び砂ろ過装置30BのB系統の一方に対して洗浄水供給配管191A又は191Bと洗浄水供給配管192A又は192Bの対応する配管を介して洗浄水を供給する図示しない切換弁と、を含んでいる。
洗浄水加温装置190Aの制御部は、洗浄水の温度が洗浄信号170Aの指示する所要の温度なるようにヒータによる加熱量を制御する。
【0042】
洗浄水供給装置19が、洗浄条件演算装置171Aからの洗浄信号170Aに基づいて、多糖類吸着処理装置16、砂ろ過装置30に対して加温洗浄水を供給するときは、洗浄水加温装置190Aは、洗浄信号170Aによって設定された洗浄条件、例えば、洗浄水の単位時間当たりの流量、洗浄時間、洗浄水温度、に適合するように洗浄水を所要温度に加温して供給する。そして、洗浄水加温装置190Aは、洗浄水供給装置19から供給された洗浄水を加温した上で、多糖類吸着処理装置16及び砂ろ過装置30に供給する。一方、多糖類吸着処理装置16及び砂ろ過装置30に対して加熱していない常温の洗浄水を供給する場合は、洗浄水加温装置190Aでの加熱を行わず、そのまま洗浄水を多糖類吸着処理装置16及び砂ろ過装置30に供給する。
ここで、洗浄水供給装置19、切換制御装置31、洗浄水加温装置190A、洗浄水供給配管191A,191B,192A,192B、切換弁VA〜VA,VB〜VBが特許請求の範囲に記載の「洗浄手段」を構成する。
【0043】
なお、洗浄水供給装置19から供給する洗浄水としては、TEPを含まない流体であれば良く、前記したように例えば、TEPを除去した第2の処理水が一時貯留されている処理水槽15から第2の処理水を用いて行うことができるし、又、逆浸透膜式海水淡水化装置18から排出される濃縮排水24を用いても良い。以下では、処理水として処理水槽15の第2の処理水を用いる場合を例に説明する。
もちろん、逆浸透膜式海水淡水化装置18から得られる淡水20や、別系統の上水道の水を用いても良いが、逆浸透膜式海水淡水化装置18から得られる淡水20を用いることは、海水淡水化システムの100Aの淡水20の生成効率が低下することになる。
【0044】
TEPの天然ゼオライトによる吸着特性は、主に物理吸着であるため、多糖類吸着材16bからTEPを脱着するための洗浄水を特に高温にする必要はないが、多糖類吸着材16bにはTEPとともにTEPよりも分子サイズの小さなそのような低分子多糖類等が吸着されている可能性が高い。このため、TEPの脱着以外にそのような低分子多糖成分の脱着を行う必要があり、そのためにも洗浄水を洗浄水加温装置190Aにより加温することが必要である。低分子多糖類は、高温水で容易に溶解又は粘性が低下して多糖類吸着材16bである天然ゼオライトから脱着できる。
【0045】
また、本実施の形態においては、洗浄水供給装置19、洗浄水加温装置190Aは、洗浄水を供給して多糖類吸着処理装置16の洗浄を行うと同時に、砂ろ過装置30にも洗浄水を供給して砂ろ過装置30の洗浄も行うものとする。
これは、砂ろ過装置30に流れ出た多糖類吸着材16bにもTEPや低分子多糖類等が吸着されているので、これを脱着させるためである。
【0046】
(逆浸透膜式海水淡水化装置18)
逆浸透膜式海水淡水化装置18は、逆浸透膜を用いて海水を淡水化する。逆浸透膜式海水淡水化装置18には、処理水槽15に一時貯留された第2の処理水が供給ポンプP3、高圧ポンプP4を経由して供給される。逆浸透膜式海水淡水化装置18に供給された第2の処理水は、逆浸透膜によってろ過され、濃縮排水24及び淡水20に分離される。淡水20は、図示しない貯水槽等に移され、各種の用途に用いられる。濃縮排水24は海に戻される。
なお、図1には、逆浸透膜式海水淡水化装置18が代表的に1基しか表示されていないが、逆浸透膜式海水淡水化装置18が並行に複数台設置されていても良いし、又、直列的に複数台設置されていても良いし、その両方の組み合わせであっても良い。
【0047】
(多糖類吸着材の洗浄方法)
次に、海水淡水化システム100Aにおける多糖類吸着材の洗浄方法の詳細について図2から図4を参照しながら説明する。前記したように、海水淡水化システム100Aでは、前処理装置14から供給される第1の処理水に対して、切換制御装置31が一方の多糖類吸着処理装置16を所定時間連続して稼働させた後、他方の多糖類吸着処理装置16に第1の処理水の水流を切り換えて、一方の多糖類吸着処理装置16の稼働後の洗浄を行う。このとき、洗浄条件演算装置171Aは、例えば、一方の多糖類吸着処理装置16による第1の処理水の処理前後における水質分析装置17から送信されたTEP濃度に基づくTEP濃度比に基づいて、洗浄が必要か否かの判定と、洗浄が必要と判定された場合には、当該の複数の洗浄パターンの中から今回の洗浄パターンを選択する。
【0048】
ここで、TEP濃度比とは、水質分析装置17において次式(1)によって算出される値であり、多糖類吸着処理装置16によるTEP吸着率の変動の指標である。TEP濃度比を用いてTEP吸着率の評価を行うのは、被処理水である海水中のTEP濃度が時々刻々と変化するためである。
なお、図4に示した本実施の形態のTEP濃度はキサンタンガムを標準物質として定量化したものである。
TEP濃度比C/C=(水質分析用サンプル水162aのTEP濃度計測値)/(水質分析用サンプル水122aのTEP濃度計測値)・・・(1)
ここで、水質分析用サンプル水162aは、図1中の水質分析用サンプル水162Aa,162Baのいずれかを示す。ここで「水質分析用サンプル水122aのTEP濃度計測値」が、特許請求の範囲に記載の「第1の多糖類濃度」に対応し、「水質分析用サンプル水162aのTEP濃度計測値」が、特許請求の範囲に記載の「第2の多糖類濃度」に対応する。
【0049】
なお、多糖類吸着処理装置16によるTEP除去率は次式(2)によって算出することができる。
TEP除去率={(水質分析用サンプル水122aのTEP濃度)−(水質分析用サンプル水162aのTEP濃度)}×100/(水質分析用サンプル水122aのTEP濃度)・・・(2)
【0050】
本実施の形態においては、TEP濃度比C/C=0.2を閾値とした。この閾値は、逆浸透膜式海水淡水化装置18の逆浸透膜の汚染を進行、あるいは逆浸透膜の性能を低下させる程度ではなく、同一系の多糖類吸着処理を継続することが許される範囲であることを意味する。
【0051】
図2は、多糖類吸着処理装置16における処理水量と処理後の第2の処理水中のTEP濃度との関係を示すグラフである。図3は、実験結果の洗浄パターンとサイクル末のTEP濃度比C/Cの変化を示すグラフである。図2において、横軸は多糖類吸着処理装置16における処理水量(L:リットル)を示す。ここで、1つの多糖類吸着処理装置16における新たな多糖類吸着材16bの交換充填後の使用開始から最初の洗浄までの第1の処理水の処理の期間を第1サイクルと称し、その後は、先行する洗浄の完了から次の洗浄までの第1の処理水の処理の期間を第2,3,4・・・,(N−1),N,(N+1)サイクルと称する。図2は、1サイクルあたり12時間にわたり第1の処理水を処理した場合の例である。図2の縦軸は、前記式(1)によって算出された多糖類吸着処理装置16による処理前後、つまり第2の処理水と第1の処理水とにおけるTEP濃度比C/Cである。
【0052】
図2においては、1つの多糖類吸着処理装置16における吸着処理を1サイクルあたり12時間連続した後、洗浄水によって天然ゼオライトを洗浄して再生を行っている。図2は、第1サイクル、第(N−1)サイクル、第Nサイクル、第(N+1)サイクルの結果を抽出して示した。各結果のうち、それぞれのサイクルの開始点の処理水量が0の点における値は、前記式(1)の分子分母をともに前処理装置14からの水質分析用サンプル水122aのTEP濃度とし、多糖類吸着処理装置16による吸着処理が行われていない状態とした。従って、各サイクルの初期における値は1.0である。
【0053】
発明者らの実験結果によると第1サイクル(図2中「◇」記号で示す)から第(N−1)サイクル(図2中「□」記号で示す)までは、20℃の常温水による10分間の洗浄処理(図3の洗浄パターン1とする)を継続して行った。図2に示すように、第1サイクルから第(N−1)サイクルまでは、各サイクル終了時におけるTEP濃度比C/Cは0.2を超えない範囲である。このため、各サイクル終了時の洗浄は、同一条件(洗浄パターン1)を継続して行った。しかし、第Nサイクル(図2中「△」記号で示す)では、サイクルの途中でTEP濃度比C/Cが0.2を超えている。このため、第Nサイクルが終了した後の洗浄では、それまでの洗浄条件(洗浄パターン1)から、より洗浄力の高い洗浄条件を有する洗浄パターン2への切り換えを行った。
【0054】
図2に示す場合には、第Nサイクル後の洗浄では、洗浄パターン2として50℃の加温水による10分間の洗浄処理を行った。その結果、第(N+1)サイクル(図2中「○」記号で示す)終了時のTEP濃度比C/Cは、再び0.2を下回った。図示しないが、第(N+2)サイクルの洗浄では、洗浄パターンを変更することなく、洗浄パターン2での洗浄を継続したが、天然ゼオライトの吸着性能は維持された、つまりC/C<0.2であった。
なお、図2には図示しないが、第(N+1)サイクル終了時の洗浄パターンを洗浄パターン1に戻した場合、第(N+2)サイクル中のTEP濃度比C/Cは0.2を超えることが確かめられた。
【0055】
図3は、実験結果の洗浄パターンとサイクル末のTEP濃度比C/Cの変化を示すグラフである。図3の実験結果は、図2に示した実験とは別の事件結果である。図3において、横軸は多糖類吸着処理装置16の吸着/洗浄処理のサイクル数を示しており、縦軸は各サイクル終了時における第2の処理水のTEP濃度比C/Cである。図3において、吸着処理の開始(第1サイクル)から第N−1サイクルまで(期間1)では、洗浄パターン1(20℃の常温水による10分間の洗浄処理)、第Nサイクルから第(P−1)サイクルまで(期間2)では、洗浄パターン2(50℃の加温水によるによる5分間の洗浄処理)、第Pサイクルから第Q−1サイクルまで(期間3)では、洗浄パターン3(80℃の加温水によるによる5分間の洗浄処理)、第Qサイクルから第R−1サイクルまで(期間4)では、洗浄パターン4(99℃の加温水によるによる5分間の洗浄処理)で洗浄処理を行っている。
なお、洗浄パターン4では99℃の熱水を用いているが、90℃の熱水でもほぼ同程度の洗浄効果が得られた。図2における第1サイクル〜第N−1サイクルは、図3の期間1に対応する。また、図2における第Nサイクル及び第N+1サイクルは、図3の期間2に含まれる。
【0056】
ここで、図3に示した実験結果における洗浄水の流速について説明する。吸着材による吸着操作を示すパラメータ値として、通常、空搭速度(SV:Space Velosity)が用いられている。空搭速度SVは、処理水流速(単位:m/h)を吸着材容積(m)で割った値であり、SVの単位は(h−1)となる。また、空搭速度SVは、処理水線速度(LV:Linear Velocity,単位:m/h)を、吸着層中の処理水の流れ方向の長さ(m)で割った値でもある。
【0057】
通常の水処理システムにおいて、逆浸透膜に対する前処理のSV値は10(h−1)以下、SV=4〜5とすることが多い。本実施の形態においては、多糖類吸着処理装置16における処理水のSV値を10(h−1)とした。また、洗浄処理では、洗浄水の流速が洗浄効果に大きく影響するため、通常、空搭速度SVを大きくして洗浄を実施する。本実施の形態においては、多糖類吸着処理装置16における洗浄水のSV値を300(h−1)とした。洗浄水の流速は、前記した値に限定されるものではないが、洗浄水の流速の違いによって再生サイクル数に多少の長短が発生する。
【0058】
図3に示すように、洗浄パターン1による洗浄を行っている期間1に含まれる第N−1サイクルで、水質分析装置17の分析結果が、C/C>0.2となっている。このため、洗浄条件演算装置171Aは、洗浄パターン1を更に高度化する(洗浄パターン2に切り換える)必要があると判断し、洗浄水供給装置19及び洗浄水加温装置190Aに対して、洗浄パターン2に切り換える洗浄信号170Aを出力する。
【0059】
以降も同様に、洗浄パターン2による洗浄を行っている期間2に含まれる第P−1サイクルで、水質分析装置17の分析結果が、C/C>0.2となっている。このため、洗浄条件演算装置171Aは、洗浄パターン2を更に高度化する(洗浄パターン3に切り換える)必要があると判断し、洗浄水供給装置19及び洗浄水加温装置190Aに対して、洗浄パターン3に切り換える洗浄信号170Aを出力する。また、洗浄パターン3による洗浄を行っている期間3に含まれる第Q−1サイクルで、水質分析装置17の分析結果が、C/C>0.2となっている。このため、洗浄条件演算装置171Aは、洗浄パターン1を更に高度化する(洗浄パターン4に切り換える)必要があると判断し、洗浄水供給装置19及び洗浄水加温装置190Aに対して、洗浄パターン4に切り換える洗浄信号170Aを出力する。
【0060】
なお、期間2及び期間3において、前記第P−1サイクル及び第Q−1サイクル以外にもC/C>0.2となっている箇所(X1〜X5)があるが、この時点で洗浄パターンを切り換えていないのは、同じ洗浄パターンをできる限り継続させることによって、多糖類吸着処理装置16の使用期間を長くするためである。例えば、X1ではC/C>0.2となっているが、次のサイクルではC/C<0.2となっており、洗浄パターン2を継続しても規定範囲内の洗浄を行えることがわかる。
ちなみに、前記したように洗浄条件演算装置171Aは、多糖類吸着処理装置16A,16B、砂ろ過装置30A,30Bに対して、各回の洗浄が予め設定されている洗浄パターンのうちのどの洗浄パターンで行われたかの履歴を記録しておく機能を有している。
従って、水質分析装置17の分析結果がC/C>0.2となったらすぐに洗浄パターンを切り換えるのではなく、洗浄後もC/C>0.2となる状態が所定回数継続したら洗浄パターンを切り換えるようにしても良い。
【0061】
なお、多糖類吸着処理装置16の洗浄条件と、砂ろ過装置30の洗浄条件とは、必ずしも同じである必要はない。その場合は、洗浄水加温装置190A内に、多糖類吸着処理装置16用と砂ろ過装置30用の2つの電気ヒータを備え、また、それぞれの洗浄水の単位時間当たりの流量を個別に設定できるように流量調整弁を備えるか、又はそれぞれの洗浄水を流す時間を制御するように個別の切換弁を備える。そして、洗浄条件演算装置171Aは、多糖類吸着処理装置16の洗浄条件と、砂ろ過装置30の洗浄条件をそれぞれ含んだ洗浄信号170Aを洗浄水供給装置19、洗浄水加温装置190Aに入力する。
【0062】
図4は、多糖類吸着処理装置16による吸着処理前後の有機物の濃度変化を物質別に示すグラフである。図4において、横軸は多糖類吸着処理装置16における処理水量(L:リットル)であり、左端が処理水量0Lを示し、右側に行くほど処理水量が増加する。図4において、縦軸は処理水中の有機物質濃度を示すが、図4のグラフの左縦軸は、TEP濃度を示し、図4のグラフの右縦軸には、全糖濃度を示す。図中「◇」記号を付して示した線は、TEP濃度はキサンタンガムを標準物質に用いて定量化して示したものであり、その単位はmg−Xeq/Lである。ここで、「Xeq」のうち[X]は、キサンタンガムを意味し、「eq」は、相当(equivalent)を意味し、つまり、「Xeq」でキサンタンガム相当示す略号である。
全糖濃度は、ウロン酸濃度(図中「□」記号を付して示した線)及び中性糖濃度(図中「△」記号を付して示した線)を標準物質に用いて定量化して示したものであり、その単位はmg−Geq/Lである。ここで、「Geq」のうち「G」は、はグリコーゲンを意味し、「eq」は、相当(equivalent」)を意味し、つまり、「Geq」でグリコーゲン相当示す略号である。
【0063】
図4に示すようにTEP及び全糖のいずれにも、天然ゼオライトによる吸着効果が認められた。TEP濃度及び全糖濃度の分析結果を数値的に比較、大小の議論をすることはできないが、全糖濃度の低下のほうがTEP濃度変化よりも速度的に大きい、すなわち全糖成分のほうが天然ゼオライトに吸着されやすい傾向にある。
【0064】
TEP及び全糖の低減の状態を詳細に比較すると、以下のように説明付けられる。TEPの成分は、主に酸性ムコ多糖類によって構成され、物質の大きさはおおよそ数ミクロンからサブミクロンの大きさの粒子状物質と考えられている。一方、全糖の成分は、分子サイズで数ミクロンから1kDa(分子量1000)以下のごく小さな単糖分子まで、大きさに関係しない、蛋白やアミノ酸類を含まない海水中有機物全量を意味する。全糖濃度は、フェノール硫酸吸光度法で測定したもので、波長480nm及び490nmの両方の吸光度で測定した。480nmの吸光度値は全糖濃度の中でもウロン酸の濃度を示すと考えられている。また490nmの吸光度値は全糖濃度の中でも中性糖の濃度を示し、分子量の小さな糖分を含む。よって、天然ゼオライトによる吸着では、まず分子量の小さな糖分が吸着されやすく、ついで分子量の大きな粒子状に近いTEPが吸着されると考えられる。
【0065】
なお、本実施の形態では、洗浄パターン4以上の洗浄条の説明を行わなかったが、更に洗浄条件を高度化することも十分に可能である。一例として、例えば、「99℃の熱水による10分間の洗浄処理」、「100℃の蒸気洗浄」としても良い。
【0066】
(効果)
本実施の形態によれば、水質分析装置17で多糖類吸着処理装置16の処理前後のTEP濃度比C/Cを算出することにより、多糖類吸着処理装置16の多糖類吸着材16bの吸着濃度が低下している度合いが容易に判定できる。また、洗浄条件演算装置171Aにおいて多糖類吸着処理装置16A,16B、砂ろ過装置30A,30Bに対して前回の洗浄が予め設定されている洗浄パターンどの洗浄パターンで行われたか履歴が記録されており、所定の時間の第1の処理水の処理を終えた時点の最寄りのTEP濃度比C/Cの結果に応じて、前回と同じ洗浄パターンを用いるか、更に、洗浄力が高い洗浄パターンを用いるのかを自動的に決定する。その結果、運転員に負担をかけず、又、洗浄水をより高温水にする必要がないのに、より高温水の洗浄パターンを選択して海水淡水化システム100Aの運転コストを増大させることを抑制できる。
また、多糖類吸着処理装置16の多糖類吸着材16bの吸着能力をより長期間にわたって再生維持できるので、鉱物性の多糖類吸着材16bである天然ゼオライトの交換頻度を低減でき、その意味からも海水淡水化システム100Aの運転コストを低減させることができる。
【0067】
従来技術の特許文献1,2では、前処理装置に限外ろ過膜(UF膜)を用いる例が記載されており、濁質分とともに分子量の大きい多糖類や有機物をろ過することができる。しかし、それらによるUF膜の目詰まりを逆洗で除去する場合に、逆浸透膜式海水淡水化装置から排出される塩分濃度の高い濃縮水を用いると、スケール成分が存在し、ジ亜鉛素ナトリウムやアルカリ等の薬品を用いた洗浄において、有機物を除去することができるものの、その副次作用として、炭酸カルシウムや次亜塩素酸カルシウムのスケール成分がUF膜に付着する。その解決策として発生したスケール成を除去するために酸性水を加えている。つまり、特許文献1,2に記載の技術では、洗浄水にアルカリ剤と酸の2種類の薬剤を併用することになり、その廃液を直接海に排水することはできず、排水前に更に浄化処理を必要とし、海水淡水化システムの運転コストが増大する。
【0068】
また、特許文献2に記載の技術では、UF膜の洗浄サイクルの期間を延ばす対策として洗浄水を加熱して、洗浄効果を挙げることが記載されている。
しかし、本実施形態では、前処理装置14において濁質分を主にろ過し、多糖類吸着処理装置16では、有機物や分子量の大きい多糖類を吸着する。そして、多糖類吸着処理装置16の洗浄も第2の処理水又は逆浸透膜式海水淡水化装置18から排出される濃縮排水24を用いる。従って多糖類は含まれておらず、容易に多糖類吸着材16bから多糖類を脱着できる。脱着された多糖類を含む洗浄排水26,27は、そのまま海に排出しても、多糖類吸着材16bから脱着された多糖類は元々海水中に含まれていたものであり、そのまま海に排水することに問題はない。
【0069】
なお、本実施の形態では、多糖類吸着処理装置16を通過前後の処理水の全糖類濃度比としてTEP濃度比C/Cを前記した(1)式で定義したが、これに限定されるものではなく、水質分析装置17において取得されたフェノール硫酸法による多糖類濃度の定量分析結果を用いても良い。
また、多糖類吸着処理装置16を通過後の第2の処理水のサンプリング水として、サンプリング配管160A/160Bのものを用いる代わりにサンプリング配管162A/162Bのものを用いるようにしても良い。
【0070】
更に、本実施の形態においては、多糖類吸着処理装置16に鉱物性の多糖類吸着材16bとして、天然ゼオライトを用いた実験結果を用いて説明したが、鉱物性の多糖類吸着材16bは、天然ゼオライトに限定されるものではなく、合成ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、多孔質粘土鉱物、粘土層間化合物等を使用することができる。多糖類吸着材は、数ナノメートルから数百ナノメートルの広範囲の幅の吸着用細孔を有しているので、多糖類の吸着に有効である。
【0071】
例えば、前記した粘土層間化合物は、土壌中に多く含まれる物質であり、最も多く存在するのはアルミノケイ酸塩鉱物である。粘土層間化合物は、微細構造として層状の格子構造を示す。格子を構成する元素は、O,H,Si,Al,Fe.Mg,Liに限られる。これらのうち、Al,Fe.Mg,Liは相互に結晶形態を変えることなく置換し合う。
【0072】
層状格子は2種類の層で構成されている。1つがSi2+イオンがOで取り囲まれたケイ酸四面体層であり、もう1つがAl3+イオンが6つのOH又はO2−で取り囲まれた八面体層である。この2種類の層が層状格子型粘土鉱物(粘土層間化合物)の基本をなす。層状格子を構成する陽イオンのうち、Al3+やFe3+のような3価の陽イオンを含む場合と、MgやFe2+のような2価の陽イオンを含む場合とでは、層間距離が異なるため、特性に変化が現れる。また、四面体層と八面体層の積層状態の組み合わせの違いでも異なる型となり、1:1型鉱物、2:1型鉱物、2:2型鉱物等の呼称で分類されるとともに、イオン吸着性能、陽イオン交換容量等の特性に差が生じる。
【0073】
なお、本実施の形態では、洗浄水供給配管191A,191Bは、多糖類吸着処理装置16A,16Bの下部プレナム16aに接続され、切換弁VA,VBを含む排水管は、上部プレナム16c側に接続されているが、それに限定されるものではない。洗浄水供給配管191A,191Bは、多糖類吸着処理装置16A,16Bの上部プレナム16cに接続され、切換弁VA,VBを含む排水管は、下部プレナム16a側に接続されている構成としても良い。
同様に、本実施の形態では、洗浄水供給配管192A,192Bは、砂ろ過装置30A,30Bの上部プレナム30aに接続され、切換弁VA,VBを含む排水管は、下部プレナム30c側に接続されているが、それに限定されるものではない。洗浄水供給配管192A,192Bは、砂ろ過装置30A,30Bの下部プレナム30cに接続され、切換弁VA,VBを含む排水管は、上部プレナム30a側に接続されている構成としても良い。
【0074】
このように、洗浄水供給配管191A,191B、192A,192B、及び前記した排水管の接続を変えることにより、多糖類吸着処理装置16A,16B及び砂ろ過装置30A,30Bが洗浄水により逆洗されることになり、前記した実施の形態の第1の処理水を処理するときに流れる方向である順流による洗浄よりも洗浄効率が高まる可能性がある。
例えば、天然ゼオライトの多糖類吸着材16bの層は、第1の処理水を下部プレナム16aから昇流させる過程で多糖類成分を吸着するので、下層の天然ゼオライトの方がより多量の多糖類成分を吸着しており、洗浄水を順流で流すよりも逆流にした方が脱着した多糖類成分が短い距離で下部プレナムに至り、洗浄効率が高まる可能性が高い。砂ろ過装置30A,30Bについても同様のことが言える。
【0075】
また、本実施の形態では、A,B系統の2系統ある多糖類吸着処理装置16A,砂ろ過装置30Aと、多糖類吸着処理装置16B,砂ろ過装置30Bのうち、例えば、A系統を12時間運転して第1の処理水を処理した後、その系統の洗浄を行うときは、B系統に切り換えてB系統を12時間運転するものとしたがそれに限定するものではない。
切換弁VA,VBは、オン・オフ弁ではなく開度調整により流量調整が可能な弁とし、例えば、前記した例において洗浄が終了した系統Aに対し切換制御装置31は、洗浄終了後は、切換弁VAを所定の最小流量を流す開度に調整するとともに、切換弁VA,VAは全開状態とし、A系統にも第1の処理水を流すようにしても良い。このように洗浄が終了した系統に対して第1の処理水を所定の流量を通すことにより、その系統の多糖類吸着処理装置16、砂ろ過装置30の中で細菌が増殖することを抑制できる。
【0076】
《第1の実施の形態の変形例》
次に、図5を参照しながら第1の実施の形態の変形例に係わる海水淡水化システム100Bについて説明する。図5は、第1の実施の形態の変形例に係わる海水淡水化システム100Bの概要構成図である。
本変形例の海水淡水化システム100Bが第1の実施の形態の海水淡水化システム100Aと異なる点は、主に次の5点であり、(1)洗浄水供給装置19が削除され、(2)洗浄条件演算装置171Aが洗浄条件演算装置(洗浄条件決定手段)171Bに代わり、(3)洗浄水加温装置190Aが熱風制御装置190Bに代わり、(4)洗浄水供給配管191A,191B,192A,192Bが削除され、(5)多糖類吸着処理装置16A,16B及び砂ろ過装置30A,30Bが炉のような構成で内部に熱風又は加熱蒸気を吹き込む装置(洗浄用加熱大気供給ユニット41A,41B,44A,44B)を備えている点である。
【0077】
本変形例における洗浄条件演算装置171Bは、基本的に洗浄条件演算装置171Aと同じ機能であるが、予め登録されている洗浄条件の洗浄パターンは、空気又は加熱蒸気の吹き込み量(風速)、空気又は加熱蒸気の温度、加熱空気又は加熱蒸気の吹き込み時間等のパラメータの組み合わせである。洗浄力を高めるには、主に、空気の又は加熱蒸気の温度を高める、加熱空気又は加熱蒸気の吹き込み時間を長くするようにする。
洗浄条件演算装置171Bは、前記した洗浄パターンを示す洗浄信号170Bを熱風制御装置190Bに送信する。熱風制御装置190Bは、図5において制御信号線が省略されているが後記する洗浄用加熱大気供給ユニット41A,41B,44A,44Bを制御する。
【0078】
多糖類吸着処理装置16(図5では16A,16Bと表示)、砂ろ過装置30(図5では30A,30Bと表示)を加熱空気又は加熱蒸気により洗浄を行う場合、例えば、ステンレス鋼製の容器を耐火煉瓦等で熱絶縁するように全周を囲って炉の形態とする。そして、加熱空気又は加熱蒸気を鉱物性の多糖類吸着材16bや砂ろ過材30bに供給することによって、鉱物性の多糖類吸着材16bや砂ろ過材30bに吸着した多糖類成分を蒸発させたり熱分解させたりする等して除去する。
図5において、多糖類吸着処理装置16(図5では16A,16Bと表示)には、洗浄用加熱大気供給ユニット41(図5では41A,41Bと表示)が下部プレナム16aに加熱空気又は加熱蒸気を供給するように設置されている。
【0079】
洗浄用加熱大気供給ユニット41は、例えば、電気又は石油やガスの燃焼ガスで加熱するヒータ及びブロアを備え、供給口42(図5では42A,42Bと表示)から多糖類吸着処理装置16に対して、ヒータによって加熱した空気又は加熱蒸気をブロアによって吹き込む。これにより、多糖類吸着処理装置16内の天然ゼオライトが加熱され、吸着物質(多糖類成分)が蒸発したり熱分解されたりする等して脱着される。洗浄用加熱大気供給ユニット41から供給された加熱空気又は加熱蒸気は、多糖類吸着処理装置16の上部プレナム16c側に設けられている排気口43(図5では43A,43Bと表示)から排気される。ちなみに、洗浄用加熱大気供給ユニット41には、例えば、蒸気を生成するための上水を供給する配管及びその流量を調整する流量調整弁が設けられ、その流量調整弁は熱風制御装置190Bにより制御されるが、図5では省略してある。
【0080】
また、図5では、砂ろ過装置30(図5では30A,30Bと表示)についても同様に、洗浄用加熱大気供給ユニット44(図5では44A,44Bと表示)、供給口(図5で45A,45Bと表示)が上部プレナム30a側に加熱空気又は加熱蒸気を供給するように設けられ、排気口46(図5では46A,46Bと表示)が下部プレナム30c側に設置されている。排気口46には、水密の締切弁47(図5では47A,47Bと表示)が設けられている
多糖類吸着処理装置16Aの下部プレナム16a側には切換弁VAを含む排水管が接続され、多糖類吸着処理装置16Bの下部プレナム16a側には切換弁VBを含む排水管が接続され、第1の実施の形態と同様に切換制御装置31により開閉が制御される。
ちなみに、締切弁47も本変形例では、切換制御装置31により開閉が制御される。
【0081】
切換制御装置31により、例えば、A系統が洗浄の動作になると、切換制御装置31は、先ず、B系統の切換弁VB〜VBを開制御し、A系統の切換弁VA〜VAを閉制御するとともに、切換弁VA,VAを開制御し、又、締切弁47Aを開制御する。こうしてA系統への第1の処理水の流れがB系統側に切り換わるとともに、多糖類吸着処理装置16A、砂ろ過装置30Aの処理水が海へ排水される。排水が完了した段階で、熱風制御装置190Bは、洗浄用加熱大気供給ユニット41A,44Aを起動して、洗浄条件演算装置171Bから指令された洗浄信号170Bに応じた所定の洗浄パターンで洗浄する。所定の洗浄パターンでの洗浄が完了すると、熱風制御装置190Bは、洗浄用加熱大気供給ユニット41A,44Aを停止する。そして、切換制御装置31は、切換弁VA,VAを閉制御し、締切弁47Aを閉制御して、A系統を待機状態とする。
なお、多糖類吸着処理装置16の洗浄条件と、砂ろ過装置30の洗浄条件とは、必ずし
も同じである必要はない。
【0082】
ここで、切換制御装置31、熱風制御装置190B、切換弁VA〜VA,VB〜VB、洗浄用加熱大気供給ユニット41A,41B,44A,44B等が、特許請求の範囲に記載の「洗浄手段」を構成する。
ちなみに、本実施の形態の変形例での、洗浄パターンの一例として、例えば、「100℃の蒸気洗浄」、「100〜250℃以下の加熱空気洗浄」、「250〜500℃の加熱空気洗浄」等が挙げられる。発明者らの実験結果によれば、特に、「100℃の蒸気洗浄」及び「100〜250℃以下の加熱空気洗浄」は、TEP等の低沸点有機物の脱離に有効であり、「250〜500℃の加熱空気洗浄」は熱分解生成物の脱離に有効であった。
なお、加熱空気洗浄や蒸気洗浄において洗浄用加熱大気供給ユニット41,44からの加熱空気や加熱蒸気は、多糖類吸着処理装置16、砂ろ過装置30をワンスルーさせて排気口から排出する必要は無く、大部分を洗浄用加熱大気供給ユニット41,44に戻し、一部だけを排出するような循環加熱方式とすることが、熱効率上好ましい。
【0083】
なお、第1の実施の形態に、更に第1の実施の形態の変形例を組み合わせても良い。
【0084】
《第2の実施の形態》
次に図6を参照しながら第2の実施の形態について説明する。
図6は、第2の実施の形態に係わる海水淡水化システム600の概要構成図である。
図1に示した海水淡水化システム100Aでは、多糖類吸着材として天然ゼオライトを用いた。海水淡水化システム600は、多糖類吸着材57bとして活性炭を用いている。
図6において、第1の実施の形態に係わる海水淡水化システム100A(図1参照)と同様の構成部分には、図1と同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0085】
海水淡水化システム600では、多糖類吸着処理装置16(図1では16A,16Bと表示)に代わり、活性炭を多糖類吸着材47bとして用いた多糖類吸着処理装置57(図6では57A,57Bと表示)が設けられている。多糖類吸着処理装置57は、多糖類吸着処理装置16と同様に、前処理装置14で除去しきれない成分(物質)、つまり、多糖類成分を吸着処理吸着によって除去する。活性炭は第1の処理水とともに流出する可能性が低いので、海水淡水化システム600では、図1に示したような砂ろ過装置30は設けられていない。海水淡水化システム600においても、図1に示した海水淡水化システム100Aと同様に、海水中の糖類、特にTEPを吸着して、逆浸透膜の洗浄頻度や交換頻度を低減させることができる。
【0086】
ちなみに、多糖類吸着処理装置57では、下部プレナム57aに第1の処理水が導入され、多糖類吸着材57bである活性炭の層を昇流して上部プレナム57cに収水され後段に流れ処理水槽15に一時貯留される。
ここで、洗浄水供給装置19、切換制御装置31、洗浄水加温装置190A、洗浄水供給配管191A,191B、切換弁VA,VA,VA,VB,VB,VBが特許請求の範囲に記載の「洗浄手段」を構成する。
【0087】
以上説明したように、本実施の形態に係わる海水淡水化システム600によれば、第1の実施形態と同様に洗浄のタイミングの最新のTEP濃度比C/C(多糖類濃度比)に基づいて洗浄パターンを選択する。そして、選択され洗浄パターンにより洗浄対象のA系統又はB系統の一方の多糖類吸着処理装置57が洗浄される。これにより、活性炭の多糖類吸着材57bの性能を維持して、海水中の多糖類を安定的に除去することができる。また、本実施の形態に係わる海水淡水化システム600によれば、海水中の多糖類を安定的に除去することによって、逆浸透膜の汚染、つまり、バイオハウリングを低減して、逆浸透膜の洗浄頻度や交換頻度を低減させることができる。更に、本実施の形態に係わる海水淡水化システム600によれば、逆浸透膜の洗浄頻度や交換頻度を低減することによって、海水淡水化システムにおける運転コストを低減し、更には環境負荷を低減させることができる。
また、第1の実施の形態の効果の中で説明したように前処理にUF膜を用いる場合に生じる排水の処理の問題が無く、海水淡水化システム600の運転コストが低減できる。
【符号の説明】
【0088】
100A,100B,600 海水淡水化システム
12 取水槽
14 前処理装置
15 処理水槽
16A,16B 多糖類吸着処理装置
16b 多糖類吸着材
17 水質分析装置(多糖類濃度計測手段)
18 逆浸透膜式海水淡水化装置(逆浸透膜処理装置)
19 洗浄水供給装置(洗浄手段)
30A,30B 砂ろ過装置
31 切換制御装置(洗浄手段)
41A,41B,44A,44B 洗浄用加熱大気供給ユニット(洗浄手段)
57A,57B 多糖類吸着処理装置
57b 多糖類吸着材
122,160A,160B,162A,162B サンプリング配管
171A,171B 洗浄条件演算装置(洗浄条件決定手段)
190A 洗浄水加温装置(洗浄手段)
190B 熱風制御装置(洗浄手段)
191A,191B,192A,192B 洗浄水供給配管(洗浄手段)
SW 海水
VA〜VA,VB〜VB 切換弁(洗浄手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜を用いた海水淡水化システムであって、
取水された海水を前処理する前処理装置と、
前記前処理装置により処理された第1の処理水に含まれる多糖類成分を多糖類吸着材を用いて吸着除去する多糖類吸着処理装置と、
前記多糖類吸着処理装置によって前記多糖類成分が除去された第2の処理水を、前記逆浸透透膜を用いて淡水化する逆浸透膜処理装置と、を備え、
更に、前記前処理装置からの前記第1の処理水中の第1の多糖類濃度、及び前記多糖類吸着処理装置によって前記多糖類成分が除去された後の前記第2の処理水の第2の多糖類濃度を計測する多糖類濃度計測手段と、
前記多糖類濃度計測手段によって測定された前記第1及び第2の多糖類濃度に基づいて、前記多糖類吸着材の洗浄条件を決定する洗浄条件決定手段と、
前記洗浄条件決定手段によって決定された洗浄条件に基づいて、前記多糖類吸着材を洗浄する洗浄手段と、
を備えることを特徴とする海水淡水化システム。
【請求項2】
前記多糖類吸着処理装置は、1つの前記逆浸透膜処理装置に対して複数備えられ、
1つの前記多糖類吸着処理装置が前記洗浄手段によって洗浄されている間は、少なくとも他の1つの前記多糖類吸着処理装置によって前記多糖類成分の吸着除去を行い、前記逆浸透膜処理装置に対して前記第2の処理水の供給を継続可能とする構成であることを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化システム。
【請求項3】
前記多糖類吸着処理装置は、前記多糖類吸着材として、ゼオライト、活性炭、粘土層間化合物のいずれかを用いていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の海水淡水化システム。
【請求項4】
前記洗浄条件決定手段は、前記洗浄条件として、多糖類吸着材を洗浄する洗浄水の流速、前記洗浄水の温度、及び洗浄時間のうちの少なくとも1つを決定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の海水淡水化システム。
【請求項5】
前記洗浄条件決定手段は、前記多糖類吸着処理装置によって前記多糖類成分が除去された後の前記第2の処理水の前記第2の多糖類濃度と、前記多糖類吸着処理装置によって前記多糖類成分が除去される前の前記第1の処理水海水の前記第1の多糖類濃度との比に基づいて、前記洗浄条件を決定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の海水淡水化システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−56286(P2013−56286A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194522(P2011−194522)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】