説明

液体収納容器およびインクジェット記録装置

【課題】 可撓性フィルム部材に板部材を介して付勢力を作用させてフィルム部材内のインクに負圧状態とするインクタンクについて、その物流時の振動や落下などによって、フィルム部材が、板部材とリブとの間に挟まれて破れる。
【解決手段】 板部材12の角部に対応した部分(破線部A)を除いて直線状のリブ50を設ける。これにより、板部材12が強い衝撃による加速度を受けて角部の方へ移動しても、フィルム13が板部材12とリブ50との間に挟まれて破れることを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体収納容器および該液体収納容器を用いたインクジェット記録装置に関する。詳しくは、ばねなどの付勢部材を用いて袋状のインク収容部の容積を拡張させるようにして収容部内に負圧を発生させる液体収納容器に関する。なお、本発明は、一般的なインクジェットプリンタのほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部を有するワードプロセッサ等の装置、さらには、各種処理装置と複合的に組み合わされた産業用記録装置に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、インクを吐出する記録ヘッドとこの記録ヘッドに供給するインクを貯留したインクタンクを備える。そして、いわゆるシリアルタイプのインクジェット記録装置では、記録ヘッドを搭載するキャリッジを備え、キャリッジを記録媒体に対し移動させながら、記録ヘッドの吐出口から記録媒体にインクを吐出して記録を行う。また、いわゆるフルラインタイプのインクジェット記録装置では、搬送される記録媒体の幅に対応した範囲に吐出口を配列した記録ヘッドを用い、この記録ヘッドに対して搬送される記録媒体にインクを吐出して記録を行う。
【0003】
このような記録ヘッドに供給するインクを貯留したインクタンクでは、記録ヘッドに対して所定の負圧でインクを貯留する。この負圧は、記録ヘッドの吐出口近傍に形成されるインクメニスカスの保持力と平衡して吐出口からのインク漏れを防止するための負圧であって、また、記録ヘッドのインク吐出動作を可能とする所定範囲内の適切な負圧に設定される。
【0004】
このような負圧を発生する機構として、インクを含浸保持するスポンジ等の多孔質部材をインクタンク内に収納し、その多孔質部材によるインクの保持力によって、適切な負圧を生じさせるものが知られている。また、容積を拡張する方向に張力を発生するゴム等の弾性材料によって形成した袋状部材を備え、その袋状内部にインクを充填し、その袋状部材が発生する張力によってインクに負圧を作用させるものも知られている。
【0005】
さらに、可撓性フィルムによって袋状部材を形成し、その内部または外部に、袋状部材の容積を拡張させる方向にフィルムを付勢するためのばね等を接合することにより、その袋状部材の内部のインクに負圧を作用させるものも知られている。この負圧発生機構を用いた従来例として特許文献1に記載されたものが知られている。
【0006】
図11および図12は特許文献1に記載のインクタンクを示し、図11はタンク内部の一部を示す斜視図であり、図12はタンクの断面図である。
【0007】
これらの図に示すように、特許文献1に記載のインクタンクの構成は、内部に収容される液体を導出するための供給口20を備えた筐体10を備える。そして、筐体10に接合されて容器を形成するフィルム部材13、負圧を発生させるバネ11、フィルム部材13とバネ11との間に配置された板部材12を備える。さらには、フタ部材14、板部材12の移動を規制するためのリブ50などを備える。ここで、バネと可撓性部材により構成される容器では、バネ11の圧力を可撓性部材13に伝達させるためにバネと可撓性部材との間に板部材12が存在している。このバネ11と板部材12はカシメあるいは溶着等により位置ズレを生じさせないように固定されている。
【0008】
可撓性のフィルム部材13とこれが接着される筐体10のリブ50は、同一樹脂材料で形成されていることが望ましく、これらを互いに熱溶着によって接着することにより供給口を除いて密閉構造を形成することができる。また、供給口20の開口は、バネによる負圧によって内部に空気を取り込むことがない程度のメニスカス力を発生させる開口により構成されており、例えば、メニスカス力を有するメッシュフィルタ等が固定されている。
【0009】
以上のようなバネとフィルムによってインク収納部が形成されるインクタンクは、例えばスポンジなどを用いて負圧を発生するタンクと較べて、容積に対して収容するインクの量を多くでき収容効率の点で優れている。
【0010】
ところで、インクタンクは、使用時においてバネの付勢方向に対して垂直方向に立ててプリンタ本体に装着されることが多い。このため、板部材は重力の影響を受け上記垂直方向に移動しようとする。また、シリアルタイプのプリンタでインクタンクをキャリッジに搭載する構成では、インクタンクは記録動作時のキャリッジの移動方向の反転等によって加速度を受ける。この場合も、板部材は上記移動方向のみならず上記の垂直方向にも加速度を受けて移動しようとする。インクタンク内の負圧は、板部材を介してバネの反力により発生させており、この板部材の位置がずれることは、バネ反力が一定にならず内部圧力の不安定要因となる。従って、板部材をある一定の位置から大きく動かないようにすることが望ましく、これにより、安定した負圧を得ることができる。この目的で、図11および図12に示すように、板部材12の外周を囲むようにリブ50を設け、これにより、板部材12の特に、その板部材の面に平行な方向の動きを規制している。なお、このリブは板部材の周囲を取り囲むように設けられていればよく、リブは筐体10、フタの何れに設けられていてもよい。
【0011】
【特許文献1】米国特許6250751号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来のインクタンク構造では、インク収容部を構成するフィルムが板部材とリブとの間に挟まれて破れるといった問題を生じることがある。
【0013】
この種のインクタンクでは、インク消費に伴って板部材はバネによる付勢方向に逆らってそれと反対の方に移動する。この移動がスムースに行われるように、板部材とリブとの間には板部材の外周に沿ってほぼ一定のクリアランス(図12のC)が設けられる。板部材は上記付勢の方向と垂直な方向(以下では、「横方向」という)に移動しようとしても、上述したようにリブによってその移動が規制される。この移動が通常のインク消費などに伴ったゆるやかなものである場合には、仮にフィルムが板部材とリブとの間に挟まれても、フィルムの破れを伴うことなく板部材の動きを規制することができる。
【0014】
しかし、インクタンクの物流時などにおける振動や不用意な落下があると、図12に示すクリアランスCの部分で板部材12はリブ50の方へ比較的大きな加速度で移動し、このリブと板部材とで大きな力でフィルを挟むことがある。特に、板部材がその動きをリブによって規制されるのは、図12からもわかるようにインク収容部内にインクが満たされていて板部材が同図中上方に位置するときである。この場合は、上記の加速度を受けるインクの量も多いため板部材がフィルムをリブとの間で挟むときの圧力もそれだけ大きくなる。このような場合、フィルムの厚さは、30〜100μm程度と比較的薄いため、フィルムの破れを生じることがある。このフィルムの破れは、タンクからのインク漏れをもたらすばかりでなく、正常な負圧が作用しなくなり記録ヘッドへのインク供給が適切に行われなくなる。
【0015】
以上のようなフィルムの破れの対策として、例えば、板部材が金属板により構成されている場合、その外周部分を鈍角に曲げたり、樹脂板であれば曲面が付けられた形状に成形したりすることが考えられる。これによって板部材とフィルムとの接触面積を大きくしてフィルムに加わる圧力を低減させることができる。
【0016】
しかしながら、板部材の角の部分では、その接触によってフィルムが破れる可能性が残っている。これは、板部材の角部は、その角以外のほぼ直線の部分に比べて接触面積が小さくフィルムとの接触圧力がより高くなるからである。また、板部材の曲げ加工等では、角部分に肉逃げが少なく、型構造上バリやエッジが立ちやすくなっていることも考えられる。
【0017】
さらに、振動や落下により、フィルムが移動した際に、板部材とリブとの間に十分な逃げが無く、コーナー部にフィルムが挟まれてしまう。
【0018】
本発明は、上述した従来の問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、インクタンクの物流時の振動や落下などによるフィルム部材の破れを防止できる液体収納容器およびそれを用いたインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そのために本発明では、液体を貯留した液体収納容器において、内部に収容される液体を導出するための供給口を備えたケース部材と、前記ケース部材内部で当該ケース部材の一部と接合して液体収容部を形成する可撓性部材と、該可撓性部材を当該液体収容部が拡張する方向に付勢して当該液体収容部内に負圧を発生させるためのバネ部材と、該バネ部材と前記可撓性部材との間に配置される板部材と、当該板部材が対面する前記ケース部材の面に沿った前記板部材の移動を規制する規制部と、を具え、前記規制部は、少なくとも前記板部材の角領域に配位された前記可撓性部材が前記規制部と当接しないように構成されていることを特徴とする。
【0020】
また、液体収納容器から供給されるインクを記録ヘッドから記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、前記液体収納容器は、内部に収容されるインクを導出するための供給口を備えたケース部材と、前記ケース部材内部で当該ケース部材の一部と接合して液体収容部を形成する可撓性部材と、該可撓性部材を当該インク収容部が拡張する方向に付勢して当該液体収容部内に負圧を発生させるためのバネ部材と、該バネ部材と前記可撓性部材との間に配置される板部材と、当該板部材が対面する前記ケース部材の面に沿った前記板部材の移動を規制する規制部と、を具え、前記規制部は、少なくとも前記板部材の角領域に配位された前記可撓性部材が前記規制部と当接しないように構成されているものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上の構成によれば、板部材が何らかの力(不測の外力、例えば落下による衝撃力)を受けて移動するとき、その動きは規制部材との当接によって規制される。しかし、その際、板部材の角領域が規制部と当接しないように規制部を構成している。これにより、インクタンクが強い衝撃を受けてインクの移動とともに板部材が大きな加速度で規制部と当接しても、板部材の角領域に配位されている可撓性部材は直接板部材と規制部とに挟まれてしまうことが防げる。つまり、規制部に板部材の角領域に配位された可撓性部材が逃げられるような空間を具えたため、板部材と規制部とに挟まれず、強い接触圧力を受けることがないので可撓性部材が破損してしまうことを防ぐことができる。
【0022】
この結果、インクタンクの物流時の振動や落下などによる可撓性フィルム破れを防止し、負圧安定化と信頼性とを両立させたインクタンクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態にかかるインクタンクの外観の概略を示す斜視図である。また、図2は、このインクタンクの分解斜視図である。
【0024】
本実施形態のインクタンクは、その外観構成が図1に示すようにインクタンクのケース部材を構成する筐体10と同じくケース部材を構成するフタ部材14を有して構成され、内部にインク収納室を備える。また、インクタンクは、その底面に記録ヘッド(不図示)にインクを供給するためのインク供給口20を備えている。
【0025】
図2に示すように、インクタンクは、筐体10、バネ部材11、板部材12、可撓性のフィルム13、フタ部材14、メニスカス形成部材15、押え板16を備える。筐体10は、その材料を、例えば、ポリプロピレンとすることができる。供給口20は、メニスカス形成部材15を備え、その外周を押え部材16によって押さえることによって取り付けられている。メニスカス形成部材15は、例えば、ポリプロピレンの繊維材料から形成され毛細管力を有する毛管部材や、この毛管部材とフィルター部材(透過寸法15〜30μm程度、材質は、例えば、ステンレス材料やプリプロピレン等)を組み合わせたものである。そして、メニスカス形成部材15と筐体10内部のインク収容部との間は、インク流路(不図示)によって連通しており、後述のインク収容室に外部から気泡が侵入しないようにインクでメニスカスを形成している。
【0026】
筐体10は、その開口周縁部に可撓性のフィルム13を溶着することにより、インク収容室を形成する(図2では、筐体の開口部とフィルムとの溶着がなされていない状態が示されている)。フィルム13は、例えば、ポリプロピレンの薄膜を含むフィルム部材(厚み30〜100μm程度)によって形成することができる。インク収容室は、バネ部材11により板部材12を介して前記可撓性フィルム13を外方に付勢することにより、負圧を発生させている。バネ部材11と板部材12は、例えば、ステンレス材料により形成されている。そして、筐体10の開口部にフタ部材14が取り付けられ、外方に向かって凸型となるフィルム13を保護している。フタ部材14には、大気連通部(不図示)が設けられ、筐体10の内部でインク収容室の外側を大気圧としている。
【0027】
図3(a)および(b)は、図1に示すインクタンクのA−A線断面図を示す。このうち、同図(a)は、タンクの組み立て直後でインクが満たされていない状態を示し、同図(b)は、筐体10とフィルム13によって形成されるインク収容室にインクが満たされたインクタンク使用時を示している。図3(b)に示すように、本実施形態のインクタンクが使用される状態では、板部材12はバネ11の力によってフィルム13に当接する。これにより、インク収容室内のインクの消費に伴い板部材12とフィルム13はその位置を同図の左側方向へバネ11の付勢力に逆らって移動し、その際に収容するインク量にかかわらずほぼ一定の収容室内負圧を形成する。
【0028】
図3(a)に示すよう、フィルム13はその成形したままの状態では、成形された形状(平面部と凹部13b)によって板部材12とフィルム13との間で十分な距離Lが確保されている。その後、インクが充填されインクタンクが使用されるときは、図3(b)に示すように、上記のとおりインクの消費に伴い、フィルム13はその板部材12に当接する部分以外は内側(同図中左側方向に)に撓んで凹部13bを形成する。
【0029】
図4(a)および(b)は、フタ部材14に設けられたリブ50を示し、同図(a)は、斜視図、同図(b)は、図4(a)の矢印方向からみた図である。リブ50が設けられることにより、板部材12の特に横方向の移動を規制することによりインクタンク使用時における負圧安定性を確保する。
【0030】
本実施形態では、図4(b)に示すように、破線部Aで示した板部材12の角部に対応した部分を除いて直線状のリブ50を設ける。これにより、図7などで詳細に後述されるように、フィルム13が板部材12とリブ50との間に挟まれて破れることを防止することができる。すなわち、板部材が何らかの力(不測の外力、例えば落下による衝撃力)を受けて移動するとき、その動きはリブ(規制部)との当接によって規制される。しかし、その際、板部材の角領域が規制部と当接しないように規制部を構成している。これにより、インクタンクが強い衝撃を受けてインクの移動とともに板部材が大きな加速度で規制部と当接しても、板部材の角領域に配位されている可撓性部材は直接板部材と規制部とに挟まれてしまうことが防げる。つまり、規制部に板部材の角領域に配位された可撓性部材が逃げられるような空間を具えたため、板部材と規制部とに挟まれず、強い接触圧力を受けることがないので可撓性部材が破損してしまうことを防ぐことができる。
【0031】
一方、図5(a)および(b)は、板部材12を示す図であり、同図(a)は斜視図、同図(b)は、図5(a)のB−B断面図である。
【0032】
板部材12は、インクに接触する材料であるためステンレス等の金属材料やインクに溶出する材料を含まない樹脂により構成する。また、板部材12はインクタンクの内部に配置されるため、バネ部材11の圧力を可撓性フィルム13に伝達するために必要な材料強度を確保することと、なるべくインク容量を減らさないことを考慮する必要がある。特に、インク容量の少ないインクタンクでは、強度とインク容量の点からは金属材料であることが望ましい。
【0033】
図5(a)および(b)に示すように、板部材12は、その周囲を折り曲げて形成される折り曲げ部12aを有する。これは、例えばステンレス等の金属材料である場合には、金属板を切断、型抜きをしたままの状態では、周囲の部分はバリの発生し、破断面は図5(b)のBに示すように、不規則エッジが発生するからである。また、切断したそのままの断面は直線であるため断面積が小さく、フィルム13と接触した状態で強い衝撃が加わると、破れてしまう可能性が非常に高いからである。このように折り曲げ部を有することにより、板部材はフィルムを面で接触する。これにより、接触圧力が低減され、かつ接触面も平滑面となるためフィルムが破れるおそれは少なくなる。しかし、板部材12の角部は、前述したように接触圧力が他の部分と較べて大きくなるため、本実施形態では、リブ50のこの角部に対応する部分を形成しないようにする(図4(a)および(b))。また、板部材の角部の切断面(図5(b)のB)は、変形した材料が集中しやすいため、直線部分に比べてバリが発生しやすい。そのため、折り曲げ部12aを設ける場合でも、板部材12の角部とリブ50との間にフィルム13が挟まれるときは、強い衝撃が加わるとフィルムの破れを起こすおそれがある。
【0034】
そこで、本実施形態では、対応する部分に上述のようにリブ50を形成しないようにするとともに、予めフィルム13を板部材12の角部の形状よりも大きく成形する。
【0035】
図6(a)および(b)はこのフィルムの形状を説明する図であり、筐体10の内部側(バネ11側)からフタ14の内側を見たときの板部材12、可撓性フィルム13、リブ50を示す図である。なお、図示を簡略化するためリブ50を実線で示している。同図(a)は、インクを充填した初期状態を示し、同図(b)は、その状態から矢印方向に圧力板12が移動したときの状態を表している。
【0036】
図6(a)に示す初期状態では、可撓性フィルム13は、板部材12との間で一定のクリアランスを持っている。また、凹部(同図面から手前に凸の部分)13bと平面部13aが形成されて、リブ50は凹部13b内に収容された状態にある。この状態では、特に、フィルム13の角部は、図3にて前述したように、距離Lで示される板部材との間の十分な距離が確保されている。
【0037】
図6(b)は、インクタンクの落下などによる強い加速度が板部材に作用したときに板部材12がリブ50により規制される位置まで移動したときの、フィルム13との位置関係を表している。同図に示すように、板部材12がリブ50により規制される位置にまで移動しても、フィルム13との距離lは確保されている。つまり、板部材12がフィルム13の角の方向に移動しても、フィルム13と接触しないようにフィルム13の形状ないし大きさを定めている。
【0038】
なお、このようにタンク落下時などは、インクも移動するためインク移動に伴ってフィルム13は、成形直後の形状まで膨らむことができる。これにより、板部材12と可撓性13との間に上記のような位置関係をとれば、フィルム13の可撓性に係わらず最低でも距離lは確保することができる。
【0039】
図7(a)〜(c)は、インクタンクが落下などの強い衝撃を受けたときの板部材12と可撓性フィルム13の移動の様子を説明する図である。
【0040】
図7(a)は、落下など強い衝撃を受ける前のインクタンク使用状態を示している。通常の使用状態では、インク収容部の負圧によって、フィルム13は内部側に変形して凹部13bを形成し、板部材12の位置は図中aの位置に保持されている。
【0041】
図7(b)は、タンクが落下するなどの衝撃を受けた直後の状態を示している。タンクが落下し地面に着いた後、板部材12とインク1はその慣性力によって移動を始める。インク1の移動とともに、フィルム13はそれに追従して変形し始める。また、板部材12も同時速度で移動し、フタ14に設けられたリブ50にフィルム13を介して突き当り動きが止まるまで移動を行う。板部材12は、初期位置aからリブ50により規制された位置bまで移動する。
【0042】
図7(c)は、板部材12が停止した後の状態を示している。板部材12がリブ50によって停止された後も、慣性力によるインク1の移動が生じており、それに伴って破線で囲まれた部分Bのように、フィルム13は成形を行ったときの形状まで膨らむ。つまり、板部材12の動きが停止した後も、フィルム13は板部材12からさらに離れる方向に移動する。このことからも、板部材12はフィルム13に接触することなく、フィルム13破れも生じることはない。
【0043】
以上、タンク構成と落下などの衝撃を受けたときの板部材12と可撓性フィルム13の動作で説明したように、板部材の角部分に対応する部分のリブ50を削除する(設けないようにする)。これとともに、予め可撓性フィルム13を板部材12のコーナー部の形状よりも大きく成形することによって、インクタンク内部の負圧安定化を実現するとともに落下等によるフィルムの破れを防止することができる。
(実施形態2)
図8(a)および(b)は、本発明の第二の実施形態に係るインクタンクの構成を示し、同図(a)はフタ部材14に設けられたリブ50を示す斜視図であり、同図(b)は、上記フタ部材を用いた本実施形態のインクタンクの図3と同様の断面図である。
【0044】
本実施形態は、上述の第一の実施形態において板部材の角部に対応するリブの部分を設けないようにしたのに対し、その部分のリブ50高さ(h1)を他の直線部分のリブ50の高さ(h2)よりも低く(h2>h1)したものである。この角部のリブ50は、落下時において板部材と接触しなければ、フィルム13の破れには影響しない。
【0045】
つまり、図8(b)に示されるように、タンク使用時における板部材12の位置(高さh3)が、h3>h1の関係であれば、落下などの衝撃を受けた場合でも、フィルム13がリブ50と板部材12との間に挟まれることはない。また、角部のリブ50を残すことによって、フタ部材14の強度を確保することができるため、タンク外圧に対する変形によるインク漏れに対しても信頼性を確保することができる。このように、角部の全てのリブ50を取り除かなくても、フタ部材14の強度を下げることなくフィルム破れに対する信頼性を確保することができる。
【0046】
(実施形態3)
図9は、本発明の第三の実施形態にかかるインクタンクのフタ部材14を示す斜視図である。
【0047】
図9に示されるように、本実施形態のフタ部材14には、板部材の角部に対応する部分を除いて複数のピン51が設けられる。このように、板部材12の移動を規制する目的であれば、直線部分のリブに代わって複数のピンを用いることもできる。
【0048】
この複数のピンは一定以上の高い密度で配置される。これにより、ピンとフィルム部材とが点接触になることをできるだけ防止している。
【0049】
なお、インク容量が少ないタンクや小型のタンクなどのように、強い衝撃による加速度を受ける板部材のサイズやインクの量が小さい場合には、個々のピンとフィルムとの接触圧力が比較的小さいので、ピン51の配置密度をより低くすることもできる。
【0050】
以上のように、角部を除くフタ14においてリブの代わりにピンを用いても、板部材の位置規制の機能を果たすことが可能であり、内部負圧の安定性を確保することができ、かつ、フィルム破れに対する信頼性を確保することができる。
【0051】
(インクジェット記録装置)
図10は、上述した各実施形態のインクタンクを用いることが可能なインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【0052】
図に示す記録装置150はシリアルスキャン方式のインクジェット記録装置であり、ガイド軸151,152によって、キャリッジ153が矢印Aの主走査方向に移動自在にガイドされている。キャリッジ153は、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構により、主走査方向に往復動される。キャリッジ153には、インクジェット記録ヘッド(不図示)と、この記録ヘッドにインクを供給するための上述した各実施形態によるインクタンク100と、が搭載可能である。本例においては、4つのインクタンク100が装着される。
【0053】
記録媒体としての用紙Pは、装置の前端部に設けられた挿入口155から挿入された後、その搬送方向が反転されてから、送りローラ156によって矢印Bの副走査方向に搬送される。記録装置150は、記録動作と搬送動作とを繰り返すことによって、用紙P上に順次画像を記録する。記録動作は、キャリッジ153と共に記録ヘッドを主走査方向に移動させつつ、プラテン157上の用紙Pの記録領域に向かってインクを吐出させる動作である。また搬送動作は、記録ヘッドの1回の記録走査によって記録される領域の幅に対応する距離だけ、用紙Pを副走査方向に搬送する動作である。
【0054】
記録ヘッドは、インクを吐出するためのエネルギとして、電気熱変換体から発生する熱エネルギを利用するものであってもよい。その場合には、電気熱変換体の発熱によってインクに膜沸騰を生じさせ、そのときの発泡エネルギによって、インク吐出口からインクを吐出することができる。また、記録ヘッドにおけるインクの吐出方式は、このような電気熱変換体を用いた方式のみに限定されず、例えば、圧電素子を用いてインクを吐出する方式等であってもよい。
【0055】
キャリッジ153の移動領域における図10中の左端には、キャリッジ153に搭載された記録ヘッドのインク吐出口の形成面と対向する回復系ユニット(回復処理手段)158が設けられている。回復系ユニット158には、記録ヘッドのインク吐出口のキャッピングが可能なキャップと、そのキャップ内に負圧を導入可能な吸引ポンプなどが備えられている。そして、インク吐出口を覆ったキャップ内に負圧を導入することにより、インク吐出口からインクを吸引排出させて、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持するための回復処理を行うことができる。また、キャップ内に向かって、画像の記録に寄与しないインクをインク吐出口から吐出させることによって、記録ヘッドの良好なインク吐出状態を維持する回復処理(予備吐出処理ともいう)を行うこともできる。
【0056】
(他の実施形態)
上述した各実施形態では、板部材の角部に対応する箇所にリブないしピンを設けないようにするか、あるいは板部材と接触しないような高さとする形態について説明したが、板部材の角部に対応する箇所にリブやピンを設けてもよい。すなわち、リブやピンの位置を、板部材が他の部分のリブないしピンによって移動が規制されるときに、その板部材の角部と当接しない位置とすればよい。
【0057】
また、以上の実施形態では、本発明を記録ヘッドにインクを供給するインクタンクに適用した場合について説明してきたが、記録部としてのペンにインクを供給する供給部に本発明は適用され得る。
【0058】
また、本発明は、そのような種々の記録装置の他、飲料水や液体調味料などの種々の液体を収容して供給するための液体収納容器、あるいは薬品を供給する医療の分野などの液体収納容器に広範囲に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態にかかるインクタンクの外観の概略を示す斜視図である。
【図2】図1に示すインクタンクの分解斜視図である。
【図3】(a)は、図1に示すインクタンクの組み立て直後でインクが満たされていない状態を示す断面図であり、(b)は、インク収容室にインクが満たされたインクタンク使用時を示す断面図である。
【図4】(a)および(b)は、図1に示すインクタンクのフタ部材に設けられたリブを示す図である。
【図5】(a)および(b)は、図1に示すインクタンクの板部材を示す図である。
【図6】(a)および(b)は、図1に示すインクタンクのフィルムの形状を説明する図である。
【図7】(a)〜(c)は、図1に示すインクタンクが落下などの強い衝撃を受けたときの板部材と可撓性フィルムの移動の様子を説明する図である。
【図8】(a)および(b)は、本発明の第二の実施形態に係るインクタンクの構成を示す図である。
【図9】本発明の第三の実施形態にかかるインクタンクのフタ部材を示す斜視図である。
【図10】本発明の各実施形態のインクタンクを用いることが可能なインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図11】特許文献1に記載のインクタンク内部の一部を示す斜視図である。
【図12】特許文献1に記載のインクタンクの断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 インク
10 筐体
11 バネ部材
12 板部材
13 可撓性フィルム
13a 成形フィルム平面部
13b 成形フィルム凹部
14 フタ部材
15 メニスカス部材
16 押え板部材
20 供給口
30 大気連通口
50 リブ
51 ピン
100 インクタンク
150 記録装置
151、152 ガイド軸
153 キャリッジ
156 送りローラ
157 プラテン
158 回復系ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留することが可能な液体収納容器において、
内部に収容される液体を導出するための供給口を備えたケース部材と、
前記ケース部材内部で当該ケース部材の一部と接合して液体収容部を形成する可撓性部材と、
該可撓性部材を当該液体収容部が拡張する方向に付勢して当該液体収容部内に負圧を発生させるためのバネ部材と、
該バネ部材と前記可撓性部材との間に配置される板部材と、
当該板部材が対面する前記ケース部材の面に沿った前記板部材の移動を規制する規制部と、を具え、
前記規制部は、少なくとも前記板部材の角領域に配位された前記可撓性部材が前記規制部と当接しないように構成されていることを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
液体を貯留した液体収納容器において、
内部に収容される液体を導出するための供給口を備えたケース部材と、
前記ケース部材内部で当該ケース部材の一部と接合して液体収容部を形成する可撓性部材と、
該可撓性部材を当該液体収容部が拡張する方向に付勢して当該液体収容部内に負圧を発生させるためのバネ部材と、
該バネ部材と前記可撓性部材との間に配置される板部材と、
当該板部材が対面する前記ケース部材の面に沿った前記板部材の移動を規制する規制部と、を具え、
前記規制部は、少なくとも前記板部材の角領域に配位された前記可撓性部材が前記規制部と当接しないように構成されていることを特徴とする液体収納容器。
【請求項3】
前記規制部は、複数の直線状リブまたは複数の円柱状のピンによって構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体収納容器。
【請求項4】
前記規制部は、前記板部材の角部以外の直線状部分に沿った部分に対応して直線状に設けられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項5】
前記可撓性部材の形状は、前記板部材の最大可動範囲よりも大きく成形されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項6】
前記規制部は、前記板部材の角部に対応した部分の高さが、前記板部材の角部以外の直線状部分に対応した部分の高さより低く設けられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項7】
前記角部に対応した規制部の高さは、前記液体収納容器使用時において、前記板部材と前記ケース部材との距離よりも短いことを特徴とする請求項6に記載の液体収納容器。
【請求項8】
前記可撓性部材の形状は、前記板部材の最大可動範囲よりも大きく成形されていることを特徴とする請求項6または7に記載の液体収納容器。
【請求項9】
液体収納容器から供給されるインクを記録ヘッドから記録媒体に吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
前記液体収納容器は、
内部に収容されるインクを導出するための供給口を備えたケース部材と、
前記ケース部材内部で当該ケース部材の一部と接合して液体収容部を形成する可撓性部材と、
該可撓性部材を当該インク収容部が拡張する方向に付勢して当該液体収容部内に負圧を発生させるためのバネ部材と、
該バネ部材と前記可撓性部材との間に配置される板部材と、
当該板部材が対面する前記ケース部材の面に沿った前記板部材の移動を規制する規制部と、を具え、前記規制部は、少なくとも前記板部材の角領域に配位された前記可撓性部材が前記規制部と当接しないように構成されているものであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−62335(P2007−62335A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255196(P2005−255196)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】