説明

浸漬塗布方法および電子写真感光体の製造方法

【課題】 溶剤の揮発環境が安定した浸漬塗布方法および該浸漬塗布方法を利用した電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 伸縮式スライドフードが複数の筒状部材を浸漬塗布方向の下方から上方に向かって径が順次小さくなるように連結してなり、被塗布体を引き上げているときに、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間において浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させて溶剤の蒸気を伸縮式スライドフードの外へ排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬塗布方法および浸漬塗布方法を利用した電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体、特に有機材料を用いた電子写真感光体(有機感光体)は、支持体と1層以上の塗布によって形成された層(塗膜)とを有するものが一般的である。
【0003】
電子写真感光体の製造に利用される塗布方法としては、被塗布体(支持体または支持体上に1層以上の層を形成してなるもの)を塗布槽中の塗布液に浸漬した後に引き上げ、該被塗布体の表面に該塗布液を付着させることによって塗膜を形成する浸漬塗布方法が一般的である。この浸漬および引き上げには、被塗布体を保持するための保持部材や、保持部材に保持された被塗布体を昇降させるための昇降機構が用いられる。
【0004】
浸漬塗布方法によって形成される塗膜の膜厚は、基本的には、塗布液の粘性や、塗布液(塗膜)中の溶剤の揮発性や、被塗布体の引き上げ速度などによって決定される。そして、いったん被塗布体の表面にウェット状態で形成された塗膜は、塗膜中の溶剤が一定量以上揮発して略乾燥状態に至るまでは、重力方向下向きにタレる現象が生じ、その結果、同位置の膜厚は引き上げ直後から変化する。
【0005】
ここで、塗膜中の溶剤が揮発する際に、周囲からの風の影響を受けると、塗膜において部分的に揮発の進行度合いに差が生じ、塗膜のタレる度合いが不均一になり、塗膜の膜厚が不均一になることがある。これは、周囲からの風の影響によって塗膜中の溶剤が揮発し、溶剤の蒸気が発生するが、部分的に揮発の進行度合いに差が生じると、塗膜の周囲の溶剤の蒸気の濃度に偏りが生じるからである。
【0006】
また、塗膜の膜厚の不均一を引き起こす現象としては、上記の重力方向下向きにタレる現象のほかに、たとえば、表面張力や塗布液内の分子間力などの作用によって、被塗布体の表面に付着した塗布液が重力とは無関係な方向に偏って移動する現象も挙げられる。
【0007】
以上のような種々の現象によって引き起こされる部分的に不均一な膜厚の分布、すなわち膜厚ムラは、電子写真感光体を用いた画像形成に悪影響をもたらす。
【0008】
塗膜の膜厚ムラを生じさせないための有効な対策として、従来、被塗布体の側面をフードで覆いながら被塗布体を引き上げるという方法がよく用いられている。このようなフードを用いることによって、ウェット状態の塗膜中の溶剤が揮発する際に、周囲からの風の影響を受けて部分的に揮発の進行度合いに差が生じるという現象を抑えることができる。
【0009】
さらに、このフードを複数の筒状部材を連結してなるものにし、各筒状部材のスライドによって伸縮可能なフード(「伸縮式スライドフード」と呼ばれる。)とする方法も提案されている。
【0010】
特許文献1には、被塗布体を塗布槽中の塗布液に浸漬し、引き上げる動作に連動して伸縮式スライドフードを伸縮させて該被塗布体の側面を覆うようにする方法(特許文献1参照)が開示されている。
【0011】
また、特許文献2には、伸縮式スライドフードを用い、かつ、塗布液から揮発する溶剤の蒸気を伸縮式スライドフード外へ排出し、被塗布体上の塗膜の周辺の溶剤の蒸気の濃度を低くして塗布を行う方法が開示されている。この方法によれば、塗膜の周辺の溶剤の蒸気の濃度を低くできるので、溶剤の揮発に必要な時間を短縮することができ、それによって、溶剤の揮発時に生じる種々の影響をより減少させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平07−104488号公報
【特許文献2】特開昭63−007873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、近年の電子写真装置の性能に対する要求、特に、さらなる高感度化や画像均一化の要求に対しては、塗膜のさらなる薄膜化が必要となってきている。そして、膜厚が薄くなるほど、電子写真装置の品質に対する膜厚ムラの影響は大きくなる。
【0014】
こうした状況においては、上記の伸縮式スライドフードで被塗布体の側面を覆いながら被塗布体を引き上げる方法や、伸縮式スライドフード内の溶剤の蒸気を伸縮式スライドフード外に排出する方法だけでは不十分となってきている。つまり、最近では、従来よりもさらに安定した溶剤の揮発環境が求められてきている。
【0015】
すなわち、本発明の目的は、溶剤の揮発環境が安定した浸漬塗布方法および該浸漬塗布方法を利用した電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、被塗布体を塗布槽中の塗布液に浸漬した後に、伸縮式スライドフードで該被塗布体の側面を覆いながら該被塗布体を引き上げて、該被塗布体の表面に塗膜を形成する浸漬塗布方法において、
該伸縮式スライドフードが、複数の筒状部材を浸漬塗布方向の下方から上方に向かって径が順次小さくなるように連結してなり、かつ、該被塗布体を引き上げているときに該被塗布体の動作に連動して伸びながら該被塗布体の側面を覆うことが可能なフードであって、
該被塗布体を引き上げているときに、該伸縮式スライドフードの内面と該被塗布体との隙間において浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させて溶剤の蒸気を該伸縮式スライドフードの外へ排出する
ことを特徴とする浸漬塗布方法である。
【0017】
また、本発明は、浸漬塗布方法によって被塗布体の表面に塗膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法において、該浸漬塗布方法が上記の浸漬塗布方法であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶剤の揮発環境が安定した浸漬塗布方法および該浸漬塗布方法を利用した電子写真感光体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の浸漬塗布方法に使用される塗布装置の一例を示す図である。
【図2】本発明の浸漬塗布方法に使用される塗布装置の別の例を示す図である。
【図3】伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間の雰囲気が吸気される部分の詳細を示す図である。
【図4】伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間の雰囲気が吸気される部分の詳細を示す図である。
【図5】伸縮式スライドフードの筒状部材6bおよび筒状部材6cの連結部分と、被塗布体1との隙間を示す図である。
【図6】伸縮式スライドフードの筒状部材6bおよび筒状部材6cの連結部分と、被塗布体1との隙間を示す図である。
【図7】比較例で用いた塗布装置を示す図である。
【図8】伸縮式スライドフードの筒状部材18bおよび筒状部材18cの連結部分と、被塗布体1との隙間を示す図である。
【図9】本発明の製造方法で製造された電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0021】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、従来の塗布方法における溶剤の揮発環境の乱れの原因を特定し、さらに、この原因を解消する方法を見いだし、本発明を完成するに至った。まず、このことについて、以下に述べる。
【0022】
溶剤の蒸気を伸縮式スライドフード外に排出するためには、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間を通じて溶剤の蒸気を移動させねばならない。この溶剤の蒸気の移動は気流である。溶剤の蒸気を伸縮式スライドフード外に排出することにより、被塗布体上の塗膜の周辺の溶剤の蒸気の濃度を低くすることができる。
【0023】
本発明者らは、これについて検討した結果、被塗布体上の塗膜の表面近傍において、上記気流にわずかな乱れが生じていることを発見した。そして、その気流の乱れは、上述した風の影響を受けたと同様の現象(部分的に揮発の進行度合いに差が生じる現象)を引き起こすことがわかった。
【0024】
上記気流の乱れを生じさせる原因としては、第一には、伸縮式スライドフードの継ぎ目(筒状部材の連結部分)の段差の影響である。伸縮式スライドフードを伸縮させるためには、伸縮式スライドフードを構成する複数の筒状部材に径の差を設けることが不可欠である。つまり、複数の筒状部材のうちの一の筒状部材に着目したとき、それと、それに隣接する他の筒状部材との間には、互いにスライドすることが可能となるために必要な径の差を設けなければならない。
【0025】
また、該一の筒状部材と該他の筒状部材の連結部分において、図5の(A)に示すように、互いを引っ掛けて連結する場合には、その引っ掛けのための重なり代をさらに加える必要がある。
【0026】
以上のことから、筒状部材同士の連結部分には、段差が生じることは避けられない。
【0027】
図5の(A)に示すような場合、段差は、おおよそ、隣接する筒状部材同士の連結部分における、径が小さいほうの筒状部材の内径と、径が大きいほうの筒状部材の内径との差の半分に相当する。
【0028】
また、図5の(B)に示すような場合、段差は、おおよそ、連結部分における径が小さいほうの筒状部材の厚みと2つの筒状部材間の隙間の寸法との和に相当する。また、上述のように筒状部材同士を互いに引っ掛けて連結する場合、段差は、該和にその重なり代をさらに加えたものに相当する。
【0029】
また、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間を通じて移動する溶剤の蒸気の移動の向き(気流の向き)が、伸縮式スライドフードを構成する複数の筒状部材のうちの径が大きい筒状部材から径が小さい筒状部材へ向かう向きであった場合、上記段差は突起になる。
【0030】
そして、上記気流が、この段差付近を通過する際には、その一部が突起である段差に衝突し、その結果、気流には乱れが生じる。そして、この気流の乱れがウェット状態の塗膜の表面の一部に当たることによって、その一部の塗膜中の溶剤の揮発が早まる、あるいは、遅れ、その結果、膜厚ムラが生じることになる。
【0031】
したがって、本発明では、フードとしては、複数の筒状部材を浸漬塗布方向の下方から上方に向かって径が順次小さくなるように連結してなる伸縮式スライドフードを用いている。そしてさらに、被塗布体を引き上げているときには、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間において浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させて溶剤の蒸気を伸縮式スライドフードの外へ排出するようにしている。
【0032】
この本発明の構成によれば、伸縮式スライドフードの上記段差は、上記気流にとっての突起にはならないため、上記気流の突起への衝突は抑えられ、よって、上記気流の乱れは非常に小さくなる。
【0033】
また、浸漬塗布方法においては、塗布液を収容する塗布槽は被塗布体の下側に位置しており、塗布液からの溶剤の蒸気を上向きに、すなわち被塗布体のほうに発し続けることになる。この点、本発明においては、浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させているため、塗布槽中の塗布液からの溶剤の蒸気の上昇は抑えられることになる。その結果、被塗布体上の塗膜の周囲の溶剤の蒸気の濃度を低く抑えることができる。
【0034】
上記の浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させる方法としては、伸縮式スライドフードの下端部近傍に吸気口を設け、伸縮式スライドフード内(伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間)の雰囲気をその吸気口から吸気する方法が好ましい。
【0035】
伸縮式スライドフードの下端部近傍に設けた吸気口から伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間の雰囲気を吸気することによって、まず、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間の気圧は一時的に低下する。次に、この気圧が低下した状態を補うために、伸縮式スライドフードの上方の開口部から周囲の空気等が流入する、あるいは、伸縮式スライドフードがメッシュ部材である場合にはメッシュの目から周囲の空気等が流入する。それによって、浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流が発生することになる。なお、伸縮式スライドフードの上方に開口部を設けること、および、伸縮式スライドフードをメッシュ部材とすることは、どちらか一方を採用してもよいし、両方を採用してもよい。
【0036】
吸気口からの吸気を行うことによって、吸気口付近の気流は乱れやすくなるが、伸縮式スライドフードの下端部近傍に吸気口を設け、その吸気口から吸気するようにすれば、吸気口付近の気流の乱れの塗膜に対する影響は最小限に抑えられる。なぜならば、気流の乱れの塗膜に対する影響は、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との距離が小さいほど大きくなる。その点、伸縮式スライドフードの下端部近傍に位置する筒状部材は、複数の筒状部材の中でも最も径の大きい筒状部材であり、その筒状部材の近傍は、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との距離が最も大きい領域になるからである。
【0037】
また、浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させる方法として上記の吸気口から吸気する方法を採用する利点としては、以下のことも挙げられる。
【0038】
すなわち、浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させる別の方法としては、たとえば、伸縮式スライドフードの上端部近傍に噴気口を設け、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間にその噴気口から空気等を噴出する方法もある。
【0039】
ところが、この噴気口から空気等を噴出する方法を採用した場合、噴気口付近の気流は指向性をもつことになり、その指向性によって、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間に気流の乱れが生じることがある。一方、上記の吸気口から吸気する方法は、吸気口に非常に近い位置を除いては、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間において気流の指向性がほとんど生じないため、指向性による気流の乱れを抑えることができる。
【0040】
次に、上記吸気口の位置について詳細に述べる。
【0041】
伸縮式スライドフードの下端部近傍に吸気口を設ける場合、たとえば、伸縮式スライドフードを構成する複数の筒状部材のうち、最も下の筒状部材に吸気口を設けてもよい。この最も下の筒状部材は、上記の複数の筒状部材の中でも最も径の大きい筒状部材に相当する。または、伸縮式スライドフードと、その下に位置する部材(たとえば、塗布槽の蓋や位置決め部材など)との間に隙間を設け、この隙間を吸気口としてもよい。この隙間は、間座などを用いて確保してもよいし、治具を用いて伸縮式スライドフードの一部を浮かせて保持することで確保してもよい。あるいは、伸縮式スライドフードの下に位置する部材(たとえば、塗布槽の蓋や位置決め部材など)に吸気口を設けてもよい。
【0042】
いずれの場合であっても、浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させるに際しては、より下方から吸気することが好ましい。
【0043】
また、前記伸縮式スライドフードを構成する複数の筒状部材のうちの一の筒状部材と、それよりも浸漬塗布方向上方側に隣接する他の筒状部材との連結部分において、
一の筒状部材の内面と他の筒状部材の内面との段差をt[mm]とし、
一の筒状部材の内面と被塗布体の表面との距離をd[mm]としたとき、
tとdがすべての連結部分において下式
t≦d×0.3
を満たすことが好ましい。
【0044】
本発明者らの検討の結果、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間における気流の乱れの強さは、連結部分の上記段差の寸法によって変化する、具体的には、段差の寸法が小さいほど気流の乱れは小さくなることがわかった。また、ウェット状態の塗膜中の溶剤の揮発の進行度合いは、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間の寸法に応じて変化することがわかった。具体的には、隙間の寸法が大きいほど、気流の乱れがウェット状態の塗膜中の溶剤の揮発の進行度合いに与える影響は小さくなる。
【0045】
この知見に基づいて、本発明者らは実験による検討を行った結果、上式に合致するように各部分の寸法を設定することによって、本発明の効果がより顕著に発現することを見いだした。
【0046】
以下、本発明を図面に用いて説明する。
【0047】
図1の(A)は、本発明の浸漬塗布方法に使用される塗布装置の一例を示す図であり、被塗布体1が塗布槽11中の塗布液に浸漬された後に引き上げられた状態を示している。
【0048】
被塗布体1は、塗布ベース3に固定されたチャック部材2によって上端部を把持され、塗布ベース3は基台5に取り付けられたボールネジ4の回転によって上下に動作する。また、被塗布体1の側面を覆うように、塗布ベース3からチェーン15で吊り下げられた伸縮式スライドフード6が配置される。
【0049】
塗布槽11には塗布液循環装置(不図示)より送液された塗布液(不図示)が満たされている。塗布液は、塗布槽11の上部の開口部からオーバーフローし、オーバーフロー槽10によって上記塗布液循環装置に還流する。塗布槽11の上部には、蓋9および吸気ユニット7がオーバーフロー槽10上に載置される。吸気ユニット7は伸縮式スライドフード6の内面と被塗布体1との隙間の雰囲気を吸気するための吸気口を有し、吸気された雰囲気は、吸気パイプ8を通って吸引装置(不図示)に引き込まれる。
【0050】
伸縮式スライドフード6は、次の複数の筒状部材を有する。
【0051】
まず、伸縮式スライドフード6は、その最上部に筒状部材6aを有する。そして、筒状部材6aの浸漬塗布方向下方側には、筒状部材6aの外径よりも大きい内径を有する筒状部材6bが隣接し、連結されている。さらに、筒状部材6bの浸漬塗布方向下方側には、筒状部材6bの外径よりも大きい内径を有する筒状部材6cが隣接し、連結されている。もちろん、本発明に用いられる伸縮式スライドフードは、筒状部材の数が3つのものに限られるものではなく、形成すべき塗膜の寸法や塗布装置の全体の構成に応じて適宜設定することができる。
【0052】
そして、伸縮式スライドフード6は、最下部に位置する筒状部材6cの下端部にて、吸気ユニット7に接している。筒状部材6cは、吸気ユニット7に対して随時離間できるように載置されていてもよいし、固定されていてもよい。伸縮式スライドフード6の最上部に位置する筒状部材6aの上端部は開口しており、吸気ユニット7の吸気口から伸縮式スライドフード6内の雰囲気が吸気されると、この開口部から周囲の空気等が伸縮式スライドフード6内に流入してくる。なお、図1の(B)は塗布中の様子を示し、伸縮式スライドフード6は塗布ベース3の上昇に伴って伸長している途中の状態にある。
【0053】
図1の(A)および(B)に示すように、被塗布体1は塗布ベース3の上下動作にしたがって塗布槽11中の塗布液に浸漬され、その後、引き上げられることによって被塗布体1の表面には塗布液が付着する。このようにして、被塗布体1の表面には塗膜が形成される。伸縮式スライドフード6は、浸漬および引き上げ中、その動作に連動して伸縮しながら被塗布体1の側面を覆うことができる。そして、吸気ユニット7の吸気口(不図示)から伸縮式スライドフード6内の雰囲気が吸気され、伸縮式スライドフード6外に排出される。
【0054】
吸気ユニット7の吸気口から伸縮式スライドフード6内の雰囲気が吸気されるタイミングは、塗布ベース3が下降中、あるいは上昇中、あるいはその両方と、塗布液の物性やその他の塗布に関わる種々の条件によって適宜選択することができる。さらに、塗布ベース3が上昇して塗布が終了した後に、そのままの状態で吸引を続けることも、塗布液の処方によっては効果的である。そして、塗布ベース3が下降中に吸気を開始するようにすれば、塗布槽11中の塗布液から揮発する溶剤の蒸気を常に伸縮式スライドフード6外に排出できるので、引き上げ中の伸縮式スライドフード6内の溶剤の蒸気の濃度をより下げたい場合に効果的である。また、引き上げ開始に連動して同時に吸気を開始してもよいし、適宜遅らせて吸気を開始してもよい。さらには、吸気を開始したときに気流が急激に発生したり変化したりしないよう、吸気の力(吸引力)を適宜変化させることも効果的である。
【0055】
図2は、本発明の浸漬塗布方法に使用される塗布装置の別の例を示す図であり、伸縮式スライドフード6の上部に送気ユニット16およびこれに接続する送気パイプ17を備える。送気ユニット16は、伸縮式スライドフード6内に空気等を噴出するための噴気口(不図示)を備える。そして、送気ユニット16は、空気圧縮装置(不図示)により圧送される空気等を送気パイプ17から導入し、噴気口から伸縮式スライドフード6内に噴出する。また、噴気口には、噴出する空気等を拡散させるためのフィルターが設けられている。
【0056】
伸縮式スライドフード6の下部には、図1の(A)と同様な吸気ユニット7およびこれに接続する吸気パイプ8を備える。ただし、図2に示す塗布装置では、吸気パイプ8には、図1の(A)について説明したような吸引装置は接続されても、接続されなくてもよい。したがって、吸気パイプ8に吸引装置が接続されていない場合は、伸縮式スライドフード6の内面と被塗布体との隙間における気流は、送気ユニット16の噴気口から噴出された空気等によって発生する。
【0057】
図3および図4は、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間の雰囲気が吸気される部分の詳細を示す。図3は上方から見た図であり、図4は断面の図である。吸気ユニット7には、吸気口12が設けられている。図3および図4においては、吸気口12は、被塗布体1を通過させる挿通口13と、伸縮式スライドフードの最下部の筒状部材6cとの間に位置するように設けられている。なお、吸気口12は、筒状部材6cの下部や、円筒形状である挿通口13の内周面や、吸気ユニット7の下面側に設けられてもよい。吸気口12の形状・配置は、図3に示すように複数の丸穴が均等に配置されている構成でもよいし、複数の長穴が均等に配置されている構成でもよいし、スリット状の隙間が設けられている構成でもよい。吸気口12の機能は、伸縮式スライドフード6の内面と被塗布体との隙間の雰囲気を吸引することであり、吸引に際して好ましいのは、均等に吸引することである。図3に示すように複数の丸穴が均等に配置されている構成する場合は、所望の吸引量が確保できる範囲で、個々の穴径を小さくすることが好ましい。それは、吸気口12に対する吸気パイプ8の位置関係に由来する吸引量の偏りを緩和できるからである。
【0058】
図5は、図1中の矢印19で指す部分の、伸縮式スライドフードの筒状部材6bおよび筒状部材6cの連結部分と、被塗布体1との隙間を示す図(断面図)である。
【0059】
図5の(A)は、筒状部材同士を互いを引っ掛けて連結する場合の連結部分を示したものである。また、図5の(B)は、それぞれの筒状部材がワイヤーなどで所定の間隔に連結されているために、重なり代が設けられていない連結部分を示したものである。
【0060】
図5の(A)では、筒状部材6bはその下端部に、より径の大きなリング部材14bを備えており、筒状部材6cはその上端部に、より径の小さなリング部材14cを備えている。そして、リング部材14bおよびリング部材14cを互いに引っ掛けることによって、筒状部材6bおよび筒状部材6cは連結するようになっている。そして、リング部材14cの内径は、筒状部材6bの円筒部分の外径よりもわずかに大きく、リング部材14bの外径は、筒状部材6cの円筒部分の内径よりもわずかに小さくなっており、隙間ができている。
【0061】
また、図5の(B)においても、筒状部材6bの外径は、筒状部材6cの内径よりもわずかに小さくなっており、隙間ができている。
【0062】
これらの隙間は、筒状部材6bと筒状部材6cを互いにスムーズに摺動させることによって、伸縮式スライドフードが伸縮可能になるための摺動隙間である。なお、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体1との隙間において発生させる気流は、図5においては、図上方から下方に向かう気流である。
【0063】
しかしながら、この摺動隙間は、伸縮式スライドフードを伸縮可能にする反面、図上方から下方に向かう気流を吸気ユニット7の吸気によって発生させる場合には、伸縮式スライドフード外からの空気等の進入経路にもなりうる。この点、筒状部材同士の連結部分が図5の(A)に示す構成であれば、2つのリング部材の重なりによって、伸縮式スライドフード外からの空気等の進入を抑えることが可能であり、好ましい。なお、伸縮式スライドフード外からの空気等の進入量は、摺動隙間の寸法と、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体1との隙間の寸法との比率によって決まり、摺動隙間の寸法は、可能な限り小さく設計することが好ましい。筒状部材として、精度が著しく悪いものを利用するのでなければ、摺動隙間の寸法は十分小さくすることができる。
【0064】
図5の(A)中の段差tは、筒状部材6bの厚み(筒状部材6bの円筒部分の厚みとリング部材14bの厚みを足し合わせた厚み)と、上記摺動隙間の寸法とを足し合わせた寸法である。
【0065】
そして、図5の(A)および(B)中、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間における気流の乱れの強さは、段差tによって変化し、段差tが小さくなるほど、気流の乱れは小さくなる。
【0066】
一方、気流の乱れの、ウェット状態の塗膜中の溶剤の揮発の進行度合いに対する影響は、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体1の表面との距離dによって変化する。具体的には、距離dが大きくなるほど、気流の乱れの、ウェット状態の塗膜中の溶剤の揮発の進行度合いに対する影響は小さくなる。
【0067】
図6は、伸縮式スライドフードの筒状部材6bおよび筒状部材6cの連結部分と、被塗布体1との隙間を示す図であり、リング部材14bに関しては、図5の(A)で示すものとは別の形態である。図6に示すように、リング部材14bの内側の下方に面取りやテーパーなどの加工を施すことによって、気流の乱れをより効果的に抑えることができる。
【0068】
また、上述の図5および図6を用いてした説明は、筒状部材6aおよび筒状部材6bの連結部分に関しても、全く同様のことがいえ、筒状部材が2つまたは4つ以上の場合もまた、全く同様のことがいえる。
【0069】
また、筒状部材としては、円筒状部材や角筒状部材などが挙げられるが、被塗布体が円筒状(円柱状)である場合には、筒状部材は円筒状部材であることが好ましい。後述の実施例および比較例では、被塗布体が円筒状であるため、筒状部材として円筒状部材を用いている。
【0070】
次に、本発明の浸漬塗布方法を用いた電子写真感光体の製造方法について説明する。
【0071】
電子写真感光体は、一般的に、支持体上に感光層を形成することによって製造される。感光層は、電荷輸送物質と電荷発生物質を同一の層に含有する単層型感光層であってもよいし、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに機能分離した積層型(機能分離型)感光層であってもよい。電子写真特性の観点からは、感光層は、積層型感光層であることが好ましい。また、積層型感光層の中でも、支持体側から電荷発生層および電荷輸送層をこの順に積層してなるもの(順層型感光層)が好ましい。また、支持体と感光層との間には、後述の導電層や中間層を設けてもよいし、感光層上には、後述の保護層を設けてもよい。
【0072】
なお、上記「塗膜」とは、導電層であっても、中間層であっても、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)であっても、保護層であってもよく、また、その他の層であってもよい。また、上記「被塗布体」とは、当該「塗膜」がその表面に形成されるものを意味する。たとえば、電子写真感光体が、支持体上に導電層、中間層、電荷発生層、電荷輸送層および保護層をこの順に形成してなる物である場合、
当該「塗膜」が導電層であるときには「被塗布体」は支持体であり、
当該「塗膜」が中間層であるときには「被塗布体」は支持体上に導電層を形成してなる物であり、
当該「塗膜」が電荷発生層であるときには「被塗布体」は支持体上に導電層および中間層をこの順に形成してなる物であり、
当該「塗膜」が電荷輸送層であるときには「被塗布体」は支持体上に導電層、中間層および電荷発生層をこの順に形成してなる物であり、
当該「塗膜」が保護層であるときには「被塗布体」は支持体上に導電層、中間層、電荷発生層および電荷輸送層をこの順に形成してなる物である。
【0073】
本発明の製造装置は、「塗膜」が上記のどの層の場合であっても適用可能であり、複数の層に適用することも可能であるが、材料や膜厚の理由から塗布液を比較的低粘度に設定することが多い中間層、電荷発生層、保護層が「塗膜」である場合が特に好適である。
【0074】
以下、積層型感光層を有する電子写真感光体を例に挙げてより詳細に述べる。
【0075】
支持体は、導電性を有しているもの(導電性支持体)であればよく、たとえば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス、バナジウム、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、インジウム、金、白金などの金属製(合金製)の支持体を用いることができる。また、これら金属(合金)を真空蒸着によって被膜形成した層を有する金属製支持体やプラスチック(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂など)製支持体を用いることもできる。また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子などの導電性粒子を適当な結着樹脂とともにプラスチックや紙に含浸した支持体や、導電性結着樹脂を有するプラスチック製の支持体などを用いることもできる。
【0076】
また、支持体の形状としては、円筒状、シームレスベルト状(エンドレスベルト状)などが挙げられるが、円筒状が好ましい。
【0077】
また、支持体の表面は、レーザー光などの散乱による干渉縞の防止などを目的として、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0078】
支持体と感光層(電荷発生層、電荷輸送層)または後述の中間層との間には、レーザー光などの散乱による干渉縞の防止や、支持体の傷の被覆を目的とした導電層を設けてもよい。
【0079】
導電層は、カーボンブラック、金属粒子、金属酸化物粒子などの導電性粒子を結着樹脂に分散させて形成することができる。
【0080】
導電層の膜厚は、1〜40μmであることが好ましく、特には2〜20μmであることがより好ましい。
【0081】
また、支持体または導電層と感光層(電荷発生層、電荷輸送層)との間には、バリア機能や接着機能を有する中間層を設けてもよい。中間層は、感光層の接着性改良、塗工性改良、支持体からの電荷注入性改良、感光層の電気的破壊に対する保護などのために形成される。
【0082】
中間層は、アクリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エチルセルロース樹脂、エチレン−アクリル酸コポリマー、エポキシ樹脂、カゼイン樹脂、シリコーン樹脂、ゼラチン樹脂、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ユリア樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウムなどの材料を用いて形成することができる。また、中間層には、金属、合金、それらの酸化物、塩類、界面活性剤などを含有させてもよい。
【0083】
中間層の膜厚は0.05〜7μmであることが好ましく、特には0.1〜2μmであることがより好ましい。
【0084】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを、加熱および/または放射線の照射などにより、乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。分散方法としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、アトライター、液衝突型高速分散機などを用いた方法が挙げられる。
【0085】
電荷発生物質としては、たとえば、モノアゾ、ジスアゾ、トリスアゾなどのアゾ顔料や、金属フタロシアニン、非金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、インジゴ、チオインジゴなどのインジゴ顔料や、ペリレン酸無水物、ペリレン酸イミドなどのペリレン顔料や、アンスラキノン、ピレンキノンなどの多環キノン顔料や、スクワリリウム色素や、ピリリウム塩およびチアピリリウム塩や、トリフェニルメタン色素や、セレン、セレン−テルル、アモルファスシリコンなどの無機物質や、キナクリドン顔料や、アズレニウム塩顔料や、シアニン染料や、キサンテン色素や、キノンイミン色素や、スチリル色素や、硫化カドミウムや、酸化亜鉛などが挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0086】
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、たとえば、アクリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、スチレン−ブタジエンコポリマー、フェノール樹脂、ブチラール樹脂、ベンザール樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。特には、ブチラール樹脂などが好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0087】
電荷発生層中の結着樹脂の割合は、電荷発生層全質量に対して90質量%以下であることが好ましく、特には50質量%以下であることがより好ましい。
【0088】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、使用する結着樹脂や電荷発生物質の溶解性や分散安定性から選択されるが、有機溶剤としては、アルコール、スルホキシド、ケトン、エーテル、エステル、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族化合物などが挙げられる。
【0089】
電荷発生層の膜厚は0.001〜6μmであることが好ましく、特には0.01〜1μmであることがより好ましい。
【0090】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0091】
電荷輸送層は、電荷輸送物質および結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを、加熱および/または放射線の照射などにより、乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。
【0092】
電荷輸送物質としては、たとえば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物、トリアリールメタン化合物などが挙げられる。これら電荷輸送物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0093】
電荷輸送層中の電荷輸送物質の割合は、電荷輸送層全質量に対して20〜80質量%であることが好ましく、特には30〜70質量%であることがより好ましい。したがって、電荷輸送層用塗布液には、電荷輸送層形成後の電荷輸送物質の割合が上記範囲になるように電荷輸送物質を含有させることが好ましい。
【0094】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、たとえば、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。特には、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などが好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0095】
電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、5:1〜1:5(質量比)の範囲が好ましい。
【0096】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、たとえば、モノクロロベンゼン、ジオキサン、トルエン、キシレン、N−メチルピロリドン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、メチラールなどが挙げられる。
【0097】
また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0098】
感光層上には、これを保護することを目的とした保護層を設けてもよい。保護層は、上述した各種結着樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる保護層用塗布液を塗布し、これを、加熱および/または放射線の照射などにより、乾燥および/または硬化させることによって形成することができる。
【0099】
また、電子写真感光体の表面層には、潤滑剤を含有させてもよい。潤滑剤としては、たとえば、ケイ素原子やフッ素原子を含むポリマー、モノマーおよびオリゴマーなどが挙げられる。具体的には、N−(n−プロピル)−N−(β−アクリロキシエチル)−パーフルオロオクチルスルホン酸アミド、N−(n−プロピル)−(β−メタクリロキシエチル)−パーフルオロオクチルスルホン酸アミド、パーフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロカプリル酸、N−n−プロピル−n−パーフルオロオクタンスルホン酸アミド−エタノール、3−(2−パーフルオロヘキシル)エトキシ−1,2−ジヒドロキシプロパン、N−n−プロピル−N−2,3−ジヒドロキシプロピルパーフルオロオクチルスルホンアミドなどが挙げられる。また、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリジクロロジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素原子含有樹脂の粒子なども挙げられる。これらは単独または混合して1種または2種以上用いることができる。また、潤滑剤の数平均分子量は、3000〜5000000であることが好ましく、特には10000〜3000000であることが好ましい。潤滑剤が粒子である場合、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、特には0.05〜2.0μmであることが好ましい。
【0100】
また、電子写真感光体の表面層には、抵抗調整剤を含有させてもよい。抵抗調整剤としては、たとえば、SnO、ITO、カーボンブラック、銀粒子などが挙げられる。また、これらに疎水化処理を施したものを用いてもよい。抵抗調整剤を添加した場合の表面層の抵抗は10〜1014Ω・cmであることが好ましい。
【0101】
なお、保護層を設ける場合は、保護層が電子写真感光体の表面層である。保護層を設けない場合であって感光層が順層型感光層の場合は、電荷輸送層が電子写真感光体の表面層である。保護層を設けない場合であって逆層型感光層の場合は、電荷発生層が電子写真感光体の表面層である。
【0102】
図9に、本発明の製造方法で製造された電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0103】
図9において、101は円筒状の電子写真感光体であり、軸102を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。
【0104】
回転駆動される電子写真感光体101の表面は、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)103により、正または負の所定電位に均一に帯電される。次いで、電子写真感光体101の表面は、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される露光光(画像露光光)104を受ける。こうして電子写真感光体101の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0105】
電子写真感光体101の表面に形成された静電潜像は、現像手段105の現像剤に含まれるトナーにより現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体101の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)106からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体101と転写手段106との間(当接部)に、電子写真感光体101の回転と同期して取り出されて給送される。
【0106】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体101の表面から分離されて定着手段108へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へプリントアウトされる。
【0107】
トナー像転写後の電子写真感光体101の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)107によって転写残りの現像剤(トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、電子写真感光体101の表面は、前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図9に示すように、帯電手段103が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0108】
上述の電子写真感光体101、帯電手段103、現像手段105、転写手段106およびクリーニング手段107などの構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に結合して構成し、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図9では、電子写真感光体101と、帯電手段103、現像手段105およびクリーニング手段107とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段110を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ109としている。
【実施例】
【0109】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は、それぞれ「質量部」を意味する。
【0110】
電子写真感光体の製造に用いた塗布液と、電子写真感光体の製造方法および評価方法について説明する。
【0111】
<中間層用塗布液1の調製>
N−メトキシメチル化6ナイロン樹脂(商品名:トレジンEF−30T、ナガセケムテックス(株)製、重合度420、メトキシメチル化率36.8%)22.5部を、エタノール(キシダ化学(株)製、特級)127.5部に60℃の湯浴で加熱しながら攪拌溶解させた。次いで、その溶解液を、温度23℃、相対湿度50%の環境に12時間静置することによって、ゲル化ポリアミド樹脂GAを得た。
【0112】
ゲル化ポリアミド樹脂GAの130.0部を篩(篩目開き0.5mm)にて押しつぶしながら濾すことで1mm以下の大きさに破砕した。これに、エタノール(キシダ化学(株)製、特級)50.0部および下記構造式(1)で示されるジアゾ化合物0.130部
・構造式(1)
【0113】
【化1】

【0114】
を加えることによって、分散前の混合液を得た。
【0115】
この混合液を、分散媒体として平均直径0.8mmのガラスビーズ500部を使用した縦型サンドミルを用い、回転数1500rpm(周速5.5m/s)の条件で4時間分散処理することによって、分散液Aを得た。
【0116】
分散液Aに、エタノール(キシダ化学(株)製、特級)220.3部およびn−ブタノール(キシダ化学(株)製、特級)253.9部を加えて希釈することによって、中間層用塗布液1を調製した。
【0117】
<中間層用塗布液2の調製>
ナイロン6−66−610−12四元ナイロン共重合体樹脂(商品名:CM8000、東レ(株)製)5部、N−メトキシメチル化6ナイロン樹脂(商品名:トレジンEF−30T、ナガセケムテックス(株)製、重合度420、メトキシメチル化率36.8%)15部、メタノール(キシダ化学(株)製、特級)450部およびn−ブタノール(キシダ化学(株)製、特級)200部からなる混合物を、直径0.8mmのガラスビーズを使用したサンドミル装置を用いて4時間分散処理することによって、中間層用塗布液2を調製した。
【0118】
<電荷発生層用塗布液の調製>
下記構造式(2)で示されるヒドロキシガリウムフタロシアニン(電荷発生物質)10部、
・構造式(2)
【0119】
【化2】

【0120】
下記構造式(3)で示される化合物0.1部
・構造式(3)
【0121】
【化3】

【0122】
およびポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部をシクロヘキサノン250部に添加し、直径0.8mmのガラスビーズを使用したサンドミル装置を用いて3時間分散処理した。この分散処理によって、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°の位置に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶を含有する分散液を得た。この分散液にシクロヘキサノン100部および酢酸エチル450部をさらに加えて希釈することによって、電荷発生層用塗布液を調製した。
【0123】
<電荷輸送層用塗布液の調製>
下記構造式(4)で示される化合物(電荷輸送物質)10部
・構造式(4)
【0124】
【化4】

【0125】
およびポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ−200、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)10部をモノクロロベンゼン70部に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0126】
〔実施例1〕
<中間層1の形成>
図2および図5の(A)に示す塗布装置を用いて、外径30mm、長さ357.5mmのアルミニウム製の円筒状の支持体上に、上記中間層塗布液1を浸漬塗布し、これを10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.8μmの中間層を形成した。これを塗布サンプルα(円筒状)とした。
【0127】
送気ユニット16による伸縮式スライドフード6内への空気の噴出は、次のような動作で行った。
【0128】
塗布ベース3と被塗布体1が下降し始めた時点で空気の噴出を開始した。そして、被塗布体1が塗布槽11中の塗布液に浸漬した後に引き上げ、被塗布体1の下端部が塗布槽11中の塗布液面より抜けて吸気ユニット7よりも上部に達した時点まで、継続して空気の噴出をしつづけた。なお、空気の噴出による、伸縮式スライドフード6の内面と被塗布体との隙間の気流の速度については、次のように設定した。
【0129】
チャック部材2で被塗布体1を把持し、送気ユニット16で空気の噴出を行わせた状態で、送気パイプ17の途中から煙フローマーカーを用いて煙を導入させ、煙が筒状部材6aの上端部から筒状部材6cの下端部に至るまでに要する時間を計測した。計測時点の筒状部材6aの上端部の開口部から筒状部材6cの下端部までの距離は370mmで、この距離を煙が6秒で移動するように噴出量を調整した。噴出量の調整は、送気パイプ17の終端に取り付けた風量調整バルブによって行った。なお、以降に記載するすべての実施例および比較例での気流の速度については、気流の方向に関わらず、同一の速度になるように調整して浸漬塗布を行った。
【0130】
伸縮式スライドフード6の筒状部材6a、6b、6cの内径値は、表1のようにした。なお、内径値には、リング部材を除く寸法を記載した。また、各リング部材は筒状部材6aと6b、筒状部材6bと6cの各継ぎ目の段差寸法を表1のようになるように作製したものを用いた。
【0131】
この塗布操作を20回繰り返して、計20本の塗布サンプルαを作製し、目視によりすべての外観を調べ、濃淡ムラのレベルによって次のように仕分けをした。結果を表1に示す。
A 濃淡ムラの全く見えないもの
B 濃淡ムラが極めて軽微なもの
C 濃淡ムラが軽微なもの
D 容易に判別できる濃淡ムラが認められるもの
【0132】
<電荷発生層の形成>
塗布サンプルαの中からAのものすべてを用いた。
【0133】
中間層形成時と同様の塗布装置を用い、かつ、同条件での塗布方法により、塗布サンプルα上に上記電荷発生層用塗布液を浸漬塗布し、これを10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚0.2μmの電荷発生層を形成した。これを塗布サンプルβ(円筒状)とした。
【0134】
塗布サンプルβに関して、目視によりすべての外観を調べ、塗布サンプルαと同様の仕分けをした。結果を表1に示す。
【0135】
また、引き続いて、塗布サンプルαの残り(A以外のもの)についても、同様に電荷発生層を形成し、塗布サンプルβを作製した。
【0136】
<電荷輸送層の形成による、電子写真感光体の作製>
すべての塗布サンプルβを用いた。
【0137】
中間層形成時と同様の塗布装置を用い、かつ、同条件での塗布方法により、塗布サンプルβ上に上記電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布し、これを1時間110℃で乾燥させることによって、膜厚25μmの電荷輸送層を形成した。このようにして、円筒状の電子写真感光体を得た。
【0138】
<画像評価>
次に、キヤノン(株)製デジタル複写機IR−400(商品名)に、作製した電子写真感光体を装着して画像評価を行った。
【0139】
評価結果は、出力画像上にムラが全く認められないものを「ムラなし」、画像上に軽微なムラが認められるものを「軽微ムラ」、画像上に容易に判別可能なムラが認められるものを「ムラあり」とした。結果を表2に示す。
【0140】
〔実施例2〕
中間層を塗布するに際して、中間層用塗布液2を用いた以外は、実施例1と同様にして、塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0141】
〔比較例1〕
中間層用塗布液、電荷発生層用塗布液および電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布するに際して、伸縮式スライドフード6の内面と被塗布体との隙間に気流を発生させることなく浸漬塗布を行った以外は、実施例1と同様にして、塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0142】
〔比較例2〕
中間層用塗布液、電荷発生層用塗布液および電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布するに際して、図7に示す塗布装置を使用して浸漬塗布を行った以外は、実施例1と同様にして、塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0143】
図7に示す塗布装置は、図2に示す塗布装置に比べて、伸縮式スライドフードの向きを上下反対に配置したものである。すなわち、図7で示す伸縮式スライドフード18は、複数の筒状部材を浸漬塗布方向の上方から下方に向かって径が順次小さくなるように連結してなる伸縮式スライドフードである。また、伸縮式スライドフード18の筒状部材同士の連結部分は、図8に示すような構成であり、図4の(a)とは上下反対である。
【0144】
図8は、図7中の矢印20で指す部分の、伸縮式スライドフードの筒状部材18bおよび筒状部材18cの連結部分と、被塗布体1との隙間を示す図である。筒状部材18cはその上端部に、より径の大きなリング部材21cを備えており、筒状部材18bはその下端部に、より径の小さなリング部材21bを備えている。そして、リング部材21bおよびリング部材21cを互いに引っ掛けることによって、筒状部材18bおよび筒状部材18cは連結するようになっている。そして、リング部材21bの内径は、筒状部材18cの円筒部分の外径よりもわずかに大きく、リング部材21cの外径は、筒状部材18bの円筒部分の内径よりもわずかに小さくなっており、隙間ができている。
【0145】
また、本比較例2では、送気ユニット16の噴気口から伸縮式スライドフード18内に空気を噴出することで、伸縮式スライドフードの内面と被塗布体との隙間において浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させた。
【0146】
〔比較例3〕
中間層用塗布液、電荷発生層用塗布液および電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布するに際して、図7に示す塗布装置を使用して浸漬塗布を行った以外は、実施例1と同様にして、塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体を作製し、評価した。塗布装置に関しては、比較例2と同様である。ただし、図7に示す塗布装置から送気ユニット16および送気パイプ17は取り外し、吸気パイプ8の終端には空気圧縮装置(不図示)を取り付け、吸気ユニット7の吸気口から伸縮式スライドフード18内に空気を噴出するように改造してから、浸漬塗布を行った。すなわち、吸気ユニット7を送気ユニットとして、吸気口を噴気口として働かせた。結果を表1および表2に示す。
【0147】
〔比較例4〕
中間層用塗布液および電荷発生層用塗布液を塗布するに際して、図2に示す塗布装置を使用し、実施例1と同様にして、塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体を作製し、評価した。塗布装置に関しては、実施例1と同様である。ただし、図2に示す塗布装置から送気ユニット16および送気パイプ17は取り外し、吸気パイプ8の終端には空気圧縮装置(不図示)を取り付け、吸気ユニット7の吸気口から伸縮式スライドフード6内に空気を噴出するように改造し、浸漬塗布を行った。すなわち、吸気ユニット7を送気ユニットとして、吸気口を噴気口として働かせた。結果を表1および表2に示す。
【0148】
〔実施例3〕
中間層用塗布液および電荷発生層用塗布液を浸漬塗布するに際して、図1の(A)および図5の(A)に示す塗布装置を使用して浸漬塗布を行った以外は、実施例1と同様にして、塗布サンプルαおよび塗布サンプルβを作製した。結果を表1に示す。ただし、吸気ユニット7の吸気口から伸縮式スライドフード16の内面と被塗布体との隙間の雰囲気を吸気するようにして浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させた。また、気流の速度設定のための測定については次のように行った。
【0149】
チャック部材2で被塗布体1を把持し、吸気ユニット7で空気を吸引させた状態で、筒状部材6aの上端部の開口部から煙フローマーカーを用いて煙を導入させ、煙が筒状部材6aの上端部から筒状部材6cの下端部に至るまでに要する時間を計測した。なお、吸引量の調整に際しては、吸気パイプ8の終端に風量調整バルブを取り付けて行った。
【0150】
〔実施例4〕
中間層用塗布液を浸漬塗布するに際して、中間層用塗布液2を用いた以外は、実施例3と同様にして、塗布サンプルαおよび塗布サンプルβを作製した。結果を表1に示す。
【0151】
〔実施例5〕
中間層用塗布液および電荷発生層用塗布液を浸漬塗布するに際して、伸縮式スライドフード6の各部の寸法を表1のとおりにした以外は、実施例3と同様にして、塗布サンプルαおよび塗布サンプルβを作製した。結果を表1に示す。
【0152】
〔実施例6〕
中間層用塗布液を浸漬塗布するに際して、中間層用塗布液2を用いた以外は、実施例5と同様にして、塗布サンプルαおよび塗布サンプルβを作製した。結果を表1に示す。
【0153】
〔実施例7〕
中間層用塗布液および電荷発生層用塗布液を浸漬塗布するに際して、伸縮式スライドフード6の各部の寸法を表1のとおりにした以外は、実施例3と同様にして、塗布サンプルαおよび塗布サンプルβを作製した。結果を表1に示す。
【0154】
〔実施例8〕
中間層用塗布液を浸漬塗布するに際して、中間層用塗布液2を用いた以外は、実施例7と同様にして、塗布サンプルαおよび塗布サンプルβを作製した。結果を表1に示す。
【0155】
【表1】

【0156】
【表2】

【0157】
〔目視評価結果〕
実施例1と3、および、実施例2と4をそれぞれ比較すると、実施例3および4の方が濃淡ムラが少ない。浸漬塗布方向の上部付近の濃淡ムラの発生度合いに関して、実施例1および2の方が、実施例3および4よりも多いことが観察された。
【0158】
実施例3と5、および、実施例4と6をそれぞれ比較すると、実施例5および6の方が濃淡ムラが少ない。筒状部材6aと筒状部材6bとの連結部分付近の濃淡ムラの発生度合いに関して、実施例3および4の方が、実施例5および6よりも多いことが観察された。
【0159】
実施例5と7、および、実施例6と8をそれぞれ比較すると、実施例7および8の方が濃淡ムラが少ない。筒状部材6aと筒状部材6bとの連結部分付近の濃淡ムラの発生度合いに関して、実施例5および7の方が、実施例6および8よりも多いことが観察された。
【0160】
比較例1で作製した塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体は、全体的に強い濃淡ムラが発生していた。また、塗布サンプルαでは、浸漬塗布方向の上部付近に膜表面のざらつきが観察された。これは、円筒状の支持体の表面に付着した塗膜(塗布液)中の溶剤が揮発する際に、結露が生じたことによるものと推測される。
【0161】
比較例2で作製した塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体は、浸漬塗布方向の上部付近の濃淡ムラが多く観察された。また、筒状部材6aと筒状部材6bの連結部分付近および筒状部材6bと筒状部材6cの連結部分付近の濃淡ムラも多く観察された。
【0162】
比較例3で作製した塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体は、浸漬塗布方向の下部付近の濃淡ムラが多く観察された。
【0163】
比較例4で作製した塗布サンプルα、塗布サンプルβおよび電子写真感光体は、浸漬塗布方向の下部付近の濃淡ムラが多く観察された。また、筒状部材6aと筒状部材6bの連結部分付近および筒状部材6bと筒状部材6cの連結部分付近の濃淡ムラも多く観察された。
【0164】
〔画像評価結果〕
実施例1および2で作製した電子写真感光体の画像評価では、ほとんどのサンプルがムラを生じなかった。一方、比較例で作製した電子写真感光体には、目視評価に準じたムラの発生が見られ、その発生位置も目視評価で確認された位置とほぼ合致するものであった。
【符号の説明】
【0165】
1 被塗布体
2 チャック部材
3 塗布ベース
4 ボールネジ
5 基台
6 伸縮式スライドフード
7 吸気ユニット
8 吸気パイプ
9 蓋
10 オーバーフロー槽
11 塗布槽
12 吸気口
13 挿通口
14b リング部材
14c リング部材
16 送気ユニット
17 送気パイプ
18 伸縮式スライドフード
101 電子写真感光体
102 軸
103 帯電手段
104 露光光
105 現像手段
106 転写手段
107 クリーニング手段
108 定着手段
109 プロセスカートツツジ
110 案内手段
P 転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗布体を塗布槽中の塗布液に浸漬した後に、伸縮式スライドフードで該被塗布体の側面を覆いながら該被塗布体を引き上げて、該被塗布体の表面に塗膜を形成する浸漬塗布方法において、
該伸縮式スライドフードが、複数の筒状部材を浸漬塗布方向の下方から上方に向かって径が順次小さくなるように連結してなり、かつ、該被塗布体を引き上げているときに該被塗布体の動作に連動して伸びながら該被塗布体の側面を覆うことが可能なフードであって、
該被塗布体を引き上げているときに、該伸縮式スライドフードの内面と該被塗布体との隙間において浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させて溶剤の蒸気を該伸縮式スライドフードの外へ排出する
ことを特徴とする浸漬塗布方法。
【請求項2】
前記伸縮式スライドフードの下端部近傍に設けた吸気口から前記伸縮式スライドフードの内面と前記被塗布体との隙間の雰囲気を吸気することによって、前記浸漬塗布方向の上方から下方に向かう気流を発生させる請求項1に記載の浸漬塗布方法。
【請求項3】
前記伸縮式スライドフードを構成する一の筒状部材とそれよりも浸漬塗布方向上方側に隣接する他の筒状部材との連結部分において、該一の筒状部材の内面と該他の筒状部材の内面との段差をt[mm]とし、該一の筒状部材の内面と前記被塗布体の表面との距離をd[mm]としたとき、tとdがすべての連結部分において下式
t≦d×0.3
の関係を満たす請求項1または2に記載の浸漬塗布方法。
【請求項4】
浸漬塗布方法によって被塗布体の表面に塗膜を形成する工程を有する電子写真感光体の製造方法において、該浸漬塗布方法が請求項1〜3のいずれか1項に記載の浸漬塗布方法であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−115641(P2010−115641A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229650(P2009−229650)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】