説明

消火・防火装置

【課題】レンジで火災が発生した場合又は火災が発生しかけている場合に迅速に消火・防火することができ、更にはフライパンの取っ手等の影響を受けずに消火・防火することができる消火・防火装置を得る。
【解決手段】レンジ16が載置されるレンジ台10の上部周縁部にはエアバッグ44が折り畳み状態で収納されており、火炎50や煙52を検知すると、コントローラ30によってインフレータ42が作動し、エアバッグ44が矩形筒状に立ち上がり、レンジフード20の下端部に磁石46で吸着されるようになっている。その後、消火器32から消火剤36が放出されることで、消火・防火がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンジでの火災に対する消火・防火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、レンジ上方に設けられた消火装置内にパラシュートが折り畳み状態で収納されており、温度センサによってレンジでの火災が検知された場合に、パラシュートを放出し、レンジを覆う技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−323811号公報
【特許文献2】特開2006−212205号公報
【特許文献3】特開平11−169474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記先行技術による場合、パラシュートの下方に隙間ができるため、酸素が供給され続け、消火に手間取るという課題があった。
【0004】
また、パラシュートがフライパンの取っ手等に引っ掛かり、パラシュートがレンジを上手く覆わないか、或いはフライパン等をひっくり返してしまうという課題もあった。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、レンジで火災が発生した場合又は火災が発生しかけている場合に迅速に消火・防火することができ、更にはフライパンの取っ手等の影響を受けずに消火・防火することができる消火・防火装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係る消火・防火装置は、非作動時には所定の収納位置に収納されると共に作動時にはレンジ面を含む所定区画の周縁部から天井へ向けて立ち上げられて自ら又はレンジ周囲の壁面と共働して当該所定区画を略包囲する所定高さのレンジ区画防火壁を形成する防火壁形成手段を備えた、ことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1記載の消火・防火装置において、前記レンジ区画防火壁は縦断面形状が略L字状とされており、かつ当該レンジ区画防火壁の底部はレンジ面から連続してかつレンジ面の外側へ向けて略水平に延在されている、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2記載の消火・防火装置において、前記レンジ区画防火壁によって区画された空間に不活性ガスを放出する不活性ガス放出手段を備えている、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の消火・防火装置において、前記レンジ区画防火壁は、耐熱防火材料で形成されたエアバッグによって構成されている、ことを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の消火・防火装置において、火炎を検知する火炎検知手段及び煙を検知する煙検知手段の少なくとも一方を備えていると共に、当該火炎検知手段による火炎の検知及び当該煙検知手段による煙の検知の少なくとも一方がなされた場合に前記防火壁形成手段を作動させる制御手段を備えている、ことを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の消火・防火装置において、前記レンジ区画防火壁は、少なくともレンジでの火災発生時の平均的な火炎の高さ以上立ち上がる、ことを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の消火・防火装置において、前記レンジ区画防火手段は、前記レンジ周囲の壁面と共働してレンジ区画防火壁を形成し、当該レンジ区画防火壁と前記壁面との間には、レンジ区画防火壁の外部からレンジ区画防火壁の内部への空気の流通を遮蔽する第1の空気遮蔽手段が設けられている、ことを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の消火・防火装置において、前記レンジ面の下方には、レンジ面に設けられた貫通孔からレンジ区画防火壁の内部への空気の流通を遮蔽する第2の空気遮蔽手段が設けられている、ことを特徴とする。
【0014】
請求項1記載の本発明によれば、防火壁形成手段の非作動時には、レンジ区画防火壁は所定の収納位置に収納されている。
【0015】
この状態から防火壁形成手段が作動すると、レンジ面を含む所定区画の周縁部から天井へ向けて自ら又はレンジ周囲の壁面と共働して当該所定区画を略包囲する所定高さのレンジ区画防火壁が形成される。このため、レンジ区画防火壁が形成されないものに比べて、火元に酸素が供給され難くなる。従って、その分、火炎は拡がらず、消火し易くなる。ひいては、延焼を未然に防止することができる。
【0016】
請求項2記載の本発明によれば、レンジ区画防火壁は縦断面形状が略L字状とされており、かつ当該レンジ区画防火壁の底部はレンジ面から連続してかつレンジ面の外側へ向けて略水平に延在されているため、レンジ面だけを区画する場合に比べて区画領域が拡がる。このため、例えば、フライパンの取っ手がレンジ面からはみ出している場合に、レンジ区画防火壁が立ち上がる際にフライパンの取っ手を引っ掛けるおそれがない。
【0017】
請求項3記載の本発明によれば、レンジで火災が発生した場合や火災が発生しかけている場合、不活性ガス放出手段によって、レンジ区画防火壁によって区画された空間に不活性ガスが放出される。これにより、火元が不活性ガスに覆われ、酸素の供給が絶たれる。
【0018】
請求項4記載の本発明によれば、レンジ区画防火壁が耐熱防火材料で形成されたエアバッグによって構成されているので、非作動時にレンジ区画防火壁を折り畳むことができる。
【0019】
請求項5記載の本発明によれば、火炎を検知する火炎検知手段及び煙を検知する煙検知手段の少なくとも一方を備えていると共に、当該火炎検知手段による火炎の検知及び当該煙検知手段による煙の検知の少なくとも一方がなされた場合には、制御手段によって防火壁形成手段が作動される。従って、火炎が先に立ち上がるような火災(例えば、天ぷら油に引火したような場合)や火炎はまだ小さく煙が先に立ち昇るような火災(例えば、ガスコンロの消し忘れによって鍋等を空焚きしてしまっているような場合)のいずれにも対応できる。
【0020】
請求項6記載の本発明によれば、レンジ区画防火壁は、少なくともレンジでの火災発生時の平均的な火炎の高さ以上立ち上がるので、火炎の拡がりを効果的に抑えることができる。
【0021】
請求項7記載の本発明によれば、レンジ区画防火手段がレンジ周囲の壁面と共働してレンジ区画防火壁を形成するため、レンジ区画防火手段とレンジ周囲の壁面との接続部位から空気が流通する可能性がある。
【0022】
しかし、本発明では、レンジ区画防火壁と壁面との間に第1の空気遮断手段を設けたので、レンジ区画防火壁の外部からレンジ区画防火壁の内部への空気の流通が遮蔽される。このため、前記接続部位での酸素の供給が絶たれるので、火炎が鎮火され易くなる。
【0023】
請求項8記載の本発明によれば、通常レンジ面にはガスコンロ等のための貫通孔が形成されているため、この貫通孔から空気が流通し、酸素が供給されることが考えられる。
【0024】
しかし、本発明では、レンジ面の下方に第2の空気遮断手段を設けたので、レンジ面に設けられた貫通孔からレンジ区画防火壁の内部への空気の流通が遮蔽される。このため、当該貫通孔からの酸素の供給が絶たれるので、火炎が鎮火され易くなる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の本発明に係る消火・防火装置は、レンジで火災が発生した場合又は火災が発生しかけている場合に迅速に消火・防火することができるという優れた効果を有する。
【0026】
請求項2記載の本発明に係る消火・防火装置は、レンジ面が比較的狭くフライパンの取っ手等がレンジ面からはみ出すような場合でも、フライパンの取っ手等の影響を受けずに消火・防火することができるという優れた効果を有する。
【0027】
請求項3記載の本発明に係る消火・防火装置は、火災発生時又は火災が発生しかけている場合により迅速に消火・防火することができるという優れた効果を有する。
【0028】
請求項4記載の本発明に係る消火・防火装置は、防火壁形成手段の非作動時におけるレンジ区画防火壁の収納性に優れているという優れた効果を有する。
【0029】
請求項5記載の本発明に係る消火・防火装置は、火炎先行型の火災及び煙先行型の火災の両方に対応することができるという優れた効果を有する。
【0030】
請求項6記載の本発明に係る消火・防火装置は、必要最小限のコストで消火或いは防火の実効性を担保できるという優れた効果を有する。
【0031】
請求項7記載の本発明に係る消火・防火装置は、レンジ区画防火手段がレンジ周囲の壁面と共働してレンジ区画防火壁を形成する場合において、より一層迅速に消火・防火することができるという優れた効果を有する。
【0032】
請求項8記載の本発明に係る消火・防火装置は、レンジ面に貫通孔が形成されている場合において、より一層迅速に消火・防火することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
〔第1実施形態〕
【0034】
以下、図1及び図2を用いて、本発明に係る消火・防火装置の第1実施形態について説明する。
【0035】
図1には、本実施形態に係る消火・防火装置の概念図が示されている。この図に示されるように、レンジ台10はキッチン12の一方の壁14を背にして配置されている。レンジ台10の上面にはレンジ16が載置されており、更にレンジ16の上面には複数のガスコンロ18が配置されている。レンジ16の上方にはレンジフード20が一方の壁14と天井面22とに跨って配設されている。なお、一方の壁14におけるレンジ16とレンジフード20との間の途中部分は、窓等の開口部24とされている。
【0036】
レンジフード20内には、図示しない換気扇が設置されている他、消火・防火装置26の一部を構成する火炎検知手段としての温度センサ28、制御手段としてのコントローラ30、及び消火器32が配設されている。なお、コントローラ30は、レンジフード20外の任意の箇所に設置可能である。コントローラ30には、温度センサ28及び消火器32が接続されている他、天井面22におけるレンジフード20から所定距離離れた位置に配設された煙検知手段としての火災検知器34が接続されている。
【0037】
消火器32は、コントローラ30からの作動信号によりバルブを開放して消火剤36をレンジ16側へ向けて放出するようになっている。なお、図1に示される実施形態では、液状の消火剤36を(図1(C)参照)を用いたが、これに限らず、気泡状の消火剤38(図2参照)を用いてもよい。
【0038】
また、レンジ台10の内部には、消火・防火装置26の他の一部を構成するエアバッグ装置40が内蔵されている。エアバッグ装置40は、レンジ台10の内部所定位置に配設されたガス発生手段であるインフレータ42と、このインフレータ42が作動して発生したガスによって矩形筒状に膨張展開されるエアバッグ44と、を主要部として構成されている。インフレータ42はコントローラ30に接続されている。また、エアバッグ44は、例えば、自動車のエアバッグ装置において使用されるエアバッグの基布と同一の耐熱防火材料で構成されており、又非作動時には平面視で矩形枠状に折り畳まれてレンジ台10の内部上端側に収納されている。さらに、矩形筒状に膨張展開したエアバッグ44の上端部には、適宜間隔で磁石46が配設されている。磁石46はレンジフード20の下端部の金属面に吸着されて、エアバッグ44の形状を膨張展開時の矩形筒状に保持している。その意味では、磁石46はエアバッグ44を膨張展開時の状態に保持する保持手段として把握される要素である。
【0039】
なお、この実施形態では、レンジ16がレンジ台10の平面形状よりも一回り小さく、レンジ16とレンジ台10との間に形成された隙間48を利用してエアバッグ44を立ち上がらせるようにしたが、これに限らず、レンジ16がレンジ台10の平面形状と合致する大きさの場合には、レンジ16の外周縁部(上面又は側面)からエアバッグ44を立ち上げるようにしてもよい。さらに、昨今の多様化したシステムキッチン等では、外見上、レンジ16とレンジ台10とが一体化されたものもあることから、レンジ側にエアバッグ44を収納してもよいし、レンジ台に相当する部分の方にエアバッグ44を収納してもよい。なお、図示は省略しているが、エアバッグ44が収納される側には、通常は閉止状態とされ、エアバッグ44の膨張圧が所定値に達すると展開するエアバッグドア(エアバッグリッドともいう。)が配設されている。
【0040】
(作用・効果)
【0041】
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0042】
図1(A)に示されるように、レンジ16のガスコンロ18から火災が発生し、火炎50及び煙52が立ち昇ると、温度センサ28で火炎50が検知されると共に火災検知器34で煙52が検知される。これらの検知結果はコントローラ30に検知信号として出力される。
【0043】
図1(B)に示されるように、コントローラ30では、温度センサ28からの検知信号及び火災検知器34からの検知信号に基づいて火災が発生したか否かを判断し、火災が発生したと判断すると、エアバッグ装置40を作動させる。すなわち、エアバッグ装置40のインフレータ42に作動信号を出力し、所定の電流がインフレータ42の点火装置に通電される。これにより、インフレータ42が作動し、内部に充填されたガス発生剤が燃焼して大量のガスを発生する。発生したガスはインフレータ42に形成されたガス噴出孔から折り畳み状態のエアバッグ44内へ供給される。なお、ガス発生剤充填タイプのインフレータ42に替えて、高圧封入タイプのインフレータを用いてもよく、その場合には、インフレータが作動することによりインフレータ内で高圧ガスを隔成している隔壁が破断し、高圧ガスがガス噴出孔から噴出される。
【0044】
インフレータ42によって発生したガスが折り畳み状態のエアバッグ44内に供給されると、エアバッグ44は瞬時にレンジフード20側へ向けて矩形筒状に膨張展開される(立ち上げられる)。エアバッグ44は完全に膨張すると、その上端部がレンジフード20の下端部に達する。換言すると、完全に膨張展開したときのエアバッグ44の高さをレンジ面54からレンジフード20の下端部までの高さに設定されている。そして、エアバッグ44が完全に膨張展開されると、その上端部に固着された磁石46がレンジフード20の下端部に吸着されて、エアバッグ44をその状態に保持する。これにより、レンジ面54を含む上方空間がキッチン12の他の空間から隔成されて、火元に酸素の供給が絶たれた閉鎖空間56が形成される。
【0045】
その後、図1(C)に示されるように、コントローラ30によって消火器32が作動されて、液状の消火剤36又は気泡状の消火剤38(図2参照)が火元であるガスコンロ18に向けて放出される。これにより、極めて短時間で火災が消火される。
【0046】
このように本実施形態では、火炎50及び煙52の少なくとも一方を検知した場合にエアバッグ装置40を作動させて矩形筒状にエアバッグ44を立ち上がらせ、火元を包囲するレンジ区画防火壁を形成するので、レンジ区画防火壁が形成されないものに比べて、火元に酸素が供給され難くなる。従って、その分、火炎50は拡がらず、消火し易くなる。ひいては、延焼を未然に防止することができる。その結果、本実施形態によれば、レンジ16で火災が発生した場合(又は火災が発生しかけている場合)に迅速に消火・防火することができる。また、火炎50の拡がりを抑えることができるため、居住者等がガスのスイッチを容易にOFFにできる。なお、補足すると、平成18年度の消防庁の調査によると、キッチンは、火災発生原因の約11%(火災発生原因の第2位)を占めており、キッチンでの出火時に迅速に消火すること、延焼を防止することは、極めて重要である。
【0047】
また、本実施形態では、レンジ区画防火壁が耐熱防火材料で形成されたエアバッグ44によって構成されているので、非作動時にはエアバッグ44をコンパクトに折り畳むことができる。従って、非作動時におけるエアバッグ44の収納性に優れている。
【0048】
さらに、本実施形態では、火炎50を検知する温度センサ28及び煙を検知する火災検知器34の両方を備えていると共に、火炎及び煙の少なくとも一方が検知された場合には、コントローラ30によってエアバッグ装置40が作動される。従って、火炎50が先に立ち上がるような火災(例えば、天ぷら油に引火したような場合)や火炎50はまだ小さく煙52が先に立ち昇るような火災(例えば、ガスコンロの消し忘れによって鍋等を空焚きしてしまっているような場合)のいずれにも対応できる。よって、本実施形態によれば、火炎先行型の火災及び煙先行型の火災の両方に対応することができる。
【0049】
また、本実施形態では、エアバッグ44がレンジフード20の下端部まで立ち上がるので、火炎50の拡がりを確実に抑えることができる。その結果、本実施形態によれば、消火或いは防火の実効性を担保することができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
【0051】
以下、図3及び図4を用いて、本発明に係る消火・防火装置の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0052】
これらの図に示されるように、この第2実施形態に係る消火・防火装置60では、エアバッグ62の縦断面形状をL字形にした点、その高さを所定高さに設定した点、及び消火器64から不活性ガス66を噴出させる点に特徴がある。
【0053】
具体的に説明すると、図3に示されるように、レンジ区画防火壁としてのエアバッグ62は平面視でアングル状に形成されており、一方の壁14と他方の壁70の二面を使ってレンジ16を包囲する区画を形成している。また、図4(A)、(B)に示されるように、エアバッグ62の縦断面形状はL字形に形成されており、レンジ面54の外側に向けて略水平に延在する底部62Aと、この底部62Aの外周縁から所定高さHだけ立ち上げられた立ち上がり部62Bと、によって構成されている。
【0054】
立ち上がり部62Bの高さHは、少なくともレンジ16での火災発生時の平均的な火炎50の高さ以上に設定されていればよく、本実施形態では、概ねレンジ面54から800mm程度に設定されている。補足すると、本発明における「レンジでの火災発生時の平均的な火炎の高さ」は、実験で求めたものを用いてもよいし、既に公表されているデータがあればそれを使ってもよく、前記の如く本実施形態では800mm程度に設定している。
【0055】
また、上記エアバッグ62の両側部には磁石68が取り付けられており、膨張展開時に一方の壁14及び他方の壁70に磁力で吸着されるようになっている。なお、一方の壁14及び他方の壁70のエアバッグ62の両側部と対向する位置には、磁石68が吸着可能な図示しない帯板状の金属製の薄板が取り付けられている。
【0056】
さらに、不活性ガス放出手段としての消火器64からは、空気より重い不活性ガス66が噴出されるようになっている。なお、消火剤として使用し得る不活性ガスの種類としては、窒素(化学式;N :100%)、IG−541(化学式;N+Ar+CO :52%+40%+8%)、IG−55(化学式;N+Ar :50%+50%)、二酸化炭素(化学式;CO :100%)の4種類があるが、前三者が好ましい。補足すると、一般には、この種の不活性ガス消火設備は、電気室や美術館、電気通信機室等に設置されており、消火剤による汚損が少なく、復旧を早急にすることが必要な施設に設置される。消火原理は、防火区画内に消火剤である不活性ガスを放出し、酸素濃度を低下させて消火するというものである。
【0057】
(作用・効果)
【0058】
上記構成の消火・防火装置60では、第1実施形態で説明した温度センサ28又は火災検知器34によって火炎50又は煙52が検知されると、コントローラ30によってインフレータ42に作動信号が出力される。これにより、大量のガスが発生し、エアバッグ62が底部62A、立ち上がり部62Bの順に膨張展開される。続いて、コントローラ30によって消火器64が作動され、不活性ガス66が火元へ向けて放出される。これにより、火元が不活性ガス66に覆われ、酸素の供給が絶たれ、火炎50が鎮火される。
【0059】
ここで、本実施形態では、エアバッグ62の縦断面形状が略L字状とされており、かつ当該エアバッグ62の底部62Aはレンジ面54から連続してかつレンジ面54の外側へ向けて略水平に延在されているため、レンジ面54だけを区画する場合に比べて区画領域が拡がる。このため、例えば、フライパン72の取っ手72Aがレンジ面54からはみ出している場合に、エアバッグ62が立ち上がる際にフライパン72の取っ手72Aを引っ掛けるおそれがない。よって、本実施形態によれば、レンジ面54が比較的狭くフライパン72の取っ手72A等がレンジ面54からはみ出すような場合でも、フライパン72の取っ手72A等の影響を受けずに消火・防火することができる。
【0060】
また、本実施形態では、消火器64から火元へ不活性ガス66が放出されるため、火元への酸素の供給が絶たれる。その結果、より迅速に消火・防火することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、エアバッグ62がレンジ16の周囲の一方の壁14及び他方の壁70の二面と共働してレンジ区画防火壁を形成するため、エアバッグ62の両側部と一方の壁14及び他方の壁70との接続部位から空気が流通する可能性がある。しかし、本実施形態では、エアバッグ62の両側部に磁石68を取り付け、一方の壁14及び他方の壁70に磁力で吸着されるようにしたので、エアバッグ62の両側部と一方の壁14及び他方の壁70との間に隙間が殆ど生じないようにすることができる(接続部位を略密閉することができる。)。従って、エアバッグ62の外部からエアバッグ62の内部への前記接続部位からの空気の流通が遮蔽される。このため、前記接続部位での酸素の供給が絶たれるので、火炎が鎮火され易くなる。その結果、本実施形態によれば、より一層迅速に消火・防火することができる。
【0062】
加えて、本実施形態では、エアバッグ62が平面視でアングル状に形成されるため、レンズ16の四方を取り囲む場合に比べて、エアバッグ62を小さくすることができる。このため、エアバッグ62の基布の面積を小さくすることができると共に、インフレータ42の要求出力を小さくすることができる。従って、必要最小限のコストで済む。
【0063】
〔第3実施形態〕
【0064】
以下、図5〜図8を用いて、本発明に係る消火・防火装置の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態等と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0065】
これらの図に示されるように、この第3実施形態に係る消火・防火装置80では、エアバッグ82単独でレンジ16の周囲を覆ってしまう点及びガスコンロ18の下方をもエアバッグ82で覆ってしまう点に特徴がある。
【0066】
具体的に説明すると、図5及び図6に示されるように、レンジ区画防火壁としてのエアバッグ82はレンジ16を包囲可能な矩形筒体状に形成されており、消火・防火装置80の非作動時には、レンジ16或いはレンジ台10の上端部に折り畳み状態で格納されている。また、図6及び図7に示されるように、エアバッグ82が膨張展開したときの縦断面形状は第2実施形態の場合と同様に略L字形とされており、底部82A及び立ち上がり部82Bを備えている。なお、レンジ16の背面側には一方の壁14が存在するため、フライパン72の取っ手72Aが引っ掛かるといったことがないことから、底部82Aは形成されていない。また、エアバッグ82は、立ち上がり部82Bの両側部82B’(図6参照)が重なり合うように折り畳まれている。
【0067】
さらに、図8の模式図に示されるように、このエアバッグ82では、三個のガスコンロ18の貫通孔84を一括して下から覆うようにレンジ面54の下方にもエアバッグ82の一部82Cが配索されている。なお、エアバッグ82の一部82Cはエアバッグ82の底部82Aと連通されている。
【0068】
(作用・効果)
【0069】
上記構成の消火・防火装置80によっても、前述した第2実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0070】
さらに、この実施形態では、ガスコンロ18のための貫通孔84から空気が流通し、火元に酸素が供給されるのを排除するため、すべてのガスコンロ18の貫通孔84をレンジ面54の下方側からボウル状に覆うエアバッグ82としたので、レンジ面54に設けられた貫通孔84から膨張展開したエアバッグ82の内部への空気の流通が遮蔽される。このため、当該貫通孔84からの酸素の供給が絶たれるので、火炎50が鎮火され易くなる。その結果、本実施形態によれば、レンジ面54に貫通孔84が形成されている場合において、より一層迅速に消火・防火することができる。
【0071】
〔上記実施形態の補足説明〕
【0072】
なお、請求項1記載の本発明における「略包囲」とは、レンジ面を含む所定区画を周方向に完全に包囲する場合と、若干の隙間が形成されるものの実質的にはほぼ包囲している場合の両方を含む。第1実施形態及び第3実施形態は前者の例であり、第2実施形態はエアバッグ62の立ち上がり部62Bの両側部のうち磁石68が設けられた部分の上下端付近は隙間ができると思われるため後者の例である。なお、第2実施形態において磁石68が設けられていない部分についてはエアバッグ62のバッグ膨張圧によって立ち上がり部62Bの両側部が一方の壁14及び他方の壁70に圧接されるので、隙間は出来難い。
【0073】
また、温度センサ28について補足すると、温度センサ28を使った消火器32の作動制御には種々のものが適用可能である。例えば、レンジフード20内に配設した温度センサ28で検出された温度が何度のときには火炎50の先端高さがどの程度の高さに達しているかを対応づけたデータをコントローラ30に予め記憶させておき、温度センサ28の検出結果と予め記憶されたデータとを比較することにより、火炎50の先端高さを求めて、それに基づいて消火器32を作動させてもよい。また例えば、温度センサ28の検出結果が何度以上のときには、消火器32を作動させるというプログラムにしてもよい。さらに、火炎50の高さがある一定の高さ以上になると、温度センサ28が反応し、消火器32を作動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】第1実施形態に係る消火・防火装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】消火剤として泡状の消火剤を使った例を示す図1(C)に対応する側面図である。
【図3】第2実施形態に係る消火・防火装置の作動状態を示す平面図である。
【図4】図3に示される消火・防火装置の作動状態を示す側面図と正面図である。
【図5】第3実施形態に係る消火・防火装置の非作動状態を示す平面図である。
【図6】第3実施形態に係る消火・防火装置の作動状態を示す平面図である。
【図7】図6に示される消火・防火装置の作動状態を示す側面図と正面図である。
【図8】ガスコンロの貫通孔の下方をエアバッグの一部で覆った状態を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0075】
14 一方の壁
16 レンジ
22 天井面
26 消火・防火装置
28 温度センサ(火炎検知手段)
30 コントローラ(制御手段)
32 消火器
34 火災検知器(煙検知手段)
36 消火剤
38 消火剤
40 エアバッグ装置(防火壁形成手段)
44 エアバッグ(レンジ区画防火壁)
46 磁石
50 火炎
52 煙
54 レンジ面
60 消火・防火装置
62 エアバッグ(レンジ区画防火壁)
62A 底部
64 消火器(不活性ガス放出手段)
66 不活性ガス
68 磁石(第1の空気遮蔽手段)
80 消火・防火装置
82 エアバッグ(レンジ区画防火壁)
82A 底部
82C 一部(第2の空気遮蔽手段)
84 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非作動時には所定の収納位置に収納されると共に作動時にはレンジ面を含む所定区画の周縁部から天井へ向けて立ち上げられて自ら又はレンジ周囲の壁面と共働して当該所定区画を略包囲する所定高さのレンジ区画防火壁を形成する防火壁形成手段を備えた、
ことを特徴とする消火・防火装置。
【請求項2】
前記レンジ区画防火壁は縦断面形状が略L字状とされており、
かつ当該レンジ区画防火壁の底部はレンジ面から連続してかつレンジ面の外側へ向けて略水平に延在されている、
ことを特徴とする請求項1記載の消火・防火装置。
【請求項3】
前記レンジ区画防火壁によって区画された空間に不活性ガスを放出する不活性ガス放出手段を備えている、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の消火・防火装置。
【請求項4】
前記レンジ区画防火壁は、耐熱防火材料で形成されたエアバッグによって構成されている、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の消火・防火装置。
【請求項5】
火炎を検知する火炎検知手段及び煙を検知する煙検知手段の少なくとも一方を備えていると共に、当該火炎検知手段による火炎の検知及び当該煙検知手段による煙の検知の少なくとも一方がなされた場合に前記防火壁形成手段を作動させる制御手段を備えている、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の消火・防火装置。
【請求項6】
前記レンジ区画防火壁は、少なくともレンジでの火災発生時の平均的な火炎の高さ以上立ち上がる、
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の消火・防火装置。
【請求項7】
前記レンジ区画防火手段は、前記レンジ周囲の壁面と共働してレンジ区画防火壁を形成し、
当該レンジ区画防火壁と前記壁面との間には、レンジ区画防火壁の外部からレンジ区画防火壁の内部への空気の流通を遮蔽する第1の空気遮蔽手段が設けられている、
ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の消火・防火装置。
【請求項8】
前記レンジ面の下方には、レンジ面に設けられた貫通孔からレンジ区画防火壁の内部への空気の流通を遮蔽する第2の空気遮蔽手段が設けられている、
ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の消火・防火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−172307(P2009−172307A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16816(P2008−16816)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】