説明

液体吸引装置

【課題】液体吸引装置において、ウェルの底面端縁部に残溜する液体を効率的に吸引する。
【解決手段】液体吸引装置は、液体を収容するウェル8を有し、ウェル8と連通するマイクロ流路82aが形成されたマイクロチップ8’の、ウェル8に貯溜された液体を吸引するものであって、先端に開口2aを有し、後端に配管が接続されて、先端開口2aから液体を吸引する吸引ノズル2と、配管と接続し、吸引ノズル2へ吸引圧を供給するポンプと、吸引ノズル2を、ウェル8と相対移動させる駆動部とを備えてなる。吸引ノズル2が、ポンプから供給される吸引圧によって吸引力を発生させながら、駆動部により先端開口2aがウェル8の底面に接触するまで相対移動することによって、ウェル8及び/又はマイクロ流路82aから前記液体の吸引を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸引ノズルにより液体を吸引する液体吸引装置に関し、特にマイクロチップのウェルに貯溜された液体を吸引する液体吸引装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、検体及び/又は試薬を反応させる反応用凹部としての複数の液体収容部を有するマイクロプレートを使用する酵素免疫反応測定装置が知られている。該装置は、検体及び試薬を分注する分注装置、反応促進のための加振装置及び温調装置、液体収容部を洗浄するための洗浄装置等から構成され、これら装置は作業員により別々に操作されている。しかしながらこれら装置のうち特に洗浄装置においては、吸引ノズルにより液体収容部内部に残存する洗浄液の吸引を行うと、液体収容部の底面端縁部に洗浄液が残溜し、該残溜した洗浄液が酵素免疫反応の測定結果に変動を与えるという虞があった。
【0003】
そこで吸引ノズルを液体収容部の中央部に配し、吸引ノズルを下降させながら洗浄液の吸引を行い、さらに吸引ノズルを液体収容部の端縁部に移動して洗浄液の吸引を行うことによって、底面端縁部に残溜する液体を吸引する方法が開示されている(特許文献1)
一方、近年、化学、光学、臨床、バイオ技術等の分野において、半導体等の微細加工技術を応用して基板上にマイクロサイズの回路(いわゆるマイクロ流路)が形成されたマイクロチップを使用する臨床分析装置が開発されている。マイクロチップはマイクロ流路と連通する液体収容部としてのウェルを有するものであって、例えばDNA等の生体試料の微量分析を電気泳動解析システムと連動して効率的に行うバイオチップとして利用されている。マイクロチップ上には、前記生体試料からの分析対象成分の抽出(抽出工程)、化学・生化学反応を用いる分析対象成分の分析(分析工程)、分離(分離工程)及び検出(検出工程)等の一連の分析工程が集積化され、該集積化システムは、μ−TAS(マイクロタス)、Lab−on−a−Chip(ラボオンチップ)等とも呼ばれている。
【特許文献1】特開平8−297125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記の液体吸引方法は、液体収容部の底面端縁部に残溜する液体を確実に吸引するために、吸引ノズルを液体収容部の中央に降下移動させ液体を吸引した後でさらに端縁部に移動させて液体を吸引するので、少なくとも吸引ノズルを2方向に移動させる必要があり、液体の吸引が僅かながらも効率的ではない。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、液体収容部、特にマイクロチップのウェルの底面端縁部に残溜する液体を効率的に吸引する液体吸引装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液体吸引装置は、液体を収容するウェルを有し、該ウェルと連通するマイクロ流路が形成されたマイクロチップの、前記ウェルに貯溜された液体を吸引する液体吸引装置であって、
先端に開口を有し、後端に配管が接続されて、前記先端開口から前記液体を吸引する吸引ノズルと、
前記配管と接続し、前記吸引ノズルへ吸引圧を供給するポンプ手段と、
前記吸引ノズルを、前記ウェルと相対移動させる移動手段とを備えてなり、
前記吸引ノズルが、前記吸引圧により吸引力を発生させながら、前記移動手段により前記先端開口が前記ウェルの底面に接触するまで前記相対移動することによって、
前記ウェル及び/又は前記マイクロ流路から前記液体の吸引を可能とすることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の液体吸引装置は、前記吸引ノズルが、前記底面に接触した後で、前記吸引力を発生させながら、前記移動手段により前記底面から離れる方向に相対移動することが好ましい。
【0008】
本発明の液体吸引装置は、前記先端開口が、前記底面と並行に形成されていることが好ましい。
【0009】
また本発明の液体吸引装置は、前記吸引ノズルの前記下降移動によって前記先端開口と前記底面とが接触する際に、該接触を緩衝する緩衝機構が備えられてもよい。
【0010】
本発明の液体吸引装置は、前記緩衝機構が弾性部材により構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液体吸引装置によれば、吸引ノズルが、ポンプ手段から供給される吸引圧により吸引力を発生させながら、移動手段により先端開口がウェルの底面に接触するまで前記相対移動するので、先端開口がウェルの底面に近づくにつれて、液体を吸引する先端開口とウェルに残溜する液体との距離が小さくなり、ウェルに残溜する液体内部の流速が高まる。これにより、例えば粘性率の高い液体がウェル内部に収容された際等に、該液体Fの表面張力等によってウェルの周面、特に端縁部に液体Fが付着し、残溜してしまっても、該残溜した液体F内部の流速が高まることによって、前記付着が離れ易くなるので、残溜した液体を吸引し易くなる。従ってウェルにおける液体の残存を低減することができる。
【0012】
また本発明の液体吸引装置において、吸引ノズルが、底面に接触した後で、吸引力を発生させながら、移動手段により前記底面から離れる方向に相対移動する場合には、先端開口とウェルの底面とが接触し、先端開口が底面によって略密閉された状態になることによって吸引ノズル内部に負圧が発生した後で、先端開口とウェルの底面とが離れるので、負圧による吸引力が発生する。このとき吸引ノズルは吸引力を発生させたままの状態なので、吸引ノズルにはポンプ手段による吸引力と前記負圧による吸引力とが発生し、これにより吸引力が向上する。従ってウェルの端縁部に残存する液体Fを強い吸引力で吸引することができる。
【0013】
このように吸引力を発生させた吸引ノズルを1方向すなわち昇降方向に移動させるだけで、ウェルの底面端縁部に残溜する液体を効率的に吸引することができる。これにより、マイクロチップにおいて底面端縁部に液体が残存して、微量分析時に該残液が先にマイクロ流路に導入されてしまうのを防ぐことができるので、コンタミネーションが防げて微量分析の精度が向上する。
【0014】
また本発明の液体吸引装置において、吸引ノズルの先端開口が、ウェルの底面と並行に形成されている場合には、該底面と先端開口とが接触した際に、接触面積が広くなるのでより密閉性が向上する。また先端開口がウェルの底面に近づく際に、先端開口のどの端部においてもウェル底面までの距離が同じ値になるので、残溜した液体F内部の流速を均等にすることができて、偏った箇所での液体Fの吸引を防ぐことができる。
【0015】
また、本発明の液体吸引装置において、吸引ノズルの下降移動によって吸引ノズルの先端開口とウェルの底面とが接触する際に、該接触を緩衝する緩衝機構が備えられる場合には、前記接触後に吸引ノズルが移動手段によってさらに下降移動されても、吸引ノズルの先端がウェルの底面に圧接されるのを緩衝機構によって防止できるので、吸引ノズルが破損等するのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明にかかる実施形態の液体吸引装置1について図面を参照して詳細に説明する。図1に本実施形態の液体吸引装置1の構成図を示す。なお本実施形態の液体吸引装置1は便宜上、吸引ノズル2の先端開口2aが向く方向を下方(図中下方)とする。
【0017】
本実施形態の液体吸引装置1は、例えば医療機関、研究所等で使用される生化学分析装置等の臨床分析装置に組み込まれ、試験管やマイクロチップに形成された液体収容部である複数のウェル等の容器に収容される検体や試薬、洗浄液等の液体を吸引するものであって、主に液体を吸引する際に吸引量の精度を要さない、例えば容器の洗浄工程等で容器内部に残存した水等の洗浄液を吸引する際に使用するものである。
【0018】
液体吸引装置1は、図1に示す如く、吸引ノズル2と、吸引ノズル2を上下方向(容器8の深さ方向)に移動させる昇降機構部31及び吸引ノズル2を水平方向に移動させる水平機構部32を備える移動手段3としてのノズル駆動部33と、吸引ノズル2へ吸引圧を供給するポンプ手段4としての吸引ポンプ41及びポンプ駆動部42と、ノズル駆動部33及びポンプ駆動部42を制御する制御部5と、吸引ノズル2が吸引した液体Fを内部に収容する廃液タンク6と、吸引ノズル2から廃液タンク6までを接続する配管7とから概略構成されている。
【0019】
吸引ノズル2は略筒状で、液体Fを吸引する先端開口2aを有するものであって、該先端開口2aを下向きにして設置され、昇降機構部31及び水平機構部32によって上下左右に移動可能に取り付けられている。昇降機構部31及び水平機構部32は例えばプーリーを用いた動力伝達機構やボールねじ機構等の送り機構により構成され、これらの機構はノズル駆動部33が備えるモータ等によって駆動制御されている。そして吸引ノズル2は、該吸引ノズル2の先端開口2aの下方に、内部に液体Fが貯溜した容器8が位置するように後述する制御部5によって移動される。
【0020】
なお吸引ノズル2の先端開口2aには、例えば液体Fの種類毎に着脱交換可能なピペット状のチップを装着してもよい。また本実施形態の液体吸引装置1は、吸引ノズル2がノズル駆動部33によって容器8の上方に移動可能であるが、本発明の液体吸引装置はこれに限られるものではなく、ノズル駆動部33が水平機構部32を備えていなくても、例えば容器8が吸引ノズル2の下方に移動可能な移動手段を備えていてもよい。すなわち吸引ノズル2が容器8と相対的に移動可能であればよい。
【0021】
吸引ノズル2の上部には配管7の一端が接続され、該配管7の他端は吸引ポンプ41を介して上端が開放した略円筒状の廃液タンク6に接続されている。なお本実施形態の廃液タンク6は、上端が開放した略円筒状の容器とするが、本発明はこれに限られるものではなく、内部に液体Fを収容できる容器であれば、例えば四角柱状であっても球状であってもよく、適宜変更可能である。
【0022】
吸引ポンプ41は、吸引ノズル2へ吸引圧を供給するものであって、モータ等を備えるポンプ駆動部42によって駆動制御されている。吸引ポンプ41は圧力媒体として液体Fを使用するものであって、渦巻ポンプ、軸流ポンプ、往復ポンプ及び回転ポンプ等、様々な種類のものを使用でき、適宜変更可能である。
【0023】
制御部5は、容器8の設置位置及び形状に関するデータ、吸引ポンプ41の吸引圧に関するデータ及び配管7の径のデータを有し、これらのデータに基づいてノズル駆動部33及びポンプ駆動部42を制御している。なお前記データはユーザが必要に応じて適宜変更可能であっても良い。また容器8の形状に関するデータは、容器8内部に貯溜された液体Fの液面と並行な、すなわち水平方向の容器8内部の最大断面積Sのデータを含む。なお本発明において容器内部とは液体が収容できる空間のことをいう。
【0024】
ここで図2(a)に本実施形態の容器としてのウェル8を備えたマイクロチップ8’の斜視図、図2(b)に図2(a)を下側からみた斜視図、図2(c)に図2(a)のウェル8の断面図、図3に本実施形態の液体吸引装置1によるウェル8内部の液体Fの吸引を説明する図を示す。なお本実施形態のマイクロチップ8’は、便宜上ウェル8の開口8aを有する側(各図中、上側)を上端として説明する。
【0025】
本実施形態の容器8は、マイクロチップ8’に複数形成された液体収容部であり、ウェルと総称されるものである。マイクロチップ8’は、図2(a)に示す如く、合成樹脂から成形された略矩形乃至矢形形状で、上面8Aに複数のウェル8を有し、図2(b)に示す如く、下面8Bにガラス板(透明な板状部材)81が取付けられている。該ガラス板81は、図3(c)に示す如く、上面にマイクロ流路82aが形成された第一の基板82と、該第一の基板82の上面に貼合わされ、マイクロ流路82aと連通し、ウェル8の底部となる貫通孔83a(ウェル底部83a)が形成された第二の基板83とから構成されている。
【0026】
ウェル8は上端に開口8aを有し、該開口8aから下方に向かってウェル底部83aと連通するウェルテーパ部8bが形成されている。ウェルテーパ部8bは上端から下端に向かうに連れて径がより小さくなり、ウェル底部83aはさらに径が小さいものであるため、ウェル8における最大断面積Sは上端開口8aの面積となり、ウェルテーパ部8bとウェル底部83aとの境界には環状段部8cが形成される。第一の基板81と第二の基板82は、ガラス製の他、合成樹脂であってもよく、両方とも透明であってもよいし、光学測定をする側となる片方だけ透明であってもよい。なお本実施形態ではマイクロ流路82aは第一の基板82に形成されているが、本発明の液体吸引装置で使用されるマイクロチップはこれに限られるものではなく、第一の基板82と第二の基板83との間にマイクロ流路82aが形成されていれば、第二の基板83に形成されていてもよい。
【0027】
そして上記のように構成されたマイクロチップ8’のウェル8に貯溜された液体Fを、上述した液体吸引装置1によって吸引する。吸引工程は、前工程として吸引ノズル2を該ノズル2の外面に液体Fが付着しないように吸引かつ下降させ、これに続いて後工程として、吸引ノズル2を該ノズル2の先端開口2aがウェル底部83aの底面に接触するまで下降移動させるようにする。まずは前工程について詳細に説明する。
【0028】
液体吸引装置1の吸引ノズル2は、ノズル駆動部33により深さ方向(下方向)に一定の移動速度Vで移動しながら、吸引ポンプ41から供給される吸引圧により吸引ノズル2に発生する吸引力によって、Q>S×Vを満たす単位時間当たりの吸引量Qで液体Fに接する前に液体Fを吸引する。すなわち吸引ノズル2は、先端開口2aがウェル8の上方に配置される位置から、ノズル駆動部33により一定の移動速度Vで下方向に移動される(図3中矢印参照)。そして吸引ノズル2は、液体Fに接する前にすでに吸引ポンプ41から吸引圧を供給され、該吸引圧により吸引ノズル2に発生する吸引力による単位時間当たりの吸引量は、Q>S×Vを満たす吸引量Qとなっている。ここで単位時間当たりの吸引量Qとは単位時間当たりに吸引ノズル2が吸引可能な液体Fの体積のことをいう。そしてこのとき吸引ポンプ41による吸引圧の供給は、吸引ノズル2が下方に移動を開始する前に行われる。こうすることにより、吸引ノズル2が、配管7の形状やポンプ手段4の立ち上がり時間の特性等による吸引量Qの低下に影響されることなく、安定した吸引量Qを確保した上で液体Fの吸引を開始することができる。
【0029】
なお本実施形態の液体吸引装置1では、吸引ノズル2が液体Fに接する前に液体Fの吸引を行うものとしたが、本発明の液体吸引装置はこれに限られるものではなく、吸引ノズル2の外面に液体Fが付着しなければ、吸引ノズル2が液体Fに接すると同時に液体Fの吸引を行っても良い。また本実施形態の液体吸引装置1では、ポンプ駆動部42は制御部5によって制御されるものとしたが、本発明はこれに限られるものではなく、吸引ノズル2が液体Fに接する前又は液体Fに接すると同時に、吸引ノズル2に吸引圧を供給できれば、手動であってもよい。
【0030】
このように吸引ノズル2は、単位時間当たりの吸引量Qを確保した状態で下降するので、下降移動しながら空気Aを吸引することになる。そして吸引ノズル2は空気Aを吸引しながら液体Fの液面に向かって下降を続け、図3(a)の如く、吸引ノズル2が液面から上方の所定位置まで接近するとウェル8内部の液体Fを吸引する。このとき本実施形態の液体吸引装置1は液体Fを吸引する際に吸引量の精度を要さない、ウェル8の洗浄工程等で使用されるので、空気Aが吸引されてもよい。そして吸引ノズル2は単位時間当たりの吸引量Qで液体F及び/又は空気Aを吸引しながら、さらに一定の移動速度Vで下降する。
【0031】
このとき単位時間当たりに吸引ノズル2の先端開口2aが横切ったウェル8内部の体積は、ウェルテーパ部8bの内周面がテーパを有しているので、吸引ノズル2の先端開口2aの深さ方向の位置によって常に値が異なるものとなる。ここで液体吸引装置1は、単位時間当たりの吸引量Qが、単位時間当たりに吸引ノズル2の先端開口2aが横切ったウェル8内部の体積よりも大きければ良いので、上述したウェル8の最大断面積Sと吸引ノズル2の移動速度Vとから、実際に吸引ノズル2の先端開口2aが横切ったウェル8内部の体積よりも大きい仮想の体積S×Vを計算してこの仮想の体積S×Vよりも吸引量Qを大きくする(図3(b)参照)。
【0032】
こうすることにより、吸引量Qすなわち吸引ノズル2が単位時間当たりに吸引した液体F及び空気Aの体積が、仮想の体積S×Vよりも大きくなるので、吸引ノズル2の先端開口2aの位置は常に液面より上方となり、吸引ノズル2は液体Fに接触しない。したがって吸引ノズル2の外面に液体Fが付着しないので、本実施形態の液体吸引装置1は吸引ノズル2の外面が汚れるのを防止することができる。これにより例えば液面検知機構等からなる複雑な制御機構を備えなくても、吸引ノズル2外面への液体の付着を防止することができて、前記機構を設置する空間を省くことができると共に前記機構にかかるコストを低減することができる。なお本実施形態の液体吸引装置1は、Q>S×Vを満たすために、移動速度Vの値を変更しても良いし、吸引量Qの値を変更しても良い。これらは適宜変更可能である。
【0033】
次に後工程について詳細に説明する。吸引ノズル2は液体Fを吸引しながらノズル駆動部33によりウェル底部83aに向かって図3(b)の位置よりもさらに下降移動する。なおこのとき吸引ノズル2によって既にウェル底部83aを含むウェル8内部の液体Fが全て吸引されていてもよいし、ウェル底部83aに液体Fが残溜していてもよい(図4(a)参照)。すなわち吸引ノズル2はポンプ41から供給される吸引圧によって吸引力を発生させていればよく、例えば液体Fを吸引せずに空気Aのみを吸引していてもよい。本発明において特徴的なのは、吸引ノズル2が吸引力を発生させながら、該吸引ノズル2の先端開口2aがウェル底部83aの底面に接触するまで下降移動することである。ここで図4に本実施形態の液体吸引装置1によるウェル底部83aに残溜する液体Fの吸引を説明する図を示す。
【0034】
吸引ノズル2が上記のように吸引力を発生させながら下降移動すると、先端開口2aは、図4(a)に示す如く、ウェル底部83aの内部に位置する。このとき吸引ノズル2は、ウェル底部83aに液体Fが残溜していれば該液体Fを吸引しながら下降移動する。そして吸引ノズルは同様にして、図4(b)に示す如く、さらに下降移動する。このように吸引ノズル2の先端開口2aがウェル底部83aの底面に近づくにつれて、吸引力を発生する先端開口2aとウェル底部83aに残溜する液体Fとの距離が小さくなるので、ウェル底部83aに残溜する液体F内部の流速(図中、ウェル底部の液体内矢印)が高まる。
【0035】
これにより、例えば粘性率の高い液体Fがウェル8内部に収容された際等に、該液体Fの表面張力等によってウェル底部83aの周面、特に端縁部に液体Fが付着し、残溜してしまっても、該残溜した液体F内部の流速が高まることによって、前記付着が離れ易くなるので、残溜した液体Fを吸引し易くなる。従ってウェル底部83aにおける液体Fの残存を低減することができる。なお先端開口2aはウェル底部83aの略中央に向かって下降してもよいし、端縁部に向かって下降してもよいし、適宜変更可能である。また図5に示す如く、先端開口2aはウェル底部83aの底面端縁部に沿って下降移動してもよい。こうすることにより底面端縁部に残溜する液体Fを確実に吸引することができる。
【0036】
そして吸引ノズル2は、図4(c)に示す如く、吸引力を発生させながら、先端開口2aがウェル8の底面すなわちウェル底部83aの底面に接触するまでさらに下降移動する。すると吸引ノズル2の先端開口2aとウェル底部83aの底面とが当接し、先端開口2aがウェル底部83aの底面によって略密閉された状態になり、吸引ノズル2内部に負圧が発生する。本実施形態の吸引ノズル2の先端開口2aは、ウェル底部83aの底面と並行に形成されているのでより密閉性が向上する。また上述のように先端開口2aがウェル底部83aの底面に近づく際に、先端開口2aのどの端部においてもウェル底部83aの底面までの距離が同じ値になるので、前記流速を均等にすることができて、偏った箇所での液体Fの吸引を防ぐことができる。なお先端開口2aの形状は密閉性を過度に妨げない程度であれば凹凸状又は鋸状を有していても良い。
【0037】
ここで本発明の液体吸引装置は、ウェル8と連通するマイクロ流路82aが形成されたマイクロチップ8’の、ウェル8に貯溜された液体Fを吸引するものであるため、図4(c)に示す如く、先端開口2aとウェル底部83aの底面との間にはマイクロ流路82aから空気及び/又は液体が出入り可能な隙間が生じる。これにより吸引ノズル2内部で過度な負圧が発生するのを防ぐことができ、吸引ノズル2、ノズル駆動部33のモータ等の破損を防止することができる。またマイクロ流路82aから空気及び/又は液体が容易に吸引される。
【0038】
そして次に、吸引ノズル2は上記の略密閉状態から、図4(d)に示す如く、吸引力を発生させながら、先端開口2aがウェル底部83aの底面から離れる方向に上昇移動する。すると吸引ノズル2の内部には負圧が発生しているので、先端開口2aとウェル底部83aの底面との間から、液体及び/又は空気が流入する。このとき吸引ノズル2は吸引力を発生させたままの状態なので、吸引ノズル2にはポンプ41による吸引力と前記負圧による吸引力とが発生し、これにより吸引力を向上させることができる。従ってウェル底部83aの端縁部にまだ液体Fが残存していた場合に、該液体Fを強い吸引力で吸引することができる。
【0039】
このように本実施形態の液体吸引装置1によれば、吸引力を発生させた吸引ノズル2をノズル駆動部33によって1方向すなわち上下方向に移動させるだけで、ウェル8すなわちウェル底部83aの底面端縁部に残溜する液体Fを効率的に吸引することができる。これにより、マイクロチップ8’においてウェル底部83aの底面端縁部に液体Fが残存して、微量分析時に該残液が先にマイクロ流路82aに導入されてしまうのを防ぐことができるので、コンタミネーションが防げて微量分析の精度が向上する。さらにマイクロ流路82aより残液を吸引することが可能なためコンタミネーションを防ぐことができる。
【0040】
なお本実施形態の液体Fとしては、例えば分析試薬、検体試料、洗浄液、洗浄水等が挙げられる。
【0041】
また本実施形態の液体分析装置1において、吸引ノズルの外径D1は0.5〜1.2mmが好ましい。またウェル底部の直径D2は1.2mm〜2.2mmの範囲が好ましい。さらに吸引ノズルの外径D1とウェル底部の直径D2との関係が(D2−D1)/2<0.6mmであることが好ましい。(符号は図4(a)参照)
次に本発明にかかる別の実施形態2の液体吸引装置を説明する。なお本実施形態の液体吸引装置は上記実施形態の液体吸引装置1に緩衝機構20を追加したものであるため、該緩衝機構20についてのみ説明する。ここで図6に緩衝機構20の構成図を示す。
【0042】
本実施形態の緩衝機構20は、図6に示す如く、吸引ノズル2の後端を固定支持する支持部材21と、昇降機構部31及び水平機構部32に固定され(図示せず)、これら機構部31、32と連動して移動制御される固定部材22と、上端が支持部材21と、下端が固定部材22とそれぞれ係合する弾性部材としてのばね部材23とを備えている。
【0043】
緩衝機構20は、上述した吸引ノズル2の下降移動によって、該ノズル2の先端開口2aとウェル底部83aの底面とが接触する際に、例えば吸引ノズル2がノズル駆動部33によって過度に下降移動された場合に、ばね部材23の反発力によって支持部材21を介して吸引ノズル2を相対的に上方に移動させる。これにより吸引ノズル2の先端開口2aはウェル底部83aの底面との接触を緩衝することができるので、吸引ノズル2の破損、ノズル駆動部33の精度の低下等が防止できる。なお緩衝機構20はウェル8側に備えても良い。
【0044】
また、上記2つの実施形態の液体吸引装置1では、液体Fの吸引を行う際の圧力媒体として液体Fを用いたが、本発明はこれに限られず、空気Aを圧力媒体として用いてもよい。図7に別の実施形態3の液体吸引装置1’の構成図を示す。なお液体吸引装置1’は、上述の液体吸引装置1と同一構成部材には同一符号を付して重複した説明を省略する。
【0045】
本実施形態の液体吸引装置1’は、図7に示す如く、吸引ノズル2と、吸引ノズル2を上下方向(容器8の深さ方向)に移動させる昇降機構部31及び吸引ノズル2を水平方向に移動させる水平機構部32を備える移動手段としてのノズル駆動部33と、吸引ノズル2へ吸引圧を供給するポンプ手段9としての負圧ポンプ91、負圧室92、ポンプ駆動部93及びこれらを接続する第二の配管71と、ノズル駆動部33及びポンプ駆動部93を制御する制御部5と、吸引ノズル2が吸引した液体Fを内部に収容する廃液タンク6と、吸引ノズル2から負圧室92までを接続する配管7及び負圧室92から廃液タンク6までを接続する第三の配管72と、配管7に配設される開閉弁94と第三の配管72に接続されるポンプ95とから概略構成されている。
【0046】
一端に吸引ノズル2が接続された配管7の他端は、開閉弁94を介して負圧室92に挿入される。負圧室92は内部に気体A(空気A)を収容して密封された空間Rを有し、該空間Rと連通して第二の配管71の一端が接続されている。第二の配管71は、他端に外気と連通する開口部71aを有するものであり、第二の配管71の途中に負圧ポンプ91が接続されている。負圧ポンプ91はモータ等を備えるポンプ駆動部93によって駆動制御され、負圧ポンプ91によって空間R内部の空気Aを吸引し、該空気Aを開口部71aから排出することによって、空間R内部に負圧を発生させる。そして空間R内部に発生した負圧が吸引ノズル2への吸引圧となり、該吸引圧により吸引ノズル2に吸引力が発生する。このとき吸引ノズル2は、上述の実施形態と同様に単位時間当たりの吸引量がQ>S×Vを満たしている。そして吸引ノズル2は、上述の実施形態と同様に、吸引力を発生させながらウェル底部83aの底面に接触するまで下降移動され、該吸引ノズル2により吸引された液体Fは配管7を通って負圧室92内に排出される。なお、負圧室内に排出された液体Fが気化及び/又は飛散した飛沫が外部に流出するのを防ぐために負圧ポンプ91と開口部71aとの間にフィルタ96が配設されている。そして負圧室92内の液体Fは、負圧室92に接続された第三の配管72を介し、該第三の配管72に接続されたポンプ95によって廃液タンク6に排出される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本実施形態の液体吸引装置の構成図。
【図2】本実施形態の液体吸引装置によるウェル内部に貯溜された液体の吸引を説明する図。
【図3】マイクロチップの斜視図及び断面図。
【図4】本実施形態の液体吸引装置によるウェル底部に残溜する液体の吸引を説明する図。
【図5】緩衝機構の構成図。
【図6】吸引ノズルの動作を示す図。
【図7】別の実施形態の液体吸引装置の構成図。
【符号の説明】
【0048】
1、1’ 液体吸引装置
2 吸引ノズル
2a 先端開口
20 緩衝機構
3 移動手段
31 昇降機構部
32 水平機構部
33 ノズル駆動部
4 ポンプ手段
41 吸引ポンプ
42 ポンプ駆動部
5 制御部
6 廃液タンク
7 配管
71 第二の配管
72 第三の配管
8 容器、ウェル(液体収容部)
8’ マイクロチップ
8a 上端開口
8b ウェルテーパ部
8c 環状段部
81 ガラス板(透明な板状部材)
82 第一の基板
82a マイクロ流路
83 第二の基板
83a ウェル底部(貫通孔)
9 ポンプ手段(別の実施形態)
91 負圧ポンプ
92 負圧部
93 ポンプ駆動部(別の実施形態)
94 フィルタ
95 開閉弁
96 ポンプ
F 液体
Q 単位時間当たりの吸引量
S 容器の最大断面積
V 移動速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容するウェルを有し、該ウェルと連通するマイクロ流路が形成されたマイクロチップの、前記ウェルに貯溜された液体を吸引する液体吸引装置であって、
先端に開口を有し、後端に配管が接続されて、前記先端開口から前記液体を吸引する吸引ノズルと、
前記配管と接続し、前記吸引ノズルへ吸引圧を供給するポンプ手段と、
前記吸引ノズルを、前記ウェルと相対移動させる移動手段とを備えてなり、
前記吸引ノズルが、前記吸引圧により吸引力を発生させながら、前記移動手段により前記先端開口が前記ウェルの底面に接触するまで前記相対移動することによって、
前記ウェル及び/又は前記マイクロ流路から前記液体の吸引を可能とすることを特徴とする液体吸引装置。
【請求項2】
前記吸引ノズルが、前記底面に接触した後で、前記吸引力を発生させながら、前記移動手段により前記底面から離れる方向に相対移動することを特徴とする請求項1に記載の液体吸引装置。
【請求項3】
前記先端開口が、前記底面と並行に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体吸引装置。
【請求項4】
前記吸引ノズルの前記下降移動によって前記先端開口と前記底面とが接触する際に、該接触を緩衝する緩衝機構が備えられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体吸引装置。
【請求項5】
前記緩衝機構が弾性部材により構成されていることを特徴とする請求項4に記載の液体吸引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−76274(P2008−76274A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256775(P2006−256775)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)
【Fターム(参考)】