液中セル
【課題】液中観察を行うにあたり、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料を固定すること。
【解決手段】試料Sを溶液W内に浸した状態で固定するものであって、試料を載置する載置面10aを有する底板10と、載置された試料の周囲を囲むように底板上に設けられ、囲んだ内側に溶液を貯留可能な壁部11とを有する下部マウント2と、壁部の上面に接する上板20と、該上板の外縁から略90度折曲されるように形成され、壁部の外周面に接するフランジ部21とを有し、下部マウントに対して上方から嵌合可能な上部マウント3と、該上部マウントが嵌合したときに、試料の外縁に接触して該試料を上方から載置面に押し付ける押さえ部材4とを備え、壁部の外周面及びフランジ部の内周面には、下部マウントに対して上部マウントを捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段5が設けられている液中セル1を提供する。
【解決手段】試料Sを溶液W内に浸した状態で固定するものであって、試料を載置する載置面10aを有する底板10と、載置された試料の周囲を囲むように底板上に設けられ、囲んだ内側に溶液を貯留可能な壁部11とを有する下部マウント2と、壁部の上面に接する上板20と、該上板の外縁から略90度折曲されるように形成され、壁部の外周面に接するフランジ部21とを有し、下部マウントに対して上方から嵌合可能な上部マウント3と、該上部マウントが嵌合したときに、試料の外縁に接触して該試料を上方から載置面に押し付ける押さえ部材4とを備え、壁部の外周面及びフランジ部の内周面には、下部マウントに対して上部マウントを捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段5が設けられている液中セル1を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡により試料を溶液内で観察する際に、該試料を固定する液中セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、金属、半導体、セラミック、樹脂、高分子、生体材料、絶縁物等の試料を微小領域にて測定し、試料の粘弾性等の物性情報、試料の表面形状の測定や観察等を行う装置として、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が知られている。この走査型プローブ顕微鏡は、測定察対象物である試料に応じて様々なモードの測定方法を選択することが可能であり、その1つとして培養液等の溶液内で試料を観察する液中測定モードがある。
【0003】
この液中測定は、通常カンチレバー及び試料を共に溶液内に完全に浸した状態で測定を行っている。この際、試料を固定する方法としては、様々な方法があるが、一般的な走査型プローブ顕微鏡においては、複数のネジを利用して試料を専用の架台に押さえつけるように固定する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、試料を所定位置に確実に固定することができるので、液中測定を正確に行うことができる。
一方、溶液内に単に試料を沈めるだけで使用する液中セルも各種提供されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特開平9−89909号公報
【特許文献2】特開2003−121335号公報
【特許文献3】特開平9−54098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の方法では以下の課題が残されていた。
即ち、特許文献1等に記載されている複数のネジを利用した試料の固定方法では、試料を水平に固定するために、各ネジの締め付け力が均等になるように調整する必要があった。ところが、この調整が難しく経験を要するものであり、熟練した作業者であっても作業時間がかかるものであった。また、調整を行っている間、試料が大気中に触れてしまうので、作業時間がかかることで、乾燥や酸化等の変質が発生する確率が高くなり、測定に悪影響を与える場合があった。
また、試料を固定する度に、複数のネジの取り付け、取り外し作業を行う必要があるが、ネジが外れて試料表面に触れてしまう等の汚染の可能性があり、測定が困難になる場合があった。
【0005】
一方、溶液内に単に試料を沈めるだけで使用する液中セルでは、比重によっては、試料が浮いてしまう恐れがあった。そのため、溶液よりも十分に比重が大きい試料しか用いることができない等の制限があり、全ての試料に対して使用できる方法ではなかった。
【0006】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料を固定することができる液中セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の液中セルは、試料を溶液内に浸した状態で固定する液中セルであって、平板状に形成され、前記試料を載置する載置面を有する底板と、載置された試料の周囲を囲むように底板上に設けられ、囲んだ内側に前記溶液を貯留可能な環状の壁部とを有する下部マウントと、中心に開口を空けた状態で平板状に形成され、前記壁部の上面に接する上板と、該上板の外縁から略90度折曲されるように形成され、前記壁部の外周面に接するフランジ部とを有し、前記下部マウントに対して上方から嵌合可能な上部マウントと、該上部マウントが嵌合したときに、前記試料の外縁に接触して該試料を上方から前記載置面に押し付ける押さえ部材とを備え、前記壁部の外周面及び前記フランジ部の内周面には、前記下部マウントに対して前記上部マウントを捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
この発明に係る液中セルにおいては、まず、試料を下部マウントの底板の載置面に載置する。この際、載置された試料は、環状に形成された壁部によって周囲が囲まれている。次いで、試料が載置されている下部マウントに対して、上部マウントを嵌合固定して両マウントを一体的に組み合わせる。即ち、フランジ部を下部マウント側に向けた状態で、フランジ部の内周面と壁部の外周面とを摺動させながら、上部マウントを捩じ込む。この捩じ込みによって嵌合手段が、上部マウントと下部マウントとを嵌合させて、一体的に固定させる。この際、上部マウントの上板と下部マウントの壁部の上面とが接触した状態となっている。これにより、上部マウントは、必要以上に捩じ込まれないようになっている。
【0009】
また、この嵌合によって、押さえ部材が試料の外縁を載置面に所定の力で押し付けて試料を下部マウントに押し付ける。これにより、試料を下部マウントと上部マウントとの間に挟み込んだ状態で、確実に固定することができる。
そして、試料の固定後、上板の開口を介して下部マウントの壁部で囲まれた内側の領域に溶液を注入する。これにより、試料を溶液内に浸すことができる。また、液中測定を行う場合には、上板の開口を通して走査型プローブ顕微鏡の液中用カンチレバーを入れることで、溶液内に浸された試料を液中観察することができる。この際、押さえ部材は、試料の外縁を押さえているので、液中用カンチレバーによる測定に影響を与えることはない。
【0010】
特に、下部マウントに対して上部マウントを捩じ込むだけ(クイック方式)で、両マウントを嵌合手段により固定できるので、誰でも簡便且つ短時間で試料を固定することができる。また、試料を短時間で固定できるので、大気中に触れる時間を極力短くでき、乾燥や酸化等の変質が発生する確率が低減される。その結果、測定精度を向上させることができる。
また、従来のものとは異なり、ネジを使用しないので、誤ってネジが外れて試料表面に触れてしまう可能性がない。そのため、試料が汚染されることがない。このことからも、測定精度を向上させることができる。また、試料を固定する毎に余計な注意(ネジが外れないように注意する等)を払わなくて済むので、取り扱いが容易になる。
【0011】
更には、押さえ部材が確実に試料を載置面に押し付けて固定しているので、単に試料を溶液内に沈めるだけの従来のものとは異なり、試料が浮いてしまうことはない。よって、比重が大きなものを使用する等の試料の制限がなくなり、使い易さが向上する。
上述したように、本実施形態の液中セルは、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料を固定することができ、液中測定の測定精度が向上すると共に取り扱いが容易になる。
【0012】
また、本発明の液中セルは、上記本発明の液中セルにおいて、前記嵌合手段が、前記壁部の外周面又は前記フランジ部の内周面のいずれか一方に形成された複数の突起と、他方に形成されて複数の突起を周方向に案内する案内溝とを備え、突起を案内溝の終点まで案内させたときに、前記下部マウントと前記上部マウントとが嵌合固定されることを特徴とものである。
【0013】
この発明に係る液中セルにおいては、下部マウントに試料を載置した後、複数の突起を案内溝に入れた状態で上部マウントの捩じ込みを行う。これにより、複数の突起は、案内溝で案内されながら終点に向かって移動する。また、これに伴って、下部マウントと上部マウントとが徐々に組み合わさる。そして、複数の突起が案内溝の終点に達したときに、上部マウントの上板が下部マウントの壁部の上面に接触して、下部マウントと上部マウントとが完全に嵌合固定された状態となる。
このように、複数の突起が案内溝に案内されるバイヨネット結合により、両マウントを固定できるので、がたつき等がなく容易に固定を行えると共に、両マウントの締め付け力を常に一定にすることができる。
【0014】
また、本発明の液中セルは、上記本発明の液中セルにおいて、前記下部マウント及び前記上部マウントには、前記複数の突起を前記案内溝の始点に位置決めさせるマーキングがそれぞれ印されていることを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係る液中セルにおいては、両マウントにそれぞれ印されたマーキングを合わせることで、容易且つ確実に複数の突起を案内溝の始点に位置決めさせることができる。これにより、両マウントの位置合わせがより簡便になり、手間がかかることはない。よって、試料の固定をより短時間で行うことができる。
【0016】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記押さえ部材が、前記上部マウントに一体的に成型されていることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る液中セルにおいては、押さえ部材が上部マウントに一体的に成形されているので、構成品の数を減らすことができると共に、下部マウントと上部マウントとの組み合わせが容易になる。よって、より短時間で試料の固定を行うことができる。
【0018】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記押さえ部材が、前記壁部の内周面に接すると共に壁部と略同じ高さに形成された環状体であり、前記上部マウントが、前記上板を介して前記押さえ部材を前記下部マウントに向けて押し付けていることを特徴とするものである。
【0019】
この発明に係る液中セルにおいては、下部マウントに試料を載置した後、上部マウントを嵌合させる前に、押さえ部材を壁部の内周面に接触させた状態で取り付ける。なお、この状態においては、押さえ部材は単に試料の外縁に乗っているだけの状態である。そして、押さえ部材の取り付け後、上部マウントを捩じ込んで嵌合手段により下部マウントに嵌合固定させる。また、押さえ部材は、上部マウントが徐々に固定されるにしたがって上板に押し付けられるので、試料を確実に載置面に押し付けて固定することができる。
【0020】
特に、上部マウントと押さえ部材とが、別々に構成されているので、上部マウントを捩じ込み操作したとしても、該上部マウントにつられて押さえ部材が周方向に移動(スライド)し難い。よって、押さえ部材は、上部マウントの捩じ込み操作に影響を受けることなく、単に試料を上方から押さえつけるように移動する。従って、試料の表面に傷等が付くことを防止することができる。
【0021】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記フランジ部の外周面が、凹凸状に形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
この発明に係る液中セルにおいては、フランジ部の外周面が、例えば、ローレット処理等により凹凸状に形成されているので、上部マウントを捩じ込む際に把持し易くなると共に、手が滑り難くなる。よって、上部マウントをより捩じ込み易くなり、作業性が向上する。
【0023】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記底板の中心には、載置された前記試料を下方から視認する光学的に透明な透明板が設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
この発明に係る液中セルにおいては、透明板を通して試料を視認できるので、顕微鏡装置等により液中内に浸された試料を顕微鏡観察することができる。よって、試料をさらに多角的に観察することができる。
【0025】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記底板には、前記壁部の外側に位置する領域に、少なくとも2つの貫通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0026】
この発明に係る液中セルにおいては、下部マウントの底板に少なくとも2つの貫通孔が形成されているので、これら貫通孔を、例えば、下部マウント固定用の治具に形成された突起等に嵌合させることができる。これにより、外力を受けたときに下部マウントが移動しないように、該下部マウントを確実に固定することができる。従って、下部マウントに対して上部マウントを捩じ込み易くなり、両マウントをさらに容易に固定することができる。
【0027】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液を流動させる管路を備えていることを特徴とするものである。
【0028】
この発明に係る液中セルにおいては、溶液を流動させる管路を有しているので、下部マウントと上部マウントとを固定した後に、速やかに溶液を供給して試料を該溶液内に浸すことができる。従って、大気に触れる時間をさらに短くでき、乾燥等の試料の変質をより確実に防止することができる。また、管路を利用して溶液の循環等も行えるので、長期的な試料の観察等も行うことができ、より多角的な観察を行うことができる。
【0029】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液の温度を検出する温度センサを備えていることを特徴とするものである。
【0030】
この発明に係る液中セルにおいては、温度センサにより溶液の温度を常に正確に把握できるので、最適な温度の溶液内で液中測定を行うことができる。よって、測定結果の信頼性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る液中セルによれば、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料を固定することができ、液中測定の測定精度が向上すると共に取り扱いが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る液中セルの一実施形態について、図1から図12を参照して説明する。
本実施形態の液中セル1は、図1から図3に示すように、試料Sを溶液W内に浸した状態で固定するものであって、試料Sを載置する下部マウント2と、該下部マウント2に対して上方から嵌合可能な上部マウント3と、該上部マウント3が嵌合したときに、試料Sの外縁に接触して該試料Sを上方から載置面10aに押し付ける押さえ部材4と、下部マウント2の壁部11の外周面、及び、上部マウント3のフランジ部21の内周面に設けられ、下部マウント2に対して上部マウント3を捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段5と、両マウント2、3の間に挟まれた状態で設けられ、溶液Wを流動させる2本のパイプ(管路)6、7と、両マウント2、3の間に挟まれた状態で設けられ、溶液Wの温度を測定する温度センサ(温度検出部)8とを備えている。
【0033】
下部マウント2は、図4から図7に示すように、アルミ等の金属材料から形成されており、平板状に形成され、試料Sを載置する載置面10aを有する底板10と、載置された試料Sの周囲を囲むように底板10上に設けられ、囲んだ内側に溶液Wを貯留可能な環状の壁部11とで一体的に成型されている。
底板10は、上面視円形となるように形成されており、底板10の中心には光学的に透明なカバーガラス(透明板)12が嵌め込まれている。また、壁部11で囲まれた上面が載置面10aとなっている。
また、底板10には、壁部11の外側に位置する領域に、後述する治具50の固定用ピン51が嵌合する貫通孔13が2箇所形成されている。この2つの貫通孔13は、カバーガラス12を間に挟んで対向するように形成されている。
【0034】
壁部11は、載置面10aに対して直交する方向であって、試料Sの周囲を囲むように上面視円形となるように形成されている。また、壁部11の外周面には、後述する3つの平行ピン22(複数の突起)を周方向にそれぞれ案内する3つの案内溝14が周方向に均等に(120度間隔毎に)形成されている。また、壁部11の一部は、上記2本のパイプ6、7及び上記温度センサ8用の配線8bを保護する保護チューブ8aを通すための切り欠き部15が形成されている。
【0035】
上部マウント3は、図8から図10に示すように、アルミ等の金属材料から形成されており、中心に開口20aを空けた状態で平板状に形成され、壁部11の上面に接する上板20と、該上板20の外縁から略90度折曲されるように形成され、壁部11の外周面に接するフランジ部21とで一体的に成型されている。
フランジ部21の内周面には、周方向に均等に(120度間隔毎に)配された3つの平行ピン22が内側に突出するように設けられている。そして、この3つの平行ピン22を下部マウント2の案内溝14の始点14aに位置させた状態で、上部マウント3を下部マウント2に捩じ込むことで、平行ピン22が案内溝14に案内されながら上部マウント3と下部マウント2とが徐々に組み合わさるようになっている。そして、平行ピン22を案内溝14の終点14bまで案内させたときに、下部マウント2と上部マウント3とが嵌合固定されるようになっている。即ち、平行ピン22及び案内溝14は、上記嵌合手段5を構成している。
【0036】
また、フランジ部21は、下部マウント2の壁部11と同様に、2本のパイプ6、7及び保護チューブ8aを通すための切り欠き部23が形成されている。なお、この切り欠き部23の位置は、下部マウント2と上部マウント3とを嵌合固定したときに、下部マウント2の切り欠き部15と同じ位置にくるように形成されている。更に、フランジ部21の外周面は、ローレット処理がなされて凹凸状に形成されている。これにより、フランジ部21を滑り難い状態で把持できると共に、把持し易くなっている。
【0037】
また、上部マウント3及び下部マウント2には、図4及び図8に示すように、平行ピン22と案内溝14の始点14aとを位置決めさせるマーキング30がそれぞれ印されている。このマーキング30は、下部マウント2及び上部マウント3の表面を削って印したものでも構わないし、印刷やシール等により印されたものでも構わない。本実施形態では、上部マウント3の上板20及び下部マウント2の表面をライン状に削ってマーキング30を印した例を示している。
【0038】
押さえ部材4は、図11に示すように、試料Sと上部マウント3との間に配され、壁部11の内周面に接すると共に壁部11と略同じ高さになるように形成された環状体である。具体的には、凹み40aを有するように断面コの字状に形成された環状のリング部40と、該凹み40a内に取り付けられ、フッ素ゴム等からなる環状のOリング41とを備えている。そして、押さえ部材4は、Oリング41を試料S側に向けた状態で、下部マウント2に組み合わされるようになっている。
また、この押さえ部材4は、リング部40の上面が上部マウント3の上板20に押さえつけられることで、試料Sを載置面10aに向けて所定の力で押し付けるようになっている。
【0039】
更にこの押さえ部材4には、図1に示すように、上述した2本のパイプ6、7と保護チューブ8aとが3本隣接して並ぶように固定されている。2本のパイプ6、7のうち、一方のパイプ6は基端側から溶液Wが供給されて、壁部11の内側に溶液Wを供給する供給用のパイプである。また、他方のパイプ7は、壁部11の内側に貯留された溶液Wを基端側に排出する排出用のパイプである。また、これら2本のパイプ6、7は、先端側が試料S側に向けて屈曲されており、試料Sに近い位置で溶液Wの供給及び排出を行えるようになっている。
なお、これら両パイプ6、7の基端側は、溶液Wの供給及び排出を行う図示しない溶液W供給排出部に接続されている。
【0040】
また、保護チューブ8aの先端には、バイメタル等の温度センサ8が取り付けられており、該温度センサ8の基端側に電気的に接続された配線8bが、保護チューブ8a内を通って基端側まで延びている。なお、この温度センサ8も同様に、先端が試料S側に向けて屈曲されており、試料Sに近い位置で溶液Wの温度を検出するようになっている。
【0041】
次に、このように構成された液中セル1を利用して試料Sを液中観察する場合について、説明する。
なお、本実施形態では、上部マウント3を固定する際に、下部マウント2を図1から図3に示す治具50に固定した状態で行う場合を例にして説明する。
この治具50は、アルミ等の金属材料により上面視円形となるように形成されており、上面に下部マウント2の底板10を載置できるようになっている。また、上面には、下部マウント2の底板10に形成された2つの貫通孔13にそれぞれ挿通される2つの固定用ピン51が取り付けられている。これにより、下部マウント2を上面に載置したときに、下部マウント2が外力を受けて動かないようになっている。
【0042】
まず、下部マウント2を指で把持して、治具50の上面に下部マウント2を載置する。この際、治具50の固定用ピン51を下部マウント2の貫通孔13内に挿通させるように載置する。これにより、下部マウント2は水平方向に位置決めがされて、外力を受けても移動しないように確実に保持された状態となる。なお、治具50の上面には、下部マウント2を挟んで表面が削られた段部52が形成されているので、下部マウント2を載置する直前まで指で把持することができる。
【0043】
下部マウント2を固定した後、底板10の載置面10a上に試料Sを載置する。この際、載置された試料Sは、環状に形成された壁部11によって周囲が囲まれている。また、試料Sは、底板10に設けられたカバーガラス12の上に載置された状態となっている。
試料Sの載置後、Oリング41を試料Sに向けた状態で押さえ部材4を下部マウント2に組み込む。即ち、壁部11の内周面にリング部40の外周面が接触するように、押さえ部材4を組み込む。この際、押さえ部材4に固定された2本のパイプ6、7と保護チューブ8aとが、壁部11の切り欠き部15内に位置するように下部マウント2に組み込む。これにより、2本のパイプ6、7及び保護チューブ8aは、下部マウント2に干渉することない。
【0044】
なお、この時点では、Oリング41が単に試料Sの外縁に乗っているだけの状態であるので、試料Sを載置面10aに押し付けてはいない。また、押さえ部材4の高さは、壁部11と略同じ高さになっている。
【0045】
押さえ部材4を組み込んだ後、下部マウント2に対して上部マウント3を嵌合固定して、両マウント2、3を一体的に組み合わせる。
即ち、まず、フランジ部21を下部マウント2側に向けた状態で、フランジ部21の内周面に取り付けられた平行ピン22が、壁部11の外周面に形成された案内溝14の始点14aに位置するように、両マウント2、3を重ね合わせる。この際、両マウント2、3には、それぞれ位置決めのためのマーキング30が印されているので、該マーキング30同士を合わせるだけで、簡単に平行ピン22の位置合わせを行うことができる。
【0046】
なお、この位置合わせを行ったときに、上部マウント3の切り欠き部23が下部マウント2の切り欠き部15の位置と同じ位置にくるように形成されているので、2本のパイプ6、7及び保護チューブ8aと上部マウント3とが干渉することはない。更に、この上部マウント3の切り欠き部23は、図8に示すように、以降の捩じ込みに必要なストロークを考慮して長めに設計されているので、捩じ込み操作中においても上部マウント3と2本パイプ6、7及び保護チューブ8aとが干渉することはない。
【0047】
平行ピン22と案内溝14の始点14aとの位置が合わさった後、フランジ部21の外周面を把持して上部マウント3を下部マウント2に対して捩じ込む。これにより、フランジ部21の内周面と壁部11の外周面が摺動すると共に、平行ピン22が案内溝14に案内されながら上部マウント3が捩じ込まれていく。よって、下部マウント2と上部マウント3とが、徐々に組み合わされる。そして、平行ピン22が、案内溝14の終点14bに達したときに、上部マウント3の上板20と下部マウント2の壁部11の上面とが接触して、両マウント2、3が完全に嵌合固定された状態となる。
【0048】
このように、平行ピン22及び案内溝14を利用したバイヨネット結合により、両マウント2、3を固定するので、がたつき等がなく容易に固定を行える。また、嵌合固定を行ったときに、上部マウント3が壁部11に接触するので、該上部マウント3が必要以上に捩じ込まれることはなく、両マウント2、3の締め付け力を一定にすることができる。
【0049】
一方、押さえ部材4は、上部マウント3が徐々に固定されるにしたがって、上板20によってリング部40が押し付けられるので、Oリング41を介して試料Sを確実に載置面10aに押し付けて固定することができる。特に、上部マウント3と押さえ部材4とは、別々に構成されているので、上部マウント3を捩じ込み操作したとしても、上部マウント3につられて押さえ部材4が周方向に移動(スライド)し難い。よって、押さえ部材4は、上部マウント3の捩じ込み操作に影響を受けることなく、単に試料Sを上方から押さえつけるように移動する。従って、試料Sの表面に傷等が付くことを防止しながら、両マウント2、3の間に挟み込んだ状態で確実に固定することができる。
【0050】
試料Sを固定した後、一方のパイプ6を介して溶液供給排出部から溶液Wを供給して、壁部11で囲まれた内側の領域に溶液Wを貯留させる。これにより、試料Sは、溶液W内に貯留された状態となる。
そして、図12に示すように、上部マウント3の開口20aを通して走査型プローブ顕微鏡の液中用カンチレバーRを入れて試料Sにアクセスですることで、溶液W内に浸された試料Sを液中観察することができる。この際、押さえ部材4は、試料Sの外縁を押さえているので、液中用カンチレバーRによる測定に影響を与えることはない。
【0051】
上述したように、本実施形態の液中セル1によれば、下部マウント2に対して上部マウント3を捩じ込むだけ(クイック式)で、両マウント2、3を嵌合手段5により固定できるので、誰でも簡便且つ短時間で試料Sを固定することができる。また、試料Sを短時間で固定できるので、大気中に触れる時間を極力短くでき、乾燥や酸化等の変質を発生する確率が低減される。その結果、液中観察の測定精度を向上させることができる。
また、従来のものとは異なり、ネジを使用しないので、誤ってネジが外れて試料表面に触れてしまう可能性がない。そのため、試料Sが汚染されることがない。このことからも、測定精度を向上させることができる。また、試料Sを固定する毎に余計な注意(ネジが外れないように注意する等)を払わなくて済むので、取り扱いが容易になる。
【0052】
また、押さえ部材4が確実に試料Sを載置面10aに押し付けて固定しているので、単に試料Sを溶液W内に沈める従来のものとは異なり、試料Sが浮いてしまうことはない。よって、比重が大きなものを使用する等の試料Sの制限がなくなり、使い易さが向上する。
このように、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料Sを固定することができ、液中測定の測定精度が向上すると共に取り扱いが容易になる。
【0053】
また、上部マウント3を捩じ込む際に、下部マウント2は治具50によって水平方向への移動が規制された状態で固定されているので、治具50を介して手で保持し易い。そのため、上部マウント3をより円滑に捩じ込み操作し易くなる。更に、上部マウント3のフランジ部21の外周面が、ローレット処理により凹凸状に形成されているので、手で把持し易く、また、滑り難くなる。このことからも、上部マウント3を捩じ込み易くなり、作業性が向上する。
【0054】
また、上部マウント3を固定させた後、一方のパイプ6を利用して速やかに溶液Wを供給できるので、大気に触れる時間を極力短くすることができる。また、他方のパイプ7を利用して溶液Wの循環も可能であるので、長期的な試料Sの観察を行うことができ、より多角的な観察を行うことができる。
更に、温度センサ8により、溶液Wの温度を常に正確に把握できるので、最適な温度の溶液W内で液中測定を行うことができる。よって、測定結果の信頼性をさらに向上することができる。
【0055】
更には、下部マウント2の底板10には、カバーガラス12が設置可能なので、上述した試料Sの観察中に下部マウント2の下方から図示しない顕微鏡装置により、試料Sを顕微鏡観察することができる。これにより、カバーガラス12の交換で複数の試料Sをより多角的に観察することができる。
【0056】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、フランジ部21の内周面に平行ピン22を設けると共に、壁部11の外周面に案内溝14を形成して嵌合手段5を構成したが、この場合に限らず、フランジ部21の内周面に案内溝14を形成し、壁部11の外周面に平行ピン22を設けて嵌合手段5を構成しても構わない。この場合においても、同様の作用効果を奏することができる。また、平行ピン22及び案内溝14をそれぞれ3つ設けた場合を例にしたが、3つに限られず、それぞれ2つ以上の複数であれば構わない。
【0058】
また、押さえ部材4と上部マウント3とを別々に構成したが、図13に示すように、上部マウント3と押さえ部材4とを一体的に成型した上部マウント60としても構わない。この場合には、構成品の数を減らすことができると共に、上述したように押さえ部材4を単独で下部マウント2に組み合わせる必要はないので、組み立てが容易になる。よって、より短時間で試料Sを固定することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、2本のパイプ6、7を利用して溶液Wを供給したが、パイプ6、7はなくても構わない。この場合には、上部マウント3を固定した後、開口20aを通して壁部11で囲まれた内側の領域内に溶液Wを注入して、試料Sを溶液W内に浸しても構わない。但し、より速やかに溶液Wを供給できる点で、上述したようにパイプ6、7を備えることが好ましい。
【0060】
また、上部マウント3を下部マウント2に組み合わせる際に、下部マウント2を予め治具50に固定したが、治具50は必須ではなく、治具50を利用せずに両マウント2、3を固定しても構わない。但し、下部マウント2をしっかりと保持できるので、治具50を利用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る液中セルの一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す断面矢視A−A図である。
【図3】図1に示す矢印B方向から見た液中セルの側面図である。
【図4】図1に示す液中セルを構成する下部マウントの上面図である。
【図5】図4に示す断面矢視C−C図である。
【図6】図4に示す矢印D方向から見た下部マウントの側面図である。
【図7】図4に示す矢印E方向から見た下部マウントの側面図である。
【図8】図1に示す液中セルを構成する上部マウントの上面図である。
【図9】図8に示す断面矢視F−F図である。
【図10】図8に示す矢印G方向から見た上部マウントの側面図である。
【図11】図1に示す液中セルを構成する押さえ部材の断面図である。
【図12】図1に示す液中セルにより試料を固定し、液中観察を行っている際の模式図である。
【図13】図1に示す液中セルが有する上部マウントとは異なる。他の上部マウントを利用して試料を固定し、液中観察を行っている際の模式図である。
【符号の説明】
【0062】
S 試料
W 溶液
1 液中セル
2 下部マウント
3、60 上部マウント
4 押さえ部材
5 嵌合手段
6、7 パイプ(管路)
8 温度センサ
10 底板
10a 載置面
11 壁部
13 貫通孔
14 案内溝
14a 案内溝の始点
14b 案内溝の終点
20 上板
20a 上板の開口
21 フランジ部
22 平行ピン(突起)
30 マーキング
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡により試料を溶液内で観察する際に、該試料を固定する液中セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、金属、半導体、セラミック、樹脂、高分子、生体材料、絶縁物等の試料を微小領域にて測定し、試料の粘弾性等の物性情報、試料の表面形状の測定や観察等を行う装置として、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が知られている。この走査型プローブ顕微鏡は、測定察対象物である試料に応じて様々なモードの測定方法を選択することが可能であり、その1つとして培養液等の溶液内で試料を観察する液中測定モードがある。
【0003】
この液中測定は、通常カンチレバー及び試料を共に溶液内に完全に浸した状態で測定を行っている。この際、試料を固定する方法としては、様々な方法があるが、一般的な走査型プローブ顕微鏡においては、複数のネジを利用して試料を専用の架台に押さえつけるように固定する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、試料を所定位置に確実に固定することができるので、液中測定を正確に行うことができる。
一方、溶液内に単に試料を沈めるだけで使用する液中セルも各種提供されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【特許文献1】特開平9−89909号公報
【特許文献2】特開2003−121335号公報
【特許文献3】特開平9−54098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の方法では以下の課題が残されていた。
即ち、特許文献1等に記載されている複数のネジを利用した試料の固定方法では、試料を水平に固定するために、各ネジの締め付け力が均等になるように調整する必要があった。ところが、この調整が難しく経験を要するものであり、熟練した作業者であっても作業時間がかかるものであった。また、調整を行っている間、試料が大気中に触れてしまうので、作業時間がかかることで、乾燥や酸化等の変質が発生する確率が高くなり、測定に悪影響を与える場合があった。
また、試料を固定する度に、複数のネジの取り付け、取り外し作業を行う必要があるが、ネジが外れて試料表面に触れてしまう等の汚染の可能性があり、測定が困難になる場合があった。
【0005】
一方、溶液内に単に試料を沈めるだけで使用する液中セルでは、比重によっては、試料が浮いてしまう恐れがあった。そのため、溶液よりも十分に比重が大きい試料しか用いることができない等の制限があり、全ての試料に対して使用できる方法ではなかった。
【0006】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料を固定することができる液中セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の液中セルは、試料を溶液内に浸した状態で固定する液中セルであって、平板状に形成され、前記試料を載置する載置面を有する底板と、載置された試料の周囲を囲むように底板上に設けられ、囲んだ内側に前記溶液を貯留可能な環状の壁部とを有する下部マウントと、中心に開口を空けた状態で平板状に形成され、前記壁部の上面に接する上板と、該上板の外縁から略90度折曲されるように形成され、前記壁部の外周面に接するフランジ部とを有し、前記下部マウントに対して上方から嵌合可能な上部マウントと、該上部マウントが嵌合したときに、前記試料の外縁に接触して該試料を上方から前記載置面に押し付ける押さえ部材とを備え、前記壁部の外周面及び前記フランジ部の内周面には、前記下部マウントに対して前記上部マウントを捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
この発明に係る液中セルにおいては、まず、試料を下部マウントの底板の載置面に載置する。この際、載置された試料は、環状に形成された壁部によって周囲が囲まれている。次いで、試料が載置されている下部マウントに対して、上部マウントを嵌合固定して両マウントを一体的に組み合わせる。即ち、フランジ部を下部マウント側に向けた状態で、フランジ部の内周面と壁部の外周面とを摺動させながら、上部マウントを捩じ込む。この捩じ込みによって嵌合手段が、上部マウントと下部マウントとを嵌合させて、一体的に固定させる。この際、上部マウントの上板と下部マウントの壁部の上面とが接触した状態となっている。これにより、上部マウントは、必要以上に捩じ込まれないようになっている。
【0009】
また、この嵌合によって、押さえ部材が試料の外縁を載置面に所定の力で押し付けて試料を下部マウントに押し付ける。これにより、試料を下部マウントと上部マウントとの間に挟み込んだ状態で、確実に固定することができる。
そして、試料の固定後、上板の開口を介して下部マウントの壁部で囲まれた内側の領域に溶液を注入する。これにより、試料を溶液内に浸すことができる。また、液中測定を行う場合には、上板の開口を通して走査型プローブ顕微鏡の液中用カンチレバーを入れることで、溶液内に浸された試料を液中観察することができる。この際、押さえ部材は、試料の外縁を押さえているので、液中用カンチレバーによる測定に影響を与えることはない。
【0010】
特に、下部マウントに対して上部マウントを捩じ込むだけ(クイック方式)で、両マウントを嵌合手段により固定できるので、誰でも簡便且つ短時間で試料を固定することができる。また、試料を短時間で固定できるので、大気中に触れる時間を極力短くでき、乾燥や酸化等の変質が発生する確率が低減される。その結果、測定精度を向上させることができる。
また、従来のものとは異なり、ネジを使用しないので、誤ってネジが外れて試料表面に触れてしまう可能性がない。そのため、試料が汚染されることがない。このことからも、測定精度を向上させることができる。また、試料を固定する毎に余計な注意(ネジが外れないように注意する等)を払わなくて済むので、取り扱いが容易になる。
【0011】
更には、押さえ部材が確実に試料を載置面に押し付けて固定しているので、単に試料を溶液内に沈めるだけの従来のものとは異なり、試料が浮いてしまうことはない。よって、比重が大きなものを使用する等の試料の制限がなくなり、使い易さが向上する。
上述したように、本実施形態の液中セルは、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料を固定することができ、液中測定の測定精度が向上すると共に取り扱いが容易になる。
【0012】
また、本発明の液中セルは、上記本発明の液中セルにおいて、前記嵌合手段が、前記壁部の外周面又は前記フランジ部の内周面のいずれか一方に形成された複数の突起と、他方に形成されて複数の突起を周方向に案内する案内溝とを備え、突起を案内溝の終点まで案内させたときに、前記下部マウントと前記上部マウントとが嵌合固定されることを特徴とものである。
【0013】
この発明に係る液中セルにおいては、下部マウントに試料を載置した後、複数の突起を案内溝に入れた状態で上部マウントの捩じ込みを行う。これにより、複数の突起は、案内溝で案内されながら終点に向かって移動する。また、これに伴って、下部マウントと上部マウントとが徐々に組み合わさる。そして、複数の突起が案内溝の終点に達したときに、上部マウントの上板が下部マウントの壁部の上面に接触して、下部マウントと上部マウントとが完全に嵌合固定された状態となる。
このように、複数の突起が案内溝に案内されるバイヨネット結合により、両マウントを固定できるので、がたつき等がなく容易に固定を行えると共に、両マウントの締め付け力を常に一定にすることができる。
【0014】
また、本発明の液中セルは、上記本発明の液中セルにおいて、前記下部マウント及び前記上部マウントには、前記複数の突起を前記案内溝の始点に位置決めさせるマーキングがそれぞれ印されていることを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係る液中セルにおいては、両マウントにそれぞれ印されたマーキングを合わせることで、容易且つ確実に複数の突起を案内溝の始点に位置決めさせることができる。これにより、両マウントの位置合わせがより簡便になり、手間がかかることはない。よって、試料の固定をより短時間で行うことができる。
【0016】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記押さえ部材が、前記上部マウントに一体的に成型されていることを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係る液中セルにおいては、押さえ部材が上部マウントに一体的に成形されているので、構成品の数を減らすことができると共に、下部マウントと上部マウントとの組み合わせが容易になる。よって、より短時間で試料の固定を行うことができる。
【0018】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記押さえ部材が、前記壁部の内周面に接すると共に壁部と略同じ高さに形成された環状体であり、前記上部マウントが、前記上板を介して前記押さえ部材を前記下部マウントに向けて押し付けていることを特徴とするものである。
【0019】
この発明に係る液中セルにおいては、下部マウントに試料を載置した後、上部マウントを嵌合させる前に、押さえ部材を壁部の内周面に接触させた状態で取り付ける。なお、この状態においては、押さえ部材は単に試料の外縁に乗っているだけの状態である。そして、押さえ部材の取り付け後、上部マウントを捩じ込んで嵌合手段により下部マウントに嵌合固定させる。また、押さえ部材は、上部マウントが徐々に固定されるにしたがって上板に押し付けられるので、試料を確実に載置面に押し付けて固定することができる。
【0020】
特に、上部マウントと押さえ部材とが、別々に構成されているので、上部マウントを捩じ込み操作したとしても、該上部マウントにつられて押さえ部材が周方向に移動(スライド)し難い。よって、押さえ部材は、上部マウントの捩じ込み操作に影響を受けることなく、単に試料を上方から押さえつけるように移動する。従って、試料の表面に傷等が付くことを防止することができる。
【0021】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記フランジ部の外周面が、凹凸状に形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
この発明に係る液中セルにおいては、フランジ部の外周面が、例えば、ローレット処理等により凹凸状に形成されているので、上部マウントを捩じ込む際に把持し易くなると共に、手が滑り難くなる。よって、上部マウントをより捩じ込み易くなり、作業性が向上する。
【0023】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記底板の中心には、載置された前記試料を下方から視認する光学的に透明な透明板が設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
この発明に係る液中セルにおいては、透明板を通して試料を視認できるので、顕微鏡装置等により液中内に浸された試料を顕微鏡観察することができる。よって、試料をさらに多角的に観察することができる。
【0025】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記底板には、前記壁部の外側に位置する領域に、少なくとも2つの貫通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0026】
この発明に係る液中セルにおいては、下部マウントの底板に少なくとも2つの貫通孔が形成されているので、これら貫通孔を、例えば、下部マウント固定用の治具に形成された突起等に嵌合させることができる。これにより、外力を受けたときに下部マウントが移動しないように、該下部マウントを確実に固定することができる。従って、下部マウントに対して上部マウントを捩じ込み易くなり、両マウントをさらに容易に固定することができる。
【0027】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液を流動させる管路を備えていることを特徴とするものである。
【0028】
この発明に係る液中セルにおいては、溶液を流動させる管路を有しているので、下部マウントと上部マウントとを固定した後に、速やかに溶液を供給して試料を該溶液内に浸すことができる。従って、大気に触れる時間をさらに短くでき、乾燥等の試料の変質をより確実に防止することができる。また、管路を利用して溶液の循環等も行えるので、長期的な試料の観察等も行うことができ、より多角的な観察を行うことができる。
【0029】
また、本発明の液中セルは、上記本発明のいずれかの液中セルにおいて、前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液の温度を検出する温度センサを備えていることを特徴とするものである。
【0030】
この発明に係る液中セルにおいては、温度センサにより溶液の温度を常に正確に把握できるので、最適な温度の溶液内で液中測定を行うことができる。よって、測定結果の信頼性をさらに向上することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る液中セルによれば、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料を固定することができ、液中測定の測定精度が向上すると共に取り扱いが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る液中セルの一実施形態について、図1から図12を参照して説明する。
本実施形態の液中セル1は、図1から図3に示すように、試料Sを溶液W内に浸した状態で固定するものであって、試料Sを載置する下部マウント2と、該下部マウント2に対して上方から嵌合可能な上部マウント3と、該上部マウント3が嵌合したときに、試料Sの外縁に接触して該試料Sを上方から載置面10aに押し付ける押さえ部材4と、下部マウント2の壁部11の外周面、及び、上部マウント3のフランジ部21の内周面に設けられ、下部マウント2に対して上部マウント3を捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段5と、両マウント2、3の間に挟まれた状態で設けられ、溶液Wを流動させる2本のパイプ(管路)6、7と、両マウント2、3の間に挟まれた状態で設けられ、溶液Wの温度を測定する温度センサ(温度検出部)8とを備えている。
【0033】
下部マウント2は、図4から図7に示すように、アルミ等の金属材料から形成されており、平板状に形成され、試料Sを載置する載置面10aを有する底板10と、載置された試料Sの周囲を囲むように底板10上に設けられ、囲んだ内側に溶液Wを貯留可能な環状の壁部11とで一体的に成型されている。
底板10は、上面視円形となるように形成されており、底板10の中心には光学的に透明なカバーガラス(透明板)12が嵌め込まれている。また、壁部11で囲まれた上面が載置面10aとなっている。
また、底板10には、壁部11の外側に位置する領域に、後述する治具50の固定用ピン51が嵌合する貫通孔13が2箇所形成されている。この2つの貫通孔13は、カバーガラス12を間に挟んで対向するように形成されている。
【0034】
壁部11は、載置面10aに対して直交する方向であって、試料Sの周囲を囲むように上面視円形となるように形成されている。また、壁部11の外周面には、後述する3つの平行ピン22(複数の突起)を周方向にそれぞれ案内する3つの案内溝14が周方向に均等に(120度間隔毎に)形成されている。また、壁部11の一部は、上記2本のパイプ6、7及び上記温度センサ8用の配線8bを保護する保護チューブ8aを通すための切り欠き部15が形成されている。
【0035】
上部マウント3は、図8から図10に示すように、アルミ等の金属材料から形成されており、中心に開口20aを空けた状態で平板状に形成され、壁部11の上面に接する上板20と、該上板20の外縁から略90度折曲されるように形成され、壁部11の外周面に接するフランジ部21とで一体的に成型されている。
フランジ部21の内周面には、周方向に均等に(120度間隔毎に)配された3つの平行ピン22が内側に突出するように設けられている。そして、この3つの平行ピン22を下部マウント2の案内溝14の始点14aに位置させた状態で、上部マウント3を下部マウント2に捩じ込むことで、平行ピン22が案内溝14に案内されながら上部マウント3と下部マウント2とが徐々に組み合わさるようになっている。そして、平行ピン22を案内溝14の終点14bまで案内させたときに、下部マウント2と上部マウント3とが嵌合固定されるようになっている。即ち、平行ピン22及び案内溝14は、上記嵌合手段5を構成している。
【0036】
また、フランジ部21は、下部マウント2の壁部11と同様に、2本のパイプ6、7及び保護チューブ8aを通すための切り欠き部23が形成されている。なお、この切り欠き部23の位置は、下部マウント2と上部マウント3とを嵌合固定したときに、下部マウント2の切り欠き部15と同じ位置にくるように形成されている。更に、フランジ部21の外周面は、ローレット処理がなされて凹凸状に形成されている。これにより、フランジ部21を滑り難い状態で把持できると共に、把持し易くなっている。
【0037】
また、上部マウント3及び下部マウント2には、図4及び図8に示すように、平行ピン22と案内溝14の始点14aとを位置決めさせるマーキング30がそれぞれ印されている。このマーキング30は、下部マウント2及び上部マウント3の表面を削って印したものでも構わないし、印刷やシール等により印されたものでも構わない。本実施形態では、上部マウント3の上板20及び下部マウント2の表面をライン状に削ってマーキング30を印した例を示している。
【0038】
押さえ部材4は、図11に示すように、試料Sと上部マウント3との間に配され、壁部11の内周面に接すると共に壁部11と略同じ高さになるように形成された環状体である。具体的には、凹み40aを有するように断面コの字状に形成された環状のリング部40と、該凹み40a内に取り付けられ、フッ素ゴム等からなる環状のOリング41とを備えている。そして、押さえ部材4は、Oリング41を試料S側に向けた状態で、下部マウント2に組み合わされるようになっている。
また、この押さえ部材4は、リング部40の上面が上部マウント3の上板20に押さえつけられることで、試料Sを載置面10aに向けて所定の力で押し付けるようになっている。
【0039】
更にこの押さえ部材4には、図1に示すように、上述した2本のパイプ6、7と保護チューブ8aとが3本隣接して並ぶように固定されている。2本のパイプ6、7のうち、一方のパイプ6は基端側から溶液Wが供給されて、壁部11の内側に溶液Wを供給する供給用のパイプである。また、他方のパイプ7は、壁部11の内側に貯留された溶液Wを基端側に排出する排出用のパイプである。また、これら2本のパイプ6、7は、先端側が試料S側に向けて屈曲されており、試料Sに近い位置で溶液Wの供給及び排出を行えるようになっている。
なお、これら両パイプ6、7の基端側は、溶液Wの供給及び排出を行う図示しない溶液W供給排出部に接続されている。
【0040】
また、保護チューブ8aの先端には、バイメタル等の温度センサ8が取り付けられており、該温度センサ8の基端側に電気的に接続された配線8bが、保護チューブ8a内を通って基端側まで延びている。なお、この温度センサ8も同様に、先端が試料S側に向けて屈曲されており、試料Sに近い位置で溶液Wの温度を検出するようになっている。
【0041】
次に、このように構成された液中セル1を利用して試料Sを液中観察する場合について、説明する。
なお、本実施形態では、上部マウント3を固定する際に、下部マウント2を図1から図3に示す治具50に固定した状態で行う場合を例にして説明する。
この治具50は、アルミ等の金属材料により上面視円形となるように形成されており、上面に下部マウント2の底板10を載置できるようになっている。また、上面には、下部マウント2の底板10に形成された2つの貫通孔13にそれぞれ挿通される2つの固定用ピン51が取り付けられている。これにより、下部マウント2を上面に載置したときに、下部マウント2が外力を受けて動かないようになっている。
【0042】
まず、下部マウント2を指で把持して、治具50の上面に下部マウント2を載置する。この際、治具50の固定用ピン51を下部マウント2の貫通孔13内に挿通させるように載置する。これにより、下部マウント2は水平方向に位置決めがされて、外力を受けても移動しないように確実に保持された状態となる。なお、治具50の上面には、下部マウント2を挟んで表面が削られた段部52が形成されているので、下部マウント2を載置する直前まで指で把持することができる。
【0043】
下部マウント2を固定した後、底板10の載置面10a上に試料Sを載置する。この際、載置された試料Sは、環状に形成された壁部11によって周囲が囲まれている。また、試料Sは、底板10に設けられたカバーガラス12の上に載置された状態となっている。
試料Sの載置後、Oリング41を試料Sに向けた状態で押さえ部材4を下部マウント2に組み込む。即ち、壁部11の内周面にリング部40の外周面が接触するように、押さえ部材4を組み込む。この際、押さえ部材4に固定された2本のパイプ6、7と保護チューブ8aとが、壁部11の切り欠き部15内に位置するように下部マウント2に組み込む。これにより、2本のパイプ6、7及び保護チューブ8aは、下部マウント2に干渉することない。
【0044】
なお、この時点では、Oリング41が単に試料Sの外縁に乗っているだけの状態であるので、試料Sを載置面10aに押し付けてはいない。また、押さえ部材4の高さは、壁部11と略同じ高さになっている。
【0045】
押さえ部材4を組み込んだ後、下部マウント2に対して上部マウント3を嵌合固定して、両マウント2、3を一体的に組み合わせる。
即ち、まず、フランジ部21を下部マウント2側に向けた状態で、フランジ部21の内周面に取り付けられた平行ピン22が、壁部11の外周面に形成された案内溝14の始点14aに位置するように、両マウント2、3を重ね合わせる。この際、両マウント2、3には、それぞれ位置決めのためのマーキング30が印されているので、該マーキング30同士を合わせるだけで、簡単に平行ピン22の位置合わせを行うことができる。
【0046】
なお、この位置合わせを行ったときに、上部マウント3の切り欠き部23が下部マウント2の切り欠き部15の位置と同じ位置にくるように形成されているので、2本のパイプ6、7及び保護チューブ8aと上部マウント3とが干渉することはない。更に、この上部マウント3の切り欠き部23は、図8に示すように、以降の捩じ込みに必要なストロークを考慮して長めに設計されているので、捩じ込み操作中においても上部マウント3と2本パイプ6、7及び保護チューブ8aとが干渉することはない。
【0047】
平行ピン22と案内溝14の始点14aとの位置が合わさった後、フランジ部21の外周面を把持して上部マウント3を下部マウント2に対して捩じ込む。これにより、フランジ部21の内周面と壁部11の外周面が摺動すると共に、平行ピン22が案内溝14に案内されながら上部マウント3が捩じ込まれていく。よって、下部マウント2と上部マウント3とが、徐々に組み合わされる。そして、平行ピン22が、案内溝14の終点14bに達したときに、上部マウント3の上板20と下部マウント2の壁部11の上面とが接触して、両マウント2、3が完全に嵌合固定された状態となる。
【0048】
このように、平行ピン22及び案内溝14を利用したバイヨネット結合により、両マウント2、3を固定するので、がたつき等がなく容易に固定を行える。また、嵌合固定を行ったときに、上部マウント3が壁部11に接触するので、該上部マウント3が必要以上に捩じ込まれることはなく、両マウント2、3の締め付け力を一定にすることができる。
【0049】
一方、押さえ部材4は、上部マウント3が徐々に固定されるにしたがって、上板20によってリング部40が押し付けられるので、Oリング41を介して試料Sを確実に載置面10aに押し付けて固定することができる。特に、上部マウント3と押さえ部材4とは、別々に構成されているので、上部マウント3を捩じ込み操作したとしても、上部マウント3につられて押さえ部材4が周方向に移動(スライド)し難い。よって、押さえ部材4は、上部マウント3の捩じ込み操作に影響を受けることなく、単に試料Sを上方から押さえつけるように移動する。従って、試料Sの表面に傷等が付くことを防止しながら、両マウント2、3の間に挟み込んだ状態で確実に固定することができる。
【0050】
試料Sを固定した後、一方のパイプ6を介して溶液供給排出部から溶液Wを供給して、壁部11で囲まれた内側の領域に溶液Wを貯留させる。これにより、試料Sは、溶液W内に貯留された状態となる。
そして、図12に示すように、上部マウント3の開口20aを通して走査型プローブ顕微鏡の液中用カンチレバーRを入れて試料Sにアクセスですることで、溶液W内に浸された試料Sを液中観察することができる。この際、押さえ部材4は、試料Sの外縁を押さえているので、液中用カンチレバーRによる測定に影響を与えることはない。
【0051】
上述したように、本実施形態の液中セル1によれば、下部マウント2に対して上部マウント3を捩じ込むだけ(クイック式)で、両マウント2、3を嵌合手段5により固定できるので、誰でも簡便且つ短時間で試料Sを固定することができる。また、試料Sを短時間で固定できるので、大気中に触れる時間を極力短くでき、乾燥や酸化等の変質を発生する確率が低減される。その結果、液中観察の測定精度を向上させることができる。
また、従来のものとは異なり、ネジを使用しないので、誤ってネジが外れて試料表面に触れてしまう可能性がない。そのため、試料Sが汚染されることがない。このことからも、測定精度を向上させることができる。また、試料Sを固定する毎に余計な注意(ネジが外れないように注意する等)を払わなくて済むので、取り扱いが容易になる。
【0052】
また、押さえ部材4が確実に試料Sを載置面10aに押し付けて固定しているので、単に試料Sを溶液W内に沈める従来のものとは異なり、試料Sが浮いてしまうことはない。よって、比重が大きなものを使用する等の試料Sの制限がなくなり、使い易さが向上する。
このように、誰でも簡便、確実且つ短時間に試料Sを固定することができ、液中測定の測定精度が向上すると共に取り扱いが容易になる。
【0053】
また、上部マウント3を捩じ込む際に、下部マウント2は治具50によって水平方向への移動が規制された状態で固定されているので、治具50を介して手で保持し易い。そのため、上部マウント3をより円滑に捩じ込み操作し易くなる。更に、上部マウント3のフランジ部21の外周面が、ローレット処理により凹凸状に形成されているので、手で把持し易く、また、滑り難くなる。このことからも、上部マウント3を捩じ込み易くなり、作業性が向上する。
【0054】
また、上部マウント3を固定させた後、一方のパイプ6を利用して速やかに溶液Wを供給できるので、大気に触れる時間を極力短くすることができる。また、他方のパイプ7を利用して溶液Wの循環も可能であるので、長期的な試料Sの観察を行うことができ、より多角的な観察を行うことができる。
更に、温度センサ8により、溶液Wの温度を常に正確に把握できるので、最適な温度の溶液W内で液中測定を行うことができる。よって、測定結果の信頼性をさらに向上することができる。
【0055】
更には、下部マウント2の底板10には、カバーガラス12が設置可能なので、上述した試料Sの観察中に下部マウント2の下方から図示しない顕微鏡装置により、試料Sを顕微鏡観察することができる。これにより、カバーガラス12の交換で複数の試料Sをより多角的に観察することができる。
【0056】
なお、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、フランジ部21の内周面に平行ピン22を設けると共に、壁部11の外周面に案内溝14を形成して嵌合手段5を構成したが、この場合に限らず、フランジ部21の内周面に案内溝14を形成し、壁部11の外周面に平行ピン22を設けて嵌合手段5を構成しても構わない。この場合においても、同様の作用効果を奏することができる。また、平行ピン22及び案内溝14をそれぞれ3つ設けた場合を例にしたが、3つに限られず、それぞれ2つ以上の複数であれば構わない。
【0058】
また、押さえ部材4と上部マウント3とを別々に構成したが、図13に示すように、上部マウント3と押さえ部材4とを一体的に成型した上部マウント60としても構わない。この場合には、構成品の数を減らすことができると共に、上述したように押さえ部材4を単独で下部マウント2に組み合わせる必要はないので、組み立てが容易になる。よって、より短時間で試料Sを固定することができる。
【0059】
また、上記実施形態では、2本のパイプ6、7を利用して溶液Wを供給したが、パイプ6、7はなくても構わない。この場合には、上部マウント3を固定した後、開口20aを通して壁部11で囲まれた内側の領域内に溶液Wを注入して、試料Sを溶液W内に浸しても構わない。但し、より速やかに溶液Wを供給できる点で、上述したようにパイプ6、7を備えることが好ましい。
【0060】
また、上部マウント3を下部マウント2に組み合わせる際に、下部マウント2を予め治具50に固定したが、治具50は必須ではなく、治具50を利用せずに両マウント2、3を固定しても構わない。但し、下部マウント2をしっかりと保持できるので、治具50を利用することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る液中セルの一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す断面矢視A−A図である。
【図3】図1に示す矢印B方向から見た液中セルの側面図である。
【図4】図1に示す液中セルを構成する下部マウントの上面図である。
【図5】図4に示す断面矢視C−C図である。
【図6】図4に示す矢印D方向から見た下部マウントの側面図である。
【図7】図4に示す矢印E方向から見た下部マウントの側面図である。
【図8】図1に示す液中セルを構成する上部マウントの上面図である。
【図9】図8に示す断面矢視F−F図である。
【図10】図8に示す矢印G方向から見た上部マウントの側面図である。
【図11】図1に示す液中セルを構成する押さえ部材の断面図である。
【図12】図1に示す液中セルにより試料を固定し、液中観察を行っている際の模式図である。
【図13】図1に示す液中セルが有する上部マウントとは異なる。他の上部マウントを利用して試料を固定し、液中観察を行っている際の模式図である。
【符号の説明】
【0062】
S 試料
W 溶液
1 液中セル
2 下部マウント
3、60 上部マウント
4 押さえ部材
5 嵌合手段
6、7 パイプ(管路)
8 温度センサ
10 底板
10a 載置面
11 壁部
13 貫通孔
14 案内溝
14a 案内溝の始点
14b 案内溝の終点
20 上板
20a 上板の開口
21 フランジ部
22 平行ピン(突起)
30 マーキング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を溶液内に浸した状態で固定する液中セルであって、
平板状に形成され、前記試料を載置する載置面を有する底板と、載置された試料の周囲を囲むように底板上に設けられ、囲んだ内側に前記溶液を貯留可能な環状の壁部とを有する下部マウントと、
中心に開口を空けた状態で平板状に形成され、前記壁部の上面に接する上板と、該上板の外縁から略90度折曲されるように形成され、前記壁部の外周面に接するフランジ部とを有し、前記下部マウントに対して上方から嵌合可能な上部マウントと、
該上部マウントが嵌合したときに、前記試料の外縁に接触して該試料を上方から前記載置面に押し付ける押さえ部材とを備え、
前記壁部の外周面及び前記フランジ部の内周面には、前記下部マウントに対して前記上部マウントを捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段が設けられていることを特徴とする液中セル。
【請求項2】
請求項1に記載の液中セルにおいて、
前記嵌合手段は、前記壁部の外周面又は前記フランジ部の内周面のいずれか一方に形成された複数の突起と、他方に形成されて複数の突起を周方向に案内する案内溝とを備え、突起を案内溝の終点まで案内させたときに、前記下部マウントと前記上部マウントとが嵌合固定されることを特徴とする液中セル。
【請求項3】
請求項2に記載の液中セルにおいて、
前記下部マウント及び前記上部マウントには、前記複数の突起を前記案内溝の始点に位置決めさせるマーキングがそれぞれ印されていることを特徴とする液中セル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記押さえ部材は、前記上部マウントに一体的に成型されていることを特徴とする液中セル。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記押さえ部材は、前記壁部の内周面に接すると共に壁部と略同じ高さに形成された環状体であり、
前記上部マウントは、前記上板を介して前記押さえ部材を前記下部マウントに向けて押し付けていることを特徴とする液中セル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記フランジ部の外周面は、凹凸状に形成されていることを特徴とする液中セル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記底板の中心には、載置された前記試料を下方から視認する光学的に透明な透明板が設けられていることを特徴とする液中セル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記底板には、前記壁部の外側に位置する領域に、少なくとも2つの貫通孔が形成されていることを特徴とする液中セル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液を流動させる管路を備えていることを特徴とする液中セル。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液の温度を検出する温度センサを備えていることを特徴とする液中セル。
【請求項1】
試料を溶液内に浸した状態で固定する液中セルであって、
平板状に形成され、前記試料を載置する載置面を有する底板と、載置された試料の周囲を囲むように底板上に設けられ、囲んだ内側に前記溶液を貯留可能な環状の壁部とを有する下部マウントと、
中心に開口を空けた状態で平板状に形成され、前記壁部の上面に接する上板と、該上板の外縁から略90度折曲されるように形成され、前記壁部の外周面に接するフランジ部とを有し、前記下部マウントに対して上方から嵌合可能な上部マウントと、
該上部マウントが嵌合したときに、前記試料の外縁に接触して該試料を上方から前記載置面に押し付ける押さえ部材とを備え、
前記壁部の外周面及び前記フランジ部の内周面には、前記下部マウントに対して前記上部マウントを捩じ込みながら嵌合させる嵌合手段が設けられていることを特徴とする液中セル。
【請求項2】
請求項1に記載の液中セルにおいて、
前記嵌合手段は、前記壁部の外周面又は前記フランジ部の内周面のいずれか一方に形成された複数の突起と、他方に形成されて複数の突起を周方向に案内する案内溝とを備え、突起を案内溝の終点まで案内させたときに、前記下部マウントと前記上部マウントとが嵌合固定されることを特徴とする液中セル。
【請求項3】
請求項2に記載の液中セルにおいて、
前記下部マウント及び前記上部マウントには、前記複数の突起を前記案内溝の始点に位置決めさせるマーキングがそれぞれ印されていることを特徴とする液中セル。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記押さえ部材は、前記上部マウントに一体的に成型されていることを特徴とする液中セル。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記押さえ部材は、前記壁部の内周面に接すると共に壁部と略同じ高さに形成された環状体であり、
前記上部マウントは、前記上板を介して前記押さえ部材を前記下部マウントに向けて押し付けていることを特徴とする液中セル。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記フランジ部の外周面は、凹凸状に形成されていることを特徴とする液中セル。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記底板の中心には、載置された前記試料を下方から視認する光学的に透明な透明板が設けられていることを特徴とする液中セル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記底板には、前記壁部の外側に位置する領域に、少なくとも2つの貫通孔が形成されていることを特徴とする液中セル。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液を流動させる管路を備えていることを特徴とする液中セル。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の液中セルにおいて、
前記下部マウントと前記上部マウントとの間に挟まれた状態で設けられ、前記溶液の温度を検出する温度センサを備えていることを特徴とする液中セル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−121191(P2007−121191A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316287(P2005−316287)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/物性・生体情報ナノマッピングシステム(機能性ナノプローブ)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/物性・生体情報ナノマッピングシステム(機能性ナノプローブ)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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