説明

海氷で覆われた極地域における石油炭化水素の加速的な生物分解のためのバイオレメディエーション法、並びに、前記方法を実施する作用物質としての細菌及び酵素の混合物

海氷で覆われた極地域における石油炭化水素の加速的な生物分解のためのバイオレメディエーション法の他、前記方法を実施する作用物質としての細菌混合物及び酵素混合物が開示される。ここから得られる適切な菌株及び酵素は、実験室内の−3℃で油汚染を伴う実際の氷の状態において、細菌を濃縮及び単離することにより生成することができる。好ましい11の菌株が、ドイツ微生物細胞培養物コレクション社(DSMZ)に寄託されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外生の炭化水素分解菌を伴うバイオオーギュメンテーション及び栄養物質の添加による、海氷で覆われた極地域における石油炭化水素の加速的な生物分解のためのバイオレメディエーション法に関し、該方法を実施する手段として、該方法から得られる、炭化水素を分解する細菌混合物及び酵素にさらに関する。
【0002】
現在開発される油層(石油炭化水素)の枯渇が進むため、石油探査の努力は、現在のところ、極地へと向けられている。これに関し、世界の油及びガス埋蔵量の約25%を占めると推測される、北極海及びその縁海、北極海大陸棚地域、並びに北極永久凍土地域もまた、ますます関心の焦点となりつつある。場所によって、油は、既にかなりの量で採掘されている。
【0003】
北極海中央は、1年を通じて海氷に覆われており、地域によっては厚い場合もある。北極縁海及び北極海大陸棚並びに沿岸地域には、少なくとも寒季の間、流氷又は密海氷域が存在する。これらの地域に設置された[油]採掘プラットフォームは、流氷により引き起こされる特定の負荷を受ける。別の問題は、極低温により引き起こされる材料疲労である。このことは、例えば、北極海大陸棚地域の船舶停泊地へと至る海底パイプラインについて当てはまる。船舶により氷中で油を運搬することもまた、危険性の増大を伴うので、温帯又は熱帯地方におけるよりも、この地域における方が油汚染又は船舶事故の危険性が高い。極氷地域では、特に、船舶又は他の事故により引き起こされる単独の油流出に加え、例えば、プラットフォームからの油採掘により、又は、油運搬の搭載作業中において、或いは、破裂しやすいパイプラインにおける漏出により引き起こされることがある、持続的な油流出の危険性も高い。
【0004】
氷中における油の分布は、水中における分布と著明に異なるので、自由水においてこれまで用いられてきた油除去対策は、極氷地域ではごく限られた程度で用いることができるにすぎない。晶氷のみが、水と同様の挙動を示す。海氷に覆われた地域における油除去法の開発における問題は、異なる氷の状態にある。一様な氷域は存在せず、したがって、氷中で一般的に用いうる方法は存在しない。氷の状態は、小板氷、晶氷、初期はす葉氷、及び大型の氷盤から密氷域まで変化する。氷除去の手段は、氷の堅さ、氷盤の大きさ及び厚さに依存するだけでなく、氷原の動態、天候、及び氷盤間における水の膨張にも依存する。油膜は、氷の下に入ることもあり、又は氷盤上のスミアとなることもあり、氷中で凍結することもあり、又は晶氷と一様に混じり合うこともある。一般に、油が氷中に入ってしまうと、油と氷との分離は極めて困難となるということができる。油が水中の氷盤間において濃縮される場合はまだ容易であるが、その場合でも、多くの機材(例えば、オイルフェンス)が氷盤領域では操作できないため、水中で通常用いられるすべての方法を用いることはできない。
【背景技術】
【0005】
現在までのところ、海氷で覆われた地域において、小規模であれ大規模であれ、流出が生じたことは知られていない。しかし、油流出の危険性は高まりつつあり、該地域に広がる極低温のため、これらの生態系の天然の浄化能は他の場所におけるよりも著しく低いことが知られるので、海氷で覆われた地域における流出油を除去する有効な対策及び方法を開発することが、ますます急を要するものとなりつつある。氷で覆われた地域における流出油回収の分野における現在の最新技術は、公表文献I、即ち、欧州連合ARCOPプロジェクトにより公表された2004年7月の報告書(ARCOP D4.2.1.1(a)、第4章、「油流出への応答:氷で覆われた水に対する現在の選択肢(Oil spill response−present alternatives for ice covered water)」、29〜88頁)中に詳しく述べられている。該報告書は、可能な方法(以下を参照されたい)、並びにその長所及び短所を示す。示された方法及びツールの一部が、小規模の研究において調べられているが、緊急の状況ではいまだ用いられていない。
【0006】
すべてある種の「洗浄の原則」に帰着する機械的方法が、提起された油除去法の主要な部分を占める。しかし、これらの方法は、小規模の氷盤を浄化するのに適するにすぎない。油の残留物は、氷中にとどまる。すべての機械的スキームにおいて、環境の生物学的要素は著しい影響を受け、多くの場合、完全に破壊されさえする。再生は、極めて緩慢なペースで生じる。
【0007】
一般に「現場燃焼法」と称する、氷中における油の燃焼法は、氷密度が低いか又は極めて高い場合に限って用いうる方法である。油が燃え尽きるには、氷中の油含量が25パーセントを超えなくてはならない。油の除去は迅速且つ効果的である。この方法は、生成される熱が、生態系を完全に破壊するため、その後、残存する汚染が自然の生物分解により除去される可能性はほとんどないという欠点を有する。さらに、燃焼地から比較的遠く離れた場所であっても、放出物及び燃焼残留物が、毒性作用を及ぼしうる。
【0008】
化学的方法は、少数の氷盤が乱流水中に存在する場合に限り可能となる効果的な混合の欠如により、氷中での使用には適性が限られる。さらに、化学的分散剤の多くは毒性であり、したがって、その大半がドイツでは禁止されている。加えて、油は、実質的に除去されず、分散された油はより容易に拡散しうるので、むしろ、問題が単に置き換えられるだけである。
【0009】
生物学的方法は、理論的には、氷中で用いることができる。しかし、専門家の考えるところによると、氷中の非生理的低温においては、油が効果的に生物分解されることは不可能であるため、現在までのところ、それらは実際には用いられていない。実際、少数の炭化水素分解菌が氷中で同定されうるが、これらは、短鎖アルカンの分解菌であるにすぎなかった(B.Gerdesら、「北極海氷における細菌コミュニティの変化に対する原油の影響(Influence of crude oil on changes of bacterial communities in Artic sea−ice)」、FEMS Microbiology Ecology、第53巻、2005年、129〜139頁による公表文献IIを参照されたい)。温度条件及び塩分条件が極限的であるだけでなく、高度に可変的でもあるため、氷中への油分解菌の接種もまた問題を生じる。
【0010】
一般に、バイオレメディエーション法としても知られる生物学的方法は、極めて環境保護的であり、より温暖な地域において、特に、土壌浄化の目的で、先行技術の方法において用いられることが多い。こうした方法は、窒素及びリン酸の欠如を補う栄養物質を添加することにより、天然の油分解微生物コミュニティの成長を促進し、これにより、天然の分解過程を加速化させる。現在までのところ、この技法は、土壌中のみでなく、沿岸付近の水中でも用いられて成功を収めており、例えば、アラスカ沿岸沖の北極海水中におけるエクソンバルデス号事件の際には、冷水中でも用いられて成功を収めている。栄養物質の添加は別として、油分解菌の添加については実験も行われた。しかし、現在までのところ、この接種法が成功を収めたのは、閉鎖系又は容器中(現場外での方法、例えば、除去した土壌の浄化の場合)に限り、開放された自然においてではない。通常汚染された場所に生息しない種類の細菌を用いた場合、こうした細菌は、多くの場合、特異的で十分に適応した自生の微生物叢と競合することができない(Zhuら、「油で汚染された河口環境浄化用の市販バイオレメディエーション剤の使用に関する文献概説(Literature review on the use of commercial bioremediation agents for cleanup of oil−contaminated estuarine environments)」、EPA report、第EPA/600/R−04/075号、2004年7月による公表文献IIIを参照されたい)。また、一般に、単一種類の炭化水素分解菌のみ、例えば、シュードモナス属(DE3811856C2)、バチルス属(DE19652580A1)、又はアセトバクター属(DE4443266A1)の1つのみが用いられた。最も奏効した場合では、分解が短時間で加速された。約2週間後、接種された生物は、自生の微生物叢と共に増殖した。
【0011】
日本の抄録JP2004181314A及びJP200607542Aでは、天然の細菌混合物を土壌浄化の目的で用いることが提起されている。しかし、海氷と異なり、土壌は比較的均質であり、安定な生息環境であり、ここでは、生物は、海氷中におけるほど大きな物理化学的勾配にさらされることはない。加えて、導入された細菌は、それほど容易には洗い落とすことができない。さらに、欧州の文献EP0859747B1は、水溶性の低い物質の好気性生物分解の方法を開示している。この方法は、IHI−91(DSM 10561)と称する好熱性微生物の培養物を用いる。この菌株は、バチルス属菌に極めて類似している。この欧州特許の保護範囲は、微生物IHI−91自体、及び、生物分解の目的でそこから得られる酵素組成物に及ぶ。本明細書において前出で言及した文献DE19652580A1は、実際、原油及び/又は油生成物により汚染された土壌及び水を再生する「細菌混合物」について言及している。バチルス菌属に加え、微生物バイオマス(廃物)の加水分解により生成される、非特異的「生物界面活性剤BS−4」もまた用いられている。そこに追加の種類の細菌が含有されるのかどうかは明確でない。しかし、強力な化学的加水分解のため、該混合物は、1つの細菌属のみを含有すると推測することができる。最後に、ドイツの文献DE19954643 A1が、水面及び固体表面からのすべての種類の油及び脂質を除去する油結合剤の製造及び使用を開示している。微生物は、顆粒形態で繊維形成タンパク質上に固定化される。これらの微生物は、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス(Pseudomonas)属菌種、アシネトバクター・カルコアセティクス(Acinetobacter calcoaceticus)、ノカルジア(Nocardia)属菌種、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属菌種、カンジダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、カンジダ・トロピカーリス(Candida tropicalis)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、又はロドコッカス(Rhodococcus)属菌種の種類でありうる。細菌混合物が固定化されるかどうかは記載されていない。また、言及された微生物の選択に関して、特別の情報は提供されていない。微生物の固定化は、記載された例示的な実施形態のいずれにも組み入れられていない。
【0012】
上述のすべての公表文献は、低温(定義では、低温適応菌とは、0℃以下の最低増殖温度を有する生物であり、低温適応生物の群は、「好冷性生物」として知られる、20℃を下回る最高増殖温度を有する生物と、20℃を上回る最高増殖温度を有する「耐寒性生物」とにさらに分類され得る)でなく、通常又はさらに高温の周囲温度(好熱性菌)に限り、異なる属及び種の細菌による油の生物分解について記載することが共通する。ドイツの文献DE102005028295A1は、硬質表面からの生物膜の除去に対する、シュワネラ(Shewanella)属の好冷性プロテアーゼの使用のみについて記載する。しかし、氷点近辺又は氷点を下回る低温範囲について記載した出願は存在しない。むしろ、好冷性プロテアーゼの使用は、泥及び生物膜が除去される温度を、かつて用いられた値である37℃から15〜20℃の範囲に移行させる目的であることを推測しうる(段落[006]〜[008]を参照されたい)。海氷条件下における生物膜の除去は開示されていない。
【0013】
極低温及び高度に可変的な塩分を伴う海氷は、専門家がバイオレメディエーション法には適さないと考える、困難な環境である。これまでに公表された、海氷における唯一のバイオレメディエーション実験は、DeIiIIeら(公表文献IV:「ディーゼル油及び分散した原油により汚染された海氷中における細菌の季節的変化(Seasonal Variation of Bacteria in Sea Ice Contaminated by Diesel Fuel and Dispersed Crude Oil)」、Microb.Ecol.、1997年、第33巻、97〜105頁)の実験である。南極の海氷をアラビアの原油又はディーゼル油で汚染させ、実験地域の一部を、有機栄養物質複合体INIPOL EAP 22で富栄養化させた。富栄養化させた油汚染実験地域及び富栄養化させなかった油汚染実験地域の両方で、対照地域と比べて微生物の増加が観察された。しかし、油が分解されたのかどうか、及び、どの程度分解されたのか、又は、どの成分が除去されたのかについては検討されなかった。油及び栄養物質の散布後に存在した生物は、単離又は特徴づけされなかった。しかし、微生物の増加は、油が、海氷コミュニティの一部に対して、少なくとも毒性作用を及ぼさないことを示唆する。
【0014】
先述の通り、海氷中の困難な条件、即ち、極低温及び場合によって極高塩分、並びに、氷盤プロファイル及び季節を通じての温度及び塩分の激しい変化が、こうした地域においてバイオレメディエーション法を用いる障害となる。低温適応菌の場合でも、微生物の増殖及び活性は、氷の下部領域(水と氷との間の境界領域)及び氷の表面領域(夏季における約+1℃から冬季における−20℃未満までの範囲の温度)に広がる温度範囲である、約−5℃〜−3℃の温度範囲では低く、微生物の増殖及び活性は、短い夏季にまさに限定される。海氷には、自らの生息する特定の環境に十分に適応した特定の微生物コミュニティがコロニー形成する。極地の海氷は、これまでまれにしか原油と直面していないので、専門家は、油流出事故において、天然の炭化水素分解微生物叢が発生し、迅速に成長することは極めて起こりにくいことであるとこれまで考えてきた。一方において、これらの因子は、氷中におけるバイオレメディエーション法の使用を支持しないが、他方において、物理化学的方法に対して生物学的方法が多くの利点を提供するのは、特に、海氷中においてである。これらは、油が氷上、氷下、又は自由水中のいずれにあるかにかかわらず、実質的に任意の氷の状況及び油流出状況において用いうる。さらに、栄養物質及び生物が適用されると、これらは、さらなる配慮を必要としない。したがって、接近困難な地域における流出油回収作業の期間中に現場に滞在する必要がない。むしろ、一度調製すれば、システムを放置しうる。
【0015】
先行技術は、海氷地域における油分解の実際的なバイオレメディエーション法を提起してこなかった(公表文献I、88頁、第5.6章を参照されたい)。しかし、B.Gerdesらによる公表文献V(ワークパッケージ4:「環境保護(Environmental Protection)」、「北極海氷における原油の生物分解(Biological degradation of crude oil in Artic sea ice)」、第8回ARCOPワークショップ、19〜20頁、2005年10月、セントペテルスブルグ)は、極氷地域における天然の好気性分解過程を可能とするバイオレメディエーション法が、外生の微生物によるバイオオーギュメンテーション、並びに/又は、栄養物質及び/若しくは酸素の添加により加速化される可能性について述べている。言及される分解限定因子には、栄養物質、酸素の供給可能性、温度、鉄などの微量元素、塩分及びpH値、油の溶解度及び液滴サイズがある。しかし、−3℃近辺の温度における北極の冬季中では、栄養物を伴う富栄養化又は接種により、油をそれほど分解することはできなかったのに対し、無機的に富栄養化させた融水試料中では、細菌の多様性が、0℃において著明に変化したことが判明した。
【0016】
こうして、本発明の最も密接な先行技術であり基礎をなすと考えられる、前述の公表文献Vは、外生の炭化水素分解菌を伴うバイオオーギュメンテーション及び栄養物質の添加による、極氷地域における石油炭化水素の加速化された生物分解のためのバイオレメディエーション法が、氷点を上回る温度で可能であることを示す。生物分解が氷点未満では停止することは、明らかである。しかし、バイオレメディエーション法の実施方式、又は、該方法を実施する手段としての適切な細菌混合物については、情報が提供されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の視点において、本発明の目的は、上述のバイオレメディエーション法を、特に、少量の流出油の形態における炭化水素が、極氷地域において広がる条件下、及び、特にまた、氷点を下回る[温度]でも、また、異なる(領域及び地域の)汚染事故地でも生物分解されるように、また、こうした生物分解が、信頼できる形で、可能な限り迅速に、そして十分な程度で生じるように改善することである。さらに、改善されたバイオレメディエーション法は、実施が簡単且つ廉価であり、極氷地域に必要とされる人員数を最小化することが可能であるべきである。別の目的は、その使用が、バイオレメディエーション法の有効性を著明に上昇させる、バイオレメディエーション法を実施する好ましい手段を提供することである。これらの目的を達成するために本発明により提供される手法は、方法請求項及び独立の手段請求項から明らかであろう。有利な実施形態は、個々の従属請求項において与えられ、本発明との関連において、以下でより詳細に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0018】
複数の異なる低温適応自生菌株の混合物を用いることは、本発明のバイオレメディエーション法にとって不可欠である。用いられる各菌株は、異なる温度耐性範囲及び塩耐性範囲、異なる分解スペクトル、異なる分解活性、及び異なる油乳化能を有する。異なる種類の菌株のこの組合せにより、極めて広範な分解範囲を有し、広範な石油炭化水素が極めて可変的な海氷条件及び汚染状況下において信頼できる形で生物分解されることを可能とする、相補的な細菌混合物が生成される。さらに、使用される低温適応菌株は、天然の生息環境において生じるすべての温度において該バイオレメディエーション法が有効となるよう、その温度耐性範囲及び塩耐性範囲が異なる。しかし、混合物中のすべての菌株は、これらが−3℃においてもなお活性(分解又は乳化剤の生成)を示す点を共有する。この低温における油の分解は、当業者にとっては驚くべきことであり、先行の技術文献ではいまだ報告されていない。このため、極地の海氷地域におけるバイオレメディエーション法の使用は、これまで、有効でないと考えられてきた。
【0019】
本発明によるバイオレメディエーション法において用いられる細菌混合物は、個々の生物よりも広範な分解スペクトルを有するのみでなく、生態系中の変化に対してもより良く応答し、これは、氷中の高度に可変的な条件のために重要である。細菌混合物の広範な活性範囲は、単独の接種材料を散布することによるバイオオーギュメンテーションを介して、海氷中及び融解しつつある水たまり中、並びに、隣接する水中のいずれにおいても、少量の(残留)流出油を、信頼できる形で除去しうることを確実にする。
【0020】
こうした作業において、細菌混合物は、氷中における緩慢な再生及び繁殖を補うため、高濃度で用いられる。
【0021】
一般に、細菌混合物は、12〜36カ月間にわたるメソコスム実験において濃縮され、その後に単離される菌株を組み合わせることにより、調製することができる。メソコスムは、原油により人工的に汚染された潜在的な汚染地に由来する氷を用い、栄養物質を供給し、氷/水状態が安定であるように−3℃でインキュベートして調製する。バイオレメディエーション法が用いられる各事故に応じた前述の手順により、特異的な菌株を単離する必要はまったくないことに注意されたい。むしろ、例示的なメソコスム実験では、複数の適切な菌株を得ることができ、これを保管することができる。次いで、バイオレメディエーション法が用いられるべき具体的な事故では、使用の状況に応じて、また特に、使用の場所に応じて、適切な菌株が、細菌混合物中で個別に組み合わされる。これは、実際、本発明によるバイオレメディエーション法を用いる、油流出に対する迅速な応答を可能とする。この方式で得られる菌株は、相補的な生理学的特性を有し、混合物として、海氷に通例の高度に可変的な塩分条件及び温度条件下において油を分解する能力を有する。本発明のバイオレメディエーション法は、他の油分解菌株を添加することにより、及び/又は、こうした低温適応微生物から[得られる]炭化水素分解酵素を散布することにより、さらにより有効で、より柔軟で、より広範に使用可能となりうる。
【0022】
細菌混合物を調製する好ましい方法は、一般的原則として、自生菌株、即ち、特定の生息環境に土着の菌株を用いることを確実にする。したがって、少量の流出油を除去することに加え、本発明のバイオレメディエーション法は、特に、機械的な油回収法又は現場燃焼法の使用後における残留汚染を除去するのに特に適している。こうした方法の使用は、天然の海氷微生物叢を破壊するが、油分解菌混合物の接種により破壊は相殺されうる。自生の海氷菌の使用は、海氷の機械的及び/又は物理的な処理後において天然の微生物叢が再生することを可能とする。したがって、本発明のバイオレメディエーション法は、極めて環境保護的である。それは、流出油を除去し、同時に、天然の微生物叢を再生させる。さらに、それは、環境保護的な担体物質を用いる。
【0023】
本発明のバイオレメディエーション法は、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH[ドイツ微生物細胞培養物コレクション]、Inhoffenstrasse 7B、38124 Braunschweig、Germany)に寄託された菌株と共に、北極海氷における流出油及び脂肪族化合物に富む油に特に適する。対象の菌株は、既知の菌株と分類学的に区別される新規の菌株であり、明確に異なる生理機能を有する。現在までのところ、これらの特異的な微生物は、海氷中には存在しないと推測されていた。しかし、本方法は、この特定の細菌混合物に限定されず、記載される方法により得ることのできる他の菌株、例えば、芳香族炭化水素(多環芳香族炭化水素)又は重油を分解することにより特化した菌株を添加することにより拡張することができる。南極条約体制に従い、南極の自生細菌のみを用いうる南極地域で流出が生じる場合でも、本方法を用いて得られる自生菌株を用いることができる。単離された菌株に由来する低温適応酵素組成物を用いることにより、本発明のバイオレメディエーション法の適用範囲をさらに拡張することができるが、これは、その場合、分解活性に対する物理化学的条件の影響が、無添加の微生物による場合よりも小さいからである。前記の低温適応酵素組成物を用いる場合、本方法は、淡水湖沼環境、海洋環境、外洋環境の他、深海底環境におけるすべての低温地域、即ち、すべての南極生息環境、及びまた、高静水圧に適応した特殊な細菌が活性である北極深海堆積物中、並びに、永久凍土中においてさえ用いることができる。
【0024】
接種材料の特別な組成により、本発明のバイオレメディエーション法は、特異的な条件に個別に適合させることができる。本方法は、一度に用いることができ、接種材料は、流出の発生後一度に散布できることに注意されたい。次いで、本方法は、例えば、接種された氷盤が流れ去った場合でも、人員なしに現場で作用する。しかし、同一若しくは異なる微生物(例えば、長鎖脂肪族炭化水素の分解菌)の再接種により、又は、追加の栄養物質の添加により、後続の調整を行うことも可能である。再接種は、分解すべき炭化水素の質及び量に応じて、また、環境条件に応じて実施し、場合によって異なる取り扱いを要する。
【0025】
本発明によるバイオレメディエーション法のさらに有利な実施形態は、詳細な説明の節で詳細に述べる。本節で言及しうる具体例は、接種材料の特別の担体物質上への固定化、及び、流出事故における接種材料の散布法である。複合細菌混合物は、環境保護的な担体物質上に固定化され、好ましくは、無機栄養物質と共に供給されるか、又は、それ自体が栄養物質として作用する。汚染条件及び氷の状態に応じて、浮遊性又は非浮遊性、親水性又は疎水性の担体物質の他、油結合担体物質も用いることができる。この担体物質は、直接海氷上に、隣接する水上に、又は海氷下に置くことができる。接種材料は、放水銃を用いる船舶、又は飛行機により、氷の表面に散布することができる。氷下への散布もまた、氷下の水柱内に接種材料を導入する、又はポンプ注入することにより達成することができる。したがって、本発明のバイオレメディエーション法は、機械的方法(小規模な氷盤に限り適する)及び物理的方法(高密度の氷域又は準開放水面に限り適する)の限界を有さない。ヘリコプターを用いる場合、接種材料は、高氷密度又は氷隆起の形成など最も困難な氷の状態下においても散布することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
極氷地域における石油炭化水素の加速的な生物分解のための主張されるバイオレメディエーション法、及び、該方法を実施する手段として主張される細菌混合物の具体的な実施形態を、以下でより詳細に説明する。
【0027】
表1は、好ましい細菌混合物に適する菌株の選択を示す。前記菌株の最初の6つを組み合わせて細菌の基本混合物を形成することができ、これは、言及されたさらに5つの菌株を添加することにより、場合によって、具体的な流出事故に適用することができ、こうして、その分解有効性をさらに改善することができる。
【0028】
表2は、間隙水及び北極海氷のメソコスム設定条件における好ましい細菌混合物による原油の脂肪族成分(0.2%)の分解を示す。
【0029】
本発明によるバイオレメディエーション法を用いることが可能であるには、一連の基本ステップ、準備ステップ、及び実行ステップを実施しなければならない。これらのステップを以下に列挙する。具体的な流出事故に適する単離された菌株又は接種材料が既に入手可能である場合は、基本ステップ及び準備ステップを省略することができることに注意されたい。
・ 安定な海氷条件下、即ち、−3℃であっても比較的短時間のうちに原油を乳化させその成分を分解する、特異的な菌株を濃縮及び単離するステップ
・ 得られた異なる種類の海氷菌株を組み合わせて、相補的な細菌混合物を生成し、極めて可変的な海氷条件及び汚染状況下において、可能な限り広範な原油成分が、可能な限り加速的な形で生物分解されるようにするステップ
・ 選択された菌株から十分に活性なバイオマスを生成するステップ
・ 適切な栄養物質と共に、活性バイオマスを担体物質上に固定化することにより、接種材料を形成するステップ
・ 接種材料を散布して、石油炭化水素と接触させて分解させるステップ。
【0030】
適切な菌株を得るために、本出願人は、例えば、9〜10月(夏季)及び4〜5月(冬季)のスピッツベルゲン北東地域(北緯79°〜81°及び東経5°〜12°)において、北極多年氷の異なる氷核を抽出した。同様に、南極の海氷は、4〜5月(秋季)に、ベリングスハウゼン海(南緯66°〜71°及び西経275°〜290°)から採取した。自国の実験室において、氷を無菌条件下で破砕し、その約5リットルを、10リットルの無菌の極地水と共に無菌のガラス容器内に満たした。保管された新鮮な原油(0.1%)を浮氷上に散布した。異なるメソコスムには、異なる栄養物質:
・ イニポールMS3000
・ 魚粉
・ 0.065gl−1のNaHPO、0.75gl−1のNaNO、微量のFePOからなる無機栄養物質
を供給した。
【0031】
実験のインキュベーションは、36カ月間にわたり、−3℃で実施した。融解させた氷による並行する実験のインキュベーションは、+4℃で実施した。1年半後、第1の材料試料を採取し、段階的に希釈し、異なる希釈レベルの100μlずつを、最小寒天培地上に展開させた。この前に、約20μlの原油を寒天プレート上に散布した。プレートは、コロニーが可視化されるまで+4℃でインキュベートした。これらのコロニーを採取し、純粋培養物が得られるまで画線培養を繰り返した。異なる菌株は、ARDRA(増幅rDNA制限解析)法により分類学的に分類し、異なる群の16S rRNA遺伝子配列を決定した。さらに、菌種をその生理学的特徴、温度応答、及び炭化水素分解能力に関して検討した。驚くべきことに、−3℃で炭化水素を分解する新規の低温適応菌種を見出すことができた。菌株の16S rRNA遺伝子間における配列の類似性、及び最も密接に関連する菌種を表1に示す。
【0032】
既に知られた微生物と異なる6つの異なる菌種を、混合物を形成するのに好ましく用いることができる。表示された菌株は、等量で添加することが好ましい。特定の使用状況に応じ、最良に作用する菌株が、成長において優勢である。また、驚くべきことに、異なる温度耐性及び塩耐性並びに異なる分解能力の異なる菌種を組み合わせることにより、全体として、異なる氷の状態下において、容認可能な時間内で成長し、原油を乳化及び分解する能力を有する細菌混合物を最終的に生成した。
【0033】
表1に列挙した菌株は、DSMZに寄託される。これらは、試験管内で20μlの原油を加えた10mlの最小培地(50%の北極海水1リットル中に0.75gのKNO、0.75gのNHCI、0.1mgの酵母抽出物(Difco社製)、微量のFePO)中の成長しつつある菌株培養物として、1℃で約半年間にわたり保管してもよく、保存(例えば、MAST社製Cryobankシステムで−80℃、又は乾燥凍結法)してもよい。培養物を使用又は接種するためには、菌株を保存状態から元に戻すか、又は、菌株培養物を用いることが必要である。保存した材料を用いる場合は、こうした材料を、まず、4℃の海水/栄養物培地(50%の北極海水1リットル又はマリンブロース2216(Difco社製)中に5gのバクトペプトン(Difco社製)、1mgの酵母抽出物(Difco社製)、及び微量のFePO)中で再培養しなければならない。菌株GH−10(DSM 18952)及びGH−11(DSM 18953)の場合、10倍に希釈した海水/栄養物培地を用いるべきであり、0.1%の無菌原油を添加すべきである。十分に増殖したら(具体的な菌株に応じて、約2日間〜1週間かかる)、これらの培養物を用いて、0.2%(v/v)の油を加えたより高量(500ml〜約10l)の最小培地(50%の北極海水1リットル中に0.75gのKNO、0.75gのNHCI、0.1mgの酵母抽出物(Difco社製)、微量のFePO)に接種する。菌株は、1ml当たり少なくとも1×10個の細胞密度が達せられるまで(約1週間)、4℃の振盪(100rpm)下で培養する。原油の添加により、菌株は、炭化水素の分解に適応する。
【0034】
本発明のバイオレメディエーション法において、用いられる微生物及び/又はそこから得られる酵素組成物は、担体物質を用いて固定化され、汚染地に移送される。炭化水素の最適の分解を達成するには、窒素供給源及びリン酸供給源を伴う微生物を供給することが必要である。栄養物質及び微生物が、共に汚染地に到達しそこにとどまるためには、環境保護的な担体物質を用いることが必要である。担体物質の選択は、異なる海氷汚染状況を考慮に入れてなされる。用いられる担体物質は、それぞれ、浮遊能を有する又は有さない、疎水性及び親水性の物質を含む。細菌混合物は、異なる使用場所に達しうるよう、異なる2つの担体物質上に固定化し、この形態で散布することが推奨され得る。好ましくは、以下の物質が使用されてもよい。
【0035】
担体物質1:
米国特許第5,954,868号に記載の粒子状物質に基づき、担体物質1は、栄養物質の核、例えば、90:8:2のアンモニウム/リン酸/鉄比におけるNHPO及びFeSOを含み、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、ステアリン酸、及び/又はパルミチン酸)など親油性の成分により覆われる。担体物質1は、親油性であり、浮遊能を有する。有機成分は、無機成分と組み合わせることができる。使用後において、該物質は、残留物を残さない。
【0036】
担体物質2:
「バイオセップ法」(University of Tulsa、OK 74104、USA)に基づき、担体物質2は、25%のアラミドポリマー(ノーメックス)及び75%の活性炭(PAC)からなり、3〜4mmの直径及び75%の空隙率を有するビーズを含む。平均空隙径は、1.9μmである。ビーズは、限外濾過膜に類似する膜で囲まれている。栄養物質はビーズにより吸収され、生物はビーズ内でコロニー形成する。現在までのところ、ビーズは、地下水を浄化するのに用いられている。担体物質2は、親油性であり、浮遊能を有する。有機栄養物及び無機栄養物を共に用いることができる。しかし、欠点は、アラミドがプラスチックであり、その使用後に生態系中に残留することである。
【0037】
担体物質3:
ドイツ出願公開第DE19954643A1号に基づき、担体物質3は、繊維形成タンパク質から生成された油結合剤に基づく。該物質は、栄養物質を取り込み、油を吸収し、浮遊能を有し、したがって、自由水が存在する場合、又は油が氷の下に入り込んだ場合の使用に好ましい。
【0038】
担体物質4:
担体物質4は、化粧品、医薬品、食品中において、及び、特に、食品中の乳化剤として用いられる非イオン性界面活性剤である、ポリソルベート80(Tween(登録商標)80の商品名でも知られる、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)を添加した魚粉に基づく。ポリソルベートは、担体物質が流出油に付着するよう、乳化剤として作用する。担体物質4は、海氷表面上の汚染に特に適するが、海氷内部の汚染にも適する。
【0039】
担体物質5:
担体物質5は、栄養物質(0.065gl−1のNHPO、0.75gl−1のNaNO、及び微量のFeCI)で浸漬したおがくず(0.3〜1mmの粒子径)に基づく。おがくずは親水性であり、したがって、水上に浮遊しない。よって、おがくず粒子は氷の深層内に沈みうるので、担体物質5は、氷表面上における小規模の流出に特に適する他、海氷内部の汚染にも適する。
【0040】
細胞を固定化するには、各種菌株の大量の個別培養物(油を伴う最小培地)を、無菌の容器内に共に添加し、混合する。その後、用いるべき異なる担体物質の数と等しい数の容器内に混合物を分配する。混合物1リットル当たり、20gの無菌担体物質を添加し、次いで、細胞が担体物質に付着できるよう、4℃で3日間にわたり調製物を振盪(90rpm)する。その後、散布法に応じて、栄養物溶液から担体物質を実質的に除去することができる。該物質は、この形態で噴霧、散布、注入することにより氷上に散布することができ、用いうる装置の種類及び特定の使用状況に応じて、氷下にポンプ注入してもよい。噴霧適用の場合、担体物質を栄養物質溶液から分離せず、栄養物質溶液と共に噴霧しきることが推奨される。個々の散布法は、担体物質に適合しなければならない。低温適応微生物を保護するため、接種材料を冷蔵庫温度(+7℃)よりも高温で保管又は使用しないことが推奨される。この温度より高温では、微生物が損傷されることがある。例えば、その分解活性が著明に低下しうる。
【0041】
大規模の油流出事故では、大量のバイオマスを散布する。この目的のため、まず培養物をスケールアップする。急速な油流出に対する迅速な応答を可能とするため、細胞マスを、凍結乾燥形態又は不凍剤中で凍結させて使用可能な状態に保つ。これに関し、保存法のため細胞の一部が損傷されることを考慮すべきである。したがって、散布前3日間の短いインキュベーション段階において、原油を伴う最小培地中で細胞を再活性化させる。
【0042】
他の生息環境中では、これまでのところ、油分解生物の接種が大規模では成功しておらず、海氷の困難な生息環境は、むしろ、バイオレメディエーション及びバイオオーギュメンテーションに適する場所ではないが、脂肪族の油成分は、長鎖の場合であれ、油で汚染された海氷メソコスム調製物及び間隙水(南極の夏季氷中に存在することが通例である液層)中において、以下の実施例で記載する本発明によるバイオレメディエーション法を用いて著明に分解されたことが判明した。以下に記載の例示的実施例の結果を、表2に示す。
【0043】
例示的実施例1
最小培地及び油分解海氷菌の混合物を取り込んだおがくずを、南極海氷中で形成され、原油で人工的に汚染された間隙水中に散布した。本発明のバイオレメディエーション法を用いて半年後、極長鎖の脂肪族化合物の小画分を除き、すべてのアルカンが完全に分解された。栄養物質のみを伴う対照調製物及び栄養物質を添加しない対照調製物中において、分解は、はるかに低度で生じるか、まったく生じなかった。
【0044】
例示的実施例2
メソコスム実験において、北極海氷(冬季の実験)及び南極海氷(夏季)の表面を、高含量の脂肪族化合物を有するバレンツ海産の油により汚染させた。魚粉上に固定化した油分解菌を、流出油上に散布した。これらの調製物内では、本発明によるバイオレメディエーション法を用いると原油を分解することができたのに対し、非処理の油で汚染された氷中においては、分解を観察することはできなかった。
【0045】
本発明によるバイオレメディエーション法の実施に関しては、以下の状況について説明することができる:
【0046】
状況1
大量の炭化水素が海氷で覆われた地域に放出される油流出事故では、氷の状態に応じ、物理的又は機械的方法を用いて大量の油を除去することができる。こうした方法を用いると、大量の油が実際に除去されるが、炭化水素の残留物が氷中に残存し、生態系が破壊されたまま放置されるので、氷中に既に天然で見出された生物によって炭化水素を分解することはもはやできない。本発明に示す生物及び栄養物質の混合物を散布することにより、生物分解過程を迅速に開始することが可能であるので、残存する炭化水素もまた、容認可能な時間枠内で生態系から完全に除去することができる。担体物質上の細菌混合物及び栄養物質は、放水銃を用いて噴霧する、又は、ヘリコプターから噴霧することにより、広大な氷面、及び、氷盤間の水面にわたり散布することができる。疎水性担体物質は、存在する炭化水素に付着し、これにより、微生物及び栄養物質との直接の接触を可能とする。次いで、人的介入の必要なしに、即ち、氷盤をさらに監視する必要なしに、後続の油分解過程が生じる。氷盤は極めて迅速に流れ去り、分解するので、これは特に重要である。
【0047】
状況2
炭化水素の小規模の流出事故でも、物理的又は機械的方法を用いる事前の浄化の必要がない点を除き、上記と同じことが当てはまる。
【0048】
状況3
例えば、氷で覆われた水中の海底に設置されたパイプラインで生じる漏出事故(冬季及び秋季の間氷で覆われる北極海大陸棚地域において既に生じた通り)では、油が水柱を介して上昇し、氷下に蓄積され、そこで、急速に氷中に組み込まれ、こうして、流氷盤により遠方へと運び去られることがある。春季には、亀裂及び塩水溝を介して油が表面に上昇する。
【0049】
本発明のバイオレメディエーション法に従い、氷下の水柱内に細菌及び栄養物質を含有する担体物質を散布することにより、疎水性の担体物質は、氷の下側においてもまた油と接触し氷内に組み込まれるので、氷柱内で既に炭化水素の分解を開始することができる。上記の担体物質は、油と共に氷面に上昇する。ここでもまた、本使用の利点は、流出後に細菌混合物を一度散布すれば、氷盤が運び去られた場合でも、これは現場で作用するということである。
【0050】
表1
【表1】


*)最も密接に関連する菌種又は十分に記載された菌株に対する16S rRNA遺伝子配列中の類似性
【0051】
表2
【表2】


#)分解レベル:完全(g)、部分的(t)、僅少(I)、分解が観察されない(k)
【0052】
寄託された微生物又は他の生物材料に関する表示
(PCT規則13の2)
A.以下になされる表示は、頁(26〜27、31〜32)、行(空白)における記載中で言及される寄託された微生物又は他の生物材料に関する。
【0053】
B.寄託物の同定
さらなる寄託物は、追加の書面において同定される。
【0054】
寄託機関名
DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH[ドイツ微生物細胞培養物コレクション])
【0055】
寄託機関の所在地(郵便番号及び所在国を含む)
Inhoffenstrasse 7B
38124 Braunschweig、DE
【0056】
寄託日
2006年12月22日
【0057】
受託番号
DSM 18943〜18953
【0058】
C.追加の表示(該当しなければ空欄とする)
この情報は、追加の書面に続載される。
【0059】
発明の優先権を確立するドイツ特許出願の出願日(DE10 2007 003 644.4、2007年1月21日)に先立ち、特許手続き上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約に従い、11の菌株がDSMZに寄託された。これに従い、11点の受託証及び11点の生存証明書が交付された(それぞれ、ドイツ語及び英語の両方で)。
【0060】
D.表示がなされる対象の指定国
(表示がすべての指定国を対象としない場合)
【0061】
E.表示の別途提出(該当しなければ空欄とする)
以下に列挙する表示は、後日、国際事務局に提出される(表示の一般的性格、例えば、「寄託物の受託番号」を指定する)
【0062】
受理官庁専用
本書面は、国際出願と共に受理された。
授権担当官
【0063】
国際事務局専用
本書面は、
2008年1月6日(01/06/2008)
に国際事務局により受理された。
授権担当官
Sylvaine DESCLOUX
【0064】
書式PCT/RO/134(1998年7月、2004年1月再版)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外生の炭化水素分解菌を伴うバイオオーギュメンテーション及び栄養物質の添加による、海氷で覆われた極地域における石油炭化水素の加速的な生物分解のためのバイオレメディエーション法であって、
分解される石油炭化水素を、少なくとも以下の成分:
−3℃の周囲温度でも活性であり、
異なる温度耐性範囲を有し、
異なる塩分耐性範囲を有し、
異なる分解スペクトルを有し、
油を乳化する能力において異なる、
異なる低温適応自生菌株の細菌混合物と、
栄養物質と、
少なくとも前記菌株の細菌が固定化されている環境保護的な担体物質と
を含有する接種材料と接触させる、上記バイオレメディエーション法。
【請求項2】
細菌混合物が、北極の海氷で覆われた地域において用いる少なくとも以下の菌株:
ロドコッカス(Rhodococcus)属GH−1
(DSM 18943、DSMZ2006年12月22日)
ディエジア(Dietzia)属GH−2
(DSM 18944、DSMZ2006年12月22日)
シュワネラ(Shewanella)属GH−4
(DSM 18946、DSMZ2006年12月22日)
マリノバクター(Marinobacter)属GH−9
(DSM 18951、DSMZ2006年12月22日)
シュードモナス(Pseudomonas)属GH−10
(DSM 18952、DSMZ2006年12月22日)
オレイスピラ(Oleispira)属GH−11
(DSM 18953、DSMZ2006年12月22日)
からなる、請求項1に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項3】
細菌混合物に少なくともさらに1つの菌株が添加され、分解スペクトルが拡張され、油乳化能が増強される、請求項1又は2に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項4】
以下の菌株:
マリノバクター(Marinobacter)属GH−3
(DSM 18945、DSMZ2006年12月22日)
マリノモナス(Marinomonas)属GH−5
(DSM 18947、DSMZ2006年12月22日)
シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属GH−6
(DSM 18948、DSMZ2006年12月22日)
サイクロバクター(Psychrobacter)属GH−7
(DSM 18949、DSMZ2006年12月22日)
ジャナシア(Jannaschia)属GH−8
(DSM 18950、DSMZ2006年12月22日)
の少なくとも1つが細菌混合物に添加される、請求項3に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項5】
用いられる菌株が遺伝子改変される、請求項1から4までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項6】
菌株から得られうる酵素組成物が、用いられる菌株に加えて又はこれらの代わりに用いられる、請求項1から5までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項7】
用いられる菌株、及び/又は用いられる栄養物質、及び/又は用いられる担体物質の点で異なる接種材料組成物を伴う接種材料を、分解される石油炭化水素と繰り返し接触させる、請求項1から6までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項8】
用いられるすべての菌株及び/又はそれらの酵素組成物が、接種材料中に等しい体積比率で存在する、請求項1から7までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項9】
分解される石油炭化水素を、+7℃を下回る周囲温度で接種材料と接触させる、請求項1から8までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項10】
高含量の窒素及びリン酸を伴う、有機又は無機栄養物質を特徴とする、請求項1から9までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項11】
栄養物質が、また、担体物質上に固定化される、請求項1から10までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項12】
分解される石油炭化水素を、固体の粒子形態で海氷上及び/又は水面上に拡散させることにより接種材料と接触させる、請求項1から11までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項13】
分解される石油炭化水素を、液体形態で
海氷上に注入又は噴霧することにより、及び/又は、
氷下の水柱内に導入又はポンプ注入することにより、
接種材料と接触させる、請求項1から11までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項14】
接種材料が、放水銃を用いる船舶、又は、飛行機若しくはヘリコプターから散布される、請求項12又は13に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項15】
少なくとも2つの異なる担体物質が用いられる、請求項1から14までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項16】
分解される石油炭化水素が、海氷上若しくは海氷内、及び/又は、海水上若しくは海水内に位置するかどうかに応じて、疎水性及び/又は親水性の担体物質が用いられる、請求項1から15までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項17】
脂肪酸により被覆される無機栄養物質、
膜により囲まれるアラミドポリマー製ビーズ及び活性炭、
繊維形成タンパク質、
ポリソルベート80により被覆される魚粉、又は
おがくず
の形態における異なる組成物の粒子状担体物質を特徴とする、請求項1から16までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項18】
担体物質が、栄養物質供給源としても役立つよう適合される、請求項1から17までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項19】
菌株が使用まで新鮮な形態又は保存形態で保管され、新鮮な形態での保管が炭化水素が豊富な栄養物質溶液中でなされる、請求項1から18までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項20】
新鮮な菌株又は再生した菌株が、液体1ml当たり少なくとも1×10個の細菌密度が達せられるまで、石油炭化水素の添加を伴う無機培地中において+7℃を下回る温度で培養される、請求項19に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項21】
大量の石油炭化水素の好気性分解のための追加の方法を特徴とする、請求項1から20までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項22】
使用場所における天然の微生物叢を修復するためにも用いられる、請求項1から21までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法。
【請求項23】
外生の炭化水素分解菌を伴うバイオオーギュメンテーション及び栄養物質の添加による、海氷で覆われた極地域における石油炭化水素の加速的な生物分解のための、請求項1から22までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法を実施する手段としての細菌混合物であって、
12〜36カ月間にわたる実験室のメソコスム設定条件における濃縮、及び、その後の優勢菌株の単離により生成しうる菌株の組合せを特徴とし、前記メソコスムが、既存の汚染地又は潜在的な汚染地に由来する海氷により調製され、原油により人工的に汚染され、栄養物質を供給され、氷/水状況が安定であるよう−3℃でインキュベートされる、上記細菌混合物。
【請求項24】
ドイツ、ブラウンシュバイク、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH[ドイツ微生物細胞培養物コレクション])に寄託され、以下の呼称及び受託番号を有する少なくとも以下の菌株:
ロドコッカス(Rhodococcus)属GH−1
(DSM 18943、DSMZ2006年12月22日)
ディエジア(Dietzia)属GH−2
(DSM 18944、DSMZ2006年12月22日)
シュワネラ(Shewanella)属GH−4
(DSM 18946、DSMZ2006年12月22日)
マリノバクター(Marinobacter)属GH−9
(DSM 18951、DSMZ2006年12月22日)
シュードモナス(Pseudomonas)属GH−10
(DSM 18952、DSMZ2006年12月22日)
オレイスピラ(Oleispira)属GH−11
(DSM 18953、DSMZ2006年12月22日)
からなる、請求項23に記載の細菌混合物。
【請求項25】
ドイツ、ブラウンシュバイク、DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH[ドイツ微生物細胞培養物コレクション])に寄託され、以下の呼称及び受託番号を有する以下の菌株:
マリノバクター(Marinobacter)属GH−3
(DSM 18945、DSMZ2006年12月22日)
マリノモナス(Marinomonas)属GH−5
(DSM 18947、DSMZ2006年12月22日)
シュードアルテロモナス(Pseudoalteromonas)属GH−6
(DSM 18948、DSMZ2006年12月22日)
サイクロバクター(Psychrobacter)属GH−7
(DSM 18949、DSMZ2006年12月22日)
ジャナシア(Jannaschia)属GH−8
(DSM 18950、DSMZ2006年12月22日)
の少なくとも1つを細菌混合物に添加し、分解スペクトルを拡張し、油乳化能を増強することを特徴とする、請求項23又は24に記載の細菌混合物。
【請求項26】
菌株が遺伝子改変される、請求項23から25までのいずれか一項に記載の細菌混合物。
【請求項27】
各種の既知の菌株がアーカイブに寄託され、バイオレメディエーション法が用いられるべき具体的な事故に応じて、個々の菌株が迅速に入手できるようにされる、請求項23から26までのいずれか一項に記載の細菌混合物。
【請求項28】
外生の炭化水素分解菌を伴うバイオオーギュメンテーション及び栄養物質の添加による、海氷で覆われた極地域における石油炭化水素の加速的な生物分解のための、請求項1から22までのいずれか一項に記載のバイオレメディエーション法を実施する手段としての、炭化水素を分解する酵素混合物であって、
請求項20から23までのいずれか一項に記載の細菌混合物を生成する菌株から生成しうる、異なる酵素又は酵素組成物の組合せを特徴とする、上記酵素混合物。

【公表番号】特表2010−516233(P2010−516233A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545813(P2009−545813)
【出願日】平成20年1月6日(2008.1.6)
【国際出願番号】PCT/DE2008/000018
【国際公開番号】WO2008/089718
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(508119448)シュティフトゥンク アルフレット − ヴェーゲナー − インスティチュート フェール ポーラー − ウント メーレスフォルシュンク (4)
【Fターム(参考)】