説明

液体供給部材、液体供給部材の製造方法、液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】供給路を精度良く形成することができ、印字不良を低減することが可能な液体供給部材を提供する。
【解決手段】第1の部材211と第2の部材220とが樹脂材料からなり、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドに、液体を供給する供給路224が形成され、供給路224の内表面の少なくとも一部は、成形後の樹脂の溶融により平滑化された平滑面250である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに液体を供給する液体供給部材、液体供給部材の製造方法、液体を吐出する液体吐出ヘッド、および液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に記録するための液体を吐出する液体吐出ヘッドの一つとして、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドが知られている。液体供給部材は、液体を吐出する吐出口に液体を供給する供給路を有しており、例えばインクジェット記録ヘッドに用いられる。
【0003】
図10は、従来のインクジェット記録ヘッドの構成を示す図である。
【0004】
図10(a)は、従来のインクジェット記録ヘッドの分解斜視図である。図10(a)に示すインクジェット記録ヘッドH1001は、タンクホルダユニットH1003と、記録素子ユニットH1002で構成されている。タンクホルダユニットH1003は、タンクホルダH1500と供給路プレートH1600とで構成されており、これらは接合される。図10(b)は、タンクホルダH1500の接合面を示し、図10(c)は、供給路プレートH1600の接合面を示す。供給路プレートH1600には、溝H1601が形成され、この溝H1601の周囲がタンクホルダH1500との溶着面H1602となる(図10(c)参照)。タンクホルダH1500と供給路プレートH1600とが接合すると、溝H1601が供給路として機能する。この供給路をインクが流れることによって、記録素子ユニットH1002にインクが供給される。タンクホルダH1500と供給路プレートH1600の接合方法としては、超音波溶着による方法が特許文献1に開示され、レーザー溶着による方法が特許文献2に開示されている。
【0005】
特許文献1に開示された接合方法では、タンクホルダと供給路プレートは、樹脂材料で成形されている。また、供給路プレートの溶着面には、供給路プレートとタンクホルダとを均一に溶着させるための突起物であるエネルギーダイレクタが設けてある。この接合方法では、タンクホルダと供給路プレートとを所定の位置に重ね合わせた状態で固定し、供給路プレート側から超音波振動を与えると、エネルギーダイレクタに超音波振動が集中する。これにより、エネルギーダイレクタ近傍のタンクホルダと供給路プレートの樹脂が溶融し、タンクホルダと供給路プレートが溶着する。その結果、供給路が完成する。
【0006】
一方、特許文献2に開示された接合方法では、供給路プレートは、レーザー光に対して透過性を有する樹脂材料で成形され、タンクホルダは、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂材料で成形されている。この接合方法では、タンクホルダと供給路プレートとを所定の位置に重ね合わせた状態で固定し、供給路プレート側から供給路の周囲にレーザー光を照射する。すると、レーザー光で照射されたタンクホルダの面が発熱して溶融し、タンクホルダと供給路プレートとが溶着する。その結果、供給路を有するインク供給部材が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−283668号公報
【特許文献2】特開2005−096422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2に開示されているようなインク供給部材(液体供給部材)は、樹脂を金型に流し込んで成形するモールド成形により製造されることが一般的である。モールド成形にて製造されたインク供給部材の表面には、通常、0.1〜10μm程度の凹凸がある。この凹凸があるとインク充填時に微小な泡が発生しやすくなるので、インク充填性の向上の妨げとなる。なお、ここでいう、インク充填性の向上とは、供給路内全体にインクを満たした際、微小な泡などがインクに入り込み吐出口に到達するのを抑制することをいう。
【0009】
インク充填性が低下すると、印字中に微小な泡がインク吐出部の吐出口へ到達しやすくなるので、印字不良が多発するという可能性がある。これに対処するために、金型面の凹凸を0.1μm以下にしてインク供給部材表面粗さを小さくし、泡の発生を抑制することが考えられる。しかし、この場合、金型面とインク供給部材との密着性が高まるので、金型からインク供給部材を取り外す際にインク供給部材が損傷し、それによって所望の形状の供給路を高精度に形成することができなくなる恐れが生じる。
【0010】
そこで、本発明は、供給路を精度良く形成することができ、印字不良を低減することが可能な液体供給部材およびその製造方法、ならびに液体吐出ヘッドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明による液体供給部材は、樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材とが接合されることで、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドに、液体を供給する供給路が形成された液体供給部材であって、前記供給路の内表面の少なくとも一部は、成形後の樹脂の溶融により平滑された平滑面である、ことを特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明による液体供給部材の製造方法は、樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材と、を備え、前記第1の部材および前記第2の部材の少なくともいずれか一方は、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドに、液体を供給する供給路となる溝を有する液体供給部材の製造方法であって、前記溝を内側にして前記第1の部材と前記第2の部材とを接合することによって、前記供給路を形成する形成工程を有し、前記形成工程の前または前記形成工程中に、前記第1の部材および前記第2の部材のうち、前記供給路の内表面となる部分の少なくとも一部を溶融させることによって平滑化された平滑面を形成する、ことを特徴とする。
【0013】
また、上記目的を達成するための本発明による液体吐出ヘッドは、液体を吐出する吐出口と、該吐出口に液体を供給する供給路を有する液体供給部材と、を有する液体吐出ヘッドであって、前記液体供給部材は、樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材とが接合されることで前記供給路が形成されており、前記供給路の内表面の少なくとも一部は、成形後の樹脂の溶融により平滑化された平滑面である、ことを特徴とする。
【0014】
また、上記目的を達成するための本発明による液体吐出ヘッドの製造方法は、液体を吐出する吐出口と、該吐出口に液体を供給する供給路を有する液体供給部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記液体供給部材は、樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材と、を備え、前記第1の部材および前記第2の部材の少なくともいずれか一方は液体を吐出する吐出口に液体を供給する供給路となる溝を有しており、前記溝を内側にして前記第1の部材と前記第2の部材とを接合することによって、前記供給路を形成する形成工程を有し、前記形成工程の前または前記形成工程中に、前記第1の部材および前記第2の部材のうち、前記供給路の内表面となる部分の少なくとも一部を溶融させることによって平滑化された平滑面を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1および第2の部材の成形後、第1および第2の部材の供給路の内表面となる部分の樹脂を溶融させることによって、凹凸が抑制された平滑面を形成している。これにより、凹凸が小さい金型面を用いなくても供給路の内表面の平滑性が向上する。よって、供給路を精度良く形成することができ、印字不良を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の液体吐出記録ヘッドの一実施形態を示す図である。
【図2】図1に記載のインクジェット記録ヘッドに設けられた記録素子基板の構成を示す斜視図である。
【図3】実施形態1における第1の部材と第2の部材との接合状態を示す図である。
【図4】実施形態1における平滑面の形成方法を示す断面図である。
【図5】実施形態1において供給路にインクを流した直後の供給路内の状態を示す図である。
【図6】従来の供給路にインクを流した直後の供給路内の状態を図である。
【図7】実施形態2における平滑面の形成方法を示す図である。
【図8】実施形態3における平滑面の形成方法を示す図である。
【図9】実施形態4における平滑面の形成方法を示す図である。
【図10】従来のインクジェット記録ヘッドの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態として、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドを説明する。また、本発明の液体供給部材の一実施形態として、インクジェット記録ヘッドにインクを供給するインク供給部材を説明する。
【0018】
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態を示す図である。図1(a)は、本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態であるインクジェット記録ヘッド20が記録ヘッドカートリッジ10に取り付けられている状態を示す断面図である。図1(b)は、インクジェット記録ヘッド20の分解斜視図である。
【0019】
図1(a)に示すように、記録ヘッドカートリッジ10は、インクジェット記録ヘッド20と、インクジェット記録ヘッド20に着脱可能に設けられ、インクを収容可能なタンク40とから構成されている。記録ヘッドカートリッジ10は、インクジェット記録装置本体(不図示、以下、記録装置本体とする)に設置されているキャリッジ(不図示)に対して着脱可能となっている。
【0020】
インクジェット記録ヘッド20は、図1(b)に示すように、電気配線基板340と記録素子基板H1101とからなる記録素子ユニット300と、タンクホルダユニット200で構成されている。インクジェット記録ヘッド20では、記録装置本体からの電気信号に応じて記録素子が駆動することで、タンク40から供給されたインクが記録素子基板H1101に設けられた吐出口から吐出する。なお、記録素子としては例えば、発熱抵抗素子やピエゾ素子などが挙げられるが、本実施形態では発熱抵抗素子を用いることとする。
【0021】
まず、記録素子ユニット300について説明する。
【0022】
記録素子ユニット300は、図1(b)に示すように、電気配線基板340と記録素子基板H1101とからなる。電気配線基板340は、記録装置本体に電気的接続される接続端子341と、記録素子基板H1101に電気的接続される電極端子(不図示)と、接続端子341と電極端子とを接続する配線(不図示)と、記録素子基板H1101を組み込むための開口部を有する。電気配線基板340と記録素子基板H1101との接続は、例えば次のように行われる。記録素子基板H1101の電極部と電気配線基板340の電極端子に、導電性を有する熱硬化接着樹脂を塗布した後、電極部と電極端子をヒートツールにて一括で加熱とともに加圧して、電気的に一括接続する。なお、電極部と電極端子との電気接続部分は、封止剤により封止されることによりインクによる腐食や外的衝撃から保護されている。
【0023】
図2は、インクジェット記録ヘッド20に設けられたインク吐出部である記録素子基板H1101の構成を示す斜視図である。図2では、記録素子基板H1101の構成をわかりやすくするために、内部の一部を露出して示している。
【0024】
図2に示すように、記録素子基板H1101は、シリコン基板H1110と、シリコン基板H1110に搭載されている吐出口形成部材H1106と、を有する。シリコン基板H1110は、厚さが0.5mm〜1.0mmであり、異方性エッチングによりインク供給口H1102が形成されている。また、シリコン基板H1110上には、発熱抵抗素子H1103が形成されている。吐出口形成部材H1106には、フォトリソグラフィー技術を用いて、発熱抵抗素子H1103に対向する吐出口H1107が形成されている。また、シリコン基板H1110上には、発熱抵抗素子H1103を駆動させるための電気信号や電力を供給するための電極部である金製のバンプH1105が設けられている。
【0025】
次に、タンクホルダユニット200について説明する。
【0026】
タンクホルダユニット200は、タンク40を保持するタンクホルダ210と、タンクホルダ210と一体に形成されている第1の部材211と、第1の部材211に接合される第2の部材220と、を有する(図1(b)参照)。タンクホルダユニット200では、タンク40に収容されているインクが、第1の部材211と第2の部材220との間に形成された供給路を通って記録素子基板H1101に供給される。第1の部材211と第2の部材220とが接合されることで、供給路を有するインク供給部材が形成されており、インク供給部材は。タンク40と記録素子基板H1101の間に位置している。なお、本実施形態では、第1の部材211は、タンクホルダ210と一体に形成されているが、それぞれを個別に成形した後、取り付ける形態であってもよい。
【0027】
ここで、第1の部材211と第2の部材220との接合状態について詳しく説明する。
【0028】
図3は、本実施形態における第1の部材211と第2の部材220との接合状態を示す図である。なお、図3では、1つの供給路の接合状態のみを拡大して示している。図3(a)は、第1の部材211から見た上面図であり、図3(b)、(c)、(d)のそれぞれは、図3(a)に記載の切断線B−B、切断線C−C、切断線D−Dに沿った断面図である。
【0029】
図3(b)に示すように、本実施形態では、第1の部材211に、タンク40に連通しインクが流入する第1の開口路215と、平滑面250と、が設けられている。第1の開口路215は、第1の部材211の厚さ方向に沿って延びている。一方、第2の部材220には、平滑面250に対向する溝251と、記録素子基板H1101のインク供給口H1102に連通しインクが流出する第2の開口路225が設けられている。第2の開口路225は、第2の部材220の厚さ方向に沿って延びている。また、第2の部材220には、エネルギーダイレクタ230が設けられている(図3(c)、(d)参照)。第1の部材211と第2の部材220とが接合すると、これらの間に、第1の開口路215と第2の開口路225とをつなげる供給路224と、供給路224に隣接する溶着面212とが形成される。平滑面250は、供給路224の内表面の一部を構成している。
【0030】
次に、本実施形態のインク供給部材の製造方法の要部について説明する。
【0031】
まず、第2の部材220と接合する前の第1の部材211において、供給路224の内表面となる面に平滑面250を形成する。図4は、平滑面250の形成方法を示す断面図である。図4(a)は、図3(b)と同様に、図3(a)に記載の切断線B−Bに沿った断面図であり、図4(b)は、図4(a)に記載の切断線E−Eに沿った断面図である。
【0032】
図4(a)、(b)に示すように、接合前の第1の部材211の供給路224の内表面となる面に熱ホーン400を近づけ、この面に放射熱を加熱すると、加熱された面の樹脂が溶融する。第1の部材211は、モールド成形にて製造されており、熱ホーン400に加熱される前は0.1〜10μm程度の凹凸が表面に存在した。しかし、成形後に表面を溶融させてから固化させた結果、0.1mm程度のうねりが発生したものの、凹凸は0.1μm以下に平滑化された。このようにして、平滑面250が形成された後、第1の部材211の供給路224の内表面となる面を有する面と、第2の部材220の溝251を有する面と、を内側にして、第1の部材211と第2の部材220とを圧接した。この状態で、第2の部材220側より超音波振動が与えられと、エネルギーダイレクタ230近傍の樹脂が溶けることで溶着面212が形成される(図3(c)、(d)参照)。これにより、第1の部材211と第2の部材220とが接合され、供給路224が完成する。その後、第2の開口路225から流出したインクがインク供給口H1102に供給されるように記録素子基板H1101が第2の部材220に取り付けられる。これにより、タンク40に収容されているインクが、供給路224を通じて記録素子基板H1101より吐出可能になる。なお、以上説明した工程以外は、従来と同様の方法でインクジェット記録ヘッド20を製造することができるため説明を省略する。
【0033】
上記のようにして製造されたインクジェット記録ヘッド20と、平滑面250が形成されていない従来のインクジェット記録ヘッドとを比較して、本実施形態の効果を説明する。
【0034】
図5(a)〜(c)は、本実施形態の供給路224にインクを流した直後の供給路224内の状態を示す断面図であり、各断面図は、図3(b)〜(d)にそれぞれ対応している。また、図6(a)〜(c)は、平滑面250が形成されていない従来の供給路234にインクを流した直後の供給路234内の状態を示す断面図であり、各断面図は図5(a)〜(c)に対応している。
【0035】
図5(b)に示すように、本発明の供給路224では、平滑面250に微小の泡500がほとんど発生していない。一方、図6(b)に示すように、従来の供給路234では、全体にわたって微小な泡500が発生している。これは、本発明の供給路224の内表面のうち平滑面250は、他の面に比べ平滑性が高いため、微小な泡250が発生しにくくなっているからである。
【0036】
平滑面250が形成されていない従来の供給路234は、インクが流れたときに本発明の供給路224に比べ微小な泡500が数多く発生する。そのため、例えば、一度供給路内をインクで満たして出荷検査用の印字を行った後、供給路内のインクを空にして記録装置が出荷される場合、供給路の表面の凹凸が大きいとインクが残存しやすくなる。残存したインクにより供給路の表面が疎水化すると、インク充填性が低下することが懸念される。インク充填性が低下したインクジェット記録ヘッドでは、微小な泡がインク吐出部の吐出口へ到達し不吐出や吐出ヨレを引き起こす原因となる。また、微小な泡が供給路内に入り込んだまま放置されると、その微小な泡を起点に泡が成長し、供給路を塞ぐこととなり、吸引回復などで泡を取り除く必要があり、廃インク量が増える。これに対し、本実施形態では、平滑面250を形成することによって、供給路224の内表面の凹凸が抑制され、平滑性が高められている。これにより、供給路224内の微小な泡500の発生を抑制できるので、印字不良の低減と、廃インク量の抑制が可能となる。
【0037】
なお、本実施形態では、第2の部材220に溝251を形成することによって供給路224が形成されている。しかし、この溝の形成場所は、第2の部材220だけに限らず、第1の部材211に形成されていてもよい。あるいは、第1の部材211および第2の部材220の両方に形成されていてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、熱ホーン400からの放射熱を直接第1の部材211に加えることによって、平滑面250を形成した。しかし、本発明では、平滑性のあるテフロンテープを熱ホーン400と第1の部材211との間に挟んで平滑面250を形成することとしてもよい。
【0039】
また、本実施形態では、供給路224の内表面のうち第1の部材211のみに平滑面250を形成しているが、第2の部材220の溝251の内表面にも平滑面250を形成してもよい。また、本実施形態では、第1の部材211の供給路224の内表面となる面にのみ平滑面250を形成したが、供給路224の内表面となる面以外にも平滑面を形成してもよい。
【0040】
(実施形態2)
本実施形態の液体吐出ヘッドは、上述した平滑面250の形成方法が異なる点を除いて実施形態1で説明したインクジェット記録ヘッド20と同じ構成である。そのため、インクジェット記録ヘッド20と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0041】
本実施形態では、熱ホーン400の代わりにレーザー光を第2の部材220側から照射することで、平滑面250を形成する。第1の部材211には、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂材料、例えば、レーザー光を吸収する染料または顔料を含有した黒色ノリルである「型番SE1X」(SABIC社製)を用いる。
【0042】
一方、第2の部材220には、レーザー光に対して透過性を有する樹脂材料、例えば、透明ノリル「型番TPN9221」(SABIC社製)を用いる。他に、第2の部材211には、色材を含まない透明ノリルである「型番TN300」(SABIC社製)を使用することも可能である。なお、ノリルとは、変性ポリフェニレンエーテル(Modified Polyphenylene ether)または変性ポリフェニルオキサイド(Modified Polyphenylene oxide)の通称名である。ノリルは耐熱性および強度を上げるためにポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンオキサイド)を変性させたものであり、熱可塑性樹脂に属し、酸・アルカリに強い耐性を持つ特徴を有する。
【0043】
なお、本発明においてレーザー光に対して透過性を有するとは、厚さ2.0mmの部材に対してレーザー光を照射した場合の透過率が30%以上であることを意味する。また、レーザー光に対して吸収性を有するとは、厚さ2.0mmの部材に対してレーザー光を照射した場合の吸収率が90%以上であることを意味する。
【0044】
図7は、本実施形態の平滑面の形成方法を説明するための図である。図7(a)は、本実施形態における第1の部材211と第2の部材220とが接合された状態を第1の部材211から見た上面図であり、図7(b)、(c)、(d)はそれぞれ図7(a)に記載の切断線B−B、切断線C−C、切断線D−Dに沿った断面図である。
【0045】
本実施形態では、まず、第1の部材211と第2の部材220とを圧接する。続いて、図7(b)に示すように、第2の部材220側より第2の開口路225に沿ってレーザー光410を照射する。このとき、エネルギーダイレクタ230にレーザー光410が照射されると、エネルギーダイレクタ230近傍の樹脂が溶けることで溶着面212が形成される(図7(c)、(d)参照)。これにより、第1の部材211と第2の部材220との間に供給路224が完成する。また、供給路224の全体にレーザー光410が照射されると、供給路224の内表面のうち、第1の部材211の第2の部材220と接合される面の、第2の開口路225の有する開口に対応する部分のみに平滑面250が形成される(図7(b)、(d)参照)。この部分のみに平滑面250が形成されるのは、この部分は、レーザー光410が第2の開口路225を通って直接照射され、第2の部材220を透過した光が照射される他の部分に比べレーザー光410による発熱量が大きいからである。
【0046】
本実施形態では、従来、レーザー光の照射対象範囲でなかった供給路224にもレーザー光を照射する。これにより、供給路224の内表面のうち、第1の部材211の、第2の部材220と接合される面の、第2の開口路225の有する開口に対応する部分に平滑面250が形成される。この部分の凹凸が大きいと、記録素子ユニット300で発生した微小な泡が浮力により溜まりやすくなるが、本実施形態では平滑面250を形成することによってこの部分の平滑性が高められている。そのため、この微小な泡が溜まりにくい構造となっている。これにより、記録素子ユニット300で発生した微小な泡が供給路224を塞ぐことを回避できるようになる。
【0047】
また、実施形態1では平滑面250を形成してから供給路224を形成したが、本実施形態では、第1の部材211と第2の部材の接合により供給路224を形成する形成工程中に、平滑面250が形成される。そのため、製造時間を短縮することが可能となる。
【0048】
(実施形態3)
本実施形態の液体吐出ヘッドは、実施形態2と同様な平滑面250の形成方法を行うことと、上述した第2の開口路225の形状とが異なる点を除いて実施形態1で説明したインクジェット記録ヘッド20と同じ構成である。そのため、インクジェット記録ヘッド20と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0049】
本実施形態では、実施形態2と同様に、第1の部材211には、レーザー光410に対して吸収性を有する樹脂材料を用い、第2の部材220には、レーザー光410に対して透過性を有する樹脂材料を用いる。
【0050】
図8は、本実施形態の平滑面の形成方法を説明するための図である。図8(a)は、本実施形態における第1の部材211と第2の部材220とが接合された状態を第1の部材211から見た上面図である。図8(b)、(c)、(d)はそれぞれ図8(a)に記載の切断線B−B、切断線C−C、切断線D−D断面に沿った断面図である。
【0051】
本実施形態では、実施形態2と同様に、第1の部材211と第2の部材220とを圧接し、第2の部材220側よりレーザー光410を照射する(図8(b)参照)。すると、実施形態2で説明したように、供給路224と平滑面250とが同時に形成される。このとき、平滑面250は、供給路224の内表面であって、第1の部材211の、第2の部材220と接合される面の、第2の開口路225の有する開口に対応する部分に形成される。本実施形態では、第2の開口路225には、インク供給量の増加と、記録素子ユニット300内におけるインク固着の抑制との理由により、供給路224から離れるにつれて断面積が大きくなるようにテーパ部226が形成されている(図8(b)参照)。このテーパ部226が設けられているため、第2の開口路225に入射したレーザー光のうちテーパ部226で反射した光が、第1の部材211の、第2の部材220と接合される面の、第2の開口路225の有する開口に対応する部分に集光される。これにより、実施形態2に比べより効率的に平滑面250を形成することが可能となる。
【0052】
本実施形態においても、実施形態2と同様に、本実施形態では第1の部材211と第2の部材220とを接合して供給路224を形成する工程中に、平滑面250が形成される。そのため、製造時間を短縮することが可能となる。さらに、本実施形態では、第2の開口路225にテーパ部226を形成することによって、効率よく平滑面250を形成することが可能となる。
【0053】
(実施形態4)
本実施形態の液体吐出ヘッドにおいては、実施形態2で説明したインクジェット記録ヘッド20と同様にレーザー光を照射することで平滑面250が形成されている。しかし、第1の部材211に供給路224となる溝251が形成されている点が実施形態2と異なっている。上述した実施形態のインクジェット記録ヘッド20と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0054】
図9は、本実施形態の平滑面の形成方法を説明するための図である。図9(a)は、本実施形態における第1の部材211と第2の部材220とが接合された状態を第1の部材211から見た上面図である。図9(b)、(c)、(d)はそれぞれ図9(a)に記載の切断線B−B、切断線C−C、切断線D−D断面に沿った断面図である。
【0055】
本実施形態では、第1の部材211と第2の部材220とを圧接し、第2の部材220側よりレーザー光410を照射する(図9(b)参照)。すると、エネルギーダイレクタ230近傍の樹脂が溶けることで溶着面212が形成される(図9(c)、(d)参照)。これにより、第1の部材211と第2の部材220との間に供給路224が形成され、また供給路224の内表面に平滑面250が形成される。このとき、平滑面250は、供給路224の内表面であるが、第1の部材211と第2の部材220とが接合される面とは異なる面に形成され、第2の開口路225の有する開口に対応する部分に形成される。
【0056】
平滑面250と溶融面212を異なる面にすることで、それぞれに受光するレーザー光の照射量を変えることができる。溶融面212の溶融性を向上させたいのであれば溶融面212に対するレーザー光の照射量を大きくすればよく、平滑面250の平滑性を向上させたいのであれば平滑面250に対するレーザー光の照射量を大きくすればよい。これにより、実施形態2、3に比べ、平滑面250と溶融面212との溶融性の自由度を増やすことができる。
【0057】
本実施形態では、実施形態2と同様に第2の開口路225はストレート形状であるが、実施形態3と同様にテーパ部を設けたものでも良い。
【0058】
本実施形態においても、実施形態2と同様に、本実施形態では第1の部材211と第2の部材220とを接合して供給路224を形成する工程中に、平滑面250が形成される。そのため、製造時間を短縮することが可能となる。なお、本実施形態のように供給路224を形成する工程中に平滑面250が形成されるのではなく、供給路224を形成する工程とは別に平滑面250を形成してもよい。
【符号の説明】
【0059】
211 第1の部材
215 第1の開口路
220 第2の部材
224 供給路
225 第2の開口路
250 平滑面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材とが接合されることで、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドに、液体を供給する供給路が形成された液体供給部材であって、
前記供給路の内表面の少なくとも一部は、成形後の樹脂の溶融により平滑された平滑面である、ことを特徴とする液体供給部材。
【請求項2】
前記液体供給部材は、液体を収容可能なタンクと前記吐出口を有する基板との間に位置し、前記第1の部材は、レーザー光に対して吸収性を有し、前記タンクに連通する第1の開口路を備えており、前記第2の部材は、レーザー光に対して透過性を有し、前記基板を介して前記吐出口に連通する第2の開口路を備えており、前記平滑面は、前記第1の部材の、前記供給路の内表面の、前記第2の開口路の有する開口に対応する部分に形成されている、請求項1に記載の液体供給部材。
【請求項3】
前記平滑面は、前記第1の部材の、レーザー光を照射する方向に関して前記第2の部材と接合された面とは異なる面に形成されている、ことを特徴とする請求項2に記載の液体供給部材。
【請求項4】
前記第2の開口路は、前記供給路から離れるにつれて断面積が大きくなるテーパ部を備えている、請求項2または請求項3に記載の液体供給部材。
【請求項5】
液体を吐出する吐出口と、該吐出口に液体を供給する供給路を有する液体供給部材と、を有する液体吐出ヘッドであって、
前記液体供給部材は、樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材とが接合されることで前記供給路が形成されており、
前記供給路の内表面の少なくとも一部は、成形後の樹脂の溶融により平滑化された平滑面である、ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材と、を備え、前記第1の部材および前記第2の部材の少なくともいずれか一方は、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出ヘッドに、液体を供給する供給路となる溝を有する液体供給部材の製造方法であって、
前記溝を内側にして前記第1の部材と前記第2の部材とを接合することによって、前記供給路を形成する形成工程を有し、
前記形成工程の前または前記形成工程中に、前記第1の部材および前記第2の部材のうち、前記供給路の内表面となる部分の少なくとも一部を溶融させることによって平滑化された平滑面を形成する、ことを特徴とする液体供給部材の製造方法。
【請求項7】
前記平滑面は、前記形成工程の前に、前記第1の部材および前記第2の部材の少なくともいずれか一方の前記供給路の内表面となる面を加熱することによって形成される、請求項6に記載の液体供給部材の製造方法。
【請求項8】
前記第1の部材はレーザー光に対して吸収性を有し、前記第2の部材はレーザー光に対して透過性を有し、前記平滑面は、前記第2の部材の側から前記第1の部材にレーザー光を照射することによって、前記形成工程中に形成される、請求項6に記載の液体供給部材の製造方法。
【請求項9】
前記液体供給部材は、液体を収容可能なタンクと前記吐出口を有する基板との間に位置し、前記第1の部材は、前記タンクに連通する第1の開口路を備えており、前記第2の部材は、前記基板を介して前記吐出口に連通する第2の開口路を備えており、前記平滑面は、前記第1の部材の、前記供給路の内表面の、前記第2の開口路の有する開口に対応する部分に形成される、請求項8に記載の液体供給部材の製造方法。
【請求項10】
前記第2の開口路は前記供給路から離れるにつれて断面積が大きくなっており、前記平滑面は、前記第2の開口路にレーザー光を照射することによって、前記第2の開口路の有する開口に対応する部分に形成される、請求項9に記載の液体供給部材の製造方法。
【請求項11】
液体を吐出する吐出口と、該吐出口に液体を供給する供給路を有する液体供給部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記液体供給部材は、樹脂材料からなる第1の部材と、樹脂材料からなる第2の部材と、を備え、前記第1の部材および前記第2の部材の少なくともいずれか一方は液体を吐出する吐出口に液体を供給する供給路となる溝を有しており、
前記溝を内側にして前記第1の部材と前記第2の部材とを接合することによって、前記供給路を形成する形成工程を有し、
前記形成工程の前または前記形成工程中に、前記第1の部材および前記第2の部材のうち、前記供給路の内表面となる部分の少なくとも一部を溶融させることによって平滑化された平滑面を形成する、ことを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−126271(P2011−126271A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247341(P2010−247341)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】