説明

液体吐出ヘッド及び画像形成装置

【課題】クロストークを確実に防止し、ヘッドの高密度化を可能とする。
【解決手段】液体が充填される圧力室の対向する両壁面に第1及び第2の圧力発生素子を備え、前記第1及び第2の圧力発生素子の少なくとも一方により前記圧力室内の液体を加圧し、前記圧力室に連通するノズルから液滴を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧力室は、前記第1及び第2の圧力発生素子が対向する方向に略垂直な方向に沿って圧力室隔壁を介して複数設けられ、前記ノズルの液滴吐出方向は、前記第1及び第2の圧力発生素子の液体加圧方向に略垂直な方向であり、前記圧力室隔壁には、前記第1の圧力発生素子側及び前記第2の圧力発生素子側にそれぞれ液滴吐出方向に沿って開口する第1の溝部が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッドを提供することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び画像形成装置に係り、特に、液体が充填される圧力室の対向する両壁面に圧力発生素子を備えた液体吐出ヘッド及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電素子に代表される圧力発生素子の変位を利用して、圧力室(若しくはインク流路)内のインクを加圧することにより、圧力室に連通するノズルからインク滴を吐出して記録媒体上に所望の画像を形成する、いわゆる圧電方式のインクジェットヘッド(以下、単に「ヘッド」若しくは「印字ヘッド」という。)を搭載したインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
この種のヘッドには、圧力室の一壁面に圧力発生素子を設けた構造が従来より広く採用されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、圧力発生素子間に溝部が設けられたヘッドが記載されており、これにより、隣接する圧力発生素子間で生じるクロストークが防止されている。しかしながら、このように圧力室の一壁面に圧力発生素子を設けた構造では、圧力室内のインクに加える圧力を幅広く変化させることはできず、この結果、体積の異なる様々なインク滴をノズルから吐出することができず、多階調表現には適さないといった問題がある。また、十分な吐出力を得られず、高周波駆動には適さないといった問題もある。そこで、特許文献2〜4では、圧力室の対向する両壁面に圧力発生素子をそれぞれ設けたヘッドが提案されている。
【特許文献1】特開平10−100418号公報
【特許文献2】特開平08−52873号公報
【特許文献3】特開平11−291496号公報
【特許文献4】特開平10−138471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2〜4では、隣接する圧力室間で生じるクロストークは考慮されていない。そのため、圧力室間のピッチが小さくなると、クロストークによる影響が大きくなり、ヘッド全体においてインク吐出が不安定となってしまう恐れがある。このため、ヘッドの高密度化には限界があるといった問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、クロストークを確実に防止し、且つ、ヘッドの高密度化を可能とする液体吐出ヘッド及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、液体が充填される圧力室の対向する両壁面に第1及び第2の圧力発生素子を備え、前記第1及び第2の圧力発生素子の少なくとも一方により前記圧力室内の液体を加圧し、前記圧力室に連通するノズルから液滴を吐出する液体吐出ヘッドであって、前記圧力室は、前記第1及び第2の圧力発生素子が対向する方向に略垂直な方向に沿って圧力室隔壁を介して複数設けられ、前記ノズルの液滴吐出方向は、前記第1及び第2の圧力発生素子の液体加圧方向に略垂直な方向であり、前記圧力室隔壁には、前記第1の圧力発生素子側及び前記第2の圧力発生素子側にそれぞれ液滴吐出方向に沿って開口する第1の溝部が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッドを提供する。
【0007】
本発明によれば、圧力室隔壁の液体吐出側の壁面はヒンジのように中央部を略中心にして端部側が圧力室内のインクを加圧するように変形するので加圧効率が向上する一方で、隣接するインク非吐出側の壁面は変形しないのでクロストークが防止される。この結果、圧力室間のピッチを短くしても安定したインク吐出が可能となり、液体吐出ヘッドの高密度化が可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液体吐出ヘッドであって、前記第1の溝部の断面形状は略R状であることを特徴とする。
【0009】
圧力室隔壁に対する応力集中を避けるため、第1の溝部の断面形状は略R状であることが好ましい。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッドであって、前記圧力室隔壁には、前記第1及び第2の圧力発生素子が対向する方向の中間層として弾性部材が設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドであって、前記圧力室隔壁には、前記圧力室側に開口する第2の溝部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
液体吐出効率を更に向上させ、且つ、クロストークを確実に防止するために、圧力室隔壁に弾性部材から成る中間層を設ける態様が好ましく、更に、圧力室側に開口する第2の溝部を圧力室隔壁に設ける態様が好ましい。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドであって、前記第1の溝部は、前記第1の圧力発生素子側及び前記第2の圧力発生素子側にそれぞれ複数設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項5の態様によれば、クロストークを更に確実に防止することができる。
【0015】
また、前記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圧力室隔壁の液体吐出側の壁面はヒンジのように中央部を略中心に端部側が圧力室内のインクを加圧するように変形するので加圧効率が向上する一方で、隣接するインク非吐出側の壁面は変形しないのでクロストークが防止される。この結果、圧力室間のピッチを短くしても安定したインク吐出が可能となり、液体吐出ヘッドの高密度化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
【0018】
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る画像形成装置としてのインクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。図1に示すように、このインクジェット記録装置10は、インクの色毎に設けられた複数の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yを有する印字部12と、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部14と、記録紙16を供給する給紙部18と、記録紙16のカールを除去するデカール処理部20と、前記印字部12のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙16の平面性を保持しながら記録紙16を搬送する吸着ベルト搬送部22と、印字部12による印字結果を読み取る印字検出部24と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部26と、を備えている。
【0019】
図1では、給紙部18の一例としてロール紙(連続用紙)のマガジンが示されているが、紙幅や紙質等が異なる複数のマガジンを併設してもよい。また、ロール紙のマガジンに代えて、又はこれと併用して、カット紙が積層装填されたカセットによって用紙を供給してもよい。
【0020】
ロール紙を使用する装置構成の場合、図1のように、裁断用のカッター28が設けられており、該カッター28によってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター28は、記録紙16の搬送路幅以上の長さを有する固定刃28Aと、該固定刃28Aに沿って移動する丸刃28Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃28Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃28Bが配置されている。なお、カット紙を使用する場合には、カッター28は不要である。
【0021】
複数種類の記録紙を利用可能な構成にした場合、紙の種類情報を記録したバーコードあるいは無線タグ等の情報記録体をマガジンに取り付け、その情報記録体の情報を所定の読取装置によって読み取ることで、使用される用紙の種類を自動的に判別し、用紙の種類に応じて適切なインク吐出を実現するようにインク吐出制御を行うことが好ましい。
【0022】
給紙部18から送り出される記録紙16はマガジンに装填されていたことによる巻き癖が残り、カールする。このカールを除去するために、デカール処理部20においてマガジンの巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム30で記録紙16に熱を与える。このとき、多少印字面が外側に弱いカールとなるように加熱温度を制御するとより好ましい。
【0023】
デカール処理後、カットされた記録紙16は、吸着ベルト搬送部22へと送られる。吸着ベルト搬送部22は、ローラー31、32間に無端状のベルト33が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する部分が平面をなすように構成されている。
【0024】
ベルト33は、記録紙16の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(不図示)が形成されている。図1に示したとおり、ローラー31、32間に掛け渡されたベルト33の内側において印字部12のノズル面及び印字検出部24のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバー34が設けられており、この吸着チャンバー34をファン35で吸引して負圧にすることによってベルト33上の記録紙16が吸着保持される。
【0025】
ベルト33が巻かれているローラー31、32の少なくとも一方にモータ(不図示)の動力が伝達されることにより、ベルト33は図1において、時計回り方向に駆動され、ベルト33上に保持された記録紙16は、図1の左から右へと搬送される。
【0026】
縁無しプリント等を印字するとベルト33上にもインクが付着するので、ベルト33の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部36が設けられている。ベルト清掃部36の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、あるいはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
【0027】
なお、吸着ベルト搬送部22に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面にローラーが接触するので、画像が滲み易いという問題がある。従って、本例のように、印字領域では画像面と接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
【0028】
吸着ベルト搬送部22により形成される用紙搬送路上において印字部12の上流側には、加熱ファン40が設けられている。加熱ファン40は、印字前の記録紙16に加熱空気を吹きつけ、記録紙16を加熱する。印字直前に記録紙16を加熱しておくことにより、インクが着弾後乾き易くなる。
【0029】
印字部12は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている。印字部12を構成する各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yは、本インクジェット記録装置10が対象とする最大サイズの記録紙16の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が1次元状に配列されたライン型ヘッドで構成されている。
【0030】
記録紙16の搬送方向(紙搬送方向)に沿って上流側(図1の左側)から黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応した印字ヘッド12K、12C、12M、12Yが配置されている。記録紙16を搬送しつつ各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yからそれぞれ色インクを吐出することにより記録紙16上にカラー画像を形成し得る。
【0031】
このように、紙幅の全域をカバーするフルラインヘッドがインク色毎に設けられてなる印字部12によれば、紙搬送方向(副走査方向)について記録紙16と印字部12を相対的に移動させる動作を一回行うだけで(すなわち、一回の副走査で)記録紙16の全面に画像を記録することができる。これにより、印字ヘッドが紙搬送方向と直交する方向(主走査方向)に往復動作するシャトル型ヘッドに比べて高速印字が可能であり、生産性を向上させることができる。
【0032】
なお本例では、KCMYの標準色(4色)の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態には限定されず、必要に応じて淡インク、濃インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ等のライト系インクを吐出する印字ヘッドを追加する構成も可能である。
【0033】
図1に示したように、インク貯蔵/装填部14は、各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yに対応する色のインクを貯蔵するタンクを有し、各タンクは図示を省略した管路を介して各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yと連通されている。また、インク貯蔵/装填部14は、インク残量が少なくなるとその旨を報知する報知手段(表示手段、警告音発生手段等)を備えるとともに、色間の誤装填を防止するための機構を有している。
【0034】
印字検出部24は、印字部12の打滴結果を撮像するためのイメージセンサ(ラインセンサ等)を含み、該イメージセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まりその他の吐出不良をチェックする手段として機能する。
【0035】
本例の印字検出部24は、少なくとも各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yによるインク吐出幅(画像記録幅)よりも幅の広い受光素子列を有するラインセンサで構成される。このラインセンサは、赤(R)の色フィルタが設けられた光電変換素子(画素)がライン状に配列されたRセンサ列と、緑(G)の色フィルタが設けられたGセンサ列と、青(B)の色フィルタが設けられたBセンサ列とからなる色分解ラインCCDセンサで構成されている。なお、ラインセンサに代えて、受光素子が二次元配列されて成るエリアセンサを用いることも可能である。
【0036】
印字検出部24は、各色の印字ヘッド12K、12C、12M、12Yにより印字されたテストパターンを読み取り、各ヘッドの吐出検出を行う。吐出判定は、吐出の有無、ドットサイズの測定、ドット着弾位置の測定等で構成される。
【0037】
印字検出部24の後段には、後乾燥部42が設けられている。後乾燥部42は、印字された画像面を乾燥させる手段であり、例えば、加熱ファンが用いられる。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けたほうが好ましいので、熱風を吹きつける方式が好ましい。
【0038】
多孔質のペーパに染料系インクで印字した場合などでは、加圧によりペーパの孔を塞ぐことでオゾンなど、染料分子を壊す原因となるものと接触することを防ぐことで画像の耐候性がアップする効果がある。
【0039】
後乾燥部42の後段には、加熱・加圧部44が設けられている。加熱・加圧部44は、画像表面の光沢度を制御するための手段であり、画像面を加熱しながら所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラー45で加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
【0040】
このようにして生成されたプリント物は、排紙部26から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット記録装置10では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部26A、26Bへと送るために排紙経路を切り換える選別手段(不図示)が設けられている。なお、大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列に形成する場合は、カッター(第2のカッター)48によってテスト印字の部分を切り離す。カッター48は、排紙部26の直前に設けられており、画像余白部にテスト印字を行った場合に、本画像とテスト印字部を切断するためのものである。カッター48の構造は前述した第1のカッター28と同様であり、固定刃48Aと丸刃48Bとから構成されている。
【0041】
また、図示を省略したが、本画像の排出部26Aには、オーダー別に画像を集積するソーターが設けられている。
【0042】
尚、インク色ごとに設けられている各印字ヘッド12K、12C、12M、12Yの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号50によって印字ヘッドを示すものとする。
【0043】
〔印字ヘッドの構造〕
図2は、第1の実施形態に係る印字ヘッド50の外観斜視図である。同図に示すように、本例の印字ヘッド50は、流路基板60及び圧電アクチュエータ62(62A、62B)から成るヘッド本体64の前面にノズルプレート66が設けられた構成となっている。ノズルプレート66には、インク滴を吐出するためのノズル51が記録紙16(図1参照)の紙幅方向(主走査方向)に沿って1次元状に配列されている。ノズル51から吐出されるインク滴の飛翔方向(インク吐出方向)は、流路基板60及び圧電アクチュエータ62(62A、62B)の積層方向に略垂直な方向である。
【0044】
図3は、図2に示した印字ヘッド50をノズル側から見たときの一部破断面図である。図4は、図3中4−4線に沿う断面図である。
【0045】
流路基板60は、例えば、SUS等で構成され、図3において紙面表裏方向(即ち、図4の水平方向)に延びるスリット状の複数の孔部68(圧力室52に相当)が各ノズル51に対応する位置に設けられる。つまり、各孔部68の長さ方向は図2に示したインク吐出方向と略平行である。流路基板60を上下に貫通する各孔部68の開口部は、流路基板60の両側に設けられる振動板76により塞がれている。このように、四方向の側壁面が流路基板60により構成され、上壁面及び下壁面が振動板76により構成される部分が、ノズル51から吐出されるインクが充填される圧力室52となる。このような圧力室52は主走査方向に1次元状に配列されており、各圧力室52はそれぞれインク吐出方向に対して略平行に延びるように構成される。
【0046】
圧電アクチュエータ62(62A、62B)は、圧電体70、個別電極72、共通電極74及び振動板76から主に構成される。圧電体70は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛やチタン酸バリウム等の圧電材料から成る。圧電体70には、流路基板60側に開口する溝部70aが圧力室52間の隔壁(圧力室隔壁)78に対応する位置に設けられ、また、振動板76との接合面に相当する流路基板60側の面に各圧力室52に対応する個別電極72が設けられ、更に、溝部70a及び個別電極72を覆うように振動板76が接合される。また、圧電体70の流路基板60側とは反対側の面には共通電極74が設けられる。
【0047】
個別電極72と共通電極74に挟まれた領域(図3中破線で囲んだ領域)は、個別電極72に所定の駆動電圧が印加されると圧力室52側に向かって伸縮する圧力発生部80(80A、80B)を構成する。即ち、圧力発生部80は、圧電アクチュエータ62の各圧力室52に対応する位置にそれぞれ設けられている。つまり、本例の印字ヘッド50は、各圧力室52の対向する両壁面(上壁面及び下壁面)にそれぞれ圧力発生部80A、80Bを備えている。このような圧力発生部80A、80Bは独立駆動させることが可能であり、圧力室52内のインクに加える圧力を幅広く変化させることができ、多階調表現に好適である。また、圧力発生部80間に設けられる溝部70aにより、同一アクチュエータ62における圧力発生部80間のクロストークを防止することができる。
【0048】
ところで、図3において、圧力室隔壁78には各圧電アクチュエータ62A、62B側にそれぞれインク吐出方向に沿って開口する略R状の断面の溝部78a(第1の溝部)が設けられている。つまり、このような圧力室隔壁78の断面形状は変形H状となっている。溝部78aの開口幅は圧電アクチュエータ62(62A、62B)に形成される溝部70aの幅と略同様であり、それぞれ開口側が振動板76を介して対向するように構成されている。
【0049】
本発明の実施に際して、溝部78aの形状、大きさは特に限定されるものではないが、クロストークを効果的に防止できるようにある程度の大きさであることが必要である。例えば、接着逃げ溝のような微小溝は適さない。図3に示すように、溝部78aの開口面における幅が圧力室隔壁78の幅に対して1/3〜1/2程度であり、また、溝部78aの深さが圧力室隔壁78の高さ(即ち、流路基板60の厚さ)の1/4〜1/3程度であることが望ましい。
【0050】
次に、上記の如く構成された印字ヘッド50の作用について図5を用いて説明する。図5は、図3に示した圧力室周辺の一部拡大図である。尚、インク吐出側の圧力室を符号52Aで表し、インク非吐出側の圧力室を符号52Bで表す。また、圧力室隔壁78の圧電アクチュエータ62(62A、62B)側の4つの足部のうち、インク吐出側となる圧力室52A側の足部を符号82aで表し、インク非吐出側となる圧力室52B側の足部を符号82bで表す。以下では、圧力室52Aの対向する両壁面に設けられた圧力発生部80A、80Bを同時に駆動したときについて説明する。
【0051】
圧力発生部80A、80Bに対応する個別電極72に所定の駆動電圧が印加されると、圧力発生部80A、80Bは圧力室52A側に伸びるように変位する(以下、「縦方向の変位」ともいう。)とともに、ポアソン変形によって圧力発生部80A、80Bの幅を縮めるように変位する(以下、「横方向の変位」ともいう。)。このとき、圧力室52A内のインクは圧力発生部80A、80Bの縦方向の変位によって加圧されるだけでなく、更に、圧力室隔壁78の圧力室52A側の壁面がヒンジのように折れ曲がることによって該インクは加圧される。即ち、圧力発生部80A、80Bの縦方向及び横方向の変位によって、圧力室隔壁78の圧力室52A側の壁面がヒンジのように中央部を略中心にして足部82aの圧電アクチュエータ62(62A、62B)側が圧力室52Aの略中心(図5においてノズル51側)に向かうように変形し、これにより、圧力室52A内のインクが加圧される。つまり、図5に示した圧力室52A周辺に示した矢印の如く、圧力室52A内のインクは加圧され、圧力室52Aに対応するノズル51からインク滴として吐出される。
【0052】
ところで、圧力室隔壁78の圧力室52B側(インク非吐出側)の壁面は、圧力室隔壁78に設けられる溝部78aによって圧力室52A側(インク吐出側)の壁面の変形による影響が及ばず、この結果、圧力室隔壁78を介して生じるクロストークが防止される。
【0053】
また、各圧電アクチュエータ62(62A、62B)に設けられる溝部70aによって、同一圧電アクチュエータ62内で隣接する圧力発生部80間で生じるクロストークが防止される。
【0054】
尚、圧力発生部80A、80Bのいずれか一方を駆動したときについては説明が重複するため省略するが、上述した場合と同様、インク吐出の際に生じるクロストークを防止することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、圧力室隔壁78に設けられる溝部78aによって、インク吐出側の圧力室52A内のインクを効率良く加圧できるとともに、インク非吐出側の圧力室52Bに対するクロストークを確実に防止することができる。これにより、圧力室52間のピッチを小さくしてもクロストークの影響がなく安定したインク吐出が可能となり、ヘッドの高密度化を実現することが可能となる。
【0056】
また、ヘッド本体64が圧電アクチュエータ62(62A、62B)の間に流路基板60を挟んで構成されるため、ヘッド全体の剛性が向上する。
【0057】
尚、本発明の実施に際しては、溝部78aの断面形状は本実施形態に限定されない。ただし、上述したように圧力室隔壁78のインク吐出側の壁面はヒンジ状に変形するため、このときの応力集中を緩和させるために、本実施形態の如く、断面形状が略R状であることが好ましい。
【0058】
図6は、第2の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図である。図6では、圧力室52Aの両側に設けられた圧力発生部80(80A、80B)を駆動したときの圧力室52Aの四方を囲む隔壁(即ち、圧力発生部80及び圧力室隔壁78)の変位の様子を破線で模式的に表している。第2の実施形態では、圧力室隔壁78に弾性部材から成る中間層86が設けられる。これにより、圧力室隔壁78の圧力室52A側(インク吐出側)の壁面はヒンジ状に変形しやすく、圧力室52A内のインクに対する加圧効率が良くなり、第1の実施形態に比べてインク吐出効率が向上する。
【0059】
また、第2の実施形態では、同一の圧電アクチュエータ62において隣接する圧力発生部80間には2つの溝部70a(70a-1、70a-2)が設けられる。溝部70aの数は本例に限定されず、3つ以上でもよい。このように複数の溝部70aを隣接する圧力発生部80間に設けることによって、クロストークを確実に防止することができる。
【0060】
図7は、第3の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図である。図6と同様に、圧力室52Aの四方を囲む隔壁の変位の様子を破線で模式的に表している。第3の実施形態では、圧力室隔壁78の側壁面の略中央部に圧力室52側に開口する溝部84が設けられている。このような圧力室隔壁78は、例えば、ハーフエッチングにより溝部78aが形成された2枚のSUSの間に中間層86を挟むことにより形成することができる。中間層86は、第2の実施形態のように弾性部材で構成することが好ましい。第1、第2の実施形態に比べて圧力室隔壁78の圧力室52A側(インク吐出側)の壁面がヒンジのように変形しやすく、圧力室52A内のインクに対する加圧効率が更に良くなり、インク吐出効率が向上する。
【0061】
図8は、第4の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図である。図6と同様に、圧力室52Aの四方を囲む隔壁の変位の様子を破線で模式的に表している。第1〜第3の実施形態では、1つの圧力室隔壁78には各圧電アクチュエータ62(62A、62B)側にそれぞれ開口する溝部78aが1つずつ設けられる構成であるのに対して(図3等参照)、第4の実施形態では2つの溝部78a-1、78a-2が圧電アクチュエータ80A、80B側にそれぞれ設けられており、また、第2の実施形態と同様に、圧力室隔壁78の側壁面の略中央部に圧力室52側に開口する溝部84が設けられている。第1〜第3の実施形態に比べてヘッド剛性が向上し、圧力室52内のインクを効率良く加圧することができるとともに、クロストークの防止効果をより一層高めることができる。
【0062】
図9は、第5の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図である。図6と同様に、圧力室52Aの四方を囲む隔壁の変位の様子を破線で模式的に表している。上述した第4の実施形態では、同一の圧電アクチュエータ62において隣接する圧力発生部80間には1つの溝部70aが設けられた構成となっていたが(図8参照)、第5の実施形態では、図9に示すように、2つの溝部70a−1、70a−2が設けられた構成となっており、第4の実施に比べてクロストークの防止効果が高くなっている。
【0063】
以上、本発明の液体吐出ヘッド及び画像形成装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図
【図2】第1の実施形態に係る印字ヘッドの外観斜視図
【図3】図2に示した印字ヘッドをノズル側から見たときの一部破断面図
【図4】図3中4−4線に沿う断面図
【図5】図3に示した圧力室周辺の一部拡大図
【図6】第2の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図
【図7】第3の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図
【図8】第4の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図
【図9】第5の実施形態に係る印字ヘッド50の一部断面図
【符号の説明】
【0065】
10…インクジェット記録装置、50…印字ヘッド、51…ノズル、52…圧力室、60…流路基板、62(62A、62B)…圧電アクチュエータ、68…流路孔、70…圧電体、70a…溝部、72…個別電極、74…共通電極、78…圧力室隔壁、78a…溝部、80(80A、80B)…圧力発生部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填される圧力室の対向する両壁面に第1及び第2の圧力発生素子を備え、前記第1及び第2の圧力発生素子の少なくとも一方により前記圧力室内の液体を加圧し、前記圧力室に連通するノズルから液滴を吐出する液体吐出ヘッドであって、
前記圧力室は、前記第1及び第2の圧力発生素子が対向する方向に略垂直な方向に沿って圧力室隔壁を介して複数設けられ、
前記ノズルの液滴吐出方向は、前記第1及び第2の圧力発生素子の液体加圧方向に略垂直な方向であり、
前記圧力室隔壁には、前記第1の圧力発生素子側及び前記第2の圧力発生素子側にそれぞれ液滴吐出方向に沿って開口する第1の溝部が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1の溝部の断面形状は略R状であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧力室隔壁には、前記第1及び第2の圧力発生素子が対向する方向の中間層として弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧力室隔壁には、前記圧力室側に開口する第2の溝部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1の溝部は、前記第1の圧力発生素子側及び前記第2の圧力発生素子側にそれぞれ複数設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−83675(P2007−83675A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278408(P2005−278408)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】