説明

消火装置

【課題】電池火災が生じたときに、確実に火災を消火できる。
【解決手段】 二次電池が収容された筐体12に設けられる消火装置であって、消火装置30は、消火剤が充填されたタンク31と、そのタンク31に接続され、火災時の熱により開放する開弁機構36とを備えている。
タンク31に消火剤を充填するための充填口33を設けると共に、タンク31の両端部に取付口32を設ける。取付口32には、スプリンクラヘッドからなる開弁機構36が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の火災を消火する消火装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電動自転車や電気自動車に搭載されるモータ駆動用のバッテリ(電池パック)のために、リチウムイオン二次電池が開発されている。リチウムイオン二次電池からなるバッテリは、モータ駆動に必要な大きなパワーを取り出すために、多数の単電池(以下、セルという)が直列接続された組電池の構造で構成されている。各セルは、密閉容器の内部に電解液を閉じ込めて形成されており、密閉容器には、電解液の気化によりセル内の圧力が異常に高まったときに、気化した電解液をセル外に逃すための安全弁が取り付けられている。
【0003】
ところで、リチウムイオン電池などの非水電解質電池は、内部ショートや過充電等の種々の原因で、他のセルに波及して連鎖的に熱暴走することがある。とくに、リチウムイオン電池が熱暴走すると、電池の温度が著しく上昇して、300℃〜400℃以上になってしまう。
【0004】
電池の温度が急上昇すると、電解液が気化して内圧が上がり、リチウムイオン二次電池が破裂することがあり、最悪の場合には、可燃性の有機溶媒からなる電解液に引火し、発火して火災を生じることがある。
【0005】
このため、電池を原因とする火災が発生した場合の対策として、特許文献1に示したような発明がある。特許文献1に記載される電源装置は、複数の電池と消火器をケースに一緒に収納している。この電源装置は、電池が異常発熱し、ケース内の温度が許容値を超えた場合、消火器の起動操作手段であるレバーを自動的に押し下げ、二酸化炭素のガス圧で炭酸水素ナトリウムを主成分とする粉末を電池を収納した筐体内に放出させる。炭酸水素ナトリウムは、高温に加熱されると吸熱して、二酸化炭素と水蒸気を発生し、筐体内の温度を下げるとともに、不活性雰囲気に保ち、火災の発生を防止し、燃焼反応を終了させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−247527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の消火器は、起動させるにあたって電気的な配線を必要とするため、動作の信頼性が悪いという問題がある。本発明はこのような課題に鑑みて案出されたもので、電池火災が生じたときに、確実に火災を消火できる消火装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、二次電池が収容された筐体に設けられる消火装置であって、消火装置は、消火剤が充填されたタンクと、該タンクに接続され、火災時の熱により開放する開弁機構とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、消火装置は、開弁機構により、火災時の熱により開放してタンク内の消火剤を筐体内に放出する。このため、火災感知器などの信号線を必要とする機器が不要であり断線などの虞れもないので異常時には確実に動作する。
【0010】
また、タンクには、消火剤を充填するための充填口が設けられるので、タンク内への消火剤の充填作業を容易に行うことができる。
【0011】
また、開弁機構は、タンクに二つ以上設けられるので、筐体内における火災を受熱しやすく、筐体のどこで火災が生じても早期に消火剤を放出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の消火装置を、二次電池を収容する筐体内へ設置した状態を示す図面である。
【図2】本発明の消火装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施の形態に係る消火装置30を図1、図2に基づいて説明する。まず、二次電池を収容する筐体12について説明する。二次電池は、例えば、リチウムイオン二次電池パック(以下、単に電池パックともいう)からなり、電気自動車などのモータを駆動するためのバッテリとして使用される。
この二次電池は、図1に示すように、多数(例えば100個)のリチウムイオン二次電池(以下、単独のリチウムイオン二次電池をセルという)20が、直列接続された組電池の状態で使用されている。
【0014】
そして、セル20は、複数個(例えば、ここでは4個)ずつまとめて小ケース11内に収納されてモジュール化され、さらに、複数の小ケース11が、小ケース11よりも容積が大きい筐体(ケーシング)12内に並んで収納されている。つまり、電池パック10においては、セル20が小ケース11と筐体12との二重ケース構造で収納されている。この小ケース11と筐体12とは、セル20自体の外装缶に比べて、密閉の程度は低く形成されている。具体的には、小ケース11と筐体12とには、配線等を挿通するための孔が開口される等しており、水が浸入しない程度にシールされてはいるが、その耐圧の程度は高くない。
【0015】
セル20自体の構造について詳述すると、セル20は、外装缶の内部に、可燃性の有機溶媒からなる電解液が密閉注入されて形成されている。外装缶は、密閉容器であって、その気密の程度は極めて高く設計されている。
筐体12の内部には、図1に示すように、複数の小ケース11が並んで配置されているとともに、筐体12内で生じた火災を消火する消火装置30が設けられている。また筐体12の天板には、通気用の通気穴14が設けられており、この通気穴14は気体だけを通過させ、水を通過させないシート16によって塞がれている。
【0016】
筐体12には通気用の穴14が設けられることから、電池の稼働によるセル20の発熱・冷却のため筐体12内部の温度が変化する際、筐体12の内圧が変動することを防止することができる。
【0017】
通気用の穴14に、気体だけを通過させ、水を通過させないシート16を設けることで、液体の消火剤を放出するときには、通気用の穴14から筐体12外部に消火剤が流出せず、筐体12内に消火剤を留めることができるので、消火効率が高まる。
【0018】
次に図2により本発明の消火装置30について説明する。消火装置30は、消火剤(図示せず)が充填されたタンク31と、タンク31に接続され、火災時の熱により開放する開弁機構36とから構成される。タンク31の容量は、筐体12の容積によって設計され、筐体内で生じる火災を消火できるだけの消火剤を貯える容量を有している。このタンク31は、筐体12内に収容可能な形状となっており、筐体12の高さが低い場合には扁平な形状とすることが可能であり、特に形状は限定されない。
【0019】
図1では、筐体12における天板と小ケース11の上面との間に上部空間が設けられており、その上部空間に消火装置30を設けている。消火装置30は、筐体12の天板の下面に、例えば固定金具などを介して取り付けられている。タンク31の材質は、例えば、金属から構成されており、筐体12内部の圧力が高まっても、変形したり、消火剤が漏れ出すことのないものが使用される。
【0020】
タンク31の左右の両端部には、起動装置としての開弁機構36を取り付けるための取付口32が設けられている。また、筐体12の天板のほぼ中央に充填口33が設けられる。この充填口33は、タンク31に消火剤を充填するための口であり、通常は、蓋34によって塞がれている。また、この充填口33には、内側に逆止弁33cが設けられており、タンク31内部に加圧充填された消火剤が充填口33から排出されないように構成されている。タンク31に充填口33が設けてあるので、タンク31内への消火剤の充填作業を容易に行うことができる。
【0021】
タンク31内に充填される消火剤は、泡消火薬剤、強化液や絶縁性のある消火液(例えば、パーフルオロカーボンやハイドロフルオロエーテル、Novec(登録商標)1230等)が使用できる。特にNovec1230は、(a)常温で液体、(b)沸点が低く(49℃)、(c)水と比べて揮発性が高い、(d)電気絶縁性が高い、(e)消火能力(燃焼の連鎖反応抑制効果)がある、という性質を有し、火災時の熱で気体に変化するものである。
【0022】
消火剤として、このNovec(登録商標)1230等を使用した場合には、筐体12(二次電池収容箱)内の火災で電池の発熱で高温になると、Novec(登録商標)1230が気化し易く箱内を迅速に消火雰囲気にできる。また、電気絶縁性が高いので、仮に液状で放出されても電極短絡の懸念もないという利点がある。また、気化時の吸熱により雰囲気が冷却されやすい。
【0023】
タンク31には、開弁機構36が二つ以上設けられる。上述したように、開弁機構36は、タンク31の取付口32に取り付けられる。開弁機構36は、閉鎖型のスプリンクラヘッドから構成される。このスプリンクラヘッド36は、取付口32の開口を塞ぐ図示しない弁体36aと、弁体36aを支えるリンク機構と、100℃以上の高温で溶融する感熱体としての半田36cとを有するものである。
【0024】
建物の天井に設置されるスプリンクラヘッドは、通常72℃付近の温度で溶融する半田が使用されるが、この消火装置30で使用するスプリンクラヘッド36には、100℃以上の温度で溶融する半田36cを使用する。これは、二次電池を電気自動車の車両等に使用すると、火災が生じていない場合でも、車両の走行時等において筐体12を設置している環境が比較的高温になることを考慮したためである。
【0025】
次に火災時の動作について説明する。筐体12内において、過充電によりセル20が発火して、火災が生じ、100℃以上になると、開弁機構であるスプリンクラヘッド36の半田36cが溶融する。半田36cの溶融により、スプリンクラヘッド内部のリンク機構が動作し、スプリンクラヘッド36の弁体36aが取付口32の開口から外れる。こうして、タンク31内の消火剤が筐体12内に放出され火災を消火する。
【0026】
このように、本発明によれば、消火装置30は、開弁機構36により、火災時の熱により開放してタンク31内の消火剤を放出するので、火災感知器などの信号線を必要とする機器が不要であり断線などの虞れもないので異常時には確実に動作する。またタンク自体は、圧力によって変形しにくい硬い材質のものが使用されるので、筐体内の圧力が上昇したとしても、タンク内の消火剤が漏れ出すようなことはない。
【0027】
また、開弁機構となるスプリンクラヘッド36は、例えば、タンク31の両端部に設けられるので、筐体内のどこで火災が起きても、火災時の熱を受熱しやすく、火災時に早期に消火剤を放出することが可能である。なお、筐体12のタンク31の配置によって、スプリンクラヘッド36のタンク31への取付位置を変更するようにしてもよい。また、消火装置30は、筐体12の大きさに応じて、筐体12内に複数分散配置させるようにしてもよい。
【0028】
本発明は以上説明した通りであるが、以下のようにすることも可能である。
【0029】
(1)消火装置の開弁装置として、半田を使用したスプリンクラヘッドの例で説明したが、グラスバルブを使用したスプリンクラヘッドを使用するようにしてもよい。
【0030】
(2)また、開弁装置(スプリンクラヘッド)は、タンクの両端部に設けたが、その設置場所は適宜変更可能である。例えば、タンクの上下に設置することも可能である。この場合において、消火剤として前述の例えばNovec(登録商標)1230等の沸点の低い消火剤を充填しておけば、筐体内で火災が発生すると、タンク内の内圧が上昇することから、タンク内の消火剤は沸点が高まり、液体状態で存在する。よって開弁装置であるスプリンクラヘッドが開栓(開弁)する100℃以上の温度でも、下部の開弁装置からは液体状の消火剤が放出される。このとき、タンク内は、液体状の消火剤が放出されると、タンク内の内圧が低下するので、沸点も低下する。このため、その後、上部の開弁装置が動作して開放するときには、気体状の消火剤が放出される。
【0031】
タンクの直下近傍で火災が起きた場合は、タンク下部の開弁装置の方が近いので先に開弁して液体状の消火剤を放出する。これにより、消火剤が火災源の熱を奪って冷却しつつ、迅速に気化し周囲に消火雰囲気を形成する。火災源を不活性ガスで覆ってから別の消火剤を放出すると、一つの消火剤を放出するより効果的に消火することが可能となる。
タンクからやや離れた位置で火災が起きた場合は、熱対流により筐体の天板(天井)面を伝って高温空気がタンクに到達するので、上部の開弁装置が先に開弁して消火剤を放出する。開弁によりタンク内圧が低下し、且つ火災の高温雰囲気に曝されることで液状の消火剤も迅速に気化して、筐体内全体に消火雰囲気を形成することができる。
【0032】
(3)開弁装置となるスプリンクラヘッドを2つ以上使用する場合において、その動作する温度が異なるスプリンクラヘッドを使用するようにしてもよい。
【0033】
(4)また、(3)において、タンク内に隔壁を設けて、状態(気体、液体、固体)の異なる消火剤を2つ以上充填しておくようにしてもよい。例えば、はじめに動作温度の低いスプリンクラヘッドが動作したときに、窒素ガス等の不活性ガスからなる気体状の消火剤を放出し、その後、動作温度の高いもう一方のスプリンクラヘッドから強化液等の液体状の消火剤を放出させるようにしてもよい。火災源を不活性ガスで覆ってから別の消火剤を放出すると、一つの消火剤を放出するより効果的に消火することが可能となる。
【0034】
(5)消火装置は、筐体の外、例えば筐体の天板の上部に設置するようにしてもよい。この場合には、通気穴等を介して開弁装置だけを筐体内に設置して筐体内の火災を検出できるようにする。この際、開弁装置と筐体の取付口とを金属または樹脂製の可撓性のある管で接続するようにしてもよい。
【0035】
(6)開弁装置としては、熱により開放するものでなく、圧力により開放するもの、例えば所定の圧力で開放する排圧弁等を使用してもよい。この場合には、金属製のタンクに充填した消火剤が、火災時の熱によってタンクが加熱され、タンク内の内圧が高まるときに、排圧弁が開放するようにする。なお、(1)〜(5)については、適宜組み合わせて使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 電池パック、 11 小ケース、 12 筐体、 14 通気穴、
20 セル、 30 消火装置、 31 タンク、 32 取付口、
33 充填口、 33c 逆止弁、 34 蓋、 36 開弁機構、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池が収容された筐体に設けられる消火装置であって、
前記消火装置は、消火剤が充填されたタンクと、該タンクに接続され、火災時の熱により開放する開弁機構とを備えていることを特徴とする消火装置。
【請求項2】
前記タンクに消火剤を充填するための充填口を設けたことを特徴とする請求項1記載の消火装置。
【請求項3】
前記開弁機構は、前記タンクに二つ以上設けられることを特徴とする請求項1又は2記載の消火装置。
【請求項4】
火災時に、前記開弁装置の一方からは、気体状の消火剤が放出され、前記開弁装置の他方からは、液体状の消火剤が放出されることを特徴とする請求項3記載の消火装置。
【請求項5】
前記消火剤は、常温で液体で、火災時の熱で気体に変化するものであることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の消火装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−254906(P2011−254906A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130370(P2010−130370)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000233826)能美防災株式会社 (918)
【Fターム(参考)】