説明

浸漬ノズル

【課題】溶鋼の流通経路となる内孔に不活性ガスを吹き出すようにした浸漬ノズルにおいて、浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸を抑制し、内孔壁面への介在物等の付着を確実に防止できるようにすること。
【解決手段】タンディッシュから鋳型への溶鋼の流通経路となる内孔1と、この内孔1に面するように配置された通気性の内孔体2と、この内孔体2の外周側に形成された中空室3とを備え、中空室3に導入された不活性ガスを内孔体2から内孔1に吹き出す浸漬ノズル10において、中空室3の外周側壁面のうち、少なくとも鋳型のパウダーラインに対応する領域に、その領域の外周側の耐火物5より低通気性の難通気性耐火層7を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造に使用するガス吹き込み機能を有する浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
タンディッシュから鋳型への鋼の注入に浸漬ノズルを使用する連続鋳造工程においては、近年の鋼中へのアルミニウムの添加量の増加等に伴い、浸漬ノズルの内孔壁面に非金属介在物や凝固した金属(以下「介在物等」という。)が付着し、それが成長して浸漬ノズルの内孔を閉塞することが問題となっている。
【0003】
この対策として、浸漬ノズルの内孔に面するように通気性の内孔体を配置し、その外周側に中空室を形成し、この中空室に導入された不活性ガスを内孔体から内孔に吹き出して不活性ガスの皮膜を形成することで、内孔壁面への介在物等の付着を防止するという対策が採用されている。
【0004】
しかし、このように不活性ガスを内孔に吹き込む対策を採用しても、実際の浸漬ノズルでは以下のとおりの問題がある。
【0005】
浸漬ノズルにおいて鋳型内のパウダーラインに接する部分には、一般的にパウダーに対する耐食性に優れるZrOと耐熱衝撃性に優れる黒鉛を主成分とする耐火物(以下「ZG材質」という。)が使用されている。近年はさらなる多連鋳化(高耐用化)のニーズが高まり、それに対応するために当該耐火物にはZrOが90質量%程度の高ZrO含有のZG材質が用いられる傾向にある。
【0006】
高ZrO含有のZG材質は黒鉛が少ないために成形時のいわゆる締まりが悪く、例えば見掛け気孔率が、ZrOが82質量%程度の低ZrO含有のZG材質では14〜18%程度であるのに対し、ZrOが90質量%程度の高ZrO含有のZG材質では18〜22%程度と、粗い組織になる傾向がある。
【0007】
このようにZG材質の組織が粗くなると、前記中空室の不活性ガスは内孔側だけでなく浸漬ノズルの外周面からも多く散逸するようになる。実際に、ガス吹き込み機能を有する浸漬ノズルを製造する場合、個別の操業に合わせて通気量を調整しており、この場合、一般的には全体通気量(内孔側および外周面側の通気量の総和)にて管理しているが、高ZrO含有のZG材質を使用した浸漬ノズルの場合、その全体通気量に対する内孔側の通気量の割合(以下、単に「内孔通気割合」という。)が低ZrO含有のZG材質を使用した浸漬ノズルより低くなる傾向になる。
【0008】
このような高ZrO含有のZG材質を使用した浸漬ノズルを鋼の連続鋳造に使用した場合、内孔壁面への不活性ガス膜形成が不十分となって、介在物等の付着の抑制効果が十分に得られなくなり、また介在物等の鋳片内への巻き込み等に起因した鋳片品質の低下の原因となる。また、ZG材質外周面からの不活性ガスの散逸が多くなると、過剰に浸漬ノズルや溶鋼等が冷却され、また鋳型内での湯面の変動も生じやすくなる。
【0009】
さらには、鋳造時間が長くなるにしたがってZG材質はパウダーにより溶損される等によって肉厚が小さくなり、ZG材質外周面からのガスの散逸はさらに増大する傾向となる(このことは流体力学上も明らかである。)。この現象は高ZrO含有のZG材質を使用した浸漬ノズルの場合はもちろん、低ZrO含有のZG材質を使用した浸漬ノズルでも生じる。
【0010】
これに対して、浸漬ノズルの内孔から不活性ガスを均一または効果的に吹き込むための改善の試みもさまざまに行われている。
【0011】
例えば特許文献1には、内孔体を浸漬ノズルの吐出孔に向かう方向に複数の通気性の異なる耐火物から構成し、吐出孔に向かって順次通気性が大きな耐火物を配置することが示されている。これは、介在物等の付着の大きい吐出孔近傍に不活性ガスをより集中的に吹き出すことで、浸漬ノズルの内孔壁面全体における介在物等の付着速度を小さくすることを狙ったものである。
【0012】
しかし、この特許文献1の対策では、介在物等の付着速度低下にある程度の効果はあるものの、上述したZG材質を中心とする浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸は防ぐことができない。
【特許文献1】実開昭60−171652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、溶鋼の流通経路となる内孔に不活性ガスを吹き出すようにした浸漬ノズルにおいて、浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸を抑制し、内孔壁面への介在物等の付着を確実に防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、タンディッシュから鋳型への溶鋼の流通経路となる内孔と、この内孔に面するように配置された通気性の内孔体と、この内孔体の外周側に形成された中空室とを備え、中空室に導入された不活性ガスを内孔体から内孔に吹き出す浸漬ノズルにおいて、中空室の外周側壁面のうち、少なくとも鋳型のパウダーラインに対応する領域に、その領域の外周側の耐火物より低通気性の難通気性耐火層を配置したことを特徴とするものである。
【0015】
浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸は、この中空室の外周側壁面のうち、とくに鋳型のパウダーラインに対応する領域、すなわち一般的にZG材質が使用される領域から生じる。ZG材質の中でも、ZrO含有量が85質量%を超える高ZrO含有のZG材質を使用している場合に浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸が顕著になる。また使用(鋳造)時間経過に伴うZG材質外部の侵食によるZG材質部分の肉厚の減少により、不活性ガスの散逸量が漸増していく。この現象はZrO含有量が85質量%を超える高ZrO含有のZG材質を使用している場合に顕著であるものの、ZrO含有量が85質量%以下のZG材質でも生じる。
【0016】
ZG材質が使用されている領域以外からも不活性ガスの散逸は生じるが、ZG材質が使用されているパウダーラインに対応する領域以外には、一般的には黒鉛の含有量がZG材質よりも多い30〜40質量%程度のアルミナ−黒鉛質(以下「AG材質」という。)が使用されており、このAG材質の通気率はZG材質よりはるかに小さい。すなわち、AG材質は耐食性よりも耐熱衝撃性を重視することから、ZG材質よりも黒鉛を多量に含有させ、かつジルコニアよりも熱膨張が小さいアルミナを主成分とするので、ZG材質よりも通気率は小さく、不活性ガスの散逸の程度も低い。したがって、AG材質部分からの不活性ガスの散逸は、操業上問題になることは少ない。
【0017】
このことから、本発明では、中空室の外周側壁面のうち、少なくとも鋳型のパウダーラインに対応する領域に難通気性耐火層を配置し、この難通気性耐火層によって浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸を抑制するようにしている。
【0018】
ここで、鋳型のパウダーラインに対応する領域からの不活性ガスの散逸を抑制するために、その領域に使用されるZG材質自体の貫通気孔の大きさの縮小や量の低減等によって、その通気率を低くしても、上述のとおり浸漬ノズルの使用によりZG材質の肉厚が漸次薄くなるのにしたがい、不活性ガスがZG材質内を通過する抵抗が漸次小さくなり通気量が増大するので、浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸を抑制する手段としては不十分である。
【0019】
これに対し、本発明では中空室の外周側壁面に難通気性耐火層を配置していることにより、浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸の大小は、ZG材質自体の通気特性よりも難通気性耐火層の通気特性に依存するので、ZG材質の肉厚が溶損によって漸次薄くなっても、その肉厚の減少に伴って浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸が増大することを大幅に抑制することができる。
【0020】
難通気性耐火層の通気率は、難通気性耐火層を配置した領域の外周側の耐火物(一般的にはZG材質)の通気率よりも低いことが必要である。そうでなければ、当然、浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸を抑制することはできない。
【0021】
難通気性耐火層の具体的な通気率は、本来、浸漬ノズルの各耐火物部分の肉厚や長さ、径等の構造、各構成耐火物の通気率、操業条件等によって個別に設定すべき、相対的な性質のものである。とくにZG材質の肉厚の減少に伴って浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸が増大することを抑制するためには、難通気性耐火層の通気率はその浸漬ノズルに使用されているZG材質の通気率よりも小さければよい。しかし、例えばZrO含有量が約90質量%等の、高ZrO含有のZG材質を使用する場合にZG材質から散逸する不活性ガスの絶対量をさらに低減するためには、難通気性耐火層の通気率はその浸漬ノズルに使用されるZG材質の通気率よりも相当程度小さくすることが必要である。この程度については、経験上一般的に、鋳型のパウダーラインに接する部分に使用されるZG材質のZrO含有量が約85質量%未満の場合、また、ZG材質部分の通気率が内孔体の通気率に対して約20%程度以下の場合は操業上問題になることが少ないので、難通気性耐火層の通気率は、ZrO含有量が約85質量%程度のZG材質の通気率以下にすることが好ましく、また内孔体の通気率に対して約20%程度以下にすることがさらに好ましい。
【0022】
具体的には、ZrO含有量が約85質量%程度の一般的なZG材質の通気率は、耐火れんがの通気率の試験方法(JIS R2115)による通気率で、1000℃の非酸化雰囲気下の熱処理後において約0.0007cm・cm/cm・cmHO・sec程度、1550℃の非酸化雰囲気下の熱処理後において約0.0008cm・cm/cm・cmHO・sec程度である。したがって、難通気性耐火層の通気率はこれらの通気率以下とすることが好ましい。
【0023】
ここで、通気率の測定条件を1000℃および1550℃の非酸化雰囲気下の熱処理後としたのは、難通気性耐火層としては、浸漬ノズル製造時の焼成温度(800〜1200℃)および実使用時の温度(1500〜1570℃)の2水準下で、かつ酸素の極めて少ない状態において、その特性を発揮すればよいからである。言い換えれば、本発明において難通気性耐火層は、浸漬ノズル製造時の焼成条件に相当する1000℃の非酸化雰囲気下の加熱後、および実使用時の条件に相当する1550℃の非酸化雰囲気下の加熱後において消失することなく存在し、上述の通気率の条件を満足する必要がある。
【0024】
また、本発明において形成する難通気性耐火層の厚みは、0.1mm以上0.5mm以下が好ましく、0.1mm以上0.3mm以下がさらに好ましい。難通気性耐火層の厚みが0.1mm未満であると、温度変化を伴う熱間使用時において安定かつ均一な状態で難通気性耐火層を維持することが困難であり、当該難通気性耐火層の剥離や損傷を生じるおそれがある。また、均一な厚みの難通気性耐火層を形成することも困難であって、とくに薄い部分が生じた場合にその部分が局部的に破壊してガス漏れを生じる可能性がある。一方、難通気性耐火層の厚みが0.5mmを超えると、難通気性耐火層自体に亀裂が生じやすくなり、また比較的広範囲の剥離も生じやすくなって通気抑制効果が不安定になり、さらには、ZG材質部分だけでなくAG材質部分にも形成する場合は、AG材質部分も含めて、それらの耐火物の厚みが小さくなるために構造体としての浸漬ノズルが脆弱となって折損や亀裂等を生じやすくなったり、ZG材質部分の厚みが小さくなることでZG材質部分の使用可能時間が短くなる等の弊害も生じやすくなる。
【0025】
なお、浸漬ノズルの耐火物内における難通気性耐火層の厚みは、断面にて、基材としてのZG材質等の耐火物と難通気性耐火層との境界部の最も難通気性耐火層側の原料粒子端部を線で結び、その内面側の線と外面側の線との間の距離を測定し、採取試料の断面のその平均とする。すなわち、難通気性耐火層と接する耐火物に難通気性耐火層が食い込んだ部分は、難通気性耐火層の厚みから除外する。
【0026】
上述の好ましい通気率を有する難通気性耐火層は、耐火原料を骨材として、熱処理後の残炭率が高い炭素結合を形成しかつ焼成収縮の比較的小さいフェノール樹脂を結合材にした混合物を非酸化雰囲気(還元雰囲気を含む)で熱処理して得ることができる。
【0027】
骨材となる耐火原料の形状は、球状に近いものより、扁平状または扁平に近いものが好ましい。ここで扁平状とは、アスペクト比(薄片状粒子の面積の平方根を厚さで割った値)が約2以上のものをいう。
【0028】
扁平状または扁平に近い耐火原料が好ましい理由は、その扁平状または扁平に近い形状により、またそれらが複数の積層状態となってマトリクス中に存在することで、マトリクス部分に通気経路が生じにくく、通気経路が生じてもその通気経路は積層状態の耐火原料粒子面を経由することになって貫通気孔等の通気経路の長さも長くなって圧損を増加させることができ、通気抑制性を強化することができるからである。
【0029】
これに対して、扁平状または扁平に近い形状以外の、例えば球に近い耐火原料を使用した場合は、球に近い耐火原料間のマトリクス部分に通気経路が生じやすく、扁平状または扁平に近い耐火原料を使用する場合に比較して通気抑制性が乏しくなり、また耐火原料間の絡み合いが少なくなるので、強度が小さくなる傾向になり、難通気性耐火層の剥離や部分的崩壊等を生じやすくなる。
【0030】
扁平状または扁平に近い耐火原料としては、黒鉛、窒化硼素、β−アルミナ、マイカ板等が挙げられる。
【0031】
好ましい難通気性耐火層の厚みの下限である0.1mmを得るためには、これら骨材となる耐火原料の厚みは0.1mm以下が好ましい。さらに、難通気性耐火層の厚み方向の骨材の構造は、薄い骨材が重なった多層であることが好ましい。そのような多層構造であれば、難通気性耐火層に加わる外力を効果的に分散して難通気性耐火層の靱性や強度を高めることができる。またこのような多層構造になることで、骨材間の境界が難通気性耐火層の厚み方向に貫通せず、それを結ぶ線は複雑な経路になることから、通気を抑制する効果が高まる。
【0032】
また、難通気性耐火層表面での骨材の飛び出しやその骨材間に隙間ができないようにするためには、すなわち難通気性耐火層の平滑度と骨材間の隙間をできるだけ小さくするためには、これら骨材となる耐火原料の粒子サイズは、0.5mm以下であることが好ましい。0.5mmを超えると、骨材相互の絡み合いの状態によっては難通気性耐火層内に隙間が生じやすくなり、また難通気性耐火層表面でのそれらの飛び出しが生じやすくもなる。ここで粒子サイズとは、厚みと直角の方向の面の最大長さ、すなわち、所定の長さの目開き寸法(前記の場合は0.5mm)の金網を通過する大きさをいう。したがってこの粒子サイズは、扁平状の耐火原料の厚み方向のサイズを指すものではない。
【0033】
これら耐火原料の中では、フェノール樹脂に濡れやすく、また耐火性に富み、結合材との炭素結合も形成しやすく、変形能に富んで破壊を招来しにくい、黒鉛が最も好ましい。一般に黒鉛は、人造黒鉛と天然黒鉛に大別される。天然黒鉛は鱗状黒鉛および土状黒鉛として産出されるが、産地・純度・精錬方法などによりさまざまな品位のものがあり、アスペクト比は5〜80程度のものが一般的で、微粉の鱗状黒鉛や土状黒鉛のアスペクト比はやや小さい傾向にある。人造黒鉛については、高純度であるが、粒状のものなどアスペクト比の低いものが多い。
【0034】
黒鉛としては、前記のように粒子サイズが0.5mm以下、より好ましくは粒子サイズが0.020mm以上0.5mm以下でかつ厚みが0.1mm以下のものを使用することが好ましい。粒子サイズが0.020mm未満では耐火原料の嵩が非常に大きくなり、併用する結合材に対する添加量を増やすことができにくくなる。
【0035】
また、黒鉛としては、天然黒鉛でも人造黒鉛でも使用することができるが、熱処理により厚みが変化する膨張黒鉛のような難通気性耐火層の安定性を損なうような原料は使用しないことが好ましい。
【0036】
結合材としてフェノール樹脂は、レゾールタイプ、ノボラックタイプのどちらのタイプでも使用することができる。
【0037】
黒鉛と結合材の混合割合は、難通気性耐火層を均一な厚みで塗布等により形成可能な作業性を得るために調整すればよい。例えば、天然の鱗状黒鉛および粘度が10〜50MPa・s程度の液状フェノール樹脂を使用する場合には塗布のしやすさと共に、安定した難通気性耐火層の形成の点から、黒鉛10質量%以上30質量%以下、フェノール樹脂70質量%以上90質量%以下程度の混合割合とすることが好ましい。
【0038】
前記にて例示したもの以外の耐火原料としては、炭化珪素、炭化硼素、窒化珪素、アルミナ質、アルミナ−シリカ質(マイカ板を含む)、スピネル質、マグネシア質から選択する1種以上を使用することができる。しかしこれらは、例えば球に近い形状等の、扁平状または扁平に近い形状ではないものが多く、そのような耐火原料を使用した場合には、扁平状または扁平に近い耐火原料を使用する場合に比較して、難通気性耐火層の厚み方向での原料間を結ぶ線が短くなり、通気しやすい経路が生じて通気抑制性が乏しくなり、また耐火原料間の絡み合いが少なくなることから難通気性耐火層の靱性や強度が小さくなる傾向になって、難通気性耐火層の剥離や部分的崩壊等を生じやすくなる。したがってこれらの原料を使用する場合にも、できるだけ扁平に近い形状や凹凸の多い破断面を有している形状のものを選択することが好ましい。なお、これらの扁平状または扁平に近い形状ではない原料を使用する場合は、その粒子サイズは0.1mm以下であることが好ましい。
【0039】
また、黒鉛以外の骨材となる耐火原料の場合の、難通気性耐火層内の含有量は、10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。骨材となる耐火原料の含有量が10質量%未満であると、通気抑制効果が小さく非効率であると共に、難通気性耐火層に亀裂や破損が生じやすくなり、通気抑制性が不安定になりやすい。一方、骨材となる耐火原料の含有量が70質量%を超えると、難通気性耐火層を形成する際に均一な厚みの難通気性耐火層を得ることが困難であり、また結合部分(炭素結合部分)が過少となって、難通気性耐火層の強度が低下してその安定性が低下する。
【0040】
なお、耐火原料を含まずにフェノール樹脂等の有機結合材単独を熱処理して難通気性耐火層を形成することも可能ではあるが、その組織中に空隙が多くなって、また収縮等も生じやすくなって亀裂を生じやすくなる等、難通気性耐火層の強度が小さくなる傾向になり、難通気性耐火層の厚みを厚く(例えば0.1mmを超える厚み)すると難通気性耐火層の剥離や部分的崩壊等も生じやすくなり、難通気性を確保することが困難になるので、とくに難通気性の程度をその難通気性耐火層を設けるZG材質の通気特性よりも大幅に高める場合には好ましくない。
【0041】
また、一般的に耐火物に使用できる無機結合材(例えば水ガラス、コロイダルシリカ、リン酸塩溶液など)を使用して形成した難通気性耐火層は、浸漬ノズル製造時の非酸化雰囲気中での焼成温度(800〜1200℃)および実使用時の温度(1500〜1570℃)で浸漬ノズルを構成する耐火材料中のカーボンとの反応によって消失したり、無機結合材自体の熱収縮が大きいために亀裂が発生して通気特性が変化すると共に剥離等の損傷を招来しやすいなどの理由から、それらを結合材として単独で使用することは好ましくない。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、浸漬ノズル外周面からの不活性ガスの散逸を抑制でき、内孔への不活性ガス吹き出しの安定化を図ることができる。
【0043】
また、浸漬ノズルを構成する耐火物自体の通気率の低減では抑制できない、当該耐火物の溶損に伴う不活性ガスの散逸の増大も大幅に抑制することができる。
【0044】
これらによって、浸漬ノズルの内孔壁面への介在物等の付着や内孔の閉塞を防止でき、鋳型内の湯面変動を抑制することもでき、鋳片品質を向上させることができる。また、鋼の連続鋳造の多連鋳化にも十分に対応可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0046】
図1および図2は、それぞれ本発明の浸漬ノズルの一例を示す断面図である。
【0047】
浸漬ノズル10は、溶鋼の流通経路となる内孔1を有し、この内孔1に面するように内孔体2が配置され、さらに内孔体2の外周側に中空室3が形成されている。中空室3にはガス導入ソケット4が接続されており、ガス導入ソケット4から不活性ガスが中空室3に導入され、導入された不活性ガスが内孔体2から内孔1に吹き出される。このように、対孔体2は不活性ガスを通過させるものであるから、通気性に富む耐火材料によって構成する。
【0048】
また、浸漬ノズル10の本体部分において、鋳型のパウダーラインに対応する領域はZrOが90質量%程度の高ZrO含有のZG材質5で構成され、それ以外の部分はAG材質6で構成されている。
【0049】
そして、図1の例では、浸漬ノズル10外周面からの不活性ガスの散逸を防止するために、中空室3の外周側壁面のうち、鋳型のパウダーラインに対応する領域、すなわちZG材質5で構成されている領域に、ZG材質より低通気性の難通気性耐火層7を配置している。また、図2の例では、中空室3の外周側壁面の全領域に難通気性耐火層7を配置している。なお、中空室3には、内孔体2とAG材質6との接合等のために、柱状の耐火物を設ける場合があるが、この場合、その柱状の耐火物の側面にまで難通気性耐火層7を配置する必要はない。
【0050】
AG材質6の通気率は、先に説明したとおりZG材質よりはるかに小さいので、図1の例のように、中空室3の外周側壁面のうち少なくともZG材質5の領域に難通気性耐火層7を配置しておけば、浸漬ノズル10外周面からの不活性ガスの散逸を抑制するという目的を達成できる。
【0051】
なお、図1および図2の例では、内孔体2を浸漬ノズル10の吐出孔8の途中まで配置したが、吐出孔8の下端部分まで配置してもよい。また、中空室3は内孔体2の外周側の全体に形成してもよい
【0052】
以上、図1および図2に示したような本発明の浸漬ノズルは、以下の工程により製造できる。
(1)内孔体となる耐火物成形体の外周に、800℃以下の温度で消失する有機物層を配置する工程
(2)有機物層の外周に、800℃以上の焼成により難通気性耐火層を形成する、耐火原料と結合材とを混合した耐火性原料または結合材単体からなる耐火性原料の層を配置し、その後、硬化処理または乾燥処理により前記耐火性原料の層に保形性を付与する工程
(3)前記工程(1)および(2)で得られた構造体を、静圧成形用の型枠内にセットする工程
(4)前記構造体とその外側の型枠との間に、浸漬ノズル本体を構成する原料としてのはい土を充填し、前記構造体とともに静圧成形する工程
(5)前記工程(4)で得られた成形体を800℃以上の温度で焼成することにより、前記有機物層の部分に中空室を形成するとともに、この中空室の外周側壁面のうち、少なくとも鋳型のパウダーラインに対応する領域に難通気性耐火層を形成する工程
【0053】
ここで、工程(1)で配置する有機物層は、パラフィン等のワックス、紙、プラスチック等により形成できる。
【0054】
また、工程(2)において刷毛塗りによる塗布により耐火性原料の層を配置する場合、刷毛による耐火性原料の延性等の作業性を得るために、耐火性原料の液状部分を比較的多量(例えば70質量%〜90質量%)と必要することが好ましい。一方、乾式の吹き付け(例えば、黒鉛を空気搬送して、噴出ノズル付近で霧状の樹脂と混合して被射体に吹き付ける方法)によれば、耐火性原料の液状部分は比較的少量(例30質量%〜70質量%)とすることができる。
【0055】
また、工程(2)における耐火性原料の層の配置は、上述の刷毛塗り、吹き付けのほか、浸漬によって行うこともできる。さらに、耐火性原料の層を予め作製しておき、これを所定の位置に配置するようにしてもよい
【実施例1】
【0056】
この実施例では、ZrOの含有量が90質量%で、通気率が約0.001〜0.0011cm・cm/cm・cmHO・sec程度と高いZG材質に対し、各種の難通気性耐火層を形成し、通気抑制効果を調査した。
【0057】
実施例の各試料は、前記ZG材質をφ50×20mmの寸法に成形し、その円筒上面にのみ表1に示す難通気性耐火層の構成材料を所定の厚さになるように刷毛塗りにより塗布し、乾燥処理の後、1000℃および1550℃雰囲気のコークスブリーズ中で加熱・焼成して作製した。なお、表1に示す「加熱前の難通気性耐火層の厚み」とは、前記の加熱・焼成前の難通気性耐火層の厚みのことである。
【0058】
難通気性耐火層の構成材料としては、粒子サイズ0.3mm以下が70質量%の天然の鱗状黒鉛、粒子サイズ0.1mm以下が100質量%の焼結アルミナ(粒の形状は大粗粒から破壊した破断面を有する不均一なもの)、粘度10〜50mPa・s程度のフェノール樹脂を用いた。なお、事前にフェノール樹脂と鱗状黒鉛との混合割合を調査したところ、鱗状黒鉛の含有量が30質量%程度までは塗布作業性に関して問題なく、均一な難通気性耐火層を形成することができた。しかし、鱗状黒鉛の含有量が30質量%を超えると混合物の粘性が高くなりすぎて均一に塗布することが困難であり、塗布用には不向きであった。
【0059】
また、比較例として、難通気性耐火層を形成しない試料も作製した。
【0060】
これらの各試料について、外観確認を行うと共に、JIS R2115の試験方法により通気率を測定した。また、形成した難通気性耐火層の厚みは、その形成前後の試料の高さの差から求めた。難通気性耐火層の状況は、目視による観察で評価した。なお、難通気性耐火層の通気率の測定および難通気性耐火層の状況の評価は、浸漬ノズル製造時の焼成条件に相当する1000℃還元焼成後および実使用時の条件に相当する1550℃還元焼成後に行った。
【0061】
表1にその結果を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
難通気性耐火層を形成し、それが浸漬ノズルの実使用時の条件に相当する1550℃還元焼成後でも消失しなかった実施例A〜Iはいずれも、難通気性耐火層を形成していない比較例Aに対して通気率が低減されており、難通気性耐火層による通気抑制効果が確認された。
【0064】
とくに実施例のうち、フェノール樹脂と鱗状黒鉛の混合物から難通気性耐火層を形成し、かつその厚みを0.1mm〜0.3mmとした実施例A、B、D、Eでは、難通気性耐火層に亀裂や剥落がなく安定しており、その通気率は比較例Aに対して75%以上低減されており、大幅な通気抑制効果が得られた。
【0065】
一方、前記と同じフェノール樹脂と鱗状黒鉛の混合物から0.5mmの厚みの難通気性耐火層を形成した実施例C、Fでは、その通気率の比較例Aに対する低減割合は約45%〜約30%であり、実施例A、B、D、Eに比べ通気抑制効果が劣っていた。これは難通気性耐火層が実施例A、B、D、Eに比べ厚いため、微亀裂や剥離傾向が難通気性耐火層に発生していたためと考えられる。なお、表1には示していないが、難通気性耐火層の厚みを0.7mmにした場合には、さらに顕著に微亀裂や剥離傾向が難通気性耐火層に発生していた。これらの微亀裂や剥離傾向は、本実施例の試験方法では供試料の難通気性耐火層が、平面かつφ50mmと比較的狭くしかも周囲が開放されている状況であったために生じやすかったと考えられる。
【0066】
実際の浸漬ノズルでは難通気性耐火層は曲面で、かつその全端部は拘束されているので亀裂や剥離は本実施例の試験条件よりも生じにくいと考えられ、またZG材質からの剥離傾向が生じても難通気性耐火層が破壊しない限りはその剥離によって不活性ガスが直ちにZG材質に漏出することはないので、厚みが0.7mmまでは問題なく使用できると考えられる。しかし、厚みが0.7mmの場合は難通気性耐火層に顕著な微亀裂等が観察されたことから、とくに長時間の使用等での亀裂拡大や剥離等が進行して通気抑制効果が低下する可能性も考えられるので、本実施例の試験による知見からは、難通気性耐火層の厚みは0.5mmまでが好ましい。
【0067】
以上の実施例の結果から、安定した難通気性耐火層の保持と安定した通気抑制効果を得るためには、フェノール樹脂と鱗状黒鉛の混合物の場合、難通気性耐火層の厚みは0.1以上0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.3mm以下であることがより好ましいといえる。
【0068】
次に、フェノール樹脂とアルミナの混合物から難通気性耐火層を形成した実施例Gでは、比較例Aの通気率に対して約1000℃の非酸化雰囲気下の熱処理後約40%、約1550℃の非酸化雰囲気下の熱処理後約30%の低減効果が得られ、実用上十分な通気抑制効果が得られた。ただし、フェノール樹脂との混合割合および厚みが同じ条件の鱗状黒鉛の場合(実施例E)と比較して、1000℃の熱処理後でその約53%程度、1550℃の熱処理後でその約38%程度と通気抑制効果が劣っている。これは、アルミナが扁平な鱗状黒鉛に比較して球形に近いという形状要因のためと考えられ、アルミナまたは他の耐火原料でも、形状がより扁平に近いものであれば、通気抑制効果はより高まると考えられる。
【0069】
一方、耐火原料の骨材を含まないフェノール樹脂単独から難通気性耐火層を形成した実施例H、Iでは、比較例Aに対する通気率の低減割合が約8〜19%と小さく、さらに0.1mmの厚みで形成すると難通気性耐火層に微亀裂が発生していた。このことから、耐火原料の骨材を含まないフェノール樹脂単独からなる難通気性耐火層は、比較例Aに対しては通気抑制効果はあるものの、好ましくないことがわかる。
【0070】
なお、表1には、比較例Bとして、ZrOの含有量が85質量%のZG材質について難通気性耐火層を形成せずに上記と同様の評価を行った結果と、比較例Cとして、Alが70質量%、黒鉛が18質量%の一般的な内孔体の材質について難通気性耐火層を形成せずに上記と同様の評価を行った結果を併せて示している。
【実施例2】
【0071】
この実施例は、本発明の難通気性耐火層を配置した浸漬ノズルにつき、難通気性耐火層の材質および厚みを変化させて、浸漬ノズルの内孔、外周面および全体の通気量を、難通気性耐火層を配置しない従来の浸漬ノズル(比較例D)と比較して調査したものである。
【0072】
浸漬ノズルの構造は、実施例については図1に示す構造とし、比較例については図1の構造から難通気性耐火層を除いた図3に示す構造とした。この浸漬ノズルの主要部分の寸法は、ZG材質部分の外径が150mm、中空室の外径が100mm、内孔径が80mm、中空室の軸方向長さが450mm、ZG材質部分の軸方向の長さが200mmである。ZG材質としては、ZrOが90質量%の高ZrO含有のZG材質を使用し、ZG材質部分以外のAG材質部分にはAlが65質量%、黒鉛が30質量%のAG材質を使用し、内孔体にはAlが70質量%、黒鉛が18質量%の通気性の耐火物を使用した。
【0073】
製品状態に製造した各浸漬ノズルにつき、浸漬ノズルの全通気量、内孔通気量を測定した。具体的には、常温にてガス導入ソケットから空気を0.1MPaの圧力で供給し、質量流量計にて全通気量および内孔通気量を測定した。そして、その比より内孔通気割合を算出した。外周面通気量は、全通気量と内孔通気量の差から求めた。また、製造時の欠陥は、X線透過検査により調査した。
【0074】
その結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
表2中の実施例J、K、Lは、難通気性耐火層として先の実施例で評価が良好であった実施例A、B、Eの難通気性耐火層をそれぞれ配置したものである。
【0077】
比較例Dの内孔通気割合が62.5%であったのに対し、全ての実施例において、内孔通気割合が80%以上となり、ZG材質からの外部へのガス漏れ抑制効果が確認できた。
【0078】
また、X線透過検査での製造欠陥、すなわち耐火物にガス漏れを生じるような亀裂等は確認されず、本実施例の結果は本発明の難通気性耐火層による効果によることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の浸漬ノズルの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の浸漬ノズルの他の例を示す断面図である。
【図3】従来の浸漬ノズルを示す断面図である。
【符号の説明】
【0080】
10 浸漬ノズル
1 内孔
2 内孔体
3 中空室
4 ガス導入ソケット
5 ZG材質
6 AG材質
7 難通気性耐火層
8 吐出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュから鋳型への溶鋼の流通経路となる内孔と、この内孔に面するように配置された通気性の内孔体と、この内孔体の外周側に形成された中空室とを備え、中空室に導入された不活性ガスを内孔体から内孔に吹き出す浸漬ノズルにおいて、
中空室の外周側壁面のうち、少なくとも鋳型のパウダーラインに対応する領域に、その領域の外周側の耐火物より低通気性の難通気性耐火層を配置したことを特徴とする浸漬ノズル。
【請求項2】
難通気性耐火層の厚みが0.1mm以上0.5mm以下である請求項1に記載の浸漬ノズル。
【請求項3】
難通気性耐火層のJIS R2115の試験方法による通気率が、1000℃の非酸化雰囲気下の熱処理後において0.0007cm・cm/cm・cmHO・sec以下、1550℃の非酸化雰囲気下の熱処理後において約0.0008cm・cm/cm・cmHO・sec以下である請求項1または請求項2に記載の浸漬ノズル。
【請求項4】
難通気性耐火層が、粒子サイズが0.5mm以下の黒鉛を10質量%以上30質量%以下含み、残部が前記黒鉛以外の炭素からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の浸漬ノズル。
【請求項5】
難通気性耐火層が、それぞれ粒子サイズが0.1mm以下の、炭化珪素、炭化硼素、窒化珪素、アルミナ質、アルミナ−シリカ質(マイカ板を含む)、スピネル質、マグネシア質から選択する1種以上の耐火原料を10質量%以上70質量%以下含み、残部が前記耐火原料以外の炭素からなる請求項1から請求項3のいずれかに記載の浸漬ノズル。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の浸漬ノズルの製造方法であって、
(1)内孔体となる耐火物成形体の外周に、800℃以下の温度で消失する有機物層を配置する工程と、
(2)有機物層の外周に、800℃以上の焼成により難通気性耐火層を形成する、耐火原料と結合材とを混合した耐火性原料または結合材単体からなる耐火性原料の層を配置し、その後、硬化処理または乾燥処理により前記耐火性原料の層に保形性を付与する工程と、
(3)前記工程(1)および(2)で得られた構造体を、静圧成形用の型枠内にセットする工程と、
(4)前記構造体とその外側の型枠との間に、浸漬ノズル本体を構成する原料としてのはい土を充填し、前記構造体とともに静圧成形する工程と、
(5)前記工程(4)で得られた成形体を800℃以上の温度で焼成することにより、前記有機物層の部分に中空室を形成するとともに、この中空室の外周側壁面のうち、少なくとも鋳型のパウダーラインに対応する領域に難通気性耐火層を形成する工程とを含む浸漬ノズルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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