説明

液体吐出方法、液体吐出ヘッド、及び、液体吐出装置

【課題】高粘度液体について、量の異なる複数種類の液体滴を安定的に吐出させる。
【解決手段】この液体吐出方法に用いる液体吐出ヘッドは、ノズルと、液体をノズルから吐出させるために液体に圧力変化を与える圧力室と、圧力室に液体を供給する供給部とを有し、液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とをノズルから吐出させる。そして、液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上であって20ミリパスカル秒以下の範囲内である。ノズルの直径は、15μm以上であって40μm以下の範囲内である。ノズルの流路長さは、供給部の流路長さの0.2倍未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出方法、液体吐出ヘッド、及び、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の液体吐出装置には、液体が吐出されるノズルと、ノズルから液体を吐出させるべく、液体に圧力変化を与える圧力室と、リザーバに貯留された液体を圧力室に供給するための供給部とを有する液体吐出ヘッドを有するものがある。この液体吐出ヘッドでは、粘度が水の粘度に近い液体を対象にして、ヘッド内の液体流路における大きさが定められている。
【特許文献1】特開2005−34998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、インクジェット技術を利用して、一般的なインクよりも粘度の高い液体を吐出する試みがなされている。そして、従来の形状のヘッドでこのような粘度の高い液体を吐出させると、液体の吐出が不安定になるという問題が生じることが判った。例えば、液体の飛行曲がりが生じたり、吐出量の不足が生じたりする場合があることが判った。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、一般的なインクよりも粘度の高い液体について、量の異なる複数種類の液体滴を安定的に吐出させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するための主たる発明は、
液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドから液体を吐出させることを有し、
前記液体の粘度は、
8ミリパスカル秒以上であって20ミリパスカル秒以下の範囲内であり、
前記液体吐出ヘッドは、
前記液体が吐出されるノズルと、
前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、
前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する供給部と、を有し、
前記液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とを前記ノズルから吐出させるものであり、
前記ノズルの直径は、
15μm以上であって40μm以下の範囲内であり、
前記ノズルの流路長さは、
前記供給部の流路長さの0.2倍未満である、液体吐出方法である。
【0005】
本発明の他の特徴は、本明細書、及び添付図面の記載により、明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本明細書の記載、及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0007】
すなわち、液体吐出方法であって、液体吐出ヘッドから液体を吐出させることを有し、前記液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上であって20ミリパスカル秒以下の範囲内であり、前記液体吐出ヘッドは、前記液体が吐出されるノズルと、前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する供給部と、を有し、前記液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とを前記ノズルから吐出させるものであり、前記ノズルの直径は、15μm以上であって40μm以下の範囲内であり、前記ノズルの流路長さは、前記供給部の流路長さの0.2倍未満である、液体吐出方法を実現できることが明らかにされる。
このような液体吐出方法によれば、ノズル開口の直径が、異なる量のインク滴の打ち分けに適した大きさに定められる。加えて、ノズルの流路長さと供給部の流路長さとが、圧力室内の液体の圧力変化を吐出のために効率よく使用できる比率に定められる。その結果、高粘度の液体について、量の異なる複数種類の液体滴を安定的に吐出させることができる。
【0008】
かかる液体吐出方法であって、前記ノズルの流路長さは、30μm以上であることが好ましい。
このような液体吐出方法によれば、ノズルとして必要な剛性を得ることができる。
【0009】
かかる液体吐出方法であって、前記供給部の流路長さは、153μm以上であって420μm以下の範囲内であることが好ましい。
このような液体吐出方法によれば、量の多い方の液体滴について10ng以上の吐出量を確保できる。
【0010】
かかる液体吐出方法であって、前記供給部の流路抵抗は、前記ノズルの流路抵抗の0.2倍よりも大きいことが好ましい。
このような液体吐出方法によれば、液体滴をより安定的に吐出できる。
【0011】
かかる液体吐出方法であって、前記ノズルのイナータンスは、前記供給部のイナータンスよりも小さいことが好ましい。
このような液体吐出方法によれば、液体に与えた圧力変化に基づいて液体を効率よく吐出することができる。
【0012】
かかる液体吐出方法であって、前記圧力室は、前記圧力室の一部を区画し、変形によって前記液体に圧力変化を与える区画部を有することが好ましい。
このような液体吐出方法によれば、圧力室内の液体に効率よく圧力変化を与えることができる。
【0013】
かかる液体吐出方法であって、前記液体吐出ヘッドは、印加された吐出パルスにおける電位の変化パターンに応じた度合いで、前記区画部を変形させる素子を有することが好ましい。
このような液体吐出方法によれば、圧力室内の液体の圧力を精度良く制御できる。
【0014】
また、次の液体吐出ヘッドを実現できることも明らかにされる。
すなわち、液体が吐出されるノズルと、前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する供給部と、を有し、前記液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とを前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッドであって、前記ノズルの直径は、15μm以上であって40μm以下の範囲内であり、前記ノズルの流路長さは、前記供給部の流路長さの0.2倍未満である、液体吐出ヘッドを実現できることも明らかにされる。
【0015】
また、次の液体吐出装置を実現できることも明らかにされる。
すなわち、吐出パルスを生成する吐出パルス生成部と、ノズルから液体を吐出させる液体吐出ヘッドであって、前記液体を前記ノズルから吐出させるために、区画部を変形させることで前記液体に圧力変化を与える圧力室であって、前記液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とを前記ノズルから吐出させる圧力室と、印加された前記吐出パルスにおける電位の変化パターンに応じた度合いで、前記区画部を変形させる素子と、前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する供給部と、を有し、前記ノズルの直径は、15μm以上であって40μm以下の範囲内であり、前記ノズルの流路長さは、前記供給部の流路長さの0.2倍未満である、液体吐出ヘッドとを有する液体吐出装置を実現できることも明らかにされる。
【0016】
===第1実施形態===
<印刷システムについて>
図1に例示した印刷システムは、プリンタ1と、コンピュータCPとを有する。プリンタ1は液体吐出装置に相当し、用紙、布、フィルム等の媒体に向けて、液体の一種であるインクを吐出する。媒体は、液体が吐出される対象となる対象物である。コンピュータCPは、プリンタ1と通信可能に接続されている。プリンタ1に画像を印刷させるため、コンピュータCPは、その画像に応じた印刷データをプリンタ1に送信する。
【0017】
===プリンタ1の概要===
プリンタ1は、用紙搬送機構10、キャリッジ移動機構20、駆動信号生成回路30、ヘッドユニット40、検出器群50、及び、プリンタ側コントローラ60を有する。
【0018】
用紙搬送機構10は、用紙を搬送方向に搬送させる。キャリッジ移動機構20は、ヘッドユニット40が取り付けられたキャリッジを所定の移動方向(例えば紙幅方向)に移動させる。駆動信号生成回路30は、駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、用紙への印刷時にヘッドHD(ピエゾ素子433,図2Aを参照)へ印加されるものであり、図4に一例を示すように、吐出パルスPSを含む一連の信号である。ここで、吐出パルスPSとは、ヘッドHDから滴状のインクを吐出させるために、ピエゾ素子433に所定の動作を行わせるものである。この吐出パルスPSに関し、電位の変化パターンを異ならせることで、ヘッドHD(ノズル427)から吐出されるインク滴の量を調整することができる。駆動信号COMが吐出パルスPSを含むことから、駆動信号生成回路30は、吐出パルス生成部に相当する。なお、駆動信号生成回路30の構成や吐出パルスPSについては、後で説明する。ヘッドユニット40は、ヘッドHDとヘッド制御部HCとを有する。ヘッドHDは、インクを用紙に向けて吐出させる。ヘッド制御部HCは、プリンタ側コントローラ60からのヘッド制御信号に基づき、ヘッドHDを制御する。なお、ヘッドHDについては後で説明する。検出器群50は、プリンタ1の状況を監視する複数の検出器によって構成される。これらの検出器による検出結果は、プリンタ側コントローラ60に出力される。プリンタ側コントローラ60は、プリンタ1における全体的な制御を行う。このプリンタ側コントローラ60についても後で説明する。
【0019】

===プリンタ1の要部===
<ヘッドHDについて>
図2Aに示すように、ヘッドHDは、ケース41と、流路ユニット42と、ピエゾ素子ユニット43とを有する。ケース41は、ピエゾ素子ユニット43を収容して固定するための収容空部411が内部に設けられた部材である。このケース41は、例えば樹脂材によって作製される。そして、ケース41の先端面には、流路ユニット42が接合されている。
【0020】
流路ユニット42は、流路形成基板421と、ノズルプレート422と、振動板423とを有する。そして、流路形成基板421における一方の表面にはノズルプレート422が接合され、他方の表面には振動板423が接合されている。流路形成基板421には、圧力室424となる溝部、インク供給路425となる溝部、及び、共通インク室426となる開口部などが形成されている。この流路形成基板421は、例えばシリコン基板によって作製されている。圧力室424は、ノズル427の並び方向に対して直交する方向に細長い室として形成されている。インク供給路425は、圧力室424と共通インク室426との間を連通する。このインク供給路425は、共通インク室426に貯留されたインク(液体の一種)を圧力室424に供給する。従って、インク供給路425は、液体を圧力室424に供給するための供給部の一種である。共通インク室426は、インクカートリッジ(図示せず)から供給されたインクを一旦貯留する部分であり、共通の液体貯留室に相当する。
【0021】
ノズルプレート422には、複数のノズル427が、所定の並び方向に所定の間隔で設けられている。インクは、これらのノズル427を通じてヘッドHDの外に吐出される。このノズルプレート422は、例えばステンレス板やシリコン基板によって作製されている。
【0022】
振動板423は、例えばステンレス製の支持板428に樹脂製の弾性体膜429を積層した二重構造を採っている。振動板423における各圧力室424に対応する部分は、支持板428が環状にエッチング加工されている。そして、環内には島部428aが形成されている。この島部428aと島部周辺の弾性体膜429aとがダイヤフラム部423aを構成する。このダイヤフラム部423aは、ピエゾ素子ユニット43が有するピエゾ素子433によって変形し、圧力室424の容積を可変する。すなわち、ダイヤフラム部423aは、圧力室424の一部を区画し、変形によって圧力室424内のインク(液体)に圧力変化を与える区画部に相当する。
【0023】
ピエゾ素子ユニット43は、ピエゾ素子群431と、固定板432とを有する。ピエゾ素子群431は櫛歯状をしている。そして、櫛歯の1つ1つがピエゾ素子433である。各ピエゾ素子433の先端面は、対応する島部428aに接着される。固定板432は、ピエゾ素子群431を支持するとともに、ケース41に対する取り付け部となる。この固定板432は、例えばステンレス板によって構成されており、収容空部411の内壁に接着される。
【0024】
ピエゾ素子433は、電気機械変換素子の一種であり、圧力室424内の液体に圧力変化を与えるための動作(変形動作)をする素子に相当する。図2Aに示すピエゾ素子433は、隣り合う電極同士の間に電位差を与えることにより、積層方向と直交する素子長手方向に伸縮する。即ち、上記の電極は、所定電位の共通電極434と、駆動信号COM(吐出パルスPS)に応じた電位になる駆動電極435とを有する。そして、両電極434,435に挟まれた圧電体436は、共通電極434と駆動電極435との電位差に応じた度合いで変形する。ピエゾ素子433は、圧電体436の変形に伴って素子の長手方向に伸縮する。本実施形態において、共通電極434は、グランド電位、若しくは、グランド電位よりも所定電位だけ高いバイアス電位に定められる。そして、ピエゾ素子433は、駆動電極435の電位が共通電極434の電位よりも高くなるほど収縮する。反対に、駆動電極435の電位が共通電極434の電位に近付くほど、或いは、共通電極434の電位よりも低くなるほど伸張する。
【0025】
前述したように、ピエゾ素子ユニット43は、固定板432を介してケース41に取り付けられている。このため、ピエゾ素子433が収縮すると、ダイヤフラム部423aは、圧力室424から遠ざかる方向に引っ張られる。これにより、圧力室424が膨張される。反対に、ピエゾ素子433が伸長すると、ダイヤフラム部423aが圧力室424側に押される。これにより、圧力室424が収縮する。圧力室424内のインクには、圧力室424の膨張や収縮に起因して圧力変化が生じる。すなわち、圧力室424の収縮に伴って圧力室424内のインクは加圧され、圧力室424の膨張に伴って圧力室424内のインクは減圧される。ピエゾ素子433の伸縮状態は駆動電極435の電位に応じて定まるので、圧力室424の容積も駆動電極435の電位に応じて定まる。従って、ピエゾ素子433は、印加された吐出パルスPSにおける電位の変化パターンに応じた度合いで、ダイヤフラム部423a(区画部)を変形させる素子といえる。そして、圧力室424内のインクに対する加圧度合いや減圧度合いは、駆動電極435における単位時間あたりの電位変化量等によって定めることができる。
【0026】
<インク流路について>
ヘッドHDには、共通インク室426からノズル427に至る一連のインク流路(液体で満たされる液体流路に相当する)が、ノズル427の数に応じた複数設けられている。このインク流路では、太い流路の圧力室424に対して、細い流路のノズル427及びインク供給路425がそれぞれ連通している。このため、インクの流れなどの特性を解析する場合、ヘルムホルツの共鳴器の考え方が適用される。
【0027】
図2Bは、この考え方に基づくインク流路の構造を模式的に説明する図である。このインク流路は、実際とは異なる形状で示されている。この考え方の下で圧力室424は、幅W424、高さH424、長さL424で示される直方体状をしている。すなわち、矩形状断面Scavで一定の流路をしている。同様に、インク供給路425も、幅W425、高さH425、長さL425で示される直方体状をしている。すなわち、矩形状断面Ssupで一定の流路をしている。一方、ノズル427は、直径φ427、長さL427で示される円柱状をしている。すなわち、円形状断面Snzlで一定の流路をしている。なお、インク供給路425に関し、幅W425や高さH425は、圧力室424の幅W424や高さH424以下に定められる。また、インク供給路425の幅W425や高さH425の一方を、圧力室424の幅W424や高さH424の一方に揃えた場合、インク供給路425の幅W425や高さH425の他方は、圧力室424の幅W424や高さH424の他方よりも小さいサイズに定められる。
【0028】
このようなインク流路では、圧力室424内のインクに圧力変化を与えることで、ノズル427からインクを吐出させる。このとき、圧力室424、インク供給路425、及び、ノズル427は、ヘルムホルツの共鳴器のように機能する。このため、圧力室424内のインクに圧力が加わると、この圧力の大きさはヘルムホルツ周期と呼ばれる固有の周期で変化する。すなわち、インクには圧力振動が生じる。
【0029】
ここで、ヘルムホルツ周期(インクの固有振動周期)Tcは、一般的には次式(1)で表すことができる。
Tc=1/f
f=1/2π√〔(Mn+Ms)/(Mn×Ms×(Cc+Ci))〕・・・(1)
式(1)において、Mnはノズル427のイナータンス(単位断面積あたりのインクの質量、後述する。)、Msはインク供給路425のイナータンス、Ccは圧力室424のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)、Ciはインクのコンプライアンス(Ci=体積V/〔密度ρ×音速c2〕)である。
この圧力振動の振幅は、インク流路をインクが流れることで次第に小さくなる。例えば、ノズル427やインク供給路425における損失、及び、圧力室424を区画する壁部等における損失により、圧力振動は減衰する。
【0030】
一般的なヘッドHDにおいて、圧力室424におけるヘルムホルツ周期は5μsから10μsの範囲内に定められる。なお、ヘルムホルツ周期は、隣り合う圧力室424同士を区画する壁部の厚さ、弾性体膜429の厚さやコンプライアンス、流路形成基板421やノズルプレート422の素材によっても変化する。
【0031】
<プリンタ側コントローラ60について>
プリンタ側コントローラ60は、プリンタ1における全体的な制御を行う。例えば、コンピュータCPから受け取った印刷データや各検出器からの検出結果に基づいて制御対象部を制御し、用紙に画像を印刷させる。図1に示すように、プリンタ側コントローラ60は、インタフェース部61と、CPU62と、メモリ63とを有する。インタフェース部61は、コンピュータCPとの間でデータの受け渡しを行う。CPU62は、プリンタ1の全体的な制御を行う。メモリ63は、コンピュータプログラムを格納する領域や作業領域等を確保する。CPU62は、メモリ63に記憶されているコンピュータプログラムに従い、各制御対象部を制御する。例えば、CPU62は、用紙搬送機構10やキャリッジ移動機構20を制御する。また、CPU62は、ヘッドHDの動作を制御するためのヘッド制御信号をヘッド制御部HCに送信したり、駆動信号COMを生成させるための制御信号を駆動信号生成回路30に送信したりする。
ここで、駆動信号COMを生成させるための制御信号はDACデータとも呼ばれ、例えば複数ビットのデジタルデータである。このDACデータは、生成される駆動信号COMの電位の変化パターンを定める。従って、このDACデータは、駆動信号COMや吐出パルスPSの電位を示すデータともいえる。このDACデータは、メモリ63の所定領域に記憶されており、駆動信号COMの生成時に読み出されて駆動信号生成回路30へ出力される。
【0032】
<駆動信号生成回路30について>
駆動信号生成回路30は、吐出パルス生成部として機能し、DACデータに基づき、吐出パルスPSを有する駆動信号COMを生成する。図3に示すように、駆動信号生成回路30は、DAC回路31と、電圧増幅回路32と、電流増幅回路33とを有する。DAC回路31は、デジタルのDACデータをアナログ信号に変換する。電圧増幅回路32は、DAC回路31で変換されたアナログ信号の電圧を、ピエゾ素子433を駆動できるレベルまで増幅する。このプリンタ1では、DAC回路31から出力されるアナログ信号は最大3.3Vであるのに対し、電圧増幅回路32から出力される増幅後のアナログ信号(便宜上、波形信号ともいう。)は最大42Vである。電流増幅回路33は、電圧増幅回路32からの波形信号について電流の増幅をし、駆動信号COMとして出力する。この電流増幅回路33は、例えば、プッシュプル接続されたトランジスタ対によって構成される。
【0033】
<ヘッド制御部HCについて>
ヘッド制御部HCは、駆動信号生成回路30で生成された駆動信号COMの必要部分をヘッド制御信号に基づいて選択し、ピエゾ素子433へ印加する。このため、図3に示すように、ヘッド制御部HCは、駆動信号COMの供給線の途中に、ピエゾ素子433毎に設けられた複数のスイッチ44を有する。そして、ヘッド制御部HCは、ヘッド制御信号からスイッチ制御信号を生成する。このスイッチ制御信号によって各スイッチ44を制御することで、駆動信号COMの必要部分(例えば吐出パルスPS)がピエゾ素子433へ印加される。このとき、必要部分の選択の仕方次第で、ノズル427からのインクの吐出を制御できる。
【0034】
<駆動信号COMについて>
次に、駆動信号生成回路30によって生成される駆動信号COMについて説明する。図4に例示した駆動信号COMには、繰り返し生成される複数の吐出パルスPSが含まれている。これらの吐出パルスPSは、いずれも同じ波形をしている。すなわち、電位の変化パターンが同じである。前述したように、この駆動信号COMは、ピエゾ素子433が有する駆動電極435に印加される。これにより、固定電位とされた共通電極434との間に、電位の変化パターンに応じた電位差が生じる。その結果、ピエゾ素子433は、電位の変化パターンに応じて伸縮し、圧力室424の容積を変化させる。この圧力室424における容積の変化によって圧力室424内のインクには、圧力変化が生じる。そして、この圧力変化に基づき、ノズル427からインク滴が吐出される。
単位時間あたりの吐出回数(吐出周波数)は、相前後して生成される吐出部分の間隔によって定められる。例えば、図4の例において、実線の駆動信号COMではインク滴が期間Ta毎に吐出され、一点鎖線の駆動信号COMではインク滴が期間Tb毎に吐出される。このため、実線の駆動信号COMによる吐出周波数は、一点鎖線の駆動信号COMによる吐出周波数よりも高いといえる。
【0035】
<吐出パルスPSについて>
前述したように、吐出パルスPSはピエゾ素子433の動作を定めている。言い換えれば、ピエゾ素子433の変形度合いを時間毎に定めている。このため、吐出パルスPSにおける電位の変化パターンを異ならせることで、圧力室424内のインクに対する圧力変化のパターンを変えることができる。そして、インク滴の吐出は、インクの圧力変化を利用して行われている。このため、吐出パルスPSにおける電位の変化パターン(波形ともいう)を適宜定めることで、吐出されるインク滴の量を異ならせることができる。
例えば、図5Aに示す波形の吐出パルスPS1では、大ドットの形成に適した量のインク滴を吐出させることができ、図5Bに示す波形の吐出パルスPS2では、小ドットの形成に適した量のインク滴を吐出させることができる。そして、小ドットの形成に適した量は、大ドットの形成に適した量よりも少ない。従って、これらの吐出パルスPS1,PS2を選択的にピエゾ素子433へ印加することで、異なる量のインク滴をノズル427から吐出させることができる。
【0036】
===吐出動作について===
<概要>
この種のプリンタ1では、インクの吐出を安定化させたいという要望がある。例えば、低い周波数でインク滴を吐出させた場合と、高い周波数でインク滴を吐出させた場合とで、インク滴の量や飛行方向、或いは、飛行速度等を同じにしたいという要望がある。しかし、一般的なインクの粘度(約1ミリパスカル秒)よりも十分に高い粘度のインク、具体的には粘度が8〜20ミリパスカル秒のインク(便宜上、高粘度インクともいう。)を、従来のヘッドHDで吐出させた場合には、インクの吐出が不安定になってしまうという問題があった。図6Aは、高粘度インクが安定な状態で吐出されている様子を示している。これに対し、図6Bは、高粘度インクが不安定な状態で吐出されている様子を示している。これらの図を比較すると、不安定な状態では、飛行速度が不足しているインク滴や吐出曲がりが生じているインク滴があることが判る。このような吐出の安定性は、異なる量のインク滴を吐出させる場合であっても同様に求められる。
【0037】
このような事情に鑑み、本実施形態のヘッドHDでは、量の異なる複数種類のインク滴を吐出させるべく、ノズル427の直径φ427を定めている。加えて、圧力室424内のインクに与えた圧力変化をインク滴の吐出のために効率よく使用すべく、ノズル427の長さL427(流路長さ)をインク供給路425の長さL425(流路長さ)に基づいて定めている。すなわち、ノズル427の直径φ427は、15μm以上であって40μm以下の範囲内に定められている。また、ノズル427の長さL427は、インク供給路425の長さL425の0.2倍未満に定められている。
【0038】
図2Bに示すように、ノズル427が、ノズル方向と直交する面での断面積(断面Snzlの面積)がほぼ一定になっている形状、すなわち、円柱状の空間を区画する形状であるとする。この場合、直径φ427は、ノズル427における開口径(直径)が該当する。そして、ノズル427の長さL427は、吐出側の開口から圧力室424側の開口までの長さが該当する。
【0039】
<ヘッドHDについて>
図7は、評価対象の各ヘッドHDを説明する図である。図8は、評価対象の各ヘッドHDにおける各部の寸法を示す図である。評価対象のヘッドHDのうち、実施例1〜実施例3の各ヘッドHDは、本実施形態に属するヘッドHDである。一方、NG1〜NG4の各ヘッドHDは、比較例のヘッドHDである。
【0040】
これらの図から判るように、本実施形態に属する各ヘッドHDは、ノズル427の直径φ427が15μmから40μmの範囲内になっている。すなわち、実施例1のヘッドHDはノズル427の直径φ427が15μmであり、実施例2,3のヘッドHDはノズル427の直径φ427が40μmになっている。また、各ヘッドHDは、ノズル427の長さL427が、インク供給路425の長さL425の0.2倍未満になっている。すなわち、実施例1,2の各ヘッドHDでは、インク供給路425の長さL425がノズル427の長さL427の5.1倍(L427≒L425×0.196)であり、実施例3のヘッドHDでは、インク供給路425の長さL425がノズル427の長さL427の7倍(L427≒L425×0.143)である。具体的に説明すると、実施例1のヘッドHDでは、ノズル427の長さL427が30μmであるのに対し、インク供給路425の長さL425が153μmになっている。実施例2のヘッドHDでは、ノズル427の長さL427が60μmであるのに対し、インク供給路425の長さL425が306μmになっている。実施例3のヘッドHDでは、ノズル427の長さL427が60μmであるのに対し、インク供給路425の長さL425が420μmになっている。
【0041】
また、実施例1のヘッドHDと実施例2,3のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425とノズル427の抵抗R427の比率が異なっている。すなわち、実施例2,3のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425が、ノズル427の抵抗R427の0.2倍よりも大きい値に定められている。これに対し、実施例1のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425の抵抗が、ノズル427の抵抗R427の0.2倍以下の値に定められている。具体的には、実施例2,3のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425がノズル427の抵抗R427の0.21倍に定められている。これに対し、実施例1のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425がノズル427の抵抗R427の0.1倍に定められている。ここで、抵抗R(流路抵抗)とは、媒質の内部損失である。本実施形態では、インク流路を流れるインクが受ける力であって、インクの流れる方向とは逆向きの力である。
【0042】
図2Bで説明したように、インク供給路425は、矩形状断面Ssupを有する流路として捉えることができる。このため、インク供給路425における流路抵抗は、インク(液体)の粘度、インク供給路425の長さL425、幅W425、高さH425に基づいて算出することができる。すなわち、略直方体状の流路における流路抵抗Rは、次式(2)で表すことができる。
流路抵抗R=(12×粘度μ×長さL)/(幅W×高さH)・・・(2)
一方、ノズル427は、円形状断面Snzlを有する流路として捉えることができる。このため、ノズル427における流路抵抗は、インクの粘度、ノズル427の半径(φ427/2)、ノズル427の長さL427に基づいて算出することができる。すなわち、円形状断面の流路における流路抵抗Rは、次式(3)にて近似して表すことができる。 流路抵抗R=(8×粘度μ×長さL)/(π×半径r) ・・・(3)
これらの式(2),(3)において、粘度μはインクの粘度、Lは流路の長さ、Wは流路の幅、Hは流路の高さ、rは円形状断面を有する流路の半径をそれぞれ表している。
【0043】
次に、比較例の各ヘッドHDについて説明する。ノズル427の直径φ427に関し、NG1,4のヘッドHDはそれぞれ15μmであり、NG2,3のヘッドHDはそれぞれ40μmである。このため、ノズル427の直径φ427については、本実施形態に属する各ヘッドHDと比較例の各ヘッドHDとで差はないといえる。しかし、比較例の各ヘッドHDでは、ノズル427の長さL427がインク供給路425の長さL425の0.2倍以上になっている。すなわち、NG1,3,4の各ヘッドHDでは、インク供給路425の長さL425がノズル427の長さL427の4.9倍(L427≒L425×0.204)であり、NG2のヘッドHDでは、インク供給路425の長さL425がノズル427の長さL427の4.5倍(L427≒L425×0.222)である。具体的に説明すると、NG1,4のヘッドHDでは、ノズル427の長さL427が30μmであるのに対し、インク供給路425の長さL425が147μmになっている。NG2のヘッドHDでは、ノズル427の長さL427が60μmであるのに対し、インク供給路425の長さL425が270μmになっている。NG3のヘッドHDでは、ノズル427の長さL427が60μmであるのに対し、インク供給路425の長さL425が294μmになっている。
【0044】
また、比較例の各ヘッドHDは、インク供給路425の抵抗R425とノズル427の抵抗R427の比率が異なっている。すなわち、NG1のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425が、ノズル427の抵抗R427の0.1倍に定められ、NG2のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425が、ノズル427の抵抗R427の0.14倍に定められている。また、NG3のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425が、ノズル427の抵抗R427の0.21倍に定められ、NG4のヘッドHDでは、インク供給路425の抵抗R425が、ノズル427の抵抗R427の0.25倍に定められている。
【0045】
<吐出パルスPSについて>
図5Aや図5Bで説明したように、評価用の吐出パルスPSとしては種々のものを用いることができる。大ドット用のインク滴を吐出させるために用いた吐出パルスPSは、図5Aに示す吐出パルスPS1である。この吐出パルスPS1は、符号P1から符号P5で示される複数の部分を有する。すなわち、吐出パルスPS1は、第1減圧部分P1と、第1電位保持部分P2と、加圧部分P3と、第2電位保持部分P4と、第2減圧部分P5とを有する。
【0046】
第1減圧部分P1は、タイミングt1からタイミングt2に亘って生成され、始端電位が中間電位VBであって終端電位が最高電位VHである。このため、第1減圧部分P1がピエゾ素子433に印加されると、圧力室424は、基準容積から最大容積まで、第1減圧部分P1の生成期間に亘って膨張する。この第1減圧部分P1は、インク滴を吐出させるための準備動作として圧力室424を膨張させている。この吐出パルスPS1における駆動電圧Vh(最高電位VHと最低電位VLとの差)は30Vであり、中間電位VBは最低電位VLよりも10V高い電位に定められる。そして、第1減圧部分P1の生成期間は3μsである。
【0047】
第1電位保持部分P2は、タイミングt2からタイミングt3に亘って生成される部分である。この第1電位保持部分P2は、最高電位VHで一定である。このため、第1電位保持部分P2がピエゾ素子433に印加されると、圧力室424は、第1電位保持部分P2の生成期間に亘って最大容積が維持される。この吐出パルスPS1において、第1電位保持部分P2の生成期間は2μsである。
【0048】
加圧部分P3は、タイミングt3からタイミングt4に亘って生成される部分である。この加圧部分P3は、始端電位が最高電位VHであり、終端電位が最低電位VLである。このため、加圧部分P3がピエゾ素子433に印加されると、圧力室424は、最大容積から最小容積まで加圧部分P3の生成期間に亘って収縮する。この圧力室424の収縮に伴ってインクが加圧されてノズル427から吐出される。このため、加圧部分P3はインク滴を吐出させるための部分(吐出部分)に相当する。なお、この吐出パルスPS1において、加圧部分P3の生成期間は2.3μsである。
【0049】
第2電位保持部分P4は、タイミングt4からタイミングt5に亘って生成される部分である。第2電位保持部分P4は、最低電位VLで一定である。このため、第2電位保持部分P4がピエゾ素子433に印加されると、圧力室424は、第2電位保持部分P4の生成期間に亘って、最小容積が維持される。この吐出パルスPS1において、第2電位保持部分P4の生成期間は3μsである。
【0050】
第2減圧部分P5は、タイミングt5からタイミングt6に亘って生成される部分である。この第2減圧部分P5は、始端電位が最低電位VLであり、終端電位が中間電位VBである。このため、第2減圧部分P5がピエゾ素子433に印加されると、圧力室424は、最小容積から基準容積まで、第2減圧部分P5の生成期間に亘って膨張する。この第2減圧部分P5は、インク滴の吐出後において収縮状態の圧力室424を基準容積まで膨張させるための動作をピエゾ素子433に行わせる。この吐出パルスPS1において、第2減圧部分P5の生成期間は2.5μsである。
【0051】
小ドット用の吐出パルスPSとしては、種々のものを用いることができる。例えば、図5Bに示す吐出パルスPS2や図5Aに示す吐出パルスPS1を変形したものを用いることができる。ここで重要なのは、小ドット用の吐出パルスPSは、大ドット用の吐出パルスPSに対して、圧力室424内のインクに与える圧力変化のパターンが異なっている点である。圧力変化のパターンを異ならせることで、メニスカス(ノズル427において露出しているインクの自由表面)の動きを異ならせることができる。その結果、吐出されるインク滴の量を、大ドット用の吐出パルスPSを用いた場合よりも少なくすることができる。
【0052】
<評価結果について>
図9から図13は、本実施形態に属する各ヘッドHDによるインク滴の吐出結果を示し、図14から図17は、比較例の各ヘッドHDによるインク滴の吐出結果を示す。なお、これらの図は、シミュレーションによって得られたものである。
【0053】
図9及び図10は、実施例1のヘッドHDによるインク滴の吐出を説明するための図である。すなわち、図9は、粘度が20ミリパスカル秒のインク(比重はほぼ1である)を用い、大ドット用のインク滴を60kHz程度の周波数で吐出させた状態を説明する図である。また、図10は、このインクを用い、小ドット用のインク滴を30kHz程度の周波数で吐出させた状態を説明する図である。
【0054】
図11及び図12は、実施例2のヘッドHDによるインク滴の吐出を説明するための図である。すなわち、図11は、粘度が20ミリパスカル秒のインクを用い、大ドット用のインク滴を30kHz程度の周波数で吐出させた状態を説明する図である。また、図12は、このインクを用い、小ドット用のインク滴を10kHz程度の周波数で吐出させた状態を説明する図である。
【0055】
図13は、実施例3のヘッドHDによるインク滴の吐出を説明するための図であり、粘度が8ミリパスカル秒のインク(比重はほぼ1である)を用い、大ドット用のインク滴を60kHz程度の周波数で吐出させた状態を説明する図である。
【0056】
これらの図において、縦軸はメニスカスの位置(状態)をインクの量で示している。また、横軸は時間である。縦軸に関し、0ngは、定常状態におけるメニスカスの位置を示す。そして、正側に値が大きくなるほどメニスカスが吐出方向に押し出された状態を示し、負側に値が大きくなるほどメニスカスが圧力室424側に引き込まれた状態を示す。また、符号Fで示すタイミングはインク滴の吐出されたタイミングを示している。このタイミングにおけるインク量が、吐出されたインク滴の量に相当する。ここで、インク滴は、柱状に延びたメニスカスの先端部分がちぎれることで、ノズル427から吐出されると考えられる。このため、インク滴が吐出された場合、その反動によってメニスカスは、急速に圧力室424の方向へ移動する。
【0057】
図9、図11、図13より、本実施形態に属する各ヘッドHDでは、大ドットの形成に必要な量のインク滴を安定的に吐出できることが確認できた。実施例1のヘッドHDでは、図9に示すように、約10ngのインク滴を安定的に(すなわちインク滴の量のばらつきが抑制された状態で)、吐出できることが確認できた。実施例2のヘッドHDでは、図11に示すように、約22ngのインクを安定的に吐出できることが確認できた。実施例3のヘッドHDでは、図13に示すように、約10ngのインク滴を安定的に吐出できることが確認できた。
【0058】
図10、図12より、本実施形態のヘッドHDでは、小ドットの形成に必要な量のインク滴も安定的に吐出できることが確認できた。実施例1のヘッドHDでは、図10に示すように、約3ngのインク滴を安定的に吐出できることが確認できた。実施例2のヘッドHDでは、約5.5ngのインク滴を安定的に吐出できることが確認できた。なお、実施例3のヘッドHDに関し、大ドットの形成に必要な量のインク滴が吐出できていること、及び、実施例1,2のヘッドHDで小ドットの形成に必要な量のインク滴が吐出できていることから、実施例3のヘッドHDでも小ドットの形成に必要な量のインク滴を吐出できると考えられる。
【0059】
本実施形態では、30kHzの周波数でインク滴を繰り返し吐出させた場合に、吐出量として10ng以上を確保でき、かつ、吐出量が安定していることを、ヘッドHDの評価基準としている。これは、10ng以上のインク滴を安定的に吐出できれば、高粘度インクを用いても、従来のインクを吐出するプリンタ1と同等以上の速度や画質で画像が印刷できるからである。
【0060】
そして、量の異なる複数種類のインク滴を安定的に吐出できた理由の1つは、ノズル427の直径φ427が10ng〜20ng程度の量のインク滴を吐出するために適した大きさに定められているからと考えられる。また、他の理由としては、ノズル427の長さL427とインク供給路425の長さL425の比率が適切に定められているから、すなわちノズル427の長さL427がインク供給路425の長さL425の0.2倍未満に定められているからと考えられる。これにより、圧力室424内のインクに与えた圧力変化を、インク滴を吐出するために、言い換えればメニスカスを運動させるために、効率よく使用することができるようになったと考えられる。なお、ノズル427の長さL427は、本実施形態に属する各ヘッドHDのように、30μm以上であることが好ましい。これは、ノズル427として必要な剛性が確保できるからである。また、ノズル427の長さL427はノズルプレート422の厚さでもある。このため、30μm以上にすることで加工が容易になる。加えて、寸法精度を高めることもできる。
【0061】
流路抵抗に関し、インク供給路425の流路抵抗R427は、ノズル427の流路抵抗R425の0.2倍よりも大きくすることが好ましいと考えられる。これは、インク供給路425の流路抵抗R427を大きくすることで、インク滴を吐出させた後におけるインクの圧力振動を、インク供給路425側で減衰させることができると考えられるからである。すなわち、メニスカスの動きやすさを保ちつつ、圧力振動を収束させることができると考えられるからである。
【0062】
ところで、ノズル427もインク供給路425もインク(媒質)が流れる管と考えることができる。このため、管の外部から圧力を加えた場合において、管の直径が大きいほど管内のインクは移動し易く、管内のインクの質量が大きいほど管内のインクは移動し難いといえる。このような特性を有することから、管内におけるインクの移動し易さについては、音響回路におけるイナータンスで表されている。ここで、インクの密度をρ、流路のインク流れ方向と直交する面の断面積をS、流路の長さをLとしたとき、イナータンスMは次式(4)で近似して表すことができる。図2Bに示すように、ここでの流路の長さLや断面積Sは、モデル化したインク流路における各部の長さや断面積を示している。長さLは、インクの流れ方向の長さである。また、断面積Sに関しては、インクの流れ方向とほぼ直交する面の面積である。
イナータンスM=(密度ρ×長さL)/断面積S ・・・ (4)
この式(4)から、イナータンスは、単位断面積あたりのインクの質量と考えることができる。そして、イナータンスが大きいほど、インクは圧力室424内のインク圧力に応じて移動し難くなり、イナータンスが小さいほど、インクは圧力室424内の圧力に応じて移動しやすくなることが判る。
高粘度インクを吐出させる場合、ノズル427のイナータンスをインク供給路425のイナータンスよりも小さくすることが好ましい。これは、圧力室424内のインクに与えられた圧力振動に基づき、メニスカスの移動を効率よく行えるからである。
【0063】
比較例の各ヘッドHDでは、図14〜図17に示すように、本実施形態に属する各ヘッドHDに比べてインク滴の吐出に難があると考えられる。例えば、NG1のヘッドHDでは、図14に示すように、小ドット用のインク滴の吐出時にメニスカスが過度に引き込まれていることが判る。この場合、メニスカスが気泡となって圧力室424に入り込んでしまう可能性がある。NG2のヘッドHDでは、図15に示すようにインク滴が吐出されていないと考えられる。すなわち、符号Nで示すインク滴の吐出タイミングの後において、メニスカスの圧力室424側への戻り量が少なくなっていることが判る。NG3,4のヘッドHDでは、吐出パルスPSの印加開始から200μsが経過しても、メニスカスが定常状態の位置まで戻っていない。これは、インク供給路425を通じて圧力室424に供給されるインクの量が不足しているためと考えられる。従って、NG3,4のヘッドHDでは、インク滴を連続滴に吐出すると飛行曲がりが生じることが考えられる。
【0064】
===その他の実施形態について===
前述した実施形態は、主として、液体吐出装置としてのプリンタ1を有する印刷システムについて記載されているが、その中には、液体吐出方法、液体吐出システム、吐出パルスPSの設定方法等の開示が含まれている。また、この実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0065】
<他のヘッドHD´について>
前述した実施形態のヘッドHDでは、ピエゾ素子として、吐出パルスPSで与えられる電位が高いほど、圧力室424の容積を大きくするための動作をするタイプのものを用いていた。ヘッドに関し、他のタイプのものを用いてもよい。図18に示した他のヘッドHD´は、ピエゾ素子として、吐出パルスPSで与えられる電位が高いほど、圧力室73の容積を小さくするための動作をするタイプのものを用いている。
【0066】
簡単に説明すると、他のヘッドHD´は、共通インク室71と、インク供給口72と、圧力室73と、ノズル74とを有する。そして、共通インク室71から圧力室73を通ってノズル74に至る一連のインク流路をノズル74に対応する複数有している。他のヘッドHD´でも圧力室73は、その容積がピエゾ素子75の動作によって変化される。すなわち、圧力室73の一部は振動板423によって区画され、圧力室73とは反対側となる振動板76の表面にはピエゾ素子75が設けられている。
【0067】
ピエゾ素子75はそれぞれの圧力室73に対応して複数設けられている。各ピエゾ素子75は、例えば圧電体を上電極と下電極とで挟んだ構成であり(何れも図示せず。)、これらの電極間に電位差を与えることにより変形する。この例では、上電極の電位を上昇させると圧電体が充電され、これに伴ってピエゾ素子75は圧力室73側に凸となるように撓む。これにより圧力室73が収縮される。なお、他のヘッドHD´では、振動板76における圧力室73を区画している部分が区画部に相当する。
【0068】
<吐出動作をする素子について>
このプリンタ1では、インクを吐出させるための動作をする素子として、ピエゾ素子433,75を用いている。ここで、吐出動作をする素子は、前述したピエゾ素子433,75に限定されるものではない。例えば、発熱素子であってもよいし、磁歪素子であってもよい。そして、この素子として、前述の実施形態のようにピエゾ素子433,75を用いた場合には、圧力室424,73の容積を吐出パルスPSの電位に基づいて精度良く制御できる。
【0069】
<ノズル427やインク供給路425等の形状について>
前述の実施形態において、ノズル427は、円柱状の空間を区画する貫通孔によって構成されていた。言い換えれば、円形の開口形状を有し、ノズルプレート422の厚さ方向を貫通する孔によって構成されていた。また、インク供給路425は、矩形の開口形状を有し、圧力室424と共通インク室426とを連通する孔によって構成されていた。言い換えれば、角柱状の空間を区画する連通孔によって構成されていた。
【0070】
ここで、ノズル427やインク供給路425は種々の形状を採り得る。例えば、ノズル427に関し、図19Aに示すように、略漏斗状の貫通孔によって構成してもよい。例示したノズル427は、テーパー部分427aとストレート部分427bとを有する。テーパー部分427aは、円錐台状の空間を区画する部分であり、圧力室424から離れる程に開口面積が小さくなっている。すなわち、先細り形状に設けられている。ストレート部分427bは、テーパー部分427aにおける小径側の端部に連続して設けられている。このストレート部分427bは、円柱状の空間を区画する部分であり、ノズル方向と直交する面で、断面積がほぼ一定の部分である。
【0071】
このノズル427では、例えば図19Bに示すように、テーパー部分427aを、直径が段階的に小さくなっている複数の円盤状空間を区画する部分と定義することで、解析をすることができる。また、図19Aに示すように、漏斗状のノズル427と等価な、ノズル方向と直交する面の断面積が一定のノズル427を定義することでも、解析をすることができる。
【0072】
また、インク供給路425に関し、例えば図19Cに示すように、縦方向に長い長円状(半径の等しい二つの半円を共通外接線でつないだ形状)の開口を有する流路で構成してもよい。この場合、インク供給路425の開口面積Ssupは、斜線で示す長円状部分の面積が該当する。そして、この長円状開口を有するインク供給路425についても、これと等価な矩形状開口を有する流路を定義して、解析してもよい。この場合、インク供給路425の高さH425は、実際のインク供給路425の最大高さよりも多少低くなる。なお、インク供給路425の開口が楕円状であっても同様である。
【0073】
さらに、圧力室424についても同様である。例えば図19Cに示すように、圧力室424における長手方向と直交する面が、横長の六角形状をしていた場合には、これと等価な矩形状断面を有する流路を定義して、解析してもよい。すなわち、高さがH424であり、幅が圧力室424の最大幅よりも多少小さいW424である矩形状断面の流路を定義して、解析してもよい。
【0074】
<他の応用例について>
また、前述の実施形態では、液体吐出装置としてプリンタ1が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体吐出装置に、本実施形態と同様の技術を適用しても良い。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】印刷システムの構成を説明するブロック図である。
【図2】図2Aは、ヘッドの断面図である。図2Bは、ヘッドの構造を模式的に説明する図である。
【図3】駆動信号生成回路等の構成を説明するブロック図である。
【図4】駆動信号の一例を説明するための図である。
【図5】図5Aは、大ドット用の吐出パルスの一例を説明する図である。図5Bは、小ドット用の吐出パルスの一例を説明する図である。
【図6】図6Aは、高粘度インクが安定して吐出されている様子を示す図である。図6Bは、高粘度インクが不安定な状態で吐出されている様子を示す図である。
【図7】評価対象の各ヘッドを説明する図である。
【図8】評価対象の各ヘッドにおける各部の寸法を示す図である。
【図9】実施例1のヘッドによる大ドット用のインク滴の吐出を説明する図である。
【図10】実施例1のヘッドによる小ドット用のインク滴の吐出を説明する図である。
【図11】実施例2のヘッドによる大ドット用のインク滴の吐出を説明する図である。
【図12】実施例2のヘッドによる小ドット用のインク滴の吐出を説明する図である。
【図13】実施例3のヘッドによる大ドット用のインク滴の吐出を説明する図である。
【図14】NG1のヘッドによるインク滴の吐出を説明する図である。
【図15】NG2のヘッドによるインク滴の吐出を説明する図である。
【図16】NG3のヘッドによるインク滴の吐出を説明する図である。
【図17】NG4のヘッドによるインク滴の吐出を説明する図である。
【図18】他のヘッドを説明する断面図である。
【図19】図19Aは、略漏斗状のノズルを説明する図である。図19Bは、略漏斗状のノズルの解析用のモデルを説明する図である。図19Cは、インク供給路と圧力室の変形例を説明する図である。
【符号の説明】
【0076】
1 プリンタ,10 用紙搬送機構,20 キャリッジ移動機構,
30 駆動信号生成回路,31 DAC回路,32 電圧増幅回路,
33 電流増幅回路,40 ヘッドユニット,41 ケース,
411 収容空部,42 流路ユニット,421 流路形成基板,
422 ノズルプレート,423 振動板,423a ダイヤフラム部,
424 圧力室,425 インク供給路,426 共通インク室,
427 ノズル,428 支持板,428a 島部,429 弾性体膜,
429a 島部周辺の弾性体膜,43 ピエゾ素子ユニット,
431 ピエゾ素子群,432 固定板,433 ピエゾ素子,
434 共通電極,435 駆動電極,436 圧電体,
44 スイッチ,50 検出器群,60 プリンタ側コントローラ,
61 インタフェース部,62 CPU,63 メモリ,
71 共通インク室,72 インク供給口,73 圧力室,
74 ノズル,75 ピエゾ素子,76 振動板,
CP コンピュータ,HD ヘッド,HD´ 他のヘッド,
HC ヘッド制御部,COM 駆動信号,PS 吐出パルス,
P1 第1減圧部分,P2 第1電位保持部分,P3 加圧部分,
P4 第2電位保持部分,P5 第2減圧部分,Vh 駆動電圧,
VH 最高電位,VB 中間電位,VL 最低電位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出方法であって、
液体吐出ヘッドから液体を吐出させることを有し、
前記液体の粘度は、
8ミリパスカル秒以上であって20ミリパスカル秒以下の範囲内であり、
前記液体吐出ヘッドは、
前記液体が吐出されるノズルと、
前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、
前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する供給部と、を有し、
前記液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とを前記ノズルから吐出させるものであり、
前記ノズルの直径は、
15μm以上であって40μm以下の範囲内であり、
前記ノズルの流路長さは、
前記供給部の流路長さの0.2倍未満である、液体吐出方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出方法であって、
前記ノズルの流路長さは、
30μm以上である、液体吐出方法。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出方法であって、
前記供給部の流路長さは、
153μm以上であって420μm以下の範囲内である、液体吐出方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の液体吐出方法であって、
前記供給部の流路抵抗は、
前記ノズルの流路抵抗の0.2倍よりも大きい、液体吐出方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の液体吐出方法であって、
前記ノズルのイナータンスは、
前記供給部のイナータンスよりも小さい、液体吐出方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の液体吐出方法であって、
前記圧力室は、
前記圧力室の一部を区画し、変形によって前記液体に圧力変化を与える区画部を有する、液体吐出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の液体吐出方法であって、
前記液体吐出ヘッドは、
印加された吐出パルスにおける電位の変化パターンに応じた度合いで、前記区画部を変形させる素子を有する、液体吐出方法。
【請求項8】
液体が吐出されるノズルと、
前記液体を前記ノズルから吐出させるために前記液体に圧力変化を与える圧力室と、
前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する供給部と、を有し、
前記液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とを前記ノズルから吐出させる液体吐出ヘッドであって、
前記ノズルの直径は、
15μm以上であって40μm以下の範囲内であり、
前記ノズルの流路長さは、
前記供給部の流路長さの0.2倍未満である、液体吐出ヘッド。
【請求項9】
吐出パルスを生成する吐出パルス生成部と、
ノズルから液体を吐出させる液体吐出ヘッドであって、
前記液体を前記ノズルから吐出させるために、区画部を変形させることで前記液体に圧力変化を与える圧力室であって、前記液体に対する圧力変化の与え方を異ならせることで、所定量の液体と前記所定量よりも少ない量の液体とを前記ノズルから吐出させる圧力室と、
印加された前記吐出パルスにおける電位の変化パターンに応じた度合いで、前記区画部を変形させる素子と、
前記圧力室に連通し、前記圧力室に前記液体を供給する供給部と、を有し、
前記ノズルの直径は、15μm以上であって40μm以下の範囲内であり、
前記ノズルの流路長さは、前記供給部の流路長さの0.2倍未満である、液体吐出ヘッドと、
を有する、液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−255514(P2009−255514A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305335(P2008−305335)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】