説明

液体吐出ヘッド用基板及び液体吐出ヘッド

【課題】 基板サイズ増大を抑えながら、配線サブヒータの耐久性を向上させる。
【解決手段】 第1の導電層と、絶縁層と、一対の第2の導電層とを有する液体吐出ヘッド用基板は、絶縁層を貫通して第1の導電層と第2の導電層が電気的に接続する、第1の接続部と、第1の接続部より接触面積が小さい第2の接続部とを有しており、第2の導電層は、第2の導電層の他方より第2の導電層の一方を高電位とするように、電圧が印加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板及び液体吐出ヘッドに関する。具体的にはインクを発泡させる発泡用ヒータと、基板に予備の加熱を与えるサブヒータとが設けられているインクジェットヘッド用基板及びインクジェットに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なサーマル型の液体吐出ヘッド(以下ヘッドとも称する)では、基板上に、液体を吐出させるエネルギーを発生する液体吐出用のヒータ(以下ヒータとも称する)と、該ヒータに電気を送る導電層とが形成されている。この基板の上部に、液体を吐出するための吐出口に連通する流路を形成する流路部材が設けられる。
【0003】
近年、液体吐出ヘッド用基板(以下ヘッド基板とも称する)には、液体吐出を安定させるため、各種の工夫がなされている。その1つとして、基板を予備加熱する加熱用ヒータ(以下サブヒータとも称する)を、吐出用のヒータと別途に設ける技術がある。
【0004】
特許文献1には、ヒータとサブヒータを同一層に同一材料によって形成し、ヘッド基板をサブヒータによって温めることで、低温時に生じる吐出特性の低下を解消する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−005151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サブヒータの信頼性について説明する。導電層として一般に用いられるAL(アルミニウム)に高電流を流すことによって、導電層をサブヒータとして使用する(以下、配線サブヒータと称する)場合には、エレクトロマイグレーション耐久性に留意する必要がある。
【0007】
エレクトロマイグレーション(以下、E.M.とも称する)とは、導電層に電流を流すことによって、導電層を構成しているAL(アルミニウム)の原子が電子の流れる方向に移動する現象である。その結果、ボイド(空孔)や、ヒロック(隆起)やウィスカ(ひげ状の成長)が発生する。E.M.による不良発生までの平均時間は、ブラックの経験式に従うことが知られている。ブラックの経験式によれば、E.M.による平均故障時間は、通常、電流密度のn乗に反比例する(nは通常2:温度勾配、加速条件等に依存する)。つまり、配線サブヒータを用いる場合、E.M.に対して充分な寿命を確保するためには電流密度を一定値以下に抑える必要がある。
(参考)ブラックの経験式
【0008】
【数1】

【0009】
MTTF:平均故障時間(hour)
A:導電層の構造、材料により決まる定数
J:電流密度(A/cm
n:電流密度依存性を表す定数
Ea:活性化エネルギー(eV)(通常0.4eV〜0.7eV:配向性、粒径、保護膜等による)
k:ボルツマン定数 8.616×10−5eV/K
T:導電層の絶対温度(K)
【0010】
導電層からなる配線をサブヒータとして用いるためには、一定値以上の消費電力が必要となる。必要な消費電力で確保しつつE.M.に対する寿命を確保するためには、抵抗値を一定に保った状態で電流密度を下げる必要があり、配線の長さを伸ばすとともに断面積を拡張する必要がある。例えば配線の長さを2倍に伸ばし、配線の断面積を2倍に拡張した場合には、配線サブヒータを構成する配線の抵抗値は変わらないので、消費電力も変わらない。これに対して、電流密度は1/2に抑制できるため、ブラックの経験式によるとE.M.による平均故障時間を4倍程度に延ばすことができる。
【0011】
上述したように、配線サブヒータにおいてはE.M.に対する寿命を保証するために、適切な配線の長さと配線の断面積を確保する必要がある。また、均一な温度分布で予備加熱を行うために、配線サブヒータを構成する配線は、ヘッド基板の平面内にできるだけ均等に配置することが好ましい。
【0012】
配線サブヒータの適切な配線の長の確保し、ヘッド基板内へ略均等に配置するためには、複数層の導電層によって配線サブヒータを構成することが効果的である。
【0013】
このような結果をふまえて本件の発明者らがE.M.耐久検討を行ったところ導電層(112)の領域に比べて、導電層の乗換え部である絶縁層の接続部(111)でE.M.耐久性が弱いという課題が判明した。
【0014】
しかし、前述したようにブラックの経験式によると接続部のE.M.耐久性を向上させるには接続部を拡大させれば良いが、接続部の無闇な拡大は基板サイズの増大を招くことになる。
【0015】
そこで、本発明は基板サイズの増大を抑えつつ、耐久性を向上させることができる、液体吐出ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の液体吐出ヘッド用基板は、第1の導電層と、絶縁層と、一対の第2の導電層とがこの順に積層された基板と、前記絶縁層を貫通し、前記第1の導電層と前記第2の導電層の一方とが接する第1の接続部と、前記絶縁層を貫通し前記第1の導電層と前記第2の導電層の他方とが接する第2の接続部と、を有し、前記第2の接続部における、前記第1の導電層と前記第2の導電層の他方との接触面積は、前記第1の接続部における、前記第1の導電層と前記第2の導電層の一方との接触面積より小さく、かつ、前記第2の導電層には、前記第2の導電層の他方の電位より前記第2の導電層の一方の電位が高くなるように、電圧が印加されることを特徴とする特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板サイズの増大を抑えながら、耐久性を向上させた液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態であるヘッド基板の平面模式図である。
【図2】第1の実施形態である接続部111周辺の拡大図である。
【図3】第1の実施形態である接続部222周辺の拡大図である。
【図4】第2の実施形態である接続部111周辺の拡大図である。
【図5】第2の実施形態である接続部222周辺の拡大図である。
【図6】第3の実施形態である接続部111周辺の拡大図である。
【図7】第3の実施形態である接続部222周辺の拡大図である。
【図8】比較例である、ヘッド基板の平面模式図である。
【図9】比較例のサブヒータの平面模式図である。
【図10】E.M.耐久試験後サブヒータの断面模式図である。
【図11】ヘッドの概略図である。
【図12】液体吐出装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図8は、配線サブヒータを用いた液体吐出ヘッド基板の概略図である。液体吐出ヘッド基板には、吐出用のヒータと配線サブヒータが設けられている。液体吐出ヘッド基板は、シリコン等からなる基板の上に第1の導電層11と、その上に絶縁層が設けられ、さらにその上に導電層などに用いられる金属拡散を防止する金属からなる層と、その上に設けられた第2の導電層22が設けられている。第1の導電層と第2の導電層とは、絶縁層を介して第1の接続部111と第2の接続部222とで接続している。配線サブヒータは、第1の導電層と第2の導電層とから構成されており、供給口705間を通り、基板内を一筆書きのように連続して配置されている。
【0020】
この図8に示す配線サブヒータを用いて、本件の発明者らがE.M.耐久検討を行った。その結果、導電部(112)と比べて、導電層の乗換え部である絶縁層の接続部(111)でE.M.耐久性が弱いという課題が判明した。また、電子が第1の導電層から金属からなる層を介して第2の導電層に流れる第1接続部と、電子が第2の導電層から金属からなる層を通じて第1の導電層に流れる第2接続部と、のE.M.耐久性の比較を行った。この結果、第2接続部に比べて、第1接続部のE.M.耐久性が弱いという課題が、今回はじめて明らかになった。
【0021】
以下、図8〜19を用いてこの現象の具体的な検討を説明する。図9(a)は図8の配線サブヒータ10を簡略化した平面図である。配線サブヒータ10は第1の導電層11と、第2の導電層22から構成され、第1の導電層11と第2の導電層22は、接続部111と接続部222によって電気的に接続される。また、サブヒータ電源用パッド141と、サブヒータグランド用パッド142を介して外部制御装置と電気的に接続される。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲においては、第2の導電層22は、一対(一方と他方)で構成されているとする。第1の導電層と第2の導電層の一方と接続する接続部を第1の接続部111とし、第1の導電層と第2の導電層の他方と接続する接続部を第2の接続部222とあらわす。
【0023】
図9(b)は図9(a)のg−g’断面図である。配線サブヒータは基板側から順に第1の導電層11、絶縁層55、金属からなる層66、第2の導電層22の順に積層されている。配線サブヒータ10は絶縁層55に開けられた接続部111を通じて第1の導電層と第2の導電層の乗換えを行う。また第2の導電層22上には保護層250が積層される。保護層250は導電を液体の浸入から保護する働きをもつ。保護層250の端子部142は、外部と接続される導電パッドとなる。
【0024】
次にE.M.耐久検討の説明をする。本検討サンプルでは第1の導電層11と第2の導電層22にAL(アルミ)、金属からなる層66にTaSiN、絶縁層55にSiO、保護層250にSiNを用いた。この構成のE.M.耐久検討を行った、配線ヒータの模式的断面図を、図10〜19に示す。
【0025】
図10(a)は導電部(第1の導電層11と第2の導電層22)の断面図である。AL原子の移動により、多少のヒロック(隆起)810、やボイド(空孔)820が生じている。
【0026】
図10(b)は、電子が第1の導電層から金属からなる層を通じて第2の導電層に流れる第1の接続部の断面図である。AL原子の移動により第1の接続部に第1の導電層のAL原子が堆積し、ヒロック(隆起)が顕著に生じている。
【0027】
図10(c)は、電子が第2の導電層から金属からなる層を通じて第1の導電層に流れる第2の接続部の断面図である。AL原子の移動により第2接続部に第2の導電層のAL原子が堆積し、多少のヒロック(隆起)生じている。
【0028】
このように、導電部(第1の導電層11と第2の導電層22)における不良に比べて、絶縁層の接続部における不良が顕著であることが分かる。特に第2接続部に比べて第1接続部の構造不良が著しいことが分かった。
【0029】
この現象の差は以下のメカニズムで説明される。
導電部のE.M.は、電子との衝突でAl原子が移動することで引き起こされる通常のE.M.であり、この場合電子の移動方向は一方向である。
【0030】
図10(b)に示す第1接続部111においては、第1の導電層11中の電子が第1接続部111の中央へ向かって四辺から流入する為、第1の導電層11のAl原子は第1接続部111の中央へ向かって移動しようとする。しかし拡散を防止する金属からなる層66があるためにAl原子は上に移動拡散することができず、第1接続部中央に堆積し隆起することになる。
【0031】
一方図10(c)に示す第2接続部222においては、第2の導電層22の段差部分で電流密度が最も高くなる。このため第2接続部の四辺に近い部分で第2の導電層22に変形を生じるが、第2接続部中央へ向かって一気に電子が流れ込むことが少ない。
【0032】
以上のことから、第2接続部の中央部において大きな隆起は比較的生じにくく、第2接続部に比べて第1接続部は不良が顕在化されにくいといえる。そのため、電圧を印加したときに第2の接続部より高電位となる第1の接続部の接触面積より、第2の接触部の接触面積を小さくしても接続部の信頼性が高い液体吐出ヘッドとすることができる。これにより、基板の面積の削減と、信頼性を両立できる液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0033】
なお本明細書及び特許請求の範囲において、「液体」とは、記録媒体に対して所定の色を付着させるインクのみならず、記録媒体に対して所定の色を付着させる前あるいは後に吐出されるいわゆる透明な処理液なども含むものとする。
【0034】
また、第1の導電層11の上に一対の第2の導電層22を設けた例を示したが、第1の導電層11を、一対(一方と他方)で構成し、その上に絶縁層を介して第2の導電層22を設ける構成でも同様の効果を得ることができる。この場合には、第1の導電層の一方と第2の導電層と接続する接続部を第1の接続部とし、第1の導電層の他方と第2の導電層と接続する接続部を第2の接続部222とあらわすとする。この一対の第1の導電層に電圧を印加したときに、第1の接触部の接触面積をより、第1の接続部より高電位となる第2の接続部の接触面積を小さくしても、接続部の信頼性が高い液体吐出ヘッドとすることができる。これにより、基板の面積を削減と、信頼性を両立できる液体吐出ヘッドを提供することができる。なお、このとき第1の接続部において電子は第2の導電層から金属からなる層を介して第1の導電層に流れ、第2の接続部においては、第1の導電層から金属からなる層を通じて第2の導電層に流れる。
【0035】
(第1の実施形態)
(液体吐出ヘッド用基板について)
図1は本実施形態のヘッド基板を模式的に表した平面図である。ヘッド基板100は、液体を吐出するエネルギーを発生する素子として用いられる複数の吐出用ヒータ20と、液体吐出ヘッド用基板を予備加熱するサブヒータ10と、吐出用ヒータ20に電源を供給する第3の導電層(ヒータ配線130)を有する。ヒータ配線130はグランド配線131及び電源配線132によって構成され、パッド140によって基板と外部制御部とが電気的に接続される。更に吐出用ヒータを駆動するためのスイッチング素子、及び前記スイッチング素子を駆動するための駆動回路を有するが、図1には記載していない。スイッチング素子及び駆動回路と、これら駆動素子に電源を供給する第4の導電層(ロジック配線)の上には、絶縁層が設けられている。絶縁層の上には、発熱抵抗層と第3の導電層が設けられており、一対の第3の導電層が発熱抵抗層と接続し、発熱抵抗層に電力を供給することでヒータが設けられている。
【0036】
また、基板の上に第1の導電層11と絶縁層と金属からなる膜と一対の第2の導電層22とをこの順に積層して設けられている。第1の導電層は、絶縁層を貫通して金属からなる層と接触し、第2の導電層22と電気的に接続している。第1の導電層と第2の導電層22は、絶縁層の接続部111と接続部222とで、電気的に接続している。サブヒータは、一対の第2の導電層22と、接続部111と接続部222を介して第2の導電層22と接続する第1の導電層と、で設けられている。
【0037】
このとき、ヒータ配線を形成する第3の導電層と、第2の導電層とは、同じように絶縁層の上に設けられている層である。そのため、製造時に同じ組成の材料(同じ構成元素)を用いて同時に形成することができ、工程数を削減することができ、製造コストを低減させることができる。
【0038】
さらに、ロジック配線に用いる第4の導電層と第1の導電層11とは、同じように絶縁層の下に設けられている層である。そのため、これらも製造時に同じ組成の材料(同じ構成元素)を用いて同時に形成することができ、工程数を削減することができ、製造コストを低減させることができる。
【0039】
第1の導電層11や、第2の導電層22や、第3の導電層や、第4の導電層は、Al、Au、Cu、Siの少なくとも1つを含む材料か、それらを含む合金からなることが好ましい。
【0040】
サブヒータはサブヒータ電源用パッド141とサブヒータグランド用パッド142で外部電源に接続される。本形態のヘッド基板はサブヒータグランド用パッド142を基準電位とする。サブヒータ電源用パッド141に正の電圧(+24V)を印加するため、接続部111では電子が第1の導電層から第2の導電層へ、接続部222では第2の導電層から第1の導電層へ電子が流れる。本実施形態ではサブヒータの駆動を外部装置からの電圧印加をオンオフすることで操作するが、基板上にスイッチング素子を設けて、外部装置から入力される制御信号により操作しても良い。
【0041】
(加熱用ヒータの接続部の説明)
比較例図8〜図9(b)と、本実施形態との違いは第1接続部にある。本明細書において、接続部に流れる電流を接続部の接触面積で割った値を「接続部あたりの電流密度」という表現を用いる。
【0042】
本実施形態において、ヒロックが顕著に生じる第1接続部がそのヘッド基板の寿命にかかわる。つまりサブヒータ電源用パッドとサブヒータグランド用パッド142の間に電圧を印加したときに、第1接続部あたりの電流密度を第2接続部あたりの電流密度より小さくすることが特徴である。また、第1接続部と第2接続部がそれぞれ複数ある場合に、第1接続部あたりの電流密度の最大値は、第2接続部あたりの電流密度の最大値より小さい構成にすることが望ましい。
【0043】
さらに、第1接続部の接触面積が第2接続部の接触面積より大きければ同様の効果がある。また、第1接続部と第2接続部がそれぞれ複数ある場合に、第1接続部の接触面積の最小値が、前記第2接続部の接触面積の最小値より大きい構成にすることが望ましい。また、サブヒータ電源用パッドとサブヒータグランド用パッド142の間に電圧を印加したとき、すなわち一対の第2の導電層に電圧を印加した時に第1の接続部の方が、第2の接続部より高電位となっている。
【0044】
本実施形態における、加熱用ヒータ(サブヒータ)の接続部の代表的な層構成を、図2(a)〜図3(b)を用いて説明を行う。比較例の図8〜16にて説明したものと同様の部分の説明は省略する。
【0045】
図2(a)は、図1のサブヒータ10内において、第1の導電層から第2の導電層へ電子が流れる第1の接続部111の模式図である。ここで、接続部は絶縁層55に開けられたものを模式的に示す。図2(b)は図2(a)におけるa−a’の断面図である。
【0046】
図3(a)は、図1のサブヒータ10内において、第2の導電層から第1の導電層へ電子が流れる第2の接続部222の模式図である。ここで、接続部は絶縁層55に開けられたものを模式的に示す。図3(b)は図3(a)におけるb−b’の断面図である。
【0047】
図2(b)、図3(b)に示すように、基板上に第1の導電層11が形成される。第1の導電上に複数の接続部を有する絶縁層55が形成される。この接続部を覆うように、絶縁層上に金属からなる層66が凹形状に形成される。この金属からなる層上に、第2の導電層22が形成され、第2の導電層の上に保護層250が形成される。
【0048】
第1の導電と第2の導電は、接続部の金属からなる層を介して電気的に接続される。これにより、サブヒータ電源用パッドとサブヒータグランド用パッド142の間に電圧を印加したときに、第1の導電層と第2の導電層が温まる。この第1の導電層と第2の導電層をサブヒータとして用い基板をあらかじめ加熱することで、均一な温度分布として吐出動作を行うことができ、被記録媒体に液体を均一に吐出することができる。
【0049】
金属からなる層としては、密着層やバリアメタルとして用いられる耐火金属元素(Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W)、もしくは白金族元素(Os,Ir,Pt,Ru,Rh,Pd)を含む材料や、それらの合金であることが好ましい。このような材料を用いることで、第1の導電層と第2の導電層の密着性を確保するとともに、第1の導電層のE.M.を効果的に防止することができる。
【0050】
本実施形態においては、金属からなる層66は、液体を吐出するエネルギーを発生する吐出用のヒータ20に利用されるヒータ層としても用いる材料である、TaSiNを用いた。金属からなる層66とヒータ層とに同じ組成の材料(同じ構成元素)を用いることにより、製造時の工程数を削減することができ、製造コストの削減を行うことができる。
【0051】
本実施形態における接続部の接触面積とは、絶縁層55の開口部の面積を示す。本実施形態では、開口部は四角形なので、四角形の面積を示す。
【0052】
(液体吐出ヘッド)
図11は、本実施形態におけるヘッドの模式的な斜視図を示す。図11に示すように、上述したヘッド基板100には、液体を供給する供給口705が開いている。供給口705は複数設けられてもよく、この場合は供給口毎に異なる種類の液体を供給することができる。供給口705の両側には、供給口の長さ方向に沿って、液体を吐出するエネルギーを発生する複数のヒータ20が設けられる。ヘッド基板上には、液体が吐出される吐出口121と、吐出口121と連通する流路の壁を有し、壁を内側にしてヘッド基板に接触させることで流路を構成する流路部材120が設けられている。吐出口121はヒータ20に対応する位置に設けられる。ヒータ20を加熱することで、吐出口121から、液体が吐出される。
【0053】
第1の導電層と第2の導電層をサブヒータとして用い基板をあらかじめ加熱しヘッドの温度分布を均一にした上で吐出動作を行うことで、液体の粘度等をヘッド全面で一定とすることができる。これにより、液体の吐出量を一定とすることができ、被記録媒体ににじみやムラのない信頼性の高い液体吐出ヘッドを提供することができる。
【0054】
(液体吐出装置)
図12は液体吐出装置(インクジェットプリンタ)の要部を示す概略斜視図である。
液体吐出装置は、ケーシング1008内に記録媒体としての用紙1028を、矢印P方向に間欠的に搬送する搬送装置1030を含む。この他に、液体吐出装置は、用紙1028の搬送方向Pに直交する方向Sに平行に往復運動せしめられ、ヘッドを有する記録部1010と、記録部1010を往復運動させる駆動手段としての移動駆動部1006とを含んで構成される。
【0055】
搬送装置1030は、互いに平行に対向配置される一対のローラユニット1022aおよび1022bと、一対のローラユニット1024aおよび1024bと、これらの各ローラユニットを駆動させる駆動部1020とを備えている。駆動部1020が作動すると、ローラユニット1022aおよび1022bと、ローラユニット1024aおよび1024bと、により用紙1028は狭持されて、P方向に間欠送りで搬送される。
【0056】
移動駆動部1006は、ベルト1016と、モータ1018とを有する。ベルト1016は、回転軸に所定の間隔をもって対向配置された、プーリ1026aおよび1026bに巻きかけられ、ローラユニット1022aおよび1022bに平行に配置される。モータ1018は、記録部1010のキャリッジ部材1010aに連結されるベルト1016を順方向および逆方向に駆動させる。
【0057】
モータ1018が作動し、ベルト1016が矢印R方向に回転すると、キャリッジ部材1010aは矢印S方向に所定の移動量だけ移動する。また、ベルト1016が矢印R方向とは逆方向に回転すると、キャリッジ部材1010aは矢印S方向とは反対の方向に所定の移動量だけ移動する。さらに、キャリッジ部材1010aのホームポジションとなる位置に、記録部1010の吐出回復処理を行うための回復ユニット1026が、記録部1010の液体を吐出する面に対向して設けられる。
【0058】
記録部1010は、キャリッジ部材1010aに対して着脱自在に備えらたカートリッジ1012を有している。カートリッジは、例えばイエロー,マゼンタ,シアンおよびブラックごとにそれぞれ、1012Y,1012M,1012Cおよび1012Bと、各色設けられている。
【0059】
(第1の実施形態と比較例)
本実施形態において、図2(b)、図3(b)に示すように、基板上に第1の導電層11をアルミニウム(以下AL1)、四角形の開口部を有する絶縁層55をP−SiOにて、金属からなる層66をTaSiNにて形成した。その上に、第2の導電層22としてアルミニウム(以下AL2)、保護層250としてSiNを形成した。
【0060】
図2(a)は、電子がAL1からAL2へ流れる第1の接続部111であり、絶縁層55に開けられた開口寸法はWTH2=60μm、LTH2=60μmの正方形である。一方で、図3(a)は、電子がAL2からAL1へ流れる第2の接続部222であり、絶縁層55に開けられた開口寸法はWTH2=30μm、LTH2=30μmの正方形である。基板サイズは供給口に交差する方向(WHB)が4mm、供給口の長辺方向(LHB)が9mmである。
【0061】
本構成によれば第1の接続部111あたりの電流密度は、第2の接続部222と比べて1/4である。また第1の接続部111の接触面積は第2の接続部222と比べて4倍である。
【0062】
比較例1として、図8に示すように、第1の接続部と第2の接続部の絶縁層の開口寸法が電子の向きに関わらず、WTH=30μm、LTH=30μmである基板1を用意した。
【0063】
比較例2として、図8に示すように、第1の接続部と第2の接続部の開口寸法が、電子の向きに関わらず、WTH=60μm、LTH=60μmである基板2を用意した。
【0064】
E.M.耐久検討の加速試験条件として、70℃環境にサンプルを投入した。サブヒータグランド用パッド142を基準電圧として、サブヒータ電源用パッド141にDC30Vを連続印加した。サブヒータへの投入エネルギーは約4Wで、基板温度は約140℃に保たれている。
【0065】
本発明の第1の実施形態である基板では、第1の接続部111あたりの電流密度は約0.4×10A/cmであり、第2の接続部222あたりの電流密度は約1.5×10A/cmである。
【0066】
比較例1の接続部あたりの電流密度は、第1の接続部と第2の接続部共に約1.5×10A/cmである。
【0067】
比較例2の接続部あたりの電流密度は、第1の接続部と第2の接続部共に約0.4×10A/cmである。
【0068】
E.M.耐久検討の結果、本実施形態の耐久時間は2950時間で、基板サイズは35.4mm。比較例1の耐久時間は280時間で、基板サイズは35.2mm。比較例2の耐久時間は2960時間で、基板サイズは35.6mmであった。いずれの基板の故障モードも、図10(b)に示すように、第1の接続部のAL1の中央部にヒロック成長が生じ、上層の保護膜が破断されたものであった。
【0069】
比較例2のE.M.故障時間は、比較例1に比べて約10倍延びた。しかしながら、比較例2においては、第1の接続部、第2の接続部共に面積を大きくしているため、比較例1に対して基板が増大してしまう。
【0070】
一方、本実施形態は、比較例1と比べてE.M.故障時間を約10倍に延ばすに加えて、基板サイズの増加は比較例2の半分ですむ。
【0071】
つまり、本実施形態においては、E.M.耐久寿命に寄与する、第1の接続部の面積のみを広げたことで、保護膜層が破断にいたるALヒロックの許容限界を広げ、さらに無駄な基板サイズの拡大を抑制することが可能となる。また、第1の接続部の電流密度を抑制させることで、基板サイズの拡大をせずに配線サブヒータのE.M.耐久性を向上させることができる。
【0072】
(第2の実施形態)
図4(a)〜図5(b)を用いて本実施形態の説明を行う。第1の実施形態と同じ構成、同じ材料であるものについては、説明を省略する。
【0073】
図4(a)はサブヒータ10における電子が第1の導電層(AL1)から第2の導電層(AL2)へ流れる第1の接続部111の模式図である。図4(b)は図4(a)におけるc−c’断面図である。図5(a)はサブヒータ10における電子が第2の導電層から第1の導電層へ流れる第2の接続部222の模式図である。図5(b)は図5(a)におけるd−d’断面図である。層構成は第1の実施形態と同様である。
【0074】
接続部111、222共に、絶縁層55に開けられた接続部の寸法は、WTH1=WTH2=30μm、LTH1=LTH2=30μmの正方形である。
【0075】
基板上面からみた平面図において、接続部111の端部と第1の配線層の端部までの最短距離(DTH1−AL1)は20μmであるのに対して、接続部222の接続端と第1の導電端までの最短距離(DTH2−AL1)は10μmである。つまり電子が第1の導電層から第2の導電層へ流れる第1の接続部111における電流密度の偏りは、電流が第2の導電層から第1の導電層へ流れる第2の接続部222の電流密度の偏りに比べて小さいといえる。
【0076】
比較例3として、図8に示すように、第1の接続部の端部と第1の導電層の端部までの最短距離が、電子の向きに関わらずDTH−AL1=10μmである基板3を用意して、E.M.耐久検討を行った。E.M.耐久検討の加速試験条件は第1の実施形態で紹介した条件と同様である。故障モードは、本実施形態と比較例3の両基板共に電子がAL1からAL2に流れる第1の接続部にみられた。図10(b)に示すように、第1の接続部のAL1の中央部にヒロック成長が生じ、上層の保護膜が破断されたものであった。比較例3の基板と比べて、本実施形態の基板のE.M.故障時間は約1.5倍延びた。
【0077】
よって、第1の接続部の端部から第1の導電層の端までの距離が、第2の接続部の端部から第1の導電層の端部までの距離より長く設けることで、E.M.耐久性の弱い第1の接続部111の第1の導電層における電流密度偏りを抑制できる。これにより基板サイズの拡大をせずに、さらに配線サブヒータのE.M.耐久性を向上させることができる。
【0078】
(第3の実施形態)
図6(a)〜図7(b)を用いて、本実施形態の説明を行う。第1、第2の実施形態と同じ構成、同じ材料であるものについては、説明を省略する。
【0079】
図6(a)はサブヒータ10における電子が第1の導電層(AL1)から第2の導電層(AL2)へ流れる第1の接続部111の模式図である。ここで、接続部は絶縁層55に開けられたものを模式的に示す。図6(b)は図6(a)におけるe−e’断面図である。図7(a)はサブヒータ10における電子が第2の導電層から第1の導電層へ流れる第2の接続部222の模式図である。ここで、接続部は絶縁層55に開けられたものを模式的に示す。図7(b)は図7(a)におけるf−f’断面図である。層構成は第1の実施形態と同様である。
【0080】
接続部111、222共に、絶縁層55に開けられた開口部の寸法は、WTH1=WTH2=30μm、LTH1=LTH2=30μmの正方形である。
【0081】
基板上面からみた平面図において、接続部111の端部と第2の導電層の端部までの最短距離(DTH1−AL2)は20μmであるのに対して、接続部222の端部と第2の導電層の導電端までの最短距離(DTH2−AL2)は10μmである。電子が第1の導電層から第2の導電層へ流れる第1接続部111の端部の第2の導電層における電流密度の偏りは、電子が第2の導電層から第1の導電層へ流れる第2の接続部222の端部の第2の導電層の電流密度の偏りに比べて小さい。
【0082】
比較例4として、図8に示すように、第2の接続部の端部と第2の導電層の端部までの最短距離が、電子の向きに関わらずDTH−AL2=10μmである基板4を用意して、E.M.耐久検討を行った。E.M.耐久検討の加速試験条件は第1の実施形態で紹介した条件と同様である。故障モードは、本実施形態と比較例4の両基板共に電子が第1の導電層から第2の導電層に流れる第1の接続部111にみられた。図10(b)に示すように、第1の接続部の第1の導電層の中央部にヒロック成長が生じ、上層の保護膜が破断されたものであった。比較例4の基板と比べて、本実施形態の基板のE.M.故障時間は約1.3倍延びた。
【0083】
よって、第1の接続部の端部から第2の導電層の端までの距離が、第2の接続部の端部から第2の導電層の端部までの距離より長く設けることで、E.M.耐久性の弱い第1の接続部111の第2の導電層における電流密度の偏りを抑制できる。これにより基板サイズの拡大をせずに、さらに配線サブヒータのE.M.耐久性を向上させることができる。
【0084】
本発明は、上述の実施形態を組み合わせたものであっても良い。
【符号の説明】
【0085】
100 基板
10 加熱用ヒータ(サブヒータ)
11 第1の導電層
22 第2の導電層
111 第1の接続部
222 第2の接続部
55 絶縁層
66 金属からなる層
250 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電層と、絶縁層と、一対の第2の導電層とがこの順に積層された基板と、
前記絶縁層を貫通し、前記第1の導電層と前記第2の導電層の一方とが接する第1の接続部と、
前記絶縁層を貫通し前記第1の導電層と前記第2の導電層の他方とが接する第2の接続部と、を有する液体吐出ヘッド用基板であって、
前記第2の接続部における、前記第1の導電層と前記第2の導電層の他方との接触面積は、
前記第1の接続部における、前記第1の導電層と前記第2の導電層の一方との接触面積より小さく、かつ、前記第2の導電層には、前記第2の導電層の他方の電位より前記第2の導電層の一方の電位が高くなるように、電圧が印加されることを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。
【請求項2】
前記第1の導電層と前記第2の導電層とは、前記一対の第2の導電層の間に電圧を印加することで、前記液体吐出ヘッド用基板を加熱するための熱を発生することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項3】
前記一対の第2の導電層の間に電圧を印加するときに流れる電流を、前記第1の接続部の前記第1の導電層と前記第2の導電層の一方との接触面積で割った値は、前記電流を、前記第2の接続部の前記第1の導電層と前記第2の導電層の他方との接触面積で割った値より小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項4】
前記一対の第2の導電層の間に電圧を印加するときに、前記第1の導電層から前記第2の導電層の一方に電子が移動し、かつ前記第2の導電層の他方から前記第1の導電層に電子が移動することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項5】
前記第2の導電層は、前記第1の導電層と接する部分に、耐火金属元素又は白金族元素を含み、前記第1の導電層と前記第2の導電層とに含まれる材料の拡散を防止する、金属からなる層を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項6】
前記第1の導電層と前記第2の導電層とは、Al、Au、Cu、及びSiのうち少なくとも1つを含む材料からなる請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項7】
前記絶縁層の上に設けられた発熱抵抗層と
前記発熱抵抗層に接続された一対の第3の導電層と、を更に有し、
前記一対の第3の導電層の間に対応する前記発熱抵抗層の部分が、液体を吐出するためのエネルギーを発生する素子として用いられることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項8】
前記金属からなる層と、前記発熱抵抗層とは、同じ構成元素で設けられていることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項9】
前記第2の導電層と、前記第3の導電層とは、同じ構成元素で設けられていることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項10】
前記第1の接続部の端部と第1の導電層の端部との最も近い距離は、前記第2の接続部の端部と第1の導電層の端部との最も近い距離より長いことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項11】
前記第1の接続部の端部と第2の導電層の端部との最も近い距離は、前記第2の接続部の端部と第2の導電層の端部との最も近い距離より長いことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド用基板と、
液体を吐出する吐出口と連通する流路の壁を有し、該壁を内側にして前記液体吐出ヘッド用基板と接することで、前記流路を形成する流路部材と、を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項13】
一対の第1の導電層と、絶縁層と、第2の導電層とがこの順に積層された基板と、
前記絶縁層を貫通し、前記第1の導電層の一方と前記第2の導電層とが電気的に接続している第1の接続部と、
前記絶縁層を貫通し、前記第1の導電層の他方と前記第2の導電層とが電気的に接続している第2の接続部と、を有する液体吐出ヘッド用基板であって、
前記第2の接続部における、前記第1の導電層の他方と前記第2の導電層との接触面積は、
前記第1の接続部における、前記第1の導電層の一方と前記第2の導電層との接触面積より小さく、かつ、前記第1の導電層には、前記第1の導電層の一方の電位より前記第1の導電層の他方の電位が高くなるように、前記一対の第1の導電層の間に電圧を印加されることを特徴とする液体吐出ヘッド用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−162876(P2010−162876A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267728(P2009−267728)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】