説明

液体分注装置

【課題】分注口の洗浄作業を自動化すると共に自動的に洗浄の要否を判断して洗浄動作を開始する液体分注装置を提供する。
【解決手段】分注機構1から液体をターゲット5に向けて滴下する液体分注装置において、分注口2に付着する析出物等を洗浄するために、分注口2周辺に向けて洗浄液を供給する洗浄機構10を設けると共に、撮像手段(ビデオカメラ4)による分注口2周辺の画像信号に基づいて洗浄機構10の作動タイミングを制御する制御装置7を備える。これにより、自動的に洗浄時期を判断して分注口2周辺の洗浄を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分析用試料や試薬(以下、これらを総称して単に液体と記す)を分注する液体分注装置に関し、特に、ナノリッターレベルの微量液体を分注する微量液体分注装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に従来の液体分注装置の概略構成例を示す。
図において、1は分注機構であって、内部に貯留する液体を加圧装置8から供給される空気圧により先端の分注口2からターゲット5に向けて吐出するものである。分注機構1に内蔵するピエゾ素子(図示しない)に駆動装置6からパルス電圧を印加し、その電圧や持続時間などのパラメータを適切に設定することで液体の滴下量や滴下経路等を制御するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。その制御は、吐出された液滴3を側方からビデオカメラ4で撮影し、その画像信号をコンピュータから成る制御装置7に取り込んで処理した信号に基づく制御信号を駆動装置6を介して分注機構1内のピエゾ素子にフィードバックすることで行われる。
【特許文献1】特開2005−90986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の分注装置においては、分注の過程で分注する液体の特性や環境影響により微細な分注口に結晶等の析出物やほこり(以下、これらを総称して付着物と記す)が付着蓄積して正確な分注ができなくなることがある。このような付着物を除去するには、分注を一旦中止して手作業により洗浄液を注いで洗浄し、それで除去できない場合は、超音波洗浄を行う必要があった。しかし、手作業で洗浄する際は分注口を傷付けたり破砕しないように細心の注意を以って行う必要があり、また、超音波洗浄の際は分注機構を分解して先端の分注口を含むチップ部を取り外す必要があり、いずれの場合も時間と手間を費やす作業であった。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、オペレータが分注の状態を常時監視しながら洗浄の必要性を判断して手作業で洗浄を行う必要をなくすために、分注口の洗浄作業を自動化すると共に自動的に洗浄の要否を判断して洗浄動作を開始する液体分注装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、分注口周辺に向けて洗浄液を供給して洗浄する洗浄機構を設けると共に、撮像手段による分注口周辺の画像信号に基づいて洗浄機構の作動タイミングを制御する制御装置を備える。これにより、本発明装置は自動的に洗浄時期を判断して分注口周辺の洗浄を行うことができる。
【0006】
また、本発明は、空気吸引手段と、一端が分注口の近傍に開口し他端が前記空気吸引手段に連通する吸引管とを有して前記分注口周辺の残余洗浄液を払拭する残余洗浄液除去機構をさらに備える。これにより、洗浄後に分注口周辺に残る洗浄液を払拭して、残余洗浄液が次に分注する液体に混入することを防止できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明装置は上記のように構成されており、自動的に洗浄タイミングを判断して洗浄を行うので、オペレータは分注の状態を常時監視しながら洗浄の必要性を判断したり手作業で洗浄を行う煩わしさから開放され、また、手作業での洗浄により分注口を傷める恐れもなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明が提供する液体分注装置は次のような特徴を有する。即ち、第1の特徴は、分注口周辺に向けて洗浄液を供給して洗浄する洗浄機構を設けるように構成した点にあり、第2の特徴は撮像手段による分注口周辺の画像信号に基づいて洗浄機構の作動タイミングを制御する制御装置を備えるように構成した点である。従って、最良の形態の基本的な構成は、上記2件の構成を具備する液体分注装置である。
【実施例1】
【0009】
図1に本発明の一実施例を示す。同図において図4と同一符号を付した構成要素は図4と同一物であるから、再度の説明は省く。本実施例が図4に示す従来例と相違する点は、分注口2の周辺に向けて洗浄液を注いで洗浄する洗浄機構10と、洗浄後に残る洗浄液をエア噴射により吹き飛ばして除去する残余洗浄液除去機構11を設けたことである。9は洗浄液容器であり、加圧装置8(例えば、エアコンプレッサ)から供給される空気圧で内部の洗浄液を加圧して洗浄機構10から噴射することで非接触的に分注口2の周辺に洗浄液を注液する。また、残余洗浄液除去機構11も加圧装置8から供給される加圧空気を噴射して非接触的に残余洗浄液を払拭するものである。
【0010】
洗浄及び残余洗浄液除去の過程では、図1に示すターゲット5は、これを載置するステージ(図示しない)を水平に移動させることにより側方に待避させるものとする。
なお、洗浄機構10は、図1では斜め下方に向けて洗浄液を噴射する構成を例示しているが、斜め上方に向けて洗浄液を噴射することにより分注口2の内部まで洗浄可能にするように構成してもよい。
【0011】
上記の構成において、洗浄機構10を作動させるタイミングの定め方として最も簡単且つ一般によく行われる方法は、一定時間周期で、または分注を一定回数行うごとに洗浄するようにプログラムを設定しておく方法である。しかし、液体中に結晶が析出する速度は液体の種類や濃度により大差があるから、種々の液体に対して常に適切な洗浄周期を設定することは困難である。そこで本実施例においては、以下に述べるように、ビデオカメラ4で撮像した画像情報を利用することにより洗浄のタイミングを自動判断する。
【0012】
図2に本実施例の動作手順をフロー図で示す。以下、図2及び図1を参照しながら、本実施例の動作手順を説明する。
(1)装置をスタートさせ、まずビデオカメラ4で分注口2の周辺を撮影し、その画像を制御装置7のコンピュータに取り込む。
(2)コンピュータでこの画像を処理する。即ち、予め保存してある汚れのない状態の分注口2周辺の画像と新たに撮影した画像との差分(付着物の大きさを表す)を数値化し、予め設定した閾値と比較する。
【0013】
(3)差分の値が所定の閾値以下であれば、付着物がないと見なして分注を実行する。
(4)分注は、前掲特許文献1にも記されているように、ビデオカメラ4で滴下する液滴3を撮影しながら、その滴下軌跡が正しくターゲット5に向かうように駆動装置6を介して分注機構1に適切に制御信号を送ることにより行われる。
(5)1回の分注が終わると、(1)に戻り再度ビデオカメラ4で分注口2の撮影を行い、差分の値が所定の閾値を超えない限り(1)〜(4)を繰り返して次々に所要回数の分注を実行する。
【0014】
(6)上記(2)において差分の値が所定の閾値を超える場合は、洗浄を必要とする程度の付着物があると判断して、分注を中断して洗浄動作を開始する。洗浄は、まずターゲット5を側方に待避させてから、加圧装置8から洗浄液容器9に加圧空気を供給し、その圧力で洗浄機構10から分注口2の周辺に向けて洗浄液を注ぎ、付着物を洗い流す。
(7)所定時間の洗浄の後、加圧装置8から残余洗浄液除去機構11に加圧空気を送り、分注口2の周辺に向けて噴射する。これにより、分注口2の周辺に残る洗浄液が吹き払われる。
(8)次に、図2に点線で示すように、上記(3)に戻って直ちに分注を再開することも可能であるが、より望ましい方法は、上記(1)(2)に戻り再度ビデオカメラ4で分注口2の撮影を行うことで洗浄結果を確認する。差分が所定の閾値以下であれば、洗浄結果は良好と見なして上記(3)に進み、分注を再開する。差分の値が所定の閾値を超える場合は、洗浄不完全として再度上記(6)(7)により洗浄と残余洗浄液除去を行う。
【0015】
以上、本発明の基本的な構成とその動作について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、種々の変形が可能である。
例えば、洗浄の要否判定法については上記と異なる方法も可能である。即ち、分注口2に付着物が存在すると、液滴の滴下軌跡が横にそれたり、液滴のサイズが変わる等の滴下異常が現れることが多いが、従来から、特許文献1にも記載されているように、ビデオカメラ4で液滴の滴下軌跡などの情報を取得しながら分注を行っているので、この画像情報を洗浄の要否判定にも利用することが考えられる。具体的には、ビデオカメラ4により液滴の滴下異常が観測されたとき、通常は駆動装置6から送る駆動信号パラメータを変更して滴下軌跡等を補正するのであるが、補正不能となる程度に異常が甚だしい場合は、洗浄が必要と判定する方法である。
この判定法は、前記の付着物の画像から判定する方法と併用してもよい。併用することにより適切な洗浄時期を見逃す恐れが少なくなる。
【0016】
図1に例示するエア噴射方式の残余洗浄液除去機構11は、構造が簡単であることが利点であるが、エア噴射により残余洗浄液が周囲に飛散することが欠点である。この欠点を補う変形例として吸引により残余洗浄液を除去する方式も可能である。
図3はその一例を示したものである。同図において、残余洗浄液除去機構11aは吸引ポンプ12、一端が分注口2の近傍に開口し他端は吸引ポンプ12に連通する吸引管13、及び吸引管13の途中に挿入された廃液容器14で構成される。その他、図1と同一符号を付したものは図1と同一物であり、また、残余洗浄液除去機構11a以外の動作は図1の場合と同様である。
【0017】
図3に示す残余洗浄液除去機構11aは以下のように動作する。
分注口2の周辺を洗浄した後、制御装置7からの信号により吸引ポンプ12を作動させると、分注口2の近傍の吸引管13の開口部から空気が吸引され、分注口2付近に気流が生じる。この気流により分注口2の周辺に残る洗浄液が払拭され、吸引管13に吸い込まれて廃液容器14に落ち込む。
【0018】
なお、残余洗浄液が微量であり、且つ吸引ポンプ12に耐液性がある場合は、廃液容器14を省いて吸引管13が吸引ポンプ12に直通するようにして、構造を簡略化することも可能である。また、図中に点線で示すように、吸引管13の開口部を漏斗状に広げておけば、洗浄の際に注がれる洗浄液を受けて廃液容器14に導入することが可能となり、洗浄液回収機能をも兼ね備えることになる。
【0019】
さらにまた、以上述べた画像情報に基づいて洗浄タイミングを定める方法以外に、一定時間周期で洗浄を行う方法も考えられる。一定周期で洗浄する場合は、前述したように、周期を適切に設定することが難しいという問題があるが、周期の設定にコンピュータの能力を活用することでこの問題を解決できる。即ち、液体の種類ごとに代表的な濃度において結晶が析出するまでの時間を実験的に調べ、その結果を濃度の関数としてコンピュータに記憶させておく。分注を行うに当たり、液体の種類と濃度をコンピュータに入力すれば、この関数を適用して算出された周期が設定され、これに従って自動的に洗浄が実行される。この方法は、付着物の有無に関係なく周期的に洗浄を行うので、洗浄時期を見逃す心配がなく、確実に洗浄できることが利点である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は液体分注装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の一実施例の動作を示すフロー図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す図である。
【図4】従来の構成の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 分注機構
2 分注口
3 液滴
4 ビデオカメラ
5 ターゲット
6 駆動装置
7 制御装置
8 加圧装置
9 洗浄液容器
10 洗浄機構
11 残余洗浄液除去機構
11a 残余洗浄液除去機構
12 吸引ポンプ
13 吸引管
14 廃液容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端の分注口から液体を標的に向けて滴下する分注機構と、前記分注口周辺の画像または前記分注口から滴下する液滴の画像を撮影する撮像手段とを備えた液体分注装置において、前記分注口周辺に向けて洗浄液を供給して洗浄する洗浄機構と、前記撮像手段による画像信号に基づいて前記洗浄機構の作動タイミングを制御する制御装置とを備えたことを特徴とする液体分注装置。
【請求項2】
空気吸引手段と、一端が分注口の近傍に開口し他端が前記空気吸引手段に連通する吸引管とを備えて前記分注口周辺に付着する残余洗浄液を払拭する残余洗浄液除去機構を有することを特徴とする請求項1記載の液体分注装置。
【請求項3】
先端の分注口から液体を標的に向けて滴下する分注機構を備えた液体分注装置において、前記分注口周辺に向けて洗浄液を供給して洗浄する洗浄機構と、前記洗浄機構を所定周期で作動させるように制御する制御装置を備えると共に、前記制御装置は前記周期を算出する計算式を液体の濃度の関数として記憶しており、入力された濃度値に前記計算式を適用して算出した値を前記周期として定めることを特徴とする液体分注装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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