説明

液体吐出装置およびヘッドキャップ保湿方法

【課題】保湿液カートリッジの交換頻度を低減でき、保湿液が無くなった場合であってもヘッドキャップを適切な保湿状態に維持することのできる液体吐出装置を提案すること。
【解決手段】インクジェットプリンター1は、インクジェットヘッド3のノズル面3aを覆うために用いるヘッドキャップ9内を所定の保湿状態に維持するために、保湿液貯留部18から供給される保湿液をヘッドキャップ9内に供給する第1保湿動作と、ヘッドキャップ9内を所定の保湿状態に維持するために、インクジェットヘッド3から吐出されるインクをヘッドキャップ9内に供給する第2保湿動作を行うことができる。保湿制御部30は、第1保湿動作および第2保湿動作のうちの少なくとも一方を用いてヘッドキャップ9内を適切な保湿状態に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非動作中に液体吐出ヘッドのノズル面を覆うヘッドキャップが備わっている液体吐出装置に関し、ヘッドキャップ内を適切な保湿状態に維持可能なヘッドキャップ保湿方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルから液滴を吐出する液体吐出ヘッド、例えばインクジェットヘッドにおいては、非印刷時にそのノズル面をヘッドキャップで密閉状態に覆うことにより、ノズル内のインクが乾燥してノズル詰まり状態に陥ることや、ノズル面あるいはノズルに異物が付着あるいは混入することを防止している。また、インクジェットヘッドの各ノズルからヘッドキャップに向けてインク液滴を吐出するフラッシングを定期的に行ってノズル詰まりを未然に防止している。フラッシングにより吐出されたインク液滴はヘッドキャップ内に装着されているインク吸収材に回収され、当該インク吸収材に吸収されたインクはインク回収部に回収されるようになっている。
【0003】
ヘッドキャップ内のインク吸収材には、そこに吸収された廃インクが乾燥してインク増粘物が堆積した状態になる。この状態でキャッピングが行われると、インク堆積物中に含まれている高濃度のグリセリン、ジエチレングリコールなどの保湿剤がインクジェットヘッドのノズル内のインクから水分を吸収し、却って、ノズル内インクの増粘化を促進してしまい、ノズルの目詰まり、吐出不良を誘発する。そこで、従来においては、ヘッドキャップ内を適切な保湿状態に維持するために、定期的に水などの保湿液をヘッドキャップ内に供給するようにしている。特許文献1〜3には、このような保湿機能を備えたインクジェットプリンターが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−18408号公報
【特許文献2】特開2001−253081号公報
【特許文献3】特開2008−105262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来におけるヘッドキャップの保湿機能を備えたインクジェットプリンターでは、保湿液タンクあるいは保湿液カートリッジを専用に設けている。このため、印刷に使用するインクカートリッジに加えて保湿液も消耗品として交換する必要が生ずる。この結果、ユーザーが用意しなければならない消耗品の数が増え、消耗品交換回数も増えるので、使い勝手が悪化するという問題がある。
【0006】
保湿液カートリッジの交換をインクカートリッジと同時に行うようにすれば交換回数の増加を抑制できるが、保湿液の消費量はユーザーのインクジェットプリンター使用状況に応じて大幅に変化する。例えば、低デューティーの印刷を繰り返し行うユーザーの場合には、保湿液の消費量が多くなり、インクカートリッジの交換前に保湿液を使い切ってしまう可能性が高い。このような場合には、保湿液カートリッジの交換頻度が高くなり、ユーザーの負担が増えてしまうので好ましくない。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、保湿液カートリッジの交換頻度を低減でき、保湿液が無くなった場合でもヘッドキャップを適切な保湿状態に維持することのできるヘッドキャップ保湿機能を備えた液体吐出装置およびヘッドキャップ保湿方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の液体吐出装置は、
液体吐出ヘッドのノズル面を覆うために用いるヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、保湿液貯留部から供給される保湿液を前記ヘッドキャップ内に供給する第1保湿部と、
前記ヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、液体貯留部から前記液体吐出ヘッドに供給される吐出用液体を、当該液体吐出ヘッドから前記ヘッドキャップ内に供給する第2保湿部と、
前記第1保湿部および前記第2保湿部の少なくとも一方を用いて前記ヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持する保湿制御部とを有していることを特徴としている。
【0009】
本発明の液体吐出装置には保湿液を用いた第1保湿部と、液体吐出ヘッドから吐出される吐出用液体を用いた第2保湿部とが備わっている。したがって、保湿液を使い切った場合には、第2保湿部により吐出用液体を用いてヘッドキャップ内を適切な保湿状態に維持できる。この結果、保湿液を貯留している保湿液タンクあるいは保湿液カートリッジの交換頻度を抑制することができ、しかも、保湿液を使い終わった後においてもヘッドキャップ内を適切な保湿状態に維持してノズル詰まり、液体吐出不良などの不具合の発生を防止できる。また、第1、第2保湿部を交互に用いて、吐出用液体が無くなる前に保湿液が無くなることの無いように制御することも可能である。
【0010】
ここで、第1保湿部と第2保湿部の切り替えは保湿液の残量に基づき行うことができる。この場合、保湿制御部は、保湿液の残量が所定量以下になるまでの間は前記第1保湿部を用いて前記ヘッドキャップ内を保湿状態に維持し、残量が前記の所定量を下回った後は第2保湿部を用いてヘッドキャップ内を保湿状態に維持する。
【0011】
また、第1保湿部、第2保湿部によって保湿液あるいは吐出用液体をヘッドキャップ内に供給する保湿動作は、液体吐出ヘッドによる液体吐出時間の累積値に基づき行うようにすればよい。液体吐出時間の累積値は、ヘッドキャップが液体吐出ヘッドをキャッピングしていない状態、すなわち水分が蒸発する開放状態にある時間の累積値にほぼ対応する。したがって、液体吐出時間の累積値に基づき保湿動作を行うことにより、ヘッドキャップ内を適切な保湿状態に維持することができる。
【0012】
さらに、保湿液の補充と吐出用液体の補充を一回の操作で行うことができるようにするために、本発明の液体貯留部は、吐出用液体が貯留された液体カートリッジと、当該液体カートリッジが着脱可能な状態で装着されているカートリッジ装着部とを備え、保湿液貯留部が液体カートリッジの内部に配置されていることが望ましい。
【0013】
次に、本発明はカラー印刷を行うインクジェットプリンターに適用することができる。この場合には、液体吐出ヘッドとしてインクジェットヘッドが用いられ、液体カートリッジとして各色、一般的には、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの各色のインクカートリッジが用いられている。これらのインクのうち、ブラックインクの消費量が最も多いので、ブラックインクカートリッジは他の色インクのインクカートリッジよりも一回り大きな寸法となっている。そこで、ブラックインクカートリッジ内に保湿液貯留部を設けるようにすれば、保湿液貯留部の分だけカートリッジが大型化しても、ブラックインクカートリッジは元々他のインクカートリッジよりもサイズが大きいので、ユーザーが違和感を覚えることが少ない。
【0014】
一方、本発明の液体吐出装置のヘッドキャップ保湿方法は、
液体吐出ヘッドのノズル面を覆うためのヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、保湿液貯留部から供給される保湿液を前記ヘッドキャップ内に供給する第1保湿動作と、
前記ヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、液体貯留部から前記液体吐出ヘッドに供給される吐出用液体を、当該液体吐出ヘッドから前記ヘッドキャップ内に供給する第2保湿動作とを、
前記保湿液貯留部に貯留されている前記保湿液の残量に基づき、切り替えて実行することを特徴としている。
【0015】
ここで、保湿液の残量が所定量以下になるまでの間は第1保湿動作を行ってヘッドキャップ内を保湿状態に維持し、残量が前記の所定量を下回った後は第2保湿動作を行ってヘッドキャップ内を保湿状態に維持することが望ましい。
【0016】
また、液体吐出ヘッドによる液体吐出時間の累積値に基づき、第1保湿動作および第2保湿動作のうちの一方の保湿動作を実行することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、保湿液を用いた第1保湿動作と液体吐出ヘッドから吐出される吐出用液体を用いた第2保湿動作の少なくとも一方を実行してヘッドキャップ内を保湿している。保湿液を使い切った場合に第2保湿動作により吐出用液体を用いてヘッドキャップ内を適切な保湿状態に維持できる。よって、保湿液を貯留している保湿液タンクあるいは保湿液カートリッジの交換頻度を抑制することができ、保湿液を使い終わった後においてもヘッドキャップ内を適切な保湿状態に維持してノズル詰まり、液体吐出不良などの不具合の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるインクジェットプリンターの概略構成図である。
【図2】インクジェットプリンターの主要部分を制御系と共に示す説明図である。
【図3】保湿液供給動作を示す動作説明図である。
【図4】保湿液供給部を示す概略断面図である。
【図5】ヘッドキャップの保湿動作を示す概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明を適用したインクジェットプリンターの実施の形態を説明する。
【0020】
図1はインクジェットプリンターの主要部を示す全体構成図であり、図2はその主要部の断面構成を制御系と共に示す説明図である。これらの図を参照して説明すると、インクジェットプリンター1は装置フレーム2に搭載されているライン型のインクジェットヘッド3を備えており、インクジェットヘッド3は、そのノズル面3aが下を向く姿勢で、装置幅方向に水平に配置されている。ノズル面3aには装置幅方向に複数列のノズル3bが配置されている。ノズル面3aには下側から移動式プラテン4が一定のギャップで対峙しており、移動式プラテン4の表面によってインクジェットヘッド3の印刷位置が規定されている。この印刷位置を経由して装置後方から前方に向かって水平に延びる印刷用紙5の搬送経路が形成されている。搬送経路は搬送ガイド6、搬送ローラー対7等によって規定されている。
【0021】
搬送ガイド6は、移動式プラテン4の装置後側(搬送方向の上流側)において装置幅方向に水平に配置されている。搬送ローラー対7は駆動ローラー7aと従動ローラー7bとを備えており、搬送ガイド6の後側の位置において、同じく装置幅方向に水平に配置されている。搬送ローラー対7によって印刷用紙5は後側から前方に向かって搬送経路に沿って搬送され、印刷位置においてインクジェットヘッド3によって印刷が施される。
【0022】
移動式プラテン4の下側には移動式のメンテナンスユニット8が装置幅方向に水平に配置されている。メンテナンスユニット8は、ライン型のインクジェットヘッド3のノズル面3aをキャッピング可能な大きさのヘッドキャップ9と、ノズル面3aをワイピングするためのワイパー10とを備えている。ヘッドキャップ9は、図2に示すように、上方に開口しているキャップ本体9aと、このキャップ本体9aの内部底面に配置した一定厚さの板状のインク吸収材9bとを備えている。キャップ本体9aの底面には廃インク吸引口9cが形成されており、ここを介してインク吸収材9bに吸収された廃インクが不図示の廃インク回収部に回収可能となっている。
【0023】
インクジェットヘッド3の後側には、2つの保湿液供給部11L、11Rが配置されている。これらの保湿液供給部11R、11Lは、装置幅方向において所定の間隔をあけて同一高さ位置に配置されている。これらの保湿液供給部11L、11Rは同一構成であり、以下の説明においては、これらを総称して保湿液供給部11と呼ぶものとする。保湿液供給部11の下面には、図2に示すように、保湿液供給ノズル12が下向きに取り付けられており、ここから下方に吐き出される保湿液は、搬送ガイド6に形成した貫通穴6aを通って下側に位置しているヘッドキャップ9のインク吸収材9bに供給可能である。
【0024】
保湿液供給部11の保湿液供給動作は、後述のように、装置幅方向に延びる水平な揺動中心軸13を中心として上下方向に揺動可能な揺動リンク14によって駆動されるようになっている。揺動リンク14の揺動は移動式のメンテナンスユニット8の移動に連動して行われるようになっている。
【0025】
次に、装置フレーム2にはインクカートリッジ装着部15が設けられており、ここには、インクカートリッジが着脱可能な状態で装着されている。本例では、図2に示すように、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの各インクが貯留されている4個のインクカートリッジ16C、16M、16Y、16Bkが装着される。また、ブラックインクカートリッジ16Bk内には、ブラックインク貯留部17と保湿液貯留部18が内蔵されている。保湿液貯留部18には、保湿液として水が貯留されている。各インクカートリッジ内のインクは、インク供給路19を経由してインクジェットヘッド3の各色のインクを吐出するノズル列のそれぞれに供給される。ブラックインクカートリッジ16Bk内の保湿液貯留部18内の保湿液は保湿液供給路20を経由して保湿液供給部11に供給される。
【0026】
次に、搬送ローラー対7は搬送モーター21によって回転駆動され、メンテナンスユニット8の移動および移動式プラテン4の移動は駆動モーター22によって行われる。これらのモーター21、22の駆動制御は、コンピューターを中心に構成されているプリンター制御回路23からモータードライバー24、25を介して行われる。インクジェットヘッド3の駆動制御はヘッドドライバー26を介してプリンター制御回路23によって行われる。また、プリンター制御回路23はヘッドキャップ9内を保湿状態に維持するための保湿制御部30として機能する。保湿制御部30は、インクジェットヘッド3による印刷時間の累積値をカウントする累積値算出部27、インクカートリッジ装着部15に取り付けた検出器28の検出信号に基づき保湿液切れを検出するための保湿液残量管理部29、累積値および保湿液残量に基づき、ヘッドキャップ9内を保湿状態に維持するための保湿制御を行う。
【0027】
本例の保湿制御部30は、保湿液切れが検出されるまでの間は保湿液をヘッドキャップ9内に供給する第1保湿モード(第1保湿動作)31を実行し、保湿液切れが検出された後はインクジェットヘッド3の各ノズルからインク液滴をヘッドキャップ内に吐出する第2保湿モード32(第2保湿動作)を実行するようになっている。また、各保湿モード31、32は、印刷時間の累積値が予め定めた値に達する毎に実行されるようになっている。
【0028】
ここで、第1保湿モード31による保湿動作を行う第1保湿部は、保湿液貯留部18、保湿液供給路20、保湿液供給部11、保湿液供給ノズル12等から構成されている。また、第2保湿モード32による保湿動作を行う第2保湿部は、インクカートリッジ装着部15、インクカートリッジ16Y、16M、16C、16Bk、インク供給路19、インクジェットヘッド3等から構成されている。
【0029】
なお、保湿モードとしては各種の形態をとることができる。例えば、第1保湿モード31、第2保湿モード32を交互に実行する動作モードを採用することも可能である。また、第1保湿モード31を連続して複数回実行する毎に、第2保湿モード32を1回実行する動作モードを採用することも可能である。場合によっては、1回の保湿動作において、第1保湿モード31および第2保湿モード32の双方を実行する動作モードを採用することも可能である。
【0030】
(保湿液供給部および第1保湿動作)
次に、図3は保湿液供給部11の保湿動作(第1保湿動作)を示す説明図であり、図4は保湿液供給部11を示す概略断面図である。
【0031】
まず、これらの図を参照して、移動式プラテン4とメンテナンスユニット8の動きについて説明する。印刷時には、図3(C)に示すように、インクジェットヘッド3の真下に移動式プラテン4が位置しており、メンテナンスユニット8は移動式プラテン4の下側において僅かに装置後方側に寄った待機位置に位置している。
【0032】
非印刷時には、インクジェットヘッド3のノズル面3aにヘッドキャップ9がキャッピングされる。このために、印刷動作が終了した後は、移動式プラテン4が装置前方に水平に送り出されて図3(A)に示す退避位置に移動する。これと同期してメンテナンスユニット8が前方に向かって斜め上方に移動して、図3(A)に示すようにそのヘッドキャップ9がインクジェットヘッド3のノズル面3aを下側からキャッピングしたキャッピング位置に移動する。
【0033】
メンテナンスユニット8には係合ピン8aが取り付けられており、この係合ピン8aの移動軌跡は、揺動中心軸13を中心とする揺動リンク14の下側端部14aの揺動軌跡に重なるように設定されている。したがって、メンテナンスユニット8が前方に向かって斜め上方に移動する際には、係合ピン8aが揺動リンク14の下側端部14aを装置後側から前方に押しやる。この結果、揺動リンク14の上側端部14bが揺動中心軸13を中心として上方に揺動する。この上側端部14bは保湿液供給部11に連結されている。
【0034】
ここで、保湿液供給部11は、図4に示すように、円筒状の保湿液溜め41を備えている。この保湿液溜め41は、その底面中高に形成した供給口42に取り付けた逆止弁43を介してノズル12に連通している。保湿液溜め41の天面は開口端となっており、この開口端は上下方向に撓み可能なダイヤフラム44によって封鎖されている。また、保湿液溜め41の側面に形成した吸引口45は逆止弁46を介して保湿液供給路20に連通している。
【0035】
この構成の保湿液供給部11のダイヤフラム44が揺動リンク14の上側端部14bに連結されている。図3(C)の状態から、前方に向かって斜め上方に移動するメンテナンスユニット8の係合ピン8aによって揺動リンク14が上方に揺動すると、ダイヤフラム44が上方に引き上げられ、保湿液溜め41の内容積が増加する。この結果、保湿液供給路20から逆止弁46を介して保湿液が保湿液溜め41内に吸引される(補給される)。メンテナンスユニット8の移動途中において係合ピン8aが揺動リンク14の下側端部14aから前方に外れる。この後は、揺動リンク14は、その吊り下げ用の引張コイルバネ47のバネ力と、ダイヤフラム44の弾性復帰力などとの間で釣り合い状態が形成される揺動位置に戻る。このようにして、図3(C)に示す印刷状態から図3(A)に示す非印刷状態に移行する間に保湿液が保湿液供給部11に補給される。
【0036】
次に、図3(A)に示すキャッピング状態において印刷動作を行う場合には、まず、メンテナンスユニット8が装置後側に向かって斜め下方に移動を開始する。メンテナンスユニット8の移動に伴って、そこに搭載されているワイパー10がノズル面3aに押し付けられながら後方に移動してノズル面3aのワイピングが行われる。
【0037】
また、このメンテナンスユニット8の移動によって、保湿液供給部11が駆動されて保湿液をヘッドキャップ9内に供給する保湿動作が行われる。すなわち、図3(B)に示すように、移動の途中からメンテナンスユニット8の係合ピン8aが揺動リンク14の下側端部14aに当り、揺動リンク14を、揺動中心軸13を中心として上方に揺動させながら移動する。この結果、揺動リンク14の上側端部14bが下方に揺動し、そこに連結されている保湿液供給部11のダイヤフラム44が下方に押し込まれ、保湿液溜め41の内容積が小さくなる。これにより、保湿液溜め41内の保湿液が逆止弁43を介してノズル12の側に押し出され、ノズル12から下方に吐き出される。この時点では、メンテナンスユニット8のヘッドキャップ9はノズル12の真下に位置している。したがって、ノズル12から吐き出された保湿液Wは、搬送ガイド6の貫通穴6aを通ってヘッドキャップ9内のインク吸収材9bに供給され、ここに吸収保持される。このようにして保湿液Wが供給されることにより、ヘッドキャップ9内が適切な保湿状態に維持される。
【0038】
なお、メンテナンスユニット8の移動に同期して移動式プラテン4が装置後方に向けて水平に移動して、図3(C)に示すように、インクジェットヘッド3のノズル面3aの真下の位置に位置決めされる。これにより印刷可能な状態になる。
【0039】
一方、保湿液切れが検出された後においては、インクジェットヘッド3の各ノズル列から各色のインク液滴をヘッドキャップ9内に吐出する第2保湿動作が行われる。第2保湿動作は、例えば、図3(A)に示すキャッピング状態から印刷動作に移行するためにメンテナンスユニット8の移動を開始した直後に行うことができる。すなわち、ヘッドキャップ9によるキャッピングが解除された直後にインクジェットヘッド3の各ノズルからインク液滴をヘッドキャップ9のインク吸収材9bに向けて吐出して、ヘッドキャップ9内を適切な保湿状態に維持する。
【0040】
次に、図5はインクジェットプリンター1のプリンター制御回路23によるヘッドキャップ9内の保湿動作を示す概略フローチャートである。この図にしたがって説明すると、プリンター制御回路23の累積値算出部27では累積印刷時間が予め設定されている時間に達したか否かを監視している(ステップST1)。予め設定した時間に達すると、ステップST1からYESの流れに沿って移行し、保湿液残量監視部29において監視されている保湿液残量が所定の量以下、例えば、ヘッドキャップ9内を適切な保湿状態に維持するために必要とされる1回分の第1保湿動作に必要とされる量以下になったか否かを判断する(ステップST2)。
【0041】
保湿液が十分残っている場合にはステップST2からYESの流れに沿ってステップST3に移行し、第1保湿動作によって保湿液をヘッドキャップ9内に供給して当該ヘッドキャップ9内を適切な保湿状態に維持する。これに対して、保湿液の残量が予め定めた残量を下回った場合には、ステップST2からNOの流れに沿ってステップST4に移行し、第2保湿動作によって各色のインクをヘッドキャップ9内に吐出して当該ヘッドキャップ9内を適切な保湿状態に維持する。
【0042】
なお、本例では、図3に示すように、メンテナンスユニット8の移動に伴って揺動リンク14を介して保湿液供給部11が駆動されるが、保湿液切れ状態では実質的に保湿液がヘッドキャップ9内に供給されないので、保湿液による第1保湿動作は実質的に行われない。勿論、保湿液供給部11として専用の駆動部を配置する場合には、保湿液切れ後は保湿液供給部11による保湿液供給動作を停止すればよい。また、保湿液供給部11の機構としては本例以外の機構、例えば、インクジェットヘッドと同様な構造の液体吐出機構を用いて保湿液をヘッドキャップ内に供給してもよいことは勿論である。さらに、保湿液の供給量をコントロールすることが難しく、供給量の精度が悪くなってしまうが、ヘッドキャップに連結した吸引ポンプによる吸引動作を利用して、保湿液をヘッドキャップ内に供給しても良い。
【0043】
(その他の実施の形態)
上記の実施の形態は本発明をインクジェットプリンターに適用したものである。本発明はインクジェットプリンター以外の液体吐出装置にも同様に適用可能である。例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、面発光ディスプレイ等の電極形成に用いられる電極材、色材等の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置に適用できる。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置、精密ピペットとして試料をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備えた液体吐出装置などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…インクジェットプリンター、2…装置フレーム、3…インクジェットヘッド、3a…ノズル面、3b…ノズル、4…移動式プラテン、5…印刷用紙、6…搬送ガイド、7…搬送ローラー対、7a…駆動ローラー、7b…従動ローラー、8…メンテナンスユニット、9…ヘッドキャップ、9a…キャップ本体、9b…インク吸収材、9c…吸引口、10…ワイパー、11、11L、11R…保湿液供給部、12…ノズル、13…揺動中心軸、14…揺動リンク、14a…下側端部、14b…上側端部、15…インクカートリッジ装着部、16Y、16M、16C、16Bk…インクカートリッジ、17…インク貯留部、18…保湿液貯留部、19…インク供給路、20…保湿液供給路、21…搬送モーター、22…駆動モーター、23…プリンター制御回路、24,25…モータードライバー、26…ヘッドドライバー、27…累積値算出部、28…検出器、29…保湿液残量監視部、30…保湿制御部、31…第1保湿モード、32…第2保湿モード、41 保湿液溜め、42…供給口、43…逆止弁、44…ダイヤフラム、45…吸引口、46…逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出ヘッドのノズル面を覆うために用いるヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、保湿液貯留部から供給される保湿液を前記ヘッドキャップ内に供給する第1保湿部と、
前記ヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、液体貯留部から前記液体吐出ヘッドに供給される吐出用液体を、当該液体吐出ヘッドから前記ヘッドキャップ内に供給する第2保湿部と、
前記第1保湿部および前記第2保湿部の少なくとも一方を用いて前記ヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持する保湿制御部とを有していることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記保湿制御部は、前記保湿液の残量が所定量以下になるまでの間は前記第1保湿部を用いて前記ヘッドキャップ内を保湿状態に維持し、前記残量が前記所定量を下回った後は前記第2保湿部を用いて前記ヘッドキャップ内を保湿状態に維持することを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記保湿制御部は、前記液体吐出ヘッドによる液体吐出時間の累積値に基づき、前記第1保湿部あるいは前記第2保湿部による前記ヘッドキャップ内に前記保湿液あるいは前記吐出用液体の供給動作を実行させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記液体貯留部は、前記吐出用液体が貯留された液体カートリッジと、当該液体カートリッジが着脱可能な状態で装着されているカートリッジ装着部とを備えており、
前記保湿液貯留部は前記液体カートリッジの内部に配置されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のうちのいずれかの項において、
前記液体吐出ヘッドはインクジェットヘッドであり、
前記液体貯留部にはインクが貯留されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記液体貯留部は、ブラックインクが貯留されているインクカートリッジと、当該インクカートリッジが着脱可能な状態で装着されているカートリッジ装着部とを備えており、
前記保湿液貯留部は前記インクカートリッジの内部に配置されていることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項7】
液体吐出ヘッドのノズル面を覆うためのヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、保湿液貯留部から供給される保湿液を前記ヘッドキャップ内に供給する第1保湿動作と、
前記ヘッドキャップ内を所定の保湿状態に維持するために、液体貯留部から前記液体吐出ヘッドに供給される吐出用液体を、当該液体吐出ヘッドから前記ヘッドキャップ内に供給する第2保湿動作とを、
前記保湿液貯留部に貯留されている前記保湿液の残量に基づき、切り替えて実行することを特徴とする液体吐出装置のヘッドキャップ保湿方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記保湿液の残量が所定量以下になるまでの間は前記第1保湿動作を行って前記ヘッドキャップ内を保湿状態に維持し、前記残量が前記所定量を下回った後は前記第2保湿動作を行って前記ヘッドキャップ内を保湿状態に維持することを特徴とする液体吐出装置のヘッドキャップ保湿方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記液体吐出ヘッドによる液体吐出時間の累積値に基づき、前記第1保湿動作あるいは前記第2保湿動作による保湿動作を実行することを特徴とする液体吐出装置のヘッドキャップ保湿方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−206276(P2012−206276A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71838(P2011−71838)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】