説明

消火薬剤

【課題】
従来の水系消火薬剤は、天ぷら油火災時に燃焼している天ぷら油に上面から散布して使用すれば、ケン化反応と皮膜形成性により天ぷら油の可燃性ガスの蒸発が止まり不燃化し消火することができ、油脂火災鎮火に有効であるけれども;燃焼している天ぷら油に直接投入すると水蒸気爆発を起こす可能性が非常に高く危険である。
本発明は、このような天ぷら油火災に直接投入しても満足に使用し得る、水蒸気爆発の危険性が低減ないしは解消された、水系消火薬剤を提供しようとするものである。
【解決手段】
(A)界面活性剤、および(B)油脂のケン化剤を含有し、20℃で10m・Pas以上1200m・Pas以下の粘度を有することを特徴とする、水系消火薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系消火薬剤に関するもの、詳しくは天ぷら火災に直接投入可能な水系消火薬剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水系消火薬剤として、強化液消火薬剤(炭酸カリウム、炭酸水素カリウムの水溶液)が普及している。このような水系消火薬剤において、泡展開剤としてフッ素系界面活性剤(パーフルオロアルキルベタインなど)、発泡剤として炭化水素系界面活性剤(イミダゾリニウムベタインなど)、油脂のケン化剤として炭酸塩(炭酸カリウムなど)等を添加することが
知られており;油脂ケン化剤を混入させることにより、油火災に使用して天ぷら油のアルカリ化を促進させ、油脂火災鎮火に効果がある旨、述べられている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−218075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の油脂ケン化剤を混入させた水系消火剤のような、従来の水系消火薬剤は、天ぷら油火災時に燃焼している天ぷら油に上面から散布して使用すれば、ケン化反応と皮膜形成性により天ぷら油の可燃性ガスの蒸発が止まり不燃化し消火することができ、油脂火災鎮火に有効であるけれども;燃焼している天ぷら油に直接投入すると水蒸気爆発を起こす可能性が非常に高く危険である。
本発明は、このような天ぷら油火災に直接投入しても満足に使用し得る、水蒸気爆発の危険性が低減ないしは解消された、水系消火薬剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、〔1〕(A)界面活性剤、および(B)油脂のケン化剤を含有し、20℃で10m・Pas以上1200m・Pas以下の粘度を有することを特徴とする、水系消火薬剤;〔2〕(A)界面活性剤、(B)油脂のケン化剤、および(C)多糖ガムを含有することを特徴とする、水系消火薬剤;とくに、熱溶融性もしくは熱破損性の樹脂容器に装填してなる、上記〔1〕もしくは〔2〕の消火薬剤に係るものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の水系消火薬剤は、高い粘性が保持されており、天ぷら油火災時に直接投入して使用しても水蒸気爆発を起こす危険性が低く、このような火災にも直接投入使用することができる。従って、実際に天ぷら火災に直面し、あわてふためく状況下でも、天ぷら鍋に直接投入するだけで迅速に消火することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の消火薬剤において使用される、界面活性剤(A)および油脂のケン化剤(B)としては、従来の水系消火薬剤において用いられているものが使用できる。それらの具体例としては、例えば上記特許文献1に記載されているものが挙げられる。
【0007】
具体的には、油脂のケン化剤(B)としては、アルカリ(土類)金属〔アルカリ金属(カリウム、ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)〕の弱酸塩〔例えば炭酸塩(炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムなど);ケイ酸塩(ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウムなど);ホウ酸塩(ホウ酸カリウムなど);(オキシ)カルボン酸塩(クエン酸カリウム、酢酸カリウムなど)〕;及びリン酸塩〔第一リン酸塩(リン酸一カリウムなど)、第二リン酸塩(リン酸二アンモニウム)、第三リン酸塩(リン酸三アンモニウム、リン酸三カリウムなど)〕;並びに、これらの2種以上の併用が挙げられる。これらのうち好ましいのは、炭酸アルカリ、とくに炭酸カリウムである。
【0008】
界面活性剤(A)には、フッ素系界面活性剤(A1)、非フッ素系(炭化水素系)界面活性剤(A2)および(A1)と(A2)の併用が含まれる。好ましいのは、(A1)と(A2)の併用である。(A1)と(A2)を併用する場合、(A1)と(A2)の割合は、重量比(質量比)で1/1(とくに1.5/1)〜2.5/1(とくに2/1)が好ましい。
上記界面活性剤(A1)および(A2)には、それぞれ、アニオン性、カチオン性、非イオン性および両性のものが含まれる。
【0009】
フッ素系界面活性剤(A1)には、泡展開剤(膜形成剤)として作用する、アニオン性の、パーフルオロアルキルカルボン酸型、パーフルオロアルキルスルホン酸型;カチオン性の、パーフルオロアルキル4級アンモニウム型;非イオン性の、パーフルオロアルキルポリオキシエチレン型、フッ素化アミンオキシド型;および両性の、パーフルオロアルキルベタイン型、パーフルオロアルキルアミン型など;並びにこれらの2種以上の併用が含まれる。これらのうち、好ましいのは、アニオン性のもの(とくにパーフルオロアルキルスルホン酸型)および両性のもの(とくにパーフルオロアルキルベタイン型)である。
【0010】
非フッ素系界面活性剤(A2)には、発泡剤として作用する、非イオン性の、ポリオキシエチレン型(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル等)、多価アルコール型〔多価アルコール脂肪酸エステル(ツイーン型、ツイーン型等)、脂肪酸アルカノールアミド型(脂肪酸モノ-およびジ-エタノールアミド等)、多価アルコール型(ツイーン型等)〕;アニオン性の、硫酸エステル塩型(アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等)、リン酸エステル塩型(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等)、スルホン酸型〔アルキルアリールスルホン酸塩(ドデシルベンゼンスルホン酸塩)、ジアルキルスルホコハク酸塩等〕;カチオン性の、4級アンモニウム型(アルキルトリメチルアンモニウム塩等)、アミン塩型;両性の、ベタイン型〔カルボキシベタイン(アルキルジメチルベタイン等)、スルホベタイン等〕、アミノ酸型〔アミノカルボン酸塩(アルキルアミノプロピオン酸塩等)、アミノエチルグリシン型、タンパク質加水分解物等〕が含まれる。これらのうち、好ましいのは、非イオン性のもの(とくにポリオキシエチレン型、脂肪酸アルカノールアミド型)、アニオン性のもの(とくにスルホン酸型)および両性のもの(とくにベタイン型、タンパク質分解物)、並びにこれらの2種以上の併用である。
(A1)および(A2)の具体例としては、例えば上記特許文献1や全訂版「新・界面活性剤入門」(1992年、三洋化成工業株式会社発行)に記載されているものが挙げられる。
【0011】
本発明に係る消火薬剤〔1〕は、界面活性剤(A)および油脂のケン化剤(B)を含有すると共に、20℃で10m・Pas以上(好ましくは50m・Pas以上とくに100m・Pas以上)、1200m・Pas以下(好ましくは1000m・Pas以下とくに800m・Pas以下)の粘度を有することを特徴とするものであり、かかる粘度を有することによって、天ぷら油火災時に直接投入して使用しても水蒸気爆発を起こす危険性が低く、このような火災にも迅速に消火することが可能となり、かかる火災にも直接投入可能な簡易水性消火液が得られる。粘度は、B型粘度計(ローターおよび回転数は例えばローターNo.4、30rpm)を用いて測定することができる。
【0012】
上記のような粘度を有する消火薬剤は、(A)および(B)の種類および含有量の選定、および他の配合成分(とくに増粘剤)の種類および含有量の選定によって、得ることができる。増粘剤には、種々のもの(例えばアルギン酸ナトリウム、グアーガム、トラガカントガム、カラヤガム、デンプン等)がある。とくに好ましいのは多糖ガムである。
【0013】
本発明の他の実施態様に係る消火薬剤〔2〕は、(A)界面活性剤、(B)油脂のケン化剤、および多糖ガム(C)を含有することを特徴とする。
多糖ガム(C)としては水溶性ないしは水膨潤性のチキソトロピー性の多糖ガムを用いることができる。(C)には、キサンタンガム、及びその他のガム、例えばラームサンガム、ウェランガム、並びにこれらの2種以上の併用が含まれる。それらの具体例には特開平6−256669号公報に記載のものが含まれる。好ましいのは、キサンタンガム〔たとえば三晶株式会社製「ケルザン」シリーズ:ケルザンS,G,ASX,ASXT,AR,T,ST,HPおよびM〕、とくに耐アルカリ型キサンタンガム〔たとえば三晶株式会社製「ケルザンAR」〕である。
本発明に係る消火薬剤〔2〕は、20℃で10m・Pas以上、1200m・Pas以下の粘度を有するのが好ましく、更に好ましくは50m・Pas以上(とくに100m・Pas以上)、1000m・Pas以下(とくに800m・Pas以下)の粘度を有する。
【0014】
本発明において、消火薬剤〔1〕および〔2〕には、界面活性剤(A)、油脂のケン化剤(B)、増粘剤〔とくに多糖ガム(C)〕および水に加えて、必要に応じて、他の配合成分を含有させることができる。
他の配合成分には、例えば特開平6−218075号公報に記載のものが含まれる。それらの例としては、以下のものが挙げられる。
【0015】
凝固点降下剤(D):
アルコール類(メタノール、イソプロピルアルコール等);多価アルコール〔エチレングリコール、プロピレングリコール、PEG(300)、グリセリン等〕、セロソルブ類(メチルセロソルブ等)、カルビトール類(ブチルカルビトール等)、アミド類(メチルホルムアミド等)、その他(エチレンカーボネート、ジメチルスロホキシド等)。
【0016】
水溶性高分子化合物(E):
泡安定剤(E1)、たとえばポリエチレングリコールまたはポリエチレンオキシド(♯20,000、♯6,000、♯4,000)、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等)など;
耐熱,耐液,耐寒,表面張力低下等消火性能向上剤(E2)、たとえばシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル等)。
【0017】
防錆剤(F):
たとえばアミノトリメチレンホスホン酸,ヒドロキシエチリデン1・1−ジホスホン酸、モリブデン酸アンモニウム、ベンゾトリアゾール、クエン酸塩、テトラヒドロ−1,4−オキサジン等、およびこれらの2種以上の併用。
【0018】
本発明に係る消火薬剤〔1〕および〔2〕において、界面活性剤(A)、油脂のケン化剤(B)、増粘剤〔とくに多糖ガム(C)〕、他の配合成分(D)および水の含有量は、要求される性能に応じて種々変えることができる。増粘剤〔多糖ガム(C)〕以外の各成分の配合割合は、例えば特開平6−218075号公報に記載の割合と同様でよい。
【0019】
一般に、これらの成分を以下の割合で含有するのが好ましい。
・有効成分合計(濃度) ≧15%(とくに≧31%)、≦75%(とくに≦60%)
・・界面活性剤(A)合計 ≧2%(とくに≧5%)、≦14%(とくに≦8%)
・・・フッ素系(A1) ≧1%(とくに≧3%)、≦10%(とくに≦6%)
・・・非フッ素系(A2) ≧1%(とくに≧2%)、≦4%(とくに≦3%)
・・油脂のケン化剤(B) ≧10%(とくに≧20%)、≦45%(とくに≦40%)
・・増粘剤とくに多糖ガム(C)≧0.05%(とくに≧0.1%)、
≦2%(とくに≦1%)
・・他の配合成分合計 ≧3%(とくに≧6%)、≦25%(とくに≦16%)
・・・凝固点降下剤(D) ≧3%(とくに≧5%)、≦12%(とくに≦10%)
・・・防錆剤(F) ≧0.1%(とくに≧1%)、≦3%(とくに≦2%)
・水 残部
上記および以下において、「%」は「重量%」(「質量%」)を表す。
【0020】
また、他の配合成分のうち、水溶性高分子化合物(E)は、とくに使用しなくてもよいが、使用する場合の量は要求される性能に応じて種々変えることができ、例えば以下の割合で使用することができる。
・・・水溶性高分子化合物(E)≧0.5%(とくに≧1%)、≦5%(とくに≦3%)
・・・・泡安定剤(E1) ≧0.2%(とくに≧0.5%)、≦2%(とくに≦1%)
・・・・消火性能向上剤(E2)≧0.3%(とくに≧0.5%)、≦3%(とくに≦2%)
本発明に係る消火薬剤〔1〕および〔2〕は、一般に、9.0〜13.5(好ましく10.0〜13.0)のpHを有する。
【0021】
本発明の消火薬剤〔1〕および〔2〕は、熱溶融性もしくは熱破損性の樹脂容器に装填してなる消火薬剤、いわゆる消火弾として、とくに天ぷら火災用に使用され、これを天ぷら油火災などの油脂火災に際して天ぷら鍋へ直接投入して、迅速に消火することができる。
装填に用いる、熱溶融性もしくは熱破損性の樹脂容器を構成する樹脂としては、天ぷら火災の際に熱(火)により溶融もしくは破損して、充填薬剤を流出させ得るものであれば、とくに制限されない。このような樹脂には、熱可塑性樹脂、例えばオレフィン系樹脂〔ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリイソブチレンなどのポリオレフィン、及びエチレンおよび/またはプロピレンの共重合体など〕、スチレン系樹脂(ポリスチレン、およびスチレン共重合体など)、ポリエステル系樹脂(PETなど);熱硬化性樹脂(ポリウレタン系樹脂など);並びに、これらの2種以上の併用が含まれる。好ましいのは、熱可塑性樹脂、とくにオレフィン系樹脂(ポリエチレン,ポリプロピレンなど)、及びそれらの2種以上の併用である。
熱溶融性もしくは熱破損性の樹脂容器の形状は、熱(火)により溶融もしくは破損して充填薬剤を流出させ得るものであればとくに制限されず、例えば円筒状(略円筒状を含む;以下同様)、部分円筒状、多角柱状(四角柱状、八角柱状など)、球状、回転楕円体状など種々の形状のものが使用できる。好ましいのは四角柱状である。
樹脂容器の大きさ(容量)は、天ぷら火災に際し天ぷら鍋に投入して、その鎮火に有効な量の消火薬剤を充填させ得るものであればとくに制限されないが;一般の家庭で使用するには50〜100mlとくに60〜80mlの容量のものが好ましく、また多量の天ぷら油を使用する業務用の厨房で使用するには、その油の量に応じた大容量のものが好ましい。
【実施例】
【0022】
次に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
実施例1〜3および比較例1〜2
表1に示す配合処方(%)に従って消火薬剤を調製し、それらの粘度(回転粘度計法、m・Pas、20℃)を測定した(測定装置:東機産業製B型粘度計)。
これらの消火薬剤について、「エアゾール式簡易消火具の鑑定細則(昭和57年12月4日消防庁告示第6号)に基づく天ぷら鍋の火災に準じて(大豆油700ml、400℃で消火を開始し、1分以内に再燃しないこと)、消火薬剤60gにて、消火性能試験を実施した。
それらの結果を表1に示す。
【0024】
(表1)
実 施 例 比 較 例
1 2 3 1 2
炭酸カリウム 40 35 35 45 35
アニオン性フッ素系界面活性剤 5 − − − −
両性非フッ素系界面活性剤 − 3 3 − 0.5
アニオン性非フッ素系界面活性剤 − 2 − − −
非イオン性非フッ素系界面活性剤 3 − 2 − 0.5
増粘剤(多糖ガム*1) 0.3 0.1 0.05 − 0.03
エチレングリコール 10 10 10 − 10
水 残部 残部 残部 残部 残部
消火薬剤粘度 790 140 35 4 8
天ぷら火災消火性能 完全 完全 完全 消火せず 消火
消火 消火 消火 (水蒸気爆発) せず
(注)*:キサンタンガム(ケルザンAR)
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の消火薬剤〔1〕および〔2〕は、天ぷら油火災などの油脂火災に際して、天ぷら鍋への直接投入が可能で、あわてふためく状況下でも直接投入するだけで迅速に消火することができるので、天ぷら油火災などの油脂火災の鎮火に著しく有用であり、熱溶融性もしくは熱破損性の樹脂容器に装填して、天ぷら火災用消火弾として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)界面活性剤、および(B)油脂のケン化剤を含有し、20℃で10m・Pas以上1200m・Pas以下の粘度を有することを特徴とする、水系消火薬剤。
【請求項2】
(A)界面活性剤、(B)油脂のケン化剤、および(C)多糖ガムを含有することを特徴とする、水系消火薬剤。
【請求項3】
(A)を1〜20重量%含有する、請求項1または2記載の消火薬剤。
【請求項4】
(B)を10〜50重量%含有する、請求項1、2または3記載の消火薬剤。
【請求項5】
界面活性剤(A)がフッ素系界面活性剤1〜10重量%と非フッ素系界面活性剤90〜99重量%からなる、請求項1〜4の何れか記載の消火薬剤。
【請求項6】
熱溶融性もしくは熱破損性の樹脂容器に装填されてなる、請求項1〜4の何れか記載の消火薬剤。