説明

液体吐出装置

【課題】簡易な構成で保湿液をキャップ内へ供給することが可能で、かつ、キャップ内へ供給される保湿液の量を精度良く制御することが可能な液体吐出装置を提案する。
【解決手段】液体吐出装置は、媒体に向かって液滴を吐出するノズル面3aが形成される液体吐出ヘッド3と、液体吐出装置が休止状態にあるときにノズル面3aを封止してノズル内の液体の水分の蒸発を防止するキャップ12と、キャップ12内を保湿するための保湿液が貯留される保湿液タンクを備える保湿液供給部15と、封止位置12Aと退避位置12Bとの間でキャップ12を移動させる移動機構と、キャップ12の移動動作を利用して作動する作動部材22とを有している。キャップ12の移動動作によって作動した作動部材22は、保湿液供給部15に当接して保湿液タンク内の保湿液をキャップ12に向かって吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドのノズル面を封止するためのキャップを有する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のノズルが配列される印刷ヘッドからインク滴を吐出して印刷用紙に印刷を行うインクジェットプリンターが知られている。インクジェットプリンターでは、一般に、印刷待機時や電源オフ時に印字ヘッドのノズル内のインクの水分が蒸発してインクが増粘するのを防止して、印刷時におけるインク滴の吐出不良を防止するため、休止状態にある印刷ヘッドのノズル面はキャップによって封止されている。しかしながら、キャップ内にインクの増粘物が堆積している状態でキャップがノズル面を封止した場合には、堆積した増粘物中に高濃度で含まれるグリセリンやジエチレングリコール等の保湿剤が印字ヘッドのノズル内の水分を吸収してノズル内のインクの増粘を促進し、ノズルの目詰まりやインク滴の吐出不良を誘発してしまうことがある。そこで、従来、キャップ内の状態を適切に保つために、キャップ内に保湿液や洗浄液を供給するインクジェットプリンターが提案されている(たとえば、特許文献1から3参照)。
【0003】
特許文献1のインクジェットプリンターでは、キャリッジに搭載される保湿液タンクの吐出口に電磁弁が設けられており、制御部からの制御信号によって電磁弁が開閉して、キャップ内に保湿液が滴下される。特許文献2に記載のインクジェットプリンターは、キャリッジに搭載される洗浄ヘッドのノズルから洗浄液を噴射させる噴射手段を備えている。このプリンターでは、噴射手段は、制御回路等によって構成されており、所定のタイミングで洗浄ヘッドのノズルからキャップへ向かって洗浄液を噴射させる。特許文献3に記載のインクジェットプリンターでは、印刷ヘッドのノズルの詰まりを解消するための吸引ポンプがキャップに接続されている。このプリンターでは、洗浄液の供給口が形成される洗浄液供給手段の供給面をキャップが封止した状態で吸引ポンプが作動すると、キャップに洗浄液が供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−18408号公報
【特許文献2】特開2001−253081号公報
【特許文献3】特開2009−226719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のプリンターや特許文献2に記載のプリンターでは、電磁弁や噴射手段を利用して、保湿液や洗浄液をキャップ内へ供給しているため、保湿液や洗浄液をキャップ内へ供給するための専用の駆動源が必要になり、装置が複雑化するとともに大型化して高価になる。また、これらのプリンターでは、電磁弁の制御や噴射手段の制御が必要となるため、装置の制御が複雑になる。一方、特許文献3に記載のプリンターでは、印刷ヘッドのノズルの詰まりを解消するための吸引ポンプを利用して洗浄液をキャップ内へ供給するため、洗浄液をキャップ内へ供給するための駆動源を別途、設ける必要がないが、吸引ポンプの機構上、キャップ内へ供給される洗浄液の量を精度良く制御することが困難である。したがって、このプリンターでは、キャップ内へ洗浄液を供給する際に必要以上の洗浄液が消費され、その結果、洗浄液カートリッジの交換頻度が高くなってユーザーの使い勝手が悪くなったり維持コストが増加する。洗浄液カートリッジの交換頻度を下げるためには、洗浄液カートリッジを大型化すれば良いが、この場合には、装置全体が大型化する。
【0006】
そこで、本発明の課題は、簡易な構成で保湿液をキャップ内へ供給することが可能で、かつ、キャップ内へ供給される保湿液の量を精度良く制御することが可能な液体吐出装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の液体吐出装置は、液滴吐出用の複数のノズルが配列されるノズル面を備え、媒体に向かって液滴を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドが前記媒体に向かって液滴を吐出しない所定の休止状態にあるときに、前記ノズル面を封止して前記ノズル内の液体の水分の蒸発を防止するキャップと、前記キャップ内を保湿するための保湿液が貯留される保湿液タンクを備える保湿液供給部と、前記キャップが前記ノズル面を封止する封止位置と、前記キャップが前記ノズル面から離れる退避位置との間で、前記キャップを移動させる移動機構と、前記キャップの移動動作を利用して作動する作動部材と、を有し、前記キャップの移動動作によって作動した前記作動部材は、前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることを特徴とする。
【0008】
本発明の液体吐出装置は、キャップの移動動作を利用して作動する作動部材を有しており、キャップの移動動作によって作動した作動部材は、保湿液供給部に当接して保湿液タンク内の保湿液をキャップに向かって吐出させている。すなわち、本発明では、ノズル面の封止と媒体への印刷とを可能とするために封止位置と退避位置との間で移動可能なキャップの動作を利用して作動部材を作動させて、保湿液をキャップ内へ供給している。そのため、保湿液をキャップ内へ供給するための専用の駆動源が不要となる。したがって、本発明では、簡易な構成で、保湿液をキャップ内へ供給することが可能になる。また、本発明では、キャップに向かって保湿液を吐出させることでキャップ内へ保湿液を供給しているため、保湿液を吸引することでキャップ内へ保湿液を供給する場合と比較して、キャップ内へ供給される保湿液の量を精度良く制御することが可能になる。
【0009】
本発明において、前記作動部材は、前記キャップが前記ノズル面を封止する封止状態から前記キャップと前記ノズル面とが離れて前記液体吐出ヘッドが前記媒体へ液滴を吐出する液滴吐出状態へ移行する際の前記キャップの移動動作に伴って、前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることが好ましい。あるいは、本発明において、前記作動部材は、前記キャップと前記ノズル面とが離れて前記液体吐出ヘッドが前記媒体へ液滴を吐出する液滴吐出状態から前記キャップが前記ノズル面を封止する封止状態へ移行する際の前記キャップの移動動作に伴って、前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることが好ましい。すなわち、キャップの通常動作を利用して保湿液をキャップ内へ供給することが好ましい。このように構成すると、保湿液をキャップ内へ供給するための専用の動作をキャップに行わせる必要がなくなる。したがって、キャップを移動させるための制御が容易になる。また、キャップが通常動作を行えば、保湿液がキャップ内へ供給されるため、保湿液をキャップ内へ供給するためのメンテナンス時間を短縮することができ、その結果、ユーザーの使い勝手を向上させることができる。
【0010】
本発明において、前記キャップには、前記作動部材に当接する当接部材が形成または固定され、前記作動部材は、前記保湿液供給部に当接する第1当接部と、前記当接部材が当接する第2当接部と、を有するとともに、前記保湿液供給部から前記第1当接部が離れる方向へ付勢され、前記キャップとともに移動する前記当接部材が前記第2当接部に当接すると、前記第1当接部が前記保湿液供給部に当接して、前記保湿液が前記キャップに向かって吐出されることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記保湿液供給部は、前記作動部材が当接するダイヤフラムを有し、前記作動部材は、前記ダイヤフラムを作動させて前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることが好ましい。この場合には、ダイヤフラムを用いた比較的簡易な構成で、キャップに向かって保湿液を吐出させることができる。
【0012】
本発明において、前記保湿液供給部は、前記キャップに向かって前記保湿液を吐出する保湿液吐出ノズルと、前記保湿液タンクと前記保湿液吐出ノズルとの間に配置される逆止弁と、を有することが好ましい。このように構成すると、保湿液吐出ノズルからの保湿液の垂れを防止することができる。また、このように構成すると、保湿液タンク内の保湿液が保湿液吐出ノズルを介して蒸発するのを防止することができる。
【0013】
本発明において、液体吐出装置は、前記保湿液タンクに供給される前記保湿液が貯留される保湿液供給タンクと、前記保湿液タンクと前記保湿液供給タンクとの間に配置される逆止弁と、を有することが好ましい。このように構成すると、保湿液供給タンクへの保湿液の逆流を防止して、保湿液タンクからキャップへ確実に保湿液を供給することが可能になる。
【0014】
本発明において、液体吐出装置は、前記ノズル面に当接して前記ノズル面を拭くワイパー部材を有し、前記ワイパー部材は、前記キャップに取り付けられ、前記キャップには、前記作動部材に当接する当接部材および第2の当接部材が形成または固定され、前記キャップの移動動作によって前記当接部材が前記作動部材に当接すると、前記作動部材が前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させ、前記キャップの移動動作によって前記第2の当接部材が前記作動部材に当接すると、前記作動部材が前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記ワイパー部材に向かって吐出させることが好ましい。このように構成すると、キャップの動作を利用して、ワイパー部材に付着したインクや異物の乾燥を防止することが可能になる。したがって、ワイパー部材でノズル面を拭く際に、ワイパー部材に乾燥して固着したインクや異物がノズル面を汚してしまったり、ノズルを塞いでしまうといった現象を防止して、ノズル面に付着したインクや異物をワイパー部材によって適切に除去することが可能になる。また、このように構成すると、共通の保湿液供給部を用いて、ワイパー部材およびキャップ内へ保湿液を供給することができるため、液体吐出装置の構成を簡素化することが可能になる。
【0015】
本発明において、前記液体吐出ヘッドは、たとえば、前記ノズル面からインク滴を吐出する印刷ヘッドである。すなわち、液体吐出装置は、たとえば、インクジェットプリンターである。このインクジェットプリンターでは、簡易な構成で、保湿液をキャップ内へ供給することが可能になり、また、キャップ内へ供給される保湿液の量を精度良く制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態にかかるプリンターの主要部の概略斜視図。
【図2】キャップ内への保湿液の吐出動作を説明するための図。
【図3】保湿液供給部の断面図。
【図4】本発明の他の実施の形態にかかる保湿液の吐出動作を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の液体吐出装置の実施形態であるインクジェットプリンター(プリンター)1を説明する。
【0018】
(プリンターの概略構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかるプリンター1の主要部の概略斜視図である。
【0019】
プリンター1は、印刷用紙(媒体)2に向かってインク滴を吐出して印刷を行うインクジェットプリンターであり、インク滴を吐出する印刷ヘッド(液体吐出ヘッド)3を備えている。印刷ヘッド3には、インク滴吐出用の複数のノズルが配列されるノズル面3aが形成されている(図2参照)。ノズル面3aは、水平方向と平行に配置されている。また、印刷ヘッド3は、ノズル面3aが下側を向くように配置されており、下側へ向かってインク滴を吐出する。プリンター1は、印刷用紙2の幅方向へ印刷ヘッド3が移動しないラインプリンターであり、印刷ヘッド3は、支持フレーム4に取り付けられている。印刷用紙2は、モーター5に連結される給紙ローラー6(図2参照)によって搬送される。プリンター1では、印刷用紙2を搬送しながら、印刷用紙2に印刷が行われる。
【0020】
(メンテナンスユニット、保湿液供給部および作動部材の構成)
図2は、キャップ12内への保湿液の吐出動作を説明するための図であり、(A)はキャップ12が印刷ヘッド3のノズル面3aを封止している状態を示す図、(B)はキャップ12内へ保湿液が吐出されている状態を示す図、(C)はキャップ12内への保湿液の吐出が終了した後の状態を示す図である。図3は、保湿液供給部15の断面図である。
【0021】
プリンター1は、印刷用紙2への印刷時に印刷ヘッド3のノズル面3aに対向配置されるプラテン8と、印刷ヘッド3をメンテナンスするためのメンテナンスユニット9とを備えている。また、印刷ヘッド3と給紙ローラー6との間には、図2に示すように、印刷用紙2の下面を支持する搬送ガイド10が配置されている。
【0022】
プラテン8には、プラテン8を装置前後方向へ移動させる移動機構(図示省略)が連結されており、プラテン8は、装置前後方向へスライド可能となっている。プラテン8は、印刷用紙2への印刷時に、図2(C)に示すように、ノズル面3aの下側に配置され、メンテナンスユニット9による印刷ヘッド3のメンテナンス時に、図2(A)に示すように、印刷用紙2の排出側となる装置前側へ退避する。
【0023】
メンテナンスユニット9は、ノズル面3aよりも下側に配置されている。メンテナンスユニット9には、メンテナンスユニット9を装置前後方向および上下方向へ移動させる移動機構(図示省略)が連結されており、メンテナンスユニット9は、装置前後方向および上下方向へ移動可能となっている。メンテナンスユニット9は、印刷ヘッド3のメンテナンス時に、図2(A)に示すように、ノズル面3aの下側に配置されている。また、メンテナンスユニット9は、印刷用紙2への印刷時に、図2(C)に示すように、装置後ろ下側へ退避する。退避したメンテナンスユニット9の装置後ろ側の一部分は、搬送ガイド10の下側に配置される。
【0024】
メンテナンスユニット9は、ノズル面3aに当接してノズル面3aを拭くワイパーブレード(ワイパー部材)11を備えている。ワイパーブレード11は、ゴム等の可撓性材料によって形成されている。ワイパーブレード11は、メンテナンスユニット9の装置前側に配置されている。印刷ヘッド3のメンテナンス時には、ワイパーブレード11がノズル面3aに当接可能な位置までメンテナンスユニット9が上昇した状態で、メンテナンスユニット9が装置前後方向へ移動する。メンテナンスユニット9が装置前後方向へ移動すると、ワイパーブレード11がノズル面3aに当接してノズル面3aに付着したインクや異物を拭き取る。
【0025】
また、メンテナンスユニット9は、印刷ヘッド3のノズル面3aを封止してノズル内のインクの水分の蒸発を防止するキャップ12を備えている。キャップ12は、印刷ヘッド3が印刷用紙2に向かってインク滴を吐出しない所定の休止状態にあるときに、ノズル面3aを封止する。具体的には、印刷待機時や電源オフ時等に、キャップ12はノズル面3aを封止する。上述のように、メンテナンスユニット9には、メンテナンスユニット9を装置前後方向および上下方向へ移動させる移動機構(図示省略)が連結されており、キャップ12は、移動機構によって、キャップ12がノズル面3aを封止する封止位置12A(図2(A)参照)と、ノズル面3aからキャップ12が離れる退避位置12B(図2(C)参照)との間を移動する。
【0026】
キャップ12は、上面が開口する直方体の箱状に形成されたキャップケースを備えている。このキャップケースの中には、ゴム等の可撓性材料によって形成されるとともに上面が開口する直方体の箱状に形成されたキャップ部材が配置されており、弾性変形したキャップ部材がノズル面3aに当接することで、ノズル面3aが封止される。キャップ12の内部には、スポンジ等の多孔質材料で形成されるインク吸収部材13が配置されている。キャップ12の底面には、円筒部12aがキャップ12の内部に通じるように形成されており、円筒部12aには、チューブを介して吸引ポンプ(図示省略)が接続されている。
【0027】
支持フレーム4には、キャップ12内を保湿するための(具体的には、インク吸収部材13を保湿するための)保湿液をキャップ12内へ供給する保湿液供給部15が2個取り付けられている。2個の保湿液供給部15は、装置左右方向において所定の間隔で配置されるとともに、印刷ヘッド3の装置後ろ側に配置されている。また、保湿液供給部15は、搬送ガイド10の上側に配置されている。図3に示すように、保湿液供給部15の内部には、保湿液が貯留される保湿液タンク15aが形成されている。保湿液タンク15aの上面には、保湿液供給部15の上面まで貫通する開口部15bが形成されている。開口部15bは、ダイヤフラム16によって覆われている。ダイヤフラム16は、ゴム等の可撓性材料によって膜状に形成されている。ダイヤフラム16の外周側部分は、開口部15bを囲む保湿液供給部15の上面に固定されている。
【0028】
保湿液供給部15の底面には、保湿液タンク15a内の保湿液を下側へ向かって吐出するノズル(保湿液吐出ノズル)15cが形成されている。保湿液タンク15aとノズル15cとの境界部には、保湿液タンク15aからノズル15cへの保湿液の流れのみを許容する逆止弁17が配置されている。保湿液供給部15の側面には、保湿液タンク15aに保湿液を供給するための供給口15dが形成されており、供給口15dには、継ぎ手18が固定されている。継ぎ手18には、保湿液タンク15aに供給される保湿液が貯留されるサブタンク(保湿液供給タンク)がチューブ19を介して接続されている。供給口15dの入口端には、サブタンクから保湿液タンク15aへの保湿液の流れのみを許容する逆止弁20が配置されている。
【0029】
保湿液供給部15では、ダイヤフラム16が押し下げられて、保湿液タンク15aの内部に向かってダイヤフラム16が弾性変形すると、保湿液タンク15a内の保湿液がノズル15cから吐出される。このときには、逆止弁20の作用で、保湿液タンク15aからサブタンクへの保湿液の逆流が阻止される。また、保湿液タンク15aの内部に向かって弾性変形したダイヤフラム16が保湿液タンク15aの外部に向かって復元すると、サブタンクから保湿液タンク15aに保湿液が供給される。なお、図2に示すように、搬送ガイド10には、上下方向に貫通する貫通孔10aが形成されている。貫通孔10aは、ノズル15cの真下に形成されており、ノズル15cから吐出された保湿液は、貫通孔10aを通過する。
【0030】
また、支持フレーム4には、キャップ12の移動動作(すなわち、メンテナンスユニット9の移動動作)によって作動する作動部材22が取り付けられている。作動部材22は、細長い四角柱状に形成される第1角柱部22aと第2角柱部22bとを備えている。第1角柱部22aと第2角柱部22bとは、互いに略直交するように、かつ、第1角柱部22aの一端と第2角柱部22bの一端とが繋がるように一体で形成されており、第1角柱部22aと第2角柱部22bとによって略L形状の部材が構成されている。作動部材22は、第1角柱部22aと第2角柱部22bとの接続部分から略装置前側へ第1角柱部22aが延びるように、かつ、第1角柱部22aと第2角柱部22bとの接続部分から略下側へ第2角柱部22bが延びるように、支持フレーム4に回動可能に取り付けられている。
【0031】
第1角柱部22aと第2角柱部22bとの接続部分には、装置左右方向を軸方向として支持フレーム4に回動可能に支持される円柱状の軸部22cが形成または固定されている。軸部22cは、第1角柱部22aと第2角柱部22bとの接続部分から装置右側へ延びている。第1角柱部22aの他端側(前端側)には、装置左側へ延びる細長い四角柱状の第3角柱部22dが形成または固定されている。第3角柱部22dには、引張りコイルバネ23の下端が取り付けられている。引張りコイルバネ23の上端は、支持フレーム4に取り付けられており、作動部材22は、軸部22cを中心にして、図2の時計方向に付勢されている。
【0032】
メンテナンスユニット9の装置後ろ側には、第2角柱部22bの下端側に当接する円柱状の当接部材24が装置右側へ延びるように固定または形成されている。すなわち、キャップ12には、所定の部材を介して当接部材24が固定されている。キャップ12が封止位置12Aにあるときには、図2(A)に示すように、第2角柱部22bは、当接部材24よりも装置後ろ側に配置されている。キャップ12が装置後ろ下側へ退避して(すなわち、メンテナンスユニット9が装置後ろ下側へ退避して)、図2(B)に示すように、当接部材24が第2角柱部22bの下端側に当接すると、作動部材22は、引張りコイルバネ23の付勢力に抗して反時計方向へ回動する。
【0033】
本形態では、キャップ12の移動に伴って作動部材22が反時計方向へ回動したときに、第3角柱部22dがダイヤフラム16の上面に当接してダイヤフラム16を押し下げるように、作動部材22および保湿液供給部15が構成され、配置されている。また、ダイヤフラム16が押し下げられると、保湿液供給部15からキャップ12内へ保湿液が吐出されるように、キャップ12および保湿液供給部15が構成され、配置され、かつ、キャップ12が移動する。本形態の第3角柱部22dは、保湿液供給部15に当接する第1当接部であり、第2角柱部22bは、当接部材24が当接する第2当接部である。なお、ノズル15cから吐出された保湿液は、搬送ガイド10の貫通孔10aを通過してキャップ12内へ供給される。
【0034】
(保湿液の吐出動作)
プリンター1が休止状態であるときには、図2(A)に示すように、メンテナンスユニット9が上昇しており、キャップ12は、封止位置12Aでノズル面3aを封止している。このときには、プラテン8は、装置前側へ退避している。キャップ12がノズル面3aを封止している封止状態から、印刷用紙2へインク滴を吐出する印刷状態(液滴吐出状態)へ移行する際には、キャップ12が装置後ろ下側へ退避して(すなわち、メンテナンスユニット9が装置後ろ下側へ退避して)、キャップ12がノズル面3aから離れる。また、プラテン8が装置後ろ側へスライドして、ノズル面3aの下側まで移動する。
【0035】
キャップ12が装置後ろ下側へ移動すると、図2(B)に示すように、当接部材24が第2角柱部22bの下端側に当接して、作動部材22が反時計方向へ回動する。作動部材22が反時計方向へ回動すると、第3角柱部22dがダイヤフラム16の上面に当接してダイヤフラム16を押し下げる。ダイヤフラム16が押し下げられると、保湿液供給部15の下方に配置されるキャップ12内へ保湿液タンク15a内の保湿液が吐出される。キャップ12内に吐出された保湿液は、キャップ12内のインク吸収部材13に吸収される。
【0036】
図2(B)に示す状態からキャップ12が装置後ろ下側へさらに移動して退避位置12Bまで移動すると、図2(C)に示すように、当接部材24から第2角柱部22bが外れて、引張りコイルバネ23の付勢力で作動部材22が時計方向へ回動する。また、保湿液タンク15aの内部に向かって弾性変形していたダイヤフラム16は、保湿液タンク15aの外部に向かって復元する。
【0037】
(本実施の形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、キャップ12の装置後ろ下側への移動動作によって、作動部材22が回動する。また、作動部材22が回動すると、作動部材22がダイヤフラム16に当接して、保湿液タンク15a内の保湿液がキャップ12に向かって吐出される。すなわち、本形態では、封止位置12Aと退避位置12Bとの間で移動可能なキャップ12の動作を利用して作動部材22を回動させて、保湿液をキャップ12内へ供給している。そのため、本形態では、保湿液をキャップ12内へ供給するための専用の駆動源が不要となり、簡易な構成で、保湿液をキャップ12内へ供給することができる。また、本形態では、ダイヤフラム16の動作を利用してノズル15cから保湿液を吐出させているため、保湿液を吸引することでキャップ12内へ保湿液を供給する場合と比較して、キャップ12内へ供給される保湿液の量を精度良く制御することが可能になる。
【0038】
本形態では、印刷ヘッド3のノズル面3aをキャップ12が封止している封止状態から、印刷用紙2へインク滴を吐出する印刷状態へ移行する際のキャップ12の動作を利用して、保湿液をキャップ12内へ供給している。すなわち、キャップ12の通常動作を利用して保湿液をキャップ12内へ供給している。そのため、保湿液をキャップ12内へ供給するための専用の動作をキャップ12にさせる必要がなくなる。したがって、キャップ12を移動させるための制御が容易になる。また、キャップ12が通常動作を行えば、保湿液がキャップ12内へ供給されるため、保湿液をキャップ12内へ供給するためのメンテナンス時間を短縮することができ、その結果、ユーザーの使い勝手を向上させることができる。
【0039】
本形態では、保湿液タンク15aとノズル15cとの境界部に逆止弁17が配置されている。そのため、ノズル15cからの保湿液の垂れを防止することができる。また、保湿液タンク15a内の保湿液がノズル15cを介して蒸発するのを防止することができる。
【0040】
(他の実施の形態)
上述した形態では、キャップ12の移動動作を利用して保湿液をキャップ12内へ供給しているが、図4に示すように、キャップ12の移動動作を利用してキャップ12内およびワイパーブレード11に保湿液を供給しても良い。この場合には、図4に示すように、円柱状の当接部材(第2の当接部材)34が、当接部材24よりもメンテナンスユニット9の装置前側に固定または形成される。また、この場合には、キャップ12の装置後ろ側への移動に伴って、当接部材34が第2角柱部22bの下端側に当接するとともに、当接部材34が第2角柱部22bの下端側に当接して作動部材22が反時計方向へ回動したときに、図4(C)に示すように、第3角柱部22dがダイヤフラム16の上面に当接してダイヤフラム16を押し下げるように、当接部材34が構成され、配置されている。また、当接部材34が第2角柱部22bの下端側に当接して、第3角柱部22dによってダイヤフラム16が押し下げられると、保湿液供給部15からワイパーブレード11へ保湿液が吐出されるように、ワイパーブレード11が構成され、配置されている。
【0041】
この場合には、キャップ12の装置後ろ下側への移動に伴って、図4(B)に示すように、まず、当接部材24が第2角柱部22bの下端側に当接して、キャップ12内へ保湿液が供給される。その後、キャップ12がさらに装置後ろ側へ移動すると、当接部材24から第2角柱部22bが外れて、引張りコイルバネ23の付勢力で作動部材22が時計方向へ回動し、また、弾性変形していたダイヤフラム16は復元する。その後、キャップ12がさらに装置後ろ側へ移動すると、図4(C)に示すように、当接部材34が第2角柱部22bの下端側に当接して、ワイパーブレード11へ保湿液が供給される。
【0042】
このように、キャップ12の移動動作を利用してキャップ12内およびワイパーブレード11に保湿液を供給する場合には、キャップ12の動作を利用してワイパーブレード11へ保湿液を供給することで、ワイパーブレード11に付着したインクや異物の乾燥を防止することが可能になる。したがって、印刷ヘッド3のメンテナンス時に、ワイパーブレード11に乾燥して固着したインクや異物がノズル面3aを汚してしまったり、ノズルを塞いでしまうといった現象を防止して、ノズル面3aに付着したインクや異物をワイパーブレード11によって適切に除去することが可能になる。また、この場合には、共通の保湿液供給部15を用いて、ワイパーブレード11およびキャップ12内へ保湿液を供給することができるため、プリンター1の構成を簡素化することができる。
【0043】
上述した形態では、印刷ヘッド3による印刷を行うために、キャップ12が封止位置12Aから退避位置12Bへ移動すると、作動部材22が回動して、保湿液タンク15a内の保湿液がキャップ12に向かって吐出されているが、印刷ヘッド3による印刷が終了し、キャップ12が退避位置12Bから封止位置12Aへ移動する際に、作動部材22が回動して、保湿液タンク15a内の保湿液がキャップ12に向かって吐出されるように、キャップ12、保湿液供給部15および作動部材22等が構成され、配置され、かつ、キャップ12が移動しても良い。また、保湿液をキャップ12内へ供給するための専用の動作をキャップ12が行ったときに、作動部材22が回動して、保湿液タンク15a内の保湿液がキャップ12に向かって吐出されるように、キャップ12、保湿液供給部15および作動部材22等が構成され、配置され、かつ、キャップ12が移動しても良い。
【0044】
上述した形態では、メンテナンスユニット9に当接部材24が固定または形成されており、当接部材24が所定の部材を介してキャップ12に固定されているが、キャップ12に当接部材24が直接、固定または形成されても良い。また、上述した形態では、プリンター1を例に本発明の液体吐出装置の実施の形態を説明したが、本発明の構成が適用される液体吐出装置は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、FED(面発ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材や色材等の液体をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置や、バイオチップ製造に用いられる生体有機物をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置や、精密ピペットとして試料をノズルから吐出する液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置などであっても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 プリンター(液体吐出装置)、2 印刷用紙(媒体)、3 印刷ヘッド(液体吐出ヘッド)、3a ノズル面、11 ワイパーブレード(ワイパー部材)、12 キャップ、12A 封止位置、12B 退避位置、15 保湿液供給部、15a 保湿液タンク、15c ノズル(保湿液吐出ノズル)、16 ダイヤフラム、17 逆止弁、20 逆止弁、22 作動部材、22b 第2角柱部(第2当接部)、22d 第3角柱部(第1当接部)、24 当接部材、34 当接部材(第2の当接部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出用の複数のノズルが配列されるノズル面を備え、媒体に向かって液滴を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドが前記媒体に向かって液滴を吐出しない所定の休止状態にあるときに、前記ノズル面を封止して前記ノズル内の液体の水分の蒸発を防止するキャップと、
前記キャップ内を保湿するための保湿液が貯留される保湿液タンクを備える保湿液供給部と、
前記キャップが前記ノズル面を封止する封止位置と、前記キャップが前記ノズル面から離れる退避位置との間で、前記キャップを移動させる移動機構と、
前記キャップの移動動作を利用して作動する作動部材と、を有し、
前記キャップの移動動作によって作動した前記作動部材は、前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記作動部材は、前記キャップが前記ノズル面を封止する封止状態から前記キャップと前記ノズル面とが離れて前記液体吐出ヘッドが前記媒体へ液滴を吐出する液滴吐出状態へ移行する際の前記キャップの移動動作に伴って、前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記作動部材は、前記キャップと前記ノズル面とが離れて前記液体吐出ヘッドが前記媒体へ液滴を吐出する液滴吐出状態から前記キャップが前記ノズル面を封止する封止状態へ移行する際の前記キャップの移動動作に伴って、前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記キャップには、前記作動部材に当接する当接部材が形成または固定され、
前記作動部材は、前記保湿液供給部に当接する第1当接部と、前記当接部材が当接する第2当接部と、を有するとともに、前記保湿液供給部から前記第1当接部が離れる方向へ付勢され、
前記キャップとともに移動する前記当接部材が前記第2当接部に当接すると、前記第1当接部が前記保湿液供給部に当接して、前記保湿液が前記キャップに向かって吐出されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記保湿液供給部は、前記作動部材が当接するダイヤフラムを有し、
前記作動部材は、前記ダイヤフラムを作動させて前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記保湿液供給部は、前記キャップに向かって前記保湿液を吐出する保湿液吐出ノズルと、前記保湿液タンクと前記保湿液吐出ノズルとの間に配置される逆止弁と、を有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記保湿液タンクに供給される前記保湿液が貯留される保湿液供給タンクと、前記保湿液タンクと前記保湿液供給タンクとの間に配置される逆止弁と、を有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記ノズル面に当接して前記ノズル面を拭くワイパー部材を有し、
前記ワイパー部材は、前記キャップに取り付けられ、
前記キャップには、前記作動部材に当接する当接部材および第2の当接部材が形成または固定され、
前記キャップの移動動作によって前記当接部材が前記作動部材に当接すると、前記作動部材が前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記キャップに向かって吐出させ、
前記キャップの移動動作によって前記第2の当接部材が前記作動部材に当接すると、前記作動部材が前記保湿液供給部に当接して前記保湿液タンク内の前記保湿液を前記ワイパー部材に向かって吐出させることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記液体吐出ヘッドは、前記ノズル面からインク滴を吐出する印刷ヘッドであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−106428(P2012−106428A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257570(P2010−257570)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】