説明

消去可能インクジェットインク

【課題】 高濃度の画像を形成できるとともに、十分に不可視な状態まで消去される消去可能インクジェットインクを提供することである。
【解決手段】 実施形態の消去可能インクジェットインクは、ロイコ色素と非水溶性顕色剤とアルコールおよび水を含む溶媒とを含有する。前記水の量は前記溶媒の7質量%以上25質量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、消去可能インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインクは、一般的には水性インクであり、水溶性の材料が用いられている。最近では、ロイコ色素と顕色剤と溶媒とを含有する消去可能なインクジェットインクが提案されている。かかるインクジェットインクを用いることによって、高濃度の画像を紙に形成することができ、得られた画像は熱により消去可能である。画像が形成された紙を加熱することにより画像は消去されて、不可視とすることができる。
【0003】
消去可能なインクジェットインクは、消去可能インクとしての特性に加えて、プリンターヘッドからの吐出性のようなインクジェットインクとしての特性も求められる。いずれの特性も、経時劣化せずに維持されることが要求される。インクジェットインクの溶媒としては、水とアルコールとの組み合わせが用いられることがあり、上述の特性を満たすように適切に処方されなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−222461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、高濃度の画像を紙に形成できるとともに、十分に不可視な状態まで消去される消去可能インクジェットインクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の消去可能インクジェットインクは、ロイコ色素と非水溶性顕色剤とアルコールおよび水を含む溶媒とを含有する。前記水の量は溶媒の7質量%以上25質量%以下であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】インクの保存日数と形成される画像の濃度との関係を示すグラフ図。
【図2】インクの保存日数と形成される画像の濃度との関係を示すグラフ図。
【図3】インクの保存日数と形成される画像の濃度との関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態を具体的に説明する。
【0009】
本実施形態の消去可能なインクジェットインクにおいては、ロイコ色素および非水溶性顕色剤が溶媒中に含有される。
【0010】
ロイコ色素としては、例えば、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、およびフルオラン類などの電子供与性有機物が挙げられる。
【0011】
具体的には、クリスタルバイオレットラクトン(CVL)、2−アニリノ−6−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−メチル−N−プロピルアミノ)フルオラン、3−[4−(4−フェニルアミノフェニル)アミノフェニル]アミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、2−アニリノ−6−(N−メチル−N−イソブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−6−(ジブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、3−クロロ−6−(シクロヘキシルアミノ)フルオラン、2−クロロ−6−(ジエチルアミノ)フルオラン、7−(N,N−ジベンジルアミノ)−3−(N,N−ジエチルアミノ)フルオラン、3,6−ビス(ジエチルアミノ)フルオラン−γ−(4’−ニトロ)アニリノラクタム、3−ジエチルアミノベンゾ[a]−フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−キシリジノフルオラン、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−ジエチルアミノ−7−クロロアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7,8−ベンゾフルオラン、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,6−ジメチルエトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メトキシ−7−アミノフルオラン、ジエチルホスホロメチル(DEPM)、アデノシン三リン酸(ATP)、2−(フェニルアミノ)−3−メチル−6−[エチル(p−トリル)アミノ]スピロ[9H−キサンテン−9,1’(3’H)−イソベンゾフラン−3’−オン(ETAC)、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、クリスタルバイオレットカルビノール、ローダミンBラクタム、2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3−ジメチルインドリン、N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、8’−メトキシ−N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−メトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−ベンジルオキシフルオラン、1,2−ジベンゾ−6−ジエチルアミノフルオラン、3,6−ジ−p−トルイジノ−4,5−ジメチルフルオラン、フェニルヒドラジド−γ−ラクタム、および3−アミノ−5−メチルフルオランなどである。
【0012】
ロイコ色素を適宜選択すれば多様な色に発色させることができ、カラー対応も容易である。特に好ましい材料は、トリフェニルメタン系、フルオラン系、フェニルインドール−フタリド系のロイコ色素である。
【0013】
また、ロイコ色素として、7−[4−Diethylamino−2−(4−hydroxy)−phenyl]−7−(1−ethyl−2−methyl−1H−furo[3,4−b]pyridine−5−one(BlueC4OH)、およびfuro[3,4−b]pyridin−5(7H)−one,7−[4−(diethylamino)−2−hexyloxy]phenyl−7−(1−ethyl−2−methyl−1H−indol−3yl(Blue203)を用いることもできる。
【0014】
ロイコ色素は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。インク中におけるロイコ色素の含有量が0.3〜1質量%程度であれば、何等不都合なしに所望の効果が得られる。
【0015】
本実施形態の消去可能なインクジェットインクにおいては、非水溶性の顕色剤が用いられる。これは、発色の機構が溶媒蒸発の際に発色するもので、溶解性が低いことで顕色剤が色素と結びつきやすいことに対応しているためである。本明細書においては、16℃の水に溶解する最大濃度が0.4質量%未満の場合を、非水溶性とする。
【0016】
非水溶性顕色剤としては、例えば、フェノール類、およびベンゾフェノン類などを用いることができる。具体的には、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸メチルなどのジヒドロキシ安息香酸およびそのエステル;2,4−ジヒドロキシアセトフェノン、2,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,6−ジヒドロキシアセトフェノン、3,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,3,4−トリヒドロキシアセトフェノンなどのヒドロキシアセトフェノン類;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン(2,4−DHBP)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類が挙げられる。また、ビスフェノール類も良好であり、ビスフェノール−Fが特に好ましい。
【0017】
例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン(2,4−DHBP)は、16℃の水には溶けにくく、溶解する最大濃度は0.38質量%未満である。また、ビスフェノール−Fは、16℃の水に溶解する最大濃度は0.4質量%未満である。
【0018】
なお、没食子酸エチル(EG)は、16℃の水に溶解する最大濃度が1質量%を超えるので水溶性である。
【0019】
非水溶性顕色剤は、単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。後述するように本実施形態の消去可能なインクジェットインクにおいては、水とアルコールの組み合わせが溶媒として用いられ、非水溶性顕色剤はアルコール中に溶解されている。アルコールが蒸発すると、非水溶性顕色剤はロイコ色素と結合して発色する。
【0020】
この発色を確実にするために、本実施形態のインクジェットインク中に含有される非水溶性顕色剤の質量は、ロイコ色素の質量の10倍以上であることが好ましく、15倍以上であることがより好ましい。本実施形態のインクジェットインク中に含有される非水溶性顕色剤の使用質量は、ロイコ色素の質量の30倍以下に留めることが好ましく、25倍以下がより好ましい。
【0021】
本実施形態のインクジェットインクにおける溶媒は、アルコールと水とを含む。適切な発色性および消去性を維持し、インクジェットインクの保存安定性を高めつつ、プリンターヘッドからの吐出性も確保するために、本実施形態の消去可能インクジェットインクにおいては、水の含有量は溶媒の7〜25質量%に規定される。
【0022】
水の含有量が少なすぎる場合には、インクジェットインクとして適切な吐出性が得られない。一方、水の含有量が多すぎる場合には、インクの保存安定性が低下する。これは、本発明者らによって得られた知見である。
【0023】
所定日数保存したインクを用いて画像を形成して、印刷直後の画像濃度を調べた。保存の条件は、10〜35℃である。保存日数が80日以上であっても水を含有しないインクの場合には、印刷直後の画像濃度は0.5以上である。水を含有しないインクを保存前に用いた場合の画像濃度も、これと同等であった。
【0024】
一般的に、画像濃度は0.4以上であることが求められるので、80日以上保存した後でも画像濃度の要求は満たされている。水が含有されないインクは、保存安定性が高いことが確認された。しかしながら、水が含有されないインクでは、インクジェットインクに求められる吐出性を確保することができない。
【0025】
溶媒の50質量%の水を含有するインクを保存前に用いた場合には、得られる画像濃度は0.5前後である。このインクを保存して5日後に用いた場合には、印刷直後の画像濃度は0.3未満と低くなり、高濃度の画像が得られない。このインクの保存日数が80日を越えると、印刷直後の画像濃度はさらに低下して0.2未満となった。
【0026】
保存後のインクは発色が不十分となり、得られる画像の濃度は印刷直後でも低い。水の含有量が多いインクの場合には、保存日数が長くなるにしたがって印刷直後の画像濃度はさらに低下した。溶媒の50質量%の水を含有するインクジェットインクは、保存中に大幅に劣化することが確認された。
【0027】
溶媒の44質量%の水を含有するインクを保存前に用いた場合には、0.4近傍の画像濃度が得られた。このインクを保存して5日後に用いた場合には、印刷直後の画像濃度は0.3程度に低下した。このインクの保存日数が80日を超えると、印刷直後の画像濃度はさらに低下して0.2〜0.3程度となった。
【0028】
溶媒の33質量%の水を含有するインクを保存前に用いた場合には、0.5程度の画像濃度が得られた。このインクを保存して20日後に用いた場合には、印刷直後の画像濃度は0.45程度に低下した。このインクの保存日数が60日を超えると、印刷直後の画像濃度は0.35程度となった。
【0029】
溶媒の25質量%の水を含有するインクを保存前に用いた場合には、0.5を超える画像濃度が得られ、保存して5日後に用いた場合でも画像濃度は低下しなかった。このインクを60日保存した後に用いた場合には、印刷直後の画像濃度は0.45程度であり、実用レベルであった。
【0030】
以上の結果をまとめて、図1のグラフにプロットした。保存日数が80日以上であっても、印刷直後の画像濃度は0.4以上であることが求められる。水の量が溶媒の25質量%以下であれば、これが満たされることがわかる。なお、溶媒の7質量%以上の水が含有されていれば、インクジェットインクとして適切な吐出性が得られることが確認された。これに基づいて、本実施形態の消去可能インクジェットインクにおいては、水の含有量を溶媒の7〜25質量%に規定した。
【0031】
溶媒の10質量%の水を含有するインクは、1年以上保存してもほとんど劣化しないことが確認された。本実施形態の消去可能インクジェットインクにおいては、水の含有量は溶媒の10〜15質量%が好ましい。
【0032】
一方、本実施形態にかかる消去可能なインクジェットインクにおいては、アルコールの含有量は、溶媒の70〜90質量%であることが好ましい。こうした量でアルコールが含有されていれば、保存安定性を損なうことなく所望の吐出性および発色性が得られる。アルコールの含有量は、溶媒の75〜85質量%であることがより好ましい。アルコールとしては、エチルアルコールおよびプロピルアルコールが挙げられる。安全性およびにおいを考慮すると、エチルアルコールが好ましい。
【0033】
本実施形態の消去可能インクジェットインクには、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMME)が含有されてもよい。このPGMMEは、インクの保存安定性を高める作用を有する。必要に応じて、界面活性剤および消去剤等の添加剤を本実施形態の消去可能インクジェットインクに添加してもよい。消去剤は、消色を促進する作用を有する。
【0034】
界面活性剤は、ロイコ色素や顕色剤の溶解性を高める。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0035】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、サニゾール5B(花王製 アルキル(C12−16)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド CAS68424−85−1)が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、例えばエマルゲン(花王製:A60 ジスチレン化フェニルエーテル)が挙げられる。
【0036】
消去剤としては、例えばポリビニルピロリドン、およびポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂を用いることができる。消去剤の樹脂成分がロイコ色素を包み閉じ込めることによって、ロイコ色素を非水溶性顕色剤と分離させ、消去性を向上させるものと推測される。消去剤が多すぎる場合には、発色性が低下するおそれがある。
【0037】
消去剤を含有するインクの発色は、時間とともに退色して最終的にはほとんど目視できない程度となる。退色速度はインクの組成に依存し、一般的には非水溶性顕色剤の含有量に反比例する。そのため、非水溶性顕色剤の量があまり少ない場合には、発色が維持されるのは数時間から24時間程度となる。したがって、こうしたインクを用いて形成された画像は、24時間以内に自然消去される。逆に充分な量で顕色剤を配合し、ロイコ色素を選択すれば、少なくとも数週間、場合によっては一ヶ月以上にわたって発色が維持されるインクが得られる。
【0038】
このように、消去剤が含有されたインクの色は自然に退色するので、画像を消去するためのエネルギーを与えずに紙の再生が可能となる。画像を迅速に消去するには、加熱を行なえばよい。
【0039】
さらに、本実施形態の消去可能インクジェットインクは、インクジェット装置のヘッドの乾燥防止剤としてグリセリン等の多価アルコールを加えてもよい。乾燥防止剤の含有量は、所望される粘度に応じて適宜選択することが望まれる。
【0040】
本実施形態の消去可能インクジェットインクを得るに当たっては、まず、ロイコ色素および非水溶性顕色剤をアルコールに溶解して、色材溶液を調製する。場合によっては、粘度調整剤としてのグリセリンやPGMMEがアルコールに加えられていてもよい。ここに、所定量の水を滴下する。水の量は、得られる溶媒の7質量%以上25質量%以下となるように規定される。
【0041】
水が加えられた色材溶液を均一に攪拌して、本実施形態の消去可能インクジェットインクが得られる。本実施形態の消去可能インクジェットインクは、プリンターヘッドからの吐出性が良好であり、紙上での発色性も優れている。本実施形態のインクの発色は、加熱によって退色し、実質的に不可視となる。しかも、本実施形態のインクは、経時劣化することがなく、保存後に用いても保存前と同程度の画像濃度が得られる。
【0042】
以下に、消去可能インクジェットインクの具体例を示す。
【0043】
<インクサンプル1>
ロイコ色素としてクリスタルバイオレットラクトンCVL(山田化学製)を用い、顕色剤としては、ビスフェノール−Fを用いた。20ccのサンプル管内に18gのエタノールを収容し、0.1gのロイコ色素と1.2gの顕色剤とを加えた。これを室温条件下、マグネティックスターラーを用いて均一に溶解して色材溶液を得た。
【0044】
界面活性剤を水に溶解して、5質量%の界面活性剤溶液を調製した。界面活性剤としては、エマルゲン(花王製:A60 ジスチレン化フェニルエーテル)を用いた。2gの界面活性剤溶液を前述の色材溶液に滴下して加え、マグネティックスターラーにより5分間攪拌した。攪拌後の混合物を1μmのろ紙でろ過して、インクサンプル1を得た。インクサンプル1においては、エタノールと水とによって溶媒が構成され、水の量は溶媒の10質量%となる。
【0045】
インクサンプル1を市販のインクカートリッジに収容し、市販のインクジェットプリンターに搭載した。このインクジェットプリンターを用い、自作のテストチャートで用紙に文字およびベタ画像を形成して印刷物サンプルを得た。用紙としては、普通紙を用いた。ベタ画像の1cm四方の領域について反射率を測定し、得られた反射率から画像濃度を算出した。反射率の測定には、色彩色差計(コニカミノルタ製、CR300)を用いた。普通モード印刷での画像濃度は0.55であり、普通モード印刷での画像濃度は0.65であった。
【0046】
各印刷物サンプルの画像を加熱消去して、消去後の用紙の濃度を調べた。画像の消去には、e−blue用の東芝製画像消去装置(HE−1)を使用した。前記装置を用いて約130℃で2時間の加熱を行なった後、1時間冷却した。
【0047】
消去後の画像濃度(消去濃度)は、それぞれ0.09および0.092であった。いずれも、画像および文字は完全に見えないレベルであった。ここで用いた用紙自体の濃度は0.088である。濃度は、0.1以下はほとんど白いために、得られた結果であれば、消去性は良好であると判断することができることから、インクサンプル1は十分な消去性を有している。
【0048】
<インクサンプル2>
ロイコ色素としてCVL(山田化学製)を用い、顕色剤としてビスフェノール−Fを用いた。20ccのサンプル管内に8gのエタノールを収容し、0.05gのロイコ色素と0.8gの顕色剤とを加えた。これを前述と同様に均一に溶解して、色材溶液を得た。
【0049】
界面活性剤を水に溶解して、5質量%の界面活性剤溶液を調製した。界面活性剤としては、サニゾール5B(花王製 アルキル(C12−16)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド CAS68424−85−1)を用いた。2gの界面活性剤溶液を前述の色材溶液に滴下して加え、前述と同様に5分攪拌した。攪拌後の混合物を1μmのろ紙でろ過して、インクサンプル2を得た。インクサンプル2においては、エタノールと水とによって溶媒が構成され、水の量は溶媒の20質量%となる。
【0050】
インクサンプル2を市販のインクカートリッジに収容し、前述と同様のインクジェットプリンターに搭載した。前述と同様の用紙に文字およびベタ画像を形成して印刷物サンプルを得、画像濃度を調べた。普通モード印刷での画像濃度は0.55であり、きれいモード印刷での画像濃度は0.62であった。
【0051】
印刷物サンプルの画像を前述と同様に加熱消去して、消去濃度を調べた。消去濃度は、それぞれ0.096および0.112であった。いずれも、ベタ画像は目視で確認できる程度に残ったが、文字は完全に見えないレベルであった。ここで用いた用紙自体の濃度は0.088であり、インクサンプル2は十分な消去性を有している。
【0052】
印刷物サンプルを、28〜33℃、RH46〜78%のコンテナ内で保存した。24時間後の画像濃度は、保存前の98%であった。インクサンプル2により形成された画像は保存安定性が高いことから、インクサンプル2はインクとしての基本的な特性も備えていることが確認された。
【0053】
<インクサンプル3>
ロイコ色素としてCVL(山田化学製)を用い、顕色剤として2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン 2,4−DHBP(商品名:ジスライザー、三共化成製)、およびp−ヒドロキシベンゾフェノン(東京化成)を用いた。20ccのサンプル管内に8gのエタノールおよび1gのグリセリンを収容し、0.05gのロイコ色素と各0.5gの顕色剤とを加えた。これを前述と同様に均一に溶解して、色材溶液を得た。
【0054】
界面活性剤を水に溶解して、5質量%の界面活性剤溶液を調製した。界面活性剤としては、サニゾール5B(花王製 アルキル(C12−16)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド CAS68424−85−1)を用いた。1gの界面活性剤溶液を前述の色材溶液に滴下して加え、前述と同様に5分間攪拌した。攪拌後の混合物を1μmのろ紙でろ過して、インクサンプル3を得た。インクサンプル3においては、エタノールと水とグリセリンとによって溶媒が構成され、水の量は溶媒の10質量%なる。
【0055】
インクサンプル3を市販のインクカートリッジに収容し、前述と同様のインクジェットプリンターに搭載した。前述と同様の用紙に文字およびベタ画像を形成して印刷物サンプルを得、画像濃度を調べた。普通モード印刷での画像濃度は0.45であり、きれいモード印刷での画像濃度は0.55であった。
【0056】
印刷物サンプルを、24℃、RH68%のコンテナ内で保存した。24時間後の画像濃度は、保存前の64〜70%まで減少した。インクサンプル3を用いて形成された画像は、湿度の影響を受けて自然に消去される。画像が形成された用紙を長期放置することにより画像が消去されるので、このインクサンプル3を用いた場合には、迅速な消去が求められない限り消去装置を用いる必要はない。
【0057】
<インクサンプル4〜7>
ロイコ色素としてBlueC4OH(山田化学製:7−[4−Diethylamino−2−(4−hydroxy)−phenyl]−7−(1−ethyl−2−methyl−1H−furo[3,4−b]pyridine−5−one)を用い、顕色剤としてエチル2,4−ジヒドロキシベンゾエイトを用いた。
【0058】
0.05g(9.5×10-5mol)のロイコ色素と、1.0g(5.48×10-4mol)の顕色剤とを、20ccサンプル管に収容し、2gのPGMMEと2gのエタノールとを加えた。サンプル管をアルミホイルで遮光して収容物をマグネティックスターラーで10分間、均一に攪拌して色材溶液を得た。
【0059】
界面活性剤を水に溶解して、5質量%の界面活性剤溶液を調製した。界面活性剤としては、サニゾール5B(花王製 アルキル(C12−16)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド CAS68424−85−1)を用いた。4gの界面活性剤溶液を前述の色材溶液にゆっくりと滴下して加えた。室温で30分間攪拌し、1μmのろ紙でろ過してインクサンプル4を得た。インクサンプル4においては、エタノールとPGMMEと水とによって溶媒が構成され、水の量は溶媒の44質量%となる。
【0060】
インクサンプル4を市販のインクカートリッジに収容し、前述と同様のインクジェットプリンターに搭載した。前述と同様の用紙に文字およびベタ画像を形成して印刷物サンプルを得、画像濃度を調べた。この印刷物サンプルをアイロン最高温度(200℃以上)で加熱して、画像を消去した。発色の画像濃度と同じ部分について、消去後の画像濃度を算出した。画像濃度は0.42程度であり、消去濃度は0.11程度であった。
【0061】
インクサンプル4をカートリッジに収容した状態でコンテナ内に保存した。所定日数経過後のインクを用い、前述と同様に画像を形成して画像濃度を調べた。さらに、前述と同様にして画像を消去し、消去後の画像濃度を算出した。その結果を、図2のグラフにまとめる。
【0062】
図2に示されるようにインクサンプル4は、270日以上保存した場合でも、印刷濃度および消去濃度は、保存前のインクを用いた場合と同程度である。なお、ここで用いた用紙自体の濃度は0.118であり、インクサンプル3は十分な消去性を有している。
【0063】
PGMMEを配合しない以外はインクサンプル4と同様に調製されたサンプル(インクサンプル5)を用いて、画像の形成および消去を行なった。画像の形成および消去の条件は前述と同様とした。消去性は0.13〜0.14であり、CVLを用いたインクサンプル1〜3の場合より低い。BlueC40Hを含有するインクの消去性が低いものの、インクサンプル4のようにPGMMEを配合することによって、消去性を高めることができる。
【0064】
さらに、水の含有量をインク溶媒の50質量%に変更する以外はインクサンプル4と同様にして、インクサンプル6を調製した。また、水の含有量を溶媒の50質量%に変更する以外はインクサンプル5と同様にして、インクサンプル7を調製した。
【0065】
インクサンプル6およびインクサンプル7を用い、前述と同様に画像を形成して、画像濃度を調べた。その後、各インクサンプルをカートリッジに収容した状態でコンテナ内に保存した。所定日数経過後のインクを用いて、前述と同様に画像を形成して画像濃度を調べた。なお、「標準印刷」および「きれいモード印刷」の2種類で画像を形成した。インクサンプル6およびインクサンプル7について調べた結果を、図3のグラフにプロットした。
【0066】
PGMMEが含有されていないインクサンプル7を20日以上保存した場合には、形成される画像の濃度が0.3前後となる。PGMMEを含有するインクサンプル6は40日近く保存した後でも、保存前と同程度の濃度の画像を形成することができる。PGMMEが含有されることによって、インクの保存安定性が高められたことがわかる。
【0067】
<インクサンプル8>
ロイコ色素としてCVL(山田化学製)を用い、顕色剤としてビスフェノール−Fを用いた。6gのエタノール、2gのPCMMA、および1gのグリセリンを20ccのサンプル管内に収容し、0.05gのロイコ色素と、0.1gの顕色剤とを加えた。これを前述と同様に均一に攪拌して、色材溶液を得た。
【0068】
界面活性剤を水に溶解して、2.5質量%の界面活性剤溶液を調製した。界面活性剤としては、エマルゲン(花王製:A60 ジスチレン化フェニルエーテル)を用いた。2gの界面活性剤溶液を前述の色材溶液に滴下して加え、前述と同様に5分間攪拌した。攪拌後の混合物を1μmのろ紙でろ過して、インクサンプル8を得た。インクサンプル8においては、エタノールと水とによって溶媒が構成され、水の量は溶媒の18質量%となる。
【0069】
インクサンプル8を市販のインクカートリッジに収容し、前述と同様のインクジェットプリンターに搭載した。前述と同様の用紙に文字およびベタ画像を形成して印刷物サンプルを得、画像濃度を調べた。普通モード印刷での画像濃度は0.57であり、きれいモード印刷での画像濃度は0.66であった。
【0070】
印刷物サンプルの画像を前述と同様に加熱消去して、消去濃度を調べた。消去濃度は、それぞれ0.094および0.101であった。いずれも、文字および画像は完全に見えないレベルであった。ここで用いた用紙自体の濃度は0.088であり、インクサンプル8は十分な消去性を有している。
【0071】
次に、吸湿させた用紙を用いる以外は前述と同様にして、画像を形成した。用紙は、水が収容された密閉容器内に保存して吸湿させた。吸湿紙を用いた場合でも、乾燥紙の場合の96%の画像濃度が得られた。インクサンプル8は、高湿下でも非常に安定した性能を有することがわかる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコ色素と非水溶性顕色剤とアルコールおよび水を含む溶媒とを含有し、前記水の量は前記溶媒の7質量%以上25質量%以下であることを特徴とする消去可能インクジェットインク。
【請求項2】
前記非水溶性顕色剤の含有量は、前記ロイコ色素の含有量の10倍以上30倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の消去可能インクジェットインク。
【請求項3】
プロピレングリコールモノメチルエーテルをさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の消去可能インクジェットインク。
【請求項4】
請求項1に記載の消去可能インクジェットインクの製造方法であって、
ロイコ色素と非水溶性顕色剤とをアルコールに溶解して色材溶液を得る工程と、
前記色材溶液に、前記消去可能インクジェットインクの溶媒の7質量%以上25質量%以下となる量の水を加える工程と
を具備することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記非水溶性顕色剤は、前記ロイコ色素の質量の10倍以上30倍以下の質量で用いられることを特徴とする請求項4に記載の消去可能インクジェットインクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224789(P2012−224789A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95308(P2011−95308)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】