説明

液体吐出ヘッドユニット

【課題】 剥離力の極大値が1mm/s以上20mm/s以下の剥離速度に存在するシールテープを記録ヘッドの吐出口面から、上記剥離速度の範囲で剥離する場合に、吐出口面に形成された吐出口に変形が生じるおそれがある。
【解決手段】 吐出口面のうち、剥離方向の上流側に位置する第2領域に対する剥離力を、下流側に位置する吐出口が形成された領域を含む第1領域に対する剥離力よりも、大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出口から吐出して記録媒体に記録を行うための液体吐出ヘッドと、その吐出口の保護のために液体吐出ヘッドに貼付されるシールテープに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式に用いられる液体吐出ヘッドとしてのインクジェット記録ヘッドの吐出口を物流時に保護する方法には、キャップ状の保護部材を設ける方法や、シールテープでその吐出口を覆う方法などがある。
シールテープとしては粘着テープ、あるいは、ホットメルトテープを使用する方法等が提案されている。
【0003】
粘着テープを構成する粘着層について、特許文献1及び2では、アクリル共重合体OH基にイソシアナートを架橋して高分子化させ、凝集力を高めることにより、粘着剤の耐インク性を向上させる構成が開示されている。
【0004】
また特許文献3においては、粘着テープが電極部を覆う封止部を避けて吐出口を備える吐出口面に貼られる構成が開示されている。
【0005】
上記のような粘着テープを吐出口面に貼付した場合に、吐出口に対して粘着層がめり込むことで、粘着テープを剥離する際に粘着層の一部が剥がれて、吐出口の近傍に粘着剤が残存することにより記録特性に影響を与えることが知られている。
【0006】
このような粘着の残存を低減するために、粘着層の凝集力を向上させることで、粘着層が吐出口内にめり込むことを低減する方法が特許文献4で提案されている。
【特許文献1】特開平05−77436号公報
【特許文献2】特開平05−84925号公報
【特許文献3】特開2006−159513号公報
【特許文献4】特開2007−038670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献4で提案されている粘着テープは、粘着層の凝集力を高めているため、粘着層の弾性率が高くなっている。
【0008】
一般的に粘着テープは、被着材から剥離する際にその剥離力について剥離速度に対する依存性があり、ある剥離速度において剥離力の極大値を有する場合がある。またそのような粘着テープは、粘着層の弾性率が高くなるにつれて剥離力が極大となる剥離速度が小さくなっていく傾向を有することが知られている。
【0009】
したがって粘着層の弾性率を向上させた粘着テープについて、剥離力が極大となる剥離速度が、人がインクジェット記録ヘッドからシールテープをゆっくり剥離する速度と考えられる1mm/s以上20mm/s以下に該当する場合が生じる。
【0010】
ところで、吐出口面には吐出口が形成されている近傍の領域に機械的に強度が弱い部分が存在する場合には、シールテープを剥離する際に、その剥離力が吐出口の変形を抑制できる程度の剥離力となるように、粘着層の粘着力を調整する必要がある。
【0011】
しかしながら、粘着層の弾性率を向上させた粘着テープについて、人が吐出口面からシールテープをゆっくり剥離する速度と考えられる1mm/s以上20mm/s以下における剥離力が上述の吐出口の変形を抑制できる程度の剥離力よりも大きくなる場合が生じる。
【0012】
一方、1mm/s以上20mm/s以下における剥離力が吐出口が変形しない程度の剥離力となるように粘着層の粘着力を設定すると、シールテープの粘着力が不足し、適切に吐出口面に貼付して、吐出口を封止できないことも考えられる。
【0013】
そこで本発明の目的は、上述の弾性率を向上させたシールテープを用いた場合でも、吐出口面からシールテープを剥離する際の吐出口の変形を低減可能な液体吐出ヘッドユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の液体吐出ヘッドユニットは、液体を吐出するための吐出口を備えた面を有する液体吐出ヘッドと、前記吐出口を封止するように前記面に貼付されているテープと、を有し、前記面は、前記吐出口が設けられた領域を含む第1領域と、前記テープを該面から剥離する場合に、該面のうち前記第1領域よりも剥離方向の上流側に位置する第2領域とを有し、常温において前記テープは、1mm/s以上20mm/s以下の剥離速度における最大の剥離力を示す剥離速度以上であって20mm/s以下の剥離速度における剥離力より、20mm/sより大きく1000mm/s以下の剥離力における剥離力の方が小さく、常温において、1mm/s以上20mm/s以下の所定の剥離速度で、前記第1領域と前記テープとの剥離力より前記第2領域と前記テープとの剥離力の方が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
剥離方向の上流側に、吐出口が形成された領域を含む領域を剥離可能な引張応力よりも、高い引張応力を生じさせるための領域を設け、下流側の吐出口が形成された領域における剥離速度が高速となるように制御することで、吐出口が変形するおそれを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に用いられる一般的な液体吐出ヘッドについて図面を参照して説明する。
【0017】
なお、本明細書において「記録」とは、文字や図形など有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。さらに、広く記録媒体上に画像、模様、パターンなどを形成する場合、または媒体の加工を行う場合をも包含する。
【0018】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革などのインクを受容可能な物をも含むものである。
【0019】
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様に広く解釈されるべきであり、記録媒体に付与されることによって、画像、模様、パターンなどの形成または記録媒体の加工あるいはインクの処理に供され得る液体を含む。したがって、記録に関して用いることが可能なあらゆる液体を包含している。
【0020】
<インクジェット記録ヘッドユニット>
本発明の液体吐出ヘッドユニットの構成について、一般的なインクジェット記録ヘッドユニットを例として説明する。
【0021】
図9は、液体吐出ヘッドとしてのインクジェット記録ヘッドH1001(以下、記録ヘッドとする)の吐出口面H1103に対して、インクを吐出するための吐出口の保護用や封止用のシールテープH1401が貼られている記録ヘッドユニットH1000である。
【0022】
このような梱包用の形態を有する記録ヘッドユニットH1000は、物流時に用いられる。シールテープH1401は、吐出口面H1103に形成されている吐出口を覆って貼られる。
【0023】
シールテープH1401が貼られることで、吐出口の保護だけでなく、物流時に生じる温度変動および圧力変動などによる吐出口からのインク漏れを防止することが可能になる。また、シールテープH1401には、シールテープH1401を剥離しやすくするためのタグテープH1402が貼られる。
【0024】
(インクジェット記録ヘッド)
本発明を適用可能な記録ヘッドの構成について、図9(b)及び図10を用いて説明する。
【0025】
図9(b)において、記録ヘッドH1001は、インクタンク一体型であり、インクタンク内にインクが充填されている。なお、記録ヘッドの構成としては、インクタンク別体型でもよい。
【0026】
以下、図9(b)及び図2を用いて記録ヘッドH1001の詳細な説明を行う。
【0027】
記録ヘッドH1001は、図9(b)で示すように、電気配線テープH1301と、インク供給保持部材H1501と、シール部材H1801と、蓋部材H1901とを有する。
【0028】
また、図10で示すように記録ヘッドH1001は、さらに記録素子基板H1100とインク吸収体H1601〜H1603と、フィルタH1701〜H1703とを有する。なお、インク吸収体H1601〜H1603については、必ずしも用いる必要はない。
【0029】
電気配線テープH1301は、ポリイミドフィルム上に銅配線が形成されたものであり、インクを吐出するための電気信号を記録素子基板H1100に印加する経路を形成する。
【0030】
また、電気配線テープH1301は、外部信号入力端子H1302と、開口部H1303と、電極端子H1304とを有する。
【0031】
外部信号入力端子H1302は、本体装置(インクジェット記録装置)から電気信号を受信するための端子である。
【0032】
開口部H1303は、記録素子基板H1100を組み込むためのものである。
【0033】
電極端子H1304は、記録素子基板H1100の電極部に接続される端子であり、開口部H1303の縁付近に形成される。なお、電極端子H1304と外部信号入力端子H1302とは、銅配線による経路でつながれている。
【0034】
また、記録素子基板H1100と電気配線テープH1301との電気的接続部分には、周囲封止剤H1307およびリード封止剤H1308が塗布される。
【0035】
周囲封止剤H1307およびリード封止剤H1308は、インクから、記録素子基板H1100および記録素子基板の電極部を保護する。
【0036】
周囲封止剤H1307およびリード封止剤H1308は、例えば、熱硬化性エポキシ封止剤である。しかしながら、周囲封止剤H1307およびリード封止剤H1308は、熱硬化性エポキシ封止剤に限らず、適宜変更可能である。
【0037】
インク供給保持部材H1501は、例えば、樹脂成形により形成される。
【0038】
インク供給保持部材H1501は、インク吸収体H1601ないしH1603のそれぞれを保持するための複数の内部空間を有する。
【0039】
また、インク供給保持部材H1501は、内部空間に挿入されたインク吸収体H1601ないしH1603のそれぞれから記録素子基板H1100にインクを供給するインク流路を有する。
【0040】
また、インク供給保持部材H1501のインク流路の下流部には、インク供給口H1201が形成される。記録素子基板H1100は、Si基板H1101に形成されているインク供給口が、インク供給保持部材H1501に形成されているインク供給口H1201に連通するように固定される。
【0041】
インク吸収体H1601ないしH1603は、例えば、ポリプロピレン(PP)繊維の圧縮体である。なお、インク吸収体H1601ないしH1603は、PP繊維の圧縮体に限らず、適宜変更可能である。
【0042】
インク吸収体H1601ないしH1603のそれぞれは、インクを保持するための負圧を発生し、インクを保持する。例えば、インク吸収体H1601ないしH1603のそれぞれは、シアン、マゼンタおよびイエローのそれぞれのインクを保持する。
【0043】
また、インク吸収体H1601ないしH1603のそれぞれは、インク供給保持部材H1501の内部空間のそれぞれに挿入される。
【0044】
フィルタH1701ないしH1703は、記録素子基板H1100内部へのゴミの進入を防ぐためのものである。フィルタH1701ないしH1703のそれぞれは、インク供給保持部材H1501のインク流路と、インク吸収体H1601ないしH1603のそれぞれとの境界部に固定される。
【0045】
蓋部材H1901は、インク供給保持部材H1501内部を密閉するために、インク供給保持部材H1501の上部開口部に溶着される。
【0046】
ただし、蓋部材H1901は、インク供給保持部材H1501内部の各部の圧力変動を逃がすための細口H1911ないしH1913を有する。また、蓋部材H1901は、細口H1911ないしH1913のそれぞれを連通する微細溝H1921ないしH1923を有する。
【0047】
シール部材H1801は、微細溝H1923の細口H1913と連通した端部と異なる他端部を除いて、細口H1911ないしH1913と、微細溝H1921ないしH1923と、を覆うように蓋部材H1901に接着される。
【0048】
これにより、微細溝H1923の他端部が開口され、その他端部が、各内部空間を大気中に連通させる大気連通口を形成する。
【0049】
また、蓋部材H1901は、インクジェット記録ヘッドH1001を本体装置に固定するための係合部H1930を有している。
【0050】
なお、インク供給保持部材H1501および蓋部材H1901は、インク吸収体H1601ないしH1603およびフィルタH1701ないしH1703を内蔵するインク収納部の筺体を形成する。
【0051】
なお、記録素子基板H1100については実施例で詳細に説明する。
【0052】
(シールテープ)
本発明で用いられるシールテープについて、詳細に説明する。
【0053】
シールテープH1401は、図1(b)に示すようにシールテープ基材H1403と、粘着剤で形成される粘着層H1404とで構成される。
【0054】
シールテープH1401の粘着層H1404として、アクリル酸シクロヘキシルを含有したアクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体を含むものを用いた。また、その粘着層H1404におけるアクリル酸シクロヘキシルの含有割合は30重量%以上で50重量%以下である。
【0055】
このようなシールテープの粘着層は、以下の材料及び調合によって作成することができる。
・ブチルアクリレート:51.5重量部
・シクロヘキシルアクリレート:40重量部
・アクリル酸:3.5重量部
・末端にメタクリロイル基を有するメチルメタクリレートマクロモノマー:5重量部
・酢酸エチル:150重量部
・アゾビスイソブチロニトリル:0.2重量部
を加え、窒素気流中、68℃にて8時間重合反応を行い、反応終了後酢酸エチルにて希釈し、固形分20重量%に調整して粘度6500cP、重量平均分子量80万の共重合体液を得る。この共重合体液に、架橋剤としてアルミニウムトリスアセチルアセトネートを共重合体100重量部に対して3重量部加えて粘着剤組成物を得る。
【0056】
上述の材料及び調合によって作成した粘着剤組成物を、シールテープ基材H1403としての厚さ25μmのポリエチレンテレフタラートフィルムに塗布し、加熱乾燥させて、粘着剤層厚さ30μmのシールテープとする。
【0057】
このようにして作成したシールテープH1401の粘着層の常温における弾性率は、1.5MPaであった。
【0058】
なお、粘着層の常温における弾性率が0.5MPa以上3MPa以下のシールテープであれば、吐出口面H1103にシールテープを貼付した際でも、吐出口に粘着層がめり込みにくく、吐出口を封止できるため望ましい。
【0059】
(実施例)
以下、本発明における実施例について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0060】
(実施例1)
本発明の記録ヘッドの吐出口面H1103について詳細に説明する。吐出口面H1103には、記録素子基板H1100と、電気配線テープH1301と、記録素子基板と電気配線テープとの電気接続部を封止する封止材H1308とを有する。
【0061】
記録素子基板H1100は、例えば、厚さが0.5mmから1mmのSi基板H1101を基体として形成され、インクを吐出するための電気信号を受信するための電極部(不図示)と、内部のインクが供給されるインク供給口とを有する。また、記録素子基板H1100は、Si基板上にインクを吐出する吐出口を形成するための吐出口形成層を有する。
【0062】
図1(a)のA−A断面図である図1(b)で示すように、記録素子基板H1100は、Si基板H1101と吐出口形成層H1106とで構成され、インクを吐出するための電気信号を受信するための電極部(不図示)とを有する。
【0063】
Si基板H1101に吐出口H1102からインクを吐出するためのエネルギーを発生する発熱素子H1105が作りこまれ、またサンドブラストや異方性エッチング等によってインク供給口H1104が形成されている。そのSi基板H1101上に、フォトリソグラフィーなどの製法を用いて、吐出口形成層H1106に吐出口H1102やインク流路が形成される。なお、吐出口形成領域H1406(図1(a))は、吐出口H1102やインク流路が形成されているため、吐出口形成層H1106の機械的強度が弱い領域である。
【0064】
また、吐出口形成層H1106の表面には吐出口H1102近傍におけるインクの残存が記録動作に与える影響を減らすため、撥水層が形成されている。撥水層にはフッ素含有シラン化合物を含み、インクの残存を低減するには水の前進接触角が80°〜105°となるように調整することが望ましい。本実施例における記録ヘッドでは、撥水層により水の前進接触角が約100°に調整されている。
【0065】
図1(a)に示すように本実施例の記録ヘッドでは、剥離方向2000の上流側にシールテープH1401の粘着層H1404との結合力が吐出口形成層H1106の撥水層との結合力よりも強い部分を、その剥離方向に対して垂直方向に沿うように帯状に設けた。すなわち、吐出口面は、吐出口形成領域H1406を含む第1領域H1108と、剥離方向2000に沿って、第1領域よりも上流側に位置する第2領域H1107と、を含み、第2領域には第1領域よりも粘着層H1404との結合力が強い部分H1405を含む。
【0066】
このような構成とすることで、吐出口面H1103からシールテープH1401を剥離方向2000で剥離する際に、第2領域H1107の剥離力を第1領域H1108の剥離力よりも大きくすることができる。
【0067】
具体的に、第1領域よりも粘着層H1404との結合力が強い部分H1405として、本実施例では、吐出口形成層H1106の表面に撥水性の低い低撥水領域H1405を設けた。
【0068】
吐出口形成層H1106の表面に低撥水領域H1405を設ける方法について説明する。
【0069】
図2は、低撥水領域H1405を設ける工程を説明するためのフロ−図である。
【0070】
図2(a):吐出口形成層H1106上にマスク2001を配する。この際、低撥水領域としたい領域が開口している状態とする。マスク2001としては、金属マスク、ガラスマスク等を用いる場合や、樹脂フィルムを直接吐出口形成層H1106の表面上に貼る場合等がある。
【0071】
図2(b):紫外線2002を照射する。紫外線2002は、吐出口形成層H1106の表面のうちマスクによって開口された領域に照射される。
【0072】
図2(c):吐出口形成層H1106の表面に対して紫外線2002を照射する。
【0073】
以上のような工程を経て、吐出口形成層H1106の表面が改質されることで低撥水領域H1405が形成される。
【0074】
前述のシールテープH1401について、本実施例の吐出口形成層H1106表面の吐出口形成領域H1406を含む第1領域に対する剥離力の剥離速度依存性を測定した。図3に示すように、剥離速度が5mm/sの場合に剥離力が極大となった。すなわち、剥離速度が20mm/sより大きく1000mm/s以下の剥離力は、1mm/s以上20mm/s以下の剥離速度における最大の剥離力を示す剥離速度以上(5mm/s以上)であって20mm/s以下の剥離速度における剥離力より小さい値を示した。
【0075】
なお、剥離力の測定には図4に示す測定装置を用いた。測定方法は次の通りである。
【0076】
測定試料に対してシールテープH1401を貼り付けたものを用意し、シールテープH1401のタグテープH1402部分をクランプ200に取り付ける。クランプ200はステージ202上に取り付けられたプッシュプルゲージ201と連結されている。ステージ202を所定の方向に一定の速度で移動させて、シールテープH1401を測定試料から所定の剥離方向で引き剥がす。この時のプッシュプルゲージ201によって剥離力を測定することができる。
【0077】
本実施例で説明した記録ヘッドの吐出口面H1103に対して、前述のシールテープH1401を貼付した記録ヘッドユニットについてシールテープを一定荷重で剥離する試験を行った。
【0078】
シールテープH1401に負荷する荷重としては、前述の剥離力が極大となる値よりも大きくなるように設定した。なお、本実施例においては、低撥水領域H1405と吐出口形成領域H1406との距離が、約0.65mmである。
【0079】
図5には、シールテープH1401を約102N/mの等荷重(幅9.8mmのシールテープに対して約1Nの荷重)で引き続けた際、それぞれの領域での平均剥離速度を示した。
【0080】
低撥水領域H1405を含む第2領域H1107においては、約1.5mm/sと非常に低速度で剥離がされているが、吐出口形成領域H1406を含む第1領域H1108においては、約65mm/sと急激に高速での剥離となった。
【0081】
低撥水領域H1405においては、シールテープH1401の粘着層H1404との結合力が高いため、剥離する際の抵抗が大きくなる。なお、第1領域H1108における剥離速度は約1.5mm/s程度と低く、この剥離速度は人が吐出口面からシールテープをゆっくり剥離する速度に該当する。このような剥離速度で第1領域H1108の剥離が開始された場合でも、第1領域に対する剥離力は第2領域に対する剥離力よりも小さいため、第1領域において高速の剥離が実現できる。すなわち、第2領域を剥離するためには、第2領域に対する剥離力以上の引張応力をシールテープH1401に負荷する必要がある。このように第1領域に対する剥離力よりも大きい引張応力がシールテープに負荷されている状態で第1領域の剥離を開始すると、シールテープに加速度がかかり、剥離速度が増す。なお、吐出口面は、第1領域においてシールテープH1401の粘着層H1404と適度な密着を有している。
【0082】
以上より本発明の構成を用いれば、第2領域を有しない吐出口面からシールテープを剥離した場合に比べて、吐出口形成領域H1406を含む第1領域における剥離速度を速くすることができる。その結果、1mm/s以上20mm/s以下の剥離速度における最大の剥離力を示す剥離速度である5mm/s以上であって20mm/s以下の剥離速度における剥離力よりも小さい剥離力で第1領域を剥離することができる。
【0083】
本実施例の記録ヘッドを評価した結果、搬送時にシールテープH1401が剥がれること、及びインク漏れ等が発生することを低減しつつ、使用時にシールテープH1401を剥離する際も、吐出口形成領域H1406の破損を低減することができた。また、その記録ヘッドで記録を行った結果、良好な記録を得ることができた。
【0084】
(実施例2)
図6を参照して実施例2について説明する。実施例1と実施例2との違いは、第1領域に設けられた低撥水領域H1405にある。他の構成については実施例1と同様であるので説明を省略する。なお、シールテープH1401は実施例1と弾性率及び剥離力の剥離速度依存性が同様のものを用いた。
【0085】
図6(a)に示すように、本実施例では、低撥水領域H1405を第2領域H1107の両端部に設ける構成とした。このような構成とすることで、第2領域H1107に対する剥離力を第1領域H1108に対する剥離力よりも大きくすることができる。
【0086】
なお、第2領域H1107の一部分のみに低撥水領域H1405を設ける場合、実施例1のように第2領域の全面に渡って低撥水領域を設ける場合に比べて、低撥水領域における粘着層との結合力が高いため、粘着剤が低撥水領域に付着してしまうおそれがある。一方、図6(b)に示すように、ワイパー2003によってインク等で汚れた吐出口面H1103をクリーニングする場合がある。ワイピングの動作により粘着剤が付着するおそれがある低撥水領域H1405と吐出口形成領域H1406とが重なる位置に低撥水領域がある場合に、粘着剤がワイパー2003により移動して吐出口に入り込むおそれがある。粘着剤が吐出口に入り込むと、液体の吐出特性が変わるため記録品位が低下してしまう。
【0087】
このような場合でも図6(a)に示すように、第2領域のうち低撥水領域H1405と吐出口形成領域H1406とがワイピング方向2004で重ならない位置に低撥水領域を設けることで、ワイピング動作により粘着剤が吐出口に入り込むおそれを低減できる。なお、吐出口面H1103は実質的に矩形状をしている場合が多いため、ワイパーの移動方向2004はシールテープの剥離方向2000に沿う場合や、シールテープの剥離方向2000の垂直方向に沿う場合が多い。
【0088】
ワイパーの移動方向2004と、シールテープの剥離方向2000とが実質的に平行な場合には、上述したように低撥水領域H1405と吐出口形成領域H1406とがワイパーの移動方向2004で重ならない位置にあればよい。
また、ワイパーの移動方向と剥離方向とが実質的に垂直な場合には、第2領域は、第1領域よりも剥離方向2000の上流側に存在するため、たとえ第2領域に粘着剤が存在していたとしても、ワイピングの動作により、粘着剤が吐出口に入り込むおそれは少ない。
【0089】
本実施例の記録ヘッドを評価した結果、搬送時にシールテープH1401が剥がれること、及びインク漏れ等が発生することを低減しつつ、使用時にシールテープH1401を剥離する際も、吐出口形成領域H1406の破損を低減することができた。また、その記録ヘッドで記録を行った結果、良好な記録を得ることができた。
【0090】
(実施例3)
図7を参照して実施例3について説明する。実施例1及び実施例2では、吐出口面は第1領域と第2領域とを1つずつ含む構成であったが、実施例3では、吐出口面が第1領域と第2領域を1組とした領域を、複数組含む構成である。その他の構成については、実施例1及び実施例2で説明した構成と同様であるので、説明を省略する。
【0091】
図7に示すように、吐出口形成領域H1406が複数ある場合に、剥離方向2000について、それぞれの吐出口形成領域の上流側に低撥水領域H1405を含む第2領域を設けた。すなわち、吐出口面に、剥離方向2000に沿って、第1領域と第2領域を1組とした領域が隣接するように複数組設けられている構成である。
【0092】
このような構成とすることで、剥離方向の上流側の第1領域における剥離速度が何らかの原因で小さくなった場合にも、下流側の第1領域上流側に存在する第2領域により、下流側の第1領域における剥離速度を高速に制御することができる。したがって、吐出口形成領域H1406における剥離速度をさらに安定させることができる。
【0093】
本実施例の記録ヘッドを評価した結果、搬送時にシールテープH1401が剥がれること及びインク漏れ等が発生することを低減しつつ、使用時にシールテープH1401を剥離する際も、吐出口形成領域H1406の破損を低減することができた。また、その記録ヘッドで記録を行った結果、良好な記録を得ることができた。
【0094】
(実施例4)
図8を参照して実施例4について説明する。実施例1〜実施例3で説明した構成と同様であるので、各構成の符号の説明を省略する。
【0095】
実施例1〜実施例3においては、シールテープを剥離する際に、所定の剥離方向で剥離する必要があった。
【0096】
図8のように実施例4では、少なくとも吐出口形成層のうち吐出口形成領域の外側に低撥水領域H1405a〜H1405dを設けることで、剥離方向が2000a〜2000dのいずれの場合においても、第1領域における剥離速度を高速に制御することができる。
【0097】
また、図8に示すように、剥離方向2000b、dについて低撥水領域と吐出口形成領域とが重ならないように低撥水領域H1405e、fを設けることで、剥離方向2000a〜2000dのいずれの方向で剥離しても第2領域の剥離速度の制御が容易となる。
【0098】
本実施例の記録ヘッドを評価したところ、次のような結果となった。搬送時にシールテープH1401が剥がれること、及びインク漏れ等が発生することを低減しつつ、2000a〜2000dのいずれの剥離方向において使用時にシールテープを剥離する際も、吐出口形成領域H1406の破損を低減することができた。また、その記録ヘッドで記録を行った結果、良好な記録を得ることができた。
【0099】
以上、実施例1〜実施例4においては、吐出口面のうち吐出口形成層に粘着層との結合力を高める部分を設けることで第2領域としたが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、吐出口面のうち、封止材や電気配線テープに表面処理を施すことで第2領域を形成しても良い。
【0100】
表面処理の方法としては、例えば、吐出口形成層や電気配線テープに対して表面をプラズマ処理することにより表面粗さを変化させることで、粘着層との結合力を変化させることも可能である。この場合には、表面粗さを測定することにより、表面処理を施した領域とそれ以外の領域との区別が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】実施例1のシールテープを貼りつけたインクジェット記録ヘッドを説明するための模式図である。
【図2】低撥水領域を形成する製造工程フローを説明するための模式図である。
【図3】本発明のシールテープの剥離力に対する剥離速度依存性を示す図である。
【図4】剥離力の測定装置の概略を示す模式図である。
【図5】実施例1の吐出口面の各領域に対する剥離速度を説明図である。
【図6】実施例2の吐出口面の説明図である。
【図7】実施例3の吐出口面の説明図である。
【図8】実施例4の吐出口面の説明図である。
【図9】本発明に適用可能な記録ヘッドユニット及び記録ヘッドの説明図である。
【図10】本発明に適用可能な記録ヘッドの分解図である。
【符号の説明】
【0102】
H1001 インクジェット記録ヘッド
H1100 記録素子基板
H1102 吐出口
H1103 吐出口面
H1106 吐出口形成層
H1401 シールテープ
H1404 粘着剤層
H1405 低撥水領域
H1406 吐出口形成領域
2000 シールテープ剥離方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための吐出口を備えた面を有する液体吐出ヘッドと、前記吐出口を封止するように前記面に貼付されているテープと、を有する液体吐出ヘッドユニットであって、
前記面は、前記吐出口が設けられた領域を含む第1領域と、前記テープを該面から剥離する場合に、該面のうち前記第1領域よりも剥離方向の上流側に位置する第2領域とを有し、
常温において前記テープは、1mm/s以上20mm/s以下の剥離速度における最大の剥離力を示す剥離速度以上であって20mm/s以下の剥離速度における剥離力より、20mm/sより大きく1000mm/s以下の剥離力における剥離力の方が小さく、
常温において、1mm/s以上20mm/s以下の所定の剥離速度で、前記第1領域と前記テープとの剥離力より前記第2領域と前記テープとの剥離力の方が大きいことを特徴とする液体吐出ヘッドユニット。
【請求項2】
前記第1領域と前記第2領域を1組とする領域が、前記剥離方向に沿って隣接するように複数組、前記面に設けられている請求項1に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項3】
前記面が、前記剥離方向の最も下流側に位置する前記第1領域よりも下流側に、さらに前記第2領域を有する請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項4】
前記面は、前記吐出口が形成されており撥水性を備えた吐出口形成層を有し、
前記吐出口形成層が前記第1領域と前記第2領域とを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項5】
前記面は前記第2領域に、該第2領域と前記テープとの結合力が、前記第1領域と前記テープとの結合力よりも大きい部分を有する請求項1乃至4のいずれかに記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項6】
前記部分が、前記剥離方向の垂直方向に沿って前記第2領域の両端部であって、前記剥離方向に沿って前記部分と前記吐出口が設けられた領域とが重ならない位置に設けられている請求項5に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項7】
前記部分が前記第1領域よりも撥水性の低い領域である請求項5又は6に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項8】
前記部分が前記第1領域よりも表面粗さが粗い領域である請求項5又は6に記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項9】
前記テープは粘着層を備え、該粘着層の常温における弾性率が、0.5MPa以上3MPa以下である請求項1乃至8のいずれかに記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項10】
前記テープは粘着層を備え、該粘着層がアクリル酸シクロヘキシルを含有したアクリル酸アルキルエステル共重合体を金属キレート化合物で架橋したアクリル系架橋重合体を含む請求項1乃至9のいずれかに記載の液体吐出ヘッドユニット。
【請求項11】
前記粘着層における前記アクリル酸シクロヘキシルの含有割合が、30重量%以上で50重量%以下である請求項10に記載の液体吐出ヘッドユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−5849(P2010−5849A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166087(P2008−166087)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】