説明

海洋支柱構造物

【課題】海水の循環を行う機能を有する海洋支柱を、設置場所を限定せず、ケーソン等に比べて廉価に施工できるようにする。
【解決手段】港湾用浮揚構造物の管状支柱1である。上部支柱2及び下部支柱3と、下部支柱3内に海水を流入可能なように、上部支柱2と下部支柱3の内部に嵌め合わせて両支柱2,3間に開口部を形成すべく配置した不連続部4と、下部支柱3の上部壁面外周部に、自身の浮力によって潮位に応じた上下移動が可能なように取り付けた傘状付加物5を備える。下部支柱3の下部壁面には周方向に所定間隔を存して排出口3aを設けると共に、傘状付加物5における下部支柱3の上部壁面外周部と相対する内周面には、摺動部或いは転動部5dを設けた。
【効果】傘状付加物を波が越波もしくは遡上して、不連続部に形成した開口部から下部支柱内に海水が流入し、排水口から流出するので、海水が鉛直循環して海底付近の貧酸素化を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底付近に比べて海面付近の海水温が高く、海水の循環が滞る夏期の閉鎖性港湾において、海水を効率的に鉛直循環させる機能を有した支柱構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、港湾などは防波堤などによって囲まれることが多いので、外海との海水交換が少なく、水質の悪化が進行している。特に、夏期になると、前記閉鎖性港湾においては、強固な密度成層(違う密度の流体の集まりが、同じ密度毎に集まって層をつくっている状態)が発達して、表層と底層の海水が混ざりにくくなるため、海水の循環が滞り、表層から底層へ十分な酸素が供給されず、底層にて貧酸素化が発生する。加えて、港湾内の桟橋周辺では、海水が澱みやすいという問題がある。さらに、水質が悪化すると海に対する景観に悪影響を与えるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決する手段として、特許文献1に記載された浮遊式海水交流装置や、鉛直循環流誘起護岸、海水循環機能を有するケーソンなどがある。
【特許文献1】特許第2660678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置は、浮体式であるために重量に制限があり、構造物を支持する支柱としての役割を果たすことはできない。
また、護岸やケーソンは、大規模な構造となって設置場所が限定される。
【0005】
本発明が解決しようとする問題点は、海水の循環を行う従来の技術は、支柱としての役割を果たすことができなかったり、また大規模な構造となって設置場所が限定されるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の海洋支柱構造物は、
設置場所を限定せず、ケーソン等に比べて廉価に施工できるように、海水の循環を行う機能を海洋支柱に持たせるようにするために、
荷役の積み下ろしや乗客の昇降に使用する港湾用浮揚構造物の脚として備えさせる管状の支柱において、
両端側に配される上部支柱及び下部支柱と、
前記下部支柱内に海水を流入可能なように、一方端部を前記上部支柱の内部に、他方端部を前記下部支柱の内部に嵌め合わせて、前記両支柱間に開口部を形成すべく配置した不連続部と、
前記下部支柱の上部壁面外周部に、自身の浮力によって潮位に応じた上下移動が可能なように取り付けた傘状の付加物を備え、
前記下部支柱の下部壁面には周方向に所定間隔を存して排出口を設けると共に、
前記傘状付加物における前記下部支柱の上部壁面外周部と相対する内周面には、摺動部或いは転動部を設けたことを最も主要な特徴としている。
【0007】
本発明の海洋支柱構造物において、前記下部支柱の内部に礫を充填した場合には、海水の浄化機能をも備えさせることができるようになる。
【0008】
また、本発明の海洋支柱構造物において、前記下部支柱の外周面に海藻の種子又は苗、或いは、海藻の種子及び苗を取り付けた場合には、藻場としての役割をも果たすことができるようになる。
【0009】
また、本発明の海洋支柱構造物において、前記傘状付加物の周方向断面を三角形とした場合には、越波による海水の流入を促進できるので、支柱内に取り込む水量を増大させることができる。
【0010】
この場合、周方向断面が三角形の傘状付加物の傾斜角は特に限定されないが、遡上による海水の流入をも考慮する場合は、波の最大傾斜角をθmax、傘状付加物の傾斜角をφとすると、θmax≧φとなるように傘状付加物の傾斜角を決定することが望ましい。
【0011】
また、前記傘状の付加物を、形状が異なる周方向断面を有する第1傘状部と第2傘状部を上下に配置し、第1傘状部は周方向半断面が長方形を斜めに切断した不等辺四辺形、第2傘状部は周方向半断面が三角形となし、前記第1傘状部の高さを、所定地点での波高以下にし、また、前記第2傘状部の傾斜角を、所定地点での波の傾斜角度以下にしたものであっても良い。この場合は、波浪を第1傘状部には当てずに、第2傘状部の斜面に乗せながら遡上させることができるようになる。
【0012】
また、本発明の海洋支柱構造物において、前記傘状付加物の外表面上に、円周方向に所定間隔を存して複数個の隔壁を設けた場合は、海水が隔壁間を整流しながら遡上するので、支柱内に取り込む水量を増大させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、港湾用浮揚構造物の脚として備えさせる管状の支柱の構成を上述のようにすることで、潮位に対して常に一定の高さ位置にある傘状付加物を波が越波もしくは遡上して、不連続部に形成した開口部から下部支柱内に海水が流入し、排水口から流出するので、海水が鉛直循環して海底付近の貧酸素化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための各種の形態と共に最良の形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。
本発明は、荷役の積み下ろしや乗客の昇降に使用する港湾用浮揚構造物、例えば図1に示すような桟橋Aの脚として備えさせる管状の支柱1に関する発明である。
【0015】
つまり、本発明では、前記管状の支柱1を、例えば図2に示したように、両端側に配置する上部支柱2及び下部支柱3と、これら両支柱2,3間に配置した不連続部4と、前記下部支柱3の上部壁面外周部に取り付けた傘状の付加物5とで構成している。
【0016】
そして、前記不連続部4は、例えば図3に示すように、下部支柱3内に海水を流入可能な開口部を形成すべく横断面が十字形状となされ、その一方端部を上部支柱2の内部に、他方端部を下部支柱3の内部に嵌め合わせて、溶接固定している。
【0017】
支柱1全体の曲げや圧縮に対する強さを考えると、上部支柱2や下部支柱3の円柱の部分よりも、十字形状の不連続部4のほうが弱いので、不連続部4の厚みは、上部支柱2や下部支柱3の厚みよりも厚くしておくのが望ましい。
【0018】
また、上部支柱2や下部支柱3の内部に挿入する不連続部4の長さL2は、構造の規模に応じて決定する。また、上部支柱2と下部支柱3の間の不連続部4の長さL1は、施工する段階で現地の潮位状況を考慮して決定する。
【0019】
前記下部支柱3の下部壁面には、周方向に所定間隔を存して例えば4個の排出口3aが設けられているが、その下端部は、図1に示すように、海底に埋め込まれるので、前記排出口3aが設けられる位置は、下部支柱3の海底Gより少し上方である。
【0020】
前記傘状付加物5は、例えば図4に示したように、傘状の頂点部分を切り取った後の形状をした傘状板面5aと、傘状板面5aの小円側の縁5aaに一方の縁5baを固定した管状板面5bと、これら両板面5a,5bの間にあって、周方向の間隔を存して複数個取り付けられた三角リブ5cとで、周方向断面が三角形となるように構成されている。
【0021】
また、傘状付加物5における下部支柱3の上部壁面外周部と相対する内周面には、例えば図4に示すように転動部5dが設けられ、前記構成とによって、図5に示すように自身の浮力によって潮位に応じた上下移動が可能なようにしている。
【0022】
このような構成の本発明の支柱1では、海面に浮遊している傘状の付加物5に到来した波は、海面Sが傘状付加物5よりも上である場合は乗り越えて越波となって、また、海面Sが傘状付加物5の傘状板面5aと同じ高さである場合は遡上した流れとなって、上部支柱2と下部支柱3間の開口部から下部支柱3内に流入する。
【0023】
下部支柱3内に流入した海水は、海面Sと下部支柱3内の水位との水頭差によって鉛直下方に流れ、下部支柱3の下部に設けた排出口3aから海底付近に放出される。
このような動作が繰り返されることで、海水が鉛直に循環し、海底付近の海水の貧酸素化が防止される。
【0024】
本発明の支柱1を採用することで、前述のように海底付近の海水の貧酸素化が防止されるが、海水が汚濁または貧酸素化しやすい港湾側の海底に設置する支柱1には、図6に示したように、下部支柱3の内部に礫6を充填することで、溶存酸素を含んだ浄化水が海底Gに排出され、より海水を浄化できる。この場合、海水の下方への流れを制限しないように、十分に粒径の大きい礫6を採用することが望ましい。
【0025】
また、水質浄化や酸素生産のために、図7に示したように、海藻の種子や苗などの海藻が着生し易い材料7を下部支柱3の外周面に被覆し藻場としての役割を備えさせても良い。海藻の種子や苗などの海藻が着生し易い材料7としては、海藻の種子を埋め込んだシートや、海藻の苗を植え付けた縄などが考えられる。
【0026】
ところで、越波による海水の流入は、海面Sが傘状付加物5の高さ以上になった場合に起こるのに対し、遡上による海水の流入の場合は、傘状板面5aに波が乗っても、波の傾斜角θmaxが傘状板面5aの傾斜角φよりも小さければ遡上できない。従って、θmax≧φとなるように傘状付加物5(傘状板面5a)の傾斜角φを決定することが望ましいことは先に説明した通りである。
【0027】
この波の傾斜角θmaxは、例えば次のようにして求める。
式L/T=((gL/2π)tanh(2πh/L))1/2に、g(重力加速度)及びh(水深)を代入すると共に、T(周期)には対象とする港湾で卓越して観測される有義波周期T1/3を代入して、未知量L(波長)を求める。
【0028】
次に、前記式で求めたLと、対象とする港湾で卓越して観測される有義波高H1/3を、θmax=(2π/L)・(H/2)に代入すれば良い。
ちなみに、夏期の大阪湾を対象とし、有義波高H1/3を0.4m、有義波周期T1/3を4Hz、水深hを10mとすると、波の傾斜角θmaxは3.6度となる。
【0029】
このようにして求めた波の傾斜角θmax、すなわち傘状付加物5(傘状板面5a)の傾斜角φが小さい場合には、傘状付加物5を、図8に示すような形状として、波が傘状付加物5の下に入り込まないようすることが望ましい。
【0030】
図8に示した傘状付加物5は、形状が異なる周方向断面を有する第1傘状部5eと第2傘状部5fを上下に配置し、第1傘状部5eは周方向半断面が長方形を斜めに切断した不等辺四辺形、第2傘状部5fは周方向半断面が三角形となるようにし、第1傘状部5eの高さh1を、所定地点での波高以下にし、また、第2傘状部5fの傾斜角φを、所定地点での波の傾斜角度以下にしたものである。
【0031】
なお、第1傘状部5eの高さh1を所定地点での波高以下にしたのは、波高より高くすると、第2傘状部5fの傾斜面に波が乗れず、第1傘状部5eの傾斜面に衝突してしまうからである。また、第2傘状部5fの傾斜角φを、所定地点での波の傾斜角度以下にするのは、前述と同じ理由である。
【0032】
以上の例では、傘状付加物5の外表面には突起を設けていないが、突起がない場合、傘状付加物5の外表面を海水が遡上する時、水流が分散し易いという問題がある。
従って、この問題を解決するためには、図9に示したように、傘状付加物5の円周方向に所定間隔を存して複数個の隔壁8を設ければ良い。このように隔壁8を設けた場合は、海水が隔壁8間を整流しながら遡上するので、支柱1内に取り込む水量が増大する。
【0033】
本発明は、前述の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範囲内において、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0034】
例えば、傘状付加物5は、上述の例では平面視円形をしているが、図10に示したように、平面視6角形のような多角形としても良い。また、図11に示したような平面視扇型や図12に示したような図10と図12を組合わせた形状としても良い。但し、この場合は、傘状付加物5を設けない、図11の紙面右側部分は、開口部を設ける必要がないので、上部支柱2と下部支柱3の間の不連続部4は鋼板で覆っておく。
【0035】
また、図1では、支柱全てに本発明の支柱1を採用したものを示しているが、必要な箇所の支柱のみに本発明の支柱1を採用しても良い。また、全ての支柱に本発明の支柱1を採用する場合でも、図13のように傘状付加物5の設置位置を、満潮ライン、干潮ライン、中間ラインに分けて設置し、潮位によらず何れかの支柱1が海水交換できるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】桟橋の脚として備えさせる管状の支柱に本発明の支柱を適用した例を示す図である。
【図2】本発明の支柱構造を説明する図である。
【図3】上部支柱、下部支柱と不連続部の取り合いを説明する図である。
【図4】傘状付加物における下部支柱の上部壁面外周部と相対する内周面を説明する図で、(a)は全体図、(b)は要部拡大図である。
【図5】(a)(b)は、傘状付加物が自身の浮力によって潮位に応じた上下移動しているのを説明する図である。
【図6】下部支柱の内部に礫を充填した例を説明する図である。
【図7】海藻の種子や苗などの海藻が着生し易い材料を下部支柱の外周面に被覆した例を説明する図である。
【図8】傘状付加物の他の例を説明する図である。
【図9】傘状付加物の傾斜面に設ける隔壁を説明する図である。
【図10】傘状付加物が6角形状の場合の図で、(a)は平面から見た図、(b)は断面図である。
【図11】傘状付加物が扇型の場合の図で、(a)は平面から見た図、(b)は断面図である。
【図12】傘状付加物が多角形と扇型を組合わせた形状の場合の図で、(a)は平面から見た図、(b)は断面図である。
【図13】傘状付加物の設置位置の他の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0037】
1 支柱
2 上部支柱
3 下部支柱
4 不連続部
5 傘状付加物
5e 第1傘状部
5f 第2傘状部
5d 転動部
6 礫
7 海藻が着生し易い材料
8 隔壁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役の積み下ろしや乗客の昇降に使用する港湾用浮揚構造物の脚として備えさせる管状の支柱において、
両端側に配される上部支柱及び下部支柱と、
前記下部支柱内に海水を流入可能なように、一方端部を前記上部支柱の内部に、他方端部を前記下部支柱の内部に嵌め合わせて、前記両支柱間に開口部を形成すべく配置した不連続部と、
前記下部支柱の上部壁面外周部に、自身の浮力によって潮位に応じた上下移動が可能なように取り付けた傘状の付加物を備え、
前記下部支柱の下部壁面には周方向に所定間隔を存して排出口を設けると共に、
前記傘状付加物における前記下部支柱の上部壁面外周部と相対する内周面には、摺動部或いは転動部を設けたことを特徴とする海洋支柱構造物。
【請求項2】
前記下部支柱は、内部に礫を充填したものであることを特徴とする請求項1に記載の海洋支柱構造物。
【請求項3】
前記下部支柱は、外周面に海藻の種子又は苗、或いは、海藻の種子及び苗を取り付けたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の海洋支柱構造物。
【請求項4】
前記傘状の付加物は、周方向断面が三角形であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の海洋支柱構造物。
【請求項5】
前記傘状の付加物は、形状が異なる周方向断面を有する第1傘状部と第2傘状部を上下に配置し、第1傘状部は周方向半断面が長方形を斜めに切断した不等辺四辺形、第2傘状部は周方向半断面が三角形であり、
前記第1傘状部の高さを、所定地点での波高以下にし、
前記第2傘状部の傾斜角を、所定地点での波の傾斜角度以下にしたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の海洋支柱構造物。
【請求項6】
前記傘状の付加物は、外表面に円周方向に所定間隔を存して複数個の隔壁を設けたものであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の海洋支柱構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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