説明

液体噴射ヘッド、液体噴射装置及び液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】隔壁7の側面に形成する駆動電極11を各隔壁7において同一形状とすることが難しく、駆動電極11の形状ばらつきに起因して液滴の吐出特性がチャンネルごとにばらついた。
【解決手段】駆動領域DRの隔壁7は、溝6の底面12から隔壁7の上面13までの高さの略1/2よりも上面側を圧電体材料10とし、略1/2よりも底面12側を圧電体材料10よりも誘電率の小さい低誘電率材料9とすることにより、各隔壁7の変形駆動量が均一化し、チャンネル間の液滴吐出速度のばらつきを低減し、かつ、駆動信号が隣接する隔壁7に漏れ出して液滴吐出特性が変動することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出して被記録媒体に画像や文字、あるいは薄膜材料を形成する液体噴射ヘッド及びこれを用いた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出し、文字、図形を描画する、あるいは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜のパターンを形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、液体噴射ヘッドに形成した微小空間にこのインクを充填し、駆動信号に応じて微小空間の容積を瞬間的に変化させて溝に連通するノズルから液滴を吐出させる。
【0003】
図11はこの種のインクジェットヘッド51の分解斜視図を表す(特許文献1の図1)。インクジェットヘッド51は、表面に複数の溝53が形成されたアクチュエータ基板52と、この複数の溝53を覆うようにアクチュエータ基板52に接合したカバープレート56と、アクチュエータ基板52の後方端に接合し、複数の溝53にインクを供給するためのマニホールド57と、アクチュエータ基板52の前方端に接合し、インクを吐出するためのノズル58aを備えるノズルプレート58などから構成されている。
【0004】
アクチュエータ基板52及び隔壁54は圧電体材料から成り、隔壁54は基板面の法線方向に分極処理が施されている。隔壁54の両側面には隔壁54を挟むように電極55が形成されている。電極55に駆動信号を与えることにより隔壁54に厚みすべり変形を生じさせて溝53の内容積を変化させる。これにより、溝53内に充填したインクをノズル58aから噴射させ、被記録媒体に記録する。
【0005】
隔壁54を厚みすべり変形させる際の屈曲点は溝53の底面から隔壁54の上面までの高さの略1/2とする。これにより隔壁54を最も効率よく変形駆動することができる。そこで、隔壁54の両面に形成する電極55は、溝53の底面から隔壁54の1/2の高さまで、或いは隔壁54の1/2の高さから隔壁54の上面の高さまで形成する。電極55の深さ方向の幅が溝53ごとにばらつくと、インク吐出性能がノズル58a毎にばらつくことになる。インク滴が着弾する被記録媒体は移動している。そのため、インク滴の飛翔速度がばらつくと着弾する位置がばらつき、印刷品質が低下する。従って、隔壁54の側面に形成する電極55は各溝53において同一形状とすることが求められる。
【0006】
特許文献1では無電解メッキ法処理によって隔壁54の側面や溝53の底面の全面に金属電極を形成する。そして、アクチュエータ基板52の表面の法線から溝53に直交する方向に傾斜した方向からレーザビームを照射し、隔壁54の一方の側面に形成した金属電極の上半分を除去し、次にレーザビームを反対側に傾斜した方向から照射して他方の側面に形成した金属電極の上半分を除去する。金属電極の除去の際にレーザビームを広い面積に照射して一括除去しようとすると、表面に照射されるレーザビームの入射角が位置により異なることになるので電極幅にばらつきが生ずる。これを避けるために、レーザビームは絞り込んで小面積で照射する必要がある。
【0007】
特許文献2には電極55の他の形成方法が記載されている。圧電材料からなるアクチュエータ基板に複数の溝を形成した後に、各溝にほぼ溝の幅の直径を有するターゲットワイヤを挿入する。複数の溝の上部開口方向から不活性ガスイオンビームを照射して各溝に埋め込んだターゲットワイヤをスパッタリングする。これにより、ターゲットワイヤからスパッタリングされた金属粒子が側壁面の上部に付着する。その後ターゲットワイヤを各溝から取り出す。
【0008】
他の電極形成方法として、導電材料を斜め蒸着する斜め蒸着法が知られている。図12は、斜め蒸着法により圧電体材料から成る隔壁54の側面に駆動用の電極を形成する方法を示している。アクチュエータ基板52を真空蒸着装置のチャンバーに挿入する。まず、隔壁54が形成された表面の法線方向nと蒸発源59との間を傾斜角θとし、隔壁54の長手方向に対して蒸発源59が略直交する方向となるようにアクチュエータ基板52を設置する(位置P1)。そして蒸発源59から金属、例えばアルミニウムを隔壁54を一方の側面に蒸着する。次に、法線方向nに対して蒸着源59が傾斜角−θとなるようにアクチュエータ基板52を設置する(位置P2)。そして、蒸発源59から隔壁54の他方の側面に金属を蒸着する。これにより、隔壁54の高さの略1/2から上面側に電極55を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−108361号公報
【特許文献2】特開平5−318741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
隔壁54の側面に形成する電極55は各隔壁54において同一形状とする必要がある。特許文献1では、電極55を同一形状に形成しようとするとレーザビームを各隔壁54の側面毎に照射しなければならず、インクジェットヘッドの溝53の数が多くなるにつれて電極55のパターニングに多大の時間を要し、量産性が低下した。また、レーザビームの照射により周囲に金属材料が飛散し、この飛散した金属材料が溝53に再付着してショートやノズルの目詰まりの原因となった。また、特許文献2に示される方法では、溝53の幅と同程度の直径を有する多数のターゲットワイヤを多数の細長い溝53のそれぞれに埋め込まなければならず、量産性が低く現実的でない。
【0011】
図13は、図12の方法で隔壁54の側面に電極55を形成したアクチュエータ基板52の断面模式図である。図12(a)がアクチュエータ基板52の全体図であり、(b)及び(c)が左右の部分断面図である。アクチュエータ基板52の左端部において、隔壁54の側面に形成された電極55は右側面よりも左側面の方がより深くまで形成される。また、アクチュエータ基板52の右端部において、隔壁54の側面に形成された電極55は左側面より右側面の方がより深くまで形成される。これは、アクチュエータ基板52の表面の位置に応じて蒸発源59の方向、即ち傾斜角θが変化するためである。つまり、蒸発源59に近い位置では傾斜角θが小さく、側面のより深くまで電極55が形成され、蒸発源59から遠い位置では傾斜角θが大きく、側面のより浅くまでしか電極55が形成されない。
【0012】
このように、隔壁54に形成した電極55はアクチュエータ基板52の表面の位置に応じて深さ方向に差異が生ずる。図14は、図13に示す斜め蒸着法により電極55を形成したときのインクジェットヘッドのノズルNo(ノズル位置)に対する液滴吐出速度(相対値)の関係を表す。図14に示されるように中央部のノズルのほうが周辺部のノズルよりも液滴吐出速度が大きい。これは、周辺部よりも中央部の隔壁54に効率よく電界が印加されたためであるが、このような液滴吐出速度のばらつきは印刷品質を低下させる原因となった。
【0013】
図15及び図16を用いてより具体的に説明する。図15は、アクチュエータ基板52に形成した溝53とその上面に接合したカバープレート56により構成される吐出チャンネルの断面模式図である。これらの図において、隔壁54は圧電体材料から成り、垂直方向(隔壁54の高さ方向)に一様に分極処理が施されている。図15(a)及び(b)が隔壁54の高さhの約半分(1/2)hよりも上部側の両側面に電極55を形成した場合であり、図15(c)及び(d)が隔壁54の高さhの約半分(1/2)hよりも下部側に電極55をはみ出して形成した場合である。
【0014】
図15(a)に示すように、端子Ta、Tbに電圧を印加すると隔壁54の厚み方向に電界が印加される。すると、隔壁54の電極55側の表面側に滑り応力(剪断応力)Sが発生し、隔壁54の中央部を外側Ouに屈曲させる。更に印加電圧の極性を反転させると、図15(b)に示すように、滑り応力Sの方向が反転し、隔壁54の中央部を内側Inに屈曲させる。このように、隔壁54を変形駆動することにより吐出チャンネルCに充填されたインクがノズル58aから吐出される。
【0015】
次に、電極55が隔壁54の中央部よりも下部側にはみ出した場合を説明する。図15(c)において、端子Ta、Tbに電圧を印加して隔壁54に電界を印加する。すると、隔壁54の上半分では上記図15(a)と同様に滑り応力Sが発生して隔壁54を外側Ouへ屈曲させようとする。一方、隔壁54の下側の電界印加領域に発生する滑り応力は隔壁54を内側Inに屈曲させようとする。そのため、隔壁54を外側Ouへ屈曲させようとする力は減じられ、隔壁54の変形量は縮小し、その上消費電力が増大する。印加電圧の極性を反転させると、図15(d)に示すように、滑り応力Sの方向が反転し、隔壁54の上半分では隔壁54の中央部を内側Inへ屈曲させようとするが、隔壁54の下側に発生する滑り応力は隔壁54を外側Ouに屈曲させようとするので、上記(c)と同様に隔壁54の変形量が縮小し、消費電力も増大する。
【0016】
図16は、隔壁54の位置に対する電極55の形状を表すアクチュエータ基板52の断面模式図であり、(a)はすべての電極55が隔壁54の上半分(1/2)hよりも上部側に形成された場合であり、(b)はすべての電極55が隔壁54の下半分にはみ出して形成された場合である。図16(a)に示すように、各隔壁54の左側面に形成される電極55は左端部の隔壁54の電極55が最も深く、右端部に向かって漸次浅くなる。一方、各隔壁54の右側面に形成される電極55は左端部の隔壁54の電極55が最も浅く、右端部に向かって漸次深くなる。その結果、各隔壁54の左右の電極55が重なる上半分の電界印加領域Saの面積は、アクチュエータ基板52の中央部が最も広く両端部に向かって狭くなる。図14に示した中央部の吐出速度が最も大きく、両端部に向かって遅くなるのは、この電界印加領域Saの面積が隔壁54の位置に応じて変化したためである、と理解することができる。
【0017】
電極55が隔壁54の下半分にはみ出す場合は、図16(b)に示すように、隔壁54の上半分の電界印加領域Saの面積は一定となるが、下半分の電界印加領域Sbは中央部が最も広く周辺部に向かって狭くなる。つまり、隔壁54の上半分の滑り応力は各隔壁54で同じとなるが、上記応力による隔壁54の変形に対してブレーキとなる下半分の滑り応力は、アクチュエータ基板52の中央部が最も大きく、周辺部に向かって漸次減少する。そのため、図16(b)の場合もノズル58aから吐出されるインク滴の吐出速度は一定にならない。その上、隔壁54の変形駆動を加速しながら同時に減速させるので無駄なエネルギーを消費する。図13に示す実際のアクチュエータ基板52では、斜め蒸着の際に電極55が深さ方向に分布が生ずることや、電極55が高さh/2よりも下側に蒸着されて隔壁54の変形駆動の際にブレーキとなることを防止するために、隔壁54の側面に形成するすべての電極55を高さh/2よりも上部側に形成するようにしている。
【0018】
以上の通り、隔壁54の立設方向に一様分極したアクチュエータ基板52においては、各隔壁54において電界印加領域の面積を一定にしなければ吐出速度の均一性が確保できない。また、電歪効率を高め、印加電圧を低くして駆動回路側への負荷を低減するためには、電極55を隔壁54のh/2より深さ方向にはみ出さないようにするとともに、上半分の電界印加領域Saはできるだけ広く形成する必要があり、電極形成が極めて難しかった。
【0019】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、すべてのチャンネルにおいて吐出性能のばらつきを小さくし、かつ吐出効率の高い液体噴射ヘッドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明による液体噴射ヘッドは、表面に並列する複数の溝と、隣接する溝を離隔する隔壁と、前記隔壁の両側面に設置した駆動電極を有するアクチュエータ基板と、前記溝を覆い、前記アクチュエータ基板の表面に接合するカバープレートと、前記溝に連通するノズルを有し、前記アクチュエータ基板の端面に接合するノズルプレートと、を備え、前記アクチュエータ基板は、前記隔壁を変形駆動して前記溝に充填された液体を前記ノズルから噴射させるための駆動領域を有し、前記隔壁は、前記駆動領域において前記溝の底面から前記隔壁の上面までの高さの略1/2よりも上面側が圧電体材料からなり、略1/2よりも底面側が前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料からなり、前記駆動電極は、前記駆動領域において前記圧電体材料からなる隔壁の両側面から前記低誘電率材料からなる隔壁の両側面にはみ出して設置されていることとした。
【0021】
また、前記駆動電極は、前記アクチュエータ基板の一方端から他方端へ進むに連れて、前記複数の隔壁の低誘電率材料に形成される範囲が徐々に変化することとした。
【0022】
また、前記アクチュエータ基板は、前記低誘電率材料と前記圧電体材料の2層構造を有することとした。
【0023】
また、前記低誘電率材料は、熱伝導率が前記圧電体材料よりも大きいこととした。
【0024】
また、前記低誘電率材料は、機械的剛性が前記圧電体材料よりも小さいこととした。
【0025】
また、前記低誘電率材料は、マシナブルセラミックス又は樹脂材料からなることとした。
【0026】
本発明による液体噴射装置は、上記のいずれかの液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備えている。
【0027】
本発明による液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電体材料からなる圧電体基板を前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料からなる低誘電率基板の表面に接合してアクチュエータ基板とする第一接合工程と、前記アクチュエータ基板の表面に並列する複数の溝を形成して隣接する溝を離隔する隔壁を形成し、前記溝の底面から前記隔壁の上面までの高さの略1/2よりも上面側の隔壁を前記圧電体材料とし、略1/2よりも底面側の前記隔壁を前記低誘電率材料とする溝形成工程と、前記アクチュエータ基板の表面と、前記溝に充填する液体を噴射させる駆動領域の隔壁のうち、前記圧電体材料からなる隔壁の両側面から前記低誘電率材料からなる隔壁の両側面にはみ出して導電膜を形成する導電膜形成工程と、前記導電膜のパターンを形成する電極形成工程と、前記アクチュエータ基板の表面にカバープレートを接合するとともに、前記アクチュエータ基板の端面に前記溝に連通するノズルを有するノズルプレートを接合する第二接合工程と、を含むこととした。
【0028】
また、前記導電膜形成工程は、スパッタリング法により導電材料を堆積する工程であることとした。
【0029】
また、前記導電膜形成工程は、前記アクチュエータ基板の表面に、前記表面の法線に対して傾斜する方向から導電材料を斜め蒸着する斜め蒸着工程であることとした。
【0030】
また、前記第一接合工程の後に前記アクチュエータ基板の表面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、前記導電膜形成工程の前に前記感光性樹脂膜を露光現像して前記樹脂膜のパターンを形成するパターン形成工程とを含み、前記電極形成工程は、前記感光性樹脂膜を除去するリフトオフ法により前記導電膜のパターンを形成することとした。
【発明の効果】
【0031】
本発明の液体噴射ヘッドは、表面に並列する複数の溝と、隣接する溝を離隔する隔壁と、隔壁の両側面に設置した駆動電極を有するアクチュエータ基板と、溝を覆い、アクチュエータ基板の表面に接合するカバープレートと、溝に連通するノズルを有し、アクチュエータ基板の端面に接合するノズルプレートと、を備えている。更に、アクチュエータ基板は、隔壁を変形駆動して溝に充填された液体を前記ノズルから噴射させるための駆動領域を有し、隔壁は、駆動領域において前記溝の底面から隔壁の上面までの高さの略1/2よりも上面側が圧電体材料からなり、略1/2よりも底面側が圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料からなり、駆動電極は、駆動領域において圧電体材料からなる隔壁の両側面から低誘電率材料からなる隔壁の両側面にはみ出すように設置した。このように隔壁の駆動部を隔壁の高さの略1/2よりも上部に配置し、駆動電極は隔壁の圧電体材料側から低誘電率材料側にはみ出すように構成したので、各隔壁の変形駆動量が均一化され、ノズル間における液滴吐出速度のばらつきを低減させることができる。更に、隣接する隔壁間には低誘電率材料が介在するので容量結合が小さくなり、駆動信号が隣接する側壁に漏れ出して隣接するノズルの液体吐出特性を変動させることを防止することができる。更に、駆動電極を隔壁の屈曲位置に高精度で合わせて形成する必要がないので電極形成が極めて容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの部分分解斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るアクチュエータ基板の説明図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの電極配線の模式図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドのノズル位置と液滴吐出速度の関係を表す特性図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドの部分分解斜視図である。
【図6】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す説明図である。
【図7】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す説明図である。
【図8】本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す説明図である。
【図9】本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す説明図である。
【図10】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す説明図である。
【図11】従来公知のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図12】従来公知のインクジェットヘッドの電極形成方法を示す模式図である。
【図13】従来公知のインクジェットヘッドの隔壁の部分断面図である。
【図14】従来公知のインクジェットヘッドのノズル位置と液滴吐出速度の関係を表す特性図である。
【図15】従来公知の吐出チャンネルの変形駆動を説明するための断面模式図である。
【図16】従来公知のアクチュエータ基板の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の液体噴射ヘッドは、隔壁により離隔された複数の溝と、隔壁の両側面に設置した駆動電極を有するアクチュエータ基板と、各溝を覆うようにアクチュエータ基板に接合するカバープレートと、各溝に連通するノズルを有し、アクチュエータ基板の端面に接合するノズルプレートを備えている。アクチュエータ基板は、隔壁を変形駆動して溝に充填された液体をノズルから噴射させるための駆動領域を有している。この駆動領域の隔壁は、隔壁の高さの略1/2よりも上面側が圧電体材料から成り、略1/2よりも溝の底面側が圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料から構成した。また、駆動領域の駆動電極は、圧電体材料から成る隔壁の両側面から低誘電率材料から成る隔壁の両側面にはみ出すように設置した。
【0034】
この構成により、隔壁はその高さの略1/2よりも底面側が低誘電体材料であり、電界を印加しても電歪効果が生じない。そのため、各隔壁の変形駆動量が均一化され、ノズル間における液滴吐出速度のばらつきを低減させることができる。更に、隣接する隔壁間は低誘電率材料が介在するので容量結合が低下する。この容量結合の低下により隣接隔壁間の駆動信号の漏えいが低減し、隣接するチャンネルの駆動状態に液体吐出特性の影響を受けなくすることができる。更に、駆動領域の駆動電極は、圧電体材料からなる隔壁の両側面からその下部の低誘電率材料からなる隔壁にはみ出すように形成すればよく、はみ出し量が隔壁の変形駆動量に影響を与えないので、電極形成方法が極めて容易となる。
【0035】
圧電体材料としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウム(BaTiO3)等を使用することができる。圧電材料は予め特定の方向、例えばアクチュエータ基板表面の法線方向に分極処理を施しておく。低誘電率材料としてガラス材料、金属酸化物、セラミックス、マシナブルセラミックス、或いは樹脂材料等を使用することができる。圧電体材料としてPZTを使用する場合は、使用するPZTを従来法に比べて1/2以下とすることができるので、鉛の使用量を大幅に低減させることができる。低誘電率材料として例えばマシナブルセラミックスを使用すれば、加工性に優れているので表面に接合した圧電体材料と同時に容易に溝を形成することができる。圧電体材料と低誘電率材料の熱膨張係数を近似させることにより接合の信頼性を向上させることができる。低誘電率材料として例えば樹脂材料を使用すれば、加工性や型成形性がよく複雑な形状を容易に形成することができる。この場合、アクチュエータ基板の上部に接合するカバープレートも樹脂材料を使用できるので、製造コストを大幅に低減することができる。また、低誘電率材料として圧電体材料よりも熱伝導性の高い材料を使用することにより、隔壁の変形駆動により生ずる熱の放熱効果をより向上させることが出来る。また、低誘電率材料の機械的剛性、例えばヤング率を圧電体材料よりも小さくすることができる。これにより、隔壁をより低電圧で変形駆動させることができる。
【0036】
本発明の液体噴射ヘッドの製造方法は、圧電体基板を低誘電率基板の表面に接合してアクチュエータ基板とする第一接合工程と、アクチュエータ基板の表面に並列する複数の溝とその複数の溝を離隔する隔壁を形成し、溝の底面から隔壁の上面までの高さの略1/2よりも上面側を圧電体材料、略1/2よりも底面側を低誘電率材料とする溝形成工程と、アクチュエータ基板の表面と、駆動領域の隔壁のうち、圧電体材料から成る隔壁の両側面から低誘電率材料から成る隔壁の両側面にはみ出して導電膜を形成する導電膜形成工程と、導電膜のパターンを形成する電極形成工程と、アクチュエータ基板の表面にカバープレートを接合し、アクチュエータ基板の端面にノズルプレートを接合する第二接合工程を備えている。
【0037】
この製造方法によれば、隔壁の高さの略1/2よりも底辺側は低誘電率材料から構成されているので電界を印加しても電歪効果が生じない。そのため、駆動電極が隔壁の高さの略1/2よりも底面側にはみ出しても、はみ出した駆動電極が隔壁の変形駆動に影響を与えず、ノズルから吐出される液滴の吐出速度に影響しない。これにより、導電膜形成工程又は電極形成工程において隔壁の側面に形成する電極パターンのパターン形成精度が大幅に緩和される。電極形成用法として例えばスパッタリング法、蒸着法、斜め蒸着法、或いはめっき法等を使用することができる。更に、隣接する隔壁は低誘電率材料が介在するので駆動信号の漏れを減少させることができる。
【0038】
また、接合工程の後にアクチュエータ基板の表面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、導電膜形成工程の前に当該感光性樹脂膜を露光現像してパターンを形成するパターン形成工程を含めることができる。また、電極形成工程は、上記パターンを形成した感光性樹脂膜を除去するリフトオフ法により導電膜のパターンを形成することができる。これにより、アクチュエータ基板の表面や隔壁の上面に容易に電極パターンを形成することができる。以下、本発明について、図面を用いて具体的に説明する。
【0039】
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の部分分解斜視図であり、手前側の側面は溝6に沿った縦断面を表している。図2は第一実施形態に使用されるアクチュエータ基板2の説明図であり、(a)が溝6方向の縦断面模式図であり、(b)が部分AAの縦断面模式図であり、(c)及び(d)が部分AAの縦断面の左側及び右側の部分拡大図である。
【0040】
液体噴射ヘッド1は、アクチュエータ基板2と、その上に接合したカバープレート3と、アクチュエータ基板2及びカバープレート3の前方端FEの端面に接合したノズルプレート4を備えている。アクチュエータ基板2は、低誘電率材料9からなる下側基板の上に圧電体材料10からなる上側基板が貼り合わされた構成を備えている。アクチュエータ基板2のカバープレート3側の表面は、前方端FEから後方端REに向けて途中まで並列する複数の溝6と、各溝6を離隔する複数の隔壁7を備えている。
【0041】
図2に示すように、各溝6は、溝6の底面12から隔壁7の上面13までの高さhの略1/2よりも上面側が圧電体材料10からなり、略1/2よりも底面側が圧電体材料10よりも誘電率の小さい低誘電率材料9から成る。隔壁7の両側面は隔壁7を変形駆動するための駆動電極11L、11Rを備えている。駆動電極11は、少なくとも圧電体材料10の側面の全面を覆っている。図2(a)に示すように、隔壁7の各側面に形成した駆動電極11はアクチュエータ基板2の後方端REの近傍の表面に形成した端子電極17に電気的に接続し、更に、後方端REの上面に接合したフレキシブル基板5の図示しない配線電極に電気的に接続している。
【0042】
カバープレート3は、各溝6に液体を供給するための液体供給孔16を備えている。ノズルプレート4は、カバープレート3と溝6から構成されるチャンネルと連通するノズル8を備え、アクチュエータ基板2とカバープレート3の前方端FEの端面に接合している。図示しない駆動回路により生成された駆動信号はフレキシブル基板5の図示しない配線電極を介して隔壁7の両側面に形成した駆動電極11L、11Rに与えられる。隔壁7は、駆動信号に応じて変形し、溝6の内部容積を変化させる。これにより、チャンネルに充填された液体が液滴となってノズル8から吐出される。
【0043】
具体的に説明すると、隔壁7の上面13が前方端FEから液体供給孔16に至るまでカバープレート3に接着固定されているため、この隔壁7の変形が生じる。この変形する領域を駆動領域DRとする。まず、隔壁7の略上半分である圧電体材料10の変形について説明する。隔壁7の圧電体材料10に駆動電極11を介して駆動電圧を印加すると圧電体材料10は断面が略矩形から略平行四辺形の形状へ変形する。この場合において上述した上面13がカバープレート3に固定されているため、圧電体材料10は上面13を固定したままの状態で上面13を上辺とし、低誘電率材料9との接合部を下辺として略平行四辺形に変形する。次に、隔壁7の略下半分である低誘電率材料9の変形について説明する。上述した圧電体材料10の変形に対し、低誘電率材料9には圧電変形が生じないので、圧電体材料10の変形に追従して変形する。つまり、隔壁7の略真ん中は圧電体材料10に固定されているため、その変形に追従して変形する。しかし、隔壁7の最下部は低誘電率材料9で固定されているため変形しない。これにより、隔壁7の上半分と下半分は略真ん中で上下対称となるように略平行四辺形に互いに変形し、隔壁7全体で見ると、「くの字」形状に変形する。この隔壁7の変形により、溝6の内部容積が変化し、上述したように、チャンネルに充填された液体が液滴としてノズル8から吐出される。
【0044】
なお、駆動領域DRは通常溝6の深さが深くその底面12が平坦な領域に設定される。従って、「駆動領域の隔壁の溝の底面から上面までの高さ」とは、溝6の平坦な底面12から上面13までの高さ、即ち隔壁7が最も高くなる高さhをいう。しかし、駆動領域DRは、溝6の底面12が傾斜する、或いはダイシングブレードの形状が残って円弧形状となる領域まで及ぶ場合がある。この場合に、「駆動領域の隔壁の溝の底面から上面までの高さ」とは、溝6の底面12が傾斜する領域や円弧形状が残っている領域を除外し、溝6の平坦な底面12から上面13までの隔壁7が最も高くなる高さhをいうものとする。
【0045】
次に、隔壁7と駆動電極11の形状について説明する。駆動電極11は後に詳述するように導電材料を斜め蒸着法により形成している。そのために、導電材料の蒸発源に対する溝6の位置に応じて駆動電極11の深さ方向の幅が不均一となる。図2(c)に示すように、アクチュエータ基板2の左側に位置する隔壁7では、左側面の駆動電極11Lのほうが右側面の駆動電極11Rよりも深さ方向の幅が広い。図2(d)に示すように、アクチュエータ基板2の右側に位置する隔壁7では、右側面の駆動電極11Rのほうが左側面の駆動電極11Lより深さ方向の幅が広い。そして、各隔壁7の駆動電極11は、図2(c)に示す駆動電極11L、11Rから図2(d)に示す駆動電極11L、11Rの形状に漸次変化する。即ち、隔壁7の側面に形成された駆動電極11は、高さhの略1/2よりも上部の圧電体材料10の側面全面を覆っているが、低誘電率材料9の側面では深さ方向に形状がばらついている。
【0046】
しかし、電歪効果が発現するのは圧電体材料10である。駆動領域DRにおいて各隔壁7の圧電体材料10は溝6の底面12から高さhの略1/2よりも上部に配置している。そのため、高さhの略1/2が屈曲点となり、電界エネルギーに対する屈曲変形を最も効率よく発現させることができる。また、隣接する隔壁7との間は低誘電率材料9が介在する。そのため、特定の隔壁7に与えた駆動信号が容量結合により隣接する隔壁7に漏れ出す漏れ信号が低減する。その結果、隔壁7の駆動電極11L、11Rに電界を印加した時の隔壁7の変形量は各隔壁7においてほぼ同一となり、加えて隣接する隔壁7の駆動の影響も低減する。
【0047】
なお、前述したとおり、各隔壁7の駆動電極11は、図2(c)に示す駆動電極11L、11Rから図2(d)に示す駆動電極11L、11Rの形状に漸次変化する。より詳細に述べると、アクチュエータ基板2の一方の駆動電極はアクチュエータ基板2の一方端から他方端へ(図2に示す紙面左方向から右方向へ)進むに連れて、低誘電率材料9に形成される範囲が徐々に変化している。この形状は、図2に示す駆動電極11Lを一方の駆動電極とすると、後に述べる図3や図7などを参照することにより、よく理解することができ、駆動電極11Lの低誘電率材料9に形成される範囲が徐々に狭く変化することがわかる。
同様に、アクチュエータ基板2の一方の駆動電極はアクチュエータ基板2の他方端から一方端へ(図2に示す紙面右方向から左方向へ)進むに連れて、低誘電率材料9に形成される範囲が徐々に変化している。この形状は、図2に示す駆動電極11Rを他方の駆動電極とすると、後に述べる図3や図7などを参照することにより、よく理解することができ、駆動電極11Rの低誘電率材料9に形成される範囲が徐々に狭く変化することがわかる。
【0048】
図3は、第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の電極配線を表す模式図である。図3(a)が1サイクル駆動の電極配線を、(b)が3サイクル駆動の電極配線をそれぞれ表す。アクチュエータ基板2は、駆動領域DRにおいて隔壁71〜77の略1/2よりもカバープレート3側を圧電体材料10により構成し、略1/2よりも底面12側を低誘電率材料9により構成した。駆動電極11は、圧電体材料10の両側面の全面を覆っているが、低誘電率材料9側にはみ出すはみ出し幅は均一ではない。
【0049】
図3(a)において溝6とカバープレート3により構成されるチャンネルは、ダミーチャンネルD1〜D4と吐出チャンネルC1〜C4が交互に配置している。ダミーチャンネルD1〜D4には液体が充填されておらず、吐出チャンネルC1〜C4には液体が充填されている。吐出チャンネルC1〜C4の両隔壁に形成した駆動電極11はGNDに共通に接続される。各吐出チャンネルC1〜C4に隣接するダミーチャンネルD1〜D4の吐出チャンネル側の側面に形成した駆動電極11は駆動信号を入力する端子Ta〜Tdにそれぞれ接続される。
【0050】
例えば吐出チャンネルC1を駆動する場合は端子Taに駆動信号を与える。すると、両隔壁71、72が吐出チャンネルC1を中心に対称に変形し、吐出チャンネルC1に充填された液体を図示しないノズルプレート4の対応するノズル8から吐出する。他の吐出チャンネルも同様に駆動する。つまり、同一のタイミングで各吐出チャンネルC1〜C4から同時に液滴を吐出することができる。
【0051】
図3(b)においてチャンネルC1〜C7には液体が充填されている。各チャンネルC1〜C7の両隔壁に形成した駆動電極11はそれぞれ端子T1〜T7に接続する。そして、第一サイクルのタイミングでチャンネルC1、C4、C7を選択し、第二サイクルのタイミングでチャンネルC2、C5を選択し、第三サイクルのタイミングでチャンネルC3、C6を選択し、以降これを繰り返す。例えば、第一タイミングでチャンネルC1を駆動する場合は、端子T1をGNDにし、端子T0、T2に駆動信号を与える。すると、両隔壁71、72がチャンネルC1を中心に対称に変形し、チャンネルC1に充填された液体を図示しないノズルプレート4の対応するノズル8から吐出する。第二サイクルのタイミングでチャンネルC2を駆動する場合は、端子T2をGNDにし、端子T1、T3に駆動信号を与える。すると、両隔壁72、73がチャンネルC2を中心に対称に変形し、チャンネルC2に充填された液体を図示しないノズルプレート4の対応するノズル8から吐出する。以降、第三サイクル、第一サイクル・・・のように繰り返し駆動する。
【0052】
上記いずれの駆動条件においても、各隔壁71〜77の変形駆動量が均一化され、ノズル間における液滴吐出速度のばらつきを低減させることができる。更に、隣接する隔壁間には低誘電率材料9が介在するので容量結合が小さくなり、隣接する隔壁に駆動信号が漏れ出して液体吐出特性を変動させることがない。
【0053】
図4は第一実施形態において説明した液体噴射ヘッド1の液滴吐出速度(相対値)とノズルNo(ノズル位置)との間の関係を表すグラフである。縦軸は液滴吐出速度、横軸がノズルNoであり、図14に示す従来例と同一スケールである。従来例を示す図14と比較して、液滴吐出速度はノズルNo(ノズル位置)に対してフラットとなり、図14に示した従来例に対して吐出速度の均一性が大幅に改善されたことが理解できる。
【0054】
以上説明した第一実施形態において、圧電体材料10としてPZTセラミックスを使用し、低誘電率材料9としてマシナブルセラミックスを使用した。マシナブルセラミックスとして、例えばマセライト、マコール、ホトベール、シェイパル(以上いずれも登録商標)などを使用することができる。PZTセラミックスは、比誘電率が2000以上であり、剛性を表すヤング率が70GPa〜80GPa、熱伝導率が1W/m・k〜1.5W/m・Kであるのに対して、マシナブルセラミックスは、比誘電率が10以下、例えば5〜6の常誘電体材料であり、ヤング率を50MPaから70MPa未満、熱伝導率を1.5W/m・K〜90W/m・Kとすることができる。これにより、隣接する隔壁7間の容量結合による駆動信号の漏れを無視できる程度に低減することができる。また、放熱特性を向上させることができる。また、隔壁7の略1/2から底面12を低剛性の材料により構成したので電界に対する変形効率を向上させることがでる。また、熱伝導率が向上したので放熱効果を向上させることができる。更に、隔壁7毎に電極形状は異なるが、各隔壁7の屈曲点は低誘電率材料9と圧電体材料10の境界付近、即ち溝6の底面12から高さhの略1/2の一定となり、電界に対する隔壁7の変形量も一定となり、液滴吐出速度のばらつきを低減することができる。
【0055】
なお、駆動電極11は導電材料の斜め蒸着法により形成する方法に限定されず、蒸着法、スパッタリング法、メッキ法等により導電膜を形成し、その後導電膜をパターニングしてもよい。カバープレート3は圧電体材料10と同程度の熱膨張係数の材料を使用することができ、例えば圧電体材料10と同じ材料を使用することができる。また、低誘電率材料9として窒化アルミニウムあるいは窒化アルミニウム系のマシナブルセラミックスを使用すればPZTセラミックスよりも熱伝導率が一桁以上高く、圧電体材料10及び溝6を効果的に冷却することができる。また、低誘電率材料9とカバープレート3として樹脂材料により構成すれば、樹脂材料は成型法によって複雑な形状を簡便に形成することができるので製造コストを大幅に低減することができる。
【0056】
(第二実施形態)
図5は本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1の模式的な部分斜視図である。第一実施形態と異なる部分は、アクチュエータ基板2の表面に形成した複数の溝6が前方端FEから後方端REまで延在している点である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0057】
液体噴射ヘッド1は、アクチュエータ基板2と、その上に接合したカバープレート3と、アクチュエータ基板2及びカバープレート3の前方端FEの端面に接合したノズルプレート4を備えている。アクチュエータ基板2は、低誘電率材料9からなる下側基板の上に圧電体材料10からなる上側基板が貼り合わされた構成を備えている。アクチュエータ基板2の表面は、前方端FEから後方端REにかけて複数の溝6と、これらの溝6を離隔する複数の隔壁7を備えている。各溝6はその底面12から隔壁7の上面13までの高さhの略1/2よりも上面13側が圧電体材料10からなり、略1/2より底面12側が低誘電率材料9からなる。
【0058】
各隔壁7の両側面は隔壁7を変形駆動するための駆動電極11を備えている。駆動電極11は、少なくとも圧電体材料10のチャンネル側の側面全面を覆っている。各隔壁7の駆動電極11は後方端RE近傍において隔壁7の上面13に形成した端子電極17に接続する。即ち、隔壁7の一方の側面に形成した駆動電極11は一方の側面側の上面13に形成した端子電極17aに電気的に接続し、他方の側面に形成した駆動電極11は他方の側面側の上面13に形成した端子電極17bに電気的に接続する。後方端RE近傍に形成したこれらの端子電極17a、17bは、後方端REの上面に接合するフレキシブル基板5の図示しない配線電極に電気的に接続している。
【0059】
カバープレート3は、溝6に液体を供給するための液体供給孔16を備え、後方端REの手前までの表面を覆うようにアクチュエータ基板2に表面に接合している。液体供給孔16よりも後方端RE側において各溝6は図示しない封止材により封止されている。これにより、液体供給孔16から溝6に供給される液体は溝6を介して後方端RE側に流出しない。ノズルプレート4は、カバープレート3と溝6から構成されるチャンネルに連通するノズル8を備え、カバープレート3の前方端FEの端面に接合している。
【0060】
このように溝6を前方端FEから後方端REまで並列にストレート形成したので、溝6の底面12の傾斜部を除去することができ、アクチュエータ基板2を小型化することができる。ここで、駆動領域DRはカバープレート3の液体供給孔16よりも前方端FE側である。本実施形態においても、隣接する隔壁7は低誘電率材料9を介して固定されているので容量結合による漏れ電界が低減し、隔壁7は隣接する側壁に供給される駆動信号の影響を受けることなく駆動することができる。また、駆動領域DRのすべての隔壁7において駆動電極11は少なくとも圧電体材料10の側面全面を覆っているので、各隔壁7の駆動時の変形量はほぼ同一となる。その結果、駆動時にノズル8から吐出する液滴の吐出速度は各チャンネルにおいて均一化する。
【0061】
なお、カバープレート3に液体供給孔16を設けることなくカバープレート3をアクチュエータ基板2の多数の溝6の上に覆うように接合し、後方端REに液体供給用のマニホールドを設置し、後方端RE側から各溝6に液体を供給するように構成してもよい。圧電体材料10や低誘電率材料9の材料等については第一実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0062】
(第三実施形態)
図6は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す説明図である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0063】
図6(a)は、圧電体材料10からなる圧電体基板をこの圧電体材料10よりも誘電率の小さい低誘電率材料9から成る低誘電率基板の表面に接合した第一接合工程の後のアクチュエータ基板2の断面を表す。低誘電率材料9としてマシナブルセラミックス、圧電体材料10としてPZTセラミックスを用い、接着材により貼り合わせて接合した。圧電体基板は後に形成する溝6の深さの半分の厚さとする。この場合に、溝6の深さの半分よりも厚い圧電体基板を低誘電率基板上に接合し、その後研削して溝6の深さの半分の厚さとしてもよい。圧電体基板の厚さが厚いので低誘電率基板上に貼り合わせる際の基板ハンドリングが容易となる。例えば300μmの深さの溝を形成する場合には圧電体基板の厚さを150μとする。マシナブルセラミックスは、比誘電率が10以下の低誘電率材料であり、機械加工性に優れている。例えばマセライト、マコール、ホトベール、シェイパル(以上いずれも登録商標)などを使用することができる。また、低誘電率材料9として窒化アルミニウム又は窒化アルミニウム系のマシナブルセラミックスを使用することができる。これらの材料は比誘電率が10以下であり、高熱伝導性材料である。そのため、駆動の際に発熱した圧電体材料10を効果的に冷却することができる。
【0064】
図6(b1)、(b2)は、アクチュエータ基板2の表面を切削して並列する複数の溝を形成する溝形成工程を表しており、(b1)がアクチュエータ基板2の溝6方向の縦断面模式図であり、(b2)が溝6に直交する方向の縦断面模式図である。回転するダイシングブレード19をアクチュエータ基板2の表面に降下させ、移動して複数の並列する溝6を形成した。隣接する溝6を離隔する隔壁7は、溝6の底面12から隔壁7の上面13までの高さの略1/2よりも上面13側が圧電体材料10から成り、略1/2よりも底面12側が低誘電率材料9から成る。溝6の深さ、即ち底面12から上面13までの高さを300μm〜360μmとし、100チャンネル以上の溝6を形成した。本実施形態ではアクチュエータ基板2を多数個同時に形成しており、図6(b1)に示すように溝6は船型の破線6’のように切削し、後に説明する第二接合工程の後に中央部BBで分割し複数の液体噴射ヘッド1を得る。
【0065】
図6(c)は、アクチュエータ基板2の表面及び隔壁7の両側面に導電膜20を形成した導電膜形成工程の後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。導電膜20として、アルミニウム、金、Cr、Ni等の金属材料をスパッタリング法、蒸着法、めっき法等により形成することができる。
【0066】
図6(d)は、導電膜20をパターニングして各隔壁7の導電膜20を駆動電極11とする電極形成工程の後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。フォトリソグラフィにより感光性樹脂膜のパターンを形成し、導電膜20をエッチング除去した。また、フォトリソグラフィ及びエッチング処理に代えてレーザ光や後に説明するリフトオフ法により導電膜20のパターンを形成することができる。なお、本実施形態では溝6を構成する両隔壁7の側面に形成した駆動電極11が溝6の底面12で接続している。これは、第一実施形態の図3(b)において説明した3サイクル駆動に適する電極構成である。図3(a)において説明した1サイクル駆動の電極構成とする場合は、溝6の底面12に形成した導電膜20をレーザ光や溝6の幅よりも薄いダイシングブレードにより底面12の中央部を切削して分離すればよい。
【0067】
図6(e)は、アクチュエータ基板2の表面にカバープレート3を接合する第二接合工程の後の液体噴射ヘッド1の断面模式図である。アクチュエータ基板2の表面に接着材を用いてカバープレート3を接合し、液体吐出用のチャンネルを構成した。その後、接合基板を分離し、各基板の前方端FEにノズルプレート4を接着して液体噴射ヘッド1を得る。
【0068】
このように、駆動電極11を隔壁7の上半分に高精度でパターニングする必要がないので、導電材料を堆積して導電膜20を形成する導電膜形成工程や、導電膜20のパターンを形成する電極形成工程を極めて簡便な方法により行うことができる。
【0069】
(第四実施形態)
図7は本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド1の製造方法を表す説明図である。本実施形態は、導電膜形成工程を斜め蒸着法による斜め蒸着工程により行い、第一接合工程及び溝形成工程は第三実施形態と同様なので説明を省略した。
【0070】
図7(c1)、(c2)は、アクチュエータ基板2の表面に導電材料を斜め蒸着する斜め蒸着工程の説明図であり、(c1)が斜め蒸着方法を表す模式図であり、(c2)が斜め蒸着後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。
【0071】
蒸着装置は図示しないチャンバーの内部に蒸発源18とホルダー22を収納している。ホルダー22はアクチュエータ基板2を蒸発源18側に保持する。ホルダー22は、アクチュエータ基板2を回転軸O1として回転可能に保持し、蒸発源18の垂直方向を回転軸O2として回転可能に構成される。
【0072】
まず、蒸発源18の方向が溝6の長手方向に略直交し、かつアクチュエータ基板2の表面の法線nに対して傾斜角θとなるように、アクチュエータ基板2をホルダー22にセットする(図7(c1)の左側の位置)。(蒸発源18からホルダー22までの距離をZh、回転軸O2からアクチュエータ基板2の回転軸O1までの距離をZxとすればtan(θ)=Zx/Zhとなる。)次に、回転軸O2を中心にホルダー22を回転させながら蒸発源18から導電材料を蒸発させ、アクチュエータ基板2の表面及び隔壁7の一方の側面に蒸着する。
【0073】
次に、アクチュエータ基板2を回転軸O1を中心に180°回転させ、蒸発源18の方向が溝6の方向に略直交し、かつ表面の法線nに対して傾斜角−θの方向となるように、アクチュエータ基板2をホルダー22にセットする(図7(c1)の右側の位置)。次に、回転軸O2を中心にホルダー22を回転させながら蒸発源18から導電材料を蒸発させ、アクチュエータ基板2の表面及び他方の側面に蒸着する。蒸着角度θは、溝6の幅及び圧電体材料10の厚さに基づいて、少なくとも駆動領域DR内の隔壁7を構成する圧電体材料10のすべての側面と、この圧電体材料10から低誘電率材料9の側面にはみ出すように導電材料が堆積されるように設定する。例えば、溝6の深さを300μm、溝6の幅を75μm、溝6方向に直交する方向の有効な長さを72mmとした場合に、Zhを60cm、Zxを29cm以下とすればよい。つまり、蒸発源18から最も遠い側の隔壁7にその高さの略1/2よりも深く導電材料を蒸着することができる。この場合、アクチュエータ基板2の溝6方向に直交する方向の長さを10cmとすれば、回転軸O1とO2の間にアクチュエータ基板2を3枚並べて同時に蒸着することができる。即ち、従来法に対して斜め蒸着の生産性を大幅に向上させることができる。なお、導電材料としてアルミニウムを用いた。アルミニウムの他に金、クロム等の他の金属を使用することができる。
【0074】
ここで、少なくとも圧電体材料10からなる隔壁7の側面の全面に導電膜20を堆積し、かつ溝6の底面12に導電材料が堆積されない斜め蒸着の一般的な条件は次のとおりである。溝6の幅をw、隔壁7の高さ(溝6の深さ)をh、隔壁7の圧電体材料10と低誘電率材料9の境界の高さをh/2、斜め蒸着角度(傾斜角)θとして、隔壁7の上面から隔壁7のh/2の高さまで蒸着するための条件は、
tan(θ1)=2w/h・・・(1)
隔壁7の側面全面に蒸着し、溝6の底面12に蒸着しないための条件は、
tan(θ2)=w/h・・・・(2)
従って、アクチュエータ基板2は、蒸発源18に対して斜め蒸着角度θが次式(3)を満たす位置に設置すればよい。
θ2<θ<θ1=tan-1(w/h)<θ<tan-1(2w/h)・・・(3)
例えば、溝6の幅wを75μm、隔壁7の高さhを360μmとすれば斜め蒸着角度θは12°〜23°の範囲となる。例えば図7(c1)に示すZhを60cmとすれば、斜め蒸着可能なホルダー22の位置Zxは12.5cm〜25cmの範囲となり、この範囲にアクチュエータ基板2を設置すればよい。
【0075】
図7(c2)は、導電材料を斜め蒸着した後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。導電材料はアクチュエータ基板2の表面、隔壁7の上面及び両側面に堆積し、導電膜20を形成している。アクチュエータ基板2の左端部において隔壁7の導電膜20は左側面のほうが右側面より底面12側に深く、アクチュエータ基板2の右端部において隔壁7の導電膜20は右側面のほうが左側面より底面12に深く形成される。
【0076】
図7(d)は、導電膜20をパターニングして各隔壁7の導電膜20を駆動電極11とする電極形成工程の後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。フォトリソグラフィにより感光性樹脂膜のパターンを形成し、導電膜20をエッチング除去した。また、フォトプロセスに代えてレーザ光や表面の研削により隔壁7の両側面の導電膜20を電気的に分離してもよい。図7(e)は、アクチュエータ基板2の表面にカバープレート3を接合する第二接合工程の後の液体噴射ヘッド1の断面模式図である。アクチュエータ基板2の表面に接着材を用いてカバープレート3を接合し、液体吐出用のチャンネルを構成した。その後、接合基板を分離し、各基板の前方端FEにノズルプレート4を接着して液体噴射ヘッド1を得る。
【0077】
このように製造した液体噴射ヘッド1は、駆動電極11が溝6の底面12方向に幅のばらつきがあっても、電歪効果を発現する圧電体材料10は各隔壁7において同じなので、各隔壁7の変形駆動量は一定となり、液滴吐出速度のチャンネル間ばらつきが低減する。また、隔壁7とこれに隣接する隔壁7との間は低誘電率材料9が介在するので隔壁7間の容量結合は小さく、駆動信号が隣接する側壁に漏れ出して隣接するノズルの液体吐出特性を変動させることを防止することができる。更に、斜め蒸着工程において溝6の両側面に形成した駆動電極11を電気的に分離できるので、溝6の底面12に堆積した電極の切断工程を必要とせず、駆動電極11を極めて簡便に形成することができる。また、斜め蒸着の際の蒸着角度θは大幅に緩和され、蒸着可能な範囲が拡大するので生産性を向上させることができる。
【0078】
(第五実施形態)
図8及び図9は、本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法を表す説明図である。第四実施形態と異なる部分は、斜め蒸着法により形成した導電膜20をリフトオフ法によりパターニングする点であり、その他の工程は第四実施形態と同様である。
【0079】
図8(a)は、圧電体材料10からなる圧電体基板を圧電体材料10よりも誘電率の小さい低誘電率材料9から成る低誘電率基板の表面に接合した第一接合工程の後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。使用する材料等は第三実施形態で説明した。
【0080】
図8(x)は、アクチュエータ基板2の表面に感光性樹脂膜21を形成する感光性樹脂膜形成工程の後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。感光性樹脂膜21はレジストシートを使用し、アクチュエータ基板2の表面に張り付けて形成した。感光性樹脂膜21は、レジストシートに代えて、スピンナー等を用いてレジスト膜をアクチュエータ基板2の表面に塗布して形成してもよい。図8(b1)、(b2)は、ダイシングブレード19をアクチュエータ基板2の表面に降下させて移動し、複数の並列する溝6を形成する溝形成工程を表しており、第三実施形態と同様である。
【0081】
図8(y)は、感光性樹脂膜21のパターンを形成するパターン形成工程の後のアクチュエータ基板2の上面模式図である。フォトリソグラフィにより感光性樹脂膜21のパターンを形成する。この場合に、次の斜め蒸着工程で堆積する導電材料を除去する領域には感光性樹脂膜21を残し、導電材料を残す領域からは感光性樹脂膜21を除去する。本実施形態の場合は、各隔壁7の上面13から左右の端部まで感光性樹脂膜21を残している。また、各溝6や端子電極の形成領域は感光性樹脂膜21を除去して圧電体材料10を露出させている。
【0082】
次に、図8(c1)、(c2)は、アクチュエータ基板2の表面に導電材料を斜め蒸着する斜め蒸着工程の説明図であり、第三実施形態と同様である。図8(c2)に示すように、各隔壁7の上面13には感光性樹脂膜21が残っており、その上に導電膜20が形成されている。また、隔壁7の両側面には少なくとも圧電体材料10を覆うように導電膜20が形成されている。
【0083】
図8(d)は、リフトオフ法により感光性樹脂膜21を除去して電極を形成する電極形成工程の後のアクチュエータ基板2の断面模式図である。感光性樹脂膜21を除去することにより同時に導電膜20を除去する。これにより、隔壁7の両側面に形成した導電膜20を電気的に分離して駆動電極11を形成する。更に各駆動電極11に電気的に接続する端子電極をアクチュエータ基板2の両端部表面に形成する。図8(e)は、アクチュエータ基板2の表面にカバープレート3を接合した液体噴射ヘッド1の断面模式図であり、第三実施形態と同様である。
【0084】
このように、駆動電極11を斜め蒸着法により堆積した後にリフトオフ法によりパターニングしたので、隔壁7の両側面及びアクチュエータ基板2の表面に簡便な工程で電極パターンを容易に形成することができる。しかも、駆動電極11の幅が溝6の深さ方向にばらついても、電歪効果を発現する圧電体材料10は各隔壁7において同じなので隔壁7の変形駆動量は一定となる。また、低誘電率材料9を使用したので駆動信号が隣接する隔壁7に漏れ出すことがない。
【0085】
なお、感光性樹脂膜21のパターン形成工程は溝形成工程の前に行い、感光性樹脂膜21のパターンに沿って複数の溝6を形成してもよい。また、導電材料の斜め蒸着工程は図7や図9に示す方法に限定されない。例えば蒸発源18とアクチュエータ基板2の間に細長いスリットを設け、特定角度で入射する導電材料のみがアクチュエータ基板2に堆積する構成としてもよい。また、導電膜20のリフトオフ法は斜め蒸着法により導電膜20を形成する場合に限定されず、第三実施形態のスパッタリング法による導電膜の形成やその他の導電膜20の形成の場合にも適用できることは言うまでもない。
【0086】
(第六実施形態)
図10は、本発明の第六実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。
液体噴射装置30は、上記本発明に係る液体噴射ヘッド1、1’を往復移動させる移動機構43と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する液体供給管33、33’と、液体供給管33、33’に液体を供給する液体タンク31、31’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は本発明に係る液体噴射ヘッド1から構成される。即ち、表面に並列する複数の溝と、隣接する溝を離隔する隔壁を有するアクチュエータ基板と、溝を覆い、アクチュエータ基板の表面に接合するカバープレートと、溝に連通するノズルを有し、アクチュエータ基板の端面に接合するノズルプレートと、を備えている。このアクチュエータ基板は、隔壁を変形駆動して溝に充填された液体をノズルから噴射させるための駆動領域を有し、駆動領域の隔壁は、溝の底面から隔壁の上面までの高さの略1/2よりも上面側を圧電体材料とし、略1/2よりも底面側を圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料とした。
【0087】
具体的に説明する。液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体34を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体34に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体タンク31、31’に貯留した液体を液体供給管33、33’に押圧して供給するポンプ32、32’と、液体噴射ヘッド1を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構43等を備えている。
【0088】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体34を主走査方向に搬送する。移動機構43は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット38と、キャリッジユニット38を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト39と、この無端ベルト39を図示しないプーリを介して周回させるモータ40を備えている。
【0089】
キャリッジユニット38は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク31、31’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ32、32’、液体供給管33、33’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット38を駆動するモータ40の回転及び被記録媒体34の搬送速度を制御することにより、被記録媒体34上に任意のパターンを記録することできる。
【0090】
この構成により、液体噴射ヘッド1の液体吐出特性が各チャンネルにおいて均一化し、更にチャンネルを駆動する駆動信号が隣接するチャンネルに漏れないので、液体を被記録媒体に高品質で記録することができる。また、液体噴射ヘッド1を複雑な工程を通して製造する必要がなく、製造工程を簡素化し、装置の低コスト化に寄与することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 液体噴射ヘッド
2 アクチュエータ基板
3 カバープレート
4 ノズルプレート
5 フレキシブル基板
6 溝
7 隔壁
8 ノズル
9 低誘電率材料
10 圧電体材料
11 駆動電極
30 液体噴射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に並列する複数の溝と、隣接する溝を離隔する隔壁と、前記隔壁の両側面に設置した駆動電極を有するアクチュエータ基板と、
前記溝を覆い、前記アクチュエータ基板の表面に接合するカバープレートと、
前記溝に連通するノズルを有し、前記アクチュエータ基板の端面に接合するノズルプレートと、を備え、
前記アクチュエータ基板は、前記隔壁を変形駆動して前記溝に充填された液体を前記ノズルから噴射させるための駆動領域を有し、
前記隔壁は、前記駆動領域において前記溝の底面から前記隔壁の上面までの高さの略1/2よりも上面側が圧電体材料からなり、略1/2よりも底面側が前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料からなり、
前記駆動電極は、前記駆動領域において前記圧電体材料からなる隔壁の両側面から前記低誘電率材料からなる隔壁の両側面にはみ出して設置されている液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記駆動電極は、前記アクチュエータ基板の一方端から他方端へ進むに連れて、前記複数の隔壁の低誘電率材料に形成される範囲が徐々に変化する形状を有する請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記アクチュエータ基板は、前記低誘電率材料と前記圧電体材料の2層構造を有する請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記低誘電率材料は、熱伝導率が前記圧電体材料よりも大きい請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記低誘電率材料は、機械的剛性が前記圧電体材料よりも小さい請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記低誘電率材料は、マシナブルセラミックス又は樹脂材料からなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、
前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える液体噴射装置。
【請求項8】
圧電体材料からなる圧電体基板を前記圧電体材料よりも誘電率の小さい低誘電率材料からなる低誘電率基板の表面に接合してアクチュエータ基板とする第一接合工程と、
前記アクチュエータ基板の表面に並列する複数の溝を形成して隣接する溝を離隔する隔壁を形成し、前記溝の底面から前記隔壁の上面までの高さの略1/2よりも上面側の隔壁を前記圧電体材料とし、略1/2よりも底面側の前記隔壁を前記低誘電率材料とする溝形成工程と、
前記アクチュエータ基板の表面と、前記溝に充填する液体を噴射させる駆動領域の隔壁のうち、前記圧電体材料からなる隔壁の両側面から前記低誘電率材料からなる隔壁の両側面にはみ出して導電膜を形成する導電膜形成工程と、
前記導電膜のパターンを形成する電極形成工程と、
前記アクチュエータ基板の表面にカバープレートを接合するとともに、前記アクチュエータ基板の端面に前記溝に連通するノズルを有するノズルプレートを接合する第二接合工程と、を含む液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記導電膜形成工程は、スパッタリング法又はめっき法により導電材料を堆積する工程である請求項8に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記導電膜形成工程は、前記アクチュエータ基板の表面に、前記表面の法線に対して傾斜する方向から導電材料を斜め蒸着する斜め蒸着工程である請求項8に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記第一接合工程の後に前記アクチュエータ基板の表面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、前記導電膜形成工程の前に前記感光性樹脂膜を露光現像して前記樹脂膜のパターンを形成するパターン形成工程とを含み、
前記電極形成工程は、前記感光性樹脂膜を除去するリフトオフ法により前記導電膜のパターンを形成する請求項8〜10のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−245768(P2011−245768A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121965(P2010−121965)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】