説明

液・液分離方法及び(メタ)アクリレートの製造方法

【課題】上層と下層との分離を精度良く行うことができ、得られる製品の色調や不純物などについての品質を向上させることができると共に、分離を速やかに行うことができて生産性を向上させることができる液・液分離方法及び(メタ)アクリレートの製造方法を提供する。
【解決手段】液・液分離方法は、中和槽14内に比重の小さい(メタ)アクリレートと、それより比重の大きい水酸化ナトリウム水溶液とを投入して撹拌後静置し、上層と下層とに分けた後、下層液を抜き出し、(メタ)アクリレートを水層と分離することによって行われる。この場合、上層と下層との界面21の位置を界面計20で測定し、その界面21の位置が一定になったときに下層液を抜き出す。さらに、抜き出された下層液の比重を比重計22で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアクリル酸と多価アルコールとの減圧下におけるエステル化反応による反応生成液の中和及び水洗を行う場合に適用される液・液分離方法及び(メタ)アクリレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、(メタ)アクリレートは、反応器で(メタ)アクリル酸とアルコールとを酸触媒及び有機溶剤の存在下にエステル化反応させ、反応生成液を中和槽でアルカリ水溶液にて中和処理及び水洗処理を施し、中和処理液を脱溶剤槽で脱溶剤処理を施すことによって製造される。
【0003】
この場合、中和処理及び水洗処理の際には、一般に中和槽の側面に確認用サイドグラスが設置され、中和処理及び水洗処理において有機層(上層)と水層(下層)との分離状態を目視確認できるようになっている。或いは、中和槽に確認用サイドグラスを設置することなく、十分な静置時間をとった後に分離操作を行うようになっている。
【0004】
また、有機層と水層との分離性を向上させるために、反応液にカチオン性界面活性剤を添加する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この場合、中和処理及び水洗処理における分離が良好になり、分離時間が短縮される。
【特許文献1】特開2001−48831号公報(第2頁、第5頁及び第6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の確認用サイドグラスを用いる方法では、分離状態の確認を目視で行うため、界面付近の分離具合を正確に把握することが難しく、分離が不十分になると分離後の製品に不純物が混入したり、製品が着色したりしてその品質が低下する。また、分離を把握するまでに時間を要すると共に、作業者が常に監視する必要があるため生産性が低下するという問題があった。さらに、特許文献1に記載されている方法では、カチオン性界面活性剤を添加することによって分離自体は良好になるものの、分離を確認する手段は上記従来の方法であるため上記と同様の問題がある。しかも、そのような添加物が製品に残留して製品の品質が低下しないように後工程における条件を変更する必要が生じたりするという問題がある。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、上層と下層との分離を精度良く行うことができ、得られる製品の色調や不純物などについての品質を向上させることができると共に、分離を速やかに行うことができて生産性を向上させることができる液・液分離方法及び(メタ)アクリレートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の液・液分離方法は、収容容器内に比重の小さい第1の液体と、それより比重の大きい第2の液体とを投入して静置し、上層と下層とに分けた後、下層液を抜き出し、第1の液体と第2の液体とを分離する液・液分離方法であって、前記上層と下層との界面の位置を界面計で測定し、その界面の位置が一定になったときに下層液を抜き出すと共に、抜き出された下層液の比重を比重計で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了することを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明の液・液分離方法は、請求項1に係る発明において、前記第1の液体は(メタ)アクリレートであり、第2の液体はアルカリ水溶液、水又はアルカリ水溶液以外の無機水溶液(以下、単に無機水溶液という)であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載の発明の液・液分離方法は、請求項2に係る発明において、前記収容容器には(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステル化反応液を投入すると共に、アルカリ水溶液を投入して中和処理を行った後、前記液・液分離を行い、次いで収容容器内に残留する上層液に水又は無機水溶液を投入して水洗処理を行った後、前記液・液分離を行うことを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の発明の液・液分離方法は、請求項3に係る発明において、前記アルコールは多価アルコールであることを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明の(メタ)アクリレートの製造方法は、(メタ)アクリル酸、アルコール、酸触媒及び有機溶剤を反応器に供給し、(メタ)アクリル酸とアルコールとを酸触媒及び有機溶剤の存在下にエステル化反応させ、反応生成液をアルカリ水溶液にて中和処理及び水洗処理を行う(メタ)アクリレートの製造方法において、中和処理及び水洗処理において、上層の反応生成液と、下層のアルカリ水溶液、水又は無機水溶液の界面の位置を界面計で測定し、その界面の位置が一定になったときに下層液を抜き出すと共に、抜き出された下層液の比重を比重計で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了することを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に記載の発明の(メタ)アクリレートの製造方法は、前記アルコールは多価アルコールであることを特徴とするものである。
なお、本発明では、アクリレート又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと表し、アクリル酸又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の液・液分離方法では、上層と下層との界面の位置を界面計で測定し、その界面の位置が一定になったときに下層液を抜き出すため、界面での分離精度を高めることができる。さらに、抜き出された下層液の比重を比重計で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了するため、液・液分離の終了時点を明確にすることができる。従って、上層と下層との分離を精度良く行うことができ、得られる製品の色調や不純物などについての品質を向上させることができると共に、分離を速やかに行うことができて生産性を向上させることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明の液・液分離方法では、第1の液体は(メタ)アクリレートであり、第2の液体はアルカリ水溶液、水又は無機水溶液であることから、上層を形成する(メタ)アクリレートと、下層を形成するアルカリ水溶液、水又は無機水溶液との分離において、請求項1に係る発明の効果を発揮させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明の液・液分離方法及び請求項5の(メタ)アクリレートの製造方法においては、収容容器には(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステル化反応液を投入すると共に、アルカリ水溶液を投入して中和処理を行った後、前記液・液分離を行い、次いで収容容器内に残留する上層液に水又は無機水溶液を投入して水洗処理を行った後、前記液・液分離を行うものである。このため、(メタ)アクリレートの中和処理及び水洗処理において、請求項2に係る発明の効果を発揮させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明の液・液分離方法及び請求項6の(メタ)アクリレートの製造方法においては、前記アルコールが多価アルコールであることから、請求項3に係る発明の効果に加えて、粘度が高く分離の難しい多官能(メタ)アクリルエステルの分離操作を効率良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良と思われる実施形態につき詳細に説明する。
本実施形態における液・液分離方法は、収容容器内に比重の小さい第1の液体と、それより比重の大きい第2の液体とを投入して静置し、上層と下層とに分けた後、下層液を抜き出し、第1の液体と第2の液体とを分離する方法である。その場合、前記上層と下層との界面の位置を界面計で測定し、その界面の位置が一定になったときに下層液を抜き出す。続いて、抜き出された下層液の比重を比重計で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了する。この液・液分離方法により、上層と下層との界面の分離状態を正確に測定できると共に、下層液の抜き出しの終了を明確にでき、液・液分離を精度良く、かつ迅速に行うことができる。
【0017】
第1の液体と第2の液体の種類は、第1の液体の比重が第2の液体の比重より小さく、両液体の分離が可能であれば特に制限されないが、第1の液体としては例えば(メタ)アクリレートが挙げられ、第2の液体としては例えばアルカリ水溶液、水又は無機水溶液が挙げられる。この場合、(メタ)アクリレートの製造工程における中和処理及び水洗処理での液・液分離が該当する。すなわち、収容容器としての中和槽には(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステル化反応液を投入すると共に、アルカリ水溶液を投入して中和処理を行った後、前記の液・液分離方法を実施する。次いで、中和槽内に残留する上層液に水又は無機水溶液を投入して水洗処理を行った後、前記液・液分離方法を実施する。
【0018】
ここで、(メタ)アクリレートの製造方法の全体について説明する。この(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステル化反応、エステル化された反応液の中和処理、中和処理後の処理液の水洗処理、及び水洗処理後の処理液から有機溶剤を除去する脱溶剤処理を経て製造される。そこで、これらの各工程について順に説明する。
〔エステル化反応〕
エステル化反応は、まず(メタ)アクリル酸、アルコール、酸触媒及び有機溶剤を反応器に供給し、(メタ)アクリル酸とアルコールとを酸触媒及び有機溶剤の存在下に行われる。このエステル化反応は、(メタ)アクリレートの製造における常法に従って行われる。
【0019】
(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性フェノールの(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ノニルフェノールの(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールの(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールAの(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性p−クミルフェノールの(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性2−エチルヘキシルアルコールの(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ビスフェノールFの(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールの(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性(ジ)グリセリンのアクリレート、(ジ)ペンタエリスリトールのアクリレート、(ジ)トリメチロールプロパンのアクリレート、アルキレンオキサイド変性(ジ)トリメチロールプロパンのアクリレート、アルキレンオキサイド変性ペンタエリスリトールのアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。これらのうち、アルコールとして多価アルコールを用いて得られるより高粘度の(ジ)ペンタエリスリトールのアクリレート、(ジ)トリメチロールプロパンのアクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ノニルフェノールの(メタ)アクリレートなどの高分子量のモノ(メタ)アクリレートなどが好ましい。
【0020】
(メタ)アクリル酸及びアルコールは、上記の(メタ)アクリレートを得るための対応する化合物が用いられる。(メタ)アクリル酸の使用量は、得られる(メタ)アクリレートが目的とする水酸基価を有するように、アルコールの全水酸基1モルに対して調整される。酸性触媒としては、硫酸、パラトルエンスルホン酸等が挙げられる。また、反応温度は、使用する原料及び目的に応じて適宜設定すればよいが、反応時間の短縮と重合防止の観点から65〜140℃が好ましく、75〜120℃がより好ましい。この反応温度が65℃未満の場合にはエステル化反応が遅くなったり、収率が低下したりし、一方反応温度が140℃を越える場合には(メタ)アクリル酸又は生成した(メタ)アクリレートの熱重合が起きるおそれがある。
【0021】
エステル化反応に際しては、エステル化反応で生成する水を有機溶剤と共沸させながら脱水を促進する。好ましい有機溶剤としては、例えばトルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、メチルエチルケトン等のケトン等が挙げられる。有機溶剤の使用量は、前記アルコールと(メタ)アクリル酸の合計量に対して質量で0.1〜10倍量が好ましく、1〜5倍量がより好ましい。
【0022】
エステル化反応は、(メタ)アクリル酸又は生成した(メタ)アクリレートの熱重合を防止することを目的とし、減圧状態で低い温度にて行うことが好ましい。また、エステル化反応を酸素の存在下で行うことが好ましい。同様の目的で、反応液に重合禁止剤を添加することが好ましい。そのような重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、フェノチアジン、並びに塩化銅及び硫酸銅等の銅塩等が挙げられる。エステル化反応の進行度は、エステル化反応により生成する水の量、すなわち脱水量をモニターすることによって行われる。
〔中和処理〕
エステル化された反応生成液は、中和槽でアルカリ水溶液にて中和処理される。この中和処理は常法に従って行えばよく、例えば反応液にアルカリ水溶液を添加し、攪拌、混合する方法等が挙げられる。前記アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カリウム等のアルカリ金属塩、並びにアンモニア等が挙げられる。
【0023】
この場合、アルカリ成分の量は通常、反応液の酸分に対してモル比で1倍以上、好ましくは1.1〜2.0倍である。この添加量が、反応液の酸分に対してモル比で1倍未満では、酸分の中和が不十分となるので好ましくない。また、アルカリ水溶液の濃度は、1〜25質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜25質量%である。この濃度が1質量%未満では中和処理後の排水量が増大するため好ましくなく、25質量%を越えると(メタ)アクリレートが重合するおそれがある。さらに、撹拌、混合する時間は、5分から120分程度が好ましい。
〔水洗処理〕
前記したエステル化反応液又は中和処理液を水洗処理することが望ましい。水洗処理をどの時点で行うかは、使用する成分及び目的に応じて適宜選択することができる。この水洗処理は、常法に従って行えば良い。具体的には、前記エステル化反応で得られた反応液又は前記中和処理後の有機層に対して水又は無機水溶液を添加し、攪拌、混合する方法等が挙げられる。水洗工程においては、通常水を使用する。一方、有機層との分離を改善したり、高純度の製品が要求される場合には、無機水溶液を使用することが好ましく、具体的には、硫酸アンモニウム水溶液及び塩化アンモニウム水溶液等のアンモニウム塩水溶液、塩化ナトリウム等のナトリウム塩、並びに塩酸水溶液等の酸性水が挙げられる。
〔脱溶剤処理〕
次に、中和処理液又は水洗処理液は脱溶剤槽に移され、中和処理又は水洗処理で水層が分離された後の有機層中の有機溶剤が除去される。脱溶剤処理は常法に従えば良く、例えば脱溶剤槽を減圧にして有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。脱溶剤槽の真空度としては、使用する原料及び目的に応じて適宜設定すれば良く、好ましくは0.5〜50kPaであり、有機溶剤の除去程度により徐々に減圧度を増す方法が好ましい。この脱溶剤処理は、(メタ)アクリレートの熱重合を抑えるために、酸素を供給したり、重合禁止剤を添加したりするとともに、温度を例えば80℃以下に維持して、減圧下に行うことが好ましい。
〔中和処理及び水洗処理の具体例〕
次に、前記中和処理及び水洗処理の理解を容易にするため、図1に基づき説明する。図1は(メタ)アクリレートの製造工程を示す概略説明図であり、その図1に示すように、上下が密閉された円筒状をなす反応器11の天板には、原料供給配管12が接続され、(メタ)アクリレートの原料が反応器11内に供給されるようになっている。この反応器11内において、(メタ)アクリル酸とアルコールとを酸触媒及び有機溶剤の存在下にエステル化反応(脱水縮合反応)が行われる。
【0024】
前記反応器11の底部には第1接続配管13の一端が接続され、その他端が中和槽14の上部に接続され、反応器11でエステル化された反応液が中和槽14へ移される。該中和槽14においては、反応液がアルカリ水溶液にて中和処理及び水にて水洗処理される。
【0025】
前記中和槽14の底部には第2接続配管15の一端が接続され、その他端が脱溶剤槽16の上部に接続され、水洗処理液が脱溶剤槽16に移され、脱溶剤槽16の上部に設けられた脱溶剤配管17から有機溶剤が除去されるようになっている。脱溶剤槽16の底部には第3接続配管18の一端が接続され、その他端が図示しないポンプの吸入部に接続され、脱溶剤処理された処理液、すなわち(メタ)アクリレートを主成分として含む脱溶剤処理液が取り出されるようになっている。
【0026】
続いて、液・液分離のための前記中和槽14について、図2(a)に基づき説明する。中和槽14内には撹拌機19が備えられ、反応液の中和処理及び水洗処理を撹拌により効率良く行うように構成されている。さらに、中和槽14内には静電容量式の界面計20が配置され、上層(有機層)と下層(水層)との界面21を監視し、分離の程度を判断できるようになっている。界面計20としては、静電容量式界面計などが使用される。
【0027】
そして、界面21の位置が一定になって安定したとき、下層液を抜き出すことにより、上層と下層との分離の精度を高めることができる。このように、界面計20を用いて界面21の状態を判断することから、従来のサイドグラスを用いる方法に比べて分離状態を正確かつ迅速に把握して対応することができる。
【0028】
また、前記第2接続配管15には比重計(質量流量計)22が設けられ、中和槽14からの抜き出し液の比重を監視できるように構成されている。比重計22としては、質量流量計などが用いられる。そして、抜き出し液の比重が一定になって安定したとき、抜き出し液の抜き出しを止めることにより、下層液の抜き出しの終了を精度良く行なうことができる。さらに、中和槽14内に面圧計を設けて液面の位置を測定することにより、前記界面21の状態及び抜き出し液の状態を判断することもできる。
【0029】
さて、本実施形態の作用を説明すると、(メタ)アクリレートの反応液が中和槽14に投入され、そこへアルカリ水溶液が投入されて中和処理が行われる。一方、水洗処理の場合には、水又は無機水溶液が投入されて水洗処理が行われる。
【0030】
この場合、上層と下層との界面21の位置が界面計20で測定され、その界面21の位置が一定になったときに下層液が抜き出される。このため、界面21での分離状態が速やかに測定され、その結果に基づいて直ちに下層液を第2接続配管15に抜き出すことができる。
【0031】
引き続いて、第2接続配管15に抜き出された下層液の比重が比重計22で測定され、その比重が一定になったときに中和槽14からの中和処理液の抜き出しを止めて液・液分離を終了する。この場合、液・液分離の終了時点を比重の測定に基づいて正確に知ることができる。
【0032】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の液・液分離方法では、上層と下層との界面21の位置を界面計20で測定し、その界面21の位置が一定になったときに下層液を抜き出すため、界面21での分離精度を高めることができる。さらに、抜き出された下層液の比重を比重計22で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了するため、液・液分離の終了時点を明確に判断することができる。従って、上層と下層との分離を精度良く行うことができ、得られる製品の色調や不純物などについての品質を向上させることができると共に、分離を速やかに行うことができて生産性を向上させることができる。
【0033】
・ 第1の液体が(メタ)アクリレートであり、第2の液体が水であることにより、上層を形成する(メタ)アクリレートと、下層を形成するアルカリ水溶液、水又は無機水溶液との分離において、上記の効果を発揮させることができる。
【0034】
・ 前記中和槽14には(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステル化反応液を投入すると共に、アルカリ水溶液を投入して中和処理を行った後、前記液・液分離を行い、次いで中和槽14内に残留する上層液に水又は無機水溶液を投入して水洗処理を行った後、前記液・液分離が行われる。このため、(メタ)アクリレートの中和処理及び水洗処理において、前記の効果を好適に発揮させることができる。
【0035】
・ (メタ)アクリレートが(メタ)アクリル酸と多価アルコールとの多官能(メタ)アクリルエステルの場合粘度が高く、分離が難しいが、本実施形態の液・液分離方法によれば多官能(メタ)アクリルエステルの分離操作を効率良く行うことができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例及び比較例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
前述した図1及び図2(a)の模式図に示す装置を使用してアクリレートの製造を行った。
【0037】
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル7,200kg、アクリル酸1,500kg、ハイドロキノンモノメチルエーテル(以下「MQ」と略す)3.5g、トルエン4,900kg、パラトルエンスルホン酸(以下「PTS」と略す)200kgを反応器11に添加し、所定の温度及び圧力で反応を開始した。反応温度を90〜120℃、圧力を80〜85kPaに設定した。そして、トルエンと共に共沸する縮合水をディーンスターク装置で除去してエステル化反応を進め、理論量の水が脱水されたことを確認した後、反応を停止した。
【0038】
反応液を第1接続配管13から中和槽14に導き、中和処理及び水洗処理を行った。中和処理及び水洗処理においては、面圧計を使用して液の上面(液面)の基準点からの割合を監視した。また、静電容量式の界面計(日本ドレキセルブルック(株)製ユニバーサルII分離型システム。)20を使用し、有機層及び水層の分離の程度を監視した。さらに、比重計(質量流量計、オーバル社型式CN050A−SS−311K)22使用して第2接続配管15内の抜き出し液の比重を監視した。
【0039】
それらの結果を図3に示す。図3において、実線は面圧計を使用して得られた単位時間毎の液の上面の基準点からの割合の変化を示し、一点差線は単位時間毎の比重計22による比重の変化を示し、点線は界面計20による単位時間毎の界面21の位置の変化を示す。
【0040】
中和処理のために、中和槽14に苛性ソーダ水溶液を攪拌下に投入し、静置した。投入後3時間で界面21が一定になって安定し、界面計20による有機層と水層との分離が確認できたため(図3のa1)、水層の抜き出しを開始した。水層の抜き出しは、比重計22による比重を監視しつつ行った。抜き出し開始後、比重の値が一定になって安定した時点で、抜き出しを終了した(図3のb1)。その後1時間静置し、水を添加して水洗後、静置した。投入後3時間で界面計20による界面21の結果が安定し、分離が確認できたため(図3のa2)、水層の抜き出しを開始した。抜き出し開始後、比重の値が安定した時点で、抜き出しを終了した(図3のb2)。
【0041】
水層の抜き出しが完了した後、中和処理及び水洗処理後の処理液を第2接続配管15にて脱溶剤槽16に供給し、減圧下で加熱して脱溶剤処理を実施した。このようにして得られた最終製品としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレートは、色調(APHA)が52で、着色及び不純分の少ないものであった。
(実施例2)
実施例1において、ポリプロピレングリコール7,200kg、アクリル酸3,100kg、MQの23kg、トルエン4,500kg、PTSの300kgを反応器に供給し、温度を98〜115℃、圧力67〜58kPaとする以外は実施例1と同様の方法でエステル化反応を行った。得られた反応液を第1接続配管13を介して中和槽14に供給し、中和処理及び水洗処理を行った。中和処理及び水洗処理は、実施例1と同様に、面圧計、界面計20及び比重計22を用いて監視した。それらの結果を図4に示す。図4において、実線、一点差線及び点線は、実施例1と同様の意味を表す。
【0042】
中和槽14に水を攪拌下に投入して予備水洗を行い、静置した。投入後2時間で界面計20による界面21の結果が安定し、分離が確認できたため(図4のa1)、水層の抜き出しを開始した。水層の抜き出しは、比重計22による比重を監視しつつ行った。抜き出し開始後、比重の値が安定した時点で抜き出しを終了した(図4のb1)。その後、およそ1時間静置し、そこへ苛性ソーダ水溶液を添加して中和後、静置した。投入後3時間で界面計20による界面21の結果が安定し、分離が確認できたため(図4のa2)、水相の抜き出しを開始した。その後、およそ30分静置し、そこへ水を添加して水洗後、静置した。投入して3時間後にゆっくりと水層の抜き出しを行った。抜き出し開始後、比重の値が安定した時点で抜き出しを終了した(図4のb2)。
【0043】
水層の抜き出しが完了した後、中和処理及び水洗処理後の処理液を第2接続配管15を介して脱溶剤槽16に供給し、減圧下で加熱して脱溶剤処理を実施した。最終製品としてのポリプロピレングリコールジアクリレートは、色調(APHA)が20で、着色及び不純分の少ないものであった。
(実施例3)
実施例1において、トリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート3,900kg、アクリル酸3,500kg、MQの8kg、トルエン7,600kg、PTSの150kgを反応器11に供給し、温度を75〜95℃、圧力を72〜56kPaとする以外は同様の方法で反応を行った。反応液を第1接続配管13を介して中和槽14に供給し、中和処理及び水洗処理を行った。中和処理及び水洗処理は、実施例1と同様に、面圧計、界面計20及び比重計22を使用して監視した。それらの結果を図5に示す。図5において、実線、一点差線及び点線は、実施例1と同様の意味を表す。
【0044】
中和槽14に苛性ソーダ水溶液を攪拌下に投入し、静置した。苛性ソーダ水溶液の投入後2時間30分で界面計20による界面21の結果が安定し、分離が確認できたため(図5のa1)、水層の抜き出しを開始した。水層の抜き出しは、比重計22による比重を監視しつつ行った。抜き出し開始後、比重計22の値が安定した時点で、抜き出しを終了した(図5のb1)。その後、およそ1時間静置し、そこへ水を添加して水洗後、静置した。水の投入後2時間で界面計20による界面21の結果が安定し、分離が確認できたため(図5のa2)、水層の抜き出しを開始した。抜き出し開始後、比重計22の値が安定した時点で、抜き出しを終了した(図5のb2)。
【0045】
水層の抜き出しが完了した後、中和処理及び水洗処理後の処理液を第2接続配管15を介して脱溶剤槽16に供給し、減圧下で加熱して脱溶剤処理を実施した。最終製品としてのイソシアヌル酸エチレンオキサイド3モル付加物のトリアクリレートは、色調(APHA)が10で、着色及び不純分の少ないものであった。
(比較例1)
実施例1において、中和槽14として図2(b)に示すものを使用する以外は、実施例1と同様の方法で実施した。図2(b)において、第2接続配管15には配管内を監視できるガラス製のサイドグラス部23が設けられている。そして、反応液を第1接続配管13を介して中和槽14に供給し、そこで中和処理及び水洗処理を行った。
【0046】
中和槽14に苛性ソーダ水溶液を攪拌下に投入し、静置した。苛性ソーダ水溶液の投入後2時間で、水層の抜き出しを開始した。水層の抜き出しは、サイドグラス部23を監視しつつ行った。サイドグラス部23を監視して、有機層と水層の界面部を注意して監視し、水層の界面部がサイドグラス部23から見えなくなった点で抜き出しを終了した。
【0047】
その後、およそ2時間静置し、そこへ水を添加して水洗処理を行った後、静置した。水を投入してから3時間後、上記と同様にして水層の抜き出しを行った。水層の抜き出しが完了した後、中和処理及び水洗処理後の処理液を脱溶剤槽16に供給し、減圧下で加熱して脱溶剤処理を実施した。最終製品としてのポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレートは、色調(APHA)が70〜90で、着色及び不純分が多いものであった。
(比較例2)
実施例2において、中和槽14として比較例1と同様のものを使用する以外は、実施例2と同様の方法で実施した。反応液を中和槽14に供給し、中和処理及び水洗処理を行った。中和槽14に水を攪拌下に投入して予備水洗を行い、静置した。水の投入1時間後に、水層の抜き出しを開始した。水層の抜き出しは、比較例1と同様の方法に従い行った。
【0048】
反応生成の投入後およそ1時間静置し、苛性ソーダ水溶液を添加して中和処理し、静置した。苛性ソーダ水溶液の投入2時間後、上記と同様にして水層の抜き出しを行った。その後およそ2時間静置し、水を添加して水洗し、静置した。水を投入して4時間後にゆっくりと水相の抜き出しを行った。
【0049】
水相の抜き出しが完了した後、中和処理及び水洗処理後の処理液を第2接続配管15を介して脱溶剤槽16に供給し、減圧下で加熱して脱溶剤処理を実施した。最終製品としてのポリプロピレングリコールジアクリレートは、色調(APHA)が40〜60で、着色及び不純分が多いものであった。
(比較例3)
実施例3において、中和槽14を比較例1と同様のものを使用する以外は、実施例3と同様の方法で実施した。反応液を第1接続配管13を介して中和槽14に供給し、中和処理及び水洗処理を行った。
【0050】
中和槽14に苛性ソーダ水溶液を攪拌下に投入し、静置した。苛性ソーダ水溶液を投入して2時間後、水層の抜き出しを開始した。水層の抜き出しは、比較例1と同様の方法に従い行った。
【0051】
その後およそ2時間静置し、水を投入して水洗し、静置した。水を投入して3時間後、上記と同様にして水層の抜き出しを行った。水層の抜き出しが完了した後、中和処理及び水洗処理後の処理液を脱溶剤槽16に供給し、減圧下で加熱して脱溶剤処理を実施した。最終製品としてのイソシアヌル酸エチレンオキサイド3モル付加物のトリアクリレートは、色調(APHA)が20〜40で、着色及び不純分が多いものであった。
【0052】
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記第1の液体である(メタ)アクリレートの溶液に、その比重よりも小さい比重を有する溶媒を添加し、第2の液体である水との分離を一層精度良く、しかも速やかに行うように構成することもできる。或いは、第2の液体である水に無機塩を添加して比重を大きくし、双方の分離を一層精度良く、しかも速やかに行うように構成することもできる。
【0053】
・ 前記各実施例では、収容容器として中和槽14を用いたが、反応器11で水洗処理などを行うように構成することもできる。
・ 前記第1の液体として酢酸エステル、フタル酸エステルなどのエステル、第2の液体として水などを用いることができる。
【0054】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記収容容器には面圧計を設けて上層液の液面の位置を測定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液・液分離方法。この方法によれば、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加え、上層と下層との分離の精度を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態における(メタ)アクリレートの製造工程を示す概略説明図。
【図2】(a)は実施形態における中和槽の構成を示すための概略説明図、(b)は従来の構成を示すための概略説明図。
【図3】実施例1における液・液分離での時間と液面の高さ又は比重との関係を示すグラフ。
【図4】実施例2における液・液分離での時間と液面の高さ又は比重との関係を示すグラフ。
【図5】実施例3における液・液分離での時間と液面の高さ又は比重との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0056】
14…収容容器としての中和槽、20…界面計、21…界面、22…比重計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容容器内に比重の小さい第1の液体と、それより比重の大きい第2の液体とを投入して静置し、上層と下層とに分けた後、下層液を抜き出し、第1の液体と第2の液体とを分離する液・液分離方法であって、
前記上層と下層との界面の位置を界面計で測定し、その界面の位置が一定になったときに下層液を抜き出すと共に、抜き出された下層液の比重を比重計で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了することを特徴とする液・液分離方法。
【請求項2】
前記第1の液体は(メタ)アクリレートであり、第2の液体はアルカリ水溶液、水又はアルカリ水溶液以外の無機水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の液・液分離方法。
【請求項3】
前記収容容器には(メタ)アクリル酸とアルコールとのエステル化反応液を投入すると共に、アルカリ水溶液を投入して中和処理を行った後、前記液・液分離を行い、次いで収容容器内に残留する上層液に水又はアルカリ水溶液以外の無機水溶液を投入して水洗処理を行った後、前記液・液分離を行うことを特徴とする請求項2に記載の液・液分離方法。
【請求項4】
前記アルコールは多価アルコールであることを特徴とする請求項3に記載の液・液分離方法。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸、アルコール、酸触媒及び有機溶剤を反応器に供給し、(メタ)アクリル酸とアルコールとを酸触媒及び有機溶剤の存在下にエステル化反応させ、反応生成液をアルカリ水溶液にて中和処理及び水洗処理を行う(メタ)アクリレートの製造方法において、
中和処理及び水洗処理において、上層の反応生成液と、下層のアルカリ水溶液、水又はアルカリ水溶液以外の無機水溶液の界面の位置を界面計で測定し、その界面の位置が一定になったときに下層液を抜き出すと共に、抜き出された下層液の比重を比重計で測定し、その比重が一定になったときに抜き出しを止めて液・液分離を終了することを特徴とする(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項6】
前記アルコールは多価アルコールであることを特徴とする請求項5に記載の(メタ)アクリレートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−308455(P2007−308455A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141817(P2006−141817)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】