説明

消防服素材

【課題】高い断熱性および耐熱性を有する着心地の良い消防服素材であって、特に厳しい防火服性能基準に適合する消防服素材を提供する。
【解決手段】消防服素材における遮熱フェルト層が、高耐熱性の無機繊維40〜70%と、熱溶融温度または熱分解温度が約350℃以上である難燃性の有機繊維5〜55%と、低融点の有機繊維5〜25%とからなり、これらを均一に混綿してウェブを形成し、得たウェブをニードルパンチ処理および熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い断熱性および耐熱性を有する着心地の良い消防服素材に関し、一般の火災現場で着用する防火服および厳しい断熱性が要求される危険物火災などの高温下の災害現場で着用する耐熱服の仕様に適合しうる消防服素材に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における火災の過半数は建物火災であり、平成15年で年間3万件近く発生し、火災による死者は約2200人に達し、火災損害額も約1300億円に上る。火災現場の熱環境は、一般的には4つに区分され、クラス1と2に消防士にとって比較的低いリスクの環境であっても、活動時間が増えるにつれ、防火服内の温度が上昇し、火傷などのリスクが高まる。高温環境であるクラス3は通常の消火活動の上限温度であり、温度は260℃以下で活動限界は5分である。クラス4の熱環境は、フラッシュオーバー時に遭遇する熱環境であり、消防士は極めて短時間で退避しなければならない。
【0003】
消防活動は、防火服着用の下で行われ、該防火服の耐熱性が十分にあっても、内部の熱環境によっては重篤な火傷を被り、例えば、皮膚表面温度が56℃になると10秒程度の暴露で水ふくれが生じる。過酷な環境で消防活動を行うために、消防隊員は20〜30kgに達する個人装備品を身につけて消火活動を行い、個人用装備品には、大半のものに公的な標準が存在する。防火服には、ヨーロッパ型に準拠した財団法人日本防炎協会の防火服性能基準がある。この基準に適合する防火服は、一般に、外衣、透湿防水層、遮熱層からなる3層構造であり、この基準ではクラス3の火災の上限熱環境に辛うじて対応できるレベルである。よりシビアな基準を満足できる耐熱服は、一般防火服よりも活動性および快適性がより劣悪になってしまう。
【0004】
防火服において、外衣は、耐炎性、耐熱性、耐久性などが要求され、特開平7−194720号に開示するように、メタアラミド繊維またはパラアラミド繊維からなる。透湿防水層(モイスチヤーバリヤ)は、消化活動中に遮熱性を維持するために、耐炎性、耐熱性、防水性、透湿性が要求される。また、防火服の遮熱性は、主に断熱層の空気層によって維持されるため、例えば、特開昭60−155445号に開示する丸編ニットまたは特開平7−173703号に開示するフェルト材のように、断熱層に多量の空気を含む繊維素材を使用することが多い。
【特許文献1】特開平7−194720号公報
【特許文献2】特開昭60−155445号公報
【特許文献3】特開平7−173703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
防火服素材は、断熱性および耐熱性さらに長期安定性に優れていることはもとより、耐薬品性や絶縁性に良好で比較的軽量であり、着心地の面からは軽くて伸度があることなどが望ましく、日本の場合には5年から10年間の使用が前提となるため、特性が長期間維持できることも重要である。この点から、防火服の遮熱層は、空気を多く含んで断熱性が高いだけでなく、軽くて伸度が高いことが望ましい。
【0006】
これに対し、特開昭60−155445号は、防炎加工された羊毛繊維と芳香族ポリアミド系の難燃性繊維との混紡糸で編成した丸編ニットの断熱層からなり、その遮熱性の基になる高温断熱性が比較的低いうえに、重くて伸度が少ないという点で不十分であった。一方、特開平7−173703号は、フェルト材を細長い杆状や紐状に成形したり、フェルトシートをほぼ正方形に切り分けたパッドを千鳥状に配列したり、耐熱性繊維をラフに紡いで縄状に撚って形成することを開示しているが、該フェルト材の組成に関する開示は存在せず、該フェルト材の高温断熱性が良好か否かは不明であった。
【0007】
本発明は、消防服における従来の遮熱層の断熱性をより改善するために提案されたものであり、高い高温断熱性および耐熱性を達成する遮熱フェルト層によって熱的安全性の高い消防服素材を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、遮熱フェルト層について生地重量が比較的軽く、消火活動に応じて屈曲が容易で着心地が快適な消防服素材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る消防服素材は、少なくとも耐炎性および耐熱性を有する外衣と、該外衣の内側に配置する遮熱フェルト層とを有する。この遮熱フェルト層は、高耐熱性の無機繊維40〜70%と、熱溶融温度または熱分解温度が約350℃以上である難燃性の有機繊維5〜55%と、低融点の有機繊維5〜25%とからなり、これらを均一に混綿してウェブを形成し、得たウェブをニードルパンチ処理および熱処理している。この遮熱フェルト層を製造する際に、ウェブを形成してから直ちにニードルパンチ処理しても、該ニードルパンチ処理の前に熱ロールプレスで厚みを調整してもよい。
【0009】
本発明で用いる遮熱フェルト層において、高耐熱性の無機繊維が、シリカ繊維、バサルト(玄武岩)繊維、Sガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ホウ素繊維、アルミナシリケート繊維、チタン酸アルカリ繊維、セラミック繊維の単独または混合体であり、特にシリカ繊維であると好ましい。
【0010】
本発明で用いる遮熱フェルト層において、難燃性の有機繊維は、メタアラミド繊維またはパラアラミド繊維であると好ましい。また、低融点の有機繊維が、芯鞘型低融点ポリエステル繊維であると好ましい。
【0011】
本発明において、消防服素材は、各種の火災現場で着用する防火服、耐熱服および警防隊作業服を包含する消防服の用途だけでなく、高温環境で着用するあらゆる衣料に適用することができる。したがって、本発明に係る消防服素材は、いわゆる消防服用のほかに、レスキュー隊や自衛隊関連で用いる防火衣料、高温作業環境で用いる民生用の防火衣料などとして裁断・縫製することも当然可能である。
【0012】
本発明を図面によって説明すると、図1は、消防服素材1における素材構成の一例を示す。消防服素材1は、少なくとも耐炎性および耐熱性を有する外衣2と、該外衣の内側に配置する遮熱フェルト層3とからなる。遮熱フェルト層3を外衣2に直接縫い付けるかまたは裏面を平滑化処理してから裁断・縫製すれば、消防外衣として通常の制服(消防士衣服)の上に重ねて着用したり、消防服における警防隊作業服としても使用可能である。
【0013】
消防服素材1は、一般の火災現場で着用する防火服5(図2)に裁断・縫製するならば、耐炎性などを有する外衣2と、耐炎性と耐熱性などを有する透湿防水層7と、遮熱フェルト層3と、裏地8とを備えることが望ましい。消防服素材1を一体構成するには、外衣2、透湿防水層7、遮熱フェルト層3、裏地8とを重ね合せ、型紙に合せて裁断した後に、各素材を互いに接着することなく縫製する。また、航空機火災などの高温下の災害現場で着用する耐熱服10(図3)では、外衣2の表面において、アルミニウム箔を耐熱性接着剤でローラ圧着したり、またはアルミニウムを真空蒸着することによって熱反射層12をさらに形成し、この構成も本願発明に包含している。この表面加工を一般にアルミナイズドと称しており、表面の熱アルミナイズド反射層12によって、輻射熱を反射して熱防護性を高める。
【0014】
消防服素材1を用いて消防服の着装状態を説明すると、図2に示す防火服5では、通常の制服(消防士衣服)の上に、消防服上衣16を着るとともに消防ズボン18を穿き、さらに消防ヘルメット20、消防手袋22および消防靴24を着用する。一方、図3は、航空機火災や危険物火災などの高温下の災害現場で着用する消防服つまり耐熱服10を身につけたところを示し、消防士の全身を耐熱服10で隠蔽する。この消防士は、消防士衣服の上に、アルミナイズド消防上着25を着るとともにアルミナイズド消防ズボン26を穿き、さらにアルミナイズド消防フード28、アルミナイズド消防手袋30および消防靴32を着用する。
【0015】
消防服素材1において、外衣2は、耐炎性、耐熱性、耐久性、力学的強度などが要求され、主にアラミド繊維、PBO繊維、ポリアミド・イミド繊維、PBI繊維、ザプロ加エウールなどからなり、これらの繊維を混紡して使用することが多い。外衣2の布組織は、主に通常の織物であり、軽量化を図るためにニット製品を使用することもある。
【0016】
透湿防水層7は、消化活動中に遮熱性を維持するために、耐炎性、耐熱性に加えて防水性、液体流下性、透湿性、耐久性が要求される。透湿防水層7は、水を含む液体が侵入することによる蒸気火傷を防止するために、例えば、ガラス繊維やアラミド繊維の布地にネオプレンゴムを被覆したコーテッドファブリックからなる防水性布地である。近年では、透湿防水層7として、ポリテトラフルオロエチレン薄膜を積層した布地(例えば、商標名:ゴアテックスまたはテトラテックス)も使用され、この透湿防水層は、着用者の汗の蒸発発散効果を促進し、熱的ストレスを効果的に減少させる。
【0017】
裏地8は、通常、綿、麻、羊毛または合成繊維などの耐熱性布地からなり、単層または複数層からなる。消防服素材1において、裏地8は遮熱フェルト層と積層して一体化させたり、該裏地を省略することも可能である。
【0018】
遮熱フェルト層3は、1000℃以上のガスバーナーによる熱照射に対して、5分以上耐えることを要する。遮熱フェルト層3に関して、主成分である高耐熱性の無機繊維は、全量の40〜70重量%であることが望ましい。高耐熱性の無機繊維は、全量の40重量%未満であると、高い耐熱・断熱性に関して防火服性能基準に適合させることが困難になる。一方、全量の40重量%以上使用すると、防火服性能基準に適合させるので容易であり、しかも経済的に有利であるが、70重量%を超えると遮熱フェルト層3の屈曲性を欠き、消防服として必要な熱防護性および運動性を欠くことになる。
【0019】
遮熱フェルト層3に関して、主成分である高耐熱性の無機繊維は、高温強度を約1000℃で維持することが望ましい。熱溶融温度について、Sガラスは1493℃およびEガラスは1121℃であるが、Eガラス繊維は約800℃で高温強度が急激に低下するので、ガラス繊維のうちでSガラス繊維だけが使用可能である。また、ニッケル繊維、タングステン繊維やチタン繊維などの金属繊維および炭素繊維は、高い熱溶融温度の点では使用可能であっても、金属繊維および炭素繊維は一般に熱伝導率が高いので、遮熱フェルト層3の断熱性が低くなってしまう。
【0020】
したがって、好適な高耐熱性の無機繊維として、シリカ繊維、バサルト繊維、Sガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ホウ素繊維、アルミナシリケート繊維、チタン酸アルカリ繊維、セラミック繊維の単独または混合体が例示できる。金属繊維は、高耐熱性の無機繊維の一部としてならば、遮熱フェルト層3において少量添加できる可能性が残っている。この無機繊維について、特に、シリカ繊維を主体として用いることが好ましい。
【0021】
シリカ繊維は、シリカガラス繊維とも称し、原繊維から可溶性成分や有機分を除去した後に焼成する。例えば、シリカ繊維として、Eガラス、ソーダシリカガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライム系ガラスなどの短繊維をブロー法によって製造し、この短繊維を酸処理して可溶性成分を溶出してから焼成してシリカ骨格を形成させると、例えばシリカ分は約95%以上に達する。一般に、シリカ繊維の原繊維として、アルカリ含有率1%以下のボロンシリケートガラスであるEガラス繊維を用いると好ましい。
【0022】
遮熱フェルト層3において、熱溶融温度または熱分解温度が約350℃以上である難燃性の有機繊維が5〜55重量%存在すると、遮熱フェルト層3に適切な屈曲性と柔軟性および嵩高性を付与できる。また、カード通過性などによるカード形成度合いが良くなり、原料の歩留まりが向上する。
【0023】
難燃性の有機繊維は、高耐熱性の無機繊維および低融点の有機繊維と共存させ、5〜55重量%添加することが望ましい。この際に、難燃性の有機繊維が全量の5重量%未満であると、遮熱フェルト層3に適当な屈曲性と柔軟性を付与できず、一方、全量の55重量%を超えると遮熱フェルト層3の耐熱性が低下し、厳しい防火服性能基準に適合させることが困難になる。
【0024】
好適な難燃性の有機繊維として、メタアラミド繊維、パラアラミド繊維、メラミン繊維、PBO繊維、PBI繊維、ポリベンゾチアゾール繊維、ポリアリレート繊維、PES繊維、LCP繊維、PPS繊維、PI繊維、PEI繊維、PEEK繊維、PEK繊維、PEKK繊維またはPAI繊維の単独または混合体が例示できる。メラミン繊維とは、一般に、BASF社製のバソフィルファイバー(商品名)を意味し、該繊維は難燃性でTPPやTHLテストにおいて高い数値を出し、非常に遮熱性があるために1層の薄いサーマルライナーと組み合わせ可能である。難燃性の有機繊維について、特に、メタアラミド繊維またはパラアラミド繊維を用いると好ましい。
【0025】
遮熱フェルト層3の製造に際し、ウェブの毛羽立ちを押さえるために低融点の有機繊維を全量の5〜25重量%を均一に混綿することが望ましく、特に5〜15重量%を混綿すると好ましい。低融点の有機繊維は、次工程の熱処理によって溶融されてウェブの毛羽を包み込み、毛羽立ちおよび毛羽脱落を防止するので、この熱処理は該有機繊維の融点よりも高い温度で行うことを要する。この低融点の有機繊維が5重量%未満であると、毛羽立ちや毛羽脱落によるチクチク感が出てしまい、一方、25重量%を超えると、耐熱性が低下するとともに断熱試験時に発煙やガスが発生しやすく、防火服性能基準に不合格になるおそれがある。
【0026】
低融点の有機繊維は、一般に、融点が110〜150℃前後であるポリエステル、ポリプロピレン、アクリルのような熱可塑性繊維またはこれらの複合繊維などである。好ましくは、低融点の有機繊維と高融点の有機繊維との複合繊維が芯鞘型や並列型などの2層型であり、熱処理時の加熱温度で低融点の有機繊維だけが溶融し、その温度で高融点の有機繊維は形状を維持できるから、繊維自体の原形が保たれることでウェブの強度を維持できる。低融点の有機繊維について、特に、芯鞘型低融点ポリエステル繊維を用いると好ましい。
【0027】
前記のウェブには、所望に応じて、液状の撥水剤を添加することが可能であり、該撥水剤を乾燥して撥水性を付与してもよい。この撥水剤は、マット化の前に添加し、該撥水剤を熱処理時に乾燥して撥水性を付与すればよい。用いる撥水剤は無機および/または有機の市販品であり、例えば、水性のフッ素樹脂である。この撥水加工は、スプレー、ロールコーティングまたはディッピングなどのいずれかによって行う。
【0028】
遮熱フェルト層3は、無機繊維および有機繊維からなる原料繊維について、あらかじめ撥水剤および/または難燃剤などで薬剤処理してから、カーディングによってウェブを形成することも可能である。例えば、撥水加工を行う場合、原料繊維をあらかじめ薬剤処理しておくと、ウェブを後から薬剤処理する場合よりも嵩高な素材を得ることができる。また、不燃性を付与する場合には、低融点の有機繊維をあらかじめ難燃剤で処理することが好適であり、この処理によって、遮熱フェルト層3の不燃性が改良される。ここで用いる薬剤は特に限定されず、水系または溶剤系のフッ素系やシリコーン系などの撥水剤、リン窒素系などの難燃剤の水系ディスパージョンを用いることができ、加工性の点から水系のものを用いると好ましい。原料繊維を薬剤処理する際には、例えば、市販の水系のフッ素系撥水剤および/またはリン系難燃剤などをスプレーなどによって所定量付与した後に、原料繊維を十分乾燥させ、カード機に通してウェブを完成させる。この際に、原料繊維の乾燥が不十分であると、カード性が不良になるので注意すべきである。
【0029】
遮熱フェルト層3は、カーディングによってウェブを形成し、所望に応じて熱ロールプレスでウェブの厚みを調整してから、ニードルパンチ処理および熱処理を行って厚さを0.5〜10mmにすると好ましい。この際に、遮熱フェルト層3の目付は、50〜300g/mであり、好ましくは70〜150g/mである。遮熱フェルト層3の厚さが0.5mm未満であると、厚みが薄すぎるので遮熱フェルト層3に所定の高温断熱性を付与するのが困難になり、厚さが10mmを超えると、遮熱フェルト層3が曲げにくくなるので縫製作業が困難になり、消防服の着心地が低下する。
【0030】
得た遮熱フェルト層3は、前述した原料繊維の予備的難燃処理の代わりに、その片面または両面に難燃性の樹脂をさらに付与して乾燥してもよい。ここで用いる樹脂は特に限定されず、リン系、リン窒素系、シリカ系などの難燃剤を含むポリエステル樹脂やアクリル樹脂であればよい。これらの難燃性の樹脂を付与する方法は特に限定されず、水系のディスーパジョンであればスプレー法やコーティング法で付与し、粉体であればスキャタリング法で付与することができる。樹脂付与量は、0.5〜30g/m程度が好ましく、樹脂付与量が0.5g/m未満では不燃性が改善されず、一方、30g/mを超えると重量が重くなるうえにコスト高になってしまう。
【0031】
遮熱フェルト層3は、より多量の空気を含ませるために表面を凹凸状に成形したり、スペーサ(図示しない)を介在させて適宜の間隙を設けるようにしてもよい。また、遮熱フェルト層3のへたりを防止するために、緻密なニードルパンチ処理によって、遮熱フェルト層3の構成繊維を可能な限り厚さ方向に配向させると好ましい。
【0032】
また、遮熱フェルト層3の表面にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の微多孔膜を貼り付けると、該遮熱フェルト層に透湿防水性を付与することができ、これによって透湿防水層7が不要になり、より薄くて軽い素材を得ることができるので好ましい。用いるPTFE微多孔膜については特に限定されず、例えば、ポアサイズ1〜30μm、厚さ30〜100μmの膜を好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る消防服素材は、遮熱フェルト層の主成分が高耐熱性の無機繊維であって有機成分が少なく、遮熱フェルト層に多量の空気を含むことにより、比較的安価で高温断熱性が高いうえにほぼ完全に不燃性であり、防火服や耐熱服などの消防服に関する財団法人日本防炎協会の厳しい防火服性能基準に適合している。本発明の消防服素材は、遮熱フェルト層が比較的軽量であっても防火服性能基準に十分に適合し、熱的安全性が高くなって必要な熱防護性および運動性を確保できるとともに、熱的な不快さと熱中症などの事故を低減させ、過酷な作業環境において消防活動を安全に行うことができる。
【0034】
本発明の消防服素材は、遮熱フェルト層において、比較的剛直な高耐熱性の無機繊維に対して比較的柔軟な難燃性の有機繊維を添加することにより、着用時に消防服を屈曲させることが容易になる。この遮熱フェルト層では、低融点の有機繊維を少量均一に混綿することにより、ニードルパンチ処理と熱処理だけで全体が均一な遮熱フェルト層に加工でき、消防服の使用時に構成繊維が折損することが少なく、イリテート感が無くなって消防服の着心地が良化する。本発明の消防服素材は、柔軟で扱いやすい遮熱フェルト層を有し、縫製加工時や消防服の着用時に裁断したり屈曲させても繊維脱落が少なく、縫製作業の環境を悪化させることも少ない。
【実施例1】
【0035】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下では、消防服素材1において、特に重要な遮熱フェルト層3の製造について説明する。
【0036】
高耐熱の無機繊維として51mmにカットしたシリカ繊維を60重量%、難燃性の有機繊維としてメタアラミド繊維(商品名:ノーメックス、デュポン製)を30重量%、さらに芯鞘型低融点ポリエステル繊維(商品名:サフメット、東レ製)を10重量%の割合で配合する。カーディングによって目付120g/mのウエブを形成し、該ウエブを130℃で間隙2mmにセットされた2本の熱ロールの間を通した後に、ニードルパンチングによって繊維を絡合させ、さらに180℃で2分間熱処理することにより、厚さ2mmの不織布を得た。
【0037】
得た不織布である遮熱フェルト層3は、下記に基づいてその耐熱性および断熱性を評価したところ、いずれも合格レベルであった。
【0038】
耐熱性および断熱性の評価について
10cm角以上の大きさの不織布サンプルを水平な架台の上に置き、ガスバーナーの炎を高さ50〜80mm、内炎の高さが10〜15mmとなるように調整して、この炎の約10mmの部分が架台上サンプルの下面に当たるように架台あるいはガスバーナーの高さを調整する。架台上不織布サンプルのほぼ中央にガスバーナーの炎を5分間当てる。この5分間の間に穴あきがなければ耐熱性は○と判定し、少しでも穴が開いたら×と判定する。また、このときの不織布背面に手をかざすことができれば断熱性を○、できなければ×と判定する。
【実施例2】
【0039】
高耐熱の無機繊維として51mmにカットしたシリカ繊維を50重量%、難燃性有機繊維としてメタアラミド繊維(商品名:ノーメックス)を35重量%、芯鞘型低融点ポリエステル繊維(商品名:サフメット)を15重量%の割合で配合する。カーディングによって目付120g/mのウエブを形成し、ニードルパンチングにて繊維を絡合させ、180℃で2分間熱処理した後、カレンダーロールにて厚みを調整し、厚さ1.5mmの不織布を得た。
【0040】
得た不織布である遮熱フェルト層3は、実施例1と同様に、その耐熱性および断熱性を評価したところ、いずれも合格レベルであった。
【実施例3】
【0041】
実施例1で得た遮熱フェルト層3の表面に、PTFE微多孔膜(商品名:ポアフロン、住友電工ファインポリマー製)を熱融着性不織布を介して貼り付ける。PTFE膜を貼り付けた遮熱フェルト層3は、耐熱性および断熱性を維持したままで透湿防水性能も有する素材になった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る消防服素材の一例を示す概略断面図である。
【図2】一般の火災現場で着用する消防服つまり防火服を示す斜視図である。
【図3】航空機火災や危険物火災などの高温下の災害現場で着用する消防服つまり耐熱服を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 消防服素材
2 外衣
3 遮熱フェルト層
5 防火服
7 透湿防水層
8 裏地
10 耐熱服

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも耐炎性および耐熱性を有する外衣と、該外衣の内側に配置する遮熱フェルト層とを有する消防服素材であって、遮熱フェルト層が、高耐熱性の無機繊維40〜70%と、熱溶融温度または熱分解温度が約350℃以上である難燃性の有機繊維5〜55%と、低融点の有機繊維5〜25%とからなり、これらを均一に混綿してウェブを形成し、得たウェブをニードルパンチ処理および熱処理している消防服素材。
【請求項2】
ウェブを形成した後に、ニードルパンチ処理の前に熱ロールプレスで厚みを調整する請求項1記載の消防服素材。
【請求項3】
遮熱フェルト層において、高耐熱性の無機繊維が、シリカ繊維、バサルト繊維、Sガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ホウ素繊維、アルミナシリケート繊維、チタン酸アルカリ繊維、セラミック繊維からなる群から少なくとも1種選択される請求項1記載の消防服素材。
【請求項4】
高耐熱性の無機繊維がシリカ繊維である請求項3記載の消防服素材。
【請求項5】
遮熱フェルト層において、難燃性の有機繊維が、メタアラミド繊維またはパラアラミド繊維である請求項1記載の消防服素材。
【請求項6】
遮熱フェルト層において、低融点の有機繊維が、芯鞘型低融点ポリエステル繊維である請求項1記載の消防服素材。
【請求項7】
遮熱フェルト層にポリテトラフルオロエチレンの微多孔膜を貼り付けている請求項1記載の消防服素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−266841(P2008−266841A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−112631(P2007−112631)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(000136413)株式会社フジコー (26)
【Fターム(参考)】