説明

液体吐出ヘッド

【課題】小吐出口の吐出を大吐出口の吐出の影響を抑制しつつ、任意のタイミングで安定して行う。
【解決手段】複数のエネルギー発生素子は、所定量の液滴を吐出するための複数の第1のエネルギー発生素子40aと、所定量より多い量の液滴を吐出するための複数の第2のエネルギー発生素子40bと、を含み、圧力室は、第1のエネルギー発生素子を内部に備える複数の第1の圧力室11aと、第2のエネルギー発生素子を内部に備える複数の第2の圧力室11bと、を含み、供給口60a、第1の圧力室11a及び第2の圧力室11bは液体の流れる方向に関しこの順に配されている。供給口と複数の第1の圧力室とを連通する第1の共通液室50aと、複数の第1の圧力室と複数の第2の圧力室とを連通する第2の共通液室50bとを備え、供給口で保持される液体を第1の共通液室及び第2の共通液室を介して第2の圧力室に供給可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出して記録媒体に記録を行う、インクジェット方式の液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法において、階調を表現するために、サイズの異なるインク滴を吐出する方法が知られている。具体的には、画像の明部から中間調部分は相対的に小さいインク滴からなる記録ドットで形成され、中間調部分から暗部は相対的に大きいインク滴からなる記録ドットで形成される。サイズの異なるインク滴を形成するため、インク供給路及び流路の断面積や流路抵抗が液滴のサイズに応じて調整される。
【0003】
流路の先端部に位置する吐出口は大気にさらされているため、吐出を行っていない間に吐出口から水分が蒸発する。そのため、流路からの水分供給が間に合わないと、流路先端部で、インクに含まれる溶剤や染料の濃度が上昇し、あるいはインクの粘度が上昇し、それによって印字が濃くなる可能性がある。さらには、一定時間インクを吐出していない場合に、吐出口から最初に吐出されるべき液滴が吐出されない、あるいは吐出口から最初に吐出された液滴が斜めに吐出される、といった不具合も一般的に知られている。
【0004】
特許文献1には、このような課題を解決することができる液体吐出ヘッドが開示されている。具体的には、一つの流路に大液滴を排出する吐出口(以下、大吐出口という)と、小液滴を排出する吐出口(以下、小吐出口という)とが、小吐出口がインク供給方向に関して上流側に位置するように、互いに近接して直列に設けられている。大吐出口から大液滴のインクが排出され、その後大吐出口が再充填される際に、インクの流動によって小吐出口近傍のインクがリフレッシュされ、上述の問題が解決される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−28741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液体吐出ヘッドでは、インクの吐出形態として、印字吐出と予備吐出の2つの形態が知られている。前者は、印刷媒体への印字を目的としたインクの吐出である。後者は、流路内のインクをリフレッシュすることを目的としたインクの吐出であり、インクジェット記録装置内の印刷媒体への印字位置とは異なる位置に設けられた予備吐出ポジションで行われる。
【0007】
特許文献1に記載されている構成では、印字吐出の際に大吐出口の印字吐出を利用したインクのリフレッシュを行うことは可能である。しかし、小吐出口の印字吐出が大吐出口の印字吐出と同時にまたはその直後に行われた場合、小吐出口のインク充填状態が攪乱される場合がある。これは、小吐出口と大吐出口が近接していることから、大吐出口からの液滴の吐出及び液滴の再充填によって生じるインクの流動、圧力波等の影響が無視できないためである。このため、小吐出口から正常な吐出ができないおそれがある。
【0008】
小吐出口の予備吐出を大吐出口の予備吐出と同時にまたはその直後に行う場合も、同様の理由により小吐出口のインク充填状態が攪乱され、正常な予備吐出ができない可能性がある。このため、小吐出口の予備吐出は大吐出口の予備吐出と時間的にずらず必要がある。しかし、予備吐出は予備吐出ポジションで行われ、この間は印字動作ができないため、印刷速度の低下を招く可能性がある。
【0009】
本発明は、小吐出口の吐出を大吐出口の吐出の影響を抑制しつつ、任意のタイミングで安定して行うことができる液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出する複数の吐出口と、前記吐出口に対応して設けられ液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子を内部に備える複数の圧力室と、前記圧力室に液体を供給する供給口と、を備える液体吐出ヘッドである。前記複数のエネルギー発生素子は、所定量の液滴を吐出するための複数の第1のエネルギー発生素子と、前記所定量より多い量の液滴を吐出するための複数の第2のエネルギー発生素子と、を含み、前記圧力室は、前記第1のエネルギー発生素子を内部に備える複数の第1の圧力室と、前記第2のエネルギー発生素子を内部に備える複数の第2の圧力室と、を含み、前記供給口、前記第1の圧力室及び前記第2の圧力室は前記液体の流れる方向に関しこの順に配されており、前記供給口と前記複数の第1の圧力室とを連通する第1の共通液室と、前記複数の第1の圧力室と前記複数の第2の圧力室とを連通する第2の共通液室とを備え、前記供給口で保持される液体を前記第1の共通液室及び前記第2の共通液室を介して前記第2の圧力室に供給可能である。
【0011】
以上の構成によれば、液体供給部材から供給された液体は、まず第1の共通液室を通って複数の第1の圧力室に流入し、その後第2の共通液室を通って複数の第2の圧力室に流入する。第2の圧力室で液体が吐出された場合、第2の共通液室にある液体が、液体の吐出された第2の圧力室に充填される。第1の圧力室の液体が第2の圧力室への再充填に直接用いられないため、第1の圧力室での印字吐出及び予備吐出が第2の圧力室での液体の吐出によって大きく影響を受けることはない。
【発明の効果】
【0012】
従って、本発明によれば、小吐出口の吐出を大吐出口の吐出の影響を抑制しつつ、任意のタイミングで安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用可能なインクジェットプリンタの図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの一部切断斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における流路部の模式図及びその断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態における流路部の模式図及びその断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態における流路部の模式図及びその断面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態における流路部の模式図及びその断面図である。
【図7】本発明の第5の実施形態における流路部の模式図及びその断面図である。
【図8】本発明の第6の実施形態における流路部の模式図及びその断面図である。
【図9】本発明の第7の実施形態における流路部の模式図及びその断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明が好適に適用できる代表的なインクジェットプリンタの構成の概要を説明する。図1は、このようなインクジェットプリンタの外観斜視図である。キャリッジHCには、液体吐出ヘッドIJHとインクタンク(インク供給部材)150とを内蔵した一体型インクジェットカートリッジIJCが搭載されている。キャリッジHCは、ガイドレール5003に支持されて紙面上を矢印a,b方向に往復移動し印刷を行う。予備吐出ポジションには、記録ヘッドIJHの前面をキャップするキャップ部材5022が部材5016に支持されて設けられている。キャップ部材5022の開口5023は吸引器5015によって吸引され、液体吐出ヘッドは開口5023を介して吸引回復される。
【0016】
本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッドは、インク等の液体を吐出するための熱エネルギーの発生手段を備え、その熱エネルギーによってインクの状態変化を生起させる。この方式によれば、記録される文字や画像等の高密度化及び高精細化を容易に達成することができる。本実施形態では、熱エネルギーを発生する手段として電気熱変換素子を用いている。この電気熱変換素子でインクを加熱し膜沸騰させると気泡が発生し、気泡による圧力を利用してインクが吐出される。ここでは印刷用のインクを吐出する液体吐出ヘッドについて説明するが、吐出される液体はインクに限定されず、任意の液体を取り扱うことができる。まず、本実施形態の液体吐出ヘッドの全体構成について述べる。
【0017】
図2は、本発明の液体吐出ヘッド(以下、単に記録ヘッドともいう)の一実施形態を示す部分破断斜視図である。記録ヘッドIJHは、電気熱変換素子である複数のエネルギー発生素子(ヒータ40)が設けられた素子基板110と、この素子基板110の主面に積層されて接合され、複数のインクの流路を構成する流路形成部材111と、を備えている。
【0018】
素子基板110は、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等によって形成されており、一般にシリコン(Si)によって形成されている。素子基板110の主面上には、各インクの流路毎に、ヒータ40と、ヒータ40に電圧を印加する電極(図示せず)とが形成され、電極に接続された配線(図示せず)が所定の配線パターンでそれぞれ設けられている。素子基板110の主面には、蓄熱の発散性を向上させる絶縁膜(図示せず)が、ヒータ40を被覆するように設けられている。素子基板110の主面には、気泡が消泡した際に生じるキャビテーションから絶縁膜を保護するための保護膜(図示せず)が、絶縁膜を被覆するように設けられている。また素子基板110には後述する流路30にインクを供給する供給口60を有している。
【0019】
流路形成部材111は、図2に示すように、インクが流動する複数の流路30を形成するための溝部を有している。また、インク滴を吐出する端部開口である複数の吐出口10が形成されている。吐出口10は、流路形成部材111のヒータ40と対向する位置に形成されている。
【0020】
記録ヘッドIJHは、素子基板110上に複数のヒータ40及び複数の流路30を有している。記録ヘッドIJHは、一般的には、各流路30の長手方向が並列に配列された第1の吐出口列7と、供給口60を挟んで第1の吐出口列7に対向する位置に各流路30の長手方向が平行に配列された第2の吐出口列8と、を備えている。第1及び第2の吐出口列7,8は、隣接する各吐出口10の間隔が600dpi(dot per inch)または1200dpiに形成されている。
【0021】
以下に述べる各実施形態においては、第2の吐出口列が省略されている場合もあり、第1及び第2の吐出口列と平行な第3または第4吐出口列を有する場合(図示せず)もある。供給口60についても、以下に述べる各実施形態においては、複数に分割されている場合(図示せず)がある。また各吐出口列は、ドット配置の理由から、必要に応じて、隣接する各吐出口間のピッチが互いにずれて配列されている。
【0022】
以下に、本発明の主要部となる記録ヘッドの流路構造について、種々の実施形態を挙げて説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図3は、本発明の第1の実施形態による記録ヘッドの流路構造を示している。同図(a)は記録ヘッドの複数の流路等が形成された部位を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、同図(b)は同図(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0024】
第1のエネルギー発生素子であるヒータ40aと対向する小吐出口10aと、第2のエネルギー発生素子であるヒータ40bと対向する大吐出口10bと、がそれぞれ所定方向に配列されている。小吐出口10aは相対的に液滴体積の小さい所定量のインク滴を吐出し、大吐出口10bは、相対的に液滴体積の大きい、上記所定量より多い量のインク滴を吐出する。小吐出口10aからなる列と大吐出口10bからなる列は互いに並列して所定方向に配列しており、実質的に同じ配列ピッチで設けられている。ヒータ40aを内部に備え小吐出口10aと連通する第1の圧力室11aからは2つの流路30aが互いに逆方向に直線状に延在しており、各流路30aに柱状のフィルタ31が設けられている。一方の流路(第1の流路)30aは、入口側の第1の共通液室50aを介して、上記所定方向に沿って延在する第1の供給口60aに連通している。他方の流路30a(第2の流路)は、圧力室間の第2の共通液室50b及び流路30bを介して、ヒータ40bを内部に備え大吐出口10bと連通する第2の圧力室11bと連通している。第1の共通液室50aと第2の共通液室50bは直線状に配されている。以下の説明では、第1の供給口60aの入口から圧力室間の第2の共通液室50bの入口までの経路を流路70とする。
【0025】
小吐出口10aは、本実施形態では直径12μmの円形の開口を有し、1回あたりのインクの吐出量(液滴体積)は2.3plである。大吐出口10bは、本実施形態では直径16μmの円形の開口を有し、1回あたりのインクの吐出量(液滴体積)は、5.7plである。小吐出口10aと大吐出口10bが1回あたりに吐出するインクの体積比は、本実施形態では約2倍であるが、2倍以上であってもよい。小吐出口10a用のヒータ40aは、平面寸法18μm×18μmの正方形の発熱体であり、大吐出口10b用のヒータ40bは、平面寸法24μm×24μmの正方形の発熱体である。第1の供給口60aの幅は、第1の共通液室50aとの接続部で60μmである。
【0026】
本実施形態の記録ヘッドの動作について説明する。印刷が開始されると、印字データに基づき小吐出口10a用のヒータ40aと大吐出口10b用のヒータ40bが選択的に駆動され、対応する各吐出口10a,10bからそれぞれインクが吐出される。大吐出口10bからインクが吐出されると、排出されたインクを補充するため、第1の供給口60aで保持しているインクが供給される。第1の供給口60aから供給されたインクは、第1の共通液室50a、一方の流路30a、第1の圧力室11a、他方の流路30a、第2の共通液室50bを通って、大吐出口10bを備える第2の圧力室11bに供給可能である。
【0027】
大吐出口10bでインクの吐出が生じると、圧力室間の共通液室50bのインクが大吐出口10bに向けて流動し、その結果、第1の共通液室50aのインクが第1の圧力室11aに向けて流動する。従って、第1の圧力室11aには、大吐出口10bからのインクの吐出がある限り、増粘が抑制されたフレッシュなインクが常に供給され、小吐出口10aの近傍にあるインクが自動的にリフレッシュされる。このため、小吐出口10aから一定期間インクが吐出されない場合に小吐出口10aからインクが蒸発した場合でも、第1の圧力室11a内のインクの増粘が抑制される。従って、例えば、小吐出口から吐出開始後の最初のインクの吐出が不良になることを抑制することができる。印字の際に大吐出口10bでのインクの吐出が行われない場合も、小吐出口10aからのインクの吐出が行われていれば、小吐出口10aの近傍にあるインクは自動的にリフレッシュされる。
【0028】
本発明の効果は、小吐出口10aが開口直径φ15μm以下の円形断面の場合、またはこれと同等の開口面積を有する場合、具体的にはインク吐出体積が4pl以下の場合に、特に顕著であることが確認されている。
【0029】
本実施形態では、小吐出口10aを備える第1の圧力室11aとこれにつながる流路30aを、大吐出口10bを備える第2の圧力室11bとこれにつながる流路30bから独立して設け、その間に圧力室間の第2の共通液室50bを設けている。このため、第1の圧力室11aにおけるインク流動と第2の圧力室11bにおけるインク流動の相互影響の度合いが低下し、これらの間に生じる可能性のあるクロストークがほぼ解消されている。そのため、印字吐出の際に、大吐出口10bでのインクの吐出が小吐出口10aでのインクの吐出に及ぼす影響が軽減される。
【0030】
また、紙等の記録媒体へ記録を行わない予備吐出の際には、同様の理由から、小吐出口10aでの予備吐出と大吐出口10bでの予備吐出を、互いに制約を受けることなく任意のタイミングで行うことができる。小吐出口10aの予備吐出と大吐出口10bの予備吐出を同時に行うこともできるため、予備吐出ポジションにおける予備吐出に要する時間を大幅に削減することができ、印刷速度を向上させることができる。
【0031】
第1の圧力室11aへのインクの供給も入口側の共通液室50aを介して行われるため、インクが不足している第1の圧力室11aにインクを効率良く供給することができる。本実施形態は、従来技術に対して第1の共通液室50a及び第2の共通液室50bを設けるだけの簡易な構成であるため、構成の複雑化によるコストの増加も限定的である。
【0032】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態による記録ヘッドの流路構造を示している。同図(a)は記録ヘッドの複数の流路等が形成された部位を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、同図(b)は同図(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0033】
本実施形態では、第1の実施形態と異なり、第1の供給口60aが複数に分割されている。すなわち、第1の実施形態では、第1の供給口60aは、入口側の第1の共通液室50aの下方で小吐出口10aの配列方向に連続した1つの供給口となっている。これに対し、本実施形態では、第1の供給口60aは、吐出口配列方向Pに複数配列されている。具体的には、第1の供給口60aの対向する側壁62の間に、吐出口配列方向Pに間隔をおいて、梁部材、壁部材などからなる少なくとも1つの仕切部材61が設けられている。第1の供給口60aの分割された各部分は開口が60μm×68μmの長方形であり、吐出口配列方向Pに吐出口配列ピッチの2倍の間隔で配置されている。
【0034】
吐出口の数が多く、吐出口配列方向Pにおける供給口の長さが大きい場合、一つの連続した供給口では、基板温度の過度の上昇や流路部材の膨潤変形などによって、基板がたわみ変形を起こし印字に不具合が出る可能性がある。温度の過度の上昇自体が印字に影響を及ぼす場合もある。供給口を分割し供給口間に仕切部材61を設けることで基板の強度を高めることができ、さらには仕切部材61による放熱効果も期待できる。
【0035】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態による記録ヘッドの流路構造を示している。同図(a)は記録ヘッドの複数の流路等が形成された部位を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、同図(b)は同図(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0036】
本実施形態では、インク供給部材(液体供給部材)150と圧力室間の第2の共通液室50bとの間に位置し、インク供給部材150と第2の共通液室50bを直接連通させる第2の供給口60bが複数個設けられている。第2の供給口60bは、インク供給部材150に貯蔵されているインクを第2の共通液室50bに直接供給する。各供給口60bは、60μm×68μmの長方形の開口断面を有し、吐出口配列ピッチの4倍の間隔で配置されている。以下の説明では、第2の供給口60bの入口から圧力室間の共通液室50bの入口までの経路を流路71とする。
【0037】
インクが流路70だけを通って大吐出口10bに供給される場合、設計によっては流路抵抗が過大になり、インクを供給する時間周期であるリフィル周波数が低下し、さらにはスループットへの影響が生じる可能性がある。本実施形態では第2の供給口60bが設けられ、新たな流路71が形成されているため、リフィル周波数の低下を防止することができる。
【0038】
第2の供給口60bは、本実施形態では複数に分割されている(あるいは、複数個設けられている)が、1つの供給口として設けてもよい。同様に、第1の供給口60aを複数に分割してもよく(あるいは、複数個設けてもよく)、両方の供給口60a,60bを共に分割してもよい。
【0039】
本実施形態のように第2の供給口を設ける場合には、第1の供給口とのバランスを考慮することが好ましい。例えば、第2の供給口60bが第1の供給口60aに比べて大きすぎると、大吐出口10bから吐出を行った場合に、インクのリフィルが第1の供給口60aから行われずに第2の供給口60bからのみ行われる場合がある。上述した実施形態のように、大吐出口10bからインクを吐出した場合に第1の供給口60aからのインクを流路30bを介して大吐出口に供給することが好適である。そのため図5に示すように第1の供給口60aの開口部の総面積よりも第2の供給口60bの開口部の総面積を小さくすることが好ましい。また、第1の供給口60aの数より第2の供給口60bの数を多くすることが好ましい。
【0040】
(第4の実施形態)
図6は、本発明の第4の実施形態による記録ヘッドの流路構造を示している。同図(a)は記録ヘッドの複数の流路等が形成された部位を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、同図(b)は同図(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0041】
本実施形態では、第3の実施形態で述べたように、第1の供給口60aと第2の供給口60bが共に複数個設けられているが、第2の供給口60bの総断面積が第1の供給口60aの総断面積より小さくされている。各第1の供給口60aは60μm×68μmの長方形の断面開口を有し、各第2の供給口60bは42μm×42μmの長方形の断面開口を有している。第1の供給口60a及び第2の供給口60bは、共に吐出口配列ピッチの4倍の間隔で、同数個配置されている。吐出口配列方向Pにおける供給口間のスペース(仕切部材61)は、ヒータ40a,40bに電力を供給する配線の配置スペース、及びヒータ40a,40bの発熱を両側へ逃がす経路として用いることができる。
【0042】
本実施形態では、第2の供給口60bの入口と圧力室間の共通液室50bの入口とを結ぶ流路71の抵抗係数は、第1の供給口60aの入口と圧力室間の共通液室50bの入口とを結ぶ流路70の抵抗係数の1/5以上、1未満とされている。その理由は以下の通りである。第3の実施形態で述べたように、第2の供給口60bを設けることによって、大吐出口10bにおけるリフィル周波数の低下を防止することができる。この観点からは、第2の供給口60bの総開口断面積は大きいほど望ましく、例えば第1の供給口60aの総開口断面積と同じであってもよい。しかしながら、実用上は、リフィル周波数の低下防止のために第2の供給口60bの総開口断面積をそこまで大きくする必要がない場合もある。流路71の総流路抵抗は、流路70の総流路抵抗と同等以下であることが好ましい。それによって流路70から流入するインクと同じ量のインクを流路71から供給できるため、実用上十分なリフィル周波数を確保することができる。また、第2の供給口60bの総開口断面積を小さくことによって、仕切部材61の体積が増え、流路中央部に集中した熱を効率的に逃がすことができる。
【0043】
逆に、流路71の流路抵抗を小さくしすぎると、流路70を通るインク流量が減少し、小吐出口10aにおいて吐出開始後の最初のインクの吐出が不良になる問題を十分に解消できない可能性がある。本実施形態を模擬した実験結果によれば、通常の印字においては、小吐出口10aからの平均インク吐出流量(流路70を通るインク流量)は、大吐出口10bからの平均インク吐出流量(流路70,71を通るインク流量の合計)の15%程度である。この流量比を実現するには、流路71の総流路抵抗を、流路70の総流路抵抗の1/5以上にすればよい。ただし、流路71と流路70の総流路抵抗の比は上記の例に限定されず、大吐出口10bと小吐出口10aのインクの吐出量比に応じて変えることができる。
【0044】
(第5の実施形態)
図7は、本発明の第5の実施形態による記録ヘッドの流路構造を示している。同図(a)は記録ヘッドの複数の流路等が形成された部位を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、同図(b)は同図(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0045】
第4の実施形態と異なり、大吐出口10bと小吐出口10aがそれぞれ複数列(ここでは2列)設けられている。インクは中央の第1の供給口60aから左右に分岐して、2列の小吐出口10aに供給され、さらにその外側の大吐出口10bに供給される。本実施形態によれば、吐出口数を倍増することができ、印刷速度をさらに上げることができる。
【0046】
(第6の実施形態)
図8は、本発明の第6の実施形態による記録ヘッドの流路構造を示している。同図(a)は記録ヘッドの複数の流路等が形成された部位を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、同図(b)は同図(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0047】
第5の実施形態と同様、小吐出口10aが2列設けられ、これらの外側に入口側の共通液室50aへの流路30aが設けられている。大吐出口10bは1列だけ設けられており、2つの圧力室間の共通液室50bからインクが供給される。本実施形態によれば、小吐出口10aの個数が倍増されているため、印刷速度をさらに上げることができる。大吐出口10bへの流路が2つ設けられているため、第2の供給口60bを追加しなくてもリフィル周波数の低下を防止することができる。
【0048】
(第7の実施形態)
図9は、本発明の第7の実施形態による記録ヘッドの流路構造を示している。同図(a)は記録ヘッドの複数の流路等が形成された部位を基板に対して垂直な方向から見た平面透視図、同図(b)は同図(a)のA−A’線に沿った断面図である。
【0049】
第6の実施形態と異なる点は、圧力室間の第2の共通液室50bに連通する第2の供給口60bが追加されていることである。第2の供給口60bの断面積は第1の供給口の断面積よりも小さくされている。供給口の断面寸法は第4の実施形態と同様であり、第1の供給口は60μm×68μmの長方形(1つ当たり)、第2の供給口60bは42μm×42μmの長方形(1つ当たり)である。第1の供給口60a、第2の供給口60bとも、吐出口配列ピッチの4倍間隔で配置されている。本実施形態によれば、リフィル周波数低下を防止するだけでなく、さらにリフィル周波数を上げることができる。このため、第5の実施形態のように大吐出口10bの数を増やすことなく、印刷速度を上げることができる。
【0050】
上述した各実施形態において供給口は素子基板110に貫通孔として形成したが本発明はこれに限定されるものではない。例えば吐出口が形成された流路形成部材111を積層構成として、圧力室及び供給口を形成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10a 小吐出口
10b 大吐出口
11a 第1の圧力室
11b 第2の圧力室
50b 圧力室間の共通液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数の吐出口と、前記吐出口に対応して設けられ液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子と、前記エネルギー発生素子を内部に備える複数の圧力室と、前記圧力室に液体を供給する供給口と、を備える液体吐出ヘッドであって、
前記複数のエネルギー発生素子は、所定量の液滴を吐出するための複数の第1のエネルギー発生素子と、前記所定量より多い量の液滴を吐出するための複数の第2のエネルギー発生素子と、を含み、前記圧力室は、前記第1のエネルギー発生素子を内部に備える複数の第1の圧力室と、前記第2のエネルギー発生素子を内部に備える複数の第2の圧力室と、を含み、前記供給口、前記第1の圧力室及び前記第2の圧力室は前記液体の流れる方向に関しこの順に配されており、前記供給口と前記複数の第1の圧力室とを連通する第1の共通液室と、前記複数の第1の圧力室と前記複数の第2の圧力室とを連通する第2の共通液室とを備え、前記供給口で保持される液体を前記第1の共通液室及び前記第2の共通液室を介して前記第2の圧力室に供給可能である、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記複数の第1のエネルギー発生素子からなる列と前記複数の第2のエネルギー発生素子からなる列は互いに並列して所定方向に延在しており、前記供給口は前記所定方向に沿って延在している、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記供給口は前記所定方向に沿って複数配列されている、請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1の共通液室と前記第2の共通液室は直線状に配されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1の圧力室と前記第2の圧力室との間に、前記供給口とは別の、前記第2の圧力室に前記液体を供給する第2の供給口が形成されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記供給口の開口の総面積より前記第2の供給口の開口の総面積のほうが小さい、請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記供給口の数より前記第2の供給口の数の方が多い、請求項5または6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1のエネルギー発生素子の駆動により吐出される液滴の体積は、前記第2のエネルギー発生素子の駆動により吐出される液滴体積の2倍以上である、請求項1から7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記第1の圧力室には前記第1の共通液室と前記第2の共通液室とにそれぞれ連通する2つの流路が接続され、前記第2の圧力室には前記第2の共通液室に連通する1つの流路が接続されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第1のエネルギー発生素子および第2のエネルギー発生素子は基板に形成されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記供給口は前記基板を貫通する貫通孔により形成されている、請求項10に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−78936(P2013−78936A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181667(P2012−181667)
【出願日】平成24年8月20日(2012.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】