説明

消色可能な着色剤の製造方法および消色可能な着色剤

【課題】 呈色性化合物を用いた消去可能な着色剤であって、より強い発色が得られる着色剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】 呈色性化合物と、顕色剤と、誘電率が7以上の第1の極性溶媒と、トルエンおよびキシレンから選択される第2の極性溶媒とを含有する消去可能な着色剤の製造方法であって、第1の極性溶媒に顕色剤を添加して混合物を得る工程と、前記混合物に第2の極性溶媒を添加して、前記顕色剤を過飽和状態で存在させる工程とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消色可能な着色剤の製造方法および消色可能な着色剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用トナー、液体インク、インクリボン、筆記用具全てに対応することができ、しかも一度に大量に消去できる消色可能な着色剤が知られている。
【0003】
ロイコ色素からなる呈色性化合物と顕色剤とを含有する消色可能な画像形成材料において、溶媒の誘電率を特定範囲に規定することが、本発明者らによって提案されている。(例えば、特許文献1参照)。これにおいては、ロイコ色素溶液の発色強度が、溶媒の極性により制御できることを見出し、有機溶媒の最適な誘電率を特定の範囲内に規定して発色強度の向上を達成したものである。溶媒としては、誘電率が2.4以下の溶媒と誘電率が35以上の溶媒とを混合してなる、誘電率が5以上7以下の溶媒を用いることが記載されている。
【0004】
溶媒の誘電率を所定の範囲に規定したことによって、顕色剤が反応系中に取り込まれ難い低極性溶媒が用いられた場合でも、良好な発色を得ることが可能となった。顕色剤は、トナーの主成分である樹脂中にも取り込まれに難いことが知られており、こうした樹脂中においても、良好な発色を得ることが可能になった。
【0005】
しかしながら、ロイコ色素と顕色剤とを含有する画像形成材料の発色強度に対する要求はさらに高まりつつあり、より強い発色が求められている。
【特許文献1】特開2006−282680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、呈色性化合物を用いた消去色可能な着色剤であって、より強い発色が得られる着色剤およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様にかかる着色剤の製造方法は、呈色性化合物と、顕色剤と、誘電率が7以上の第1の極性溶媒と、トルエンおよびキシレンから選択される第2の極性溶媒とを含有する消去可能な着色剤の製造方法であって、第1の極性溶媒に顕色剤を添加して混合物を得る工程と、前記混合物に第2の極性溶媒を添加して、前記顕色剤を過飽和状態で存在させる工程とを具備することを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様にかかる着色剤は、誘電率が7以上の第1の極性溶媒およびトルエンおよびキシレンから選択される第2の極性溶媒を含有する混合溶媒と、前記混合溶媒に分散された呈色性化合物および過飽和状態の顕色剤を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、呈色性化合物を用いた消去色可能な着色剤であって、より強い発色が得られる着色剤およびその製造方法を提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0011】
本発明者らは、上述したように溶媒の誘電率を所定の範囲に規定することによって、発色強度を高めることを可能としている。すなわち、図1に示されるように、溶液の吸光度が媒体である溶媒の極性変化によって極大値を示すことを明らかにした。
【0012】
この図1の現象は、図2を参照して次のように説明することができる。図2の(I)には、ロイコ色素と顕色剤とが極性の低い溶媒中に添加された状態を示している。溶媒の極性が低い場合には、顕色剤は反応系中に取り込まれ難い。ここで、溶媒の極性を変化させるために極性の高い溶媒を加えると、図2の(II)に示されるように、極性の高い溶媒は顕色剤を反応系中に取り込む重要な役割を担い、顕色剤を反応系中に分散させると推測される。こうして、反応系における顕色剤の濃度が増加することによって、ロイコ色素と顕色剤とが相互作用する確立が高まり、発色強度を高めることが可能となった。
【0013】
さらに強い発色を得るには、呈色系化合物と顕色材とが反応する反応系中の顕色剤量を増加させることが必要である。本発明者らは、溶媒に対して溶解度を越える、すなわち過飽和状態で顕色剤を取り込むことによって、それが可能となることを見出した。
【0014】
本発明者らは、過飽和状態で顕色剤を取り込む手法を見出し、本発明を成すに至ったものである。
【0015】
本発明の実施形態にかかる着色剤には、呈色性化合物と、過飽和状態の顕色剤と、極性の大きな第1の極性溶媒と、極性の小さな第2の極性溶媒とが含有される。かかる着色剤を得るには、第1の極性溶媒に顕色剤を添加して混合物を得た後、第2の極性溶媒を加える。これによって、呈色性化合物と顕色剤とが分散される混合溶媒中に、顕色剤が完全に溶解して過飽和状態で存在するので、非常に強い発色を呈する着色溶液が速やかに得られる。本発明の実施形態にかかる着色剤を調製するにあたって、呈色性化合物は、いずれの段階で加えられても問題ないが、第2の極性溶媒中に含有されることが好ましい。これは、第1の極性溶媒に比べ第2の極性溶媒の方が、呈色性化合物との親和性がより高いためである。
【0016】
なお、過飽和状態とは、得られる着色剤が、第1の極性溶媒と第2の極性溶媒との混合溶媒に対する溶解度より多量の顕色剤を含有する状態である。例えば、所定の温度で第1の極性溶媒と第2の極性溶媒との混合溶媒100(g)に対して顕色剤が溶ける量がS(g)であった場合に、S(g)よりも多いS+α(g)が混合溶媒に完全に溶解する状態である。溶解度よりも多量の顕色剤を溶解させた場合に、混合溶液に顕色剤は残留しないことから過飽和状態であることがわかる。
【0017】
通常、第1の極性溶媒と第2の極性溶媒とを混合し、この予め混合した溶媒に対して呈色性化合物と顕色剤との混合物を添加する場合には、顕色剤が溶け残った懸濁液となる。すなわち、反応系中における顕色剤の量は媒体に対して飽和状態で存在し、過飽和状態にはならない。
【0018】
本発明の実施形態における強い発色の効果は、以下に述べるようなメカニズムによってもたらされたものと推測される。例えば、呈色性化合物と顕色剤との混合物に、まず極性の高い溶媒のみを作用させた状態は、図2の(III)に示す状態である。顕色剤は、呈色性化合物と相互作用するに充分な量で反応系に存在しているものの、極性の高い溶媒の過剰な溶媒和に起因して、顕色剤と呈色性化合物との相互作用が阻害されている。
【0019】
この状態に極性の低い極性溶媒(ベース溶媒)を添加すると、過剰に溶媒和した極性の高い溶媒の一部がベース溶媒によって捕獲され、顕色剤は、呈色性化合物との相互作用が可能な状態として反応系中に一気に放出される。その結果、本発明の実施形態においては、速やかに強い発色を得ることができるものと推測される。
【0020】
図3には、着色剤中における各成分の状態を模式的に示す。図3(a)は本発明の実施形態にかかる模式図であり、図3(b)は公知技術にかかる模式図である。図3(b)に示されるように、公知技術では、反応系中の顕色剤量が媒体に対する溶解度以下である。これに対し、本実施形態では、図3(a)に示されるように、反応系中の顕色剤量が媒体に対する溶解度を超える、すなわち顕色剤が過飽和状態で含有されている。
【0021】
こうした状態は、誘電率7以上の第1の極性溶媒に顕色剤を加えた後、トルエンまたはキシレンからなる第2の極性溶媒を加えるという本発明の実施形態にかかる方法によって、初めて得られたものである。
【0022】
以下、本発明の実施形態の着色剤に用い得る具体的な材料組成系を挙げる。
【0023】
呈色性化合物としては、ロイコ色素、具体的にはロイコオーラミン類、ジアリールフタリド類、ポリアリールカルビノール類、アシルオーラミン類、アリールオーラミン類、ローダミンBラクタム類、インドリン類、スピロピラン類、およびフルオラン類等の電子供与性有機物が挙げられる。
【0024】
より具体的には、クリスタルバイオレットラクトン(CVL)、マラカイトグリーンラクトン、2−アニリノ−6−(N−シクロヘキシル−N−メチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−3−メチル−6−(N−メチル−N−プロピルアミノ)フルオラン、3−[4−(4−フェニルアミノフェニル)アミノフェニル]アミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、2−アニリノ−6−(N−メチル−N−イソブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、2−アニリノ−6−(ジブチルアミノ)−3−メチルフルオラン、3−クロロ−6−(シクロヘキシルアミノ)フルオラン、2−クロロ−6−(ジエチルアミノ)フルオラン、7−(N,N−ジベンジルアミノ)−3−(N,N−ジエチルアミノ)フルオラン、3,6−Bis(ジエチルアミノ)フルオラン−γ−(4’−ニトロ)アニリノラクタム、3−ジエチルアミノベンゾ[a]−フルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アミノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−キシリジノフルオラン、3−(4−ジエチルアミノ−2−エソキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタライド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタライド、3−ジエチルアミノ−7−クロロアニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−7,8−ベンゾフルオラン、3,3−Bis(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタライド、3,6−ジメチルエソキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メソキシ−7−アミノフルオラン、DEPM、ATP,ETAC、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、クリスタルバイオレットカルビノール、マラカイトグリーンカルビノール、N−(2、3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、N−ベンゾイルオーラミン、ローダミンBラクタム、N−アセチルオーラミン、N−フェニルオーラミン、2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3−ジメチルインドリン、N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、8’−メトキシ−N−3,3−トリメチルインドリノベンゾスピロピラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−メトキシフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−ベンジルオキシフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、3,6−ジ−p−トルイジノ−4,5−ジメチルフルオラン−フェニルヒドラジド−γ−ラクタム、および3−アミノ−5−メチルフルオラン等などである。
【0025】
上述したような呈色性化合物は、単独でまたは2種以上を混合して用いることが可能である。呈色性化合物を適宜選択することによって多様な色の発色状態が得られることから、カラー対応も容易である。これらの中で、特に適している材料は、トリフェニルメタン系、フルオラン系、およびフェニル−インドール−フタライド系のカラーフォーマーである。
【0026】
顕色剤としては、例えば、フェノール類、フェノール金属塩類、カルボン酸金属塩類、ベンゾフェノン類、スルホン酸、スルホン酸塩、リン酸類、リン酸金属塩類、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステル金属塩類、亜リン酸類、および亜リン酸金属塩類等が挙げられる。これらを1種または2種以上混合して用いる。
【0027】
これらの中でも特に好適なのは、以下の材料である。すなわち、没色子酸、没色子酸メチル、没色子酸エチル、没色子酸n−プロピル、没色子酸i−プロピル、没色子酸ブチルなど没色子酸エステル、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸メチルなどジヒドロキシ安息香酸およびそのエステル、2,4−ジヒドロキシアセトフェノン、2,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,6−ジヒドロキシアセトフェノン、3,5−ジヒドロキシアセトフェノン、2,3,4−トリヒドロキシアセトフェノンなどヒドロキシアセトフェノン類、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,4,4’−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどヒドロキシベンゾフェノン類、2,4’−ビフェノール、4,4’−ビフェノールなどビフェノール類、4−[(4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,2,3−ベンゼントリオール、4−[(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,2,3−ベンゼントリオール、4,6−ビス[(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メチル]−1,2,3−ベンゼントリオール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビス(ベンゼン−1,2,3−トリオール)]、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビス(1,2−ベンゼンジオール)]、4,4’,4”−エチリデントリスフェノール、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレントリス−p−クレゾールなど多価フェノール類が挙げられる。これらの中で、特に適している材料は、没食子酸エステル系、ヒドロキシベンゾフェノン系、およびヒドロキシアセトフェノン系材料である。
【0028】
本発明の実施形態にかかる着色剤には、誘電率が7以上の第1の極性溶媒と、トルエンおよびキシレンから選択される第2の極性溶媒とが含有される。
【0029】
第1の極性溶媒としてはルイス塩基性溶媒を用いることができ、例えば、ケトン類、二トリル類、およびエーテル類が挙げられる。具体的には、アセトン、1,1−ジクロロアセトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、2−ウンデカノン、エチルメチルケトン、2−オクタノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、α,α−ジクロロアセトン、4−ヘプタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−メチルシクロヘキサノン、アセトニトリル、アクリロニトリル、イソブチロニトリル、スクシノニトリル、o−トルニトリル、1−ナフトニトリル、ブチロニトリル、プロピオノニトリル、ベンゾニトリル、ラクトニトリル、2,2’−ジクロロジエチルエーテル、およびテトラヒドロフランなどが挙げられる。また、アミド類やスルホキシド類、さらにはカーボネート類などを第1の極性溶媒として用いた場合も、同様の効果が期待できる。
【0030】
誘電率が7未満の極性溶媒は、顕色剤との親和性が低い。このため、反応系中における顕色剤の分散性を高めることができない。なお、溶媒の誘電率は、真空の静電容量をC0、絶縁体(溶媒)を挿入した場合の静電容量をCとしたとき、C/C0から得られる
したがって、本発明の実施形態にかかる着色剤においては、第1の極性溶媒の誘電率を7以上に規定した。なお、例えばヘキサン等のルイス塩基性溶媒以外の溶媒の場合には、顕色剤への適度な親和性を得ることが困難である。このため、溶媒和により顕色剤を反応系中に取り込むという効果は十分に得られない。
【0031】
第1の極性溶媒の誘電率が大きすぎる場合には、顕色剤との相互作用が強すぎて、第2の極性溶媒を添加したときに、速やかに顕色剤が放出されないおそれがあるので、その上限は70程度とすることが望まれる。
【0032】
第1の極性溶媒としては、アセトン(誘電率:20.7)、アセトニトリル(誘電率:37.5)、およびテトラヒドロフラン(誘電率:7.39)が特に好ましい。
【0033】
第2の極性溶媒は、トルエンおよびキシレンから選択される。トルエンおよびキシレンの誘電率は、いずれも芳香族性溶媒であり、分子内に芳香環を有する。このため、同様に分子内に芳香環を有する定色性化合物および顕色剤とが相互作用してなる発色体の生成後、速やかに安定化できるので効果的である。
【0034】
第1の極性溶媒は、第1の極性溶媒と第2の極性溶媒との合計の5〜15%の体積で用いられることが望まれる。第1の極性溶媒が少なすぎる場合には、顕色剤を反応系中に取り込む働きが低下するおそれがある。一方、第1の極性溶媒が多すぎる場合には、顕色剤への過剰な溶媒和が促進されるおそれがある。第1の極性溶媒は、溶媒の総量の8〜13%程度の体積で用いられることがより好ましい。
【0035】
また、第1の極性溶媒は、顕色剤のモル数の9〜40倍の量で用いることが望まれる。第1の極性溶媒が9モル当量未満の場合には、反応系に対する顕色剤の分散性が高まらない。一方、第1の極性溶媒が40モル当量を越える場合には、図2の(III)に示したような顕色剤への第1の極性溶媒の過剰な溶媒和効果によって、呈色性化合物と顕色剤との間の相互作用が妨げられる。いずれの場合も、充分な効果を得ることができない。第1の極性溶媒は、顕色剤のモル数の15〜30倍の量で用いることが、より好ましい。
【0036】
上述した成分に加えて、ビヒクル等を配合した場合には、本発明の実施形態にかかる着色剤を消色可能インクに応用することができる。ビヒクルとは展色料と呼ばれるワニス成分で、流動性や乾燥性を制御するために用いる。さらに、ビヒクルの機能を助ける目的で補助剤を5%以下の少量で加えてもよい。
【0037】
本発明の実施形態にかかる着色剤は、加熱することによって、あるいは消色用溶媒と接触させることにより消去(消色)することができる。
【0038】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、アザフタリド系ロイコ色素である3−(4−ジエチルアミノ2−ヘキシルオキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド(山田化学製ロイコ染料:Blue203)を40.1mg(7.4×10-5mol)、および顕色剤としての没食子酸エチルを60.1mg(3.0×10-4mol)収容した。
【0039】
ここに、まず第1の極性溶媒としてのアセトン(0.4ml)を加えると、淡紫色の懸濁液が得られた。次いで、第2の極性溶媒としてのトルエン(4.6ml)を加えると、暗青色(濃紺)溶液が速やかに得られた。
【0040】
ここで、溶液中には没食子酸エチルは残留せずに、完全に溶解した。このことから、本実施例の溶液中には、過飽和状態で顕色剤が存在することが確認された。
【0041】
次に、以下の方法により、着色溶液の光学濃度を求めた。まず、図4に示すように、遮光フィルム3で着色溶液2を覆い、色彩色差計1により透過度を測定した。色彩色差計1としては、ミノルタ製色彩色差計CR300を用いた。次いで、得られた透過度の逆数の常用対数を算出し、これを溶液の光学濃度とした。本実施例で得られた溶液の光学濃度は、1.55であった。
【0042】
より発色の強い溶液の方が透過度は低いため、光学濃度は高いほど、より発色強度が高い溶液であることが示される。
【0043】
(比較例1)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、実施例1と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を収容し、よく攪拌して混合溶媒を調製した。
【0044】
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、Blue203および没食子酸エチルを実施例1と同量収容し、先に調製した混合溶媒(5ml)を加えてよく攪拌した。
【0045】
室温で20分間攪拌すると、顕色剤は完全には溶解せず淡青色の懸濁液が得られた。
【0046】
顕色剤が残留し、完全には溶解しなかったことから、本比較例の溶液中に存在する顕色剤は過飽和状態に達しないことが確認された。シリンジフィルターを用いて不溶物を除去し、得られた青色溶液の光学濃度を前述と同様の手法により求めた。その結果、1.39であり、実施例1の1.55より低かった。
【0047】
(実施例2)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、トリフェニルメタン系ロイコ色素であるCVL(30.2mg,7.2×10-5mol)、および顕色剤としての没食子酸エチル(60.2mg,3.0×10-4mol)を収容した。
【0048】
ここに、実施例1と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を、実施例1と同様の手順で加えた結果、暗青色(濃紺)溶液が得られた。顕色剤が残留せず、完全に溶解したことから、本実施例の溶液中には、過飽和状態で顕色剤が存在することが確認された。
【0049】
実施例1と同様の手法により本実施例の溶液の光学濃度を測定したところ、1.38であった。
【0050】
(比較例2)
比較例1と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を用いて、同様の手法により混合溶媒を調製した。
【0051】
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、CVLおよび没食子酸エチルを同量収容し、先に調製した混合溶媒(5ml)を加えてよく攪拌した。
【0052】
室温で20分間攪拌すると、顕色剤が完全に溶解せず、淡青色の懸濁液が得られた。顕色剤が残留し、完全に溶解しなかったことから、本比較例の溶液中に存在する顕色剤は過飽和状態に達しないことが確認された。シリンジフィルターを用いて不溶物を除去し、得られた淡青色溶液の光学濃度を前述と同様の手法により求めた。その結果、0.99であり、実施例2の1.38より低かった。
【0053】
(実施例3)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、アザフタリド系ロイコ色素であるBlue203(70.4mg,1.2×10-4mol)、および顕色剤としてのエチル−3,4−ジヒドロキシベンゾエート(105.2mg,5.8×10-4mol)を収容した。
【0054】
ここに、実施例1と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を、実施例1と同様の手順で加えた結果、暗青色(濃紺)溶液が得られた。顕色剤が残留せず、完全に溶解したことから、本実施例の溶液中には、過飽和状態で顕色剤が存在することが確認された。
【0055】
実施例1と同様の手法により本実施例の溶液の光学濃度を測定したところ、1.53であった。
【0056】
(比較例3)
比較例1と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を用いて、同様の手法により混合溶媒を調製した。
【0057】
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、Blue203およびエチル−3,4−ジヒドロキシベンゾエートを実施例3と同量に収容し、先に調製した混合溶媒(5ml)を加えてよく攪拌した。
【0058】
室温で15分間良く攪拌すると、顕色剤は完全に溶解せず、淡青色の懸濁液が得られた。顕色剤が残留し、完全に溶解しなかったことから、本比較例の溶液中に存在する顕色剤は過飽和状態に達しないことが確認された。シリンジフィルターを用いて不溶物を除去し、得られた淡青色溶液の光学濃度を前述と同様の手法により求めた。その結果、1.44であり、実施例3の1.53より低かった。
【0059】
(実施例4)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、トリフェニルメタン系ロイコ色素であるCVL(30.4mg,7.2×10-5mol)、および顕色剤としての没食子酸エチル(60.0mg,3.0×10-4mol)を収容した。
【0060】
ここに、まず第1の極性溶媒としてのアセトン(0.4ml)を加えると、淡紫色の懸濁液が得られた。次いで、第2の極性溶媒としてのキシレン(4.6ml)を加えると、速やかに暗青色(濃紺)溶液が得られた。
【0061】
顕色剤が残留せず、完全に溶解したことから、本実施例の溶液中には、過飽和状態で顕色剤が存在することが確認された。
【0062】
実施例1と同様の手法により本実施例の溶液の光学濃度を測定したところ、1.38であった。
【0063】
(比較例4)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、実施例4と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を収容し、よく攪拌し混合溶媒を調製した。
【0064】
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、CVLおよび没食子酸エチルを実施例4と同量収容し、先に調製した混合溶媒(5ml)を加えてよく攪拌した。
【0065】
室温で20分間攪拌すると、顕色剤は完全に溶解せず、淡青色の懸濁液が得られた。顕色剤が残留し、完全に溶解しなかったことから、本比較例の溶液中に存在する顕色剤は過飽和状態に達しないことが確認された。シリンジフィルターを用いて不溶物を除去し、得られた淡青色溶液の光学濃度を前述と同様の手法により求めた。その結果、0.99であり、実施例4の1.38より低かった。
【0066】
(実施例5)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、アザフタリド系ロイコ色素であるBlue203(40.0mg,7.4×10-5mol)、および顕色剤としての没食子酸エチル(60.0mg,3.0×10-4mol)を収容した。
【0067】
ここに、まず第1の極性溶媒としてのアセトニトリル(0.65ml)を加えると、淡紫色の懸濁液が得られた。次いで、第2の極性溶媒としてのトルエン(4.35ml)を加えると、速やかに暗青色(濃紺)溶液が得られた。
【0068】
顕色剤が残留せず、完全に溶解したことから、本実施例の溶液中には、過飽和状態で顕色剤が存在することが確認された。
【0069】
実施例1と同様の手法により本実施例の溶液の光学濃度を測定したところ、1.57であった。
【0070】
(比較例5)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、実施例5と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を収容し、よく攪拌し混合溶媒を調製した。
【0071】
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、Blue203および没食子酸エチルを実施例5と同量収容し、先に調製した混合溶媒(5ml)を加えてよく攪拌した。
【0072】
室温で20分間良く攪拌すると、顕色剤は完全に溶解せず、青色の懸濁液が得られた。顕色剤が残留し、完全に溶解しなかったことから、本比較例の溶液中に存在する顕色剤は過飽和状態に達しないことが確認された。シリンジフィルターを用いて不溶物を除去し、得られた青色溶液の光学濃度を前述と同様の手法により求めた。その結果、1.51であり、実施例5の1.57より低かった。
【0073】
(実施例6)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、アザフタリド系ロイコ色素であるBlue203(40.3mg,7.4×10-4mol)、および顕色剤としての没食子酸エチル(60.0mg,3.0×10-4mol)を収容した。
【0074】
ここに、まず第1の極性溶媒としてのテトラヒドロフラン(0.4ml)を加えると、濃青色溶液が得られた。次いで、第2の極性溶媒としてのトルエン(4.6ml)を加えると、速やかに青色溶液が得られた。
【0075】
顕色剤が残留せず、完全に溶解したことから、本実施例の溶液中には、過飽和状態で顕色剤が存在することが確認された。
【0076】
実施例1と同様の手法により本実施例の溶液の光学濃度を測定したところ、1.43であった。
【0077】
(比較例6)
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、実施例6と同様の第1の極性溶媒および第2の極性溶媒を収容し、よく攪拌し混合溶媒を調製した。
【0078】
磁気攪拌子を付したスクリューバイアル(20ml)に、Blue203および没食子酸エチルを実施例6と同量収容し、先に調製した混合溶媒(5ml)を加えてよく攪拌した。
【0079】
室温で15分間良く攪拌すると、顕色剤は完全に溶解せず、淡青色の懸濁液が得られた。顕色剤が残留し、完全に溶解しなかったことから、本比較例の溶液中に存在する顕色剤は過飽和状態に達しないことが確認された。シリンジフィルターを用いて不溶物を除去し、得られた淡青色溶液の光学濃度を前述と同様の手法により求めた。その結果、1.34であり、実施例6の1.43より低かった。
【0080】
比較例、すなわち予め第1の極性溶媒と第2の極性溶媒を混合した溶媒に呈色性化合物および顕色剤を添加する製造する場合、呈色性化合物、顕色剤、第1の極性溶媒および第2の極性溶媒として実施例と同様の材料が用いられた場合であっても、得られる着色剤は発色強度を高めることができない。第1の極性溶媒に顕色剤を溶解した後、第2の極性溶媒を加えるという本発明の実施形態にかかる方法によって、発色強度が大幅に改善された着色剤が得られることが示された。
【0081】
以上記述したように、本発明の実施形態にかかる方法により製造される着色剤は、得られる画像の発色強度を大幅に改善することができるため、その工業的価値は大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】極性溶媒の体積と発色強度との関係を示すグラフ図。
【図2】着色剤中における発色のメカニズムを示す模式図。
【図3】着色剤中における各成分の状態を示す模式図。
【図4】着色溶液の透過度の測定方法を説明する図。
【符号の説明】
【0083】
1…色彩色差計; 2…着色溶液; 3…遮光フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈色性化合物と、顕色剤と、誘電率が7以上の第1の極性溶媒と、トルエンおよびキシレンから選択される第2の極性溶媒とを含有する消去可能な着色剤の製造方法であって、
第1の極性溶媒に顕色剤を添加して混合物を得る工程と、
前記混合物に第2の極性溶媒を添加して、前記顕色剤を過飽和状態で存在させる工程と
を具備することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第1の極性溶媒がアセトンであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
誘電率が7以上の第1の極性溶媒およびトルエンおよびキシレンから選択される第2の極性溶媒を含有する混合溶媒と、前記混合溶媒に分散された呈色性化合物および過飽和状態の顕色剤を含有することを特徴とする消色可能な着色剤。
【請求項4】
前記第1の極性溶媒がアセトンであることを特徴とする請求項3に記載の消色可能な着色剤。
【請求項5】
前記呈色性化合物がクリスタルバイオレットラクトンであることを特徴とする請求項3および4いずれか1項に記載の消色可能な着色剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247935(P2008−247935A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87195(P2007−87195)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】