説明

液体医薬製剤

本発明は、動物での経口投与に特に適する、ベータ遮断薬用の液体医薬製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に動物での経口投与に適する、ベータ−遮断薬用の液体医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビソプロロール、カルベジロールおよびアテノロールなどのベータ−遮断薬(ベータ−受容体遮断薬とも呼ばれる)は、ヒトの医学において、長期にわたり高血圧の処置のために、最近では心不全のために、知られている。ベータ−遮断薬の獣医学における使用も、考慮されている。
【0003】
US5484776は、経口投与に適するベータ−遮断薬の制御放出製剤の製造方法を記載している。この方法では、ベータ−遮断薬を、多糖類、好ましくはキサンタンを用いて、水中で、通常は高温で、変換する。
【0004】
WO99/16417は、経口投与用のエアロゾルスプレー剤およびソフトゼラチンカプセル剤を記載している。その説明によると、記載された製剤は、幅広い範囲の有効成分に適する。
【0005】
WO03/041696は、富化された(S)−ビソプロロールを含有する製剤および心血管障害の処置のためのその適用を開示している。
【0006】
動物が全用量を吸収するように十分な嗜好性を有さなければならないので、獣医学における薬物製剤に対する要求は、特に経口投与の場合に、ことさら高い。概して、ベータ−遮断薬は慢性適応症の場合に与えられるので、処置は数ヶ月または数年継続し得る。さらに、処置される動物(例えば、イヌまたはネコ)の体重は変動するので、可変の投与量の可能性も望ましい。従って、動物による高い許容性、良好な投与量のバリエーションおよび良好な長期安定性を兼ね備えた、ベータ−遮断薬用の製剤の必要性がある。
【発明の開示】
【0007】
この課題は:
1重量%を超えないベータ−遮断薬を溶解形で含有し、迅速なバイオアベイラビリティーを示す水性基剤の経口投与用の液体薬物製剤
により解決される。
【0008】
ベータ−遮断薬の有効成分の群は、当業者に周知である。ベータ−遮断薬の例は:カルベジロール、アテノロール、アセブトロール、プロプラノロール、ピンドロール、メトプロロール、ベタキソロール、エスモロール、ネビボロールおよびビソプロロールである。
【0009】
例えば、ベータ−1−選択的、ベータ−2−選択的および非選択的などのベータ−遮断薬の様々なサブグループがある。例えば、アテノロール、アセブトロール、ベタキソロール、エスモロール、メトプロロール、ネビボロール、および、特にビソプロロールなどのベータ−1−選択的ベータ−遮断薬は、本発明の範囲内で特に適する。
【0010】
ベータ−遮断薬は、それらの高い効力のために、本発明による製剤において、低濃度でのみ、通常、1重量%を超えない、好ましくは0.5重量%を超えない濃度で使用される。ベータ−遮断薬の通常の濃度範囲は、従って、0.001ないし1重量%、好ましくは0.005ないし0.5重量%、特に好ましくは0.01ないし0.5重量%である。
【0011】
「水性基剤の」は、本発明による製剤が、水を、必須溶媒として、通常は少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、特に好ましくは少なくとも70重量%、より一層好ましくは少なくとも80重量%で、含有することを意味する。
水の他に、本発明による製剤は、必要であれば、他の水混和性溶媒を含有できる。
【0012】
本発明による薬物製剤の適用のために、概して、それが僅かに粘稠性であることが望ましい。この理由で、本発明による薬物製剤は、好ましくは、例えば、水溶性/水混和性増粘剤、例えばグリセリンまたは好ましくは水溶性セルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルセルロースまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する。適する粘度を有する製剤の製造に必要な増粘剤の濃度は、原則として知られている。従って、水溶性セルロース誘導体などのゲル化剤は、例えば、通常、1ないし10重量%、好ましくは1ないし5重量%の濃度で含有される。例えば増粘剤がグリセリンなどの水混和性溶媒であるならば、1ないし70重量%、好ましくは1ないし60重量%のより高い濃度も考えられる。
溶液は、好ましくは、2ないし20cP、好ましくは4ないし15cP、特に好ましくは5ないし10cPの粘度を有する。
【0013】
嗜好性を改善するために、本発明による薬物製剤は、味物質および/または香味料を含有できる。例は、糖(通常濃度:2ないし10重量%、好ましくは3ないし8重量%)およびバニラ香料(通常濃度:0.05ないし0.3重量%、好ましくは0.1ないし0.2重量%)である。アスパルテーム、シクラメート、サッカリン、アセスルファム(acesulfame)、スクラロース(sucralose)、タウマチン、ネオヘスペリジン(neohesperidin)などの甘味料も、使用できる。推奨される様々な甘味料の濃度は、多様である;しかしながら、それらは当業者に一般的に知られている。甘味料の中で、サッカリン、特にナトリウム塩が好ましい。それは、通常、0.01−0.5重量%、好ましくは0.02−0.3重量%の濃度で用いられる。
【0014】
長期の安定性を確実にするために、保存料の使用が推奨される。保存料は、好ましくは、それらが細菌および真菌に対して作用するように選択される。保存料の例は、有機酸、例えばp−ヒドロキシ安息香酸エステル、ソルビン酸、安息香酸、プロピオン酸、または、それらの塩;アルコール、例えば、ベンジルアルコール、ブタノールまたはエタノール、および第4級アンモニウム化合物、例えば塩化ベンザルコニウムである。特に適する保存料の例は、安息香酸ナトリウムである。保存料は、通常、本発明による製剤中に、製剤の総重量に対して、0.01ないし1重量%、好ましくは0.02ないし0.6重量%、特に好ましくは0.02ないし0.4重量%の量で含有される。
【0015】
さらに、水性溶液を、適するバッファー物質の添加により、定められたpH値、通常、2ないし10、好ましくは3ないし9に調節することが好都合であり得る。
特に、安息香酸ナトリウムを保存料として使用するとき、3ないし7、特に3ないし5の範囲の弱酸性のpH値が好ましい。
【0016】
加えて、本発明による薬物製剤は、他の通常の医薬的補助剤および添加剤を含有できる。効果を改善するか、または、活性スペクトルを他の適応症に拡大する他の有効成分を、ベータ−遮断薬に加えて製剤に添加することも考えられる。
【0017】
本発明による薬物は、迅速なバイオアベイラビリティーを示す。従って、それらは、インビトロで迅速な放出速度(動態)を特徴とする。即ち、有効成分の少なくとも75%が、30分以内に放出される(測定方法は、米国薬局方29[2006]の「溶解」「器具2」を参照)。
【0018】
迅速なバイオアベイラビリティーは、有効成分の最大血漿濃度(Cmax)の達成により、インビボで記述できる。これは、2時間、好ましくは1.5時間以内に達成されるべきである。
【0019】
迅速なバイオアベイラビリティーの他に、高いバイオアベイラビリティーも目的とされる;それは、高い割合の有効成分が、血漿および所望の作用点に入り、例えば吸収されないために直接排出されることがなく、また、代謝の結果として無効にならないことを意味する。本発明による製剤は、また、経口投与されたときに良好なバイオアベイラビリティーを示し、それは、概して、静脈投与されたときのバイオアベイラビリティーに匹敵する。
【0020】
低投与量の場合、特に、適切な用量を与えることを可能にするために、有効成分の投与量と得られる血漿濃度との間に、直線状の(いわゆる「用量直線性」)正確な相関が達成されなければならない。
【0021】
本発明による製剤は、概して、長期にわたり規則的に(例えば毎日)投与されるので、それらは、長期にわたり反復される正確な用量の投与の可能性も提供しなければならない。
【0022】
本発明による薬物製剤は、個々の成分を必要な量で混合することにより製造できる。これは、例えば、溶媒の一部を与え、他の成分を添加し、必要であればpH値を調節し、次いでさらなる溶媒を用いて必要とされる最終体積とすることにより行うことができる。+40℃より高い、好ましくは+30℃より高い温度は、好ましくは、製造において回避される。
【0023】
本発明による薬物製剤は、一般的に、ヒトおよび動物での投与に適する。それらは、好ましくは、農場の動物、育種用動物、動物園の動物、研究室の動物、実験用の動物、並びに、愛玩動物および趣味の動物における動物の管理および動物の飼育において用いる。
本発明による薬物製剤は、通常、動物の心血管疾患の処置、特に、心不全の処置に用いる。
【0024】
農場の動物および育種用動物には、哺乳動物、例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、スイギュウ、ロバ、ウサギ、シカ、トナカイ、毛皮を有する動物、例えばミンク、チンチラ、アライグマ、並びに、鳥類、例えばニワトリ、ガチョウ、シチメンチョウ、アヒル、ハト、および、家庭および動物園で飼育することを意図する鳥類の種が含まれる。
【0025】
研究室および実験用の動物には、マウス、ラット、モルモット、ゴールデンハムスター、イヌおよびネコが含まれる。
愛玩動物および趣味の動物には、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ウマ、爬虫類、対応する鳥類の種、イヌおよびネコが含まれる。
【0026】
本発明による製剤は、好ましくは、ウマ、ネコおよびイヌなどの愛玩動物および趣味の動物において用いる。それらは、ネコ、そしてことさらイヌにおける適用に、特に適する。
好ましい農場の動物の例は、ウシ、ヒツジ、ブタおよびニワトリである。
本明細書に記載する製剤は、好ましくは経口投与を意図する。
【実施例】
【0027】
実施例
製剤は、ビソプロロール化合物を除く全ての成分を、所望の最終体積より幾分少ない量のリン酸バッファーに溶解することにより製造できる。次いで、ビソプロロール化合物を混合物に溶解し、pH値を調節し、体積をリン酸バッファーで最終体積にする。
【0028】
実施例1
0.008重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.20重量%の安息香酸ナトリウム、
0.20重量%のプロピオン酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
5.00重量%の糖、
4.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0029】
実施例2
0.05重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.2重量%の安息香酸ナトリウム、
0.20重量%のバニラ香料、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0030】
実施例3
0.40重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.20重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0031】
実施例4
0.02重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.20重量%の安息香酸ナトリウム、
0.20重量%のプロピオン酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0032】
実施例5
0.005重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.20重量%の安息香酸ナトリウム、
0.20重量%のプロピオン酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
5.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0033】
実施例6
0.02重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.14重量%の4−ヒドロキシ安息香酸メチルエステル(メチルパラベン)、
0.02重量%の4−ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル(プロピルパラベン)、
0.02重量%のブチルヒドロキシアニソール、
50重量%のグリセリン、
0.25重量%のバニラ香料
100重量%までのリン酸バッファーpH6.5
【0034】
実施例7
0.02重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.30重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0035】
実施例8
0.02重量%のメトプロロール・タートレート、
0.30重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0036】
実施例9
0.02重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.20重量%の安息香酸ナトリウム、
0.20重量%のプロピオン酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
5.00重量%の糖、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0037】
実施例10
0.005重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.05重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0038】
実施例11
0.01重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.075重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のサッカリンナトリウム塩、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0039】
実施例12
0.08重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.075重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のサッカリンナトリウム塩、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0040】
実施例13
0.33重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.075重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のサッカリンナトリウム塩、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0041】
実施例14
0.05重量%のビソプロロール・ヘミフマレート、
0.3重量%の安息香酸ナトリウム、
0.15重量%のバニラ香料、
0.05重量%のサッカリンナトリウム塩、
2.00重量%のHPMセルロース5cP
100重量%までのリン酸バッファーpH4.0
【0042】
生物学的実施例
A.薬物動態学的調査
全部で18匹の成体のイヌ(6匹/群)で、研究を実施した。試験物質を、0.01mg/体重kg、0.05mg/体重kgおよび0.1mg/体重kgの投与量で、一度にイヌに経口投与した。約4mlの血液サンプルを、有効成分の投与後に、以下の時間で採取した:有効成分の投与後、15、30、45、60、90分、2、4、6、8、12および24時間。
【0043】
実施例6の製剤の結果を、図1にグラフで示す。ビソプロロールの平均血清濃度(μg/L表記)を時間(時間表記)に対してプロットする。3つの曲線は、異なる投与量での血清濃度の変動を示す。投与群1:0.01mg/kgのビソプロロール;群2:0.05mg/kgのビソプロロール;群3:0.1mg/kgのビソプロロール。
【0044】
B.経口投与と静脈投与のバイオアベイラビリティーの比較
24匹のイヌを用いるさらなる研究において、ビソプロロール・ヘミフマレートを、0.2mg/体重kgで、12匹のイヌに経口で(実施例14の製剤)、そして12匹のイヌに静脈内に投与した。血漿のビソプロロールレベルを投与後の様々な時点で測定した。結果を図2に示し、ここで、μg/L表記の平均血清濃度を時間表記の時間に対してプロットする。経口投与で、直接静脈内投与とほぼ同等に高い、著しく高いバイオアベイラビリティーが達成されることが見出される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
該当する記載なし。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量%を超えないベータ−遮断薬を溶解形で含有する水性基剤の経口投与用の液体医薬製剤であって、迅速なバイオアベイラビリティーを示す、製剤。
【請求項2】
0.5重量%を超えないベータ−遮断薬を含有する、請求項1に記載の薬物製剤。
【請求項3】
ビソプロロールを水溶性ベータ−遮断薬として含有する、請求項1または請求項2に記載の薬物製剤。
【請求項4】
さらに水溶性増粘剤を含有する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の薬物製剤。
【請求項5】
さらに1種またはそれ以上の味物質および/または香味料を含有する、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の薬物製剤。
【請求項6】
増粘剤としてゲル化剤を含有する、請求項4または請求項5に記載の薬物製剤。
【請求項7】
1ないし10重量%のゲル化剤を含有する、請求項6に記載の薬物製剤。
【請求項8】
ゲル化剤として水溶性セルロース誘導体を含有する、請求項6または請求項7に記載の薬物製剤。
【請求項9】
ゲル化剤としてヒドロキシプロピルセルロースを含有する、請求項8に記載の薬物製剤。
【請求項10】
ゲル化剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有する、請求項8に記載の薬物製剤。
【請求項11】
動物の心血管障害の処置用の薬物を製造するための、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の薬物製剤の使用。

【公表番号】特表2009−535368(P2009−535368A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508161(P2009−508161)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003425
【国際公開番号】WO2007/124869
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(508270727)バイエル・アニマル・ヘルス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】BAYER ANIMAL HEALTH GMBH
【Fターム(参考)】