説明

液体吐出装置、及び、液体収容容器の撹拌の制御方法

【課題】液体吐出装置において、新たに装着された液体収容容器について、より最適な撹拌を行って濃度ムラを低減できる技術を提供することを目的とする。
【解決手段】液体吐出装置は、液体収容容器を着脱自在に装着できる容器装着部と、容器装着部を往復移動させる駆動機構と、液体吐出装置を制御する制御部とを備える。制御部は、撹拌処理として、新たに液体収容容器が容器装着部に装着されたことを検出すると、装着された液体収容容器の記憶装置から情報を取得し、少なくとも、取得した情報に含まれる製造時刻データが示す製造時刻と現在時刻とに基づいて、装着された液体収容容器内の液体の撹拌の程度を決定し、決定に従って駆動機構を用いて装着された液体収容容器を往復移動させて撹拌動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体収容容器を装着可能な液体吐出装置、及び、液体収容容器の撹拌の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置であるプリンターは、液体収容容器であるインクカートリッジ(単に「カートリッジ」とも呼ぶ。)を着脱自在に装着し、カートリッジに収容されているインクを印刷媒体に吐出し印刷を行う。ここで、カートリッジに収容されているインクが顔料粒子を含む顔料系インクの場合、顔料粒子が沈降してカートリッジ内でインク濃度の分布に偏り(濃度ムラ)が生じる場合がある。この濃度ムラを低減するために、従来、キャリッジを往復移動させること等によりインクの撹拌が行われている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
例えば、特許文献1に開示のプリンターでは、前回の撹拌動作からの経過時間に応じて撹拌モードを決定し、キャリッジを往復移動させてインクの撹拌を行っている。また、例えば、特許文献2に開示のプリンターでは、インクの色や顔料粒子の比重等のインクの種類によって撹拌モードを決定し、キャリッジを往復移動させてインクの撹拌を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−331307号公報
【特許文献2】特開2007−331308号公報
【特許文献3】特開2007−331342号公報
【特許文献4】特開2009−73091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、インク中の沈降成分である顔料粒子は、時間が経過するに従い沈降する。一般に、カートリッジが製造されてからキャリッジに装着されるまでの時間は、長時間に及ぶ場合がある。従来の技術では、キャリッジにカートリッジを装着した直後に行われる撹拌は、カートリッジが製造されてからキャリッジに装着されるまでの時間を考慮していない。このため、インクの撹拌が効率良く行われずインクの濃度ムラが低減できない可能性があった。また、インクの濃度ムラが低減されるまでに必要な時間以上の撹拌がなされ、撹拌に要する時間が不必要に長くなる可能性があった。
【0006】
上記のような問題は、インクカートリッジを着脱自在に装着可能なプリンターに限らず、目的物に吐出するための液体を収容する液体収容容器を着脱自在に装着可能な液体吐出装置に共通する問題であった。
【0007】
従って本発明は、新たに装着された液体収容容器について、より最適な撹拌を行って濃度ムラを低減できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]ノズルを介して液体を目的物へ吐出する液体吐出装置であって、
前記液体を収容する液体収容容器であって液体収容容器に関する情報が記憶された記憶装置を有する液体収容容器を、着脱自在に装着できる容器装着部と、
前記容器装着部を往復移動させる駆動機構と、
前記液体吐出装置を制御する制御部であって、前記容器装着部に新たに装着された前記液体収容容器内の液体の撹拌処理の制御を行う制御部と、を備え、
前記情報は、前記装着された液体収容容器の製造時刻を示す製造時刻データを含み、
前記制御部は、前記撹拌処理として、
新たに前記液体収容容器が前記容器装着部に装着されたことを検出すると、前記装着された液体収容容器の前記記憶装置から前記情報を取得し、
少なくとも、取得した前記情報に含まれる前記製造時刻データが示す前記製造時刻と、現在時刻とに基づいて、前記装着された液体収容容器内の前記液体の撹拌の程度を決定し、
前記装着された液体収容容器を、前記駆動機構を用いて前記決定に従って往復移動させて撹拌動作を制御する、液体吐出装置。
【0010】
適用例1に記載の液体吐出装置によれば、新たに液体収容容器が装着されると、取得した製造時刻データが示す製造時刻と、現在時刻とに基づき撹拌の程度を決定し撹拌を実行する。よって、液体収容容器が製造されてから液体吐出装置に装着されるまでの時間を考慮して撹拌の程度を決定できることから、沈降成分の沈降の程度に応じた最適な撹拌動作を実行して液体の濃度ムラを低減できる。
【0011】
[適用例2]適用例1に記載の液体吐出装置であって、
前記撹拌の程度は、異なる複数のモードによって段階的に設定されている、液体吐出装置。
適用例2に記載の液体吐出装置によれば、段階的に設定された複数のモードを有することから、撹拌の程度を容易に決定できる。
【0012】
[適用例3]適用例1又は適用例2に記載の液体吐出装置であって、
前記撹拌の程度は、前記現在時刻から前記製造時刻を引くことで算出される前記装着された液体収容容器の製造経過時間が長くなるにつれ単調に大きくなるように設定されている、液体吐出装置。
一般に、液体収容容器が製造されてから容器装着部に装着されるまでに、液体収容容器が積極的に撹拌される可能性は低い。よって、製造経過時間が長くなるにつれ、液体の濃度ムラは大きくなる。適用例3に記載の液体吐出装置によれば、撹拌の程度は製造経過時間が長くなるにつれ単調に大きくなるように設定されている。よって、液体収容容器内の液体の濃度ムラが低減できるより最適な撹拌を行うことができる。ここで、「単調に大きくなる」とは、製造経過時間が長くなるに従い、撹拌の程度が小さくなる部分を含まなければ良く、撹拌の程度が同じ部分を含んでもいても良い。
【0013】
[適用例4]適用例2又は適用例2に従属する適用例3に記載の液体吐出装置であって、
前記制御部は、前記現在時刻を取得できない場合は、前記複数のモードのうち前記撹拌の程度が最大となるモードで前記撹拌動作を実行する、液体吐出装置。
適用例4に記載の液体吐出装置によれば、現在時刻を取得できない場合は撹拌の程度が最大となるモードで撹拌動作を実行することから、新たな液体収容容器の濃度ムラをより確実に低減できる。
【0014】
[適用例5]適用例1乃至適用例4のいずれか一つに記載の液体吐出装置であって、
前記情報は、さらに、前記装着された液体収容容器が収容する液体の種類を示す液体種類データを含み、
前記制御部は、
前記液体種類データに基づき、前記装着された液体収容容器が収容する液体に沈降成分が含まれていないと判断した場合は、前記撹拌動作を実行せずに前記撹拌処理を終了し、
前記液体種類データに基づき、前記装着された液体収容容器が収容する液体に沈降成分が含まれていると判断した場合は、決定した前記撹拌の程度による前記撹拌動作を実行して前記撹拌処理を終了する、液体吐出装置。
適用例5に記載の液体吐出装置によれば、液体収容容器が収容する液体に沈降成分が含まれない場合は撹拌動作を実行しないことから、撹拌処理の処理時間を短縮できる。
【0015】
[適用例6]適用例1乃至適用例5のいずれか一つに記載の液体吐出装置であって、
前記情報は、さらに、前記装着された液体収容容器が収容する液体の色を示す色データを含み、
前記制御部は、
前記撹拌の程度の決定を、さらに前記色データが示す前記液体の色に基づいて行う、液体吐出装置。
適用例6に記載の液体吐出装置によれば、撹拌の程度を決定するに際し、液体の色も考慮していることから、濃度ムラを低減するためのより最適な撹拌動作を実行できる。
【0016】
[適用例7]適用例1乃至適用例6いずれか一つに記載の液体吐出装置であって、
前記撹拌の程度は、前記往復移動における前記容器装着部の移動速度、移動加速度、往復移動回数、移動距離、及び、前記撹拌動作の動作時間の内の少なくとも1つを用いて設定される、液体吐出装置。
適用例7に記載の液体吐出装置によれば、液体の撹拌に影響を与える種々の条件に基づき撹拌の程度を設定できる。
【0017】
[適用例8]適用例1乃至適用例7のいずれか一つに記載の液体吐出装置であって、
前記情報は、さらに、前記装着された液体収容容器について液体を撹拌するための撹拌板の有無を示す仕様データを含み、
前記制御部は、取得した前記仕様データに基づき前記新たな液体収容容器が前記撹拌板を備えると判断した場合は、前記容器装着部の往復移動回数と移動加速度の少なくともいずれか一方を異ならせることで設定された前記撹拌の程度に基づき前記撹拌動作を実行する、液体吐出装置。
適用例8に記載の液体吐出装置によれば、撹拌板を備えた液体収容容器については、往復移動回数と移動加速度の少なくともいずれか一方を異ならせることで設定された撹拌の程度に基づき撹拌動作を実行している。よって、撹拌動作によって撹拌板により大きな慣性力を与えることができるため、撹拌板を揺動させることによる液体の撹拌を効率良く行うことができる。
【0018】
[適用例9]適用例1乃至適用例8のいずれか一つに記載の液体吐出装置であって、
さらに、前記ノズルからインクを吸引する吸引機構を備え、
前記制御部は、前記撹拌処理を行った後に、
前記ノズルのうち前記装着された液体収容容器内の液体を吐出する交換ノズルから前記吸引機構によって前記液体を吸引する第1の処理を実行する、液体吐出装置。
液体を吐出するノズルには、種々の不具合が生じる。例えば、ノズル内に液体が充填されないままに液体の吐出動作が実行される場合や、ノズル内に埃や固着物や気泡等の不純物が存在した状態で吐出動作が実行される場合がある。適用例9に記載の液体吐出装置によれば、第1の処理によって上述の種々の不具合が発生する可能性を低減できる。また、第1の処理は、撹拌処理の後に実行されることから、濃度ムラを低減した液体収容容器からノズルに液体が供給されるため、装着された液体収容容器内の液体全体の濃度変化を抑制できる。
【0019】
[適用例10]適用例9に記載の液体吐出装置であって、
さらに、前記ノズルから前記液体を吐出させる吐出機構を備え、
前記制御部は、前記第1の処理を実行した後に、
前記吐出機構によって前記交換ノズル内の前記液体を前記交換ノズルから前記目的物以外の外部へ吐出させる第2の処理を実行する、液体吐出装置。
適用例10に記載の液体吐出装置によれば、第1の処理の後に第2の処理を行うことで、さらに上述の不具合の発生をより低減できる。また、第2の処理についても撹拌処理の後に実行されることから、濃度ムラを低減した液体収容容器からノズルに液体が供給されるため、装着された液体収容容器内の液体全体の濃度変化を抑制できる。
【0020】
[適用例11]適用例1乃至適用例10のいずれか一つに記載の液体吐出装置であって、
前記制御部は、
前記容器装着部に装着されている前記液体収容容器の前記記憶装置に所定のタイミングで現在時刻を書込時刻データとして書き込み、
前記容器装着部に装着された前記液体収容容器が取り外され、取り外された前記液体収容容器が前記容器装着部に再度装着されたことを検出すると、前記再度装着された液体収容容器の前記記憶装置に書き込まれた前記書込時刻データを取得し、
少なくとも、取得した前記書込時刻データが示す書込時刻と、現在時刻とに基づいて、前記再度装着された前記液体収容容器内の前記液体の撹拌の程度を決定し、決定した撹拌の程度に従って前記撹拌動作を制御する、液体吐出装置。
適用例11に記載の液体吐出装置によれば、再度装着された液体収容容器については、書込時刻と、現在時刻に基づいて撹拌の程度を決定し撹拌を行う。よって、液体吐出装置から取り外されていた時間を考慮して撹拌の程度を決定でき、より効率良い撹拌動作を実行できる。
【0021】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、上述した液体吐出装置の他に、液体吐出装置に装着された液体収容容器の撹拌方法、該撹拌方法を行うためのコンピュータープログラム、該プログラムを記録した記録媒体等の態様で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】印刷システム1の概略構成を示す説明図である。
【図2】撹拌条件テーブル54の詳細を説明するための図である。
【図3】カートリッジ80を説明するための図である。
【図4】クリーニング処理を説明するための第1の図である。
【図5】クリーニング処理を説明するための第2の図である。
【図6】フラッシング処理を説明するための図である。
【図7】装着処理を説明するためのフローである。
【図8】撹拌処理の詳細を説明するためのフローである。
【図9】第2実施例の撹拌処理を説明するための図である。
【図10】第3実施例の撹拌条件テーブルを説明するための図である。
【図11】第3実施例の撹拌処理を説明するための図である。
【図12】第4実施例の撹拌処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A〜D.各種実施例:
E.変形例:
【0024】
A.第1実施例:
A−1.システム構成:
図1は、印刷システム1の概略構成を示す説明図である。印刷システム1は、本実施例の第1実施例としてのプリンター10と、コンピューター100と、を備えている。液体吐出装置としてのプリンター10は、電子機器としてのコンピューター100にコネクター92を介して接続されている。コンピューター100には、現在時刻を示すための時刻モジュール102が内蔵されている。
【0025】
プリンター10は、制御部40と、容器装着部としてのキャリッジ70と、駆動機構13と、紙送り機構21と、ワイパー部60と、吸引機構30とを備える。キャリッジ70には、液体収容容器としてのインクカートリッジ80(単に「カートリッジ80」とも呼ぶ。)が着脱自在に装着される。また、キャリッジ70のうち印刷媒体Pと対向する側には、キャリッジ70に装着されたカートリッジ80内のインクを外部に向けて吐出するためのヘッド(図示せず)が取り付けられている。本実施例のキャリッジ70にはシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のインクがそれぞれ収容された4種類のカートリッジ80C,80M,80Y,80Kが装着される。ここで、各色インクが収容されているカートリッジ80C,80M,80Y,80Kを区別せずに説明を行う場合は、単にカートリッジ80と呼ぶ。なお、本実施例では、カートリッジ80内には沈降成分である顔料粒子を含む顔料系インクが収容されている。
【0026】
駆動機構13は、キャリッジ70を主走査方向にさせるための機構である。駆動機構13は、キャリッジモーター12と、プーリー18と、駆動ベルト16と、摺動軸14とを備えている。摺動軸14は、駆動ベルト16に固定されたキャリッジ70を摺動可能に保持している。キャリッジモーター12の回転は、駆動ベルト16を介してキャリッジ70に伝達される。これにより、キャリッジ70は、摺動軸14に沿って主走査方向に往復移動する。紙送り機構21は、紙送りローラー26と、紙送りモーター22とを備える。紙送りローラーが回転することにより、印刷媒体Pが副走査方向に搬送される。
【0027】
ワイパー部60はキャリッジ70に取り付けられたヘッドのうち、印刷媒体Pと対向するヘッド面を拭き取るために用いられる。吸引機構30は、ヘッドのノズルからインクを吸引するために用いられる。なお、ワイパー部60と吸引機構30との詳細は後述する。
【0028】
制御部40は、CPU41と、ROM50と、RAM52と、EEPROMに記録された撹拌条件テーブル54とを備える。CPU41は、ROM50に記録された各種制御プログラムをRAM52にロードして実行する。CPU41は、RAM52からロードしてプログラムを実行する機能部として、クリーニングモジュール42と、フラッシングモジュール44と、撹拌処理モジュール46、とを備える。
【0029】
クリーニングモジュール42は、吸引機構30とワイパー部60を制御して第1の処理としてのクリーニング処理を実行する。クリーニング処理は、ヘッド面の拭き取りや、ヘッドのノズルからのインクの吸引を行う。クリーニング処理は、いわゆる空打ちや、ヘッド72の汚れが付着して吐出不良等のヘッド72の不具合の発生を低減するために実行される。なお、クリーニングモジュール42が実行するクリーニング処理の詳細は後述する。
【0030】
フラッシングモジュール44は、ヘッドが備える吐出機構(後述)を制御して、ヘッドからインクを吐出させる第2の処理としてのフラッシング処理を実行する。フラッシング処理は、ノズル内に侵入した本来吐出すべき色と異なるインクを吐出したり、ヘッド内の侵入した気泡を除去したりするために用いられる。すなわち、フラッシング処理は、ヘッドの不具合の発生を低減するために実行される。フラッシングモジュール44が実行するフラッシング処理の詳細は後述する。
【0031】
撹拌処理モジュール46は、キャリッジ20に新たにカートリッジ80が装着されたか否かを検出する。撹拌処理モジュール46は、新たにカートリッジ80が装着されたことを検出すると、所定の撹拌モードに基づいてキャリッジ70を往復移動させて新たに装着されたカートリッジ80のインク撹拌を実行する。撹拌条件は、撹拌条件テーブル54に記憶されている。
【0032】
プリンター10は、さらに、ユーザーがプリンター10の各種設定を行ったり、プリンター10のステータスを確認したりするための操作部90を備えている。
【0033】
図2は、撹拌条件テーブル54の詳細を説明するための図である。図2(A)は第1の条件テーブルTaを示す図である。図2(B)は第2の条件テーブルTbを示す図である。第1と第2の条件テーブルTa,Tbによって、撹拌の程度を決定する撹拌モードが定められる。
【0034】
図2(A)に示すように、撹拌モードは製造経過時間とインク色に基づいて定められている。詳細には、製造経過時間を経過時間毎に複数のグループに分け、各グループに複数の撹拌モードのうちの1つが割り当てられている。すなわち、本実施例では、カートリッジ80のインクの撹拌の程度が段階的に設定されている。ここで、製造経過時間とは、コンピューター100から取得した現在時刻から、キャリッジ70に新たに搭載されたカートリッジ80から取得した製造時刻を引くことで算出された日数を指す。なお、製造経過時間が「不定」とは、現在時刻や製造時刻が取得できないために製造経過時間が算出できなかった場合を指す。
【0035】
図2(B)に示すように、第1〜第3の撹拌モードは、キャリッジ(CR)70の往復回数を用いて設定されている。第1の撹拌モードではキャリッジ70の往復回数が30回に設定され、第2の撹拌モードではキャリッジ70の往復回数が60回に設定され、第3の撹拌モードではキャリッジ70の往復回数が270回に設定されている。ここで、キャリッジ70の往復回数が増加するに従い、撹拌の効果が高くなる。すなわち、液体収容容器80のインクの濃度ムラがより低減される。本実施例では、第1,2,3の撹拌モードの順に撹拌の程度が大きくなり、撹拌の効果が高くなる。
【0036】
図2(A),(B)から理解できるように、本実施例の撹拌モードは、製造経過時間が長くなるにつれ単調に撹拌の程度が大きくなるように設定されている。また、シアンと、シアン以外(本実施例では、マゼンダ、イエロー、ブラック)との2つの色グループに分けて、色グループ毎に撹拌モードが設定されている。例えば、製造経過時間が0〜365ではシアンインクを収容するカートリッジ80Cの方が、シアン以外のインクを収容するカートリッジ80M,Y,Kよりも撹拌の程度が大きい。これは、本実施例で用いるカートリッジ80では、シアンインクに含まれる顔料粒子の質量が他のインクに含まれる顔料粒子の質量よりも大きいため、カートリッジ80を同日数静置させた場合に、濃度ムラ(濃度分布)がシアンインクのカートリッジ80Cは他のインクカートリッジ80M,Y,Kよりも顕著に表れるからである。
【0037】
さらに、図2(A)に示すように、製造経過時間が不定の場合は、撹拌条件テーブル54に記憶された撹拌モードのうち、撹拌の程度が最大となる第3の撹拌モードが撹拌モードとして設定されている。
【0038】
図3は、カートリッジ80を説明するための図である。図3(A)はカートリッジ80の斜視図である。図3(B)は、カートリッジ80の内部を説明するための図である。図3(C)は、回路基板84について説明するための図である。なお、図3(A),(B)には互いに直交するXYZ軸を付している。水平な面に設置されたプリンター10のキャリッジ70にカートリッジ80が装着された場合、Z軸負方向が鉛直下方向となり、Y軸方向が主走査方向となる。
【0039】
図3(A)に示すように、カートリッジ80は略直方体形状であり、内部にインクを収容する液体収容室82を備える。また、カートリッジ80は、液体供給口87と、回路基板84とを備える。液体供給口87から液体収容室82のインクがキャリッジに取り付けられたヘッドに供給される。また、図3(B)に示すように、液体収容室82内には、平板状の撹拌板81が配置されている。詳細には、水平な面に設置されたプリンター10のキャリッジ70にカートリッジ80が装着された状態において、撹拌板81の平面が主走査方向と交差するように撹拌板81は配置されている。これにより、カートリッジ80がキャリッジ70に搭載されて主走査方向に往復移動すると撹拌板81が揺動する。揺動した撹拌板81によって液体収容室82内のインクの撹拌が促進される。
【0040】
図3(C)に示すように、回路基板84は、端子群85と、記憶装置88とを備える。端子群85は、キャリッジ70に設けられた端子群と接触し、制御部40との間で各種信号のやり取りが行われる。例えば、カートリッジ80の端子群85と、キャリッジ70の端子群が接触することで、制御部40はキャリッジ70にカートリッジ80が装着されたことを検出したり、カートリッジ80に関する情報を記憶装置88から取得したりする。
【0041】
また、記憶装置88には自身が装着されたカートリッジ80に関する情報が記憶されている。例えば、カートリッジ80の製造時刻を示す製造時刻データ、インクの種類を示す液体種類データ、インクの色を示す色データ、製造番号を示す製造番号データ、カートリッジ80の仕様を示す仕様データ等が記憶されている。液体種類データは、少なくとも顔料粒子が含まれているか否かを判別するためのデータを含む。
【0042】
次に、図4及び図5を用いて、クリーニングモジュール42が実行するクリーニング処理について説明する。図4は、クリーニング処理を説明するための第1の図である。図4(A)は、クリーニング処理の開始前の図である。図4(B)は、クリーニング処理の開始後の図である。図5は、クリーニング処理を説明するための第2の図である。図5(A)は、図4(B)の後の状態を示す図である。図5(B)は、ワイパー部60を用いた処理について説明するための図である。なお、図4及び図5において、プリンター10が水平な面上に配置された場合の鉛直下方向は紙面下側となる。
【0043】
図4(A)に示すように、クリーニング処理は吸引機構30とワイパー部60とを用いて実行される。なお、ヘッド72は、ノズル78に連通し室内の圧力を変化させてノズル78からインクを外部へ吐出させる圧力室76を備える。圧力室76は、カートリッジ80の液体供給口87と連通している。また、圧力室76のうち流路面積が他の部分よりも小さくなった先端部分にはノズル78が形成されている。
【0044】
吸引機構30は2つ設けられ、それぞれ、筐体31a,31bと、液体排出管36a,36bと、ポンプ34a,34bと、駆動機構33a,33bと、を備える。第1の吸引機構30aは、シアン(C),マゼンダ(M),イエロー(Y)をそれぞれ収容するカートリッジ80C,80M,80Yに対応して設けられている。また、第2の吸引機構30bは、ブラック(K)を収容するカートリッジ80Kに対応して設けられている。なお、第1と第2の吸引機構30a,30bを区別せずに用いる場合は、単に吸引機構30と呼ぶ。なお、吸引機構30は2つ設けたが、個数は特に限定されず、吸引機構30は1つでも3つ以上でも良い。
【0045】
筐体31a,31bは、一側面が開口した凹状形状の部材である。筐体31a,31bは、少なくともヘッド72のヘッド面74のうち、ノズル78の先端開口が形成された領域と対向する位置に配置されている。筐体31a,31bは、クリーニング処理の際にノズル78から流出したインクを受ける。筐体31a,31bの底面にはそれぞれ貫通孔38a,38bが設けられている。液体排出管36a,36bはそれぞれ貫通孔38a,38bに接続されている。ポンプ34a,34bは、それぞれ液体排出管36a,36bに設けられ、筐体31a,31bに溜まったインクを吸引する。これにより、圧力室76やノズル78を含むヘッド72内の液体流路にインクが確実に充填される。吸引されノズル78を介して吐出されたインクは、液体排出管36a,36bを介して排インクタンクに排出される。駆動機構33a,33bは、筐体31a、31bを上下方向(鉛直方向)に移動させるために用いられる。
【0046】
ワイパー部60は、ワイパーブレード61と、駆動機構65とを備える。ワイパーブレード61は、ゴム又は軟質樹脂によって構成された部材であり、ヘッド面74の汚れを拭き取るために用いられる。駆動機構65は、ワイパーブレード61を上下方向(鉛直方向)に移動させるために用いられる。
【0047】
図4(B)に示すように、クリーニング処理が開始されると、クリーニングモジュール42(図1)は、駆動機構33a,33bを制御して筐体31a,31bを上昇させて、筐体31a,31bの端面をヘッド面74に接触させる。筐体31a,31bの端面をヘッド面74に接触させることで、筐体31b,31bの内側の空間が密封状態となる。次に、ポンプ34a,34bを用いて内側の空間を負圧にすることで、ノズル78からインクを所定時間吸引する。
【0048】
図5(A)に示すように、インクの吸引処理が終わると、クリーニングモジュール42は、筐体31a,31bを元の位置まで下降させる。次に、図5(B)に示すように、クリーニングモジュール42は、駆動機構65を用いてワイパーブレード61を上昇させ、次いでキャリッジ70を往復移動させることでワイパーブレード61によってヘッド面74の汚れを拭き取る。拭き取り処理が終わると、キャリッジ70は、図4(A)に示す元の位置(メンテナンスポジション)に移動される。なお、クリーニング処理は、少なくとも新たに装着されたカートリッジ80内のインクを吐出するノズル78(「交換ノズル78」ともいう。)に対して行えば良い。
【0049】
次に、フラッシングモジュールが実行するフラッシング処理について説明する。図6は、フラッシング処理を説明するための図である。フラッシング処理は、キャリッジ70が筐体31a、31bの真上に位置するメンテナンスポジションで実行される。詳細には、キャリッジ70をメンテナンスポジションに位置させ、圧力室76の壁面部のうちノズル78と対向する位置に設けられた吐出機構としての圧電振動素子79を振動させて圧力室76に圧力を付与してインクをノズル78から外部へ吐出させる。圧電振動素子79は、圧電体と内部電極とを交互に積層して構成された積層型の圧電振動子と、圧電振動子の振動が伝達され圧力室76と接する振動板とを有する。振動板が振動することで圧力室76の容積が変動して圧力室76に圧力が加えられる。これにより、ノズル78からインクが筐体31a,31bに吐出される。なお、フラッシング処理は、少なくとも新たに装着されたカートリッジ80内のインクを吐出するノズル78(「交換ノズル78」ともいう。)に対して行えば良い。
【0050】
図7は、装着処理を説明するためのフローである。装着処理は、新たにカートリッジ80がキャリッジ70に装着されたことを制御部40が検出した際に行われる処理である。この装着処理後にプリンター10は印刷可能な状態となる。ここで、キャリッジ70に新たに装着されるカートリッジ80を「新カートリッジ80」とも呼ぶ。また、「新たに装着される」には、初めてキャリッジ70に装着されることに加え、装着されたカートリッジ80がキャリッジ70から取り外され、再度キャリッジ70に装着されることも含む。
【0051】
制御部40は、新カートリッジ80がキャリッジ70に装着されたことを検出すると、撹拌処理(ステップS10)、クリーニング処理(ステップS20)、フラッシング処理(ステップS30)の順に処理を実行する。
【0052】
図8は、撹拌処理の詳細を説明するためのフローである。撹拌処理は、制御部40の撹拌処理モジュール46(図1)によって実行される。まず、撹拌処理モジュール46は、外部の電子機器であるコンピューター100から現在時刻を示す現在時刻データが取得可能か否かを判断する(ステップS110)。言い換えれば、コンピューター100とプリンター10とがコネクター92を介して論理的に接続されているか否かを判断する。論理的な接続が形成されておらず、現在時刻データをコンピューター100から取得できないと判断した場合は(ステップS110:NO)、撹拌の程度が最大となる撹拌モード(本実施例では、第3の撹拌モード)で撹拌動作(キャリッジ70の往復動作)を実行する(ステップS180)。これにより、新カートリッジ80内のインクの濃度ムラをより確実に低減させ、新カートリッジ80内のインク濃度を確実に均一にできる。
【0053】
一方、撹拌処理モジュール46が現在時刻データを取得できると判断した場合は(ステップS110:YES)、新カートリッジ80の記憶装置88から製造時刻データを取得すると共に、現在時刻データをコンピューター100から取得する(ステップS120,S130)。次に、取得した現在時刻データが示す現在時刻から製造時刻データが示す製造時刻を引くことで製造経過日数を算出する(ステップS140)。また、新カートリッジ80の記憶装置88から色データを取得する(ステップS150)。そして、製造経過日数と色データが示すインクの色とに基づき撹拌条件テーブル54を参照し撹拌モードを決定し(ステップS160)、決定した撹拌モードで撹拌動作を実行する(S170)。
【0054】
なお、上記の撹拌処理フローにおいて、ステップS120とステップS150は、ステップS160よりも前に行われていれば良く、順序は問わない。また、ステップS120、ステップS130、ステップS150はこの順序に限らず、任意の順序を採用できる。また、一度に複数の新カートリッジ80が装着された場合は、複数の新カートリッジ80について撹拌モードを決定し、決定した撹拌モードのうち最も撹拌の程度が大きい撹拌モードで撹拌動作を実行する。
【0055】
上記のように、第1実施例のプリンター10は、製造時刻データと現在時刻データに基づき製造経過時間を算出し、製造経過時間に基づき撹拌モードを決定している(図8のステップS160)。ここで、インクの濃度ムラは種々の要因により発生する。例えば、要因としては、製造経過時間、インクの色、インクの成分(種類)、顔料粒子の質量が挙げられる。一般に、カートリッジ80が製造されてからキャリッジ70に装着されるまでの製造経過時間は、キャリッジ70にカートリッジ80が装着され、定期的に撹拌動作が行われる撹拌動作間の時間よりも長い。よって、新たに装着されたカートリッジ80のインクの濃度ムラの程度は、製造経過時間に最も影響を受けやすい。よって、製造経過時間に基づき撹拌の程度を決定することで、より最適な撹拌動作によって濃度ムラを低減できる。本実施例では、各撹拌モードをキャリッジ70の往復回数を用いて設定している。キャリッジ70の往復回数が多い程、撹拌動作時間は長くなる。本実施例では、製造経過時間に基づき撹拌の程度を決定することで最適な撹拌モードによる撹拌を実行できることから、撹拌時間を短縮しつつ濃度ムラを低減できる。
【0056】
また上記実施例では、撹拌の程度が複数の撹拌モードによって設定され、製造経過時間に応じて撹拌モードが設定されている(図2)。よって、製造経過時間に基づいて撹拌の程度を容易に決定できる。また、製造経過時間が長くなるにつれ、撹拌の程度が単調に大きくなるように撹拌モードが割り当てられている(図2)。よって、新たに装着されたカートリッジ80のインクの濃度ムラを低減できる最適な撹拌モードで撹拌を実行できる。
【0057】
また上記実施例では、製造経過時間に加えインクの色に基づいて撹拌モードを決定している(図8のステップS160)。よって、インクの濃度ムラを低減するためのより最適な撹拌モードで撹拌を実行できる。
【0058】
また上記実施例では、撹拌処理を実行した後に、クリーニング処理やフラッシング処理を実行している。ヘッド72の不具合の発生を低減するために行われるクリーニング処理やフラッシング処理は、カートリッジ80の液体供給口87と連通するノズル78からインクを外部へ吐出する。よって、撹拌処理を行いカートリッジ80内のインク濃度の分布が均一になった後に、クリーニング処理やフラッシング処理を行うことでカートリッジ80内の濃度変化を抑制できる。
【0059】
B.第2実施例:
図9は、第2実施例の撹拌処理を説明するための図である。第1実施例の撹拌処理と異なる点は、カートリッジ80の記憶装置88から取得する情報と、沈降成分の有無によって撹拌処理の内容を分けている点である。その他の撹拌処理のステップについては、第1実施例の撹拌処理と同様のステップであるため、同様のステップについては同様の符号を付すと共に説明を省略する。また、装着処理の際に実行される、クリーニング処理(図7のステップS20)やフラッシング処理(図7のステップS30)については、第1実施例と同様に撹拌処理の後に実行される。さらに、プリンター10、コンピューター100、カートリッジ80の構成については第1実施例と同様の構成であるため説明を省略する。なお、第2実施例では、カートリッジ80のインクには顔料系インク又は染料系インクのいずれかが用いられている。
【0060】
撹拌処理モジュール46は、図9に示すように、新カートリッジ80がキャリッジ70に装着されたことを検出すると、新カートリッジ80の記憶装置88からインクに関する情報を取得する(ステップS90)。インクに関する情報には、インクの種類を示す液体種類データと、インクの色を示す色データとを含む。
【0061】
ステップS90の後に、撹拌処理モジュール46は、取得した液体種類データに基づきインク中に沈降成分である顔料粒子が含まれているか否かを判断する(ステップS92)。新カートリッジ80のインクが染料系インクであり、顔料粒子を含まないと判断した場合は(ステップS92:NO)、撹拌動作を実行することなく撹拌処理を終了する。一方、新カートリッジ80のインクが顔料系インクであり、顔料粒子を含むと判断した場合は(ステップS92:YES)、第1実施例と同様にステップS110以降の処理を実行する。なお、第2実施例では第1実施例で実行した色データの取得は(図8のステップS150)、既にステップS90で行われているため、第1実施例のステップS150は省略されている。
【0062】
ここで、染料系インクが収容されたカートリッジ80は、顔料系インクが収容されたカートリッジ80よりもカートリッジ80内のインクの濃度ムラが発生しにくい。よって、染料系インクを収容したカートリッジ80がキャリッジ70に新たに装着された場合には、撹拌動作を実行することなく撹拌処理を終了することで、撹拌処理の処理時間を短縮できる。さらに、第2実施例は、第1実施例と同様に、製造経過時間に基づき撹拌の程度を決定することで、より最適な撹拌動作によって濃度ムラを低減できる。
【0063】
C.第3実施例:
図10は、第3実施例の撹拌条件テーブルを説明するための図である。図10(A)は第1の条件テーブルTaを示す図である。図10(B)は第2の条件テーブルTbを示す図である。第1実施例の撹拌条件テーブルと異なる点は、第2の条件テーブルとして2種類のテーブルTb1,Tb2が撹拌条件テーブル54に記憶されている点と、各テーブルTb1,Tb2の第1〜第3のモードで撹拌の程度に違いを生じさせるための条件が異なる点である。第1の条件テーブルTaは、第1実施例と同様の内容であるため説明を省略する。また、プリンター10、コンピューター100は第1実施例と同様の構成であるため説明を省略する。なお、第3実施例では、カートリッジは、撹拌板81を有するタイプと、撹拌板81を有さないタイプが用いられる。
【0064】
図10(B)に示すように、テーブルTb1は撹拌動作の際にキャリッジ70が移動する加速度を異ならせることで撹拌の程度を可変させている。詳細には、第1,2,3の撹拌モードの順に、キャリッジ70の移動する加速度が大きくなる。これにより、第1,2,3の撹拌モードの順に、インクの撹拌の程度が大きくなりインクがより撹拌される。
【0065】
また、図10(B)に示すように、テーブルTb2は撹拌時間を異ならせることで撹拌の程度を可変させている。詳細には、第1,2,3の撹拌モードの順に、撹拌時間が長くなる。これにより、第1,2,3の撹拌モードの順に、インクの撹拌の程度が大きくなりインクがより撹拌される。
【0066】
図11は、第3実施例の撹拌処理を説明するための図である。第1実施例の撹拌処理と異なる点は、ステップS105が追加された点である。その他のステップについては、第1実施例の撹拌処理と同様のステップであるため、同様のステップについては同様の符号を付すと共に説明を省略する。また、装着処理の際に実行される、クリーニング処理(図7のステップS20)やフラッシング処理(図7のステップS30)については、第1実施例と同様に撹拌処理の後に実行される。
【0067】
撹拌処理モジュール46は、図11に示すように、新カートリッジ80がキャリッジ70に装着されたことを検出すると、新カートリッジ80の記憶装置88からカートリッジの仕様を示す仕様データを取得する。ここで、仕様データには、新カートリッジ80が撹拌板を備えるか否かの情報を含む。そして、取得した仕様データに基づいて、撹拌の程度に影響を与える条件が異なるテーブルTb1,Tb2のいずれを用いて撹拌動作を実行するかを決定する(ステップS105)。詳細には、新カートリッジ80が撹拌板81を備える場合はテーブルTbを用いることを決定し、新カートリッジ80が撹拌板81を備えていない場合はテーブルTb2を用いる。
【0068】
上記のように、第3実施例のプリンターは、キャリッジ70に新たに装着されたカートリッジ80が撹拌板81を有する場合には、撹拌の程度が加速度を用いて設定されたテーブルTb1を用いて撹拌動作を実行している。よって、撹拌の程度が撹拌時間を用いて設定されたテーブルTb2を用いて撹拌動作を実行するよりも、より大きな慣性力を撹拌板81に与えることができる。よって、撹拌板81をより大きく揺動させることによってインクの撹拌を効率良く行うことができる。さらに、第3実施例は、第1実施例と同様に、製造経過時間に基づき撹拌の程度を決定することで、より最適な撹拌動作によって濃度ムラを低減できる。なお、第2実施例の撹拌処理フローに、ステップS105を採用しても良い。具体的には例えば、ステップS92とステップS100の間にステップS105を行っても良い。
【0069】
なお、上記第3実施例において、新カートリッジ70が撹拌板81を有する場合に選択されるテーブルTbは、加速度に代えてキャリッジ70の往復移動回数によって撹拌の程度が設定されていても良いし、加速度と往復移動回数を組み合わせて撹拌の程度が設定されていても良い。キャリッジ70の往復移動回数が多いほど、撹拌板81に大きな慣性力が加わり、撹拌板81を用いた効率良い撹拌を実現できる。
【0070】
D.第4実施例:
図12は、第4実施例の撹拌処理を説明するための図である。第1実施例のプリンター10と異なる点は、制御部40がキャリッジ70に装着されたカートリッジ80の記憶装置88に、所定のタイミングで現在時刻を示すデータを書込時刻データとして書き込んでいる点である。また、撹拌処理について異なる点は、経過日数の算出フローである。その他の撹拌処理のステップについては、第1実施例の撹拌処理と同様のステップであるため、同様のステップについては同様の符号を付すと共に説明を省略する。また、装着処理の際に実行される、クリーニング処理(図7のステップS20)やフラッシング処理(図7のステップS30)については、第1実施例と同様に撹拌処理の後に実行される。また、上記に挙げた以外のプリンター10、コンピューター100、カートリッジ80の構成は、第1実施例と同様の構成である。
【0071】
図12に示すように、撹拌処理モジュール46は、現在時刻を取得可能であると判断した場合は(ステップS110:YES)、新カートリッジ80の記憶装置88から製造時刻データと書込時刻データとを含むカートリッジ時刻データを取得する(ステップS120b)。また、撹拌処理モジュール46は、現在時刻データをコンピューター100から取得する(ステップS130)。そして、取得した現在時刻データとカートリッジ時刻データに基づき経過日数を算出する(ステップS140b)。この、経過日数は、図10の製造後経過日数に対応するものである。ステップS140bの詳細を以下に説明する。すなわち、撹拌処理モジュール46は、カートリッジ時刻データ中に書込時刻データがある場合は、書込時刻データのうちで最も時刻が遅い書込時刻データと、現在時刻データに基づき経過日数を算出する。一方、撹拌処理モジュール46は、カートリッジ時刻データ中に書込時刻データが無い場合は、製造時刻データと現在時刻データに基づき経過日数を算出する。
【0072】
ここで、書込時刻データが時刻データ中に存在する場合とは、新カートリッジ80が過去にキャリッジ70に装着された後に取り外され、再度キャリッジ70に装着されたことを意味する。また、過去に新カートリッジ80がキャリッジ70に装着された際には、撹拌処理が行われている(図8参照)。よって、現在時刻データから書込時刻データを引いて算出した経過日数に基づき撹拌モードを決定することで、より最適な撹拌動作によってインクの濃度ムラを低減できる。
【0073】
E.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、特許請求の範囲の独立項に記載した要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の上記実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0074】
E−1.第1変形例:
上記実施例では、現在時刻データは、外部の電子機器であるコンピューター100から取得したが、現在時刻データの取得はこれに限定されるものではない。例えば、プリンター10が現在時刻を示すためのモジュールを備える場合は、該モジュールから現在時刻データを取得しても良い。
【0075】
E−2.第2変形例:
上記実施例では、「日」を最小単位とする製造経過日数を元に撹拌モードを決定していたが(図2)、これに限定されるものではなく、「時」や「分」等を最小単位とする製造経過時間を元に撹拌モードを決定しても良い。
【0076】
E−3.第3変形例:
上記実施例では、撹拌の程度は、キャリッジ70の往復移動回数や移動加速度、撹拌動作の時間(撹拌時間)を用いて設定されたが、撹拌の程度に影響を与える他の条件によって設定しても良い。例えば、キャリッジ70の1回の往復移動動作における移動距離等を用いて撹拌の程度を設定しても良いし、撹拌の程度に影響を与える複数の条件を組み合わせて、撹拌の程度を設定しても良い。
【0077】
E−4.第4変形例:
上記実施例では、製造経過日数を複数のグループに分けて、各グループに撹拌の程度が異なる複数のモードのうちの1つを割り当てることで撹拌の程度を設定していたが、これに限定されるものではない。例えば、予め定めた製造経過日数の各経過日数と、撹拌条件が1対1で対応したテーブルを用いて撹拌の程度を設定しても良い。こうすることで、製造経過日数に応じたより最適な撹拌条件で撹拌動作を実行することができる。
【0078】
E−5.第5変形例:
上記実施例では、液体吐出装置としてプリンター10を用いて説明を行ったが、液体吐出装置はこれに限定されるものではない。例えば液晶ディスプレー等の色材吐出ノズルを備えた装置、有機ELディスプレー、面発光ディスプレー(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)吐出ノズルを備えた装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物吐出ノズルを備えた装置、精密ピペットとしての試料吐出ノズルを備えた装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等の液体吐出装置に本発明は適用できる。また、上記の各種の液体吐出装置に液体収容容器を使用する際には、各種の液体吐出装置が吐出する液体の種類に応じた液体(色材,導電ペースト,生体有機物等)を、液体収容容器内部に収容すれば良い。
【符号の説明】
【0079】
1…印刷システム
10…プリンター
12…キャリッジモーター
13…駆動機構
14…摺動軸
16…駆動ベルト
18…プーリー
20…キャリッジ
21…機構
22…モーター
26…ローラー
30…吸引機構
30a…第1の吸引機構
30b…第2の吸引機構
31a…筐体
31b…筐体
33a…駆動機構
34a…ポンプ
36a…液体排出管
38a…貫通孔
40…制御部
41…CPU
42…クリーニングモジュール
44…フラッシングモジュール
46…撹拌処理モジュール
54…撹拌条件テーブル
60…ワイパー部
61…ワイパーブレード
65…駆動機構
70…キャリッジ
72…ヘッド
74…ヘッド面
76…圧力室
78…ノズル
79…圧電振動素子
80…インクカートリッジ
81…撹拌板
82…液体収容室
84…回路基板
85…端子群
87…液体供給口
88…記憶装置
90…操作部
92…コネクター
100…コンピューター
102…時刻モジュール
P…印刷媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを介して液体を目的物へ吐出する液体吐出装置であって、
前記液体を収容する液体収容容器であって液体収容容器に関する情報が記憶された記憶装置を有する液体収容容器を、着脱自在に装着できる容器装着部と、
前記容器装着部を往復移動させる駆動機構と、
前記液体吐出装置を制御する制御部であって、前記容器装着部に新たに装着された前記液体収容容器内の液体の撹拌処理の制御を行う制御部と、を備え、
前記情報は、前記装着された液体収容容器の製造時刻を示す製造時刻データを含み、
前記制御部は、前記撹拌処理として、
新たに前記液体収容容器が前記容器装着部に装着されたことを検出すると、前記装着された液体収容容器の前記記憶装置から前記情報を取得し、
少なくとも、取得した前記情報に含まれる前記製造時刻データが示す前記製造時刻と、現在時刻とに基づいて、前記装着された液体収容容器内の前記液体の撹拌の程度を決定し、
前記装着された液体収容容器を、前記駆動機構を用いて前記決定に従って往復移動させて撹拌動作を制御する、液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記撹拌の程度は、異なる複数のモードによって段階的に設定されている、液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の液体吐出装置であって、
前記撹拌の程度は、前記現在時刻から前記製造時刻を引くことで算出される前記装着された液体収容容器の製造経過時間が長くなるにつれ単調に大きくなるように設定されている、液体吐出装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項2に従属する請求項3に記載の液体吐出装置であって、
前記制御部は、前記現在時刻を取得できない場合は、前記複数のモードのうち前記撹拌の程度が最大となるモードで前記撹拌動作を実行する、液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記情報は、さらに、前記装着された液体収容容器が収容する液体の種類を示す液体種類データを含み、
前記制御部は、
前記液体種類データに基づき、前記装着された液体収容容器が収容する液体に沈降成分が含まれていないと判断した場合は、前記撹拌動作を実行せずに前記撹拌処理を終了し、
前記液体種類データに基づき、前記装着された液体収容容器が収容する液体に沈降成分が含まれていると判断した場合は、決定した前記撹拌の程度による前記撹拌動作を実行して前記撹拌処理を終了する、液体吐出装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記情報は、さらに、前記装着された液体収容容器が収容する液体の色を示す色データを含み、
前記制御部は、
前記撹拌の程度の決定を、さらに前記色データが示す前記液体の色に基づいて行う、液体吐出装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6いずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記撹拌の程度は、前記往復移動における前記容器装着部の移動速度、移動加速度、往復移動回数、移動距離、及び、前記撹拌動作の動作時間の内の少なくとも1つを用いて設定される、液体吐出装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記情報は、さらに、前記装着された液体収容容器について液体を撹拌するための撹拌板の有無を示す仕様データを含み、
前記制御部は、取得した前記仕様データに基づき前記新たな液体収容容器が前記撹拌板を備えると判断した場合は、前記容器装着部の往復移動回数と移動加速度の少なくともいずれか一方を異ならせることで設定された前記撹拌の程度に基づき前記撹拌動作を実行する、液体吐出装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
さらに、前記ノズルからインクを吸引する吸引機構を備え、
前記制御部は、前記撹拌処理を行った後に、
前記ノズルのうち前記装着された液体収容容器内の液体を吐出する交換ノズルから前記吸引機構によって前記液体を吸引する第1の処理を実行する、液体吐出装置。
【請求項10】
請求項9に記載の液体吐出装置であって、
さらに、前記ノズルから前記液体を吐出させる吐出機構を備え、
前記制御部は、前記第1の処理を実行した後に、
前記吐出機構によって前記交換ノズル内の前記液体を前記交換ノズルから前記目的物以外の外部へ吐出させる第2の処理を実行する、液体吐出装置。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか一項に記載の液体吐出装置であって、
前記制御部は、
前記容器装着部に装着されている前記液体収容容器の前記記憶装置に所定のタイミングで現在時刻を書込時刻データとして書き込み、
前記容器装着部に装着された前記液体収容容器が取り外され、取り外された前記液体収容容器が前記容器装着部に再度装着されたことを検出すると、前記再度装着された液体収容容器の前記記憶装置に書き込まれた前記書込時刻データを取得し、
少なくとも、取得した前記書込時刻データが示す書込時刻と、現在時刻とに基づいて、前記再度装着された前記液体収容容器内の前記液体の撹拌の程度を決定し、決定した撹拌の程度に従って前記撹拌動作を制御する、液体吐出装置。
【請求項12】
ノズルを介して液体を目的物へ吐出する液体吐出装置に装着される液体収容容器の撹拌の制御方法であって、
前記液体吐出装置が、前記液体を収容した液体収容容器が前記液体吐出装置に新たに装着されたことを検出すると、前記装着された液体収容容器から前記装着された液体収容容器の製造時刻を示す製造時刻データを含む前記液体収容容器に関する情報を取得する工程と、
前記液体吐出装置が、少なくとも、前記取得した前記情報に含まれる前記製造時刻データが示す前記製造時刻と、現在時刻とに基づいて、前記装着された液体収容容器内の前記液体の撹拌の程度を決定する工程と、
前記液体吐出装置が、前記装着された液体収容容器を前記決定に従って往復移動させて撹拌動作を制御する工程と、を備える撹拌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−228831(P2012−228831A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98971(P2011−98971)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】