説明

海藻養殖用網の処理方法及び細菌

【課題】 環境に悪影響を与えることなく簡単な設備で廉価に実施できる海藻養殖用網の処理方法及びその処理に用いる細菌を提供する。
【解決手段】 処理槽1内に海藻養殖用網10を投入し、この処理槽1内に処理用液Wを海藻養殖用網10が浸るように流入させた後に、蓋部材2にて処理槽1の開口を塞止し、処理槽1内の処理用液Wを30℃〜60℃程度まで昇温させる。そして、処理槽1内の処理用液Wに処理用細菌Bを添加し、1日に1〜数回、処理槽1内を攪拌する操作を数時間〜1週間程度行うことによって、摘取残渣の一部又は全部を分解し、海藻養殖用網10,10,…から摘取残渣を脱離・除去させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔といった海藻の養殖に用いた網を処理する方法及びその処理に用いる細菌に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海苔の養殖では、胞子を着生・発芽させた海苔網を海中に配置し、当該海苔網表面に成長した葉体を適宜の期間を隔てて複数回摘み取るという作業が、1シーズンに一又は複数回行われている。このような海苔養殖に用いた海苔網は次のシーズンにも使用されるが、養殖に用いた海苔網には海苔の摘取残渣が着生しているため、既使用の海苔網に再び胞子を着生させる作業を行う前に、当該海苔網から摘取残渣を除去しておくことが重要である。
かかる摘取残渣の除去は一般的に、養殖後の海苔網を野積み又は土中へ埋置して摘み取り残渣を腐敗させることによって行われていた。
【0003】
また、後記する特許文献1では、被電解水として海水又は塩化ナトリウム水溶液を有隔膜電解槽内に貯留し、この有隔膜電解槽内で被電解水を電解して生成された強アルカリ性水をコンベアで搬送される海苔網上に散布すると共に円筒状の洗浄ブラシを海苔網に転接させることによって海苔網から摘取残渣を除去処理する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−154053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者の腐敗によって海苔網を処理する方法では、処理に長期間を要するのに加え、生成した摘取残渣の腐敗物が自然界に放出されるため、環境に悪影響を与えるという問題があった。
【0005】
一方、後者の処理方法では、処理時間は短いものの、有隔膜電解槽及び強アルカリ性水の散布・洗浄装置等、大規模な設備が必要であるのに加え、除去処理に大量の被電解水を要すると共に被電解水の電解に大量の電力を消費するという問題があった。また、環境に悪影響を与えることを防止するため、除去処理後の摘取残渣を含む大量の電解水を浄化処理しなければならないという問題もあった。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、環境に悪影響を与えることなく簡単な設備で廉価に実施できる海藻養殖用網の処理方法及びその処理に用いる細菌を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本発明は、海藻の養殖に用いた海藻養殖用網を処理する方法において、1又は複数の前記海藻養殖用網を処理槽内に配置する一方、その前後に適宜塩濃度の処理用液を前記処理槽内へ流入させて前記海藻養殖用網を浸漬させ、前記処理用液に含まされ、低温側生育限界温度が少なくとも30℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求する処理用細菌によって前記海藻養殖用網に残存する海藻を除去することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の本発明は、請求項1において、 前記処理用細菌として、前記海藻を分解する能力を有するミクロブルビファ エスピー エムビー−エルワン(Microbulbifer sp.MB-L1)(FERM AP−21251)を用いることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の本発明は、請求項2において、前記処理用細菌として、マリノバクター エスピー アールビー−エヌシースリー(Marinobacter sp.RB-Nc3)(FERM AP−21250)及び/又はバチルス エスピー ビーエル−ジーセブンティーツー(Bacillus sp.BL-G72)(FERM AP−21249)を更に用いることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の本発明は、請求項1から3のいずれかにおいて、前記処理用液は、1質量/容量%以上3質量/容量%以下のNaClを含有することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の本発明は、海藻の養殖に用いた海藻養殖用網の処理に使用する細菌であって、低温側生育限界温度が40℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求し、前記海藻を分解する能力を有するミクロブルビファ エスピー エムビー−エルワン(Microbulbifer sp.MB-L1)(FERM AP−21251)であることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の本発明は、海藻の養殖に用いた海藻養殖用網の処理に使用する細菌であって、低温側生育限界温度が30℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求するマリノバクター エスピー アールビー−エヌシースリー(Marinobacter sp.RB-Nc3)(FERM AP−21250)であることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の本発明は、海藻の養殖に用いた海藻養殖用網の処理に使用する細菌であって、低温側生育限界温度が40℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求するバチルス エスピー ビーエル−ジーセブンティーツー(Bacillus sp.BL-G72)(FERM AP−21249)であることを特徴とする。
【0014】
本発明者らは、海藻養殖用網に付着している海藻を微生物を用いて除去すべく、所要の細菌を分離することに成功して本発明を完成するに至った。
すなわち、分離した細菌は、低温側生育限界温度が40℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求し、前記海藻を分解する能力を有するMicrobulbifer sp.MB-L1(FERM AP−21251)、このMicrobulbifer sp.MB-L1(FERM AP−21251)と併用され、低温側生育限界温度が30℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求するMarinobacter sp.RB-Nc3(FERM AP−21250)及び低温側生育限界温度が40℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求するBacillus sp.BL-G72(FERM AP−21249)である。
【0015】
後二者の2菌株は、海藻を分解する能力は殆ど認められなかったものの、前者のMicrobulbifer sp.MB-L1(FERM AP−21251)による海藻の分解を補助・促進する能力を有している。従って、後二者の2菌株は、低温側生育限界温度が40℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求し、前記海藻を分解する能力を有するMicrobulbifer sp.MB-L1(FERM AP−21251)と併用される。
【0016】
これらの細菌の低温側生育限界温度は少なくとも30℃である一方、海藻の養殖温度は略25℃以下であるので、当該細菌は海藻の養殖環境では増殖できず、処理後の養殖用網に細菌が残留していた場合であっても、海藻の養殖に影響を及ぼさない。
従って、処理後の養殖用網を更に滅菌処理する等の作業を行うことなく次の養殖に使用することができ、処理作業が容易である。
【0017】
これらの細菌を用いて海藻養殖用網を処理するには、処理槽内の海藻養殖用網を適宜塩濃度の処理用液で浸漬する。すなわち、処理槽内に海藻養殖用網を配置し、そこに処理用液を流入して海藻養殖用網を処理用液で浸漬する。または、処理槽内に処理用液を流入させ、そこに海藻養殖用網を投入して海藻養殖用網を処理用液で浸漬する。
【0018】
そして、海藻養殖用網浸漬の前後に、低温側生育限界温度が少なくとも30℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求する処理用細菌を前記処理用液に添加し、又は、処理用液で処理用細菌を培養しておき、該処理用細菌によって前記海藻養殖用網に残存する海藻を除去する。
処理の温度は40℃〜50℃程度が好ましいが、30℃〜60℃であればよい。
【0019】
なお、処理用液の温度は一定に維持する必要はなく、1日の内で数時間、適宜温度になればよい。例えば、日中、太陽光の吸収によって処理用液を昇温させるようにしてもよい。
このように処理用細菌によって海藻養殖用網を処理するため、数時間〜1週間程度と比較的短い期間で処理を行うことができる。
また、処理槽内の処理用液に含まれる処理用細菌によって海藻養殖用網に残存する海藻を除去する処理を行うため、簡単な設備で廉価に実施することができる。
【0020】
一方、処理槽内で処理するため、環境に悪影響を与えることがない。また、処理後の液体内には海藻の分解によって生じたアミノ酸、核酸、ヨウ素等の有用物質が含まれるため、そのまま又は有用物質の抽出用原料として利用することができる。
【0021】
ところで、処理用液は、1質量/容量%以上3質量/容量%以下のNaClを含有するため、かかる塩濃度では本発明に係る細菌は好適に生育できるが、他の多くの細菌はその増殖が阻害されるため、雑菌の混入による弊害が抑制される。
【0022】
一方、処理用細菌はその生育に所要の塩濃度を要求するため、淡水環境に放出された場合であっても、当該環境を汚染することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(本発明の実施形態)
まず、本発明に係る細菌について説明する。
(細菌の分離)
海苔分解能を有する一方、海苔養殖期には生育できない細菌を次のようにして分離した。
佐賀県有明水産センター周辺の複数箇所から土壌をそれぞれ採取し、海水100mlにつき生海苔を1gの割合で添加してなる海苔液体培地5mlをそれぞれ分注した複数の大型ml試験管に各土壌1gを各別に分取し、それぞれ50℃で数日間振とう培養することによって、海苔分解能を有し、また、海水温度より高い温度で生育する細菌を集積培養した。
【0024】
海苔分解能が高かった試験管より集積培養液を0.1ml採取し、そのまま、又は適宜希釈して海苔寒天培地を分注したプレート上に拡散塗布し、50℃で培養して単コロニー分離を行った。
【0025】
ここで海苔寒天培地は次のようにして調整した。すなわち、前述した海苔液体培地中の生海苔に代えて乾燥海苔を同じ割合で添加したものをホモジナイズ処理した後に濾過して海苔残渣を除去し、得られた濾液に寒天(和光純薬工業株式会社)を1.5質量/容量%となるように添加し、オートクレーブにより滅菌して海苔寒天培地を得た。
【0026】
各単コロニーを形成した菌体を無菌的に採取して滅菌水に懸濁させ、前同様、海苔寒天培地を分注したプレート上に拡散塗布して単コロニー分離を行った。形態が異なる複数の単コロニーから菌体をそれぞれ無菌的に採取して各別に海苔寒天斜面培地に塗布し、それぞれ50℃で培養して保存菌株とした。
そして、これら各保存菌株について、海苔分解能、成長速度及び形態等の観点より3株を選択した。
【0027】
(細菌の同定)
前述したようにして得た3菌株について、16S rDNA解析により同定を行ったところ、後記する配列番号1に示した塩基配列を有する菌株はMicrobulbifer属の細菌と95%の相同性が認められ、配列番号2に示した塩基配列を有する菌株はMarinobacter属の細菌と99%の相同性が認められ、配列番号3に示した塩基配列を有する菌株はBacillus属の細菌と97%の相同性が認められた。
【0028】
発明者らは、これらの細菌をミクロブルビファ エスピー エムビー−エルワン(Microbulbifer sp.MB-L1)、マリノバクター エスピー アールビー−エヌシースリー(Marinobacter sp.RB-Nc3)、バチルス エスピー ビーエル−ジーセブンティーツー(Bacillus sp.BL-G72)と命名して、独立行政法人産業技術総合研究所の特許生物寄託センターに寄託し、前者にはFERM AP−21251、中者にはFERM AP−21250、後者にはFERM AP−21249の受領番号の付与を受けた。
【0029】
(菌学的性質)
前記3株についての菌学的性質を検討した結果を次の表に示す。なお、菌学的性質の検討はBergey's Manual of Determinative Bacteriology 第9版に記載された方法に準じて行った。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表に示した菌学的性質より、Microbulbifer sp.MB-L1(FERM AP−21251)、Marinobacter sp.RB-Nc3(FERM AP−21250)、及びBacillus sp.BL-G72(FERM AP−21249)はいずれも新菌株であることが示された。
ところで、表に示したように、生育温度は3菌株とも40℃から60℃で生育し、至適生育温度は50℃であった。なお、Marinobacter sp.RB-Nc3は30℃でも生育したが、20℃では生育が認められなかった。
【0032】
ここで、後述するように海苔の分解には少なくともMicrobulbifer sp.MB-L1の存在が必要であり、この細菌は30℃での生育は認められなかった。一方、海苔養殖期の海水温度は30℃に達することはない。従って、Microbulbifer sp.MB-L1、Marinobacter sp.RB-Nc3、及びBacillus sp.BL-G72が自然界である海に放出された場合であっても、海苔の養殖に影響を及ぼすことはない。
【0033】
また、Microbulbifer sp.MB-L1はNaCl濃度が1〜3質量/容量%の範囲で、Marinobacter sp.RB-Nc3はNaCl濃度が0.5〜7質量/容量%の範囲で、Bacillus sp.BL-G72はNaCl濃度が1〜5質量/容量%の範囲で生育することができたが、いずれもNaCl濃度が0質量/容量%の環境では生育することができなかった。従って、これらの細菌が河川及び池等の淡水環境に放出された場合であっても、当該環境を汚染することはない。
(海苔分解能)
Microbulbifer sp.MB-L1、Marinobacter sp.RB-Nc3、及びBacillus sp.BL-G72をそれぞれ単独で、また組み合わせて海苔分解能を検討した。
【0034】
海水1000mlにポリペプトン(日本製薬株式会社)15g及び酵母エキス(日本製薬株式会社)1gの割合で溶解させてなるZoBell培地を用いて、前記3菌株を各別に50℃で振とう培養し、培養液0.1mlを前述した海苔液体培地10mlに接種し、50℃で1晩振とう培養した後、各海苔液体培地中の海苔の状態を目視によって確認した。なお、各培養液の接種は、各菌株を単独で、任意の2菌株を組み合わせて、及び3菌株を組み合わせて行った。
【0035】
その結果、各菌株を単独で接種した場合、Microbulbifer sp.MB-L1では海苔の分解が確認されたが、他の菌株では海苔の分解は確認されなかった。
【0036】
また、任意の2菌株を組み合わせて接種した場合、Microbulbifer sp.MB-L1を含む組み合わせでは海苔の分解が確認されたが、Microbulbifer sp.MB-L1を含まない組み合わせでは海苔の分解が確認されなかった。
【0037】
一方、3菌株を組み合わせて接種した場合は海苔の分解が確認された。
【0038】
また、Microbulbifer sp.MB-L1を単独で接種した場合と、Microbulbifer sp.MB-L1を含む2菌株又は3菌株を組み合わせて接種した場合とで、海苔の分解の程度を目視により比較観察したところ、単独より組み合わせた場合の方が海苔の分解の程度は良好であった。
【0039】
次に、海苔分解能を示した菌株及び組み合わせと海苔の量と関係に付いて検討した。
【0040】
Microbulbifer sp.MB-L1、Marinobacter sp.RB-Nc3、及びBacillus sp.BL-G72 を各別にZoBell培地を用いて培養し、各培養液の一部を前述した海苔液体培地に接種して、50℃で一晩培養した。このようにして得たMicrobulbifer sp.MB-L1の培養液を、生海苔を0.1g又は0.5g分取した複数の大型試験管に10mlづつ分注し、50℃で振とう処理した。なお、菌株を組み合わせる場合は、前述したように得たMarinobacter sp.RB-Nc3の培養液を0.1ml及び/又はBacillus sp.BL-G72の培養液を0.1ml、前記大型試験管に添加した。
【0041】
そして、24時間ごとに処理液1mlを採取し、15000rpmで10分間遠心分離して上清を得、マルチパーパス(株式会社島津製作所)を用いて565nmによるフィコエリスリンの吸光度を測定した。
その結果を図2及び図3に示した。
【0042】
図2は0.1gの海苔に対する分解試験を行った結果を示す折れ線グラフであり、図3は0.5gの海苔に対する分解試験を行った結果を示す折れ線グラフである。両図中、◇印はMicrobulbifer sp.MB-L1単独で処理した場合を、□印はMarinobacter sp.RB-Nc3と組み合わせて処理した場合を、△印はBacillus sp.BL-G72と組み合わせて処理した場合を、×印は3菌株を組み合わせて処理した場合をそれぞれ示している。
【0043】
図2から明らかなように、被処理物である海苔の量が処理用細菌の量に対して相対的に少ない場合は、処理用細菌は単独であっても組み合わせても、海苔の分解速度は略同じであった。
一方、図3から明らかなように、被処理物である海苔の量が処理用細菌の量に対して相対的に多い場合は、処理用細菌は単独である場合より組み合わせた場合の方が海苔は早期に分解されていた。
従って、比較的多くの海藻養殖用網を処理する場合、Microbulbifer sp.MB-L1とMarinobacter sp.RB-Nc3とを組み合わせて使用するとよい。
【0044】
次に、海苔の分解に対する菌数の影響を検討した。
【0045】
Microbulbifer sp.MB-L1をZoBell培地で種々の菌数濃度になるまで培養し、各10μl又は100μlを採取して前述した海苔液体培地5mlが分注された複数の試験管に各別に接種して50℃で一晩振とう培養して、海苔が分解されるか否かを目視にて検討した。また、Marinobacter sp.RB-Nc3、及びBacillus sp.BL-G72 をZoBell培地で培養し、Microbulbifer sp.MB-L1を接種した海苔液体培地に10μlずつ添加して、海苔が分解されるか否かを目視にて検討した。また、各菌数をZoBell培地を用いた寒天重層法により求めた。
【0046】
その結果、海苔を分解するには、Microbulbifer sp.MB-L1単独の場合では、1×105cfu/mlのレベルの菌濃度が必要であった。また、Marinobacter sp.RB-Nc3又はBacillus sp.BL-G72と組み合わせる場合、3菌株とも1×104cfu/mlのレベルの菌濃度が必要であった。
【0047】
次に、本発明に係る海藻養殖用網の処理方法の一例を図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明に係る処理方法の一実施様態を示す一部破断斜視図であり、図中、1は処理槽、また、10は養殖に使用され摘取残渣が残存する海藻養殖用網である。この処理槽1は、折畳んだ状態の海藻養殖用網10,10,…を適宜枚数収納できる容積を有していればよく、液体を保持できる材質であれば硬質材・軟質材のいずれであってもよい。
【0048】
例えば、底面積が1m2で200lの容量の容器を用いた場合、海苔養殖用網10を10〜15枚処理することができる。一方、処理槽1の壁部をシート状になした場合、処理槽 を縮小させた状態で持ち運ぶことができ、処理槽1の運搬作業を容易にすることができる。
【0049】
図1に示した例では、金属製のフレーム部材に防水性を有するシート部材を固定させて処理槽1を構成してある。
処理槽1の周壁は暗系色にしてあり、太陽光を吸収して処理槽1内の温度を上昇させ得るようになっている。また、処理槽1の開口は暗系色の蓋部材2で着脱自在に塞止されるようになっており、蓋部材2で処理槽1の開口を塞止することによって、処理槽1内から外部への放熱を抑制して処理槽1内の温度を更に上昇させ得るようになっている。
【0050】
これによって、海苔養殖用網を処理する主な季節である春季であっても他の熱源を用いることなく、処理槽1内に貯留した処理用液を所要の温度である30℃程度〜60℃程度に昇温させることができる。
【0051】
このような処理槽1を用いて海藻養殖用網10,10,…を次のように処理する。
処理槽1内に海藻養殖用網10,10,…を投入し、この処理槽1内に処理用液Wを少なくとも海藻養殖用網10,10,…が浸るように流入させた後に、蓋部材2にて処理槽1の開口を塞止し、太陽光の吸収によって処理槽1内の処理用液Wを30℃〜60℃程度まで昇温させる。
【0052】
前述した処理用液Wとしては海水を用いることができるが、淡水に1〜3質量/容量%となるようにNaClを溶解させた溶液等、所要の塩濃度を有する液体を用いることができる。更に、適量のタンパク質分解物、酵母エキス等、糖質を除く適宜の栄養素を添加してもよい。
【0053】
一方、処理用細菌Bを調整しておく。処理用細菌Bとしては、Microbulbifer sp.MB-L1を単独で、或いはMicrobulbifer sp.MB-L1とMarinobacter sp.RB-Nc3及び/又はBacillus sp.BL-G72と組み合わせて使用することができる。複数の処理用細菌Bを組み合わせて使用する場合、各処理用細菌Bは各別に培養する。
【0054】
処理用細菌Bの培養にはZoBell培地を使用することができる。なお、かかるZoBell培地以外に、例えばmarine groth2216E培地(和光純薬工業株式会社)等、適当な濃度の塩、ペプチド、及びビタミン類等を含有する培地を使用することができる。
また、このような栄養培地で培養して得た菌体を前述した海苔液体培地に接種して、更に培養するようにしてもよい。
培養条件としては、50℃程度の温度で、振とう培養、又はジャーファーメンタ若しくはタンクによる通気攪拌培養を、半日〜1日程度行うようにする。
【0055】
このようにして得た処理用細菌Bは、そのまま又は遠心分離若しくは濾過によって集菌して用いることができる。なお、集菌して得られた菌体は5℃程度で低温保存してもよいし、凍結乾燥してもよい。低温保存した菌体及び凍結乾燥した菌体にあっては、例えば50℃程度の海水に懸濁させて、数十分〜数時間程度、放置・攪拌して活性化させてから使用するとよい。このとき、乾燥海苔又は生海苔を適量添加しておくことによって、海苔分解能も活性化させることができる。
海苔液体培地で処理用細菌Bを大量培養した場合、得られた培養液を処理用細菌が含まれる処理用液Wとして用いることもできる。
【0056】
本実施の形態では、前述したようにして処理槽1内の処理用液W及び海藻養殖用網10,10,…が所要の温度に達すると、処理槽1内の処理用液Wに処理用細菌Bを添加する。
【0057】
添加量としては、Microbulbifer sp.MB-L1を単独で使用する場合は、添加後の処理用液Wにおいて1×105pfu/ml以上になるようにし、Microbulbifer sp.MB-L1とMarinobacter sp.RB-Nc3及び/又はBacillus sp.BL-G72と組み合わせて使用する場合、各菌株を添加後の処理用液Wにおいて1×104pfu/ml以上になるようにする。
【0058】
なお、Microbulbifer sp.MB-L1、又はMicrobulbifer sp.MB-L1とMarinobacter sp.RB-Nc3及び/又はBacillus sp.BL-G72とを、添加後の処理用液 においてそれぞれ1×107pfu/ml以上になるように添加すると、処理に要する時間を短縮することができる。
【0059】
そして、1日に1〜数回、処理槽1内を攪拌する操作を数時間〜1週間程度行うことによって、摘取残渣の一部又は全部を分解し、海藻養殖用網10,10,…から摘取残渣を脱離・除去させる。
【0060】
このようにして摘取残渣を脱離・除去した海藻養殖用網は、そのまま、又は海水或いは淡水で洗浄してから、次の着胞作業に供される。
なお、淡水で洗浄した場合、海藻養殖用網に残存する処理用細菌Bの生菌数を大幅に減少させることができるため好適である。
このように比較的小さな処理槽1内で処理用細菌Bを用いて処理するため、簡単な設備で廉価に実施できる。また、海苔養殖期の海水温度は30℃に達することはない一方、処理用細菌Bは30℃での生育は認められないため、処理用細菌Bが海に放出された場合であっても、海苔の養殖に影響を及ぼすことはない。更に、処理用細菌Bはいずれも、NaCl濃度が0質量/容量%の環境では生育することができないため、淡水環境に放出された場合であっても、当該環境を汚染することはない。
【0061】
なお、本実施の形態では、処理槽1内に海藻養殖用網10,10,…及び処理用液Wを入れ、これら海藻養殖用網10,10,…及び処理用液Wを昇温してから処理用細菌Bを添加するようにしたが、本発明はこれに限らず、処理槽1内に貯留した処理用液Wを昇温して処理用細菌Bを添加し、その後海藻養殖用網10,10,…を処理用液W内に浸漬するようにしてもよいことはいうまでもない。
【0062】
また、本実施の形態では太陽光によって処理槽1内の温度を昇温するようになしてあるが、本発明はこれに限らず、加熱器を用いて、処理槽1内の処理用液W及び海藻養殖用網10,10,…を昇温するようにしてもよい。加熱器を用いる場合、サーモスタットを併用することによって、処理用液Wの温度を40℃程度〜50℃程度に維持することができ、処理時間を短縮することができる。
【0063】
また、処理槽1内に管体に複数の細孔を開設したノズルを配置しておき、このノズルにコンプレッサから圧縮空気を供給して、ノズルの細孔から処理槽1内の処理用液Wに空気を導入するようにしてもよい。これによって、処理用細菌Bの生育が活性化されるのに加え、ノズルの細孔から放出される多数の泡が海藻養殖用網10,10,…に衝突するため、摘取残渣の脱離が促進される。従って、前述した攪拌作業を省略することができる。
また、攪拌機を備えるようにしてもよいことはいうまでもない。
なお、本実施の形態では、海苔養殖に適用した場合について説明したが、細胞壁の組成が近似している青海苔、モズク、キリンサイ等、他の海藻の養殖用網の処理にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る処理方法の一実施様態を示す一部破断斜視図である。
【図2】0.1gの海苔に対する分解試験を行った結果を示す折れ線グラフである。
【図3】0.5gの海苔に対する分解試験を行った結果を示す折れ線グラフである。
【符号の説明】
【0065】
1 処理槽
2 蓋部材
10 海藻養殖用網
W 処理用液
B 処理用細菌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海藻の養殖に用いた海藻養殖用網を処理する方法において、
1又は複数の前記海藻養殖用網を処理槽内に配置する一方、その前後に適宜塩濃度の処理用液を前記処理槽内へ流入させて前記海藻養殖用網を浸漬させ、前記処理用液に含まされ、低温側生育限界温度が少なくとも30℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求する処理用細菌によって前記海藻養殖用網に残存する海藻を除去することを特徴とする海藻養殖用網の処理方法。
【請求項2】
前記処理用細菌として、前記海藻を分解する能力を有するミクロブルビファ エスピー エムビー−エルワン(Microbulbifer sp.MB-L1)(FERM AP−21251)を用いる請求項1記載の海藻養殖用網の処理方法。
【請求項3】
前記処理用細菌として、マリノバクター エスピー アールビー−エヌシースリー(Marinobacter sp.RB-Nc3)(FERM AP−21250)及び/又はバチルス エスピー ビーエル−ジーセブンティーツー(Bacillus sp.BL-G72)(FERM AP−21249)を更に用いる請求項2記載の海藻養殖用網の処理方法。
【請求項4】
前記処理用液は、1質量/容量%以上3質量/容量%以下のNaClを含有する請求項1から3のいずれかに記載の海藻養殖用網の処理方法。
【請求項5】
海藻の養殖に用いた海藻養殖用網の処理に使用する細菌であって、
低温側生育限界温度が40℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求し、前記海藻を分解する能力を有するミクロブルビファ エスピー エムビー−エルワン(Microbulbifer sp.MB-L1)(FERM AP−21251)。
【請求項6】
海藻の養殖に用いた海藻養殖用網の処理に使用する細菌であって、
低温側生育限界温度が30℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求するマリノバクター エスピー アールビー−エヌシースリー(Marinobacter sp.RB-Nc3)(FERM AP−21250)。
【請求項7】
海藻の養殖に用いた海藻養殖用網の処理に使用する細菌であって、
低温側生育限界温度が40℃であり、生育に適宜の塩濃度を要求するバチルス エスピー ビーエル−ジーセブンティーツー(Bacillus sp.BL-G72)(FERM AP−21249)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−237053(P2008−237053A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79393(P2007−79393)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年12月9日 社団法人 日本生物工学会主催の「平成18年度日本生物工学会大会」に文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年2月22日 国立大学法人 佐賀大学主催の「平成18年度 修士論文発表会」に文書をもって発表
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】