説明

消化器系疾患罹患の判定方法およびそのキット

【課題】本発明の目的は、消化器系疾患の予防医学的診断にあり、特に、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃ポリープ、胃癌等の胃・十二指腸の炎症を伴う疾患などの予防医学的診断に優れたTNFαプロモータの多型検出方法を提供することにある。
【解決手段】被験体が消化器系疾患を有するか又は発生素因があるかを判定する方法であって、該被験体から核酸試料を抽出し、該核酸試料中に含まれるTNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出することを特徴とする消化器系疾患罹患可能性の判定方法およびキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化器系疾患の予防医学的診断に関する。更に詳しくは、消化器系疾患の中でも特に、胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の予防医学的診断に関する。
【背景技術】
【0002】
消化器系疾患、特に、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃ポリープ、胃癌等の胃・十二指腸の炎症を伴う疾患は特に罹患率も高く、その疾患の素因の解明は医療経済的な効果が極めて大きいものとされている。現在の検査方法は、検診あるいは被験者よりの訴えに基づき、問診、内視鏡検査、X線検査によって慢性胃炎、胃潰瘍、胃癌等の診断を行っている。
予防医学的な観点からは、ある一つの特定の疾患にかかる素因の早期検出方法は、非常に望ましいものである。遺伝学的要素のある疾患に関しては、この検出には遺伝子スクリーニングの技術が含まれる。早期の遺伝子スクリーニングによって、その異常が臨床上検出可能になる前に、監視及び早期介入を行え、患者の予後を向上させることができる。同じような徴候を持つ患者を処置しても成果がまちまちであるような場合、洗練された遺伝子スクリーニングによって、微妙な、又は、検出不能な違いを持つ個々の患者を差異化でき、より適した個別の処置を行うことができる。将来的には、早期の介入に遺伝子治療などの方法が含まれるであろうと予測できる。
遺伝性疾患をスクリーニングするための方法は、異常な遺伝子産物に依存してきた。簡単かつ安価な遺伝子スクリーニング法の開発により、その疾患が多遺伝子性起源のものでも、疾患の発生の性向を示す多型を特定することができる。分子生物学的方法によってスクリーニングすることのできる疾患の数は、多因子性障害の遺伝的基礎が解明されていくにつれ、増え続ける。
遺伝子タイピングは、広い意味では、疾患状態を起こすか、又は、疾患状態に「連鎖」している、のいずれかである多型(又は対立遺伝子 又は多型 )を、ある患者が有しているかどうかを調べるテストであると定義できる。連鎖とは、ゲノム中で相互に近接した位置にあるDNA配列が一緒に受け継がれる傾向を有する現象を言う。二つの配列が、何らかの選択的利点のために連鎖していることがある。しかしながら、より一般的には、二つの多型配列が連鎖しているのは、二つの多型の間にある領域で組み換えが起きる相対的低頻度のためである。連鎖した遺伝子は互いに対して連鎖不均衡にあると言われるが、それはなぜなら、任意のヒト集団中では、それらはその集団の特定の人員中で一緒に起きるか、又は全く起きない傾向にあるからである。実際、ある染色体領域中で多数の多型が相互に連鎖不均衡で見られる場合、それらは準安定な遺伝子「ハプロタイプ」を定義する。対照的に、二つの多型座位の間で組換え事象が起きると、それらは別個の相同染色体に別れる。二つの物理的につながった多型の間で減数分裂性組換えが充分な頻度で起きると、この二つの多型は個々に分離しているように見えることになり、これらは連鎖均衡にあると言われる。
よって、疾患を起こす突然変異的変化を含む、又はそれに連鎖したヒトハプロタイプの特定法は、疾患を起こす多型をその個人が受け継いだ可能性を予測する手段として役立つ。重要なことに、このような予後的又は診断的手法は、実際に疾患を起こす病変を特定及び分離する必要なく、利用することができる。
ある疾患と、ある多型との間にある統計学的な相関関係は、必ずしも、その多型を有することがその疾患を直接引き起こすことを示唆するわけではないが、特定の疾患に関する診断的及び予後的アッセイの目的のために、その疾患に関連した多型対立遺伝子の検出を、利用することができる。
【0003】
しかし、消化器系疾患、特に胃癌、胃潰瘍や十二指腸潰瘍においては、前炎症性サイトカイン遺伝子がその疾患の進行に関与しているかどうか、また、これら疾患の罹患率については、サイトカイン遺伝子の遺伝的多型が影響しているかどうかは不明であった。また、多数存在するサイトカイン遺伝子の、どの遺伝的多型サイトが疾患と関連しているかは不明であった。
【0004】
TNF-アルファ遺伝子 (TNFα)座位は、6番染色体の短腕上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)のクラスIII領域にあり、ヒト白血病抗原(HLA)-B座位の約250キロベース(kb)、セントロメア側、そしてクラスII領域の850kb、テロメア側にある(非特許文献1、2参照)。TNF-α及びリンフォトキシン-α(LT-α)の遺伝子 は7kbの範囲にあり、直列配列で1.1kb離れており、LT-αがテロメア側にある。両方とも四つのエキソンと三つのイントロンから成り、対応するmRNAの短い5’非翻訳部分と長い3’非翻訳部分とをコードしている(非特許文献3、4参照)。最も顕著なホモロジー領域は四番目のエキソンに見られ、この四番目のエキソンは分泌LT-α及びTNF-αのそれぞれ80%及び89%をコードしている(非特許文献4参照)。
【0005】
TNFαは主にマクロファージによって分泌される。TNF-αの発現は、細菌のリポ多糖類、マイトジェン、及びウィルスによって誘導され、転写及び翻訳の両方で調節を受ける(非特許文献5、6、7又は8参照)。TNFα遺伝子の調節はそのコドン配列を取り巻く5’側及び3’側のフランキング領域や、コドン・エキソン間に分散したイントロン内の配列によって媒介される。TNFα5’側フランキング領域には約1000個の塩基対があり、その中には、三つの推定NFkB型コンセンサス配列、MHCクラスIIプロモータのYボックス、及び、ソマトスタチンプロモータのそれに似た環状アデノシン3’5’−モノホスフェート(cAMP)反応要素(CRE)を含め、転写制御に重要な要素が含まれている。このコドン配列に最も近いNFkB要素は、熱心に研究されている区域であり、シクロスポリンAによる転写抑制や、T細胞の核因子C/EBPBによる活性化に関与した要素が重複している。注目すべきことに、三番目のイントロンは、この領域内のウィルスエンハンサ配列から分岐したエンハンサ活性を有する。3’側非翻訳領域(3'UTR)は進化上保存されたTAリッチな配列を含み、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を含むその他の炎症関連性遺伝子及びヒト肝細胞誘導酸化窒素シンターゼ遺伝子の3'UTRにもある。
TNFα遺伝子の転写活性化 マクロファージをLPSに暴露すると、そのマクロファージ内のTNFα遺伝子の転写速度が三倍に増加するが、これは、少なくとも部分的には、転写因子核因子kB(NF-kB)の誘導によって媒介されている(非特許文献9参照)。NF-kBはヘテロ二量体のタンパク質であり、通常は細胞質にあって、刺激シグナルが細胞表面で感知されるまではその37-kDのインヒビタ(IkB)に結合している。マクロファージをLPSに暴露すると、NF-kBが、プロテインキナーゼC依存性及び独立性機序によって活性化する。TNFα5’側フランキング配列の数部分を削除した結果、kBエンハンサ配列の三つ以上の欠失により、マクロファージ中のLPS誘導遺伝子 活性化が著しく弱まることが示された(非特許文献10参照)。T細胞では、NF-kBの誘導はマクロファージほどは、TNFα遺伝子活性化にとって重要でないかも知れない。代わりに、ポープ氏及び共同研究者(非特許文献11参照)は、TNFαプロモータの中にC/EBPBへの特異的結合部位を同定した。ジャーカットT細胞の一過性同時トランスフェクションレポータ系では、CEBPBが過発現すると、TNFα遺伝子が活性化した。さらに、この同じ細胞株で、多型のC/EBPBによりC/EBPB活性を遮断すると、ホルボールミリスチックアセテート(PMA)によるTNFα誘導が消失した。C/EBPBがマクロファージの活性化に重要であるかどうかはまだ不明である。
TNFαプロモータの多型が、LPS及びその他のTNFα誘導刺激に対するTNFαの転写応答の、多型特異的差異を引き起こし、ひいては、類似の疾患プロセスを持つ患者間での臨床上の症状の個人差や、このようなプロセスに対する遺伝的素因の基本的な個人差を担っているという報告はない。
染色体の位置決定、生物学的効果、その慢性炎症への関与、及び、HLA-DR対立遺伝子 との表現型の関連から考えると、TNFα座位の多型 が、感染性又は炎症性疾患の病理発生又は臨床上の症状発現に関与している可能性がある(非特許文献12、13参照)。実際、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)は、全身性エリテマトーデス(非特許文献14参照)、インシュリン依存性真性糖尿病(非特許文献15参照)、疱疹状皮膚炎(非特許文献16参照)、小児脂肪便症(非特許文献17参照)、及び重症筋無力症(非特許文献18参照)を含め、いくつかのヒトの疾患の病理発生に関係があることが示唆されてきた。TNF-α遺伝子の座位は、主要組織適合遺伝子 複合体(MHC)のクラスIII領域にあるため、特定のTNFα多型 と、特定の疾患又は障害との間の関連は、特定のMHCクラスIII対立遺伝子 との連鎖不均衡が原因かも知れない。ハプロタイプHLA-A1-B8-DR3-DQ2は、「自己免疫ハプロタイプ」として知られ、インシュリン依存性糖尿病、グレーブズ病、重症筋無力症、SLE、疱疹状皮膚炎及び小児脂肪便症を含め、数多くの自己免疫疾患と関連づけられてきた(非特許文献19、20又は21参照)。しかしながら、消化器系疾患との関連について報告はされていなかった。
【非特許文献1】Carroll et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:8535-9
【非特許文献2】Dunham et al. (1987) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84:7237-41
【非特許文献3】Nedospasov et al. (1986) Cold Spring Harbor Symp Quant Biol 511:611-24;
【非特許文献4】Nedwin et al. (1985) Nucleic Acids Res 13:6361-73
【非特許文献5】Golfeld et al. (1990) Proc Natl Acad Sci USA 87:9769-73
【非特許文献6】Golfeld et al. (1991) J Exp Med 174:73-81
【非特許文献7】Han et al. (1990) J Exp Med 171:465-75
【非特許文献8】Han et al. (1991) J Immunol 146:1843-48
【非特許文献9】Beutlor BA et al. 1986 Immunol, Collart M., et al. 1990 Mol Cell Biol
【非特許文献10】Shakhov et al. (1990) J Exp Med 171:35-47
【非特許文献11】Pope et al. (1994) J clin Invest 94: 1449-55
【非特許文献12】Sinha et al. (199) Science 248: 1380-88
【非特許文献13】Jacob (1992) Immunol Today 13:122-25
【非特許文献14】Wilson et al. (1994) Eur J Immunol 24: 191-5
【非特許文献15】Cox et al. (1994) Diabetologia 37:500-3
【非特許文献16】Wilson (1995) J Invest Dermatol 104:856-8
【非特許文献17】Mansfield et al. (1993) Gut 34:S20-23
【非特許文献18】Degli-Esposti et al. (1992) Immunogenetics 35:355-64
【非特許文献19】Scejgaard et al. (1989) Genet Epidemiol 6:1-14;
【非特許文献20】Welch et al. (1988) Dis Markers 6: 247-55;
【非特許文献21】Ahmed (1993) J Exp Med 178:2067-75
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術では、消化器系疾患の予防医学的診断はできなかったという問題がある。従って、本発明の目的は、消化器系疾患の予防医学的診断にあり、特に、胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの予防医学的診断に優れたTNFαプロモータの多型検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示すような手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は消化器系疾患の予防医学的診断に関する。
1. 被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定する方法であって、該被験体のTNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出することを特徴とする消化器系疾患罹患可能性の判定方法。
2. 被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定する方法であって、該被験体のTNF-α遺伝子からの転写産物量及び/又はTNF-αの発現量を測定することを特徴とする消化器系疾患罹患可能性の判定方法。
3. 消化器系疾患が、胃癌、胃潰瘍および十二指腸潰瘍からなる群から選択される、項1又は2に記載の判定方法。
4. 検出される多型箇所がTNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する、-863、-857及び/又は-1031番目であることを特徴とする項1記載の判定方法。
5. TNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出する方法が、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、電気泳動サイズ分析、シークエンス法、5’端ヌクレアーゼ消化、一本鎖コンホメーション多型、プライマー特異的伸長法、オリゴヌクレオチド連結アッセイ、Cleavageを用いたアッセイ、熱溶出クロマトグラフ、融解曲線分析法、Taqmanアッセイ法及び遺伝子増幅法より選ばれることを特徴とする項1又は4に記載の判定方法。
6. 遺伝子増幅法が、PCR、NASBA、LCR、SDA、RCRおよびTMAよりなる群から選ばれることを特徴とする項5に記載の判定方法。
7. 遺伝子増幅法がPCRであり、該PCRに用いられるDNAポリメラーゼが3’エキソヌクレアーゼ活性を有することを特徴とする項6に記載の判定方法。
8. 3’末端より1番目の塩基が多型の予想されるヌクレオチドに対応するプライマーを遺伝子増幅法に用いることを特徴とする項5,6又は7に記載の判定方法。
9. 3’末端より2番目の塩基が多型の予想されるヌクレオチドに対応するプライマーを遺伝子増幅法に用いることを特徴とする項5,6又は7に記載の判定方法。
10. プライマーの3’末端より3から5番目の少なくとも1種の塩基が相補的でない塩基に置換されていることを特徴とする項8又は9に記載の判定方法。
11. 被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定する方法であって、該被験体のTNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する、-863、-857及び/又は-1031番目の多型を、配列番号1〜10に示される配列またはこれに相補的な配列のうち連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つを、プライマーまたはプローブとして用いることを特徴とする判定方法
12. 配列番号1、4及び9に示される配列またはこれに相補的な配列のうち、連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つをTNF-α遺伝子のプロモータ領域の野生型および変異型の共通のプライマー(フォワードプライマー)として用いることを特徴とする項11に記載の判定方法。
13. 配列番号2、5及び7に示される配列またはこれに相補的な配列のうち、連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つを、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の野生型のプライマー(リバースプライマー)もしくはプローブとして用いることを特徴とする項11に記載の判定方法。
14. 配列番号3、6、8及び10に示される配列またはこれに相補的な配列のうち、連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つを、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型のプライマー(変異型のリバースプライマー)もしくはプローブとして用いることを特徴とする項11に記載の判定方法。
15. プライマーの3’末端から2番目のヌクレオチドが、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型部位に対応するように設計されていることを特徴とする項13または14に記載の判定方法。
16. プライマーの3’末端のヌクレオチドが、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型部位に対応するように設計されていることを特徴とする項13又は14に記載の判定方法。
17. プライマーの3’末端より3から5番目の少なくとも1種の塩基が相補的でない塩基に置換されていることを特徴とする項13又は14に記載の判定方法。
18. 被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定するキットであって、TNF-αのプロモータ領域の多型を検出することを特徴とする消化器系疾患罹患判定用キット。
19. 検出されるTNF-α のプロモータ領域の多型が-863、-857、-1031番目である、項18に記載のキット。
20. 被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定するキットであって、配列表・配列番号1〜10に示される配列またはこれに相補的な配列のうち連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つのオリゴヌクレオチド配列をプライマー又はプローブとして含むことを特徴とするキット。
21. 消化器系疾患が、胃癌、胃潰瘍および十二指腸潰瘍からなる群から選択されることを特徴とする、項18〜20のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、TNFαプロモータの多型検出を行うことで、消化器系疾患の中でも特に、胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の予防医学的診断ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明によれば、被験体から核酸試料を得、前記試料中で、TNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出することによって、被験体が消化器系疾患を有するか又は発生素因があるかを判定することができる。特に、胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の予防医学的診断ができる。
【0010】
アッセイのための試料は、患者の血液、組織から採取し、鋳型として用いるDNAは既知の方法により抽出すればよい。代表的なものとして、フェノール/クロロホルム抽出法(Biochimica et Biophysica acta 第72巻、第619〜629頁、1963年)、アルカリSDS法(Nucleic Acid Research 第7巻、第1513〜1523頁、1979年)等の液相で行う方法がある。また、核酸の単離に核酸結合用担体を用いる系としては、ガラス粒子とヨウ化ナトリウム溶液を使用する方法(Proc. Natl. Acad. USA 第76−2巻、第615〜619頁、1979年)、ハイドロキシアパタイトを用いる方法(特開昭63−263093号公報)等がある。その他の方法としてはシリカ粒子とカオトロピックイオンを用いた方法(J. Clinical Microbiology 第28−3巻、第495〜503頁、1990年、特開平2−289596号公報)が挙げられる。
【0011】
本明細書において、消化器系疾患としては、胃・十二指腸潰瘍の炎症を伴う疾患が挙げられ、具体的には、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃ポリープ、胃癌が挙げられ、特に胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍が挙げられる。
【0012】
本明細書において、「消化器系疾患の発生素因」としては、消化器系疾患への罹患のしやすさを意味する。例えばTNF-αのプロモーター領域の-863、-857、-1031番目に多型があれば、消化器系疾患に罹患し易いため、「消化器系疾患の発生素因」を有することになる。また、TNF-α遺伝子の転写産物(mRNA)量またはTNF-α(蛋白質)の発現量が顕著に高い場合にも、「消化器系疾患の発生素因」を有すると考えられる。
【0013】
本発明において、「消化器系疾患罹患の可能性を判定する」とは、例えばTNF-αのプロモーター領域に多型が1つ以上あれば、多型のない野生型の被験体と比較して消化器系疾患罹患の可能性が高くなることを意味し、多型部位が、2箇所または3箇所と増大して行くにつれて、消化器系疾患罹患の可能性が高いと判定される。特に、TNF-αのプロモーター領域の-863、-857、-1031番目において、多型箇所が、1箇所から、2箇所、3箇所に増えるにつれて、消化器系疾患罹患の可能性は高まることになる。
【0014】
「消化器系疾患罹患の可能性の判定」は、TNF-α遺伝子の転写産物(mRNA)量またはTNF-α(蛋白質)の発現量を測定することにより、判定することができる。
【0015】
本発明の例えば、TNF-α遺伝子の転写産物量またはTNF-α(蛋白質)の発現量について健常な(例えばTNF-αのプロモーター領域に多型のない)被験者のレベルを予め測定しておき、その健常レベルよりも高いレベル(例えば健常者よりも10%以上、或いは20%以上、特には30%以上)にあれば「消化器系疾患罹患の可能性」が高いと判定され、そのレベルが高いほど消化器系疾患罹患の可能性が高くなると考えられる。
【0016】
各部位の多型と特に罹患し易い消化器疾患の関係を、以下の表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
上記のように-863、-857及び/又は-1031番目において、野生型は消化器系疾患に罹患しにくく、変異型は罹患しやすい。特に、胃潰瘍と胃癌では罹患率が高くなる。
【0019】
また、-857/-863/-1031の塩基の組み合わせが、CAC、TCC、TACの場合、胃潰瘍及び胃癌に対する罹患率が高く、特にTACでは罹患率が特に高い。
【0020】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、消化器系疾患の予防医学的診断をおこなうために、TNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する、-863、-857、-1031の遺伝子多型を検出すればよい。この、DNA配列の番号付けは、GenBankの ACCESSION M16441に登録された配列の番号付けに基づいて説明するならば、転写開始点の位置である4095番目を0番目として、逆算する値を示している。すなわち、本発明記載の-863番目の位置は、ACCESSION M16441に登録された配列において、3232番目を示す。同様に、-857番目は3238番目、-1031番目は3064番目を示す。
変異を核酸レベルで解析する方法として、プローブを用いる方法、核酸配列を複製または増幅する方法が利用できる。あるいは、これらの方法を組み合わせた方法も利用できる。核酸の多型を分析する方法は既に報告されているものであれば特に限定されるものではないが、例えば、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、電気泳動サイズ分析、シークエンス法、5’端ヌクレアーゼ消化、一本鎖コンホメーション多型、プライマー特異的伸長法、オリゴヌクレオチド連結アッセイ、Cleavageを用いたアッセイ、熱溶出クロマトグラフ、融解曲線分析法、Taqmanアッセイ法、遺伝子増幅法などを用いても良い。
【0021】
TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型を、プローブを用いて検出してもよい。例えば、多型部分にプローブを作成し、該プローブと測定したい核酸配列を含む溶液とを混合しプローブと核酸配列のハイブリダイズの様子を解析することで判定できる。好ましくは、 配列表・配列番号3、6、8及び10からなる群より選ばれた連続する少なくとも15塩基を含んだ1種以上の配列を多型用プローブ、配列表・配列番号2、5及び7からなる群より選ばれた連続する少なくとも15塩基を含んだ1種以上の配列を野生用プローブとし、例えば、TaqManプローブ法(Genome Res. 第6巻、第986頁(1996))などを用いて解析を実施してもよい。なお、プローブの配列には、多型部位が含まれるのが好ましい。
【0022】
TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型を、核酸配列を複製または増幅する方法を用いて検出してもよい。この場合の核酸増幅方法としては、PCR、NASBA(Nucleic acid sequence−based amplification method;Nature 第350巻、第91頁(1991))、LCR(国際公開89/12696号公報、特開平2−2934号公報)、SDA(Strand Displacement Amplification:Nucleic acid research 第20巻、第1691頁(1992))、RCR(国際公開90/1069号公報)、TMA(Transcription mediated amplification method;Journal of Clinical Microbiology 第31巻、第3270頁(1993))などが挙げられる。
【0023】
なかでもPCR法は、試料核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のプライマー及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、上記一対のプライマーで挟まれる試料核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である。すなわち、変性工程で試料の核酸を変性し、続くアニーリング工程において各プライマーと、それぞれに相補的な一本鎖試料核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各プライマーを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖試料核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上上記一対のプライマーで挟まれた試料DNAの領域は2n倍に増幅される。増幅されたDNA領域は大量に存在するので、電気泳動等の方法により容易に検出できる。よって、遺伝子増幅法を用いれば、従来では検出不可能であった、極めて微量(1分子でも可)の試料核酸をも検出することが可能であり、最近非常に広く用いられている技術である。
【0024】
上記のような核酸増幅法を利用した方法では、野生型核酸を増幅できる野生型プライマーと、多型核酸を増幅できる多型プライマーをそれぞれ別個に用いて遺伝子増幅法を行う。ここで、多型核酸とは、野生型核酸のうちの1つのヌクレオチドのみが点変異して他のヌクレオチドに置換されているものや野生核酸配列の一部に挿入、欠失配列等を含む核酸配列のことである。
【0025】
野生型プライマーを用いて試料核酸を伸長または増幅反応を行った場合、試料核酸が野生型であれば反応が起きるが、多型では反応が起きない。逆に、多型プライマーを用いて試料核酸を伸長または増幅反応を行った場合、試料核酸が多型であれば反応が起きるが、野生型であれば反応は起こらない。従って、一つの試料を二つに分け、一方は野生型プライマーを用いて反応を行い、他方は多型プライマーを用いて反応を行い、反応が起ったか否かを調べることにより、試料核酸が野生型であるか多型であるかを明確に知ることができる。
【0026】
これまで説明したことは従来法とも共通するものであるが、上述のように、従来法では、野生型プライマー/多型核酸及び多型プライマー/野生型核酸の組合せにおいて、プライマーの3’末端のみが鋳型核酸と非相補的(ミスマッチ)になっている(すなわち、プライマーの3’末端が試料核酸の予想される多型部位に対応する)ので、これらの組合せにおいても反応が起こる場合がある。このような場合には、試料核酸が野生型か多型かを判別することが困難になる。
【0027】
これは増幅反応によく用いられるサーマス・アクエティカス(Thermus aquaticus)由来のDNAポリメラーゼ等は3’エキソヌクレアーゼ活性を持たないため、増幅反応を行った場合、正確に鋳型配列の相補鎖を合成できなかった時もそのまま増幅反応を続けるため、増幅核酸断片に多型を含有する事がある。つまり3’末端にミスマッチがあっても反応が進んでしまう事になり、このような問題が起こると考えられている。
【0028】
一方、伸長反応の正確性が優れているピロコッカス・エスピー(Pyrococcussp.)KOD1株もしくはハイパーサーモフィリック・アーカエバクテリウム(Hyperthermophilic archaebacterium)由来のDNAポリメラーゼは、3’エキソヌクレアーゼ活性を有するため3’末端にミスマッチがあった場合、そのヌクレアーゼ活性によりミスマッチ部分を切除した後伸長反応を続けるためこのような問題が起こると考えられる。
【0029】
本発明では、このような問題を解決するための方法も提供する。本発明の従えば、上記組合せにおいてプライマーの3’末端から2番目のヌクレオチドが多型配列のヌクレオチドと対応するように設計してもよい。このように設計した場合野生型プライマー/野生核酸及び多型プライマー/多型核酸の組合せにおいて、プライマーは完全に一致する為反応は起こるが、野生型プライマー/多型核酸及び多型プライマー/野生型核酸の組合せにおいてはプライマーの3’末端より2番目の塩基がミスマッチしているため、特に3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼはミスマッチを認識するが、3’末端は相補的な為、エキソヌクレアーゼも働かず、またDNAポリメラーゼ反応も起こらない事が確認された。
【0030】
さらに、ダブルミスマッチを利用した野生型プライマー及び多型プライマーを設計してもよい。すなわち3’末端から2番目の塩基は多型が予想されるヌクレオチドに対応する塩基配列であり、また3番目から5’末端までの塩基に相補的でないヌクレオチドを含むプライマーを用いることも可能である。これは3番目にミスマッチを用いた場合ミスマッチの認識が更に強くなり、また他の部分に用いた場合はプライマーの結合を妨げる効果が考えられる。
【0031】
本発明に従って、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型を検出するための野生型プライマーと多型プライマーを設定することにより、被験体が消化器系疾患を有するか又は発生素因があるかを判定することができる。好ましくは、配列表・配列番号3、6、8及び10からなる群より選ばれた連続する少なくとも15塩基を含んだ1種以上の配列を多型用プライマー、配列表・配列番号2、5及び7からなる群より選ばれた連続する少なくとも15塩基を含んだ1種以上の配列を野生用プライマー、配列表・配列番号1、4及び9からなる群より選ばれた連続する少なくとも15塩基を含んだ1種以上の配列を野生型および変異型の共通のプライマーとして利用してよい。このとき、プライマーの配列には、多型部位が含まれるのがよい。さらに好ましくは、配列表・配列番号1〜10の全配列に従ったプライマーを作製するのがよい。なお、プライマーが予め標識されているものであってもよい。該標識としては、ビオチン、蛍光物質、ハプテン、抗原、放射線物質、発光団などが挙げられる。
【0032】
本発明によって、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型と疾患との関連が明確になり、TNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出することで消化器系疾患を有するか又は発生素因があるかを判定することが容易となった。プロモータ領域の多型は、mRNAの発現量に影響を及ぼすことは容易に考えられるので、TNF-α遺伝子からの転写産物量及び/又はTNF-αの発現量を測定しても消化器系疾患を有するか又は発生素因があるかを判定できる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(実施例1) tumor necrosis factor alpha (TNFα) -863遺伝子多型の検出
(1)TNFα遺伝子 -863の多型を検出するオリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1〜3に示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1〜3と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、プロリゴ・ジャパン(株)、オペロン バイオテクノロジー(株)等)に依頼した。
オリゴ1 5’-TCA CCC CCG GGA ATT CAC AGA-3’
オリゴ2 5’-GTC GAG TAT GGG GAC CCC TCC -3’
オリゴ3 5’-GTC GAG TAT GGG GAC CCC AAC-3’
オリゴ1はTNFα遺伝子の-863番目の多型を検出するためのものである。このオリゴは野生型、多型何れも増幅することが可能なオリゴである。なお、オリゴは必要により標識して使用される。
【0034】
オリゴ2および3はTNFα遺伝子の-863番目の多型を検出するためのものである。
オリゴ2は野生型(C)を検出するためのオリゴヌクレオチドで3’末端から2番目に野生型(C)のヌクレオチド配列、および3番目に人為的ミスマッチを有し、オリゴ3は多型(A)を検出するためのオリゴヌクレオチドで3’末端から2番目に多型(A)のヌクレオチド配列、および3番目に人為的ミスマッチを有し、これらはオリゴ1と組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用される。なお、これらのオリゴは必要により標識して使用される。
【0035】
また、本実施例での、オリゴ2および3の各オリゴヌクレオチドは3’末端から3番目に人為的ミスマッチを導入したが、ミスマッチの位置はこれに限定されるものではない。さらにはこれ以外に数カ所(1〜5箇所程度でプライマーの全体長による(特に5’末端))のミスマッチが導入されていても良い。
【0036】
さらに、オリゴ1からオリゴ3の各オリゴヌクレオチドは伸長反応の有無を検出するのに適当な長さ等を基準に決めたものであって、対象となる遺伝子の適当な部分に対応するものであれば、本実施例の配列に限定されるものではない。
【0037】
(2)tumor necrosis factor alpha (TNFα) -863遺伝子多型の解析
<1>PCR法による増幅反応
ヒト白血球からフェノール・クロロフォルム法により抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりTNFα-863遺伝子多型を解析した。なお、反応は反応液a、bとも同じ条件で同時に行った。
【0038】
試薬
以下の試薬を含む25μl溶液を2種類調製した。
Taq DNAポリメラーゼ反応液a
オリゴ1 5 pmol
オリゴ2 5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 1.3 μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
Taq DNAポリメラーゼ反応液b
オリゴ1 5 pmol
オリゴ3 5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 1.8 μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
増幅条件(aおよびb)
95℃・5分
95℃・30秒、66℃・30秒、72℃、30秒(35サイクル)
72℃・2分。
<2>ポリアクリルアミドゲル電気泳動による検出
<1>のa,bそれぞれの増幅反応液5μlを5%ポリアクリルアミドゲルにアプライしATTO社電気泳動装置で150V-30分間電気泳動を行った。結果は図1に示す。
<3>核酸特異的結合物質による検出
<1>のa,bそれぞれの増幅反応液3μlを30000倍に希釈されたSYBR(登録商標)GreenI(Invitrogen社製)の溶液100μlに加えて、室温にて攪拌後に暗室中で蛍光プレートリーダー(大日本製薬社製)で蛍光強度量を測定した。所要時間は約15分であった。
得られた蛍光強度から、以下の計算式を用いて試料の蛍光強度量を算出した。算出した値より良好な型分け性能が得られていることが確認できた。以上によりオリゴ1〜3を用いることで容易且つ迅速にTNFα遺伝子-863の多型を判定することが出来た。
【0039】
FL(試料の蛍光強度)=FLs-FLb (式1)
FLb:Negative Control (試料が未添加)の蛍光強度
FLs:各試料の蛍光強度
【0040】
【表2】

【0041】
(実施例2) tumor necrosis factor alpha (TNFα) -857遺伝子多型の検出
(1)TNFα遺伝子-857の多型を検出するオリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号4〜6に示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ4〜6と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、プロリゴ・ジャパン(株)、オペロン バイオテクノロジー(株)等)に依頼した。
オリゴ4 5’-GTG AGA GGG CAT GCG CAC AAG -3’
オリゴ5 5’-CCC TCT ACA TGG CCC TGT CTT AGT -3’
オリゴ6 5’-CCT CTA CAT GGC CCT GTC TTG AT -3’
オリゴ4はTNFα遺伝子の-857番目の多型を検出するためのものである。このオリゴは野生型、多型何れも増幅することが可能なオリゴである。なお、オリゴは必要により標識して使用される。
【0042】
オリゴ5および6はTNFα遺伝子の-857番目の多型を検出するためのものである。
オリゴ5は野生型(C)を検出するためのオリゴヌクレオチドで3’末端から2番目に野生型(C)のヌクレオチド配列、および3番目に人為的ミスマッチを有し、オリゴ6は多型(T)を検出するためのオリゴヌクレオチドで3’末端から2番目に多型(T)のヌクレオチド配列、および3番目に人為的ミスマッチを有し、これらはオリゴ4と組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用される。なお、これらのオリゴは必要により標識して使用される。
【0043】
また、本実施例での、オリゴ5および6の各オリゴヌクレオチドは3’末端から3番目に人為的ミスマッチを導入したが、ミスマッチ位置はこれに限定されるものではない。さらにはこれ以外に数カ所(1〜5箇所程度でプライマーの全体長による(特に5’末端))のミスマッチが導入されていても良い。
【0044】
さらに、オリゴ4からオリゴ6の各オリゴヌクレオチドは伸長反応の有無を検出するのに適当な長さ等を基準に決めたものであって、対象となる遺伝子の適当な部分に対応するものであれば、本実施例の配列に限定されるものではない。
【0045】
(2)tumor necrosis factor alpha (TNFα) -857遺伝子多型の解析
<1>PCR法による増幅反応
ヒト白血球からフェノール・クロロフォルム法により抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりTNFα-857遺伝子多型を解析した。なお、反応は反応液c、dとも同じ条件で同時に行った。
【0046】
試薬
以下の試薬を含む25μl溶液を2種類調製した。
Taq DNAポリメラーゼ反応液c
オリゴ4 5 pmol
オリゴ5 5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 2.0 μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
Taq DNAポリメラーゼ反応液d
オリゴ4 5 pmol
オリゴ6 5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 2.0μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
増幅条件(cおよびd)
95℃・5分
95℃・30秒、66℃・30秒、72℃、30秒(35サイクル)
72℃・2分。
<2>ポリアクリルアミドゲル電気泳動による検出
<1>のc,dそれぞれの増幅反応液5μlを5%ポリアクリルアミドゲルにアプライしATTO社電気泳動装置で150V-30分間電気泳動を行った。結果は図2に示す。
<3>核酸特異的結合物質による検出
<1>のc,dそれぞれの増幅反応液3μlを30000倍に希釈されたSYBR(登録商標)GreenI(Invitrogen社製)の溶液100μlに加えて、室温にて攪拌後に暗室中で蛍光プレートリーダー(大日本製薬社製)で蛍光強度量を測定した。所要時間は約15分であった。
得られた蛍光強度から、以下の計算式を用いて試料の蛍光強度量を算出した。算出した値より良好な型分け性能が得られていることが確認できた。以上によりオリゴ4〜6を用いることで容易且つ迅速にTNFα遺伝子-857の多型を判定することが出来た。
【0047】
FL(試料の蛍光強度)=FLs-FLb (式1)
FLb:Negative Control (試料が未添加)の蛍光強度
FLs:各試料の蛍光強度
【0048】
【表3】

【0049】
(実施例3) tumor necrosis factor alpha (TNFα)-1031遺伝子多型の検出
(1)TNFα遺伝子-1031の多型を検出するオリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1および7〜10に示される塩基配列を含むオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1および7〜10と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、プロリゴ・ジャパン(株)、オペロン バイオテクノロジー(株)等)に依頼した。
オリゴ1 5’-TCA CCC CCG GGA ATT CAC AGA-3’
オリゴ7 5’-GCA AAG GAG AAG CTG AGA AGG TG -3’
オリゴ8 5’-GCA AAG GAG AAG CTG AGA AGT CG -3’
オリゴ9 5’-TGA AAT CAC CCC CGG GAA TTC A -3’
オリゴ10 5’-AAA GGA GAA GCT GAG AAG GCG -3’
共通プライマー(オリゴ1とオリゴ9)、変異型検出用プライマー(オリゴ8とオリゴ10)、野生型検出用プライマー(オリゴ7)の組み合わせで、良好な結果が得られた。
【0050】
オリゴ1および9はTNFα遺伝子の-1031番目の多型を検出するためのものである。このオリゴは野生型、多型何れも増幅することが可能なオリゴである。なお、オリゴは必要により標識して使用される。
【0051】
オリゴ7、8、10はTNFα遺伝子の-1031番目の多型を検出するためのものである。
オリゴ7は野生型(T)を検出するためのオリゴヌクレオチドで3’末端から2番目に野生型(T)のヌクレオチド配列、および3番目に人為的ミスマッチを有し、オリゴ8および10は多型(C)を検出するためのオリゴヌクレオチドで3’末端から2番目に多型(C)のヌクレオチド配列、および3番目に人為的ミスマッチを有し、これらはオリゴ1および9と組み合わせて増幅反応のオリゴヌクレオチドとして使用される。なお、これらのオリゴは必要により標識して使用される。
【0052】
また、本実施例での、オリゴ7、8、10の各オリゴヌクレオチドは3’末端から3番目に人為的ミスマッチを導入したが、ミスマッチの位置はこれに限定されるものではない。さらにはこれ以外に数カ所(1〜5箇所程度でプライマーの全体長による(特に5’末端))のミスマッチが導入されていても良い。
【0053】
さらに、オリゴ1および7から10の各オリゴヌクレオチドは伸長反応の有無を検出するのに適当な長さ等を基準に決めたものであって、対象となる遺伝子の適当な部分に対応するものであれば、本実施例の配列に限定されるものではない。
【0054】
(2)tumor necrosis factor alpha (TNFα) -1031遺伝子多型の解析
<1>PCR法による増幅反応
ヒト白血球からフェノール・クロロフォルム法により抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりTNFα-1031遺伝子多型を解析した。なお、反応は反応液e、f、g、hとも同じ条件で同時に行った。
【0055】
試薬
以下の試薬を含む25μl溶液を4種類調製した。なお、組み合わせはe,fおよびg,hとした。
Taq DNAポリメラーゼ反応液e
オリゴ1 2.5 pmol
オリゴ7 2.5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 2.5 μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
Taq DNAポリメラーゼ反応液f
オリゴ1 2.5 pmol
オリゴ8 2.5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 2.3 μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
Taq DNAポリメラーゼ反応液g
オリゴ9 5.0 pmol
オリゴ7 2.5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 2.6 μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
Taq DNAポリメラーゼ反応液h
オリゴ9 5.0 pmol
オリゴ10 2.5 pmol
×10緩衝液 2.5 μl
2mM dNTP 2.5 μl
25 mM MgCl 3.5 μl
Taq DNAポリメラーゼ 1.25 U
抽出DNA溶液 20 ng
増幅条件(e、f、g、h)
95℃・5分
95℃・30秒、66℃・30秒、72℃、30秒(35サイクル)
72℃・2分。
<2>ポリアクリルアミドゲル電気泳動による検出
<1>のe、fの増幅反応液5μlを5%ポリアクリルアミドゲルにアプライしATTO社電気泳動装置で150V-30分間電気泳動を行った。結果は図3に示す。
<3>核酸特異的結合物質による検出
<1>のe、fおよびg、hそれぞれの増幅反応液3μlを30000倍に希釈されたSYBR (登録商標)GreenI(Invitrogen社製)の溶液100μlに加えて、室温にて攪拌後に暗室中で蛍光プレートリーダー(大日本製薬社製)で蛍光強度量を測定した。所要時間は約15分であった。
得られた蛍光強度から、以下の計算式を用いて試料の蛍光強度量を算出した。算出した値より良好な型分け性能が得られていることが確認できた。以上によりオリゴ1,7,8を用いることで容易且つ迅速にTNFα遺伝子-1031の多型を判定することが出来た。またオリゴ7,9,10を用いた組み合わせにおいても同様に容易且つ迅速にTNFα遺伝子-1031の多型を判定することが出来た。
【0056】
FL(試料の蛍光強度)=FLs-FLb (式1)
FLs:各試料の蛍光強度
FLb:Negative Control (試料が未添加)の蛍光強度
【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
(実施例4) tumor necrosis factor alpha (TNFα)プロモータ領域の遺伝子多型と疾患との関連
予めインフォームドコンセントによって同意を得た患者(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌)より得られたDNA試料と健常者より得られたDNA試料(164例)を用いてTNFαイントロン領域の遺伝的多型(-857、-863, -1031)の検出を行なった。
【0060】
結果を以下の表6〜9に示す
【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

【0064】
【表9】

【0065】
上記表の結果から、1つ以上の多型を同時に有する場合、胃潰瘍及び胃癌の危険度は上昇することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により、被験体から核酸試料を得、前記試料中で、TNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出することによって、被験体が消化器系疾患を有するか又は発生素因があるかを判定することができる。特に、胃癌、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の予防医学的診断ができることからも、産業界に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1の増幅反応液のポリアクリルアミドゲル電気泳動結果。
【図2】実施例2の増幅反応液のポリアクリルアミドゲル電気泳動結果。
【図3】実施例3の増幅反応液のポリアクリルアミドゲル電気泳動結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定する方法であって、該被験体のTNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出することを特徴とする消化器系疾患罹患可能性の判定方法。
【請求項2】
被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定する方法であって、該被験体のTNF-α遺伝子からの転写産物量及び/又はTNF-αの発現量を測定することを特徴とする消化器系疾患罹患可能性の判定方法。
【請求項3】
消化器系疾患が、胃癌、胃潰瘍および十二指腸潰瘍からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の判定方法。
【請求項4】
検出される多型箇所がTNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する、-863、-857及び/又は-1031番目であることを特徴とする請求項1記載の判定方法。
【請求項5】
TNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する多型を検出する方法が、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、電気泳動サイズ分析、シークエンス法、5’端ヌクレアーゼ消化、一本鎖コンホメーション多型、プライマー特異的伸長法、オリゴヌクレオチド連結アッセイ、Cleavageを用いたアッセイ、熱溶出クロマトグラフ、融解曲線分析法、Taqmanアッセイ法及び遺伝子増幅法より選ばれることを特徴とする請求項1又は4に記載の判定方法。
【請求項6】
遺伝子増幅法が、PCR、NASBA、LCR、SDA、RCRおよびTMAよりなる群から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の判定方法。
【請求項7】
遺伝子増幅法がPCRであり、該PCRに用いられるDNAポリメラーゼが3’エキソヌクレアーゼ活性を有することを特徴とする請求項6に記載の判定方法。
【請求項8】
3’末端より1番目の塩基が多型の予想されるヌクレオチドに対応するプライマーを遺伝子増幅法に用いることを特徴とする請求項5,6又は7に記載の判定方法。
【請求項9】
3’末端より2番目の塩基が多型の予想されるヌクレオチドに対応するプライマーを遺伝子増幅法に用いることを特徴とする請求項5,6又は7に記載の判定方法。
【請求項10】
プライマーの3’末端より3から5番目の少なくとも1種の塩基が相補的でない塩基に置換されていることを特徴とする請求項8又は9に記載の判定方法。
【請求項11】
被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定する方法であって、該被験体のTNF-α遺伝子のプロモータ領域に存在する、-863、-857及び/又は-1031番目の多型を、配列番号1〜10に示される配列またはこれに相補的な配列のうち連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つを、プライマーまたはプローブとして用いることを特徴とする判定方法
【請求項12】
配列番号1、4及び9に示される配列またはこれに相補的な配列のうち、連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つをTNF-α遺伝子のプロモータ領域の野生型および変異型の共通のプライマー(フォワードプライマー)として用いることを特徴とする請求項11に記載の判定方法。
【請求項13】
配列番号2、5及び7に示される配列またはこれに相補的な配列のうち、連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つを、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の野生型のプライマー(リバースプライマー)もしくはプローブとして用いることを特徴とする請求項11に記載の判定方法。
【請求項14】
配列番号3、6、8及び10に示される配列またはこれに相補的な配列のうち、連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つを、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型のプライマー(変異型のリバースプライマー)もしくはプローブとして用いることを特徴とする請求項11に記載の判定方法。
【請求項15】
プライマーの3’末端から2番目のヌクレオチドが、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型部位に対応するように設計されていることを特徴とする請求項13または14に記載の判定方法。
【請求項16】
プライマーの3’末端のヌクレオチドが、TNF-α遺伝子のプロモータ領域の多型部位に対応するように設計されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の判定方法。
【請求項17】
プライマーの3’末端より3から5番目の少なくとも1種の塩基が相補的でない塩基に置換されていることを特徴とする請求項13又は14に記載の判定方法。
【請求項18】
被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定するキットであって、TNF-αのプロモータ領域の多型を検出することを特徴とする消化器系疾患罹患判定用キット。
【請求項19】
検出されるTNF-α のプロモータ領域の多型が-863、-857、-1031番目である、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
被験体が消化器系疾患の発生素因があるかを判定するキットであって、配列表・配列番号1〜10に示される配列またはこれに相補的な配列のうち連続した少なくとも15塩基を含んだ少なくとも一つのオリゴヌクレオチド配列をプライマー又はプローブとして含むことを特徴とするキット。
【請求項21】
消化器系疾患が、胃癌、胃潰瘍および十二指腸潰瘍からなる群から選択されることを特徴とする、請求項18〜20のいずれかに記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−230363(P2006−230363A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53746(P2005−53746)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504300181)国立大学法人浜松医科大学 (96)
【Fターム(参考)】