説明

液体コーヒーの安定化方法

【課題】液体コーヒーの成分変化を可能な限り抑制し、もって製品の賞味期限を改善すること。
【解決手段】液体コーヒーを加熱処理して、該液体コーヒーに含まれる酸成分前駆体を酸成分に変化せしめ、該加熱処理した液体コーヒーにアルカリを添加して、前記工程で生成した酸成分を中和することを含む、安定化された液体コーヒーを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体コーヒーの製造法及び当該方法にて製造された液体コーヒーに関する。詳しくは、保存安定性を向上させた液体コーヒー及びその製造法に関する。さらに詳しくは、液体コーヒーを保存する間の酸味の増加を抑制して風味の保持期間を向上させ、製造初期品質を長期に渡って保持することができる液体コーヒーの製造法である。
【背景技術】
【0002】
液体コーヒー製品は、水分を多量に含むほか、酸成分、酸成分前駆体、香味成分、糖類、アミノ酸、タンパク質、脂質など多種類の成分を含む複雑な系である。特に液体コーヒー製品を保存する間に、酸成分前駆体が加水分解を受けることにより酸成分が生成することがあり、これにより液体コーヒーのpHが低下し、官能的には酸味が増加して好ましくないフレーバーとなりうる。このような成分変化は、保存中の液体コーヒーの商品価値を低下させる最大の要因となっている。それゆえ、液体コーヒー製品の酸味増加を抑制する方法について、種々の提案がされている。
【0003】
例えば、炭酸水素ナトリウムにより液体コーヒー製品の初期pHを上げる方法(特許文献1)があるが、このように初期pHを上げても保存中に依然としてpHの低下が生じうる。強アルカリでpHを上げ酸成分の前駆体を酸成分に変換した後に酸を添加しpHを戻す方法(特許文献2)があるが、添加したアルカリと酸により生成した塩により液体コーヒーの風味に影響する恐れがある。弱アルカリと酸とを添加し、バッファー作用により、酸味の増加を抑制する方法(特許文献3)においても、多量の弱アルカリ、酸を使うことから風味への影響が懸念される。
【特許文献1】特開平6−292509号広報
【特許文献2】特開平10−215771号広報
【特許文献3】特開2004−187517号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、液体コーヒーの成分変化を可能な限り抑制し、もって製品の賞味期限を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、液体コーヒーを加熱処理し、次いで加熱処理後の該液体コーヒーにアルカリを添加することにより、該液体コーヒーを長期に渡り保存可能になることを見いだし、本発明を完成させるに至った。そこで本発明の態様は、以下の通りである:
1.液体コーヒーを加熱処理して、該液体コーヒーに含まれる酸成分前駆体を酸成分に変化せしめ、該加熱処理した液体コーヒーにアルカリを添加して、前記工程で生成した酸成分を中和することを含む、安定化された液体コーヒーを製造する方法。
2.該加熱処理に先立ち、該液体コーヒーにアルカリを添加する工程をさらに含む上記1に記載の方法。
3.該加熱処理の後に、該加熱処理した液体コーヒーにコーヒー香り成分を添加する工程をさらに含む上記1又は2に記載の方法。
4.該加熱処理の温度が120℃以上150℃以下であり、処理時間を一時間以内とする、上記1〜3のいずれか1項に記載の方法。
5.該液体コーヒーがミルクを含まない無糖あるいは加糖のブラックコーヒーである上記1〜4のいずれか1項に記載の方法。
6.該加熱処理の温度が135℃以上145℃以下であり、処理時間を1分間以上10分間以内とする上記1〜5のいずれか1項に記載の方法。
7.上記1〜6のいずれか1つに記載の方法により製造される液体コーヒーであって、初期pHが5.2〜6.8である、液体コーヒー。
8.室温に1.5ヶ月間保存した後のpHの低下値が0.3以下である、上記7に記載の液体コーヒー。
9.室温に1.5ヶ月間保存した後の終点pH6.1までの滴定酸度の上昇値が、0.9 [ml-0.1 mol NaOH / g-ss]以下である、上記7または8に記載の液体コーヒー。
10.室温に6ヶ月間保存した後の含有キナ酸の増加率が、該保存開始前と比較して7%以下である、上記7〜9のいずれか1つに記載の液体コーヒー。
11.上記1〜6のいずれか1つに記載の方法で製造し、室温で1.5ヶ月間保存後の液体コーヒーを室温に4.5ヶ月間保存した後の含有キナ酸の増加率が、該4.5ヶ月間保存開始前と比較して4%以下である、上記7〜9のいずれか1つに記載の液体コーヒー。
12.上記7〜11のいずれか1つに記載の液体コーヒーに甘味料、香料、乳類、及びこれら混合物より選択される添加物を加えた液体コーヒー製品。
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において「液体コーヒー」とは、コーヒー生豆を焙煎、粉砕し、これを湯又は水を用いて抽出し、適宜濃縮又は希釈することにより得られたものを指す。用いるコーヒー生豆はアラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種、これらの交雑種等いずれの種を用いても良く、またこれらをブレンドして用いても良い。コーヒー生豆の焙煎は、直火、熱風、遠赤外線、マイクロ波、炭火、セラミック、過熱水蒸気等いかなる焙煎法を用いても良く、焙煎度は浅煎り〜深煎りにわたりライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアン、炭焼きのいかなる焙煎度のものも使用できる。この焙煎コーヒー豆を、一般的な粉砕機、ロールミルなどを用いて粉砕することにより得た、焙煎粉砕コーヒー(粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状のものを含む)を用いて、水又は湯又は加圧熱水により抽出する。抽出方法は一般的な濾過式のほか煮沸法、浸漬法、また加圧式抽出法などを用いることができる。
【0007】
このように得られた液体コーヒーは、水分のほか酸成分、酸成分前駆体、香味成分、糖類、アミノ酸、タンパク質、脂質など多種類の成分を含む系であり、通常可溶性固形分濃度(ブリックス濃度)0.5〜50%、pH4.5〜6.0のものである。このうち特に「酸成分前駆体」とは、加熱処理や時間の経過に伴い酸成分に変化しうる成分のことを指し、例えば水により加水分解を受けて酸を生成するエステル類、エーテル類、ラクトン類等を含む。当該「酸成分前駆体」の酸成分への変化が液体コーヒーの風味に大きな影響をもたらす。液体コーヒー中には元来酸成分(例えば、クロロゲン酸類、キナ酸、カフェ酸、及び他の有機酸類等)が含まれており、液体コーヒーの風味を評価する上で酸味は重要な要素である。しかし酸成分の含有量が多過ぎると、いわゆる酸っぱいコーヒーとなり、これを嫌う消費者も多い。液体コーヒー製造直後は消費者に最も好まれる適切な酸味に調整することが可能であるが、これを貯蔵するうちに酸成分前駆体が酸成分に変化していくと、液体コーヒーの酸味が増して商品価値が低下し、ついには飲用に耐えない程の酸味を呈する場合もありうる。このような酸味増加の観点から、従来液体コーヒー製品の賞味期限は一般的に6ヶ月とされてきた。従って液体コーヒー中の酸成分の生成の制御は、製品の賞味期限を決定する際に重要となる。
【0008】
本発明においては、上記の通り得られた液体コーヒーをまず加熱処理する。液体コーヒーを加熱することにより液体コーヒー中に含まれる酸成分前駆体が水と反応して加水分解し、酸成分に変化する。酸成分前駆体を酸成分に変化させるために好ましくは100℃〜180℃、さらに好ましくは120℃〜150℃、最も好ましくは135℃〜145℃に加熱することができる。液体コーヒーの加熱処理は所定量の反応器に入れて加熱するほか、コーヒー液をプレート式又はチューブ式の熱交換器を通して所定の温度まで加熱し、その温度を保ったままさらに金属管又はステンレス管の中をコーヒー液が通過するまでの時間保持することによっても行うことができる。液体コーヒーを加熱し温度を保ったまま金属管内部に通過させる場合、流速又は金属管の長さを調節することにより加熱時間を調整することができ、一般には数秒間〜10分間、好ましくは1分間〜7分間、最も好ましくは1.5分間〜6分間加熱することができる。液体コーヒーを加熱処理すると、酸成分の濃度が増し、これに伴い液体コーヒーのpHが低下して4.0〜5.5になる。
【0009】
酸成分濃度の増加した液体コーヒーに次いでアルカリを添加する。アルカリを添加すると酸成分と中和して塩が形成され、これに伴いpHが上昇する。液体コーヒー中に含まれる酸成分がほぼ中和する程度の量のアルカリを添加することが好ましく、そのためには液体コーヒーのpHを5〜7、好ましくは5.5〜6.5程度に調節するとよい。アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような強アルカリを使用することも可能であるが、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの弱アルカリを使用することが好ましい。
【0010】
pHを調整した液体コーヒーは、必要に応じて乳、糖類、香料、着色料等と混合し、その後当業者に周知の方法により必要な殺菌処理をして、容器詰めして最終製品とする。
このような方法で得られた液体コーヒー製品は、元来液体コーヒー中に含有されていた酸成分前駆体をほぼ全て分解したことになる、すなわち、酸成分に変わりうる成分をほぼ全てなくしたことになるので、貯蔵中の酸成分の増加が抑制され、もって貯蔵期間が大幅に延長されたものとなる。
【0011】
本発明の方法に先立ち、まず液体コーヒーにアルカリ成分を添加し、ついで加熱処理をすることができる。まずアルカリを添加すると、液体コーヒーのpHは6〜7程度にまで上昇するが、この状態で加熱処理すると、液体コーヒーに含まれる酸成分前駆体を効率的に消失させることが可能となる。
【0012】
また加熱処理によりコーヒーの香りに影響が出る虞がある場合には、本発明の方法における加熱処理の後に、液体コーヒーにコーヒー香り成分を添加するのが好ましい。コーヒー香り成分とは、コーヒー独特の香りを構成する揮発性の成分を取り出したものを指し、各種アルデヒド類、ピラジン類、エステル類、ケトン類などの混合物であると考えられている。このような香り成分を加熱処理後の液体コーヒーに戻してやることにより、コーヒーの香りを減少させることなく酸成分前駆体のみ消失させた液体コーヒー製品を得ることが可能となる。
【0013】
本発明の方法により製造した液体コーヒーは、初期pHが5.2〜6.8であり、これを室温に1.5ヶ月間保存した後のpHの低下値は好ましくは0.3以下である。また本発明の方法により製造した液体コーヒーを室温に1.5ヶ月間保存した後、終点pH6.1までの滴定酸度の上昇値は、好ましくは0.9[ml-0.1 mol NaOH / g-ss]以下である。
【0014】
本発明の方法により製造した液体コーヒーを室温に6ヶ月間保存した後の含有キナ酸の増加率は、該保存開始前と比較して好ましくは7%以下である。
さらに本発明の方法で製造した液体コーヒーを製造後1.5ヶ月間室温で保存の後、さらに室温に4.5ヶ月間保存した後の含有キナ酸の増加率は、該4.5ヶ月間保存開始前と比較して好ましくは4%以下である。
【0015】
本発明において「保存」という場合は、液体コーヒーを殺菌済みのペットボトル等に詰め、栓を開封せずに所定の温度で保管しておくことを意味する。
なお、上記において「室温で1.5ヶ月間保存」の状態に相当する加速試験は、「40℃で1週間保存」であり、「室温で6ヶ月間保存」の状態に相当する加速試験は「40℃で4週間保存」である。したがって、上記のpHの低下値や含有酸の増加率等の値は、それぞれに対応する加速試験によっても得ることができる。
【0016】
なお、本明細書において「液体コーヒー製品」という場合は、「コーヒー飲料などの表示に関する公正競争規約」に基づく「コーヒー」「コーヒー飲料」「コーヒー入り清涼飲料」及び「乳飲料」のいずれも含むものとする。
【0017】
また本発明による方法で製造することができる液体コーヒー製品は、例えば瓶詰め、缶詰、レトルトパウチ品及びPETボトル詰めのいずれも含みうるが、特にPETボトル詰め製品を製造する場合に大きな効果を発揮することが期待される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法により製造した液体コーヒー製品は、貯蔵中における酸成分生成が抑制されるので、貯蔵中の風味の変化が最小限に抑えられ、よって貯蔵期間(すなわち賞味期限)を延長することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の方法を実施する方法を具体的に説明する。
本発明の方法に使用する液体コーヒーは、食品工業的に液体コーヒーを得る通常の方法を用いて製造することができる。使用するコーヒー豆は品種、産地、品質を問わず、コーヒー豆の焙煎法、粉砕法及び抽出法も問わない。得られた液体コーヒーのpHはだいたい4.5〜6.0程度である。
【0020】
この液体コーヒーを120〜150℃に加熱し温度を保持したまま金属管内部を通過させることにより、加熱処理する。金属管の長さおよび金属管内部を通過させる流速を調整して加熱処理時間を調整することができ、例えば1分間〜10分間程度加熱することが好ましい。加熱処理して得られた液体コーヒーのpHは約4〜5.5程度にまで低下している。これは液体コーヒー中に含まれている酸成分前駆体が加熱処理により加水分解を受け、酸成分が生成したからである。
【0021】
ついでこのように生成した酸成分を中和すべく、アルカリ成分を添加する。添加するアルカリ成分は、炭酸水素ナトリウムや炭酸カルシウム等食品工業上許容可能な弱アルカリ成分を使用するのが好ましい。かかる弱アルカリ成分を添加して、次に述べる殺菌処理後の液体コーヒーのpHが約5〜7、好ましくは5.5〜6.8になるようにpHを戻す。
加熱処理及びアルカリ処理を経た液体コーヒーを必要に応じて水で希釈して好ましくはブリックス濃度1%〜3%に調整し、甘味料、香料、乳類を適宜加え、殺菌処理(超高温瞬間殺菌法(UHT殺菌法)等による)を施して容器詰めして液体コーヒー製品とすることができる。
【0022】
また、別の態様として、熱処理に先立ち、アルカリを先に添加した後に熱処理をかけることができる。この場合には、熱処理と殺菌とを兼ねることも可能であるため、殺菌プロセスを省略しそのまま容器詰めして液体コーヒー製品とすることができる。
別の態様として、本発明の方法を実施するに先立ち、揮発性成分分離装置等を使用して液体コーヒーからコーヒー香り成分を予め分離しておくことができる。このように分離した揮発性コーヒー香り成分を冷蔵又は冷凍保存しておくことが望ましい。本発明の方法にて液体コーヒーを加熱処理する間に、揮発性のコーヒー香り成分が揮発してしまう場合があるが、このような場合であっても予め保存しておいたコーヒー香り成分を再度戻してやることにより、コーヒー本来の香りを減少させることなく酸成分前駆体のみ消失させた液体コーヒー製品を得ることが可能となる。なおコーヒー香り成分は、液体コーヒーから予め分離しておいたものを用いる他、市販のコーヒー香り成分を用いることもまた可能である。
【実施例】
【0023】
比較実施例1
コロンビア、ブラジル、インドネシアをブレンドした中深煎りコーヒー豆を中細引きに粉砕し、加圧熱水で抽出してブリックス濃度10%のコーヒー抽出物を得た。この抽出物を濃度1.55%になるように水で希釈し、殺菌後のpHが5.7になるように炭酸水素ナトリウム(東ソー株式会社)を加え、超高温瞬間(UHT)殺菌機で133.8℃、39.4秒間殺菌を行った。500ミリリットルのペット(PET)ボトルに約85℃でホットパック充填を行った。
実施例1
比較実施例1と同様に得たコーヒー抽出物を加熱処理装置(実験用殺菌装置 FPO-7845、日本APV株式会社)を用いて138℃、5分間熱処理をした。加熱処理を加える前のコーヒー抽出物のpHは4.9であった。加熱処理後のpHは4.6に低下した。加熱処理後のコーヒー抽出物をブリックス濃度1.55%まで水で希釈した。次いで殺菌後のpHが5.7になるよう炭酸水素ナトリウム(東ソー株式会社)を添加し、UHT殺菌機にて133.8℃、39.4秒間殺菌を行った。500ミリリットルのペットボトルに約85℃でホットパック充填を行った。
官能試験
比較実施例1及び実施例1の液体コーヒーを40℃の恒温槽に入れ、1,2,3及び4週間経過後のpHをそれぞれ測定し、専門パネルによる官能試験を行った。通常のペットボトル液体コーヒー製品の賞味期限は室温で6ヶ月間であるが、40℃で4週間はこの期間に相当する加速試験となる。
【0024】
結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表中、酸味の強さは、「酸味が認められない…0」から「酸味が非常に強い…10」までの官能評価値である。
表から明らかなとおり、加熱処理を施した液体コーヒーは、pH変化が少なく、また酸味の上昇も抑制されている。
実施例2
実施例1と同様に得たコーヒー抽出物に炭酸水素ナトリウムを加えてpHを6.3に調整した。次いで実施例1と同じ加熱処理装置にて138℃、5分間加熱処理を行った。この処理にて液体コーヒーのpHは5.7になった。ブリックス濃度1.55%まで水で希釈し、UHT殺菌機にて133.8℃、39.4秒間殺菌を行った。500ミリリットルのペットボトルに約85℃でホットパック充填を行った。上記と同様の加速試験及び官能試験を行った。結果を表2に示す。
【0027】
実施例2の液体コーヒーは、pH変化が非常に少なく、酸味の上昇も効率的に抑制されている。
【0028】
【表2】

【0029】
また、表3に比較実施例1と実施例2の含有酸類の分析データを示す。
ここで、キナ酸の量について、実施例2は比較実施例1に比べて初期濃度が高く、また保存中の増加が少ない。このことは、加熱処理によりキナ酸の前駆体、たとえばキナ酸ラクトン等がキナ酸に変化しているため保存中の増加がしないことを意味する。加熱処理により生じたキナ酸は、製品化の段階で既に中和しているため、製品の初期の酸味は強すぎず保存中に酸味が増すこともないといえる。
【0030】
【表3】

【0031】
また表4に比較実施例1と実施例2の滴定酸度(終点pH6.1)とキナ酸の40℃保存に伴う変化量のデータを示した。
【0032】
【表4】

【0033】
上記比較実施例2の液体コーヒーを−40℃にて凍結保存したものを初期品質品の対照とし、比較実施例1及び実施例2のサンプルを40℃で1ヶ月間保存したものの嗜好テストを行った。
【0034】
嗜好テストは18人のパネルが各サンプルを飲用し、いずれのサンプルがより好まれるか、比率で表したものである。
結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
比較実施例1の40℃1ヶ月保存品は、−40℃凍結保存品と比較して5%リスクレベルの有意性をもって嗜好の低下が認められた。しかし比較実施例2の40℃1ヶ月保存品は−40℃凍結保存品と同等の嗜好性を維持していた。
実施例3
実施例1と同様に得たコーヒー抽出物から水蒸気蒸留による揮発性成分分離装置(充填塔式気液向流接触型揮発成分分離装置、コトブキテクレックス株式会社)により揮発性コーヒー香り成分と香りを含まないコーヒー成分とに分離した。揮発性の香り成分を冷蔵し、香り成分を含まないコーヒー成分に炭酸水素ナトリウムを添加してpHを6.3に調整し、実施例1と同様に138℃、5分間加熱処理を行った。この処理により揮発性香り成分を含まないコーヒー成分のpHは5.7に低下した。このコーヒー成分に揮発性香り成分を戻し、ブリックス濃度1.55%まで水で希釈した。UHT殺菌機にて133.8℃、39.4秒間殺菌を行った後、500ミリリットルペットボトルに約85℃でホットパック充填を行った。
【0037】
実施例3のサンプルを40℃で保存したときのpH変化及び酸味の変化を表6に示す。
【0038】
【表6】

【0039】
実施例3の液体コーヒーは実施例2のものと同等にpH変化が非常に少なく、また酸味の上昇を抑制することができた。揮発性香り成分を後から添加したため、コーヒー本来の香りを維持した製品を製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体コーヒーを加熱処理して、該液体コーヒーに含まれる酸成分前駆体を酸成分に変化せしめ、該加熱処理した液体コーヒーにアルカリを添加して、前記工程で生成した酸成分を中和することを含む、安定化された液体コーヒーを製造する方法。
【請求項2】
該加熱処理に先立ち、該液体コーヒーにアルカリを添加する工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該加熱処理の後に、該加熱処理した液体コーヒーにコーヒー香り成分を添加する工程をさらに含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該加熱処理の温度が120℃以上150℃以下であり、処理時間を一時間以内とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該液体コーヒーがミルクを含まない無糖あるいは加糖のブラックコーヒーである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該加熱処理の温度が135℃以上145℃以下であり、処理時間を1分間以上10分間以内とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により製造される液体コーヒーであって、初期pHが5.2〜6.8である、液体コーヒー。
【請求項8】
室温に1.5ヶ月間保存した後のpHの低下値が0.3以下である、請求項7に記載の液体コーヒー。
【請求項9】
室温に1.5ヶ月間保存した後の終点pH6.1までの滴定酸度の上昇値が、0.9 [ml-0.1 mol NaOH / g-ss]以下である、請求項7または8に記載の液体コーヒー。
【請求項10】
室温に6ヶ月間保存した後の含有キナ酸の増加率が、該保存開始前と比較して7%以下である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の液体コーヒー。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造し、室温で1.5ヶ月間保存後の液体コーヒーを室温に4.5ヶ月保存した後の含有キナ酸の増加率が、該4.5ヶ月間保存開始前と比較して4%以下である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の液体コーヒー。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の液体コーヒーに甘味料、香料、乳類、及びこれら混合物より選択される添加物を加えた液体コーヒー製品。